マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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2-13

 九校戦五日目で、新人戦二日目。

 

 この日は『アイス・ピラーズ・ブレイク』が行われる。

 

 一高からは男子は文也と有賀ともう一人、女子は深雪と雫と英美が代表で、深雪と雫の担当を達也が務める。文也は今日は選手でありかつ決勝リーグ進出を期待されているため、エンジニアの仕事は無しだ。

 

 そんな『アイス・ピラーズ・ブレイク』の予選第一トーナメントの第一試合は、いきなり有賀と将輝の戦いだった。

 

 有賀は昨日の真紅郎の惜敗のリベンジと行きたいところだ。実力も申し分なく、また文也が編み出した、『スピード・シューティング』専用の『爆裂』の応用を使いこなせるくらいには破壊魔法の適性があり、その魔法能力は『アイス・ピラーズ・ブレイク』への適性でもある。

 

 しかし、彼は自覚していた。自分は一条に、絶対勝てないと。

 

 だから彼は、すでに負ける覚悟を決めていた。

 

 ピンピンに跳ねた銀髪を揺らし、黒いワイシャツと赤紫がかかったスーツの上に表が緑色で裏地がオレンジ色のジャケットを羽織った立ち姿は、褐色で長身の彼に良く似合っていた。

 

 この格好は、体を動かさないため自由な服を着れるこの競技ということで、文也が選んであげた服だ。

 

 戦いのやぐらに向かっていく。彼は自分を鼓舞すべく、つぶやきながら進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。俺たちが今まで積み上げてきたもんは全部無駄じゃないはずだ。これからも俺たちが止まらない限り、道は続く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決して散らない鉄の華を心に咲かせた有賀は、自分の散りざまを、仲間の糧とすべく戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカーン! ズドーン! バリバリ! ゴゴゴゴ! ズズーン!

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、なんだよ、結構当たんじゃねえか。ふっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は止まんねえからよ、お前らが止まんねぇ限り、その先に俺はいるぞ! だからよ……止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

 

 

 

「団長おおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 有賀は将輝に惨敗した。しかし全力を一瞬に込めて出し尽くした彼の魔法は将輝の『情報強化』を上回り、将輝の氷柱を三本も倒すことができた。

 

 そして全力を振り絞った彼は、ふらふらしつつもやぐらから戻ってくると、拳銃型CADを右手に持ち、左手を伸ばして指で将輝のほうを指し、倒れこんだ。

 

 それを見て、文也は悲しみのあまりに泣き叫ぶ……ような声を出してるが、顔は笑っていた。

 

 さらにそれを観客席から見たゲーム研究部員が、何をとは言わないが合唱を始める。

 

 そんな馬鹿なことをやっていると、そこにあきれ顔の将輝が現れた。

 

「相変わらずだな」

 

「ようマサテルおひさ。お前はコスプレしないの?」

 

「マサキだ! 俺はそんなふざけたことはしない!」

 

 競技とは別の意味でカロリーを消費した将輝は肩で息をしながら文也を指さして宣言した。

 

「昨日はよくもやってくれたな。あやうく惨敗するとこだった。『爆裂』をコピーしやがったのがお前だってことも知っている。だから、三高と一条の名に懸けて、お前を倒す! 決勝リーグで待ってるぞ!」

 

 そう言うだけ言って、将輝は踵を返して去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と同じトーナメントの仲間がかわいそうだと思わないのか、あいつ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 文也に正論で突っ込まれるのが聞こえてしまった将輝は、ショックで動揺してずっこけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男女の第二トーナメントまですべてと第三トーナメントの一部が終わって迎えた昼休み。

 

 一高の状況はまたも芳しくなかった。

 

 第二トーナメントの深雪は、真由美や摩利ですらドンび……驚愕させた『氷炎地獄(インフェルノ)』によってすべて圧勝で終わった。

 

 しかし第一トーナメントの英美は、昨日の悔しさが尾を引いたせいでよく眠れなかったらしくコンディションは最悪、また第一トーナメントで試合が早かったこと、さらにまたしても運悪く三高の実力者と当たってしまったことなどが重なり敗北してしまった。

 

 また、雫も、不運が重なった。

 

 睡眠はよく取れたが昨日の連戦からの今日であったためコンディションは悪く、さらに第三トーナメントの彼女は、一回戦から四高と、二回戦では人数が多くて層が厚い二高と戦い、そして予選決勝では『数字付き』の苗字である三高の十七夜栞と戦うことになっている。ただでさえ体力勝負の『アイス・ピラーズ・ブレイク』をスケジュール変更の都合で一日でやる強行軍は当然辛いものがある。さらに対戦相手の四高と二高はどちらも実力者で雫と接戦を繰り広げ、大きく消耗させられた。しかも十七夜のほうは大胆な振動系魔法によって短期決戦だったので、なるべく試合を早く消化したい運営側の都合で、昼休み休憩をはさむことなく戦うことになったりもした。さすがに担当エンジニアの達也がクレームをつけて――達也の威圧感は半端ではない――昼休みを挟むこととなったが、このままでは厳しい。

 

 さらに男子は有賀と第二トーメントの男子はどちらも決勝に行くことなく負けた。第三トーナメントの文也はまだ決まりではないが、実力差を見るにほぼ確定だろう。

 

「いよいよ参ったわね。せめて新人戦優勝とはいかずとも、準優勝くらいには入らないと……」

 

 真由美のつぶやきは、昼時の食堂の喧騒の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫は、負けた。

 

 達也から見ても明らかに午前の戦いでコンディションが大きく乱れていた。特に四高選手の猛攻は激しく、雫はしばらく防戦一方を強いられたほどだった。

 

 そんな状態で挑んだ十七夜との予選決勝は大激戦だった。

 

 ついには、対深雪用にとっておいた、雫と達也の渾身の切り札である『パラレル・キャスト』と『フォノンメーザー』を使ってまでも勝ちに行こうとしたが、それでも届かなかった。

 

 互いの最後の一本が崩れたのはほぼ同時。スロー判定にまでもつれ込み、僅差で十七夜が勝ったのだ。

 

「次はいよいよアイツだな」

 

「うん、達也に並ぶびっくり箱だね」

 

「びっくり箱というか、おもちゃ箱でしょ」

 

 そして男子予選第三トーナメント決勝、文也の出番だ。女子の試合ばかり見ていた達也の友達グループだが、ここでようやく文也の戦いぶりを見ることになる。

 

 レオと幹比古とエリカは口々に思うことを口に出す。エリカは文也が『マジカル・トイ・コーポレーション』産CADを多用することを知っているので言葉にとげがある。

 

 だが、そんなエリカを超える不機嫌ガールがこの観客席のグループにいる。

 

 昨日ひどい敗北をしたほのかでも、先ほど悔しい敗戦をした雫でもない。

 

 

 

 

 

 

 

「寒くなってきました……」

 

「深雪、落ち着け」

 

 

 

 

 

 

 

 美月がついに体調不良を訴えたあたりで、ついに達也が冷気をまき散らす深雪をたしなめる。

 

 しかしあのお兄様にたしなめられてもなお、深雪の冷気は収まらなかった。

 

「いったい何の恨みが……」

 

「どんな恨み買っててもあいつならおかしくないけどな」

 

 幹比古とレオも寒さに襟を整えながら好き勝手言う。

 

 なぜここまで恨まれているのか。その真相を知るのは深雪と達也のみで、文也すらもわかっていない。

 

 九校戦練習期間中、本番で男女が戦うことはないので男女で練習試合を少しだけしたのだが、その時に深雪と文也が模擬戦をした時から、文也が絡むとこんな感じなのだ。

 

 そんなことを話しているうちに、文也とその対戦相手である三高の男子生徒が姿を現した。

 

「……何あれ?」

 

 文也を指さして雫は疑問を口にする。

 

 周りから巫女服のお前が言うな的な感情が放たれるが、事実文也の服装は奇妙だった。

 

 水色のズボンに緑色のスニーカー、深い青緑のインナーに袖が白い青色の半そでジャケットを羽織り、緑色の指貫手袋をはめて、そして何よりも特徴的な部分として、赤と白のキャップをかぶっている。

 

 

 

 

「いくらなんでもあれは自虐がすぎないか?」

 

「まさかの永遠の十歳児のコスプレかよ。見た目には確かにぴったりだけど……」

 

「そもそも微妙に縁起悪いだろ」

 

 

 

 

 

 どよめくゲーム研究部の会話が聞こえるが、それでも達也たちにはしっくりこない。そのまま、どうせあいつのことだと考えるのをやめ、これからの試合に集中することにした。

 

(……45か)

 

 達也はすぐに『精霊の眼』で文也が隠し持っているCADの数を探る。相変わらずその数は規格外だが、彼が深雪と練習試合をしていた様子を見ていた達也は、あれのほとんどが保険で、案外使わないで、多くても一試合で20個くらいしか使わないことは知っている。

 

(……いや、普通に考えたら二つ使う時点でおかしいか)

 

 達也が『パラレル・キャスト』を雫に習得させようと思いついたのは、文也の戦法を見てからだ。遅かれ早かれ思いついていたとは思うが、その発想にたどり着きすんなり実行することの後押しとなったのは事実である。

 

(そういえば、アイツといえばこの『パラレル・キャスト』だけど、先祖は第一研究所出身者なんだよな)

 

 達也はふと、九校戦の一日目の昼休みの頭痛の原因となった情報を思い出す。

 

 達也からすれば、第一研究所なのは意外といえば意外だ。

 

 名前は第一研究所以外ではありえなさそうだが、『パラレル・キャスト』となると、『多種類多重魔法制御』と『魔法同時発動の最大化』をテーマとして『マルチ・キャスト』や『パラレル・キャスト』の研究に力を入れいていた第三研究所のイメージだ。

 

(そんなこと言ったら、俺もか)

 

 考えても見れば自分も第四研究所出の家系だ。第三研究所の研究員とスポンサーはかわいそうだが、運が悪かったということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文也が『アイス・ピラーズ・ブレイク』の選手に選ばれたいきさつは、案の定特殊だ。

 

 文也は、魔法技能という面では、『パラレル・キャスト』ができるのをいいことに、超特化型CADを何十個と使って、超高速・超高精度で何種類もの魔法を同時に発動するという、裏技を通り越して反則技が最大の特徴だ。

 

 しかし一方で一つ一つの魔法のパワーは深雪や雫や克人といった強い干渉力を持つ魔法師にくらべたら断然弱い。

 

 故に、力押しが有効な手段になる『アイス・ピラーズ・ブレイク』よりも、速度と正確性が求められて威力は最低限でよい『スピード・シューティング』や、状況に応じて臨機応変に魔法を使えれば大きく有利になる『モノリス・コード』、あたりのほうが適性がある。

 

 しかし、『スピード・シューティング』は森崎という最高クラスの適性を持った選手がいるため文也をここに使う意味はなく、『モノリス・コード』はチーム戦であるがゆえに文也を出すのはとても不安だ。『バトル・ボード』に出してもよかったのだが、体格が小さくまたスタミナも一流選手にくらべたらだいぶ劣る彼に適性があるとは言い難く、だが素行は悪くても実力はあるため出さないという選択肢も考えられず、結果的に消去法で『アイス・ピラーズ・ブレイク』の選手に選ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな経緯があるとはいえ、彼に適性がないというわけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反則もいいところだ」

 

 観客席の達也がつぶやく。

 

 普通の魔法師は、複数のCADを同時に扱えない。

 

 故に、速度を求めるなら特化型CAD、種類を求めるなら汎用型CADと使い分けなければならず、この『アイス・ピラーズ・ブレイク』では、防御と攻撃どちらもこなすためには汎用型CADの使用がほぼ強制される。克人の『ファランクス』のように強力な攻防一体の魔法、または花音の『地雷原』のように防御を気にせず倒される前に倒すということが単一の系統種類の魔法でできればよいが、それは例外もいいところである。その意味では、系統種類の違う魔法を使いこなし、いかにマルチ・キャストをこなすかというところがカギであり、勝負の見どころでもある。

 

 しかし、文也の場合は違うのである。

 

「くそ、『パラレル・キャスト』がまだいんのかよ!」

 

 三高の生徒は歯噛みした。先ほどの雫にも驚かされたが、今戦っている妙な格好をした小さな少年は、それ以上の精度と速度で魔法を同時に発動しているのだ。

 

 彼の攻撃は、文也の氷柱をわずかに傷つけることしか適わず、しかし彼の氷柱は順調なペースで破壊されていく。

 

 文也は自身の氷柱に『情報強化』を施し、さらに『情報強化』の弱点である魔法の副次的効果によるダメージを防ぐために自陣と相手陣地の境界線上に『クラウド・ボール』で真由美が使用して圧勝する予定だった魔法の劣化版である『バウンド』の壁を立て、堅牢な防御を敷く。むしろ相手の攻撃が跳ね返ることで、相手は自分の攻撃で自滅することすらある。

 

 それだけに収まらず、五十里に提供する予定だった対象物質の中で異なる幅・向きの振動を加えることで破壊する魔法と、地面を通じて縦揺れを加えることで氷柱を破壊する『地雷原』のダウングレード版を用いて効率的に氷柱を壊していた。

 

 それらの魔法はすべて、別々のCADで起動されている。

 

 特化型CADを超えた、その魔法専用のCAD。故に性能が制限される競技といえど、使う魔法は一つのCADにつき一つのみであり、性能をその魔法に特化できる分、特化型CADを超える速度と精度で使用できるのだ。

 

 特化型CADより速く強く、汎用型CADと同じだけの種類の魔法を同時に使う。

 

『アイス・ピラーズ・ブレイク』の競技としての要素を根本から文也は否定し、破壊した。

 

 競技としてのルール、常識、先人たちの積み重ねといったものをすべてぶち壊し、好き勝手に戦う。

 

 ある意味で、全く想定されていなかった『アイス・ピラーズ・ブレイク』適性を、彼は持っているのだ。

 

「これならどうだ!」

 

 三高選手は作戦を切り替え、文也の陣地の気温を猛烈に上げる振動系魔法を使った。ステージの外に漏れて反則にならないように領域を区切る必要はあるが、相手の氷柱をすべて一気に攻撃できるという点では、『インフェルノ』ほどではないにしろ強力だ。しかも『情報強化』の穴をついて、氷柱の周りの気温を上げているだけであり、その高熱は氷柱を溶かすことができる。何かを自陣から放っているわけでもないので、『バウンド』ではじかれもしない。

 

「無駄だ!」

 

 文也が右足のスニーカーのかかとを床にたたきつけると、そこに仕組まれたCADにより魔法が行使される。

 

「……相変わらず非常識な」

 

 見ていた深雪の邪険な声が漏れる。

 

 三高選手の決死の攻撃は無駄に終わった。

 

 文也は自身の氷柱だけでなく、自陣の『空気全体』を一つのモノとして『情報強化』をかけたのだ。

 

「くそっ、くそっ、くそおおおおおおおお!!!!!」

 

 攻撃に失敗し、その間に氷柱は残り二本にされてしまった。

 

 三高選手は苦し紛れに、ありったけの力を込めて、自陣の残りの氷に情報強化をかける。

 

「ふん」

 

 それを察した文也は、指貫手袋の中に隠された薄い指輪型CADで魔法を行使した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、文也の干渉力が『情報強化』を貫き、残り二本の氷柱を『爆裂』させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将輝、今のって」

 

「ああ、『爆裂』だ」

 

 試合の様子を見ていた将輝と真紅郎は、文也が最後に使った魔法を断定した。

 

 一条家の秘術である発散系魔法『爆裂』。液体を瞬時に気化させることで爆発させる魔法で、破壊力・速度ともに抜群であり、また『対人戦闘を想定した生体に直接干渉する魔法』として生み出されたため『情報強化』を貫く力も強い。これを一条家の御曹司として受け継ぎ、磨いてきた将輝は、『アイス・ピラーズ・ブレイク』への適性がこの上なく高い。破壊力の高い魔法という点では女子本戦で優勝した千代田花音と同じだが、『情報強化』を超えて直接破壊できるという点ではこちらに分がある。

 

「一条家の秘術、のはずなんだけど……」

 

「流出したわけじゃないぞ。あいつが勝手に開発したんだ」

 

 文也が使った『爆裂』は、本家本元で生み出され洗練されて伝わったものに比べたら全ての点で劣っている。しかし、十師族の家の秘術を劣化といえどおおよそコピーしてみせたのは、やはり異常ではある。

 

「別に驚くことじゃない。昨日お前と戦った時の有賀っていう生徒も『爆裂』を改造したような魔法を使っていたし、それを準備したのはあいつなんだしな」

 

 将輝はすでに覚悟していた。

 

 そんな魔法を生み出した当人が、『アイス・ピラーズ・ブレイク』で『爆裂』そのものを使ってくるのは、ある意味では予想の範囲といえるのである。

 

 本来ならそのような予想はバカらしいものでしかないが、文也は異常である種バカそのものであり、バカを予想するにはバカらしいくらいがちょうどいいのである。奇しくも歴代ゲーム研究部担当風紀委員も同じ結論に至っている。

 

「あいつの魔法はおもちゃ箱みたいだが、そのおもちゃ一つ一つがびっくり箱みたいなものなんだよ」

 

 将輝はそう言いながら、めまいを抑えるように目頭をつまんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はあいつが逮捕か暗殺されないか心配で仕方ないよ」

 

「それは心配すぎなんじゃ……」

 

 櫓を降りていく文也から目をそらし、達也は深い溜息を吐いた。

 

「なあ、今のってもしかして『爆裂』?」

 

「いや、まさか。あれは一条じゃないんだから」

 

「でも昨日の『深淵(アビス)』を使った選手のエンジニアってあの小さいのだろ?」

 

「それも似たような別物だって。仮に同じ魔法だったら一大事だ」

 

 今の文也の試合を見た観客たちはざわめいた。よく観察してみると、その中に混じって、端末を使って誰かと急いで連絡を取り合っている人物が何人かいる。

 

 なにせ目の前で常識をぶち壊す異常な光景を見せられたのだ。彼らは大学や研究所の関係者だろう。

 

 しかし、その中でも、上手く隠れてはいるが、達也と深雪の眼からは明らかに怪しい観客も何人かいた。

 

「昨日あいつは、西川に戦略級魔法の亜種を使わせている。それに、見るやつが見れば、有賀が使ったのも『爆裂』に近いものだと見当はつく」

 

 周囲に気を配って達也は小声で深雪たちに説明をする。なにやらきな臭い空気を感じ取った深雪たちは、達也の言葉がよく聞こえるよう、顔を寄せて耳を傾ける。

 

「それって……もしかして、十師族のエージェントが調査に来た、ってこと?」

 

「そういうことだ。彼らの一族の専売特許の危機なんだ。調査は当然するし、それでわかったことによっては……魔法の流出や価値の下落を防ぐために、『そういうこと』も実行されかねない」

 

「本当、どこまでも迷惑な存在……」

 

 達也の説明を聞き終えた深雪は文也を小声で罵る。その絶対零度の声色は、物騒な話を聞いて背筋が震えた雫たちを、さらに震え上がらせた。




十七夜栞などの名前が登場しますが、実は九校戦編を書いている段階では、魔法科高校の優等生は全く読んでおらず、ウィキの知識だけで登場させました。読み始めたのはかなりあと、もはやストーリーの都合上修正不可能だったので、多少の違和感はあるかもしれませんがご容赦ください。

魔法解説
『バウンド』
真由美が『クラウド・ボール』で使っていた、移動物体の加速を二倍にしたうえでベクトルの方向を逆転させる『ダブル・バウンド』の劣化版。正確には、これの進化版が『ダブル・バウンド』という設定。
平面領域魔法であり、その領域に触れた移動物は、速度の変化はないが、移動ベクトルは逆になり、まるで壁に当たって跳ね返ったような動きをする。領域に触れた移動物の速度を一瞬でゼロにして下におとす一般的な対物障壁よりも、『壁』として一般人にイメージしやすい魔法になっている。

気温を猛烈に上げる魔法
領域内の物体の分子を振動させて温度を上げる領域魔法と並んで、温度に干渉する振動系プラス魔法の領域魔法の基本中の基本にして、地味に難度の高い魔法。『アイス・ピラーズ・ブレイク』の敵陣地丸ごとを対象として氷が急速に溶けるほどの温度を出すとなると大変難しく、改変規模の面で高等魔法。一年生にして使える文也の対戦相手は、将輝に次いで優勝候補と目されていた。相手が悪かったとしか言いようがない。

自陣の空気全体にかける『情報強化』
いわば『情報強化』の領域魔法版。対象物のエイドスにかける分にはイメージしやすいため魔法師ならだれでもできるが、領域版となると、とくに目印や壁などであらかじめ区切られていないと難しい。
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