マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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入学編


 がっしりとした体格の少年と、長い黒髪の美しい少女が、並んでソファーに座りながら仲睦まじくテレビを見ている。二人は兄妹なのだが、どうにも年頃の兄妹とは思えない距離感で、後ろから見ると恋人同士でいちゃついているようにしか見えないのはいつものことであるので放っておこう。

 

 二人が見ているものは、USNAの大統領選のニュースだ。

 

 どぎつい化粧をした金髪の男性と、初老で白髪で小太りな男性の対立した構図の映像である。

 

 大統領選挙の前哨戦ともいえる演説合戦。この二人が人気トップツーのようだが、二人の意見は真っ向から対立している。

 

 化粧をした金髪の男性は、同性婚の制度を再び復活させようという主張で人気を得ている。USNAでは寒冷化による食糧不足で起こった世界大戦で、他の国とたがわず人口が激減し、それを回復するために子供を産むことができない同性婚を禁止にする法案が強行採決された。しかしそれは反対の声が根強く、このような主張をする彼は人気を得ている。

 

 名前はヒラリ・クリキントンという。ちなみに彼自身もゲイである。

 

 一方の初老の男性の方は国境に壁を作る、とある宗教の教徒を入国禁止にする、など過激な発言を繰り返しているが、世界大戦の傷がまだ癒えていない情勢の中ではむしろ熱狂的な支持を得ている。

 

 初老の男性の名前はマクドナルド・ウノというらしい。

 

 この二人のどちらかが大統領になるのが確実な状況の中で、ニュースでは『クリキントンがなればアメリカで初のオカマ大統領、ウノがなればアメリカ最後の大統領』という向こうで流行っている小粋なジョークが紹介されていた。

 

「お兄様、いつか日本でも同性婚を通りこして兄妹でも結婚できる法律ができたらいいですね」

 

「それはないだろう、深雪」

 

 深雪は隣に座る兄――達也――にそういうが、ばっさりとその意見を切り捨てられる。

 

 達也はいつからこうなったのだろうと流れている玩具メーカーのCMをぼんやりと見ながら現実逃避した。

 

 そこでふと、隣の妹から不機嫌なオーラが発せられているのを感じ取る。深雪を見ると、彼女はテレビ画面を睨んでいた。

 

「まったく、お兄様の方が絶対に先に開発に着手したはずですのに」

 

 口を尖らせて拗ねたように言いすてる動作すら愛らしいが、達也はそれになんら心が動かされることもなく苦笑する。

 

「仕方ないよ。この手のものは先に発表したもの勝ちなんだから」

 

 最先端の技術を以ってしてCAD――魔法を使うための道具――を作成する仕事に高校生の身で携わっている彼は、それでもやや悔しさをにじませる声でそういった。

 

 

 

 

『マジカル・トイ・コーポレーションより新発売! 夢の空飛ぶCAD!』

 

 

 

 

 テレビからはそんな煽り文句の音声とともに、小さな子供が背中にランドセルの様なものを背負って空中を自在に飛び回る映像が流されていた。

 




数年かけてちまちま書いたものなので、文章の雰囲気ががらりと変わったように感じることもあるかと思います

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