蛇がダンジョンに潜入するのは何かの間違いである 作:Zero Stella
ルーキー日間にも載っていてびっくりしました
オラリオ郊外、賑やかな大通りから離れたところにあるのが、アストレア・ファミリアの本拠地である「星屑の庭」である。
バベルへと向かう道から離れた場所にあるこの館は、朝や昼間はともかく夕方にもなると人通りはかなり少ない道に面している。街の人々は他のファミリアと同じようにバベル近くに拠点を建てなかったのかと不思議がっていたが、アストレアとしては、闇派閥との闘争が激しいがための一種の配慮であった。
人通りが少なく、周りが住宅地でもないこの辺りは、もしもファミリアが襲われたとしても無関係の人々に被害が及びにくいという理由があったのだ。
そんな星屑の庭に、3人と1柱が帰ってきた。そのうち一人は初めてここを訪れる人物である。
アストレアは館の扉を開くなり、団員を全員召集してその一人の事を紹介し始めた。
「皆、
その紹介にファミリア一同は特に
「仲間入りですって? そんな何処の馬の骨とも分からん奴を改宗させるというのですか」
この指摘は確かに当然のものであった。日頃からオラリオ中を駆け巡っている彼らは、良い意味でも悪い意味でも顔が広い。有名どころのファミリアの団長から、零細ファミリアの団員まで大抵は顔見知りであったりする。そんな彼らが知らないという事は、最近オラリオに来たのか、それともなければ闇派閥の団員か。
極東の政争の惨状を知っている輝夜だからこそ、そういった面には人一倍敏感だった。
「説明不足でしたね。ファミリアについては問題ありません。なぜならこの男、スネークは無所属なのですから」
「無所属ですって? つまり、レベル0だというのですか?」
「ええ、彼は
その言葉に再び全員がざわめく。人間は神の恩恵があって初めて、モンスターと対等以上に戦う事ができるのだから。逆を言えば、神の恩恵を受けていない状態、つまりは輝夜の言ったレベル0では満足にゴブリンすら狩れない。いや、逆に食料になってもおかしくはない。
だからこそギルドは、ファミリアに加入している者のみしかダンジョンに入れないように規則を定め、サポーターですらステイタスを持つ事を義務付けている。
だというのに、ダンジョンにレベル0で入り、あろう事か中層にまで行って倒れていた等どう考えても『普通じゃない』
そこに石を投げたのが、
「そいつは寧ろ怪しくないかい? つまるところ単独でダンジョンに入れるなんて、怪人か……もしくはダンジョンへの裏口を知ってる奴になるだろう」
それからも幾つも質問という名の尋問が続いたために、アストレアは閉口してしまった。本当はそれこそややこしくなるから、団長のアリーゼと当の本人であるスネーク、そして助けたリューと自分自神の四人のみでの話にしておこうと思ったのだが、アストレアの予想以上に団員達は疑心暗鬼になっていたようだ。
無理はないし、咎める事などできるはずもない。それもこれも全て、アストレアのファミリアであるからの事であるからだ。
彼らはつい先日一人の仲間を失ったばかり。こうして疑い深くなるのも仕方のないことだろう。
「分かりました。説明しましょう、何故スネークがダンジョンにいたのか」
そう言って、アストレアは話し始めた。自分でもよく分かっていないが、何かしら天界からの神の力が働いて起こった出来事であろうという事を。誰がやったのかは分からないからまだ決めつけるのは早いが、誰かしらの神が暇つぶしにやった事だろうから、スネークには非はないと。
そして、彼が元々は別の世界の住人だという事も。
「別の世界……ねぇ。なんか、パッとしないけど、そうまでアストレア様が言うんだから間違いはないんでしょう」
「んー、アタシは納得した訳じゃないけどね」
まだ完全には納得していない約2名を除いた全員が納得したところで、炎のような赤髪がアストレアの目の前に飛び出した。彼女こそがこのアストレア・ファミリアの最古参にして団長アリーゼ・ローヴェル。
自身を清く完璧な正義の剣であると自賛する少女は、実際アストレアの話を完全に理解できたわけではなかったが、しかし自身の主神と心では同じ想いを抱いていた。それは困っている人を助けたいという、原点にして一番大切な親切な心だ。だから彼女はこの星屑の庭への帰路でこの話を聞かされた時、スネークの入団に全く反論はしなかった。
そして、それを見たリューもまた、反対しようとすらしなかった。
「まぁまぁお二人さん、そう苛立たないでさ。だったら君達が納得するまで見ているといい。ボロを出したら私かアストレア様に言うといい」
たったそれだけの言葉だったが、それだけで輝夜とライラは黙りこくってしまった。
≪≫
ファミリアへの入団が決まったとなれば、次に行うのは歓迎会……ではない。そう、ステイタスの記入だ。
「という事なので、ささ、スネークは上を脱いでそこのベッドにうつ伏せになってくださいね」
「脱げばいいんだな、分かった」
アストレアにそう言われたスネークは、ギルドから頂いたTシャツを脱いで上半身裸の状態になってベッドにうつ伏せになった。
かつては潜入任務中に上半身裸になって「気持ちがいい」と言ったりしたものだが、こう、大勢の前で上半身裸になるのはどうもスネークでも抵抗があった。しかもそれが、若い少女たちの目の前というのも奥手な彼の心に突き刺すものがあったのだった。
「いいですかスネーク。今から行うのは、神と人との契約です。決して私との誓約を違わぬように」
「分かった。そういうのは慣れてるからな」
「なら良かった」
「私が団員に求めるのは、二つ。それ以外は、自らの判断でやってくれればいい」
「一つ。常に正義と秩序に則った人道的な行いを心掛ける事。これは、私のファミリアに入るのならば鉄則です。弱きものを助け、悪しきものを打ち砕く。常に弱い者、正しい者の味方でありなさい。決して悪に堕ちないように」
「二つ。決して犬死にしない事。これはファミリアとしての決まりというよりも、私個神としての願いであり祈りです。無意味な死は許しません。いつの時も、死ぬ時は正しい事をした結果の死になるように。誰かを助けるための死であるように私は願います。なんの意味もなく、突然死ぬなんて事は、私は許しません。そうしたら、私が天界に戻った時に魂の面倒を見てあげませんからね」
「人道的な行いと、犬死にはご法度か……分かった。約束しよう」
「なら良し」
スネークがアストレアの提示した条件を承認したのを確認すると、彼女はうつ伏せになったスネークの上に跨り、その背中を捉えた。そして、いつの間にか用意した左手に持った小さなナイフで自分の右手を軽く斬り、その血を背中に垂らす。神の手から流れた
未だ血が治まらぬ状態のまま、アストレアはその背中をなぞり、まじまじと神聖文字を読み始めた。そして、そのあまりの内容に驚愕した。
「う、嘘でしょう……」
「どうした? 何か問題でもあったか」
うつ伏せの状態で上に乗っかられているスネークは、首をひねるのもいっぱいいっぱいで、辛うじて真横を向けそうなくらいだったため、アストレアの驚きを隠せない声に不安を感じて問いかけた。
しかしそれは杞憂であった。何故なら、アストレアが驚いていたのはその経験値が異常だったからだ。
「なんであなた、最初からLv.5になれるだけの経験値を持っているのよ……あなた、一体何したの?」
「アストレア様それ、冗談ですよね?」
「私のこの表情が嘘をついている時のものだと思うのなら、あなたは変わってしまったというしかないですよ輝夜」
普通、大抵の冒険者志願者はLv.1でステータスもオール0から始まるのが普通だ。もちろん例外というのもあるが、そもそも完全な生身でレベルを上げるだけの偉業を成し遂げるのは不可能だ。
レベルというのは生物としての格であり、レベルアップはランクアップ。つまりは神という上位存在に一歩近づく事を意味するのだ。ダンジョン内では通常人間が勝てる存在ではないものがうじゃうじゃといるため、レベルを上げる要因は事欠かない。が、それでもオラリオの冒険者の過半数以上がLv.1から上げることができていないのが現状だ。そして、ダンジョンがないオラリオ以外では余計に難しい。
だというのなら、スネークは一体どんな事をしてきたんだか。それは最早常人が考え着くものではないだろう。
そもそもレベルというものを知らなかったスネークは、その存在を教えてもらってやっと理解した。そして同時に理解した。
「なるほどな……ツチノコを食ったのにも意味があったって事だな」
そう、間違った方向に理解した。彼はゼロやシギント、パラメディックが熱弁していた伝説の生物『ツチノコ』を食べた事がレベルアップに一役買ったのだと勘違いしているのだ。実際、確かに凄い事ではあるのだが、世界を三度救った事に比べれば些細な事であろう。
だがしかし、そんな彼の偉業を知る人物はここには誰もいない。しかも、ツチノコのせいだとスネークが思っているせいでアストレアもそれ以上の事が分からないのだからもう性質が悪い。
「ツチノコってなんだ? それ」
ライラがツチノコについて聞くと、スネークはかつてパラメディックに聞かされた事を殆どそのまま喋って伝えた。
蛇のような姿で、腹の周りが少し太っている大柄な蛇。日本各地で目撃されていたとされる伝説上の生物で、それを自分は過去に発見して食べた事があるのだと。
伝説の蛇を蛇の名を冠するスネークが食べるという事にライラはゾっとすると、同時に『大柄な』伝説の蛇の姿を想像し、第二級冒険者以上が複数人集まってやっと倒せる階層主級のモノを頭の中に描いた。確かに階層主をLv.0で倒せば、英雄譚に描かれる程のものになるだろう。
「まぁとにかく、あなたの物語は今度聞かせてもらいましょう。なんだか面白そうですし」
「ですが、当分スネークはLv.1でいかせますからね」
アストレアはLv.1以上にする事を認めなかった。例え彼がLv.5になれるだけの素質があるとしても、彼が今まで戦ってきた環境とこのオラリオでは大きく環境が異なるはずだ。それは、彼が見つかった際に身に着けていた見慣れない武器からも想像できる。
だからまずは、アリーゼ達からダンジョンでの戦い方と生き方を学んで欲しいのだった。
そして神という存在の本能で、後々隠しパラメーターとして役立ってくれる低レベル時のステイタスもしっかり身につけてほしいというのも少なからずあった。
「戦力としては早いところ上げてほしい」という輝夜の意見もあったが、アストレアが一言ダメだと言うと、おとなしく引き下がり、それ以降誰も文句は言わなかった。実際、アストレアは頑固な性格で、これと決めたらやめないタイプだった。
「入団の儀式」が終わり、一息というところで、アストレアはそういえばという感覚で再びTシャツを着ているスネークを見ながら、こう告げた。
「あ、そうそう。スネークはたぶんオラリオの事も良く分からないだろうし、暫くは一人行動はダメね。……で、リオン、あなたがスネークに色々教えてあげてね」
「え、私ですか!?」
「そりゃあなたが助けたんだし、一番接点があるからぴったりでしょう?」
「し、しかし」
「そうなのか? よろしく頼む」
「いやまだ承諾はしてないです!」
これまであえて会話に加わろうとしていなかったリューは、いきなり主神に自分の名前を呼ばれて跳び上がる程に驚いた。というのも、こういったことはやった事がなかっただけに、尚更そういうのはアリーゼやライラのような適任がいるだろうという気持ちにもなっていたのだ。
その様子にアストレアは保護者のような笑みを浮かべると、初心なエルフに向けてこう言った。
「まぁまぁ、あなたが
普段そういう事を言わない主神の悪ふざけに乗っかって、アリーゼが「ほうほう、あのリオンがついにその手を許したと」などと悪乗りしたのが運の尽き。ここまできてしまえばリューがいくら「人命救助には仕方がない事だ」とか「そうじゃなきゃ運べないでしょう」なんて言っても誰も聞く耳を持たない。
しまいには、リューの事を好敵手だと言っている輝夜に
「ま、お堅くて高貴で子供っぽいポンコツエルフの貴様に無理なら、仕方ないですから私がその役目を持ってあげてもいいですけれど?」
などと焚きつけられ、良くも悪くも真っ直ぐなリューはとうとうその言葉を言ってしまう。
「ええ、分かりました! いいでしょう! スネークさん、私は加減ができないですからどうなっても知らないですからね!」
挑発にリューが乗らないようになるのには、相当な時間がかかるようだ。
一つの話を自分で区切りながらネタや構成を考えているので、2,3話ごとに少し時間が空く仕様になっております
ごめんね
補足・スネークの偉業について
ダンまちしか知らない!とか、MGSは4とか5しかやった事ないんだよなぁって人もいると思うので
1.伝説の兵士であり自分の師でもあるザ・ボスを暗殺、これによりBIG BOSSの称号を得る
2.サンヒエロニモ半島でのFOX部隊反乱の鎮圧
3.ピースウォーカー事件にて、全面核戦争の回避に成功
などなど
今後機会があれば作品内で掘り下げた説明をしていきます