「ただいま戻りましたー」
「遅いじゃないのよ、なのは」
アリサちゃん達のいる部屋に戻って早々に、そんなことを言われた。
時計を見てみれば、私がこの部屋を出てから既に三十分を過ぎていました。
金髪魔法使いと戦って撃退していたとはいえ、三十分も経っていましたか…。十分程度ならどうにでも誤魔化せたんですけどねえ。三十分は難しいですねえ。
道に迷った?用事があって一度家に帰っていた?それともロリコン執事に追われていた?
うーん、どれもこれも微妙ですねえ。
さて、本当にどう言い訳したものですかね…。下手な言い訳では碌な結果になりかねませんからね。
「いえ、ちょっと魔法を使う金髪少女に襲われてしまいまして、撃退に時間を喰いました」
「あははっ。何それ、楽しそうな妄想ね」
「ふふふ。なのはちゃん面白ーい」
このままスルーしてくれるのか、それとも抉ってくるのか、どちらでしょうか…。
「ま、なのはの面白い冗談に免じて聞かないでおくわ」
あ、何とか誤魔化せた?みたいですかね。
今の誤魔化しが効かなかった場合は、私が痛い妄想を三十分も長々とする痛い人になってしまいます。
痛い人になるのは心底嫌ですけど、痛い人なら堂々とレイジングハートと喋っていても問題がなくなるという利点が付いてくるんですよね。代わりに友達は激減しそうですけど。
小学生とはいえども女子の噂はすぐ広まるものなのですよ?
しかも内容は本人が聞いたら、割と直で精神に来るような改悪状態で。
体験談で言えば、下校途中に私の方に向かって飛んできた野球ボールを避けずに、反射的に素手でキャッチしてしまったことでしょうか。アリサちゃんとすずかちゃんはすごいと褒めてくれたんですけど、その一部始終を見ていたほかの女子が『高町なのははロボットらしい』とか『人間の皮を被った宇宙人』などの噂を次の日にはクラスに広められたことですかね。
一週間程で治まりましたけどね。
あと、噂とは少し違いますが、オリヴィエ時代の私は王位継承権が低いにもかかわらず、魔法がないと生きていけない当時の聖王家の中で最も魔法に秀でていたものでしたから、聖王家の関係者からは男女どちらからからも、陰口を叩かれたものでした。『聖王の鎧』を私が継ぐと決まった際には、他の『聖王の鎧継承候補者(全員女)』から『聖王の鎧を継承する者を決める議員(八割が男)を誘惑した』などと噂されるようになってしまいました。
いや、実際は私に継承させたのはその方が戦争で最も敵を減らせると判断したからなのですけどね。
嗚呼、それにしても女子って怖い。
まあ、私も女子なんですけどね。
◆
一方こちらは可愛らしい女子(私の親友二人)。
「ねえ、なのは。今週から土曜日だったわよね?」
「お店の方に急遽お父さんを必要とする程の仕事が入らない限りはその心算ですね」
「やったあ。私楽しみぃ~」
「そうですねえ。私もとても楽しみです」
さっきから二人がやたらとウキウキしてます。
ウキウキしすぎて、何と言うか、ええと、『遠足の前日の子供』か『サンタさんをいまだに信じてる子供』くらいウキウキしてます。
何故そんなに二人がウキウキしているかというと、
「『温泉』って響きだけで何かもう良いわよね!」
「だよね。心に響くよね!」
「ふふっ。本当に楽しみですね、温泉」
「「うんっ!!」」
土曜日から、私の家族とアリサちゃんとすずかちゃんと月村忍さん(すずかちゃんのお姉さん)と月村家のメイドさんとで近場ではあるのですが、『海鳴温泉』という所での二泊三日の温泉旅行の予定をしているのです。
それに私が「二人は温泉がそんなに楽しみなんですか?」と訊くと、二人ともが「温泉も楽しみだけど、『三人』で一緒に旅行に行けるから楽しみなんだよ!」と返してくれたんですよね。
その時の二人の幸せそうな顔は忘れられそうにありませんね。
やはり、子供の無邪気は笑顔と言うものは、とても良いものですね。
見ているこちらまでも幸せな気分になります。
「おや、日も暮れてきたようですし、そろそろ私は帰りますね」
時計を見れば、そろそろ17時になろうとしていました。
子供は帰る時間ですね。もう少し三人で遊んでいたいのですけど、あまり遅くなりすぎると、心配させてしまう上に怒られてしまいますからね。
私の家族は怒ると、ベルカの王様も真っ青なくらい怖いのです。
「そう。気を付けて帰りなさいよね。なのはにこの前話をした日から原因不明の爆発音とか建物の破壊とかちょくちょくあるみたいだからさ…」
「今のところは怪我人とかは出てないらしいんだけど、何だか怖いよねえ」
二人が言っているのは確実にジュエルシードに関することでしょうね。ジュエルシードは暴走体でない限り見つけるのは難しいから仕方ない、と言い訳するつもりはありませんが、今のところはジュエルシードを完全に封印処理できるのは私一人だけなので手が回らないというのが現状ですね。怪我人が出ていないのが幸いですけど、早い内に全て回収するべきですね。
じゃあ何故早く回収しなければいけないと言っておきながら、気楽に温泉旅行に行くのかと言えば、ここ最近は自分が子供であることを忘れかけて、昔のペースで彼方此方探し回っていたものですから、意外というか、必然的にこの体に負荷が掛かっていまして、一度休息を入れた方がいいと思ったからです。ジュエルシードを集めのに無茶して倒れて所為で、ジュエルシードの暴走体を止められなかった、何て本末転倒なことにしたくありませんからね。
それに、私もアリサちゃんとすずかちゃんと一緒で、友達と一緒に温泉旅行に行くというのはとても楽しみなのですよ?
「では、そろそろ本当に日も沈みそうですし、失礼しますね。また明日会いましょう」
「ばいばーい。なのはちゃん、気を付けてね~」
「じゃあね、なのは。後でメールするから」
うーん、歩いて帰っていては晩御飯に間に合わないかもしれませんし、走りましょうかね。
◆
「ふう。お母さんの手料理は毎日食べていても飽きませんねえ。心が満たされるというのはこういうことを言うのでしょうね」
『いつもの事ながら、マスターの母君の手料理はデバイスである私から見ても素晴らしい出来でした』
他の人までは知りませんが、少なくとも私は、レストランで高級食材を食べるより、安くても家で母親の手料理を食べている方がずっと良いです。
「で、話って何ですか?」
『はい、話というのですね、夕方は御友人と遊んでおられた上に、新たに敵が現れた所為で言いそびれてましたが、幾つか言っておかなければならないことがありました』
晩御飯の後、レイジングハートが私に話があると言ってきたので、聞いてみることにしたのですけど、あまりいい予感がしないです。
親友とはいえ、機械であるはずなのに少し真剣みを帯びた雰囲気がレイジングハートから出ているような気がして怖いです。
「…何でしょうか」
『本日もいつも通り、ユーノ・スクライアの索敵魔法でジュエルシードの捜索を行っていました』
ここまではいつも通りです。いつも通りの報告です。
私が学校で授業を受けなければいけない間は、私より補助魔法に長けたユーノ君にレイジングハートを用いて探索した方が良いんじゃないかと思い、それにあまり離れるのもアレなので学校の屋上で探索魔法を掛けてもらっているのです。いくら暴走状態でないジュエルシードを見つけるのは難しいとは言えども、ユーノ君の才能とレイジングハートの性能なら索敵可能な範囲です。ただ、ユーノ君の魔力量の都合上、広範囲高精度全方位索敵は無理っぽいんですけどね。半径200メートルくらいなら凄い良いんですけど、まあ仕方ないです。
そしてこのタイミングでいつもとはちょっと雰囲気の違うレイジングハートから報告を受けて、どんどん私の中のあまり良くない予感が悪い予感に変わっていきます。
『ですが、今回行く、海鳴温泉の近くに一定以上の魔力を感知しました』
ほーら、嫌な予感は的中しました。
折角の楽しみだというのに、結局ジュエルシードに妨害されるんですね、コンチクショウ。
…うん?
「一定以上の魔力、ですか」
レイジングハートの言う一定以上の魔力というのは、ジュエルシード級の魔力量ということなのですけどね。ジュエルシード級の魔力量だけでも危険物であることに変わりはありませんけど。
『はい。感知できたものの、学校からは離れすぎているためにそれが何であるのかは計測できませんでした』
ジュエルシードかどうかは分かりませんでしたけど、まあ、危険物が温泉近くにあると分かっただけでも良しとしましょうか。
全く良いことでは嬉しくありませんけど。寧ろ、悲しいです。
友達とたくさんお喋りしたいのにできない、休みたいのに働かなくてはいけないとは…。
「何という生き地獄でしょうか…」
あ、泣きそうです。
『元気出してください、マスター。二泊あるので一日で全て終わらせればまだまだ遊べますし、それにジュエルシードかも知れないということは恐らく…』
「―――あ。ではあの子に出会う機会があるかもしれませんね」
そう思うと、奈落へと落ちたテンションが少しばかり上がってきました。
あの子とは勿論月村家の庭で出会った金髪魔法使いちゃんの事です。今度こそは名前を教えて貰いたいところですね。
…今日はもう遅いので寝ましょうかね。
え、ユーノ君ですか?レイジングハートに報告を任せて先に寝ましたけど。それもユーノ君用のクッションで。
何でも、一緒の布団で寝るのは恥ずかしいから、だそうです。
ふふっ。可愛らしいですねえ。
「嗚呼、それにしても土曜日が楽しみですね」
『いい加減寝てください、マスター』
怒られた…。