マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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3-サド・サド・サード-2

 あれから数日間、三人は見学し、時には研究員に自ら質問し、それぞれの知性を深めた。時に文也が悪戯をして、それを将輝が止め、それを見た真紅郎が文也をたしなめる、という流れがたびたびあったりと、忙しい数日間だった。

 

 そして翌朝には三人とも帰るという最終日の夕方。

 

 突然研究所内に、警報が鳴り響いた。

 

 何事かと全員がうろたえているうちに、放送で音声が届く。

 

 慌てており声が裏返っているが、その内容は、全員に衝撃を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら国防軍佐渡基地! 何者かによって北方から奇襲侵攻された! 規模は不明! 緊急コードレッド! 全員直ちにひな――クソッ、ぎゃああああ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴とともに、拳銃の音が鳴り響き、放送した男の悲鳴が鳴り響き、途切れる。

 

「全員避難準備! 荷物を全部おいて全員即座に脱出する!」

 

 放送が途切れた直後の一瞬の静寂。そのパニックが起こる直前に、即座に所長の男性が全員に指示を飛ばした。

 

 繰り返された避難訓練の通りに研究者や職員たちはあわただしく準備を始める。

 

「君たちは最優先で避難しろ。僕についてきて」

 

 研究者の一人が、すぐに三人に近寄ってきてこの場から連れ出す。子供である文也たちは、最優先避難対象だった。

 

「い、いったい何が?」

 

「わからない。ただ手際からして、どこかの国によるゲリラ侵攻だと思う。まあ君たちはそれを気にしなくていいから、早く避難しよう」

 

 将輝の問いに、研究者は首を振りながら答える。

 

「やっぱ、ここに配備されてる軍じゃ相手できねぇな?」

 

「そうだ。だから一刻も早く避難しなければならない。君たちは最優先で安全が確認された岸から船に乗って脱出をする」

 

「の、残った人たちは!?」

 

「……君は、吉祥寺さんの息子か。……君たちよりは遅れると思うけど、大丈夫。万が一船に乗り損ねても、ここの地下シェルターは国内有数だからね」

 

 駆け足のままではあるが、研究者は笑顔を浮かべ、安心させるように真紅郎の頭を撫でながらそう言った。その手は走りながらだったせいか、小刻みに震えていた。

 

「大変だ!」

 

 そんな四人が目指す方向から、研究者ではないが職員であろうスーツの男が血相を変えて走ってくる。

 

「何があった?」

 

 文也たちを連れた研究者は笑顔を消し、真剣な顔で問いかける。

 

「え、沿岸監視隊からの連絡で――ほかの方向からも小規模部隊が攻めてきて、船が全部やられた!」

 

「そ、そんな……」

 

 スーツの男の言葉に、四人は血相を変える。

 

 脱出用の船がない。

 

 つまり……国防軍が陥落したこの孤島から、脱出できないということだ。

 

「くっ、想定以上に手慣れた連中だ。仕方ない。すぐに地下シェルターに行こう。ついてきて」

 

 研究者は歯噛みし、即座に方針を切り替え、元来た道を戻って走り出す。

 

 しばし絶望で固まってしまったが、半ば無意識に、大人たちに引っ張られる形で文也たちも遅れずについていった。

 

 研究所の見取り図は頭の中に入っている。地下シェルターへは、この南口大通路からだったら、メインルームに戻ってそこから行くのが一番の近道だ。

 

 そして、研究者とスーツの男、文也たちがメインルームについた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオオオオオオオッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と大きな爆発音とともに、建物全体が大きく揺れた。

 

 なんだ、と叫ぶことはなかった。

 

 何が起こったのか、この場にいる全員が理解したからだ。

 

 大きな音がした方向、メインルームの北側の隔壁に、大きな穴が開けられていた。

 

 佐渡に、どこかの国が攻めてきた。国防軍の基地も突破された。

 

 その目的は? 基地を突破した後に行く場所は?

 

 当然、この、魔法研究所である。

 

「なんてことだ! 早すぎる! これなら最初からシェルターに向かえばよかった!」

 

 研究者の言葉の意味を、文也たちは理解している。

 

 自分たちが向かおうとしていたのは南口。敵が攻めてきた方向と逆側に即座に逃げようとした。

 

 その判断の早さが、逆に災いしてしまった。

 

 南口から逃げても船はない。余計な道を進んでまた戻るということをしてしまったがために、こうして賊と相対してしまった。

 

 真紅郎はここにきて初めて、ようやく湧き上がる恐怖を実感した。

 

 開けられた大穴の先には、幾人ものシルエットが見える。その全員が、軍用の装備と銃を携えている。

 

 そしてその銃口が、一斉にこちらに向けられ――銃弾の雨が、メインルームに襲い掛かった。

 

 真紅郎はとっさにCADを操作して対物障壁を展開する。周りを守るほどの余裕はなく、自分の体の前だけだ。

 

 そんな対物障壁を――障壁魔法を貫通する目的で威力を増幅させた貫通力の高い銃弾が、真紅郎を撃ち抜いた。

 

「ああああっ――――」

 

 真紅郎はあまりの痛みに悲鳴を上げる。

 

 脚が今まで味わったことのない激痛に襲われ、そのせいで意識が遠のく。

 

 

 

 

 

 

 

 

(父さん……母さん……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄れゆく視界の中で、真紅郎はメインルームの最前線で応戦する両親の姿を見つける。

 

 そのまま真紅郎の意識は、闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真紅郎が目を覚ました時に最初に見たものは、見たことのない天井だった。

 

 今までいた研究所に比べるとはるかに簡素なデザインと照明で、どこまでも味気ない。

 

 そんな感想を未覚醒の頭で抱くや否や、直前まで起こっていたことを思い出し、一気に意識が覚醒して体を起こそうとする。

 

「っ!」

 

 しかしそれは、体に走った激痛によって失敗し、中途半端に起こした体をまた倒すことになった。

 

「起きたか」

 

 そんな真紅郎の顔を覗き込んだのは、目つきの悪い黒髪の童顔だった。

 

「…………文也、か」

 

 ここ数日の中ですっかり気が合い、真紅郎は文也を下の名前で呼ぶようになった。

 

 真紅郎を覗き込む文也は、その童顔の頬にかすり傷を作っている。よく見たら、肩や脚の服も破れており、その奥には包帯が巻かれていた。

 

「ここは研究所の地下シェルターだ。あのあと何とか逃げ切ってな。マサテルがお前を担いでここまで運んでくれたんだ」

 

「そうか、将輝が」

 

 真紅郎は今度はゆっくりと起き上がり、自分の体を確認する。

 

 左脚がギブスで固定され、包帯で包まれている。あの時、魔法を貫いて威力が減退しなかった銃弾が脚を傷つけたのだろう。重傷だが、命に別状はない。貫通力があるから体内に銃弾残らず、また急所には当たらなかったのが幸いしたのだ。もう少し上にずれて太もも、さらには付け根に当たっていたら、太い血管が貫かれて失血死していただろうし、骨に酷い影響が出て一生歩けなくなるかもしれなかった。

 

「あれから研究者や職員や警備員たちで侵入者を撃退して、生き残ったやつらでここに逃げ込んだ。将輝の『爆裂』も強かったし、魔法を研究してるだけあって研究者たちも強かった。今はお前が倒れてから五時間後だ」

 

 あのまま黙ってやられて逃げていたわけではない。

 

 非戦闘員を後ろに置き、戦える者たちで、侵略者たちに応戦した。

 

 離島の軍事的な側面が強い研究所の職員や警備員なだけあって、本職とはいかずともかなり戦える逸材ばかりだ。魔法理論に深い知識と経験を持つ研究者たちもまた魔法の名手であり、何よりもすでに一流の戦闘魔法師にも届きうる将輝の『爆裂』が大活躍して、侵入してきた侵略者はひとまず追い返した。

 

「い、生き残った、ってことは……」

 

「………………ああ。残念だが、半分以上が死んだ」

 

「……そうか」

 

 生き残ったやつらで。

 

 文也はそう言った。

 

 つまり、生き残れなかった者もいるということだ。

 

 相手は何者かわからないが、個人の戦闘能力もチームとしての練度も、生半可なものではなく、おそらく戦闘、そして『戦争』のプロだった。

 

 それに対して、本職でない研究者や警備員・職員、それに中学生である文也や将輝では楽に叶うはずもなく、半分弱の人が命を落とした。

 

「ジョージ!」

 

「あ、将輝」

 

 どこかに出かけていたらしい将輝が、真紅郎が起き上がっているのを見て駆け寄ってくる。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん、とりあえず大丈夫だよ」

 

「そうか。よかった」

 

 将輝は真紅郎の横にかがんで問いかける。真紅郎の答えを聞いた将輝は、安心したのか、そのまま全身の力を抜いてへたり込んだ。

 

「マサテル、どうだった?」

 

「ダメだ。何も答えやしねぇ」

 

「そうか。じゃあ次は俺がやってみよう」

 

 文也は将輝に代わるように立ち上がると、将輝が来た方向へと肩を回しながら歩いて行った。

 

「どこ行ったの?」

 

「敵を一人生け捕りにすることができてな。警備員を中心にして色々聞いてんだけど、何も答えないんだ」

 

「なるほどね」

 

 文也が分厚い扉の奥に消えていく。この地下シェルターはかなり大規模なようで、研究所にいる全員を収容し、かつ目的に応じて使えるよう何部屋かに分かれている。真紅郎が寝かされているのは一番大きなメインの部屋で、周りを見渡すと、真紅郎と同じように重傷者が応急処置を施されて毛布の上で寝かされている。

 

「あいつ……井瀬はすごかったぞ。応戦の時も、強力な魔法と言うわけでもないけど、的確な場面で的確なところに的確な魔法を使ってたし、時々全体に指示を出してた。あいつがいなかったら、もっと犠牲者は増えていたかもな」

 

「それはすごいね」

 

「ああ。俺らで対応できない隙になってる部分を見つけて埋めたり、反撃のサポートをしたりしてくれたんだ。あと、ここに逃げ込んでからの応急処置もあいつが一番活躍した。少し見ただけで、どこがどんな怪我をしてて、それにどんな治療をすればいいか、ってのをすぐに見分けて治療の指示をしてた。それにあいつ自身でやった処置が一番速いししかも正確だ。どっかで医療の勉強でもしたのかもしれないな」

 

「へえ……」

 

 本当に何者なのだろうか。

 

 そんなふうに真紅郎がぼんやり考えていると、将輝が何やら思いつめたような顔をしていることに気づいた。何か苦しいことをするべきかどうかと迷っているような表情だ。

 

「どうしたんだい、将輝?」

 

「あ、えっと……」

 

 真紅郎に問われ、将輝はわかりやすいほど動揺した。

 

「ジョージ、ちょっと、ついてきてくれないか。ほら、松葉杖」

 

「え、あ、うん」

 

 将輝に助け起こされ、真紅郎は何が何だかわからないまま松葉杖を受け取り、不慣れながらもゆっくりとついていく。このシェルターには緊急時に備えてこんなものまで用意してあったのだ。

 

 将輝に促されるがままついていったのは、文也が行った方とは反対側の扉だ。

 

 将輝は、まるで誰かの視線を気にするようにメインの大部屋をきょろきょろと見回すと、その部屋の扉を松葉杖の真紅郎がギリギリ通れる分だけ開けて中に通す。

 

 その部屋の中を見て、真紅郎は言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その部屋の中では、敷かれたシートの上に、顔に布をかぶせられた大量の死体が横たえられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ」

 

「ここは……死体安置所だ。なんとかメインルームから運び出せたのだけでもこれだけある」

 

 将輝は心底悔しそうな声でそう説明する。自身が防衛の主役だったため、この惨状に責任を感じているのだ。

 

 しかし将輝のその感情に、真紅郎は気づく余裕がなかった。

 

 並んだ死体の中に、見覚えのある姿がある。顔に布がかぶせられてても、すぐにわかった。

 

 真紅郎の父親と母親が、この部屋の一角で、顔に白い布をかぶせられて横たえられていた。

 

「そんな、父さん、母さん!」

 

 真紅郎は松葉杖をもどかしく思いながらそのもとに駆け寄り、しゃがみ込む。乱暴に布をはがして確認すると、その下から現れた顔は、信じたくないが、安らかな顔をした両親だった。

 

「お二人は立派だった。研究所で最高の魔法師として積極的に前線に立って奮闘した。お二人がいなかったら、俺たちは全員死んでいただろう」

 

 両親の遺体に縋り付き茫然とする真紅郎に、あとから追いついた将輝が、悲痛な声で真紅郎の両親の活躍を伝える。

 

 真紅郎は優秀な魔法師の卵だ。そんな彼を産んだ両親もまた優秀な魔法師であり、この研究所の中でもその実力はトップクラスであった。

 

 そのため先の戦闘でも積極的に前線で活躍し、ひとまずの撃退とシェルターへの撤退に大きく貢献した。

 

 しかし彼らはその代償に大きく負傷し、命を落とすこととなってしまった。

 

「真紅郎」

 

 将輝は、いつものあだ名でなく名前を呼ぶ。

 

「戦いが終わった後、ご両親は今際の時、お前の無事を確認すると、この……っ、安らかな顔を、浮かべて、亡くなられた」

 

 必死で感情を抑えた悲痛な声が、ついに涙声になる。

 

 それにつられて、ついに真紅郎は理解した。

 

 両親が、死んだ。

 

 理解した瞬間、涙があふれ出した。

 

 それに遅れて、嘆きの叫び声が、喉からあふれる。

 

 死体安置所には、泣き叫ぶ声とすすり泣く声、二つの泣き声が、そこから数十分、空しく反響した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「井瀬、戻ってきてたのか」

 

「マサテルか。……ジョージはどうだ?」

 

「マサキだ。……しばらく、ご両親と一緒にいるそうだ」

 

「…………そうか」

 

 将輝が一人死体安置所から戻ると、ちょうど文也が反対側のドアから戻ってくるところだった。

 

 将輝が現れたドアから事情を察した文也は真紅郎の様子を尋ねるが、将輝の返答を聞くと、ただ頷いた。

 

「で、井瀬。なんか聞けたか」

 

「ああ、少しだけな。でも国籍だけは意地でも割らなかったよ。よっぽど『隠す』のが大事らしい。装備もいろんな国のチャンポンだし、言葉もきれいなネイティブイングリッシュだった」

 

「それでも少しは聞けたのか……」

 

 一応取り調べなどの訓練もしている警備員相手にすら口を割らなかったのに、いったいどうやったのだろうか。

 

 将輝はそんな疑問も浮かぶが、そのまま文也の話を聞くことにした。

 

「部隊の規模は小数と言えば少数だが、ゲリラの精鋭を集めてるらしい。今回の作戦の第一目的はこの研究所の確保と研究成果や設備の奪取、第二目的はこの島そのものだ」

 

「なるほど」

 

「作戦の手はずは、まず小規模の精鋭部隊による電撃作戦で基地と研究所を占拠し、あとから二百人規模くらいの本隊が上陸する予定だそうだ。装備は対魔法師に特化したものが多くて、貫通力特化のハイパワーライフルが主兵装。相手にも相当数魔法師がいるからアンティナイトは使わないとよ。本隊の上陸予定は明日らしい」

 

「明日、明日か……」

 

 将輝は頭を悩ませる。

 

 ここに避難してから、まず真っ先に本土へと連絡を送った。本土もやはり寝耳に水みたいで、かなり大慌てしている。しかも沖縄方面も大東亜連合から侵略を受けているみたいで、国防軍の対応が追い付いてないらしい。

 

 そこで、北陸方面を守護する十師族・一条家の当主で将輝の父である一条剛毅が立ち上がり、国防軍に強く要請して連隊規模の対抗部隊を編成してもらうことになった。さらに剛毅も、自身を中心に一条家の長として義勇軍を組織することにしたという。

 

 ただしやはり沖縄の件もあって向こうも混乱しており、国防軍の派遣には時間がかかる。

 

 そこで、まずは身軽に動ける剛毅率いる義勇軍と一部の国防軍が明日こちらに向かってきて奪還作戦を行うと連絡を受けた。

 

 敵本隊の上陸と奪還部隊の到着が同時。

 

 これは間違いなく、大きな戦争になる。

 

 敵の犠牲はどうでもいいとして、こちらも相当数の犠牲を覚悟しなければならない。

 

「聞けたのはこれだけだ。ゲリラ専門なだけあって相当口が固かったよ。駆け引きとか知らないから俺にはこれくらいしか無理だ」

 

「いや、これだけ聞けただけでもありがたい。今から本国に連絡する」

 

「おいよ。じゃあ俺は疲れたからさすがに休むわ」

 

「ああ、ゆっくりしろ。ご苦労」

 

「おう。お前も早くゆっくりしろよ」

 

 そんな会話を交わすと、文也は大部屋の隅っこに向かって歩いて行って毛布をかぶり、そのまま寝転んだ。

 

 将輝はその姿を見た後、また別の部屋に行く。その部屋は緊急時用のコントロールルームで、何者かに襲撃されて占拠されたときはいつも使っている場所のコンピューターのシステムアクセス権をすべて遮断し、こちらにすべて移るようになっているのだ。またハッキングやジャミング、盗聴対策として、複数の回線から本国に連絡が取れるようになっている。

 

 ただし今はその機能の一部が使用可能状態になっておらず、部屋正面を埋め尽くす多数のモニターも全部がついているというわけでもなく、持て余している状態だった。

 

「失礼します。一条です」

 

「ああ、どうぞ」

 

 その部屋には何人かの研究者や職員がいた。彼らはこの緊急事態の中でリーダーシップを発揮して全体の統括を任された人物だ。

 

 ただし、本来想定されていた役割だった人物はこの中でごく少数だ。運の悪いことに、所長や室長、警備長などの普段からリーダーの役職にいて、緊急時にもリーダーをやるはずの人物は亡くなってしまい、今は臨時で参加している者がほとんどだ。

 

 そしてそんなリーダー集団の中には、将輝も含まれている。

 

 部外者で、しかも中学一年生である彼が大人たちに混ざってしかも緊急時のリーダーシップを執るというのは、本来ならありえない。

 

 しかし、将輝は一条家の長男にして次期当主としてこういった事態の対応は幼いころから訓練されており、また生来の『将』としての資質やカリスマ性から、この集団の中でも高いリーダーシップを発揮し、さらに認められているのだ。

 

「生け捕りにした捕虜から情報を入手しましたので、至急本国に連絡をしようと思います」

 

「ああ、わかった。ほら」

 

 ちょうど本国との連絡をしていてそれが終わったらしい男性が将輝に受話器を渡す。

 

「変わりました、一条将輝です」

 

「おお、将輝様ですか」

 

 相手は、将輝もよく知っている相手だ。一条家の私設軍の軍人で、将輝によく様々な訓練をしてくれる男だ。一条家のことをよく慕っていて将輝のことも大変心の底から丁寧に扱っているが、訓練になると鬼のように怖い人物である。

 

「捕虜から情報を聞き出せましたので報告をいたします」

 

 将輝はそう言って、文也から受けた報告をする。

 

 それを終えると、将輝は他の報告があるらしい人に受話器を渡し、一息ついた。

 

「もうだいぶ様になってるじゃないか」

 

「そんな、まだまだですよ」

 

 将輝は、先ほどまで本国と連絡をしていた男性から穏やかな笑顔で話しかけられ、それに謙遜で応じる。何やら話があるらしい雰囲気を感じ、将輝は彼の隣の空いている椅子に腰を掛ける。

 

「やっぱり一条家の長男だから、普段から練習とかしてるのかい」

 

「はい、そうです。先ほどの本国の人、実はよく教えてくれる人なんですよ」

 

「へえ、穏やかそうな声だったけど、案外厳しいのかな?」

 

「訓練になると鬼のようですよ」

 

「意外だなあ」

 

 将輝が話しているこの相手は、ここにいる中では数少ない、もともと緊急事態にリーダーの一角をすることを任されている研究員だ。この研究所にある研究室の中の一つの副室長でしかないのだが、人柄や人格は信頼を得ている。

 

「ところでさ、僕はさっき、本国に生存者と死亡者の連絡をしていたんだけどね」

 

「はい」

 

 和やかな雑談から一転、笑みを真剣な顔に変えて、その男性は将輝に問いかける。

 

「井瀬君のこと、本当に知らせなくてよかったのかい? 彼はまだ子供だ。親御さんも心配しているだろうに」

 

「いえ、それの方がいいんです。本人もそう言っていました。あいつはお忍びですから。それに、一応僕の父親にだけは連絡してはいるので」

 

「そうかい、それならいいけど」

 

 生存者と死亡者の報告をする際、文也に関しては何も触れないで、いないことにして欲しいと、文也自身から頼まれた将輝は、事前にここの彼らに頼んでおいた。しっかり伝えないでくれたようで一安心だ。

 

「まあ話はこれだけなんだ。すまないね。もう遅いから、君は明日のこともあるし、もう休むといい」

 

「はい、失礼します。あなたももう休んだ方がいいですよ」

 

「そういうわけにもいかないよ。いかんせん、リーダー組の中でも権限が低いのしか生き残らなかったから、このコントロールルームの重要なシステムがまだまだほとんど開けていないんだ。開け方やらなにやらはまだ教わる段階じゃなくてね。しばらく格闘が必要だよ」

 

「そうですか。ご無理なさらず。では」

 

 最後にそう言葉を交わして、将輝はメインの大部屋に戻った。

 

(ふう……今日はいきなりだったな)

 

 将輝は手ごろな壁に寄りかかり、脚の力を抜いてずるずると座り込む。

 

 いきなり初の戦闘をし、避難してからもいろいろと気を張りながら仕事をしたものだから、ここにきてどっと疲れが押し寄せてきた。

 

(親父は、いつもこれ以上のことをやってるのか……)

 

 俺はまだまだだな。

 

 そんなことを考えながら、しばし大部屋を見回す。

 

 すると、ふと、大部屋の隅っこで小さな体をさらに縮めて毛布にくるまって寝ている文也に目が留まる。壁に体の前面を向けこちら側には背を向けているので寝顔は確認できないが、もう寝ているのだろう。

 

 文也もまた、中学生なのに、将輝と同じぐらい働いていた。

 

 的確な魔法で援護をし、避難してからは自身も迅速に応急処置しながら全体に指示を出し、それが落ち着いたと思ったら次は捕虜の尋問。あの小さな体で大活躍をして、かなり疲れただろう。

 

 そして文也に意識を向けたことで――この大部屋の空気の違和感に気づいた。

 

 なんとなくみんな文也から離れ、目をそらし、話題にしないようにしているようだ。まるで腫物扱い……避けているようだ。

 

(いったいなんだ)

 

 奇妙な話だった。

 

 確かに文也は普段から職員にまで悪戯をしかけて迷惑をかけていたが、子供の可愛い悪戯程度にしか扱われていなかった。むしろ、たまにミスを指摘されたりアドバイスを受けたりして職員たちは文也に感謝をし、親しみを抱いていた。また襲われてからも文也が活躍、特に応急処置の件からはみんなから認められ、かなり信頼されていたはずだ。

 

 それなのに、いきなりなぜ?

 

 こんなふうに切り替わるタイミングといったら……自分が死体安置所にいっていたときか、コントロールルームにいっていたときくらいだ。

 

 そこで将輝は、そばにいた女性に聞いてみることにした。

 

「あの、すみません」

 

「はい、なんですか?」

 

「あそこにいる井瀬について何ですか、なんか、こう……みんな、あいつへの雰囲気が、あー、変というか、避けてる感じがしてですね……」

 

「あ、あー……ま、まあ私たちも悪いとは思っているんだけど……。あの子がいなかったら、間違いなくもっと人が死んでいたと思うし、間違いなく命の恩人だわ。こうして縮こまっているだけの私たちと違って、あの子はここに来てからも色々やってくれたし」

 

「それなら、なんで?」

 

 将輝はつい、語気を強めて問いかけてしまう。女性の答えが歯切れが悪いというのもそうだが、やはり、働いてくれた文也に対するこの態度がどうしても気に障るのだ。

 

「う、うーん」

 

 女性はしばし迷いながら文也のほうに視線をやる。そのまましばらく話すか話すまいか迷ってから、彼女は口を開いた。

 

「あの部屋、生け捕りにした捕虜がいるんでしょ? 警備員さんとかが取り調べても何も答えなかったって言う」

 

「はい」

 

「あの子があの部屋に入った後、少ししたら……ちょうどあなたたちが安置所に入ってすぐくらいね、取り調べていた警備員さんや職員さんがみんな部屋から出てきたのよ」

 

「へ?」

 

 妙な話に、将輝はつい間抜けな声を漏らしてしまう。

 

 自分が真紅郎を死体安置所に連れて行っている間に文也は取り調べに参加していたとは考えてはいたが、もともと取り調べをしていたメンバーと一緒にしたものだと思っていた。しかし、文也はどうやら一人でやったらしい。

 

 いったいなぜ、と思いながら、その続きを促す。

 

「それでね、その、それからまたしばらくして…………すごい苦しそうな大声が、あの部屋から聞こえてきたの」

 

「そ、それって……」

 

 この地下シェルターは一つ一つの部屋もシェルターとして機能するように分厚い壁で区切られている。当然防音性能も高く、早々音が漏れ聞こえてくるはずがない。

 

「やめろ、やめてくれ、助けてくれ、みたいな声も聞こえたわ。この分厚い壁越しだから小さくしか聞こえないけど、相当な大声だったと思うわよ。で、みんな疲れてるからこの大部屋も静かでね、結構聞こえちゃうのよ。みんな弱ってる中、十何分間そんな声が聞こえちゃうものだから……『それ』をやったんだろうあの子に、みんなすっかりおびえちゃって……」

 

 将輝はその様子を想像し、背筋に寒気が走った。

 

 いきなりの襲撃と多数が死んだ激戦の後、地下シェルターに逃げ込む。大部屋にそこそこの人数が集まってもみんな弱って声をほとんど発しない中、急に分厚い壁越しにくぐもって聞こえてくる苦痛の悲鳴。そしてその部屋には、生け捕りの捕虜と、小さな小さな中学生の少年しかいない。それもその少年は、ついさきほどまでヒーローのごとき働きをして信頼を集める少年だ。

 

 そんな少年が、何をやっているのか。聞こえてくる悲鳴から、容易に想像がつく。

 

(まさか……拷問?)

 

 口に出して明確な答えをおびえる人々には聞かせないように、あえて心の中でつぶやく。

 

 文也はなんと言っていたか。

 

『駆け引きとか知らないから俺にはこれくらいしか無理だ』

 

 駆け引きはできない。だが、『押す』ことはできるのだ。

 

 文也は、何らかの方法でゲリラのプロですら口を割るほどの耐えがたい苦痛を与え、情報を抜き出したのだ。

 

(いったいどんな方法で……)

 

 思わず、また文也を見る。姿は変わっていないのに、将輝はその小さい背中に思わず恐怖を覚えてしまう。

 

 あの分厚い壁と扉で仕切られた部屋で、いったい何を行ったのだろうか。

 

 いったいどんな表情で、どんな感情で、それを行ったのだろうか。

 

 恐怖にも似た疑問が将輝の脳内を渦巻く。

 

 そしてふと、気づいた。

 

 今の自分の思考が、先ほどまで自分が嫌悪していた者たちと同じものになっていることに。

 

 親しみを覚え、信頼していた少年。彼のおかげで命が助かったといってもいい。

 

 それなのに、たった一回の行動で恐怖を覚え、避けてしまいそうになる。

 

 そのたった一回の行動も、考えてみれば、この緊急事態でより情報を得るための行動であり、みんなのための行動なのに。

 

(いや、だめだ、だめだ)

 

 将輝は頭を振って恐怖を振り払う。

 

 助けてもらっておいて避けるだなんて、そんなのは許されない。他のものにまで心を強く持てとは強制はしない。だがせめて、自分だけは、彼と向き合うべきだ。

 

 命を救った、小さなヒーローに。

 

 将輝はふらふらと立ち上がって積まれた毛布を一枚とり、それにくるまって寝転がり、雑念から逃げるように眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃弾の雨を強力な障壁魔法でしのぐ。

 

 しかし周りはそうはいかず、つい数分前まで和やかに話していた大人たちが、全身のいたるところを撃ち抜かれて次々と血を噴き出して倒れていく。

 

 いきなりのことで戸惑いながら、半ば反射で、一番の得意魔法を行使する。

 

 すると敵兵士が何人かが、次々と急に体を膨張させ『爆裂』し、赤血球を噴き出して倒れていく。一瞬にして体が内側から膨れ上がって爆発する、という事態に敵兵士は理解が追い付かず、ただ遅れて訪れる痛みに悶え、そのまま死に至る。

 

 有効であることを確認した将輝は、混乱する敵兵士たちにそのまま『爆裂』を行使し続ける。次々と赤血球を噴き出して内側から膨張して爆発するが、しかし生き残った兵士から再び銃弾の雨が降り注ぎ、また周りが倒れ、体を血に染めて息絶える。

 

 部屋中が、敵味方の血で真っ赤に染まる。死んだ知り合いたちの血が、爆発して吹き飛ぶ敵の血が、自身に降りかかる。

 

 集中力が増す中、自分の魔法で内側からの膨張で苦しみ死んでいく、敵兵士の顔がはっきりと見え――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――はっ!」

 

 眠りやすいよう明かりが少し落とされた地下シェルターの大部屋の中、将輝は汗だくになりながら体を勢いよく起こした。

 

「はっ、はっ、はーっ……夢、か」

 

 将輝はようやく冷静になり、息を整えてつぶやく。

 

 夢だが、まだ一日も経たないくらい前のことだった。

 

「…………」

 

 将輝は力の入らない脚で立ち、ふらふらと歩きだす。

 

 初めて、人を殺した。

 

 しかも、よりによって奇襲への反撃だったため、『人を殺す』という心の準備や覚悟が整っていない状態だった。

 

 敵は侵略者だ。いきなり銃を向けて、それで銃弾を躊躇なく浴びせてきた。

 

 将輝の反撃は、だれがどう見ても正当なものだ。

 

 しかしそれでも、『人を殺した』という衝撃は、将輝には重いものだった。

 

 それも初めてなのに、その殺害人数は十数人だ。

 

 しかも、その殺害方法は凄惨なもの。

 

 体内の血液を一瞬で気化し、内側から体を膨張させて爆発させる。

 

 血液の固体成分である赤血球が炸裂しそこら中に勢いよく飛び散る。

 

 その死のあり様も、死後も、どちらも惨い。

 

 この魔法『爆裂』は、まさしく人を殺すための魔法だ。

 

『爆裂』は一条家の秘術であり、一条家が一条家たるゆえんだ。

 

 この『爆裂』は、将輝のアイデンティティーであり、誇りだった。

 

 一条家の長男に生まれ、生まれながらにして当主としてのカリスマと才能を備え、またそれをいかんなく発揮し、一条家の次期当主として磨き上げた『爆裂』。その『爆裂』は、まさしく、こういう時のために使うものだ。

 

 しかし、そのことに将輝は、今、強い拒絶感を覚えた。

 

『爆裂』の効果は絶大で、多くの罪なき人々の命を救えた。大切な友達の命も救えた。

 

 しかし、自身のアイデンティティーと誇りとなる魔法が、あの凄惨な死にざまと死体を生み出したという事実。そしてそれをやったのは、自分自身であり、自分自身の意志でやったという自覚。

 

 この苦しみが、忙しさの蓋から解き放たれ、顕在化した。

 

 将輝が向かうのは洗面所だ。トイレとは別に設置された、手を洗ったり歯を磨いたりするための簡易的な水道もこのシェルターには用意されている。

 

 喉が張り付いたかのように渇く。ひどい吐き気がする。体が熱いのに震える。脂汗が滝のように流れる。

 

 これらに一挙に対処するために、将輝は水を求めたのだ。

 

(こんなんで明日はどうするんだ……気合、入れなおさないと)

 

 将輝は大きく息を吐いてからドアを開ける。

 

 するとすぐに違和感に気づいた。

 

 暗い部屋の奥の方から、水が流れる音がする。

 

 どうやら先客がいたようだ。

 

 ただしその姿は、明かりを落としているため見えない。手前側にいたなら見えただろうが、どうやら部屋の奥にいるらしい。

 

 将輝は誰だろうかと気になり、部屋の奥に入っていく。

 

 暗がりの中、その姿が少しずつ見えてくる。

 

 その背は小さい。蛇口から出る水にそのまま頭を預け、シャワーのように使っている。ただし頭を手で掻いたりせず、ただただ水に打たれているだけだ。雑に切りそろえた髪が水を含み、重みを増して下に垂れ下がっている。

 

「……井瀬か」

 

「…………ああ、マサテルか」

 

「マサキだ」

 

 先客は文也だったようだ。

 

 将輝が声をかけると、文也は蛇口をひねって水を止め、頭を振って水滴を落としてから振り返り、将輝だと認識する。

 

 少しだけバツが悪そうな顔をし、それからまた一度頭を振ってから、足元に置いていたタオルでわしゃわしゃと水を雑にぬぐう。

 

「井瀬、お前何やってたんだ?」

 

 文也の行動は奇妙だった。水道に来て、水を飲むわけでもなければ顔を洗いに来たわけでもない。頭を水道に預けて濡らしてはいたが、手は動かしていないので、特に頭を洗いに来たというわけでもなさそうだ。

 

「あー、その、あー」

 

 やっぱり尋ねられたか。

 

 そんな心の声が漏れ聞こえてきそうな顔と態度だ。

 

「そのー、な、寝てたら、こう、夕方にあんなことがあったから、寝覚めの悪い夢を見ちまってな」

 

「お前、まさか……」

 

「あー、うん、まあ、やっぱキツかったわ。だせぇよなぁ。いろいろ動き回って考えないようにしてたけど、夢に出ちまうんだもん。で、ちょっと頭冷やそうと思ってさ」

 

 そう言って、ははは、と渇いた笑いを漏らしながら、恥ずかしそうに頭を掻く。よく見ると、文也の顔色は悪い。笑ってごまかしてはいるが、相当堪えているようである。

 

「そんなことない。あー、その、俺も……夢に出てきてな。水飲んで顔洗おうと思ってここに来たんだ」

 

 将輝は文也の両肩を掴み、そう語り掛ける。

 

 文也は飄々と活躍していた。戦いにも躊躇がないように見えた。真剣な態度にはなっていたが、おおよそいつも通りに動いているように見えていた。

 

 しかし、そうでなかった。

 

 自分と同じく、文也も『殺し』の事実に苦しんでいたのだ。

 

 将輝は、文也のその苦しみや懊悩は決して恥ずかしいものでない、自分も同じだ、と知らせようとしたのだ。

 

「……お前もか。一条家ってのは神経が太いんだと思ってたけど、初めてだしやっぱこうなるか」

 

 文也は少し目を丸くして驚く。

 

 文也から見てもまた、将輝は特別な存在に見えていたようだ。

 

 一条家の長男で次期当主。こうした事態への対応もお手の物。

 

 将輝の内心は穏やかではないのだが、確かに、はたから見ればそう見えたのだろう。

 

「俺だって変わんないさ。侵略者であろうと、自分の手で人を殺したというのは、やっぱ堪える。それも、これから戦場に行きますとかそういう覚悟や準備すらなかったんだ。『初体験』のハードさで言えば、プロの軍人よりもハードかも知れないな」

 

「全くとんでもないところで童貞奪われちまったな。ボインボインの優しいお姉さんに導かれて、ってのがよかったのによ」

 

「お前は何を言ってるんだ……」

 

 文也の訳の分からない言葉に突っ込みを入れてから、将輝は水道から水を飲む。緊急用の水道であり、一応飲み水にもなるのだが、やはり緊急用なので美味しくない。

 

 しかし味気ない冷たい液体が喉を通ると、やはり幾分か気分がすっきりした。ついでにその冷たい水で顔を洗い、顔を冷やして脂汗も流す。

 

「じゃ、頭も冷えたし俺はまた寝るわ。少し話してすっきりしたわ。ありがとな。そんじゃ。お前も明日のこともあるんだし早く寝ろよ」

 

 少しだけすっきりした様子の将輝を見ると、文也はタオルを回して遊びながらそう言い残してその場を去っていく。

 

「…………確かに、な」

 

 話してすっきりした。

 

 それは将輝も同じだった。

 

 未だに、凄惨な戦いや死体は脳裏にこびりついてるし、体に降りかかったどろりとした感触はまだまとわりついている感じがする。

 

 それでも、同じ感覚を味わった者同士で共有することで、悪い気分がだいぶ晴れてきた。

 

(あいつもだったのか……)

 

 話してみてわかった。

 

 いつも平然としていて、平常時はやんちゃで、それでいて緊急時は誰よりも冷静に行動していた。あの小さな体でおぞましい拷問までして、それでも平然としていた

 

 何でもできて、冷静に事態に当たり、時には冷酷に拷問もする。

 

 将輝は、文也に畏敬にも似た恐怖を感じていたことに気づいた。

 

 しかし、そんな文也でも、『殺し』に苦悩を感じ、夜中に起きて、水を頭にかけて冷やしてまでいた。

 

 どこか『超常』の存在ではない。

 

 彼もまた、自分と同じ人間なのだ。

 

 心の中にたまっていた膿やしこりのようなものが、今のやり取りで流れだした。

 

 戦いは怖い。死ぬのも怖いし、殺すのも怖い。

 

 それでも、明日への覚悟は決まった。

 

 人生の中で、これ以上ないほどの決意が、自分の中で固まるのを感じた。

 

「明日は必ず……勝つ」




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