蛇がダンジョンに潜入するのは何かの間違いである 作:Zero Stella
act 1-1
暗く沈む意識の中で、蛇は自らの身体の状態を分かっていた。
自分の師を殺害した任務でも、耐え難い程の負傷はなんどもしてきた。それ以前の任務でもだ。だが、今回はそれらと比べものにならないレベルだ。
爆発とそれによる金属片、海面に打ち付けられた衝撃で全身火傷と打撲だらけで、骨だって2桁は折れているかもしれない。おまけに今この装備で泳げる程に状態は良くなかった。
いつかは死ぬのは分かっていた。今まで多くの敵がそうだったように、自分にも死ぬ時が来ただけだと蛇は思うだけだった。
コブラ部隊も、FOX部隊も、ザドルノフも、ジーンも、そしてザ・ボスも。自分と戦った全ての敵がそうだったかは知らないが、少なくとも蛇に後悔はあれど憎しみはない。寧ろ、ある種の安堵すらあったかもしれない。
戦う者はいずれ何者でも勝者と敗者に分けられる。勝者は生き残り、敗者は死ぬ。勝者に安堵の日はなく、戦場に残り続け、敗者には永遠の静寂が訪れ、戦場から解放される。生き残った勝者は死ぬその瞬間まで戦士として生き続けなければならない。
蛇の持論からすれば、漸く彼は戦場から解放されるのだ。
もう、銃を持たなくてもいい。
ある種の安らぎに、彼は水の中で意識を手放した。
《》
世界唯一の迷宮都市オラリオ。そこは人と神が共存する街。神は人に、
神は自らが力を与えた者を
それは神達からすれば自らを養う者が増える事ということで、全く問題視してはいなかった。が、むしろ治安的な意味では致命的なまでにマズい事だった。確かにオラリオは神が多く住んでいて、彼らが作るファミリアに所属する冒険者が多い街だが、それ以上に彼らの生活をサポートする一般人も多い。彼らからすれば、恩恵を得てモンスターを狩れるようになっている冒険者は、ある種恐怖の的であるのは間違いなかった。
しかも、神はその点に関しては基本無干渉だった。神からすれば面白ければ良いのだから。退屈だという天界よりも面白ければ何でも。
だが、捨てる神あれば拾う神ありという通り、秩序や正義を司る神なら話は別だ。
そのような話で第一に上がってくるファミリアと言えばアストレア・ファミリアだった。
秩序と正義の神アストレアが主神であるそこは、その神の名に恥じぬ働きをするファミリアで、ギルドなんかと協力して街の治安を維持する憲兵のような役割も担っているファミリアだ。
彼らのファミリアはとても大規模とは呼べない人数だったが、そのいずれもが第二級冒険者以上という精鋭で、少人数でありながらも仕掛けられた
そんな彼らの中でも特に戦闘力が高かったのが、Lv.4の冒険者【疾風】リュー・リオンだ。高い機動力と魔法による超火力を両立した、高度な技術を持つ魔法戦士。
彼女は高潔なエルフで、アストレア・ファミリアに入って数年経った今、仲間と打ち解けているのにも関わらずソロでダンジョンに潜るのも珍しいことではなかった。
Lv.4ともなれば中層のモンスターには遅れをとることはないため、周りも心配していなかった。
だが、ある日の事だ。今日も今日とて1人でダンジョンに潜りに行っていたリューが、どうも帰ってくるのが遅いのだ。普段なら夕方には帰ってくるというのに、もう日は落ちている。
ファミリアの団長であるアリーゼは、団員の1人をバベルまで向かわせ、ギルドに確認をとることにしたところ、リューの所在はバベル内に設置されている、ギルド運営の病院の中だというのだから慌てて連絡すると、リューが病院に運び込まれたのではなく、リューがダンジョン内で倒れていた人を運び込んだのだという。
「なーんだビックリした」
「ま、考えてみれば心配するだけ無駄だったかもね」
「それはどうでしょうね」
団員達は安心したが、そこへ部屋の奥から一人の女性が、いや女神が現れる。美しい金髪を腰まで届きそうなロングにしているこの女神こそが、アストレア・ファミリアの主神であるアストレアだ。彼女の宝石のような碧眼は真っ直ぐとバベルを見据えているが、その眼差しは悪人を裁く時の目である。
それを見たアリーゼは、普段の緩い雰囲気をなくしてこちらも真剣な声色で問う。
「どういう事でしょうか」
「感じた事のない
神の中には、
例えば美の神フレイヤは、人の心の色を見る事ができるだが、それと同じように女神アストレアは人の中に眠る善や悪の価値観、その人がどちらに傾いているかが見れる他、それが強ければ強い程に遠くからでもその感覚を感じ取る事ができる。しかも過去に犯罪ファミリアの捜索にその力を使った程に正確に分かるのだ。
過去に何万人もの人々の心を読んできた彼女は、そのダンジョンでリューが助けたという男の独特な、そして何万もの人になかった異様なモノを感じたのだ。
今オラリオは
「アリーゼ、リューを迎えに行くついでだ。私も連れて行ってくれないか」
「アストレア様!?」
闇派閥からすれば、
だからこそアストレアは、その性質上狙われやすい立場にあるこのファミリアの主神として、よっぽどの事か神会でないかぎりは外出を控えていた。
だが、アストレアからすれば今回の件はそのよっぽどに含まれるものだった。
「私には、その者を確かめる義務がある」
闇派閥の者であったなら、すぐさま断罪を行う必要もある。これ以上、アストレアはオラリオに闇の時代を続けさせたくはなかったし、自分の眷族が闇派閥との闘争のために死んでいくのも見たくはなかった。
だからこそそれを見定めて、可能であれば自分の手の届く範囲に――つまるところは自分のファミリアに置いておきたいという思いがあった。
«»
まず感じたのはほんのりとした光。そして、閉め忘れた窓からささやかな風が入り込むような、無に近い音。
蛇が目を開くと、そこは真っ白い部屋だった。だが、そこは天国ではないらしい。どうもここはどこかの病院で、自分はそこの一室のベッドに寝かせられていたらしいと、蛇は理解したが、どうも変だった。
時計やカレンダーは部屋になかったが、髭や頭髪の伸びから察するに、どうもそんなに月日は経っていない。いや、数日あるかないか程度のものだろう。
だというのにだ。シーツをどかして体を見るも、あの時にできた傷は無いし、痛みもない。更に不気味だったのは、過去の古傷の幾つかがなくなっていたことだ。
そして何より、置いてあった新聞の文字が読めない。
(そんな馬鹿な)
見る限り、ここはアメリカや西ヨーロッパ諸国程ではないにしろ相当に発展した土地の筈だ。それは、この病室であろう部屋や、新聞の存在からも明らかだ。そんな国は世界でもひと握りだ。何ヶ国語も習得した彼は、そのひと握りの国の言葉は殆どペラペラなのに。それなのに、未だ自分が見た事のない文字でそれは書かれていた。
じゃあ、いったいここは何処なのか。その疑問が破裂しきれんばかりに膨れたところで、部屋のドアが開かれた。
助けてくれたのだから、まぁ恐らく敵意はないだろう。そう思えるのに、兵士というものの職業病だろう。身体はその身を隠せる場所を自然と目で探し始める。
それをぐっと心で抑え、人が入ってくるのを待つ。
「アストレア様、アレが例の男です……あら、意外に早く起きたんですね」
「リオン、アレではなく彼です。災難だったようですね。私の名はアストレア。あなた、自分の名前は分かりますか?」
やってきたのは、金髪で耳が普通の人間よりも長い女性と、同じく金髪のしかしもう一人より凛々しい女性。前者は外見に明らかな特徴があるが、後者は後者でまともな人間ではない。というより、人間離れした感じがした。
また、話している言葉は何故だか理解ができた。いや、できてしまったが正しいのだろうか。知らない言葉の羅列のはずなのに、頭にその意味がスッと入ってくるような、そんな違和感のある感覚があったが、それでも全く何を言っているかわからないよりかは100倍良いに違いない。
理解できてしまったがために、名乗ってきたアストレアという名の金髪の女性からの質問に、果たしてどう答えるべきか蛇は悩んだ。
彼は兵士であり諜報員だ。本当の名を言うのは憚られた。彼らの素性もわからない。バックにいる存在もだ。だが、黙秘はかえって誤解を生む原因にもなる。
とりあえず偽名でも名乗っておくとしよう。そう考えて、頭にパッと浮かんだ名で応える。
「俺の名は、イシュメール……」
「嘘ね」
面食らった。まさか一発で嘘だとバレるとは思わなかったのだ。
裏の世界では、自白剤や嘘発見器は使われる事があるが、まさかそのような装置もないのに、嘘がバレるなどと考えた事もなかった。例えるなら逆自白剤のようなものだろうか。相手が嘘を言ってるのが分かるようななにかがあるのだろう。
などと考えていたら、アストレアと名乗った女性から補足を付けたした。
「神には嘘はつけないのは知っているでしょう? ほら、あなたの名はなんですか」
「生憎俺は無神論者なんでな」
宗教があり、それを取り仕切る巫女のような存在がいて、病院を作れて尚且つ重症の患者を数日で完治させる程の医療技術を有し、そして蛇が知らない文字を使う国は聞いたこともない。
かといって、自分を混乱させるために
であれば、彼女は本当に神なのか?
かつてUMAであるツチノコを食べたスネークだが、それでもそれは信じる事ができなかった。のだが、アストレアは無神論者という言葉を聞いて、死ぬほど笑い始めた。それはもう猛烈に。
「あなた、それ本気で言ってるの? ぷっ、あっハハハ! あぁ、もう、信じられない。こんなに笑ったの久しぶりだわ」
「何がおかしい」
「いやいや、だって、ねぇ……まさか、私達の存在を知らない子供たちがいるはずが、な、い……あれ?」
少し言いよどむと、アストレアは隣の女性に話しかける。「オラリオで神を知らない人がいるか」と。すると金髪の女性は即座にNOサインを出す。そんな筈がないと。その問いに少し考えこむと、再び同じ質問を繰り返す。
しかし、今回は先ほどのような朗らかな表情でも、柔らかな雰囲気も消え去っている。それこそ、本当にこのアストレアという人物が神であるかのような、そんな神々しくも恐ろしいオーラが見えるようだ。
「もう一度だけ問います。あなたの名前はなんですか」
これはもう逃げられないんだろう。そう蛇は理解すると、自分の通り名でありコードネームを口にする。確かに本名ではないが、しかし自分を表す単語としては、恐らく最も適当であろう名前。
その名を口に出した瞬間に、この物語は動くとも知らずに。
「俺の名は、スネークだ」
原作開始から7年前を想定
つまるところリューさんの年齢は14。若い(確信)
リューさんの髪色→薄緑の髪色は豊穣の女主人に働く際に染めたらしい。それ以前の髪色は不明なために黒とする染める前は金髪という事が分かったため修正
アストレア様→もはや詳細どころか容姿すら書かれていないために完全捏造
スネークの装備→とりあえずスニーキングスーツだけはある。その他は後述