「それじゃあまたどこかでお会いしましょう。
次はユグドラシルⅡとかが!?」
「えっ!?」
円卓にいた常に形が変わっているスライム、ヘロヘロがギルド長のモモンガへ別れの挨拶をしようとしたその瞬間、ナザリック内に侵入者の存在を伝える警報が鳴り響く。
大規模VRMMOゲーム、ユグドラシル。
その十二年間の歴史もあと少しでサービス終了、となった時に来た侵入者である。
そもそもここ、アインズ・ウール・ゴウンの拠点としているナザリック大墳墓はユグドラシル中トップクラスのダンジョンとなっており、攻め入ってくる者はおれど最深部まで来れたものはいない。
ある一人を除いて――――――――――
モニターで確認してみると、どうやら侵入者とはそのある一人のようだった。
金髪に屈強な肉体を持ち、全身に傷跡が残る歴戦の戦士。
ベルトで身体を締め付けており、押さえつけられた筋肉がはち切れんばかりである。
名をスパルタクス、トラキアの剣闘士達というギルドのギルド長である。
トラキアの剣闘士達とはアインズ・ウール・ゴウン同様ユグドラシル内では相当な規模を誇ったギルドである。
加入条件はただ一つ、無課金勢であること。
スパルタクス自体種族は人間なのだが、無課金勢であれば人間も亜人種も異業種も迎え入れていた。
そしてたびたび複数のギルメンと共にナザリックへ攻め入り、少なくとも第九階層まで毎度毎度侵入できている。
スパルタクスのロールプレイは圧政者に対する反逆、その行動理念も反逆、すべてを耐え忍んだ果ての人間の強さがあると信じて疑わないというものでナザリックに幾度となく攻め入っているためトラップの位置なども把握しているくせにあえて難易度の高い方を選んでいた。
・・・・・・・・・・そのせいで最後の方になると他のギルメンは全員やられているのだが。
だからいつも第九階層では一人になっている。
しかしなぜそんな芸当ができるのかというと、彼のキャラビルドにある。
彼のキャラビルドは高い体力と高い自己回復能力でのゴリ押しだ。
トラップでダメージを負ってもスキルで回復、状態異常は無視しても余りある回復量。
そして決して低すぎるとはいえない攻撃力。
これらによる持久戦が長所なのだ。
ただ魔法に対する防御力がないため、魔法職、とりわけモモンガのような即死系統の魔法を使う者にはめっぽう弱いため最後の最後でやられてしまうのだが。
しかし今日のスパルタクスは、変だ。
ワープ系統のトラップを利用し、敵を無視して最短距離でここへ向かっている。
明らかにロールプレイを無視した行動に二人は困惑を隠せない。
ロールプレイを無視してまで最後の最後にクリアしたいのか、そうとも違うようだ。
何故なら、スパルタクスの本気装備では彼は兜とマント、武器はグラディウスのはず。
しかし今は棍棒と鉄製のパンツだけというスタイル。
どうやらクリアしたいというわけではないらしい。
「モモンガさん、これって」
「恐らく、彼の目的は・・・・・・・・」
そこですべてを察し、転移門で円卓とスパルタクスが歩いているところをつなぐ。
あちら側も察したのだろう、転移門をくぐり、スパルタクスが現れた。
「こんばんわ、モモンガさん、それにヘロヘロさん。」
「誰だあんた!?」
スパルタクスの落ち着いた雰囲気にモモンガはついこんなことを口走ってしまった。
実の所ユグドラシルの過疎化が進んだ後でもたびたび襲撃に来ていたし、たまに一緒に素材狩りにいっていたため彼とは仲の良い喧嘩友達のようなものだった。
普段の彼はこんな感じ。
『愛!(鳴き声)』
『フハハハハハハ!圧政者よ!反逆の時が来たぞ!』
『我が愛は爆発するうううううううううううううう!!!!!!』
こんな感じである(大事なことなのでry
常にテンションマックスである。
「いやー、たまにはロールプレイなしでもいいかなって思いまして。」
「いや、一瞬中の人が入れ替わったのかと思いましたよ・・・・・・・・・・」
「スパルタクスさん、お久しぶりですね。
大体いつぶりぐらいでしょう?」
「二年前の襲撃以来かもしれませんな。」
ヘロヘロさんは冷静だ。
もしかしたらあのハイテンションが素ではないことには気づいていたのかもしれない。
「しかし、今日はなぜここに?
どうやら襲撃に来た、というわけではないようですが。」
「・・・・・・・・・実はですね」
少し渋る様子を見せた物の、話してもいいと判断したようだ。
「最後の日なんで、拠点でドッシリとした感じでロールプレイしながらギルメンを待ってたんですよ。
・・・・・・・・・でも、メンバーはあんなにいたのに、来たのは両手で数えられる程度。
多分、もうこれ以上来ないだろうと思って、こっちに来たんです。
きっとモモンガさんは確定でいるでしょうし、最後は寂しくないように終わりたくて・・・・・・・・・・」
この発言に、二人は自分達の姿を重ねた。
ナザリックでも今日訪れたギルメンは少数。
ヘロヘロももう少しでログアウトしようとしていたのだ。
そんな終わり方は、あまりにも寂しすぎる。
だからスパルタクスはここに来たのだ。
ユグドラシルにおいて一番深く侵入し、一番多くの回数攻め入ったこのギルドへ。
「・・・・・・・・モモンガさん、自分、やっぱりサービス終了まで残ろうかと思います。」
「ヘロヘロさん・・・・・・・・・」
寝落ちするかもしれないですけどね、そういって恐らく中の人が笑った後、動かなくなった。
言った傍から寝落ちしたのだろう。
「相当疲れてたみたいですね。」
「・・・・・・・・・やっぱ果てしない違和感を感じるんでロールプレイしてもらっていいですか?」
「いいですよ。
ではモモンガよ!共に玉座の間にて圧政者への反逆ののろしを上げようではないか!
安心しろ、ヘロヘロの屍は私が届けよう!」
訳:折角ですし最後は玉座の間で過ごしませんか?オレ行ったことないですし。あ、ヘロヘロさんはオレ運びますんで。
「それも・・・・・・そうですね。そうしましょうか。」
「反逆ならばそれ相応の武具が必要であるな!」
訳:本気装備着て最後は華々しくロールプレイして終わろう。モモンガさんもギルド武器持って行ったらどうです?
「いや、これはこのままで・・・・・・・・いえ、最後ですしね。
持って行ってもヘロヘロさんも、誰も怒らないでしょう。」
何故意思疎通ができるのか、いささか疑問に思うがまあいいだろう。
「では行くとしよう!」
道中見つけたプレアデスの面々を引き連れて玉座の間に入る。
プレアデスとは、ナザリックが誇る戦闘メイドたちである。
平均レベルが50前後と低めなため、何回か戦ったことがあるが基本圧勝している。
まあ純粋な魔法攻撃をしてくるのがナーベラルしかいないから妥当な結果である。
玉座の間は文字通り玉座があり、ギルメンのマークが描かれた旗が飾られており、玉座の傍らには守護者統括のアルベドが控えている。
さすがにここまで来たことは無いから、アルベドと戦ったことは無いな。
玉座にモモンガさんが腰かける。
そしてアルベドとは反対の場所にヘロヘロさんを置き、自分もその場に立つ。
「ここも、今日で見納めか・・・・・・・・・」
「うむ!初めて中へ入ったが中々美しいところではないか!
さらに
そういえば、とアルベドの設定を開いたモモンガさん。
オレも釣られて覗いてみたが・・・・・・・・・
「うわぁ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
大量に設定が書き込まれていた。
制限のギリギリまで。
流し読みと呼ぶにはいささか速いスピードでスクロールしていくモモンガさん。
すると一番下の欄にはこう書かれていた。
『しかしビッチである。』
これは酷い。
因みにギルド武器には他者が作ったNPCの設定をいじくれる。
そしてこの設定欄はギルド武器により開かれた。
つまり今なら設定の改変が可能!
「反逆の時来たれり!」
「うわっ!?」
すぐさまビッチの部分を消し、モモンガを愛しているの一文を付け加える。
オレのタイピングスピードは世界一!
「反逆!反逆!イエイ!」
「ちょっと!何恥ずかしいこと書いてんですか!
ああもう!直さないと!」
「おおっとそうはさせん!ワハハハハ我が侵入者であることを忘れたか!
フレンドリーファイア以前に敵だから抑えつけられるわ!」
「ええい小癪な!」
「んん・・・・・・騒がしいな・・・・・・・・寝落ちしてたのか・・・・・・・・」
23:59:35、36、37・・・・・・・・
最後の時は着々と迫ってきている。
「あと少し・・・・・・・・・!!!」
「させるか!」
50、51、52、53・・・・・・・・
「ヘロヘロさん助けて・・・・・・・・!」
「え、何この状況」
「反逆!反逆!」
55、56、57、58、59、00―――――――――――
――――――――――――01、02、03、04
「モモンガ様からその汚い手を放せ筋肉ダルマ!」
「あべしっ!」
「「!?」」
新たな冒険の始まりだ。
多分続かない。