その日の出来事から、駿の塾通いの日常は騒がしく忙しい日々となった。
結局文也は厳重注意と罰則宿題大量という刑を食らった。
退塾にならなかったのは、そのあとの事情聴取で、文也が使おうとした魔法が悪戯でよく使われる人を滑って転ばせる魔法だということがわかり、悪質な魔法でないことが分かったからだ。
つまり、文也はこの塾の特待クラスに通い続けることになるわけだが、これが駿からすると、運が悪い話だった。
この井瀬文也という少年は悪戯好きだ。小さい見た目も相まって、まさしく悪戯小僧だ。毎度毎度、文也はあの手この手を使って塾の関係者に悪戯を仕掛けた。悪戯の内容は、魔法の使用の有無は関係ない。魔法を使わない古典的な悪戯も数多く仕掛けた。その対象は塾生と講師だ。
そしてそれの対応は、講師ではなく、なぜか駿が任される羽目になった。それは駿の特技によるところが大きい。
魔法式構築速度はいくら駿でも講師陣や三年生には当然負ける。しかし、CADを構えていない状態からの発動速度は、森崎家の一人息子として『クイック・ドロウ』を磨いてきた駿はすでに指折りのものだ。
文也の悪戯は事が起こるまで前兆がわかりにくく、それゆえに魔法式構築速度が速いだけでは対応できない。文也が悪戯を仕掛けたのに気づき、それに反応し、CADを抜いて魔法を行使する。ここまでやらないと対応が間に合わないのだ。
ボディーガード業を手伝う身として危機管理能力や危険察知能力や反射神経を物心ついた時から鍛えられてきて、さらに『クイック・ドロウ』を体得した駿は、まさしく文也の悪戯対策として最高の人材なのだ。しかもクラスも授業曜日も時間も同じで、塾での生活周期が二人はぴったり重なるため、最初は正義感から自主的にボランティア精神で対応していたのだが、三日も経つ頃には『駿が担当』という空気が出来上がってしまった。
大真面目な厳しい塾で文也のこの行動は一週間も経たないうちに退塾になりそうなものだが、悪戯の内容は絶対に大きな事故になりえず、ちょっと困った程度で済む程度の軽い、まさしく悪戯レベルに収まっている。
さらに、文也を退塾させるというのは、金や在籍数という目先の成果面以外でも塾にとって大きな痛手だ。
文也の魔法知識は異常であり、すでに今このまま受験をしてもトップクラスの成績で合格するのが間違いないほどだ。また魔法力もすでに一科生として楽々入学できそうなレベルだ。
つまり、あと約二年半後には、文也は確実に塾の高い宣伝効果になる形で魔法科高校に合格する。その宣伝効果の見込みは中々切り捨てられるものではなく、講師陣や経営陣は苦渋の選択として文也を在籍したままにしている。国立と言えど全国にいくつもある塾の一つであり、塾間の客の取り合いや予算配分は常に厳しい。こうした超優秀な生徒は中々切り捨てられないのだ。
そんな文也の実力を、駿はあれから四日後に目の当たりにした。
魔法実技の試験に備え、魔法塾では実技の練習もする。
駿と文也は実技のクラスでも特待クラスにおり、同じ練習室で練習をすることになった。
まだ魔法を習いたての中学一年生であり、特待クラスと言えど実用レベルの魔法を使える生徒は数少ない。その数少ない実用レベルの魔法を使える生徒の一人が駿なのだが、文也は「実用レベルか否か」という尺度をすでに超えていた。
「んー、終わった。ほい交代」
文也が練習用のCADをほかの生徒に渡すと、その練習で出た成績を記録する。授業の初めに毎回本番試験と同じ形で魔法力を測るのだが、特待クラス生のそのスコアは毎回掲示され公開される。たった今文也が計測を終えその記録を入力すると、電光掲示板の一番上に文也の名前が出てきた。
「は?」
駿はそのスコアを見て驚愕した。
一位に来るというのは納得できる。ここ数日何回か魔法をかけられたが、その魔法力は中学一年生のレベルを超えており、このクラスでも十分通用するとは思っていた。魔法はその日の調子に左右されやすいので、調子がかみ合えば一位も十分あり得る力を持っているのはわかっていた。
しかし、それは駿の予想を超えていた。
文也のスコアは、さっきまで一位で今は二位になってしまった五十川という百家本流の出である生徒のスコアに三倍以上の差をつけて一位になっていたのだ。
駿はすぐに掲示板の下に用意されている端末でそのスコアの詳細を見る。
魔法式構築速度は駿がギリギリ上回っている。しかし、キャパシティと干渉力の項目はこのクラスの中ですでに圧倒的なトップに立っていた。
駿はさらにスコアの詳細を見る。
そしてそれを見て、文也が圧倒的トップに立った理由が分かった。
文也は移動系では五十川に少しの差で負けている。五十川は移動系が得意であり、その家系もまた移動系が得意だ。
そんな五十川に迫るスコアが出ているのも驚きだが、その驚きのスコアが、『四系統八種と無系統』すべての系統で出ているのだ。
まだまだ未熟な一年生の段階では、勉強面はまだしも実技面ではまだ苦手を克服している生徒はほぼいない。しかも魔法実技は得意・苦手が血統や出自や生まれながらの才能で決まるものであり、苦手の克服はプロ魔法師でもできないこともある。
しかし、文也はすでにすべての系統で高い水準を安定して出しているのだ。ここまでくると、「苦手がない」というよりも、もはや「すべての系統が得意」という領域にまでたどり着いている。
(こいつ、じゃあ、今まで手加減してたってことか)
記載されている干渉力のスコアは、今の駿をはるかに超えている。今まで自身の『領域干渉』で対応できていたのは、文也が手加減していたからということになる。
まさしく、今までやっていたのは、全く本気ではない「悪戯」なのだ。
唖然と文也のスコアを見る駿の横で、同じく文也のスコアを見た講師が驚きの声を上げた。
「おお、井瀬はすごいな。もう今のまま受験しても余裕で一科生でも上位になるレベルだ」
担当生徒のスコアということでそれを記録しながら、その講師は感心のあまり独り言を続ける。
「これは七草さんと同じ水準だ。逸材だぞ」
(さ、七草家と同じ……?)
この塾の講師は大変優秀なため、塾内だけでなく各名家の家庭教師もしている。そしてこの講師は特待クラスの実技を担当しているだけあって、十師族からもお呼ばれされている。今年は七草家の長女が受験の年ということで、その長女の家庭教師をしているのだ。
駿は百家支流の一人息子なので、魔法界の権力事情もある程度知っているからこそ、その言葉に驚いた。
魔法で有名な一家は、その一家の特徴に合わせて二つ名で呼ばれる。
例えば先日の佐渡侵攻事件で武勇を誇った一条家はお家芸の魔法名をそのままとって『爆裂』と呼ばれ、十文字家は『ファランクス』から『鉄壁』、十三束家は『錬金』、千代田家は『地雷源』、千葉家は『剣の魔法師』と呼ばれている。
そして七草家は、これといって突出した魔法はないが、逆に苦手な魔法がないことから『万能』の二つ名で呼ばれる。しかも苦手がないだけならば器用貧乏になるかもしれないが、七草家の場合はそうではなく、すべてが高水準というまさしく『万能』なのだ。
そんな七草家の長女と同じ水準に、文也はたどり着いているという。
これがもしほかの人物が言った言葉なら「いやまさか」と話半分に聞き流していた。
しかしこの講師はその七草家の長女に今まさしく教えていて、さらに印象だけでなく数字で示された文也のデータを見て、さらに誰かに聞かせる目的のあるようなものではない独り言という本音でそう言ったのだ。信じざるを得ない。
「なんてやつだ……」
駿は文也のスコア詳細に視線を戻し、細かく目を通しながらつぶやく。
文也は、すでに今の自分たちとは比べ物にならない存在になっている。
そのことに駿は愕然とし――そして、悔しさがこみあげてきた。
今はまだ敵わない。魔法式構築速度でしか勝っていないし、その差もぎりぎりだ。
だが、努力を積み重ねて、必ず追いついて見せる。
やる気のない悪戯小僧に完全敗北させられた駿は、それによってやる気をたぎらせた。
そんな駿がこの後挑んだ魔法力の計測は、駿の人生で最高のスコアをたたき出した。
☆
文也が入塾してから一週間半、すでに駿は文也のせいですっかり気疲れしていた。
そんな夏休みももうすぐ終わろうかという時期になって、駿たち魔法実技特待クラス生は、いつもの三軒茶屋校ではなく、川崎に向かっていた。
夏休みももうすぐ終わりということで、その長期休みの成果をもっと本格的な設備で試してみよう、ということで、川崎沿岸部にある魔法訓練場に行くことになったのだ。
そしてその訓練場は、偶然森崎家が運営し管理する訓練場だった。駿はすでに何回か出入りしており、もはや目新しさも何もない。現地集合だったので通いなれたルートで行ったところ、集合時間より無駄に早くついてしまった。
「さてどうしたものか」
絶対に間に合うために相当余裕をもって行くいつもの癖が出てしまった。いつもの場合は、早く着いたらその分練習すればいいし、遅刻をすれば教官に鬼のしごきを受けるので早く出る癖がついているのだ。
しかし今回はいつもの『森崎』としてではなく『三軒茶屋校』としての利用であり、いくら森崎家たる駿でも『三軒茶屋校』として利用する以上は先に練習する、というわけにはいかない。
よってどこかで時間をつぶさなければならないのだが、あいにくながらこの辺の時間がつぶせそうな場所には詳しくない。通いなれた場所ではあるのだが、訓練前は焦って訓練場に向かうし、訓練が終わった後は疲れて周りで遊ぼうという気にもならないので、案外この周辺のことは知らないのだ。せいぜいが治安が悪く遊興施設が軒を連ねる繁華街と色々失敗した海浜公園があるということしか知らない。
結局駿は、遊興施設があるならそこで暇は潰せるだろうと考えて繁華街に向かう。ただしこうしたところで遊んだりはほとんどしないため、特定の施設には入らず、繁華街の中を散策することにした。
そしてそんな散歩を続けていると、盛り上がっている中心部からやや外れた人気が少ないところに出た。前評判通り目つきの悪い青年たちが趣味の悪い(と駿は思っている)服を着て道端のあちこちでたむろしている。
(ふーん)
そんな様子を見て、駿は内心で彼らを見下す。
駿からすれば、彼らは自業自得で社会から逃げ、その八つ当たりと逆切れを社会に行い、同じような連中で集まって傷のなめあいをしている無価値な者たちでしかなかった。
家庭環境や育った環境を多少考慮に入れるとしても、あの年齢になれば自然とどうすべきかわかるころであり、それから目をそらして身体的にも精神的にも楽な道へと逃げた連中。
そうした『不良』と呼ばれる集団を見て、駿の脳裏には、彼らと同じくらい目つきが悪い小さな少年の姿がよぎる。
ルールを破り、真面目に勉強や練習に向き合わず、社会に適合しようとする気すらなく、周りに迷惑をかける。
駿から見た文也は、その能力以外はまさしく彼ら『不良』と同じようなものだ。むしろとびぬけた能力を持つからこそ余計に質が悪いかもしれない。
(……思い出すと胃が痛んできたな)
駿はさりげなく胃のあたりを抑えながら周りを見渡す。文也と会ってから、日に日に胃の調子が悪くなっていている。そろそろ支障が出るレベルであり、この後の魔法練習に悪影響があってはいけないから、どこかで胃薬でも買おうとした。
そんな彼の視界の端に、気になる光景が映った。
(なんだ?)
その方向へ視線を戻す。
そこでは、見覚えのある女子が、不良たちに羽交い絞めにされて抵抗空しく裏路地に連れていかれていた。
「五十川?」
駿はその女子の名前をつぶやきながらそちらに駆け出していく。
連れていかれた女子は、魔法実技で同じ特待クラスの五十川だった。
明らかな異常事態に、駿の体は勝手に動いていた。警察に連絡するべきなのだが、駆け付けるのを待っていては、取り返しのつかない被害が発生する恐れがある。それに駿は、自分の荒事の腕に自信があった。そこらの不良数人なら余裕で相手できる。
駿がいた場所から五十川が連れていかれていた場所はそれなりに離れている。猥雑な繁華街だが、たまたまこの間の見通しが良かったのは幸いだ。
数十秒かけて全速力でそこに向かっている間に、駿の敏感な聴覚がプシュ、プシュ、という音を捉える。
(いよいよ普通じゃないな)
駿はこの音を知っている。サプレッサーをつけた銃器の発砲音。音がする場所は、五十川が連れ去られた路地裏だ。
(死んでなければいいが)
急所に当てられていなければ、今から駿が救出して早急に手当てすれば間に合う。
駿はついにその路地裏にたどり着き、ゆっくり覗き込んで様子を確認することもなく飛び込んでCADを構える。
「おい、何をしている!?」
ゆっくり覗き込んで慎重に様子を確認しては、手遅れになる場合がある。ここは多少自身が危険でも、姿をさらして威嚇し、敵の行動を止めるべきだ。
路地裏の中には、四人の不良と五十川がいた。五十川は涙目で二人に押さえつけられており、それを見下ろしていた一人は駿が見覚えがあるCADを持っている。五十川から奪ったのだろう。そしてサプレッサーがついた拳銃を持った男はその銃口を五十川に向けていた。その不良たちは、共通して極彩色の目に悪そうなリストバンドをつけている。
駿の観察眼が一瞬にして情報を吸収する。
五十川は押さえつけられていて着衣の一部に乱れがあるが怪我はない。乱れ方は、性的暴行をしようとしたというよりも、押さえつけられながら暴れたり、CADを探られたりした結果に見える。そして五十川が押さえつけられていた道路には弾痕が二つ、五十川の傍についている。位置的に見て、実際に撃とうとしたわけではなく威嚇射撃だろう。
「あんだあてめぇ。中坊か」
「ぴっかぴかの一年生だ。今すぐ抵抗せず、大人しく武器を捨ててその女の子を開放すれば穏便に済ませてやるがどうする?」
そこらの不良にしてはドスの効いた迫力のある声で問いかけられるが、駿は動じずに要求を突きつける。こちらが有利であると見せつけるためにあえて挑発的だ。
「ちっ、魔法師が調子に乗りやがって!!!」
駿のCADを見てさらに挑発に乗せられた一人が手に持っていた拳銃を駿に向けて引き金を引く。魔法の効果が出るのと銃弾がこの距離で届くのとでは、通常は銃弾のほうが速く、不良のほうが有利なのだ。
不良はそう瞬時に判断し、油断しきっていた。
しかし、駿は、こと魔法の速さという点では、普通ではないのだ。
「ぎゃああああああ!!!」
不良が拳銃を手放し、その手をもう片方の手で押さえながらのたうち回る。手放した拳銃は見るも無残に破壊されていた。
駿はその銃のサプレッサーの先に、触れた移動物体のベクトルを真逆にする仮想領域を構築する『バウンド』を使用した。結果、放たれた銃弾は銃口の先で速度を保ったまま移動先を真逆にし、持ち主の襲い掛かった。
それを見てほかの不良たちは唖然とするが、その隙を黙って見逃す駿ではない。
駿は「やっぱり所詮不良か」と呆れながらその四人を魔法で気絶させると、歩み寄って五十川の無事を確認しようとする。
「おい、だいじょ――」
そんな駿の耳に、こちらに駆け寄ってくる足音が入ってきた。
まさか増援か?
そう思って足音が聞こえてきた方向にCADを構えてにらむ。
どんどん足音が近づいてくる。おそらく一人だ。
駿が若干緊張しながら気を張ってにらんでいると、その足音はいよいよはっきり聞こえてくるようになり、路地の先にその影が現れる。
駿はそこに現れた人物を即座に観察した。
目つきが悪い。これだけ見ると不良の仲間だ。
しかし、駿はすぐに気が抜けてCADを下ろす。向こうも警戒していたようだが、裏路地の様子を見て落ち着いたようだ。
「なんだ井瀬か」
「なんだとはなんだ森崎。魔法発動の気配がしたから来てみたけど……そういうことか」
走ってきていたのは井瀬だ。魔法に敏感らしく、駿が行使した魔法を察知して確認しに来たらしい。
真夏だというのに長袖長ズボンの文也はポケットに手を突っ込みながら悠然と裏路地に入ってくると、その様子をしげしげと観察し、口角を上げた。
「なんだ森崎。魔法使いの王子様が助けにきたってか」
「そんなんでもない。いいから警察を呼んでくれ」
二人はすっかり気を抜いてのんびりと話しながら各々の作業をする。文也は気絶している不良をビニールテープでぐるぐる巻きにして、駿は再起して襲おうとしてきた銃を持っていた男の顔面を蹴飛ばして撃退する。
「あ、あの……あ、あ、ありがとうございます」
文也が落ちていたCADを拾って渡し、駿が腰が抜けていた彼女を手を貸して立ち上がらせると、五十川はようやく口を開き震える声でそう言った。
「どういたしまして」
駿は少し照れながらそう返すと、にやにやしながら見ている文也を睨む。
それを受けた文也は肩をすくめると、そのまま口を開いた。
「森崎はそいつを送っていけ。俺はちょっと気になることがあるから、こいつらと『お話』してくる」
「何が気になるんだ?」
別に自分が送っていくのはやぶさかではないのだが、文也がなぜそんなことをするのか気になる。ただの不良集団がイケナイ場所に迷い込んだ女の子を襲ったという事件であり、通報してしまえばあとは全部警察の領域だ。わざわざ文也が不良たちに何かを聞く必要はない。
「あー、こいつらがつけてるリストバンドあるだろ? これ、ヤのつく自称自営業一家が背景にいる反魔法師団体の印なんだ」
「……そういうことか」
駿は一応納得したが、それならなおのこと警察の領域のような気がする。
「それと、警察には通報しない。これは大きくするのは良くない案件だ」
「は? どういうことだ?」
文也が何かを聞きたいのは勝手だ。反魔法師団体ということは、当の魔法師である文也ならば気になることだし、文也の出自は不明だがあの才能と知識量からして『普通でない』魔法師の家系だろうから色々事情もあるのだろう。
しかし警察に通報しないというのはさすがに理解できない。そうする理由がないからだ。
駿が怪訝に思っていると、それへの答えは、文也からでなく、駿が支えている五十川から返ってきた。
「そ、その……警察には、通報してほしくないの。い、家のこともあるから、あまり大事にすると……」
「……なるほど」
五十川の言葉を聞いて、駿はそうとだけ言って内心で深い溜息を吐いた。
駿自身の家も相応にしがらみはあるが、百家本流のしがらみは駿の想像以上のようだ。若い女の子が暴漢に襲われたというのはそれだけで悲しいことに悪評になるし、それは未遂でも変わらない。邪推をするような人物はどの時代、どの世界にもいるものだ。はたまた、未熟と言えど百家の娘が不良の集まりに負かされたというのを気にしているのだろうか。確かにそれは軍事的価値の側面が強い魔法師の名家としては公開されたくない事実だろう。
「わかった。じゃあ俺は五十川を送っていくから、お前は好きにしろ」
「おう。なんかあった時のために連絡先交換すっか?」
「そうする」
お互いに端末を取り出して連絡先を交換する。
(まさかこいつと連絡先を交換するなんてな)
世の中何が起こるかわからないものだ。この悪戯小僧と連絡先を交換することになるなんて、夢にも思わなかった。
「じゃあ言ってくる」
「おう」
駿は五十川を連れて人通りが多い場所へ、文也はあとから気絶させておいた銃を持っていた男を担いでどこかへ、それぞれ反対方向へと裏路地を出ていった。