文也と達也は、本来ならチーム入りするか否かの結論が出たら解放されるはずであった。
だが同時に二人、それも前例のない一年生が入るということで、ある程度の風を通しておくとよい、という真由美の勧めで、エンジニアチームだけの会議が開かれた。
といっても、それは会議の名を借りた懇親会、もしくはクラス替え直後のホームルームのようなもので、まず各々の自己紹介から始まった。
そこにいるのはやはり一科生ばかりで達也は浮いていたが、ここにいるのはそういったものに寛大なものがほとんどで、彼はなにかと有名であるため、むしろ好意的な視線の方が多い。逆に文也は一科生にも関わらず、達也よりも少し風当たりが強い。ここにいるのは多かれ少なかれ、エンジニアとしての自分に誇りを持っているものだ。本人は安全だといっているが、マージンをギリギリまで削った調整に反感を持つ者はいる。
とはいえ、それを表に出すほど心が幼いものはいなかった。少し風当たりが強いか浮いているかという感じであって、この場にいる上級生たちは二人に対する好奇心が心のほとんどを占めていた。
自己紹介が終ると、各々が勝手に話し始める。しかも机の上にはジュースが人数分置かれているので、まさに懇親会であった。
「ねえ、さっきの調整の時の文字がたくさん並んでた画面、あれってなんなの?」
真っ先に質問しに来たのは、2年生の中性的な容姿を持つ穏やかな男子・五十里だった。さきほどの自己紹介で、魔法幾何学が専門なので調整は得意でないとは言っていたが、それでもエンジニアなのでこういったことへの好奇心は強い。
「あれは測定結果とコピー元の設定の原データです。グラフは多少誤差がありますし、あれならキャパが許すまで調整が反映できますから」
「そ。で、俺はもう測定結果は見てたから司波兄がやったデータを書き換えるだけで終わったの」
答えたのは達也、補足を加えたのが文也だ。その話を聞いたメンバーは、(もとから察していたあずさをのぞいて)原データから直接理解するスキルに鳥肌が立つ。彼らはまだ納得しきれていないが、この一年生たちは自分よりも上だ。そう心の奥底で、本人たちが気付かないうちに思った。
「ったくよお、司波兄があんなことするから、俺が苦労したじゃんかよ。あそこまで派手にやったのはお前のせいだぞ?」
「そういわれても困るんだが」
「だって、お前があんなことして、俺も同じことやったら式を一切書き換えないじゃん? 考えてみりゃ、同じ手順を踏みそうなのはわかってるんだから、実験台が部長とあと一人必要だったよな。そうすりゃ俺も同じようにマージンとってすんなり入れたのに」
本人たちがいないからか、文也は堂々と運営サイド――真由美や克人だ――を批判する。とはいえこれは全部あずさを通じて真由美の耳に入るのだが。
「だったらふみくんがもう一人って提案すればよかったじゃん」
「だって、司波兄があんなことするなんて思わねーもん。普通と違うことやってマージン適当にとってこの一年生すげーて思われて楽々入る、っていう計画がおじゃんになってよ」
あずさが文也に文句を言うが、文也はさらに反論する。その反論はもっともだ。
そんな会話を見て、達也はあることに気付く。
(そういうことか……)
達也が調整をしている間、他は何をやっているのか分かっている様子はなかったが、文也と『あずさ』は大きく驚いていなかった。
あずさは驚いてこそいたものの、まるで『高校生でも原データから読み取りをできる者がいることを知っている』ように驚きが小さかったのだ。文也とあずさは幼馴染らしいし、今は彼女のCADの調整を彼がやっているらしいから、それも納得である。
「そ、そういうことだったんだ」
五十里は苦笑する。あそこまでギリギリを攻めれた理由は、自動調整ではコントロールしようがない小さな誤差すらない、自分の腕と完全マニュアル調整に対する信頼のたまものだ。
この後、文也と達也は質問攻めにあった。とくに達也は持っているCADがかの『トーラス・シルバー』の見たことないモデルだったので、この場の全員が興味を示し、達也は誤魔化しきるのに多少の苦労を要した。
☆
「じゃじゃーん!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
翌日の昼休みの生徒会は、いつもよりもやかましかった。
というのも人数はいつもの約2倍、しかも増えたのがゲーム研究部の連中だからである。
「これが、例の『スフ〇ラトゥーン』てやつ?」
「いや、これはそれを遊ぶ用のハード。ていうか会長、なんか隠れてない気がする」
博が布を勢いよくはがして出して見せたのは、昨日の放課後に彼を筆頭に部員何人かで土下座しに行って借りてきた『Wi〇 U』であった。ちなみにその場に真由美はいあわせなかったが、どうやら克人はついていったらしく、土下座とはいかなかったものの頭はかなり深く下げたらしい。のちのある部員は『任天〇の人、顔真っ青だったなー』と語る。魔法が関係ない場面でも、十師族の名前が通用することもあるのだ。ちなみにこの社員のうち一人はゲーム研究部のOBであり、克人におびえつつも後輩の立派(?)な成長を喜んでいた。
「んでもってこっちがお待ちかねのー……じゃじゃーん!」
『ひゅううううううううううううううううううううう!!!』
「うるさい……」
続いて博が『スプラトゥー〇』のパッケージを取り出すと、部員たちのボルテージはさらにあがり、それを聞いていた深雪はついに食事に集中できないと思ったのか、不満げに呟きながら半分ほど残った弁当を閉じる。
「で、それはまだ今のテレビの規格に合わないからプレイできないのよね?」
「そこはご心配なく! なんと、じゃじゃーん!」
博はまた別の布をはがす。出てきたのは『Wi〇 U』に似ているが、どことなくデザインがダサくなったものだ。
「この最高にかっこいいフォルムは、なんと俺が一晩で徹夜して作った、今の規格に合わせた『Wi〇 U』、名付けて『Wi〇 H』でございます!」
「見た目だせーぞ部長ー!」
「名前もだせーぞ部長ー!」
博は裏声の大声で、大げさに紹介する。それを部員たちがやじるが、博は満足げだ。そんな中、ついに摩利と達也までもが裏声の騒がしさのせいで食が進まず弁当を閉じる。
「今ならなんと、この『Wi〇 H』が、お値段何と10万円!!! 安いでしょうー? しかもなんと、今回は特別にこちらの専用リモコンと『Wi〇 Pad』をお付けします! これらはタダですよー?」
調子に乗った博は裏声をさらに大きくして、まるで近年見なくなったテレビショッピングの紹介役みたいに演技がかった様子で続ける。
「そしてなんとなんと! 今ならさらに5万円をプラスしていただくごとに! この! 超豪華セットを! もう一つお買い上げいただけます! これでコンピューターだけでなく、複数人での対戦が楽しめちゃうんです!」
布を次々とはがすと、その中から『Wi〇 H』と専用周辺機器と『スプラ〇ゥーン』のソフトのセットが次々と出てくる。
「そして、これは送料手数料は『ヒロネット』が負担いたします! どうですかー会長ー? これで今度の九校戦、他の学校に大きくリードできますよー?」
いつの間にか博の目には『$』が浮かんでいる。ここで金儲けをするつもりだ。
「そうねえ……じゃあ、予備も含めて10セットいただこうかしら」
「真由美!?」
「お買い上げありがとうございまーす!」
真由美の言葉に摩利が大声を上げる。学校関連で大金を動かすにしても、生徒の財布に丸々入るというのは問題だ。
「10セットで55万円になりまーす!」
博がすぐに計算して電卓で示す。それに対して、摩利の発言を意に介さない真由美はニコニコ笑顔で電卓を受け取る。
だが真由美は、会計用の端末も、財布も、カードも取り出す気配がない。代わりに真由美が指パッチンをすると、ずっと黙っていた鈴音が端末を起動させて真由美に渡した。
文也と達也と深雪は見逃さなかった。普段表情が表に出ない鈴音の顔が、未だかつてないほど『あくどい笑顔』だったことに。
「でも、ちょっとお得なクーポンを使わせていただくわね」
「へ?」
「落第レベルの成績低下、学校へのわいせつ物持ち込み、および学校の名を借りて外部のイベントでわいせつ物の販売を計画、学校の設備の破壊、教師や生徒へのいたずら、授業の脱走、サボリ、授業中のないしょ――」
真由美が読み上げていくにつれて、博の顔が見る見るうちに青くなっていく。
それを尻目に、真由美の読みあげは実に3分続いた。
「以上のことを総合するに、百谷博は当校の度重なる指導に関わらず反省せず、校則違反・迷惑行為を繰り返し続けていることが証明できる。以上のことから、百谷博の強制退学を生徒指導部へ生徒会から申請しま――」
「今なら何と大特価! クーポンの提示及びお渡しいただきデータを消去していただくことで、いくらでも無料でプレゼントいたします!」
「ありがとうございます」
博は顔を青を通りこして真っ白にして土下座しながらそういうと、真由美は腰に手を当て、悪魔のような笑みで見降ろして頷いた。
真由美は昨晩、克人からゲームを借りに行ったという連絡を受けていた。
そしてこの2年とちょっとの付き合いから博の行動を先読みし、彼が、こちらが対策する暇も与えず、徹夜で今の規格に合わせたものを複数作りだし、高額で売りつけてくるだろうことを予測した。
そこで彼女は即座に鈴音に連絡。協力して彼の入学以来の悪行を改めてリストアップし、生徒会権限による『問題生徒の退学の要請』書類を作成したのだ。
「部長、そんなことを……」
「いやー、さすがに実験部屋を丸々機能不全にするのはやりすぎですわー」
「十文字会頭にまでいたずら仕掛けるなんてある意味すごいですわー」
「全部まとめていうとただのバカですわー」
下級生も含めた部員から次々と罵倒される。ちなみに最後の発言は文也のものだ。
「お前らも同じ穴の貉だろう……」
という摩利のつぶやきはガンスルーである。この面の皮の厚さがこいつらの厄介な所である。
「さて、じゃあ早速やってみましょうか。競技の方に合わせて3対3でいいわよね?」
「その前に私たちはチュートリアルで操作を覚えるべきかと」
「あー、りんちゃんの言うとおりね。じゃあ私はこいつらの対戦見てるから、りんちゃんたちは別のテレビでやってて」
「こいつらって……ひどくない?」
こうして、一高の競技研究が始まった。
☆
「うーん、ちょっと微妙ねえ」
騒がしかった昼休みが過ぎ去って午後の授業を挟んでからの放課後、昼のメンバーに加えて克人と半蔵がいる生徒会室で真由美は腕を組んで渋い顔をする。
競技とゲームは似ているので練習になるといえばなるのだが、やはり『フィールド・ゲット・バトル』との相違点が多すぎた。
まずは武器の種類だ。競技ではインクガンだけのようだが、ゲームでは射程や操作方法まで様々な武器がある。チャージャーやリッターと呼ばれるのはまだいいが、ローラー、筆、バケツあたりはインクガンと全く違う。さらにはサブと呼ばれるものまである。それに『イカ状態』と呼ばれる形態があり、それは現実では不可能なものである。さらに武器ごとにスペシャルが決まっているうえにスペシャルのルールも異なっている。加えて、インク残量の回復方法が、現実世界の競技では絶対ムリな『自分の色のインクへ潜る』ということである。
ここまで相違点があると、まったく練習にならないのだ。
さらに決定的な違いとして、『コントローラー』で動かすということがある。競技は生身で走り回るし、視点も当然一人称。だがゲームの方はTPSなので視野の違いも大きい。
折角骨を折ってプレイ環境を整えたゲーム研究部――の代表として呼ばれた文也と博も渋い顔だ。苦労したのにその言い草はない、と怒ってもよさそうなものだが、彼ら自身もこの多くの違いでは効果的な練習にならないということが分かっているのでそうはならない。
さらに真由美たちを悩ませているのは、午後の授業の途中に九校戦の運営から届いた荷物にある。
その中にはインクガンと実際に競技で使われる装備が十人分、バトルフィールドを自分たちで作るための器具とマニュアル、それにランダムで選ばれるというステージすべての図面だ。3vs3で行われる競技なので、模擬対戦用も含めて六人分で十分なのだが、不良品や故障があったときのための予備として、プラス四人分が入っている。
「なにこの非効率的な魔法。燃費悪すぎるわ」
真由美はインクガンを実際に持ち、自分の足元に向けて引き金を引いてインクを放つ。それとほぼ同時に真由美の足元は蛍光緑に染まる。
魔法は実際に事象が起こるまでは目で感知することはできない。よって魔法に詳しくない者が競技を見る場合、事象を打ち消しあったりしようものなら、なんか選手本人たちは必至そうだが、何も起こってないように見える。
そこで観戦者向けに、特殊なモニターを用意してあるのが普通だ。本来目に見えないサイオンなどを特殊な技術で可視化できるようにしているのだ。そうするとまるでバトル漫画みたいに派手に光がぶつかり合ったりして見ごたえのある映像になる。
この『フィールド・ゲット・バトル』はその技術を応用してバトルフィールドが用意される。四つセットの小さな杭を地面に刺すことで、その四つの杭を頂点とした四角形で地面が区切られる。その中に立ってインクガン(という名のCAD)で特殊な魔法を放つことで、一定の範囲がインクで塗られたように特定の色に染まるのだ。また選手の専用の装備もこのバトルフィールドの中ではインクガンによる魔法を向けられると特定の色に染まり、その面積をリアルタイムに即座に計測し、一定以上塗られると専用の魔法が発動して、装備している選手を10秒動けなくしてスリープ状態にする。今、真由美たちは生徒会室をバトルフィールドとして送られてきた器具の点検をしながら今後について考えているところなのだ。
曲者なのはこの専用のCADであるインクガンに登録されてる、インクを打ち出す魔法――説明書には『ショット』と書かれている――だ。なんとこの魔法、膨大なサイオンをぶつけることで魔法式を壊す『術式解体(グラム・デモリッション)』と似たようなものなのだ。使用者のサイオンの塊を打ち出し、それをバトルフィールドや装備が検知して、まるでインクが塗られたかのように色を変える。実際になんらかの方法でインクを打ち出すのではない。
当然使うだけで使用者はサイオンを大幅に消費する。これを競技の間は絶え間なく打つことになる。まだ装弾数の30に収まるうちは消費が多い魔法、程度で済むが、装弾数を超えて無理やり打ち出そうとすると、それこそ『術式解体』並みに膨大なサイオンを消費することになる。
燃費が悪いだけならいいが、真由美の大きな不満点はそこではない。この魔法『ショット』の魔法式は、とてつもなく非効率的にできている。わざとサイオンを大きく消費するように、また速く打ち出せないように式が構築されているのだ。ちょっと魔法式について勉強すれば、これよりも燃費良く、かつ速く打ち出せるように改善できるほどだ。
真由美たちは当初、この式を各校の生徒たちで改善して競技に挑むという、選手の実力だけでなくエンジニアの腕に大きく左右されるルールなのだろうと思ったが、添付された追加ルールには「『ショット』の魔法式の改造は禁止」と書いてあった。この燃費がひどく悪い魔法を、選手は絶え間なく打ち続けなければならないのだ。
「意図が読めんな。まさか、時代遅れの尺度で実力を測るのではあるまいし」
摩利もインクガンを握りながら困り顔だ。
摩利が言う『時代遅れの尺度』とは、魔法師が持つサイオン量によって魔法師の実力を測る、という考え方のことだ。まだ魔法について手探りの頃は魔法式の効率やCADの性能が今にくらべたらはるかに悪く、燃費もひどいものであった。それによって魔法をより多く使えるサイオン量が多い魔法師がもてはやされたのだ。司波兄妹の実の両親が結婚した(させられた)経緯もそれによるもので、当時はまだサイオン量が重要な尺度で、兄妹の実父である龍郎は膨大なサイオン量を持っており、その遺伝子を期待されて深夜と結婚させられ、二人が生まれたのだ。
そのような時代はとっくに過ぎ去っており、唐突に大規模な大会で新しく作られた競技がサイオン量が多いほど大幅に有利、というのは不可解である。
首をひねる上級生たちと対照的に、達也と深雪はこの不可解な点についてある予想を立てていた。
「お兄様、これって……」
「ああ。『汎用飛行魔法』と無関係じゃないだろうな」
上級生たちに気づかれないように、競技用の器具に夢中になっている裏で小さな声でささやきあう。
自らの手で『汎用飛行魔法』を開発している達也と、その姿をそばで見続けてきた深雪は、『汎用飛行魔法』の性質をよく理解している。
『汎用飛行魔法』は人間が大きな道具を使うことなく単身で随意飛行をできるという点において大いに価値がある。それは深雪が『ミラージ・バット』のために『汎用飛行魔法』を使おうとしているように、今までの競技バランスを崩壊させるような技術革新になる。うまく普及すれば交通事情やインフラ事情も一変するし、さらに軍事的利用価値も非常に高い。
本来なら九校戦のルール設定に影響しないタイミングで達也たち『トーラス・シルバー』が発表する予定だったが、現代魔法工学界の異端である『マジカル・トイ・コーポレーション』が2月に『汎用飛行魔法』の開発成功とそれ専用のCAD発売を発表した。それ自体でできることはとても大きな社会的価値がある――少なくとも様々なものの事情を一変させるような――ものではないが、この魔法を応用してできることは先述のように多い。
九校戦の運営にかかわる組織――教育面・スポーツ面だけでなく、政治的・商業的・軍事的意図などが複雑に絡み合う魔窟だ――がこれに目をつけてこの『フィールド・ゲット・バトル』のルールを大急ぎで、かつ『汎用飛行魔法』を利用しようとする意図がばれにくいように作った。
これが達也たちの予想だ。
大きな利用価値がある『汎用飛行魔法』ともなれば、『マジカル・トイ・コーポレーション』が発表したものに比べてどころか、普通の魔法やもっと大規模な魔法に比べても常駐型魔法であるがゆえに無秩序に使用し続けたらはるかに多量のサイオンを消費する。実際、達也はこの方向で『マジカル・トイ・コーポレーション』と差別化を図って開発を進めている。この競技を通して、時代遅れとなった才能をまた発掘する狙いがあるのだろう。
「インクガンについてはさておき、障害物があるフィールドの中で銃を撃ち合って相手を倒したり、陣取りをしたりする、というのは、サバイバルゲームに近いものがありますね」
「そうだな。『モノリス・コード』も同じような性質があるが、こちらはより強い」
真由美たちと同じようにインクガンを試し打ちしたりして内容を確かめながら、鈴音と克人――克人は生徒会役員ではないが、あまりに事情が特殊なので招集された――は感想を漏らす。
「となる、と……やはり……」
それを聞いて摩利は頭痛を覚えながら、さっきの渋面はどこへやら、いつのまにか部屋の隅でインクガンを構えて打つマネして遊んでいる細見の少年たちに目を向ける。摩利の顔は『ただでさえ厄介なのに、それを解決するためにもっと厄介なやつに頼らねばならないのか』と言わんばかりだ。露骨に顔には出さないが、生徒会の面々や克人も同じことを考えている。
「こちらスネーク、目標を確認した」
「了解。二人で同時に突入するぞ」
ゲーム研究部部長の博と文也だ。二人は壁に背を付けて向こう側を覗く真似をしながら――その向こうに廊下や道や部屋はなく、目の前にも同じ壁があるのみ――銃を顔の横で構えて――視界をふさぐ、暴発したときに顔面がケガをするなどの理由で不適切な『ハリウッド・レディー』である。良い子のみんなは格好良さを求める時以外は真似しないように――ノリノリで寸劇をしている。
「確かあなた達、ビデオゲームだけじゃなくて、サバイバルゲーム? ってやつにも詳しかったわよね」
「おうとも。体力に自信はないけど腕と作戦には自信あるよ」
真由美の確認に博は寸劇を中止して返事をする。数日後に『あれ? コンバット・シューティング部に頼ればこいつらに頼らなくてもよかったのでは?』と真由美自身が後悔することになるのは余談である。
「じゃあ百谷くんはこのあとやる作戦会議に参加してね」
「うい。文也も来なよ」
「オッケー。いっそ部のみんなも呼ぼうぜ」
「収拾がつかなくなるからやめて頂戴」
真由美が勝手に話を進める二人を即座に止める。まだ文也がついてくるだけなら百歩譲っていいが、ほかの連中も来るとなると厄介極まりない。こいつらの厄介さは足し算でなく乗算なのはこの二年とちょっとで深ーく実感してるのである。
「「荒れそうだ(なあ)……」」
微妙に蚊帳の外だったあずさと範蔵は誰にもばれないようにつぶやいた。