マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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魔法科高校の劣等生、二期が決まったそうですね
キリがよいところとしては、やはり来訪者編で終わりにするのかなーと個人的には思っています


3-優等生と悪戯小僧-1

「本日は申し訳ございません、うちの都合につき合わせてしまい……おかげさまで助かります」

 

「ううん、大丈夫ですよ」

 

「まー息抜きにちょうどいいだろ」

 

「お前はいつも息抜きだろ」

 

 夏休みももう折り返し地点に入った八月の中旬、文也とあずさと駿は、川崎の沿岸部に来ていた。

 

 百家支流である森崎家は、本業として現代魔法技術の研究を行い、副業としてボディーガード業を営んでいる。副業のほうがだいぶ有名なわけだが、その副業の副業として、魔法関連の福祉事業にも手を出していた。

 

 世間の魔法師に対する風当たりは強い。才能に依存する特殊技能に対する嫉妬が多分に含まれているが、ほかにも魔法師が軍事利用以外に大きな価値がないことや、非人道的なものも含めて人工的に開発されてきた過去などもあって、案外肩身が狭いのだ。

 

 それを憂慮した一部の集団、特に魔法によって権力を手に入れた数字付きやその支流は、魔法関連の福祉事業を行っているところもある。

 

 その福祉事業には大きく分けて二種類ある。

 

 一つは、魔法を利用した福祉だ。例えば、高額な機械がなくても大きな力を使わない介護を可能にしたり、治癒魔法で病院に貢献したりといった具合である。ただし、軍事的な部分外の面では、実は魔法は『あれば便利』くらいの価値しかない。技術的進歩によって、魔法でできることは、魔法が無くても大体何とかなるのである。先の例で言えば、大きな力を使わない介護はオートメーション化が普及した今は魔法がなくても少し金を出せば手軽にできるし、医療も発達して治癒魔法がなければいけないという場面はほぼない。金がなかったり、急いで怪我を治したい事情がある人向けのボランティアの様なものである。

 

 そしてもう一つが、魔法師のサポートだ。

 

 魔法師は世間の風当たりが強く中々生きづらいため、家族ぐるみで嫌気がさして魔法界隈から離れてしまうことがある。それすなわち魔法師という貴重な人材の喪失である。家族ぐるみとはいかずとも、異端を排除する傾向にある学校内で魔法師の才覚があるというだけでいじめに遭い、それがトラウマで魔法力や魔法師になる意欲を喪失したりする。いじめとまではいかずともなんとなく腫物扱いされることも多々あるため、魔法師の子供というのは多かれ少なかれ人間関係で苦労するのだ。

 

 そこで、子供向けに魔法への意欲が向くようなイベントを開催したり、メンタルケアのサポートをしたりするという福祉事業を営んでいる団体もあるのだ。これによって魔法への意欲が増してくれれば国家としての人材の獲得につながるし、若いうちから魔法の勉強に励んでくれるようになれば、人材の量だけでなく質も確保できる。

 

 そしてそのような事業には、魔法科高校も積極的にかかわっている。

 

 各校ごとにやっている内容は多少異なるが、九校どこも各々で考えて参加しているのだ。

 

 一高が毎年やっているのは、夏休みに開催する魔法力を持つ児童向けのイベントへのボランティア参加だ。これに参加すれば推薦にも有利だし、在学期間を通して一定時間以上参加したと認められれば単位認定もされる。

 

 参加対象のイベントはいくつかあるのだが、なんとそのうちの一つが、森崎家が運営にかかわっているものだったのだ。

 

 当然森崎家の一人息子である駿はそれに参加する。彼としてはこういった事業よりもボディーガードのほうで自らの腕を磨きたいし、性格も子供を相手にするとしては人当たりが良い方でもないのだが、視野を広げるためにと父親から指示されて参加した。人手が足りないという愚痴が漏れ聞こえてきたので、視野云々は間違いなく方便だ。

 

 そして、これもまたたまたまだが、このボランティアにはあずさも自ら参加することになっていたのだ。

 

 あずさが応募した理由は、実は特にない。推薦で有利になると言ったって生徒会役員は推薦を蹴るのが慣例だし、単位認定されるといってもあずさは余裕で成績を確保している。参加するメリットはまずない。

 

 ただ、なんとなく暇を持て余していたから応募しただけだ。九校戦スタッフだったから夏課題も免除されているし、論文コンペの代表にもサポートにも選ばれなかったし(評価自体は次席だったのだが、代表である鈴音の発表内容とあずさの論文の分野が合わなかったのだ)、新生徒会の準備があるといっても会計監査か副会長になるだけだから事前準備はほぼいらない。そうして持て余した時間を勉強に注いでいたのだが、一日ぐらい息抜きに参加しようとしただけである。

 

 人見知りをする方だから子供たちの相手をするのは嫌だったので、応募したボランティア内容は安全確保監視員だ。精神的にも技能的にも未熟な魔法師の卵が集まる場なので何があるかわからず、もし魔法的な暴走が起きたときにそれを止める役割だ。あずさなら魔法技能的に見ても文句はないということで、校内審査も無事通った。

 

 そして一次募集合格者でのミーティングが九校戦練習期間真っただ中の七月中旬にあり、そこであずさと駿は顔を合わせ、お互いの参加の事情を知った。二人は特に接点はないが、文也を通じてお互いのことを知っているのだ。

 

 そしてそのミーティングで教員が頭を抱えていたのは参加者不足だ。安全確保監視員は十分な人数が参加することになったのだが、肝心の子供たちの相手をする人員が不足していた。わざわざ夏休みの時間を削って子供たちの相手をしたいという生徒は少ないのである。

 

 そしてこの時、あずさと駿の脳裏に、ほぼ同時に悪魔的発想が浮かんだ。

 

(ふみくん連れて行けばいいんじゃない?)

 

(文也連れて行けばいいんじゃね?)

 

 そして二人の口からそれを提案したところ、ミーティングの空気は凍り付いた。

 

 あずさは生徒会役員でかつ(本人にその意思はないが)生徒会長候補であり、一高でも過去類を見ない優等生だ。真由美はどこか自由なところがあるし、深雪はお兄様が絡むと怖い。その点あずさは実に大人しく、無難な優等生という点で周りから信頼されている。

 

 駿は魔法主義が行き過ぎて空回りするきらいはあるが、実技も理論も大変優秀であり、また風紀委員の苦労人・ゲーム研究部担当として(半強制的に)一生懸命働いており、一年生男子を代表する優等生だ。

 

 そんな二人の口から出たのは、学校として行く外の活動、それも人様から預かる大切な魔法師の卵である子供たちの相手に、あのやんちゃ坊主を採用しようというふざけた案だ。

 

 まずは空気が凍り付き、その直後に火薬がたっぷり詰まった樽が着火したように反対の嵐が吹き荒れた。

 

 そして口々に反対を表明しながら、参加者の脳内にはある種の納得もあった。

 

 二人は優等生だ。しかしこの優等生二人、とんでもなく「悪いお友達」と深い付き合いがあるのである。

 

 その「悪いお友達」こそが、まさしく文也である。

 

 しかもこの二人は、九校戦のエンジニアとして文也を積極的に推していたという。およそ周りから見ればそれこそ「信じられない」が、二人は文也のことを信頼しているのだ。

 

 そうした「こいつらの考えを正さないと」という義務感も混ざった反対の嵐に、二人は「まあやっぱりね」みたいなことを思いながら反論した。

 

「皆さんのご懸念はごもっともですが、ふみく……文也君は子供の相手とかは好きですし、魔法のお手本としても技能も知識も十分です。さすがのふみく……文也君でも、子供たちを前にして変なことはしないでしょう」

 

 あずさの反論は、「素行不良だけど大丈夫か」、「本人はこういうの面倒くさがりそうだが大丈夫か」という反対意見に対するものだった。

 

 あずさからすれば、「魔法で子供たちを笑顔に」がモットーである『マジカル・トイ・コーポレーション』に幼いころから親しみ、さらにそこのエースエンジニアの片割れ『マジュニア』である文也は、子供の相手という点ではこれ以上ない適任だ。

 

 さすがにそれを前面に主張はできないが、文也がああ見えて昔から自発的に下級生の世話をよくしていたのも知っているし、上手くやっているのも見てきた。なにせ彼女自身がそれに付き合わされまくったからだ。また魔法の実力や知識という点では、この場にいる三年生も含めた生徒や教員は反論できない。九校戦の練習で魔法の実力を示し、定期試験で知識も示した。その示された力は、彼らも両手を挙げて降参するほどのものだ。

 

 そんなあずさの意見を援護する形で駿が口を開く。

 

「それにあいつは子供の相手とか得意ですよ。中学生のころから何回か面倒を見てるのを見ましたから」

 

 少し間を開け、駿がさらに口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんせ、あいつの精神年齢は小学生並ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言で、文也の採用が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、じゃあ今からCAD配るからな。許可するまでスイッチ押すなよ」

 

『はーい』

 

 川崎沿岸部の森崎家が運営している魔法訓練施設でそのイベントは行われる。

 

 いつもは無機質な訓練場も、今はわざわざこのイベントのためだけにカラフルな飾りがとってつけたようにそこかしこについている。去年のイベントアンケートで「内装が寂しい」という意見があったのに応えてのことだが、あいにくながら森崎家にそう言った方面のノウハウはなかったようで、小学校の文化祭にも劣るしょぼさである。

 

 ――そんなこんなで、いざイベントが始まってみると、周りの憂慮は杞憂とわかった。

 

 毎年参加している手慣れた三年生も参加者にいたが、実際に子供たちの相手を取り仕切っているのは文也だ。

 

 子供たちもすぐに文也になつき、多少のやんちゃをしてじゃれつきながらもよく言うことを聞いている。まず見た目が小さいので子供たちの警戒心をほぐし、そのあと上手に相手をして子供たちの信頼を得たのだ。「お兄さん」というよりも「ガキ大将」というほうが正しいような感じだが、よく言うことを聞いて安全かつスムーズに進行するなら何でもいいのだ。

 

「はい、これ、どうぞ」

 

「ここがスイッチだから、指示があるまで押さないようにな」

 

 あずさと駿は文也の合図を受けて、用意していたパステルカラーの玩具の銃型CADを子供たちに配る。あずさは穏やかな笑顔を浮かべ、駿は慣れない営業スマイルを張り付け、それぞれ上から見下ろす形にならないようにしゃがんで気を遣いながらだ。監視員のはずだったが、文也を引っ張り出した責任と「文也の」監視役としていつの間にか仕事内容をこちらに変更されていたのだ。ちなみにボランティア生徒たちは私服ではなく、このイベントのための共通Tシャツと帽子を着用している。例年は着用自由だったのだが、今年は身長が小学生みたいな高校生が二人ほど参加しているため、見分けをつけるために全員着用となった。二人だけ着用とならなかったのは、情けの様なものだ。

 

 そうした事情で共通のシャツと帽子をつけた二人の手から子供たちに配られたCADは、小児魔法教育用のCADだ。未熟な魔法師に魔法事故は付き物なのだが、このCADが普及してからは事故率が十分の一になった。

 

 このCADを開発し破格の廉価で発売したのは『マジカル・トイ・コーポレーション』だ。幾重もの安全対策が施されており、魔法を使う機能よりも安全対策のほうがコストが何倍もかかっている代物である。この川崎には『マジカル・トイ・コーポレーション』の工場と研究室を兼ねた施設もあり、そこから近所のよしみで無償で提供されているのだ。

 

 スイッチを押さないように、と注意はしたが、このCADはマスターコンピューターで一括管理されており、そちらで許可信号を出さない限り魔法は行使できない。念のための注意という形だ。

 

「全員受け取ったな? じゃあ今から実際に魔法を使って遊んでみるぞ」

 

 文也がそう言うと、子供たちは色めき立った。今まで大人の管理の下でつまらない基本的な魔法しか練習させてもらえなかった。しかし、今渡された銃型のCADは、今までやってきたような教育用の「おりこう」なものではない。

 

 文也とあずさが誘導して床に貼り付けたビニールテープの印の前に列を作って並ばせている間に、駿ともう一人のスタッフが準備をする。その準備したものは、大小の同心円が描かれた円盤、的だ。

 

 ビニールテープの目印に立ち、配られたCADを使って的を撃つ。

 

 子供たちの年齢ではまだやったことがないような実践的な魔法で、それは子供たちの魔法への意欲向上につながる。

 

 それも、事前に文也が説明した通りならば、使う魔法は『ドライ・ブリザード』だ。

 

 子供たちのあこがれの的、九校戦女子『スピード・シューティング』のスーパーヒロイン、『エルフィン・スナイパー』こと七草真由美がその競技で三年間使ってきた魔法だ。

 

 あのあこがれの『エルフィン・スナイパー』が使ってた魔法で、自分が的を撃つ。これが子供たちの興奮を誘っているのだ。

 

 本来ならこの年齢で的撃ちはまだするようなものではなく、また『ドライ・ブリザード』もこの年齢では難しい。しかし、このCADに登録されている『ドライ・ブリザード』は徹底的にダウングレードして子供でも使えるようにしており、また照準補助に加えて変数演算補助もついており、子供たちの演算は軽いもので済む。この場には魔法の腕に覚えがある監視員が何人もいるし、さらには魔法科高校の教員も傍で見守っている。ここまで状況を整えれば、的撃ちくらいならたやすいものだ。

 

 一人目の女の子が、さっきまで浮かべていた満面の笑みを消し、的をじっと睨んでCADを構えて狙いをつける。そしてしばらくそのまま深呼吸をすると、少し緊張をした様子で引き金を引いた。

 

 するとその女の子の周りでサイオン光がきらめき、銃口の先にドライアイスの塊が発生し、そのまま的へと放たれた。

 

 ドライアイスが無事的に命中し、的が倒れる。すると的の後ろに隠れていたメッセージが表示される。

 

『ヒット!』

 

「やったあ!」

 

「よーし、おめでとう、じゃあ次だ」

 

 女の子はまたぱっと満面の笑みを浮かべ、飛び跳ねて全身で喜びを表現する。文也はその女の子の頭を撫で、後ろに並んでいる男の子への交代を促した。

 

 その後は全員が一回ずつ的を倒すまで、『エルフィン・スナイパー』気分を味わってもらった。何人か一回で成功できなかった子供もいたが、あずさの指導で無事全員二回目のチャレンジでは的撃ちに成功した。

 

「さて、じゃあここで、このヘッタクソな営業スマイルのお兄さんのお手本を見てもらうとしよう」

 

「悪かったな」

 

 全員が成功して満足したところで、文也が駿を隣に呼び出し、からかいを混ぜて笑いを誘いつつ、魔法のお手本として駿の的撃ちを見せることになった。

 

「こいつはまあ事情があって競技変更になったけど、もともと『スピード・シューティング』の選手だったんだ」

 

「誰のせいで陣取りに変わったと思ってるんだ」

 

 文也が駿の紹介をしてそれに駿が文句を言いながら準備をする。

 

 向くのは、子供たちが的撃ちを楽しんだ方向と逆側、本格的な魔法射撃訓練設備だ。

 

「今からこのお兄さんがやるのは、実際にこの訓練場で行われている訓練だ。この人型の的が、木とか建物の裏から次々と現れるから、それをいかに早く正確に撃てるかってゲームだぞ」

 

 ボディーガード業を営む森崎家では、こういった訓練は欠かせない。スピードと正確性を求められる現代魔法師のボディーガードを養成するのにうってつけの訓練だ。

 

 駿は所定の位置に立ち、目を閉じて下を向き、大きく深呼吸をする。息を吐ききり、目を開けて顔を上げる。

 

 その瞬間、浮ついていた空気に緊張感が走る。興奮していた子供たちすらこの空気の変化を感じ取り、じっと黙って駿を見ていた。

 

 そしていきなり、人型の的が現れる。それと全く同時に駿は腰から特化型CADを抜き、一瞬で『エア・ブリット』でその的の肩を正確に撃ち抜いた。

 

 森崎家の十八番『クイック・ドロウ』。いざというときに真っ先に反応し、隠していたCADを即座に抜いて対象に魔法を行使する技術。当然駿は、そのスペシャリストだった。

 

 そこからの訓練は圧巻だった。

 

 人型の的が完全に姿を現すころには、もうその的は撃ち抜かれている。しかもそのすべてが急所を外しつつ確実に無力化をする肩や腰骨を貫いており、また武器を持った的はその武器を持った手が撃ち抜かれた。

 

 あずさはその様子を唖然と見ていた。

 

 優等生だと聞いてはいたが、これほどの腕だとは。

 

 あずさ自身、駿の実力は知っている。しかしそれはどちらかというと射撃の腕という面が強かった。

 

 駿が上級生の前で魔法を披露する一番大きな機会は九校戦だった。しかし『フィールド・ゲット・バトル』は魔法の腕が如実に出るとは言い難く、『モノリス・コード』は二回戦で棄権して披露する機会はほとんどなかった。

 

 文也曰く、駿は意外と『スピード・シューティング』はそこまで得意ではないという。

 

『クイック・ドロウ』と魔法行使のスピードはあくまでも初撃特化であり、最初からCADを構えて早撃ちをする『スピード・シューティング』は意外と畑が違うのだ。駿自身、部活動の関係も含めてシューティングは得意ではあるのだが、『スピード・シューティング』は実際の銃と同じような形でシューティングはせず、的に直接魔法を行使するのが王道だ。

 

 森崎家は初撃魔法を確実に決めることを重視しているため、その一人息子である駿も、『情報強化』や『領域干渉』で簡単に防がれてゼロになる相手に直接行使する魔法よりも、たとえ守られたり避けられたりしても相手を牽制できる射撃魔法のほうが得意だ。よって、意外と『スピード・シューティング』に適性はない。

 

 しかし、この光景を見ると、あずさにはそうは思えなかった。

 

 次々と現れる人型の的に即座に反応して照準を合わせて一発で撃ち抜く。しかも撃つ場所は実戦を想定していて、それも正確だ。

 

 たらればの話だが、仮に駿が『スピード・シューティング』に出ていたら、優勝者の真紅郎と激しい優勝争いまでは最低でも持ち込める。

 

 駿のこの絶技を見て、あずさはそう確信した。

 

 成績という点では駿はピカイチだが、実は校内の実力者や上級生、特に首脳陣からの印象は特によくはない。苛烈なプライドから達也に激しい対抗心を燃やすが全て空回りし、結果も「実力」も達也に負け、それでいながらなおも一科・二科の枠に強くこだわる。そういった姿を九校戦期間中にしばしば目にしたため、ある種現実主義的な冷淡な面が強い首脳陣やほのかや雫といった同級生の実力者は、駿に冷ややかな目線を向けている。風紀委員の仕事の面では「頑張ってる」「あんな奴ら任せてごめん」「今までのゲーム研究部担当の中で一番優秀」と評価は高いが、検挙率という点では達也に負けている。

 

 しかしあずさは駿の絶技を見て、その印象が必ずしも全てではないと確信した。

 

 事象改変規模や干渉力や魔法式構築能力は並みの一科生より高いが、実力者たちに比べたら平凡なものだ。

 

 しかし魔法の発動スピードだけなら近接戦闘のために速さを磨いた摩利に比べれば遅いが真由美や克人より速いし、現れた的に即座に照準を合わせる技術は『エルフィン・スナイパー』たる真由美に比べれば劣るが摩利や範蔵にも勝る。

 

 総合的に見たら多くの実力者に劣ることになるが、要素を切り出してみれば、駿は一年生にしてすでに『一流』の領域に入っている。

 

 あずさは、文也の親友という贔屓目を抜きして、駿の実力に驚嘆した。

 

「……まあまあだな」

 

 ブザーが鳴って訓練が終わると同時、駿はCADをクルリと回しつつサスペンドしてホルスターにしまいながらスコアを見上げてつぶやく。的が動き出して撃ち抜くまでの時間と当てた場所の適切さが測られてスコアに加算される。あずさはこの訓練のスコアの基準はわからないが、あの絶技を見て低くない点数であることだけはわかった。

 

(すごい……)

 

 興奮して群がる子供たちを相手にして困惑顔の駿を見ながら、あずさは心の中で駿を讃えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、「将来はこういうことをやるんだぞ」というメッセージを込めて、一高のここ一年間の魔法に関する活動記録映像を見せた。

 

 活動記録映像の中でやはり子供たちの目を引いたのは九校戦だった。先ほどは的撃ちという軍事・刑事訓練の色が強いものをやったので、見せる競技は軍事色がある『モノリス・コード』や『スピード・シューティング』や『バトル・ボード』ではなく、見た目が華やかな『ミラージ・バット』と銃撃戦ではあるが色合いがカラフルで見た目がポップな『フィールド・ゲット・バトル』を見せた。

 

 特に熱狂を誘ったのがやはり『ミラージ・バット』だ。『フィールド・ゲット・バトル』選手本人である文也と駿からすればやや不満だったが、まさしく『妖精』と形容するにふさわしい深雪の活躍は認めざるを得ない。

 

「なあ、男があれ見て熱狂すんのはいいにしてもよ、女のあの熱狂具合はちょっとまずかったかな」

 

「漫画とかアニメのヒロインにあこがれるような熱狂だと信じたいが……」

 

 映像を流す後ろで文也と駿がこそこそと小さな声で話す。二人の視線の先では、男女問わず深雪の活躍を見て熱狂している子供たちの姿だ。男の子があの姿にほれ込むのは正しい姿だが、女の子の熱狂具合はなんだか男の子のそれと変わらない感じがする。お姉さま……みたいな感じで「目覚めて」しまったかもしれない。

 

 二人は「しーらない」と考えるのをやめた。そういうのもまた一つの愛のカタチだろう。

 

 そして、半分思惑通りに子供たちを『ミラージ・バット』に魅了させたタイミングで、文也が用意した本日とっておきのプログラムへと移る。

 

 文也は映像が終わるとそのモニターの横に立ち、巻き戻しをして再び競技映像を流す。

 

「さて、このこわ……きれいなお姉さんがこの時使ってる魔法は何かわかるか?」

 

「飛行魔法!」

 

「そう、汎用飛行魔法だ。汎用っていうのは『みんなが使える』って意味だな」

 

 文也は子供の回答に満足すると、続けて解説を続ける。

 

「この空飛ぶ魔法はもともとすっごい難しい魔法だったんだ。できるのは、最初から才能があった一部のみで、ほぼすべての魔法師ができないっていう魔法だ。だから、みんなが使える飛行魔法っていうのは、もともと無理だと言われていたんだ。で、それが最近になってできるようになったんだね」

 

「あ、『マジカル・トイ・コーポレーション』?」

 

「その通りだ。ちょっと前に『フォア・リーブス・テクノロジー』が開発したループ・キャスト・システムを利用すればみんなが使える飛行魔法ができるって気づいたMTCが、見事それを開発して見せたんだ。さっきのお姉さんは、このMTCが開発した飛行魔法をベースに改造したFLTの飛行魔法を使っていたってわけだ」

 

 一見子供向けにやさしい笑顔を浮かべているが、あずさは文也が心の中でどす黒い笑顔を浮かべていることを敏感に感じ取った。

 

『トーラス・シルバー』が文也たちに遅れる形で飛行魔法を開発していた、というのは魔法工学界隈では有名なうわさであり、それは真実である。よって深雪が使った飛行魔法は文也たちの後追いでなく、同時に達也たちが開発していた魔法なわけだが、結果として後追いとなってしまい、世間の認識は『MTCの飛行魔法をあとから磨いたFLTの飛行魔法』であり、FLTサイドはそれを認めざるを得なかった。

 

『マジカル・トイ・コーポレーション』の『マジュニア』として対抗心を燃やす達也を出し抜き、その結果が世間に認知されているのを聞いて、浅はかで陰湿な優越感を心の底で満喫しているのだ。

 

 そんな心中を隠し、文也は駿に持ってこさせた箱を開いて、その中身を子供たちに見せる。

 

 それは背負うバッグのようなもので、リュックサックというよりもランドセルに近い。しかし、これの用途はバッグではない。立派なCADである。

 

「あ、それって!」

 

 子供たちがにわかに色めき立って歓声を上げる。

 

「そう。特別に持ってきた、飛行魔法用のCADだ」

 

 文也が子供たちの期待を肯定すると同時に、黄色い歓声が爆発し、再び熱狂状態になる。

 

 魔法を使って空を飛ぶ。それは、魔法が当たり前の世界となった今でも、ついこの半年前まで『不可能』とされてきた夢の世界だった。それを実現できる機械が目の前にある。それは子供たちにとって、まさしく『夢の実現』なのである。

 

「さて、みんな。空中を飛んでみたいと思わないか?」

 

『はーい!!!!』

 

 文也がわざとらしく問いかけると、子供たちは元気いっぱいに返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供たちを引き連れて移動した先は、柔らかい材質の強化繊維でできた縄で作った大きなハンモックの様なアスレチックだ。今日この時のためだけに、一高から連絡を受けた森崎家が準備したものである。

 

 このハンモックの上で、同時に三人の子供が飛行魔法を使用する。仮に落下してもハンモックが受け止めてくれるし、この飛行魔法には様々なセーフティーがこれでもかとばかりについている。セーフティーがなければハードのサイズを半分以下にできるほど過剰につけているため、万が一の事故もあり得ないようになっているのである。

 

 飛行魔法の体験はなんの事故もトラブルもなく進行した。飛行高度も1メートルほどであり、また飛行時間も短く設定してある。しかしたった1メートル、たった数十秒飛行しただけで子供たちは大変大喜びした。

 

 そのまま時間いっぱいまで飛行魔法を全員にできる限り体験してもらい、大盛況のうちにその日のイベントは解散となった。

 

 解散後はなぜか迎えに来た子供たちの保護者までもが飛行魔法を体験して存分に楽しんでもらったりといった延長戦もあったが、引率教員曰く過去最高の盛り上がりと満足度だったらしく、満面の笑みで解散ミーティングで話をしていた。

 

 そして現地で解散となったので、文也と駿はせっかくだからとこの川崎の沿岸部で少し遊んでいくことにした。この沿岸部は繁華街で遊興施設も多いのだが、いかんせん治安が国内の中でも指折りで悪い。少し裏路地に入れば不良のたまり場だし、やり場のない不満を抱えて集まる若者をターゲットにした悪い大人もここに集まる。夏場で日が長いといえどもうすぐ夕方であり、そんな時間にそんな場所で遊ぶのは怖いということで、あずさは二人の誘いを断ってほかの直帰する生徒たちと一緒に帰っていった。

 

「まあしかしなんというか、お前んちのイベントがここでやって、それに俺らが参加するってのはなんの皮肉だね」

 

「全くだ。まあわかってて誘ったのは俺だけどな」

 

「そういやそうか。変な偶然かと思ったけど仕組まれた偶然だ」

 

 二人は遊興施設や繁華街には行かず、先ほど会場となった森崎家の訓練施設から少し離れたところにある、横浜や千葉との差別化に失敗して人通りが全くない海浜公園のベンチに並んで座り、ぼんやりとしながら雑談を交わす。文也はせっかくだからということで貰ってきたボランティア用の帽子をかぶっているのでやや海は見にくいのだが、そもそも特に見たいというわけでもないのでかぶりっぱなしだ。

 

「いやそもそも考えてみりゃ、あんときだってあのお前んとこのあの訓練施設にきたんじゃん。おじゃんになったけど」

 

「あーそういえばそうだ。結局行かなかったから印象に残ってないな」

 

 そんなふうに、お互い頭を大して動かさない雑談を交わしているうちに日が少しずつ暮れて気温が下がってくる。とはいえ真夏なので、照り付ける太陽の暑さからじめじめした蒸し暑さに変わっただけだが。

 

 そんな真夏の外にいたせいで、二人とも道中の自動販売機で買ったジュースの消費ペースがすさまじかった。そのせいで、

 

「ちょっと便所」

 

「おう」

 

 文也は急に尿意を催して立ち上がり、トイレへ向かう。

 

 運の悪いことに、このベンチからトイレまではだいぶ遠い。

 

「めんどくせえなあ。その辺でしていいか?」

 

「いいからトイレいけ。ここで待ってる」

 

 駿に注意され、文也はしぶしぶトイレへと歩いて行った。

 

「全くあいつときたら……」

 

 文也の小さな背中を見送りながら、駿はそうつぶやいて溜息を吐く。

 

 しかしその姿が豆粒ほどになるころにはついに暇を持て余し、何を考えるということもなく海をぼんやりと見つめる。

 

 波音に誘われてまとまりのない思考が連鎖する中で、駿はこの川崎で起きた出来事に行きついた。

 

 忘れようがない。ちょっとした偶然で関わった、駿からすれば大騒動で、表向きには小さな騒動だった事件。

 

 その事件には、ほかでもない、文也も関わっていた。

 

 その連想から、駿は文也と出会ってからの嵐の様な数日を思い出した。




というわけで、今回は駿と文也の話です
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