夏休み。
そんな休みの中、『夏の祭典』と呼ばれるイベントが行われる。
夏と祭典で、夏祭り……というわけではない。
そのイベントは、大規模な会場を貸し切って夏と冬の年二回行われる、同人誌即売会だ。
そのイベントには、『国立魔法大学付属第一高校ゲーム研究部』というサークル名で、例年ゲーム研究部も出店側として参加しており、今年もまた参加している。
別のサークルで、高校生が売るにはふさわしくない、『美雪ちゃん』のスケベで薄い本をこっそり売ろうとしていたのだが、達也の手により阻止されたことで、今年は表向きのほうで健全な出店をした。
ここでは、同人誌即売会とは言っても、売られるものは多岐にわたる。
今年ゲーム研究部が販売したのは、自分たちで作成したゲームだ。
その名は『塗りつくせ! フィールド・ゲット・バトル』である。
九校戦の新競技『フィールド・ゲット・バトル』の練習用として作ったフルダイブVRゲームを一般向けに作り直したもので、もともとは訓練用であるためプレイヤー本人の能力を自動で読み取ってステータスが決まっていたのだが、今回は魔法師以外でも遊べるようにステータスがあらかじめ決まったプレイアブルキャラクターを選んで、そのキャラになって遊ぶシステムになっている。
その売り文句は『どうあがいても、クソ』。
汚い大人と上層部の思惑によってルールは急造、実際の運営も滅茶苦茶で、現場や実行するときのことを考えない企画チームによって終始グダグダになった『フィールド・ゲット・バトル』を忠実に再現しており、当然ゲームにもその悪い部分はきっちり継承されている。
バランスが悪い上に何かと穴が多いルール、無駄に種類が多い割に一つ一つの構造が無駄に雑でそのくせ無駄に複雑で参加人数のわりに無駄に広くて疲れるフィールド、魔法技能の欠片も感じさせないインクガンと『ショット』などをそのまま継承したゲームは、まさしく『クソゲー』だった。
しかしここは常識から外れた世界であり、それが逆に受け、大行列ができて即座に完売。
そんな大盛況で終わったイベントでは、男子新人戦優勝メンバーでゲーム研究部員の文也だけでなく、文也に(半ば騙されて)呼ばれたあずさも売り子として手伝わされた。
良い意味だけでなく悪い意味でも熱気が漂う会場の中で、戸惑いつつも一生懸命働いて愛想笑いを振りまくあずさはどこまでも可憐で健気であり、それが購買意欲をさらに刺激し、大忙しの一瞬が過ぎて完売となった。
「あー…………疲れた……」
あずさは文也の部屋に入るなり、いつもの遠慮がちな態度を放り捨て、床に倒れこんで思考を手放した。猛暑と熱気と忙しさと戸惑いの四重奏によってすっかり疲弊しきったあずさは、駅からやや離れた自宅でなく、一刻も早く体を休めたくて途中にある文也の家で休憩することにした。
「あーちゃんお疲れさん。ほい」
そんなあずさに笑いかけ、少し遅れて部屋に入った文也はあずさのそばに冷えたジュースを置く。あずさは体を起こすと、お礼も言わずにそれを喉を鳴らして一気飲みし、息を吐いた。
「ふう……ありがとう、ふみくん」
「おう、こっちもありがとな。手伝ってくれて」
「もう、こういういきなりなのやめてって言ってるでしょ……」
先日の一条家訪問に引き続き、今回もあずさは文也にいきなり大変な目に遭わされた。先日のほうはただ内容を知らせていないだけだったが、今回は明らかに意図的に知らせておらず、余計にたちが悪い。
そんなふうに、一息ついてしばらく中身のない雑談にふけっていると、急に文也の携帯端末が軽快な着信音を鳴らす。文也は会話を中断してそれを取り、電話に出た。
「おっすマサテル」
『マサキだ。例のものは確保してくれたか?』
電話をかけてきたのは将輝だ。『例のもの』とは、文也たちが販売した『塗りつくせ! フィールド・ゲット・バトル』であり、身内特権で一つ確保しておくよう頼まれていた。将輝自身がプレイするわけではないが、真紅郎がそれに強く興味を示して頼んだのだ。ただし真紅郎は論文コンペの準備で忙しく、こうして代わりの連絡を将輝が引き受けている。
「おう、お前から頼まれてた、お前が大好きな熟女触手凌辱モノを」
「えっ」
『俺はそんなん頼んでないだろうが! それとそんなの全く趣味じゃねえ! あとそばに中条さんいるな!? 声聞こえたぞ!? 中条さん、俺はそんな趣味はありませんから! ありませんから!』
「わ、わかってますよ、一条君……」
焦って大声で自身に叫ぶ将輝を、あずさはなだめる。
何せ、先日の顔合わせの訪問の時に交わした雑談の中で、彼が司波深雪にゾッコンであることがわかっているからだ。驚いたのは彼の趣味ではなく、文也の口から発せられたいやらしいワードそのものに対してである。なんと純情なことか。
そんなくだらないやり取りの末に通話を終えて一息つくと、あずさは、今の会話で思い出した、前々から気になっていたことを尋ねる。
「そういえばさ、ふみくんはどうやって一条君や吉祥寺君と知り合ったの? 森崎君のは知ってるけど、あの二人は住んでるところも遠いから不思議だなって思って」
あずさは、中学生の文也のことをよく知らない。いろいろあったらしくその話も逐一聞いているのだが、この二人と知り合った経緯は聞いていないのだ。
ちなみにあずさは駿と出会った経緯を知っている。
文也が駿と初めて出会ったのは、魔法塾の中だ。
魔法は義務教育の中では教わらず、魔法科高校に入るための魔法に関する勉強は公立の魔法塾で学ぶことになる。その魔法塾には当然文也も駿も通っており、そこで初めて出会ったのだ。そのあといろいろあって親交を深めてお互いに親友と呼ぶ仲になったのである。
「あー、そうか。そういえば話してなかったな」
文也は手を打ってそう言うと、思い出話に移るためにジュースで喉を潤し、その話をすることにした。
「俺とあいつらが知り合ったのは、今からちょうど3年前の八月、佐渡でのことだ」
「え、それって……」
文也の言葉に、あずさは戸惑う。3年前の八月の佐渡。それは、大きな事件があった時と場所である。
「その通り。俺とあいつらが知り合ったのは、『佐渡侵攻』の時だよ」
☆
中学一年、中学生としての初めての夏休み。すでに聡明で賢く、魔法師としても研究者としても才能を見せていた真紅郎は、それを喜んだ研究者の両親に連れられ、彼らの職場である、佐渡の研究所に来ていた。
「すごい……」
真紅郎は、初めて見る本格的な研究所の内部の光景に圧倒された。
今までも実験室や研究所に何度か足を運んできたが、中学生や小学生の身分で見れる場所はその表側の派手な部分でしかなく、本格的な部分は見られなかった。
しかし、親の縁で、この研究所では好きなところに出入りして見学し、勉強をしてよいことになっている。両親は優秀な研究者でかつ人格者であるため、その息子である真紅郎も歓迎された。
そういうわけで、このまま着いて早々見学でもよいが、真紅郎は会わなければならない人物をまず探すことにした。
自分と同じくここに勉強のためにきた、先に着いているという親友は、すぐに見つかった。
「あ、将輝!」
「お、ジョージか。ようやく会えたな」
中学一年生にしてすでに大人に混じっても違和感がない長身だが、顔は群を抜いて美男子であり、その姿はすぐに見つかった。
優秀な研究者である両親の縁で将輝と知り合った。すぐに気が合い、またお互いに優秀な魔法師の卵であるため、あっという間に親友になったものである。
「ここはすごいね」
「ああ、俺らもたくさん学ばなきゃ――っ!」
そんな会話をしていると、急に将輝が魔法を行使した。
将輝と真紅郎を包むような範囲に展開されたのは『領域干渉』だった。
「将輝、急にどうし――」
「おい井瀬! いい加減に悪戯はやめろ!」
「おいおいマサテル、ちょっと反応よすぎんだろ」
「マサキだ!」
将輝がにらんだ先、そこの物陰から出てきたのは、雑に切った整っていない黒髪が特徴的な、小さい少年だった。
真紅郎の目から見ても、その少年は小さい。真紅郎自身も身長はだいぶ低い方ではあるのだが、この少年はそれに輪をかけて小さい。幼い顔立ちと相まって、小学三・四年生に見える。
「将輝、その子は……?」
戸惑いながら、真紅郎は将輝に問いかける。
その問いに、将輝は疲れたようなため息を吐きながら答えた。
「こいつは井瀬文也。俺たちと同じく、ここに勉強に来たやつだ」
「え、でも、小四くらいでここはさすがに……」
「こう見えても中一だ。よく覚えとけよ」
真紅郎が何か言おうとすると、先ほどまでにやにやと笑っていた小さい少年・文也が、顔を険しくして念を押してくる。
(こ、これで中一かあ……)
小さい。長身の将輝と並べば、なんなら親子にすら見えるほどだ。
どうやら身長がコンプレックスなようで、真紅郎はこれ以上身長について考えるのをやめた。自身もそれなりにいじられた経験はあるため、気持ちはわかるのだ。
「同い年だからって会ってみたはいいけど、悪戯ばっかするから大変だった……」
将輝はここ数日のやり取りに思いをはせる。同じ年齢の子供が自分と真紅郎以外にも来てるというから探して会ってみたら職員に悪戯を仕掛けるところで、とっさに魔法で防いだ。姿を見てみたら、身長がとてつもなく小さく自分と同級生だというのも信じられなかった。自分が下げていたネームプレートを見た文也が『マサテル』と読み間違え、ついむきになって訂正したらその反応を面白がってマサテルと呼ばれ続ける羽目になった。さらにそこから、なんだかんだ子供同士一緒にいることが増え、何度も悪戯を止める羽目になったのである。
「た、大変だったんだね……」
真紅郎はおおむねすべてを察した。身長差も相まって親子にすら見えるということは考えたが、まさか本当に『お守り』状態だったとは。
「ちゅーわけでよろしく。俺は井瀬だ。お前、ジョージって呼ばれてたけど外人か?」
文也に問いかけられ、真紅郎は答える。
「僕は吉祥寺真紅郎。あだ名がジョージなんだ」
「おーん、キチジョウジ……うん、呼びにくいからジョージでいっか」
「まあなんとでも呼んでくれていいよ」
真紅郎はあいまいな笑みを浮かべて文也に手を差し出す。その意味を察した文也は、その手を握り返した。
☆
「おい、にーちゃん、そこの文字間違ってんぞ」
「え、ああ、本当だ。ありがとう井瀬君」
早速三人で施設内を見学して回る。文也が何か失礼をしでかさないか心配だったが、そんな中、早速文也がパソコンとにらめっこをして困り果てていた研究員に話しかけた。
中学生の分際でプロの仕事に口出しする文也を二人は止めようとしたが、止める前に研究員本人が文也の言うことに納得して修正し、先ほどまで止まっていたシミュレーションプログラムがスムーズに動き出す。
研究員はそれを確認すると、デスクに置いておいた飴を一つ取り、文也に渡した。
「君にはほんと敵わないな。ほら、お礼だ」
「おーきにー」
文也は受け取るや否やすぐに飴を回収して口に放り込む。
そこまでの様子を、二人はただ唖然と見ていたのみだ。
将輝は「よくこんな細かいミスに気づいたなあ」という程度だが、真紅郎はそれ以上の驚きを感じていた。
(あれを見て一瞬でわかるなんて……)
真紅郎自身、中学生の身ですでにプロの研究者も顔負けな技能と知識を持っている。それゆえに、文也が指摘した間違いが、いかに難しいものであるかを理解していた。真紅郎でも見れば気づいただろうが、相応の時間をかけてチェックが必要になる。それを、通りすがりに少し見ただけですぐに文也は気づいた。
(なるほど、ここに来るだけの理由はあるってことだ)
同世代では自分が一番だと思っていたが、まだまだ上がいる。
真紅郎がひそかに対抗心を燃やしていると、研究室の一角でちょっとした騒ぎが起きた。
「うわっ、Gだ!」
研究員の一人がうっかり大声でそう言うと、女性研究員を中心にちょっとしたパニックになる。
その騒ぎの大元である地を這う黒き疾風は、研究員から逃げるように、真紅郎たちの方向に走ってきた。
「お、おあ!」
その生理的嫌悪感を催す奇跡ともいえるフォルムに、真紅郎は思わず恐怖を感じて逃げようとする。気持ち悪いのになぜだか目を離せないでいた真紅郎は、その虫が何も触れていないのにいきなり『つぶれる』瞬間を見た。
一瞬何が起きたのかわからず思考の空白が生まれたが、それがすぐに魔法によるものと理解した。
「『ジョージ』って名前だからGは得意だと思ったけど」
文也はそう訳の分からないことを言いながら、先ほどまで虫がいた方向に向けていた玩具の拳銃のようなものをしまう。
「今の、まさかお前がやったのか?」
「そうだよ」
将輝の問いかけに、文也はなんともないというように答える。
「じゃあ、今のは?」
「お察しの通りCADだ。だいぶチャチいけど」
その返答を聞いた二人は驚愕する。高速ではい回る小さな虫に、あの一瞬で照準を合わせ、完璧に一発でしとめて見せた。使った魔法は基本的なものであり、また事象改変規模も初級クラスだが、その速さと正確さは、将輝ですらまだ追いつけないほどだ。
(魔法のプログラムにも強ければ、魔法も速い、か)
真紅郎は内心で激しい悔しさを感じた。自身の醜態と対照的に文也が冷静に対処して見せたのも悔しいが、それ以上に悔しいことがある。
魔法的なプログラム面では自身が得意だし、魔法の行使という面では将輝はすでに超一流だ。魔法の腕では将輝が、研究者としての知識は自身が、それぞれ同世代で間違いなく一番だと思っていた。その両方の面を、たった一人の同級生が部分的とはいえど上回っている。
(もっと精進しないと)
真紅郎はその悔しさをばねに、こっそりと決心をした。
☆
その日の夜、三人は寝間着に着替え、同じ部屋で雑談をしていた。ただし、主に文也と真紅郎が魔法理論の話で盛り上がっていて、将輝がそれを聞いて一生懸命理解しようとしているというものである。
離島・佐渡の研究施設であるため、職員用の宿泊施設は完備されている。しかし部屋数には当然限りがあるため、一人一部屋というわけにもいかない。そこでこの三人は、同級生で同性ということで、『見学に来た子同士で仲良くするといい』という大人特有の論理で、同じ部屋で寝泊まりすることとなった。
第一印象は魔法による悪戯であり、第二印象は対抗心。文也と出会った真紅郎の内心はおおむねそんな感じだったが、すぐに魔法理論に通ずる者同士意気投合し、同級生で深く語らうことができる友を見つけたということで、思うがまま、考えるがままに考えを話し合う。すっかり将輝は置いてけぼりだが、向上心が高いため、必死に理解して自身の糧にしようとしていた。
そんな話にひと段落着くと、文也がそういえば、と少し真剣なトーンになって真紅郎に注意する。
「俺がここに来てんのはお忍びだから、外ではオフレコでよろしくな」
「え、何? なんか事情でもあるの?」
なんだか急にきな臭い話の気配を感じた真紅郎は、戸惑いながら問い返す。
「いーや、逆。なんの事情もないからまずいんだ」
「井瀬、それだと分かりづら過ぎる」
文也の説明に余計戸惑った真紅郎を見かねて将輝が注意すると、文也はそういえばそうだと補足説明を始める。
「ここの研究所、一応研究設備の中では比較的機密度が高いんだ。本当なら、部外者は入っちゃいけないだろ?」
「うん、そうだね」
「でも、ここは佐渡。北陸だ。一条家のテリトリーだし、この研究所も一条家が相当金出してるから、マサテルがいるのはまあ仕方ないって話になるよな?」
「マサキだ!」
「で、ジョージ、お前は、父ちゃんと母ちゃんがここで働いてるんだろ? まあ身内だし仕方ないかってなるだろ?」
「まあそうだね」
魔法と言う軍事的に重要な分野の中でも機密度が高い割には、ずいぶんと適当な話だ。しかし、第三次世界大戦から時間が経ち、烈火のごとき世界情勢が小康状態になって久しく、ついつい人々の心には油断が生まれているからこその話である。
本当に重要な部分はまだまだ固いが、それでも現場レベルだと少しずつ緩みが出てきてなあなあで済むようになり、その空気は国家の上層部にも広がりつつある。例えば、先の大戦で戦争相手だったはずの大亜連合や新ソビエト連邦に近い日本海という場所に浮かぶ離島でしかも機密度が高い研究施設があるにも関わらず、この佐渡にある基地に配備されている軍の規模は小さい。最初は気合が入っていたのだが、予算の都合でだんだんと削られていったのだ。
「じゃあ、俺はどうかって言うと、実は完全に部外者だ。親父がここの人と仲いいから、俺がわがまま言って無理やりねじ込んでもらったってだけなんだよ。さすがにまずいだろ?」
「た、確かに……」
緩みに緩んでいるといえど、それでも機密施設は機密施設。完全な部外者が闊歩しているとなれば、それは問題だ。大人の責任だけでは済まされず、文也自身も不利益を被るかもしれない。子供だからと言って容赦してもらえるほど、この社会は寛容ではないのだ。
「というわけで頼むわ。何があっても言わないでくれ」
文也の頼み方は軽い口調だったが、その内容は切実だ。
「わかったよ」
わざわざ人が困るようなことを何のメリットもなしに口外するような趣味はない。
真紅郎は文也の念押しを、しっかりと受け入れた。
☆
「ふみくん自身がしゃべってるじゃん!!!! 今!!!!!!」
「まああーちゃんならいいかなって」
「毎度のことながら思うけど、ふみくんって秘密管理緩すぎない?」
ついに我慢しきれなくなったあずさが文也に突っ込みを入れる。
幼馴染相手に油断してうっかり『キュービー』がばれるわ、九校戦で遠慮しなさすぎるわ、そのせいで達也たちに『マジュニア』がばれるわ、そして今の会話で自らオフレコを破るわ、あまりにもオープンすぎる。隠す気は果たしてあるのだろうかと疑いたくなるほどだ。どうやら国内外問わず『普通じゃない』集団に『マジカル・トイ・コーポレーション』が探られててそれでも秘密がばれていないらしいが、あずさからすればとても信じられない。こう言っては何だが、スパイたちのレベルがちょっと低すぎるのではないだろうか。
「ちなみに、じゃあ佐渡で会ったっていうのは秘密だとして、二人と知り合ったのはどこって設定にしてるの?」
「研究者肌同士、まず中学生向けの研究所見学会でジョージと会って意気投合して、そこ経由でマサテルと会ったことになってる」
「ふーん、一応口裏は合わせてるんだね」
「あーちゃん辛辣スギィ!」
文也はそう叫び、大げさにのけぞって見せる。昔からの、いつもの様なやり取りだ。
そんなやり取りをあと数往復して、話は元に戻る。
「さて、これがまた不幸なことに、俺たちは数日そこに居座って存分に知識を吸収しようとした。そのせいで、巻き込まれちまったんだよ」
文也の言い方は軽いものだが、その声はやはりどこか固い。
あずさも、この後起こる事件の結末は知っているため、余計な口をはさむことができなくなった。
「俺たちがいた佐渡に、どこぞの軍が奇襲を仕掛けてきたんだ」
佐渡侵攻事件。その話が、今、あずさに明かされる。
今回からしばらくは、文也と将輝・真紅郎コンビの出会いの話です