蛇がダンジョンに潜入するのは何かの間違いである 作:Zero Stella
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スネーク 《アストレア・ファミリア》
Lv.1
力:B 765
耐久:A 882
器用:D 573
敏捷:C 612
魔力:I 0
潜入:B
《魔法》
【】
《スキル》
【】
これが、アストレアがスネークに与えた、いや許したステイタスだった。
初心者冒険者としては十分すぎる、贅沢な高ステータスに加え、神が見たことのない発展アビリティ。そしてつける事ができた筈のスキル枠は空っぽになっている。
ただこれは実際には、経験値を使ったものではなく元々スネークが持っていたステイタスであり、これ以上はアストレアをもってしても能力を下げる事ができないのだった。スキルの一つも勝手についちゃってるのではと危惧したが、流石に経験値依存だったのか、スキルは付いていなかった。
が、それでも勝手に付いてきたものがこの「潜入」という発展アビリティ。彼の話の所々に出てくる事柄が関係しているのか、異常にランクも高かった。
つまるところこの男は、Lv.0でありながら冒険者に匹敵する能力があったわけだ。その事にアストレアは薄く苦笑いを浮かべつつ、ステイタスを記した紙をスネークに手渡した。
「こいつが俺の今の能力って訳か」
細かい数値よりも、スネークの気を引いたのは等級を表すアルファベットだ。これだけはしっかりスネークの知る文字だった。
それならば、と他の文字も注意して見てみると、間違いない。この世界は基本的に英語が話されているようだ。
ただ、文字はギリシャ文字に近い上、元々無かった言葉も幾つもあるし、今までは意識せずに聞いていた言葉も、よく聞けば相当訛りの強い英語だと理解できる。
現地語の習得は潜入の基本だとスネークはよく言ったものだが、なるほど今回はかなりスムーズにマスターする事ができそうであった。
改めてステイタスを読むと、自分の耐久が高いところに納得できたり、逆にもっと器用じゃないかと思ったり。
(そういえば、カズはMSFのスタッフの能力を同じように格付けしてたな )
数字の横のアルファベットを見てスネークは、マザーベースでの人員配置を楽にするために、副司令のカズヒラがスタッフ全員の素質や能力をデータ化して纏めていた事を思い出す。
結局、「配置を決めるのはボス、あんただ!」などと言って、纏めるだけだったのには苦笑いしたものだが、ああやって見やすくするのは良いアイデアだとも思ったのを覚えていた。なにしろサンヒエロニモ半島事件と比べ、やる事が増え班の数も多かったが、戦闘以外はどうもスネークは見定めるのが厳しい面があったのだ。
そう考えれば、確かにこのステイタスというのは合理的で便利な見た目をしているものだ。
パッと見ですぐその人の力が分かるアルファベットに加え、拮抗した実力者同士では数値をもって比べる事ができる。
「そういえば発展アビリティてのは、なにか効果があるんだったな?」
「ええそうよ」
「じゃあ、俺の【潜入】ってのもいい事があるのか」
「たぶん」
「たぶん?」
「仕方ないでしょう? そんなアビリティ聞いたことないんだから」
アストレアは手元にあった、現状発見されている魔法や発展アビリティ、スキルを纏めてあるギルド発行の辞典をパラパラと捲りながら答える。
発動条件なんかも書いてあるはずのその本には、潜入などというものは書かれておらず、明らかにそれがレアな発展アビリティ、もしくはユニークなものであることを示していた。
故にその効果は未知数。名前からして、非発見率の低下ではないかとアストレアは予想した。
「てことは、このアビリティがある限りカモフラージュ率が上昇するって事か」
「カモフラージュ率……?」
「いやなんでもない。忘れてくれ」
そもそもカモフラージュ率の概念がこの世界にあるか怪しいというのが、非常に惜しいスネークであった。
«»
翌日の早朝。スネークの入団祝いとの事で、星屑の庭では昨夜宴を開かれていた。
他のファミリアと比べても非常に死亡率が高いアストレア・ファミリアは、その神の特異性と役割の持つ危険性から、入団希望者は極わずかであった。
半年前の団員数が30人くらいだったのに、いまではたったの11人。昨日入ったスネークを合わせても12人と、たった半年で半分の団員を失っている。ここまで消耗が激しいファミリアはそうそうない。しかも、直接の原因がダンジョンにはなく、むしろ人間同士での争いによる死亡だから性質が悪い。
闇派閥との闘争というものは、それほどまでに熾烈を極めているのだ。
ガネーシャ・ファミリアも、アストレア・ファミリアの団員減少を見かねて協力を申し出てくれているが、彼らの役目はオラリオの巡回、及び憲兵としての団員の派遣だ。決して闇派閥との戦いのための協力ではなかった。
それは、誰も口にしないだけでオラリオ中の誰もが知っている事だった。
アストレア・ファミリアが血を流して戦っている事も、ギルドはそれを見て見ぬふりをしていることも、他のファミリアは手出しをしたくないという心境な事も、そして、手を貸せば自分たちも標的にされるという事も。
アストレア・ファミリアに入れば、Lv.1だろうがサポーターだろうが襲われる。だから新人はそうそう入ってこないし、熟練の冒険者でも、よっぽどのお人好しか、変わり者しか入ろうとしないし、そもそも相手の冒険者はよくても、神が改宗させてくれない場合もある。
自分の子を危険に曝させたくないという親心だろう。
だからこそ、ああは言っていたが、ライラも輝夜も心の底では入団者を歓迎していたし、喜んでもいた。
ただ、怖かっただけなのだ。先日闇派閥の罠によって2人の仲間の命が消えた後なだけに、怪しいモノや不確定要素に敏感になっていただけだった。
スネークはその瞳からそれを感じ取っていた。仲間を失くす恐怖を。見えないナニカに対する怯えを。
(仲間を失う恐怖、か)
普段の習慣で早く起きてしまったスネークは、まだ寝ている彼らを起こさぬように、館の外に出た。
向こうの世界からの数少ない持ち込み品の1つ、葉巻とライターを取り出し、火をつけて香りを楽しみながらも、その心は暗く沈んでいた。
自分と同じように、彼らもまた、仲間を失っていたのだ。
共に戦った戦友であり、共に生活をする家族でもある者を失う。奇妙、いや皮肉とでも思える程に、彼らと自分とでは共通点が多いと思えた。
「正義を掲げる者達と、平和では生きられない蛇。それでも、中々どうして共通点が多いもんだ」
「カズ、お前との出会いも中々刺激的だったが、今度は更におかしな関係になりそうだ」
生きているのか、死んでいるのか。それすら分からない戦友に対して思わず声に出したその言葉は、朝霧の中へと消えていった。
その気持ちを共有できる者などいるはずもなく、話す相手もすることも特になかったため、スネークは残っていた装備を点検することにした。
今日はお目付け役のリューにこの街の案内と、ダンジョンへの挑戦を頼んでいたのだ。
「兎に角、スニーキングスーツが無事だったのはありがたい」
最後のミッションで身につけていたスニーキングスーツは、幸いにもまだ着用できるくらいには無事だった。所々小さな穴や傷はあったが、目立った大穴等は見当たらなかった。きっとメディックが庇ってくれた御陰だろう。
最も優秀だった仲間に感謝しつつ、スーツに着替えてその上からTシャツとズボンを履く。少し暑いが、これで街を散策した後にすぐにダンジョンへ行けるだろう。
「お前はまた生き残ったか。ふふ、こう長年一緒にいると、もう折れる気もしないな。愛着が湧く」
次に取り出したのはサバイバルナイフ。長年愛用している1本は、またしても折れず、無くなることもなく彼の傍に居てくれるようだった。
いつの日も自分と共に戦地にいた、命を持たない戦友をベルトに括りつけてある鞘に入れ、再びの共闘を祝う。
「最後にコイツか……」
それは、残った装備の中で唯一の飛び道具だった。『WU SILENT PISTOL』。
マザーベースで開発がつい先日終わったばかりの最新鋭の麻酔銃で、開発班のスタッフは、アメリカで競技用銃として採用されているルガーMk.2を参考にして開発したと話していた。なんでも、やろうと思えば競技用だと通すこともできるものだとか。
他国へのスパイ活動を視野に開発していたらしく、カズヒラのビジネス展開に対する野望が見えてくる一丁だ。
そんなこの麻酔銃だが、いつもスネークが気にする点であるサプレッサーを内蔵していた。つまり、消音機能が無くなることのないため、射撃時に発砲音に困らないのだ。
サプレッサーが壊れないのは良かったのだが、別の問題もあった。そう、弾の補充だ。
昨夜ライラに聞いたところによると、基本的に冒険者が使うのは剣や槍などの近接装備らしい。それ以外だと弓やボウガン。そして極一部では魔法だ。
この世界では魔法という存在があるからか、それともなければ技術力が足りないからか、銃の存在が非常に希少なようで、聞く限りでは弾の補充は当分不可能らしい。
「どちらにせよ、今まで以上に慎重に使う必要がありそうだ」
輝夜のいた極東には、火薬を利用した飛び道具があるとかないとか言ってたが、それも火縄銃等の古典的なものだろう。
1マガジンと少ししかない弾薬を大切に装填、残りを腰の小さな弾薬袋に仕舞い込み、銃はホルスターに格納する。
こうしてみると、その携帯品の少なさはあの任務を思い出させるものがあった。
自身が初めてスネークと名乗る事となったあの任務。痕跡を残さぬために、持ち込むのはその身と1着の戦闘服。そして一丁のハンドガンとナイフのみ。それ以外の武器弾薬、食料に医薬品等々は現地調達という過酷なサバイバル任務。
ネイキッド・スネークのコードネームを得たあの任務。そして、その直後に行われる『BIG BOSSを生み出すための』作戦。
ある意味では、この世界にこの装備で放り出された自分は、ネイキッド・スネークと言えるのかもしれない。
「いや、
「あなたは、元の世界に帰りたいとは思わないのですか」
自嘲するようなその言葉は、聴く者がいないだろうから言った言葉だった。だからスネークは、突然の人の声に驚き、無意識に麻酔銃をホルスターから引き抜きながら後ろを振り向いた。
そこに居たのは、敵ではなくリューだった。引き抜いた麻酔銃を下げながら、投げかけられた質問に静かに答えた。
「帰る方法が思いつかない。神が無理なら人ならもっと無理だろう」
「帰りたいと思う以前の問題だ」
「なら、もしも帰る方法があるとしたら」
なんの他愛のない『もしも』の質問だった。単なる好奇心というには重い質問に、スネークは1度葉巻を口につけ、煙を吐き出してから考えながらに話した。
紫煙が風に乗って消えた頃になって、やっとスネークは口を開いた。
「どうだろうな。帰りたくないと言えば嘘になる。生き残った仲間がいるかもしれないし、生死が気になる奴もいる。俺を探し回っている奴もいるだろう」
「だが、向こうに戻れば俺は、再び兵士となる以外に生きれないだろう。いや、この世界にいてもそうかもしれない」
「もしかしたら俺は、別の生き方を探すためにここへ送られたのかもしれん。だとしたら、俺は、ここで何を為せばいいかを探すのが先だろうな」
帰る為にここにいるのではなく、何を為せばいいかを探す為にここにいる。
そのスネークの考えに、リューはある種の畏敬を抱いた。
彼女もまた、悩んでいたのだ。正義とはなんなのかを。日々オラリオとダンジョンを駆け巡り、闇派閥を討伐せんとするも、仲間は次々と死んでいき、オラリオに平和と安寧をもたらすことは出来ていない。彼女の想う『理想』と『正義』は果たせていない。
「何をなせばいいかを探すために……」
「そうだ。人は皆、何かしらの目標が無いと前に進めないものだ。俺だってそうだ。だから、まずはそれを探す」
この人は強い人なんだと、リューはそう思った。主神アストレアの説く『正義』に共感し、それを実現するために盲信的にこれまで活動してきたリューにとって、それはとても大きな言葉だったのだ。
正義の為に行うのではなく、まずは正義を実現するために何が自分にできるのか、そして、『理想』に近づくためにはどうすればいいのかを探す。
以前からぶつかってきた輝夜からの批判の言葉「理想だけを語る事はできない。いずれ誰もが理想と現実の選択を迫られる」これがいまやっと、少しだけ理解できた気がした。
スネークがここに来たのが、別の生き方を探すためだったのなら、自分がスネークを助けたのは、彼から学ぶためだったのかもしれない。そう感じた。
「スネークさん、理想は、抱いていていいものだと思いますか」
「勿論だ。寧ろ理想はあった方がいい。自分の目指すべき道が見えてくる。だが、形の見えない理想はだめだ。現実味の全くない目標は、かえって明確に目指すものが見えなくする」
「なるほど……ありがとうございます」
リューは心から感謝した。スネークの言葉を聞いて、自分の目指す道がはっきりしたからだ。
アストレア様は、真の正義が何かを知っていた。その思想に感化され、リューはひたすらにそれを追い求めた。
輝夜はそれを『理想』と呼び、『現実』を見ていないと批判した。志を持つ事と、それを実現するのは話が違うと。
アリーゼは理想が実現できるならそれが一番だと言った。ただ、それを実現できるのはほんの一握りの『英雄』だけだと。
ライラはどれも正しいと言った。見る方向によって全ての事柄は真実にも嘘にもなりえると。本当に正しい正義なんて存在しないのだと。
そして、目の前のスネークは、理想は抱くべきだと言った。ただ、現実を一切見ない理想はいけないとも言った。
現実あっての理想であり、理想があるからこそ現実で力をつけられる。
どちらかじゃない。どちらも大切にするべきものだったのだ。
今まではどちらを大切にしたらいいのかとずっと悩んでいた。それをこの目の前の蛇は、ほんの一瞬で解決してくれた。
(理想はアストレア様の掲げる、曇りなき正義。澄んだ空のような、弱い者全てを助けられるような絶対の正義)
(だけど私は今、それを実現できるほど強くない。輝夜の言う通りだ。だから、私は今はひたすらに強くなる。闇派閥に負けない、みんなを助けられるような)
昨夜見た時よりもずっと明るい顔つきになったリューを見て、スネークは葉巻の火を消し、まだ使える事を確認してポーチにしまい込んだ。そして、装備をもう一度確認してからリューに対して呼びかける。
「さて、そろそろ出発と行こうか」
「え、出発ってどこに」
「この街とダンジョンを案内してくれるんだろ? リオン」
その言葉にリューは、昨日自らの主神と仲間達にけしかけられて、スネークのお目付け役を買ってしまった事を思い出した。だが、今ではもうそのことを後悔してはいなかった。
そして、一度部屋に戻り、自分の装備を取ってくると、時間が早いのにいいのかと一度スネークに聞いた。まだ時間は早朝5時。ギルドは確かに24時間態勢ではあるが、街はいつもより静かだろう。
「観光するわけじゃないから構わない」
「分かりました。では、行きましょうかスネークさん」
「スネークでいい」
「では、行きましょう。スネーク」
「ああ」
朝日が昇り始める中、二人は星屑の庭を出てオラリオの中心へと向かう。その二つの後ろ姿の後方には、窓からその背中を見つめる彼らの神、アストレアの姿があった。
若干アストレア様がパラメディックに口調が寄ってきてますね。気を付けないと……
補足
発展アビリティ【潜入】について
特定の状況下でカモフラ率が上昇する感じの効果
他にも【カリスマ】だったり、【BIG BOSS】だったりと色々考えていましたが、やはりスネークといえばまずはこちらかなと思いました