はじめまして、フェイト・テスタロッサです。
今私は母さんの『お願い』でロストロギア―――――ジュエルシード集めをしてたんだけど、偶々居合わせた白いバリアジャケットを着た栗色の髪の女の子と対峙することになってしまった。
出会い頭に撃った『フォトンランサー』は軽々と止められてしまった。
まあ、適当に手探り感覚で撃っただけなので特に止められても別に驚きはしない。
見た感じは同い年ぐらいの子で何となくだけど管理局の人間だとは思わなかった。ただ、こちらの都合上余り時間もなかったので、私は不本意ながらも強引に、出来る限り怪我をしないように気をつけた上で気絶させて、ジュエルシードを手に入れて帰ろうとした。
幸いあの子はシールドを張るという行為に慣れていないみたいだ。あの子自身そのことついては余り意識してないからなのか、それとももっと優先すべき事があるのか定かではないが、張りなれていない事には違いはない。故に特に問題はないだろう。そう思った。
しかし、それは間違いだった。
あの子が戦闘体制に入ったのを合図に、自信の持てる最高速度で移動し、あの子が出来るだけ大きな怪我をしないような力でバルディッシュを振りかぶった。
しかし、それはあの子に当たる事はなかった。
逆に私の体が動かなくなったのだ。
理由はすぐに分かった。『バインド』だ。それも、チェーンバインド―――術者の魔力値に比例するタイプのものだ。
―――――しくじった!
私はあの子の実力を見誤ったのだ。
私が全力で必死に抜け出そうとしてもあの子チェーンバインドはビクともしなかった。それだけ、私とあの子には魔力値の差があるということだ。
いや、それだけならまだ良かった。魔力値の差が大きいだけならまだ無理矢理解除できる可能性はあった。しかし、今の私とあの子では魔力制御の質が違いすぎて、本当にどうしようもない。今の私ではチェーンバインドはまだ使えない。コントロールしきれない。
そして、目の前の彼女は私に向けて杖を構えている。
きっと私を気絶させておく気だろう。動けない相手に攻撃をするのはどうなのかと言われそうだが、もし気絶させずに放っておいて、後ろでギャーギャーと騒がれては邪魔になるし、応援を呼ばれるかもしれない。立場が逆なら私だってそうするだろう。
戦場においての不安要素は出来るだけ取り除かなければならない。一流の魔導師になりたければそのことを常に心掛けなさい。
バルディッシュを貰ったときにそういう風に『母さん』から教わった。
「ごめんなさい、名前も知らない魔導師さん」
何処か悲しい目をした少女の言葉で、意識を現実に向けた。長々と考え事をしていたようにも思えたが実際は一瞬でしかなかったようだ。走馬灯に近いものかもしれない。
砲撃の準備は終わっていたようで、彼女の杖から虹色の混じったピンク色の砲撃が私に向かって放たれた。
「あああああああーッ!」
私は、そう簡単にやられてたまるかという思いから、瞬時に張れるだけの数、三枚のシールドを張った。即興とはいえ、普通ならコレで大抵の砲撃は防ぎきれる。
はずだったのに、
三重に張ったはずのシールドは砲撃に対して大した意味を成すことなく、砲撃は私に直撃した。
◆
「はあっ、はあっ・・・。な、何とか帰ってこれた・・・」
私は今、自分の家の扉の前にいる。
あの栗色の髪の子の砲撃の直撃を食らった私は気絶しそうにはなったが、ギリギリのところで意識を保ち、あの子がこちらを向いていない隙に転移で何とか逃げる事ができた。
そして、私が気絶したと思い込んでいたが故に、ついでにあの場にあったジュエルシードも回収する事もできた。
そして、今更だけどあの子、私より圧倒的に強かったのに、何処か少し抜けてる気がする。
―――いや寧ろ、抜けていると言うより、戦いの雰囲気がいまいち分かっていないような感じがする。
ふふ、変な子だ。
「…ただいま、アルフ」
ふらつきながらもドアを開け、家の中に入る。
あ、良い匂いがする。炒飯かあ、アルフの作る炒飯はとても美味しくて私の好物の一つだ。
「おう、おかえりぃー。―――――って、どうしたんだい!?」
私を見たアルフが慌てた様子で駆け寄ってくる。
一瞬本気で、何でアルフはそんなに慌てているんだろう?と思ったが、自分の姿を良く見てみると、バリアジャケットが見るも無残な状態になっていた。『転んだ』より、『事故に遭った』みたいな表現の方が適切なんじゃないかと思うくらいだ。確かにこれは誰でも慌てるよ。
「そんなにボロボロになっちまってよお、大丈夫かい、フェイト。 フェイトほどの魔導師がどうやったらそんなにボロボロになんるんだよ!? 誰にやられたんだい!? 管理局の連中かい? それとも暴走したジュエルシードの所為かい!? くっそぉ、やっぱりあたしも着いて行くべきだったんだよ! ―――って、あああっ。こんな事してる場合じゃなくてだね、早いとこ治療しないとフェイトが死んじまう!」
凄い慌ててる。テストで0点を取ったのを隠してたのがお母さんにばれたのび太くんくらい慌ててる。
『コレ』放置してたら、きっと一日中慌ててるんじゃないかな?
流石にそれは困る。
「お、落ち着いて。死ぬような怪我じゃないからさ」
「で、でもさあ……」
アルフには悪いけど、泣きそうなアルフはちょっと可愛い。
まあ確かに、今は砲撃喰らったすぐ後なのでふらふらしているし、バリアジャケットで防ぎきれなかったところは擦り傷程度のものがチラホラあるが、まあ血が出る程じゃない。
そう言うと、アルフは、
「はあ…、そいつは良かったあ。フェイトが大怪我でも負っちまったら、あたしは立ち直れない気がするよぉ。あ、でも所々に擦過傷があるからそいつは治療させておくれよ」
さっきまでの慌て様が嘘のように落ち着いた。
「うん、心配掛けてごめんね。ありがとうアルフ」
アルフは私の使い魔であると同時に私の大切な家族。
この前、その事をアルフに言ってあげたら、笑顔のまま鼻水たらしながら泣いちゃって、その時は大変だったなあ…。泣いたアルフを宥めるのに三十分は使った気がする・・・。
でも、私のために泣いてくれた事はとっても嬉しかったよ。
◆
アルフによる治療が終わったところで、私は今回のことについて語りだした。
「さて、そろそろ本題に入ろうか、フェイト」
アルフの顔付きはさっきまでの優しいお姉さんの様なものではなく、真剣な、獲物を狩る者の目をしている。
「うん、そうだね」
少し物寂しいけど、さっきまでの家族の戯れは一旦終わり。
今から始まるのは、同じ戦場で戦う仲間同士の話し合いだ。
「フェイトをそんなにボロボロにまでした奴はやっぱり『管理局』の人間かい?」
管理局についてちょっとだけ説明すると、正式名称は『時空管理局』。主な仕事は各世界の文化管理とか、災害救助だが、本質は文字通り世界を管理し、ロストロギアを管理する為の場所である。
犯罪者の確保や暴動の鎮圧なども仕事に含まれるため、命の危険のある役職だ。
私も一度はあの子のことを管理局の人間でないかと観察しては見たが、出会ったときから一度も誰かと連絡を取った様子もなかった。
誰かと連絡を取った様子がないからといって、そうでないと否定するのは愚かかもしれない。
しかしそれでも私は、
「…違うと思うよ。多分あの子は私と同じフリーの魔導師だと思う」
こう思うんだ。
「フェイトと同年代の同じフリーの魔導師ねえ。フェイトがそう思うんならそうなんだろうけど、あたしには信じられないねえ。いや、それどころか何で今までそんな奴を知らなかったのかすら疑問だね」
「どうして?」
「だってさあ、フェイトの三重に張ったシールドをいとも簡単に破壊してその上、バリアジャケットをそんなにボロボロにするなんて、それこそ管理局の中でも実力派の名の売れた奴やフェイトの母さん、『プレシア・テスタロッサ』クラスの魔導師でないとそんなの出来っこないんじゃないのかい?」
「…かもね。でも、私は立ち止まるわけにはいかない」
母さんにお願いされたから、という訳だけじゃない。
勝てないからって、苦しい思いをしたからって、今此処で諦めたら、とてもとても大切な『何か』が手に入らない気がするんだ。何かの具体的な中身はまだわからないけど、きっと今逃したらこの先一生掛けても手に入らない物なんじゃないかと思う。
アルフは私の言った事に特に反論する事はなく、
「そうかい。あ、今夜は冷えるそうだから気をつけなよ? ふぁあぁぁ~、あたしはもう寝るよ」
それだけ言うと、人化の魔法を解いて本来の姿に戻った後、ベットに潜ってしまった。
「おやすみ、アルフ」
「おやすみ、フェイト。 」
「あ、そうそう寝る前にちょっとだけ良いかい?」
ん?どうしたんだろう?
「今度さ、温泉にでも行かないかい?ちょっと離れた所にあるけどさ、フェイトのボロボロの体を癒すのとついでにジュエルシード探索もかねてさ。どうかな?」
確かに今の私は此処最近ジュエルシードを散策するのに必死で十分な睡眠は取れていないし、更に今日は魔導師の砲撃をこの身に喰らってきたんだけどそこまで大怪我を負ってはいないんだけど、なんと言うか、丁度いい具合にボロボロといった感じだ。
「そうだね、体を休める事も大事だよね」
私はアルフの提案に賛成した。
「うん、次の休みの日にでも行こうか」
「ああ、それがいいね。そうしよう。今度こそおやすみ、フェイト」
「二回目だけど、おやすみアルフ」
あれ、温泉に行くだけなのに、何か凄く嫌な予感がする。
何というか、こう、また砲撃を喰らう、みたいな?
そんなわけないよね……。
◆
『友達になりませんか?』というあの子の言葉、嬉しかった。
敵対する人間が、私の暴力の働く相手が友達なんて嫌だから、断わっちゃったけど、凄く嬉しかった。
いつか本当に友達になれる日が来ると良いな。
・・・いや、きっとそんな日は来ない。
私はきっとあの人に殺される。