「……レイジングハート、この騎士甲冑と杖は一体…」
レイジングハートから展開された騎士甲冑は死ぬ寸前まで身に着けていた騎士甲冑ではなく、おそらく聖祥小学校制服をモチーフにしたであろう物になっています。かつての攻撃手段だった部分甲冑も存在しておらず、レイジングハートは生前は使う事のなかった杖の形に変わってしまっています。如何にも現代の魔法使いって言う杖ですね。テレビとかでありそうですね。
『今のマスターの肉体だと、聖王としての戦闘スタイルで戦うのは少々厳しい所があります。ですので私の方で今の体質に合わせて新たに編成しました』
確かに、聖王としての戦闘スタイルは再び使えるようになれば今後の戦闘は楽になると思いますが、あれは柔軟な体と魔力を十全に扱える精神がなければ傷めるどころか、骨とか折れると思いますね。その辺りを考慮して魔法を組み立てられるあたり、流石優秀ですね。
『ついでに言うなら現在のそれは騎士甲冑ではなくバリアジャケットと呼ばれるものになっています』
それに新たに編成された武器が杖と言う事は、戦闘スタイルは遠距離砲撃と言う事になりますね。かつての基本戦闘スタイルは近接戦闘主体の偶に魔法で単発砲撃などでしたから、今と昔では正反対になりそうです。まあ、砲撃も特に命中率が低いとか威力調整が出来なかったとかはなかったので、大丈夫でしょうけど。
今の武装を確認していると、新しい杖に違和感を覚えたがそれもすぐに解消された。
「あら、カートリッジは付けてないんですね」
ベルカのデバイスには基本あった『カートリッジ』がなかったのだ。
『はい。カートリッジシステムありに比べて多少は威力は減少しますが、今のマスターにはこちらの方が良いかと』
「まあ今、無理して聖王スタイルやカートリッジシステム使用で戦うよりかは、何倍も危険性は少ないですし、妥当なところでしょう」
カートリッジシステムとはベルカでのデバイスの殆どが使用していたブーストのひとつ。前もって魔力を込めたカートリッジ(弾丸型)をロードし、使用者の魔力を一時的にブーストすることで、その魔導師が本来持つ力以上に魔法の効果を高めるシステムの事です。
ですが、カートリッジシステムその強さ故に凡庸性に欠け、適者以外が使えば多大な後遺症が残った者も出た事もありました。何度か魔法を使えばカートリッジが使えるか分かるですが、とりあえず今は保留です。
まあ専門家みたいな事言ってますが、オリヴィエの頃は『聖王の鎧』があったのでデバイスは使えど、カートリッジシステムは使う事がなかったのですけどね。聖王の鎧は危険性の高い攻撃からの自動防御が主でしたが(制御次第で自動防御だけオフにも出来ましたけど)、聖王の鎧は身体能力の底上げ、魔力ブーストを同時にしてくれましたから、試しにカートリッジシステムを使った事もあるんですけど特に差はなかったですし、寧ろ変に負担が掛かるだけでしたね。特に必要なかったです。
「でも…『マスター、前です!』―――――っ!」
レイジングハートの言葉通りに咄嗟に前を向く。
『protection』
でもやっぱり一度くらいは使ってみたかったですね、と言おうとしていたところで拘束を解いた化物が襲い掛かってきました。今すぐ目の前に居ます。近くでよく見ると、何かもう、目が真っ赤で四つもあるし生き物とは思えません。触手見たいのがウネウネしてますし、気持ち悪いです。
防御はレイジングハートがしてくれましたから間に合いましたけど、レイジングハートの一声がなければ、あの化物の攻撃を受けていたでしょうね。家族に会えた喜びと久々の魔法で気が緩んでたんでしょうか。注意はしてたつもりなんですけど、こうも簡単に敵の接近を許すとは情けないばかりです。
騎士甲冑―――――もといバリアジャケットがあるので、あの程度の攻撃では碌なダメージは負いませんが、出来れば喰らいたくはありませんね。痛いものは痛いのです。
『マスター、油断しないで下さい』
「すみません。助かりました」
ベルカの戦乱時代も油断するなと何度か怒られた記憶がありますね。何のときでしたっけ?
『マスター、いい加減こちらから行きましょう』
「そうですね。 行きますよ、レジングハート!」
『Yes,My Master』
さて、目の前の害ある化け物が民家を壊さないうちにさっさと排除してしまいましょう。
見てて不愉快になってきました。
レイジングハートを構える。
「では、キッチリ決めていきましょう。―――――ディバインバスター」
『Divine Buster』
◆
「割と呆気なかったですね」
簡潔的に言うと、真正面から襲い掛かってきたところにレイジングハートに新しく組み込まれていた砲撃用魔法―――――ディバインバスターを一発撃ち込んだ所で決着が着きました。化け物の見た目に比べて予想以上に弱かったです。
というか、この体が予想以上に砲撃に適してた事に吃驚です。
何ですかあの砲撃の威力。威力だけなら今の状態でもベルカの王たちと戦っても惨敗はしないでしょう、ってくらいの評価はつけられるレヴェルでしたよ。相性次第では善戦も可能ですね。
そして、消え去った化け物の後にはひとつの宝石が浮いていました。青い菱形の宝石です。
「これが『ジュエルシード』ですか…」
ユーノくんの言っていた通りかなりの魔力を内包しているようですね。本来なら使用者、つまり私が指定しなければいけない所らしいですけど、ディバインバスターで撃ち抜いた時点でレイジングハートが封印処理してくれていたみたいです。
しかしまあ、封印されている状態でもその魔力の存在感をひしひしと感じますね。質はレリックの一段階くらい下、と言うところでしょうね。まあ上手く使えば幅広く運用出来そうですが、それでも危険性は無視出来ないでしょう。魔力の塊は結晶の様に綺麗で、実用性があってもその中身は爆弾のようなものですからね。
『マスター、私でジュエルシードに触れてください。それである程度の安全は確保できます』
レイジングハートに言われた通りに杖でジュエルシードに触れる。
すると、ジュエルシードは特に問題なくレイジングハートの中に吸い込まれていった。
「ふう。取り敢えずこれで良いのですね」
『お疲れ様です、マスター』
「レイジングハートもお疲れ様です」
騎士甲冑―――――じゃなくて、バリアジャケットは解除され、レイジングハートも元の赤い宝石の状態に戻っている。
一先ず、現段階での安全が確保できた事に安堵のため息が出る。
「あのぉ…、幾つか訊きたい事があるんですけど…」
ジュエルシードの化け物は退治し、そのジュエルシードも封印し、ひと段落着いたところで、戦闘中ずっと私のことを観察―――――もとい見守ってくれていたユーノ君が声を掛けてきました。
「良いですけど、家に帰りたいので一緒に来てください。こんな時間に子供がひとりでうろついて居たら危ないですからね。それにユーノ君の治療もしたいですし」
割とユーノ君が大丈夫そうにしているから問題なさそうに見えるけど、体の至る所に傷があるし、何より顔色が悪いし、息も少し荒い。顔色はフェレットだから良く分からないので何となくですけど。
まあ、このまま放って置いたら傷口から感染して病気になる可能性は高いですし、私はそんな人を放って置くような畜生でもないですから。そんな畜生は戦乱時代にはたくさん居ましたけど。
そして、そんな畜生は全員葬って来ました。
「あ、有難う御座います」
「ふふっ。良いってことですよ。さあ、帰りましょうか」
『了解です、マスター』
私も訊きたことがたくさん出来ましたね。
今の魔法の事とか、ベルカの事とか色々ありますね。
あ、近いうちにユーノ君の本当の姿も見てみたいですね。フェレットが本当の姿ではないでしょうから。そもそもフェレットの姿では遺跡の発掘なんてまともに出来ませんからね。
「あ、ユーノ君歩くの辛そうですから私が抱えて帰りますね」
あ、玄関の前で家族全員が待ち構えていそうな気がしてきました。
…怒られそうですね。