「……もう、余り長くありませんね…」
私は戦争で荒れ果てた大地に座り込んでいました。
ただ休憩のために座っているのではなく、もう立つこともできない程に限界が来ていたからです。騎士甲冑である戦闘衣装は見るも無残なほどボロボロで、肘の少し上まであった部分甲冑は砕けて使い物にならない状態でした。そして、私の身体の至るところからは血が止め処なく流れ続けている為か視界が霞んで見えます。魔力は枯渇しているために回復系の魔法は使えず、代わりに傷を癒してくれる者が居ないか見回して見ますが生きている者は誰一人とていないようです。
(…クラウスは大丈夫でしょうか…)
私が『ゆりかご』に向かおうとした時に必死になって止めてくれた、私のために命を掛けると言ってくれた大切な親友、クラウスの事を思い浮かべる。私は彼を禄に動けない状態で戦場に置いてきてしまいました。あの時は仕方なかったとは言え、些か考え無しだったかも知れませんね。
まあ、彼の事です、きっと無事に生き延びているでしょう。いいや、そうに違いありません。
だって、『覇王』クラウス・イングヴァルトはとても強い人のなのだから。
ただ、私には一つ後悔する事がありました。
それは、
(イクスとの約束を守れなかった事が悔やんでも悔やみきれませんね…)
眠っている相手に一方的に誓ったとはいえ一度誓った約束を守れなかった事です。
私は偶々一人で居る時に『冥王』イクスヴェリアの眠っている遺跡を発見しました。マリアージュはありましたが活動して居ませんでしたが、そこでイクス本人が記したであろう文を見つけ、彼女の思いに触れました。
イクスは大きな力を持っただけの只の少女でした。
心は普通に生きたい、友達が欲しいと願う子供でした。
私はその少女と、その願いが叶うようにこの戦争を、この戦乱の時代を終わらせて見せると眠っている彼女と約束しました。
しかし、今となってはその約束も守る事はほぼ不可能でしょう。
…視界の霞が一層酷くなってきました。耳もあまり聞こえないですし、炎に囲まれているのに、熱いと感じない。
嗚呼、意識すら遠のいて来ました。
「ごめんなさい、イクス。後は頼みます、クラウス」
私――――オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの生涯は此処で幕を閉じた。
◇◇◇◇◇
「おはようございます、アリサちゃん、すずかちゃん」
「おはよう、なのは」
「おはよう、なのはちゃん」
はじめまして私、高町なのは。私立聖祥大学付属小学校に通う、ごく普通の小学3年生……と言っても中身はオリヴィエ・ゼーゲブレヒトなんですけどね。
お前は死んだはずじゃ・・・ッ!?何て言う人も居るかもしれませんけど、どういうわけか、私は地球と言う星の日本と言う国で高町家の末っ子として産まれました。オリヴィエとしての記憶を殆ど持ったままと言うおまけ付きで、です。殆どと言うのはいくつか忘れてはいけない記憶ある様な気がするのに、それが何なのか思い出せないでいるからです。
どうやら、日本という国はベルカとは別の世界にあるようなのですが、戦乱時代では味わえなかった程平和で、ベルカの戦乱時代に生きていた記憶がまるで嘘のようです。最初にその事実に気づいたときは思わず、涙を流していました。ああ、こんなにも平和な世界があるのだな、と歓喜の涙です。
そして、今は楽しくアリサちゃん、すずかちゃんという友達と一緒にバスに乗って登校中です。
「そういえば何時も気になってたんだけど、なのはっていつも、オジョーサマって話し方するわよね。どうしてなのかしら?」
アリサちゃんが微妙に答え辛い質問をしてくる。
前世でお嬢様と言うより、継承権は低かったとはいえ、王として生きていたからです!
…とは、言える訳ないですし、言ったとしても冗談として流されるのがオチでしょう。
というか、知り合った時はそんな事聞いてこなかったのに、三年たった今聞く事ですか!?
「ええっと…」
必死にそれっぽい嘘を考えながら、すずかちゃんに、助けて欲しいなあという感じで目配せしてみる。
「あー、私もそれ知りたいなぁ。どうしてなの?私にも教えてくれないかな、なのはちゃん」
しかし、返って来たのはまさかの追い討ちでした。
さて、どうしたものでしょう。
◆
道徳の時間。
あの二人ですか?まあ何とか誤魔化せたと言ったと言う所でしょうか。具体的には言いませんが、今思えば有耶無耶にして逃げたと言った方が正しいかもしれません。二人とも、納得が行かないという顔してましたし。
しかし、学校というのは本当に面白いですね。
数十人の生徒にひとりの先生が授業を教える、というシステムは知りはしていても実際に受けた事がなかったので、友達を一緒に物事を学べると言うのは正直に嬉しいです。
オリヴィエの頃は勉学はマンツーマンが当たり前で、友達と一緒に勉学などとはありえなかったので、三年目ですけど未だに少し不思議な気分です。
ただ、『魔法』に関する授業がないのは意外でした。
平和な世界とは知ってましたが、魔法という概念すら無いことを知ったときは吃驚しました。質量兵器はあるようですが、魔法使いクラスの魔力を持つ人が稀な所為でしょうか?今の私はオリヴィエ時代の倍以上と言う馬鹿ほどの魔力を持っているようですが、アリサちゃんやすずかちゃんは一般人程度ですしねえ。魔法がないから困っていると言うわけではありませんし、別に良いのですが。
世の中平和が一番です。
まあ、とりあえず授業です。
「――――と、この街にも色々な仕事があるわけですが、将来皆さんはどんな仕事に就きたいですか?今から考えてみるのも良いですね。では、今日の授業は此処まで」
「起立、気を付け、礼!」
おや?考え事をしていたら授業が終わってしまいました。道徳という授業は個人的に気に入っている科目なのでとても残念です……。
それにしても、将来就きたい仕事ですか。オリヴィエ時代は産まれたときから決まっていたようなものですし、余り考えた事がなかったですね。
親は駅前の喫茶店をしていますが、継がなければいけない何て事はないですし、嘗ては得意だった魔法はこの世界にはないですが、一度じっくり考えてみるのもいいかもしれませんね。
…前世を生かして格闘家というのもありですね。
「なのは、お昼一緒に屋上で食べよ!」
「いいですよ」
アリサちゃんから何時ものようにお昼御飯のお誘いが来ました。アリサちゃんの後ろの方ですずかちゃんも待っているです。
「一緒にお昼はいいのですけど、何故屋上なのですか?」
「気分!」
天候は快晴。確かに気分で屋上に行きたくなるのも分かりますね。
「将来二人はどの様な仕事に就こうと考えているのですか? 因みに私はまだ決まってませんが」
「うーん、私としてはお姉ちゃんの影響で機械に興味があるから、まず大学の工学部に入りたいかな。だから仕事も機械系の仕事に就きたいなあ、ってところかな?」
と、すずかちゃん。
「私はパパの会社継がなきゃいけないから、まずは大学の経済学部かな」
帝王学とか必要になってくるんだろうなあ、めんどくさーいと喚くアリサちゃん。
二人とも平和なこの世界の9歳の割には将来設計がキッチリしてますね。
ただ、大学と言うと大体十年後ですから――――――――………二人とも本当に小学生ですか?
特に、アリサちゃん。社長の娘とはいえ将来何が必要かまで把握しているとは末恐ろしいです。
「なのはは決まってないって言うけどさ、こんなことやってみたいなー、とかはないの?」
「そうそう、なのはちゃんならできる事一杯あるんじゃないかな?」
今は子供だけど、もう少ししたらできる事も増えますが、できない事も増えて行きますけどね。
「うーん、『魔王』とかどうでしょう?『世界の半分をお前にやろう』みたいな事はいってみたい気がしますね」
『・・・・・・・・・』
何故二人揃って、それだけは止めろ、見たいな目線をこちらに向けるのですか?
「…冗談ですよ?」
『よかったあ~』
「………」
確かに以前、一緒に下校中に偶々こちらに飛んできた野球ボールをつい(無意識的に昔の感覚で)素手で掴んで粉砕してしまった事はありますが、世界征服できるようなものじゃないですよ?世界征服どころか日本征服すら無理だと思いますけどね。そもそも出来たとしてもしませんけど。征服って柄じゃないですし。
「あ、世界一周とかしてみたいですね。それが出来なくても、日本一周くらいはしたいですね」
私の家は基本海鳴市から余り出ないですですけど、京都に家族で行ったときはかなり感動しましたからね。行ったときが丁度秋だったのですけど、清水寺での風景は一番の思い出ですね。それまでに授業や家族から訊いたことはあったのですが、訊いただけだったり、資料を見たりするだけと実際に見て回るのとでは違いましたからね。
エッフェル塔や万里の長城とか生目で見てみたいです。
「ふーん、行くときは言いなさいよ。なのは1人じゃ只の哀しい人だから付いて行ってあげるわ!」
「あ、私も一緒に行きたーい。いいよね?なのはちゃん」
「構いませんよ、旅行は1人で行くより友達3人と行った方がきっと楽しいですからね」
「じゃあさ、今の内に行って見たい所を1人3つずつ言っていこうよ! 私はフランスとスペインとイタリア!」
「もー、アリサちゃん気が早いよぉ。あ、私はオーストラリアとインドと中国かな。なのはちゃんは?」
「そうですね、私なら―――――――――――――」
こうして楽しいお昼の時間は過ぎて行きました。