マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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2-16

 九校戦六日目で、新人戦三日目。

 

 行われるのは、『バトル・ボード』の残りすべてと『フィールド・ゲット・バトル』だ。

 

 この日の朝、半日以上泥のように眠ってから目覚めた文也は自分の端末に父親から大量にメールが届いているのに気づいた。中身を見てさすがに「まずい」と思い、起きて早々血の気が引いたが、とりあえず見なかったことにして、文也は今日の競技に挑む準備をした。

 

 その準備が終わり食堂に向かうと、ちょうど同じく食堂に向かうらしい達也と深雪に出くわした。

 

「よう、おっはー、元気か?」

 

「おかげさまでな。お前こそ、昨日の今日で大丈夫なんだろうな」

 

「おー、へーきへーき」

 

 達也は文也の返答を待たずして、『眼』で体調を確認する。サイオンに乱れは全くない。信じられない回復力だ。どちらかというと、隣で不機嫌を必死に隠している妹の方がサイオンが乱れているほどである。

 

「いやー昨日はスマンな。今日の最終会議しようと思ったんだけど、寝ちまってさ」

 

「仕方ないだろ、あれだけの激戦だったんだしな」

 

「それもそうだな」

 

「そこでその返しをするお前の図太さって……」

 

 ちょうどそこに、駿が通りかかり、文也の言葉に呆れかえって思わず話しかけてしまう。

 

「よー駿。朝飯食った後すぐでいいよな」

 

「構わん。司波もそれでいいだろ」

 

「ああ。それでいい」

 

 朝食の時間も作戦会議と行きたいところだが、朝は他校の生徒も同じ食堂にいるため、作戦漏洩を防ぐためには避けなければならない。

 

 兄妹と離れ、文也と駿は朝食で同席する。

 

 九校戦の食事は基本的にビュッフェ形式で好きなものを好きなだけ食べられるため、二人とも量は多めだ。

 

 特に文也はゼリー飲料を飲んで以来ずっと寝ていたので、空腹のため量が多い。あまり食べすぎても競技に差し障るためある程度は控えるが、気にしすぎて量が少なくては競技のエネルギーとしては足りない。もともと文也は小食で、間食にお菓子を貪り食う不健康食習慣タイプなのだが、代表に選ばれてからはさすがに食生活くらいは健康を意識しており――正確にはさせられているのだが――この生活にもだいぶ慣れてきた。あずさと駿はこのまま続いてくれればいいと内心で思っているのだが、九校戦が終わればすぐに元の崩壊した生活に戻ることはたやすく予想ができる。

 

「うーんしかしどうにも参ったねえ。新人戦、女子はまあまあ一部だけはいい感じだけど、男子はぼろぼろだ」

 

「全くだ。組み合わせが妙に悪い。俺らが頑張らないとな」

 

 新人戦の成績は芳しくない。駿はこれからが自分の本番なので、とくに気合を入れなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バトル・ボード』の決勝と『フィールド・ゲット・バトル』の予選のほとんどが午前に終わり、昼休みを挟んだ午後。

 

 滝川と、『クラウド・ボール』の代表候補だった春日ともう一人の女子が代表として出た一高女子は予選第一トーナメントで早々に敗退してしまった。

 

 彼女らは運悪く予選で三高とかちあってしまったのだ。代表である博の妹・百谷祈と、百家の出で『アイス・ピラーズ・ブレイク』にて雫を下した十七夜栞を要する厚い選手層は急ごしらえの一高を総合力で超えており、終始不利な展開をせまられて敗北した。七高には勝利したものの三高も七高を下しており、手痛い敗退となってしまった。

 

 一方文也たち男子は第二リーグで二高と七高を余裕で下し、決勝リーグ進出を決めている。こちらは優勝争いの一高・三高・四高が各リーグにばらけており、まだ第三リーグの四高は決まってはいないが、ほぼ決まりであろう。

 

 予選の試合は一方的であった。

 

 第一試合は『模擬演習場』を引き、羽田を上回るスタミナと跳躍力で縦横無尽に移動する達也が鬼神のごとき活躍をして圧倒した。練習試合では達也と羽田でお互いに跳び回りながら空中で撃ち合いをするという曲芸バトルに発展したのを経験したため、文也も駿も驚きはすでに捨て去っている。ただただ暴れまわる絶対的な何かを活かしてサポートに回っていただけだ。

 

 第二試合は駿の活躍が光った。『未来都市』という、電子看板や曲線的なフォルムの建物が障害物になっており、また地面の一部が高速で動く移動床になっているフィールドで、この移動床をどう活用するかが勝負のカギとなる。この移動する不安定な足場で駿は正確なエイムで相手を的確にとらえ、常にスリープとダメージを重ねて相手の動きを大きく制限して圧勝した。この狙いの正確さは軍事教練を幼いころから受けている達也に迫るもので、森崎家の本領発揮となった試合だった。

 

 そして第三リーグの四高が勝ち上がり、決勝リーグ。

 

 第一試合は一高と三高。フィールドは『ゴーストタウン』だ。未来都市フィールドとは一転し、荒れ果てた街をモデルとしたフィールドである。

 

 コンクリートの建物はすべて廃墟となりボロボロで、また道もコンクリートがはがれていたり、建物の大きながれきや倒れた電柱や看板が転がっていたりと大変足場が悪い。建物の中は各一階のみ立ち入り可であり、階段やエレベーターには立ち入り禁止というルールになっていて、また外壁を伝って窓などから二階以上に侵入するのも禁止だ。建物の中は塗っても無効であり、道路上の面積の奪い合いとなる。その道路も、ど真ん中を両者のスタート地点を結ぶ形で大きい道路が通っている以外は横道や裏道が多く、意外と複雑である。また、真ん中の道路が全体の塗れる面積の半分以上を占めているため、ここの取り合いが大きな勝負のカギとなる。しかし裏道や横道、抜け道がいくつかあるため、前線の取り合いだけでなく後ろにも注意しなければならないフィールドと言える。

 

「なーんか、こうなってくると『Splato〇n』というよりも普通のFPSとか不良ゲームみたいだな」

 

 スタート地点に立った文也はそう漏らす。達也と駿にはわけのわからない話であり、それぞれもう慣れたといわんばかりに無視をした。

 

「事前の作戦通り、真ん中の道路の取り合いを俺と駿が担当、司波兄は裏道で遊撃だ。お互い背中にはよく気を付けるようにな」

 

「そうするとまるで暗殺を気にしてるみたいだな」

 

「……嫌なことを思い出させるな」

 

 達也の何気ない軽口が、朝のメールを思い出した文也を傷つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この競技において、文也と接敵した相手は常に苦しい戦いを迫られる。

 

 こういった特殊なルールのシューターゲームを経験しており、また文也自身が卓越した戦闘勘を持っているということもそうだが、何よりも警戒するのは不意のスペシャルだ。

 

 この競技の前提としてあるのが、スペシャルには大きなリスクがある、ということである。一度しか使えないというだけでなく、インクガンを一度電源を切るかサスペンドするか、はたまた体から離すかしないと、サブCADのスペシャルを使えないからである。使うときは大きな隙をさらすし、時間がかかるし、インクガン使用放棄というあまりにもわかりやすい予備動作をしなければならない。

 

 しかし、『パラレル・キャスト』の文也はそうはいかないのである。

 

 撃ち合い中、文也はいつでもスペシャルを発動できる。インクガンに何かする必要がないので隙も予備動作も晒さないし、電源を入れっぱなしでも問題ないので効果の発動にも時間はかからない。しかも『アイス・ピラーズ・ブレイク』ですでに分かっていることだが、どこにCADが仕組まれているかもわからないので、さりげない動作の中で起動されてしまう恐れがある。

 

 故に、わかりやすい予備動作だけ観察しておいて撃ち合いに集中、ということができず、余計なことにも常に気を配ることを強制される。

 

 そしてそんな集中力が乱れた撃ち合いに、文也が負けるはずもない。

 

「あ、くっ、井瀬にやられた!」

 

『またか!? ほんとあのチビやっか――うわぁあああああ!!』

 

「おい、どうした!?」

 

 文也との撃ち合いに負けた相手はスリープ状態になったことを仲間に伝えるが、インカムの向こう、裏道で陽動に行っているはずの味方が、突如として悲鳴を上げた。

 

 ――少し時間は戻って、大通りからだいぶ外れた裏通り。

 

 少し道に迷ったが上手いこと文也たちの裏に抜けれそうになった三高生徒は、急いで大通りへと戻って文也たちの後方から仲間を援護するべく走っていた。

 

『あ、くっ、井瀬にやられた!』

 

 大通りで前線の取り合いをしていた仲間から連絡が入った。急いで駆け付けなければならないが、一方で大通りに一高で一番身長が大きいあのエンジニア――達也の姿が見えないことが報告されているため、裏通りの建物に潜んでいるかもしれないことを考えると、出入り口の前を通るたびにクリアリングをしなければんらない。

 

まだ開始一分なのに、もうこれで二度目だ。あまりにも厄介な文也の姿を思い浮かべ、彼はいら立ちを口にする。

 

「またか!? ほんとあのチビやっか――」

 

 その時、彼は『上から』光弾の雨を降らされた。

 

「――うわぁあああああ!!」

 

 それを上から放ったのは達也だ。

 

 二階以上は立ち入り禁止であると油断していた彼は、上方の確認を怠っている。

 

 足音を超人的な聴覚で察知した達也は、ここに来ることを予測して待ち伏せしていた。

 

 ただし、ただの待ち伏せではない。達也は超人的な運動能力で壁のわずかな突起を掴んで上り、出っ張ったコンクリートの上に寝転がって隠れて待ち伏せしていたのだ。

 

『おい、どうした!?』

 

「司波にやられた! 回復次第バックする!」

 

 文也にやられた仲間からの問いかけに答える。これで二人同時スリープ。一気に形勢が不利になったが、この生徒はこのまま復帰時の無敵に任せて突っ込むことはできない。

 

『前線たこ焼き看板奥でワンキル』

 

「待ち伏せN-34でキルした」

 

『よくやった。後ろも塗り忘れるなよ』

 

「わかってる」

 

 文也と達也もインカムで連絡を取り合う。文也はこのチャンスに前線を押し広げ、達也はこの細い道で相手の逃げ道を塗って潰す。逃げながら残弾の回復をさせないためだ。

 

 一高は図面をほぼ完全再現した状態で練習できる環境を生かし、この複雑な『ゴーストタウン』で位置を効率的に伝えるための方法を編み出した。

 

 それは、目印となる地点に記号や名前を付けて共有することだ。

 

 こうすることでお互いの位置関係や相手の位置、各場所の塗り状況などをお互いに効率よく伝えることができるのである。

 

 達也は目についた道路を塗りつつ、先ほど倒した相手選手から少し離れる。これは相手が無敵に任せて突っ込んできても達也の全力疾走なら逃げ切れる距離だ。

 

 そして5秒経って復帰した相手選手は、突っ込んでくるのでなく、冷静にいったん退くことを選択したようで、全力で達也から離れていく。今の5秒の間に冷静になったようで、達也の運動能力を察して、このままずっと撃ち合いするのがまずいと判断したのだろう。

 

 その背中を達也は俊足で追いかける。仮に相手が曲がり角で待ち伏せなどを選択したとしても、達也の聴覚ならば足音で察知できる。そうした状況を達也が文也に伝えると、

 

『本物の鬼とする鬼ごっこはさぞかし怖いだろうな』

 

 と返ってきた。

 

 これが、それこそ文也の言うゲームのように、スリープ状態などはなく、キルされたらリスポーン地点に戻るルールだったらこのようなことにはならない。しかしあくまでも生身の体であり、またいくら魔法があるといえど瞬間移動は不可能なため、復帰はその場で行われしばらく無敵状態、というルールになってしまった。しかし圧倒的な運動神経や五感の差が開いていると、このように一方的に動きが制限される状態になってしまう。

 

 急ごしらえの不完全なルールゆえの欠陥で、来年はすぐに廃止だろうな、と達也はまんまと待ち伏せしていた相手に逆奇襲をしかけながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く勝負になっていないじゃないか」

 

 この試合の様子を見ていた将輝は、呆れたようにそう文句を言った。

 

 あの文也と司波達也が出てくるということで、自校の試合そっちのけで予選から一高の様子を見ていたのだが、いよいよ自校と戦うとなると、どこまでも仲間が頼りなく見えた。

 

「一高はこれもう反則だね」

 

 そばで見ていた真紅郎も同じ感想だ。

 

「森崎はさすがだな。こういったシューター系は得意中の得意だ」

 

「司波もそうだね。二人ともインクガンの扱いが格別に上手い。これは、どっちも実際の戦闘を想定した訓練を受けてるね」

 

 魔法は、たとえCADが拳銃型であろうと、銃口の先が照準であろうと、あくまでも実銃とは全く異なる。実銃は自分の手元からしか攻撃は放てないが、魔法はほとんどがどこからでも放てる。例えば『スピード・シューティング』が良い例で、ほとんどが的に直接魔法をかけて破壊している。実際の銃のように狙って撃つのは、真由美などの少数派だ。

 

 故に、このインクガンの扱いに各校の選手は苦労した。なにせ、インクとなる光弾が出るのは銃口からしか出ないし、照準補助装置もついていないから自分でスコープなどを使って照準を合わせるほかない。当然そのような経験はほとんどの魔法師はないので、正確に動かない的を狙うだけでも一苦労。実銃と違って反動がないのだけは幸いだ。

 

 しかし、達也と駿は違う。達也は六歳から軍事教練で、駿も小学生から家の方針で、それぞれ魔法だけでなく、魔法が使えなくなった状態を想定して体を鍛え身のこなしを磨き、そして実銃の訓練も受けている。そんな二人にとっては、このインクガンはまさしくおもちゃのようなものだった。

 

 その点では、銃の扱いも運動神経も体格も体力も、文也は二人に比べたら圧倒的に格落ちだ。しかし『パラレル・キャスト』の圧力が相手の動きを制限し、駆け引きが上手い文也はそれをいかんなく利用する。

 

 この三人は、一高代表グループの中でも、本戦代表を抑えて圧倒的に一番強い。

 

 全員がこの競技に卓越した適性・才能・能力を持っていて、さらにあまり仲がよさそうには見えないのだが、連携や戦術も練度が高い。

 

 あまりの強さに二人が呆れかえっている間に、文也がついに『スーパーショット』を使用して相手を一度に二人スリープ状態に叩き落した。

 

「さ、そろそろ時間だ。いくぞ」

 

「うん、そうだね」

 

 二人は試合の残り時間を確認すると、席を離れてどこかへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、お兄様、なんてすばらしい……」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 観客席で兄の大活躍を見ている深雪は、手を胸の前で組み、目をとろんとさせて感激に潤わせ、頬を紅潮させて、湿った熱い感嘆の声を漏らした。文也が出ているというのに、お兄様が活躍しているから今日は終始この様子で、一緒に見ている雫たちはすっかりうんざりしてしまっている。昨日の不機嫌で気を遣わされたのに、今日は打って変わってこれだ。いくら彼女らでも、つい深雪にあきれ果ててしまっている。ついでに周りの観客もドン引きだ。

 

 この競技に、達也はこの上ない適性がある。

 

 達也は、身体能力・スタミナ・銃の扱い・戦術眼・戦闘勘・経験・駆け引き、どれをとっても超一流のプロレベルである。苦手とする『普通の』魔法もこの競技ではほとんど関係ない。なにせ使う魔法は二つのみだ。インクガンのショットは速度も射程も皆一定であり、達也はこの点で回りに差をつけられることもない。スペシャルは普通の魔法同様やや周りに遅れるが、結局はショットと同じで、魔法の信号を飛ばしてそれを受けたフィールドやユニフォームが競技にまつわる判定やホログラムを生み出しているため、結果の質は使い方が同じなら誰がやっても均一だ。

 

 つまりこの競技は、達也の長所をいかんなく発揮でき、短所がほとんど影響しないという場なのだ。

 

 そこで大活躍し、世間から認められる愛しのお兄様の姿を見た深雪は、心の底から満足していた。昨日のストレスの反動と兄の甘やかな慰めによってただでさえ心が暴走気味な中、この光景は一周回って深雪に悪影響なほど素晴らしいものだった。達也がファインプレーを決めた時なんかは、思わず黄色い歓声を上げてくねくねと身もだえしだすほどだ。大変気色悪い状態になっている。

 

 そもそも調子の良い話で、達也がこの競技に出るのに反対しようとし、出るのが決まってからはずっといら立ちっぱなしだったのに、今はこれ以上ないほど満喫している。あまつさえ、「井瀬君と森崎君と先輩方に感謝しなくちゃ」だなんて独り言をつぶやく始末だ。

 

「返して……才色兼備冷静沈着な優等生だった深雪さんを返して……」

 

 美月は、この科学の時代に、思わず神様に祈りをささげてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三高をぼこぼこにして、フィールドからの帰り道。文也以外息一つ切れていない三人の前に、立ちはだかる二つの人影があった。

 

「ん? マサテルとジョージじゃん。どうした?」

 

「おい、そろそろマサキって呼んでやれ」

 

「マサキだ!」

 

 将輝と真紅郎である。駿と将輝と真紅郎は文也を通じて多少の交流があり、ついでに駿と将輝の間には不思議なシンパシーもある。

 

「で、かの『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』が何の用だ?」

 

 文也が絡むと無駄に会話が伸びるため、達也は無理やり話を進める。

 

「そうだった……ン、ンッ……俺は三高の一条将輝、こっちは吉祥寺真紅郎だ」

 

「「「知ってる」」」

 

 気を取り直して咳払いしてから自己紹介をした将輝を三人は一刀両断した。

 

「将輝、落ち着いて」

 

「ン、ンンッ……俺たちは、『モノリス・コード』の代表として出る。司波達也、まさかジョージや文也と同格のエンジニアがこの世にもう一人いるなんて思わなかったよ」

 

「お、おう」

 

「あいつ相変わらずだな」

 

「空回りしがちだよな」

 

 将輝の物言いに、達也は何が言いたいのかわからず困惑し、その後ろで将輝の言いたいことが分かったらしい文也と駿がこそこそと話している。なお駿も割と空回りしがちなのでブーメランを投げたような形だ。

 

 そんな二人を置いておいて、少し遅れてようやく達也は将輝の意図を理解した。

 

 要は、達也、または達也が担当した選手と戦いたいのだろう。これはその宣戦布告……というよりも、ケンカを売りにきたとかそういうたぐいだ。

 

「俺はそれの担当じゃない。そこの森崎が代表で、井瀬がエンジニアだ」

 

「そうか。文也と森崎と手合わせできるのは嬉しいが、お前とも戦ってみたかった」

 

「それは光栄だな」

 

「おい駿、聞いたか。あいつ俺らのこと残念扱いだぞ」

 

「少しフォローは入った分お前よりは口がいいだろ」

 

 相変わらず文也と駿の内緒話は続くが、達也と将輝は意図的に無視した。

 

「時間を取らせたな」

 

 そして言いたいことだけ言って将輝は去っていった。最初は将輝に合わせてキリッとしていた真紅郎もあきれ顔でそれについていった。

 

「……なんだったんだ、今の」

 

「知らん」

 

 達也のつぶやきに、駿はどうでもいいといわんばかりの声音で答えた。




オリジナル競技『フィールド・ゲット・バトル』について
設定を考えていた当時は『スフ〇ラトゥーン2』が発売されておらず、1のルールを基に作りました。

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