マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

57 / 85
5-5

「世の中は本当にままならない」

 

 吸血鬼による被害者はあれから出続けていた。日本サイドでは、吸血鬼を追っているのは、警察、師族会議、そして千葉家・吉田家の三勢力だ。

 

 そして、千葉家・吉田家の中でも特に精力的に動いているエリカと幹比古の二人が、吸血鬼と接敵した。その予感がしていた幹比古はあらかじめ達也に救援要請を送り、達也はその戦いに乱入したのである。

 

 達也のつぶやきはその帰り、真冬の極寒の真夜中をバイクで走りながらのものだった。

 

 この冬は、達也の周りで様々な勢力が動いている。吸血鬼とそれを追う三勢力、文也を狙うUSNAと四葉家。達也は、四葉サイドに当たる。彼としてもさすがに文也を殺すとまでなると相応に気落ちするし乗り気でもないのだが、四葉の命令に従うほかない。

 

 その命令とは、文也を殺そうとするUSNAの動きを妨害しないこと。

 

 命令内容としては、要は「何もするな」ということであり、達也としても実際何もするつもりはなかった。リーナとは接触せざるを得ないが、それ以外のUSNA勢力に積極的に関わりたくはない。何が妨害になるか、分からないからだ。

 

 しかし、幹比古の要請を受けて出向いた達也が戦ったのは、まさしくそのUSNA勢力だった。

 

(井瀬の読みは当たっていた、ということか)

 

 日本で起きている吸血鬼事件。USNAでも起きている。そしてそれに重なるように不可解なUSNAからの大人数の留学生。

 

 四葉陣営が掴んでいて達也が知るUSNAの動きは文也への干渉・戦略級魔法師の調査だけだったが、吸血鬼事件にも関わっていたのだ。

 

 達也が関わる吸血鬼事件を中心とした動きと文也を中心とした動きは、USNAによって繋がった。

 

 つまり、これから吸血鬼事件に関して動くときは、USNAと四葉に気を遣わなければならなくなる。

 

「おかえりなさいませ、お兄様。……顔色が優れませんが、どこか御気分が悪いのですか?」

 

「ただいま。いや、大丈夫だよ。ただ懸念事項があってね。深雪、叔母上に繋いでもらってもいいか?」

 

「お、叔母様ですか?」

 

 深雪は思わず上ずった声でオウム返しの問いかけをしてしまう。あまりにも、達也の頼みが唐突だったからだ。

 

 とはいえ、深雪としては断る理由もない。さすがに部屋着では失礼なので二人ともきっちりとした格好に着替え、真夜に通話をつなぐ。

 

 そこで達也は、まず「聞きたいこと」として、先ほど接敵した魔法師が使っていて苦戦させられた魔法『仮装行列(パレード)』について質問し、次に援軍をお願いした。

 

「わかりました。風間少佐との接触は許可します」

 

「ありがとうございます」

 

 それは、接触禁止命令が出ていた国防軍との接触を許してほしいというもの。真夜はそれを快諾した。

 

 今にして思うと、四葉はUSNAと吸血鬼の関わりもとっくに掴んでいたのだろう。達也は頭を下げながら内心で溜息を吐く。なぜ自分たちに教えなかったのかは不明だが、何か深い思惑があるのは間違いない。文也に関わること以外にも、別の目的があるのだろう。

 

 文也へと及んだ達也の思考を知ってか知らずか、そのタイミングで、通話の終わりを悟った真夜が、言葉を発する。

 

「それと、」

 

 その口調も表情も、一見すればいつもと変わらず余裕に満ち溢れている。しかし、達也と深雪は、微妙にそれらが固くなっているのを敏感に察知した。

 

「井瀬文也の抹殺の弊害にならない程度なら、達也さんは自由に動いてよいですよ」

 

 自由に動いてよい。達也からすれば願ってもいない真夜からの言葉だが、彼女が伝えたいのは、その条件のほう。

 

 何か別の思惑がある。ただし、だからといって、文也の抹殺を蔑ろにするというわけではない。

 

「……はい、わかりました」

 

 その強い意志を受け、達也はただ了承するしかない。頭を下げ、カメラに映らない陰で、達也は悔し気に顔をゆがめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『USNAからの接触は?』

 

「なーし。そっちは?」

 

『戦略級魔法について割とストレートに見解を聞かれたよ。調査ってことをもっと隠したらどうだって感じだな』

 

 吸血鬼事件の被害者ばかりが増えて何も大きな動きがなかった間、文也たちは特に何もしていなかったわけではない。こうして毎日、三高サイドの将輝と真紅郎の二人と連絡を取っている。

 

「さすが第一容疑者様は違うねえ」

 

『バカ言え。そういうお前こそ、変なことをしそうって意味では第一容疑者だろ。それで今までほぼ接触なしってどういうことだよ』

 

 将輝がずっと気になっているのは、その点だった。文也のクラスにピンポイントで留学生が引っ越してきたというのに、一番接触したり調査したりしたいであろう彼に、これといって話しかけてくることすらないのだ。普通に考えれば初日あたりに誰かから「あのクソガキには関わらないほうがいい」と教え込まれてそうなったとするのが自然だが、こと事情を知っている側からすると不自然極まりないのだ。

 

「そーなんだよなあ。一応初週には司波兄妹と接触したらしいけど、そっからは特に動いた感じはねぇなあ。あ、あとやたらと欠席が多いな」

 

『初週以降は接触なし、だね。となると、そのタイミングで起きたことと言えば』

 

「ああ、吸血鬼事件が表沙汰になったな」

 

 将輝も真紅郎も、吸血鬼事件がUSNAでも起きていることは文也から聞いている。しばらく様子を見ていたが、ここまでの動きを見てみると、文也たちに浮かんでいた希望が現実味を帯びてくる。

 

「そうなると、やっぱり、戦略級魔法師の調査が主で、吸血鬼事件の対応をしなきゃいけなくなったから動きがなくなったってことですよね。……つ、つまり、ふみくんについてどうこうということはないんじゃ!」

 

「だと良いですけどね」

 

 あずさがパッと顔を輝かせてその希望を口にするが、駿はそれを直接否定はしないものの、肯定とは言い難い言葉を口にする。最悪を考えて準備するのは、ボディガードとしての癖だ。

 

『で、師族会議のほうはどうなんだ』

 

 文也・駿・あずさの三人が見る画面は二つある。片方には将輝と真紅郎、そしてもう片方には、四高での業務が忙しくて家に帰れない文雄が映っている。

 

 達也たち、文也たち、リーナたち、それぞれが忙しく裏で動いている中、魔法科高校の「表」も今年は大忙しだ。急に決まった留学生の受け入れでただでさえ忙しかったのだが、一高の急な新学科(魔法工学科)設立によって、運営母体を共にしつつ受験生を奪い合う魔法科高校全体が、受験関連でさらに忙しくなっているのだ。

 

 非常勤講師ながらも教諭の一人である文雄もまたそれによって主に事務方面で仕事が急増している。一高の急な新学科設立決定による受験生の志望校選びの混乱を考慮して、急遽、試験日と一次募集倍率公開後の志願変更期限を遅らせるよう全校で調整しているのだ。

 

 そうした中でもなんとか仕事を終わらせ、ぎりぎり帰ってきて四高の近くに借りているマンションでテレビ通話に参加しているのは、彼の有能さを示すものだろう。

 

『相変わらずってところですね。協力しているというのに、七草も十文字もどうにもガードが固くて』

 

 将輝はそう言いながら溜息を吐く。

 

 吸血鬼事件の現場である東京を管轄する七草家と十文字家が中心となって、二十八家と百家は吸血鬼の正体を追っている。そしてそれには当然一条家も協力しており、協力者を送り込んでいるのだ。またその協力者を送り込むのに乗じて、こっそりと何人かの手練れを東京に送り、文也を遠くから護衛している。

 

 そうして協力者を送っているのだが、他者に協力させておいて、重要な部分はすべて七草家と十文字家の者が握り、協力者たちは雑用がほとんどだ。よって内部に送り込んでいるというのに、情報はあまり入ってこない。

 

 吸血鬼事件に関しては、本来緊急かもしれない別件があるため構っていられないのだが、当のUSNAが絡んでいるため、一条家も快く送ったのだが、あいにくながらそこまでの情報は集めきれていないのが現状なのだ。

 

『ただ、そうですね、少しと言うか、だいぶん気になる事を一つ言っていましたね』

 

「お、なんだなんだ」

 

 文雄からの問いかけ故敬語で話す将輝に、文也は答えを急かす。

 

『今日の昼、どうやら七草の長女と十文字の長男が、司波達也と接触したらしいです』

 

「はあ、司波兄?」

 

 唐突に出てきたビッグネームに、文也は首をひねる。

 

「アイツもクラスメイトがやられたんだから、何か気になるのかもな」

 

「確かに司波君なら、師族会議の動向も知っていそうですよね。先輩たちに何か聞きに行ったのかもしれません」

 

 駿は先日昼休みにあった時のことを思い出しながら、あずさは大きくなり始めた話に嫌な予感を覚えながら、それぞれの考えを口にする。あずさの言っていることは実際逆なのだが、結果としてはそう外れてはいない。

 

『思ったよりもデカそうな情報じゃないか。一条家の人もやるね』

 

 文雄は目を細めて笑い、感心したように言う。

 

『いえ……そういう噂話も統制できないほど、あの二家に余裕がない、ということかもしれません』

 

 それを受けた将輝の反応は、決してポジティブなものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵の敵は味方。そうは言うが、目的と利害が一致していればこそようやく味方になるもので、目的も利害も一致していない敵の敵は、せいぜいが他人、もしくはやはりそちらもまた敵である。

 

 達也は、土曜日と日曜日を跨ぐ夜を終えて家路につきながら、深い溜息を吐いた。

 

 昼に真由美と克人から受け取ったデータをもとに吸血鬼を追跡し、そのついでにアンジー・シリウス――リーナ――と敵対した。紆余曲折の末、一般的にそう言えるかは別として、達也としては「穏便」に深雪とリーナの決闘をすることになった。そしてそのあとのリーナ優位の尋問も終えた。これはその帰途である。

 

 達也としては、なんならUSNAをサポートするつもりですらあった。

 

 友人を傷つけた吸血鬼事件に関わりたい。

 

 四葉の意向でUSNAを邪魔してはいけない。

 

 その両方を満たす案として達也が悪知恵を働かせて一晩で考えたのは、「吸血鬼事件を解決してUSNAを動きやすくして、文也にターゲットを向けさせる」というものだった。本当なら文也を殺す手伝いともいえるようなことは積極的にやりたくはないのだが、せめて吸血鬼事件にだけでも関われるこの方針が、彼にとっては最上だった。吸血鬼に関しても、文也に関しても、達也はUSNAを「敵の敵は味方」として捉えて行動することにした。

 

 しかしその目論見は、外れることになった。

 

 リーナとはすっかり敵対した。アンジー・シリウスが敵対したとはすなわち、少なくともスターズ、最大でUSNAそのものを敵に回したことになる。それも、吸血鬼事件の進展に邪魔を入れるような形になってしまい、結果的に、達也の方針とは真逆の状況になってしまった。

 

 取った行動自体は、もしかしたら最善ではないのかもしれないが、考えうる限りで最善のものを選んだつもりだ。吸血鬼事件から退くつもりはない以上、あとはUSNAの意識次第だった。USNAサイドと日本サイドで互いにに邪魔をしない程度の約束、さらに贅沢を言えば協力関係になるつもりもあったのだが、向こうとしてはそれは眼中にないのだろう。

 

 それは今考えると当然だ。

 

 もともとは戦略級魔法師の調査だったのだろうが、何にせよアンジー・シリウスが出動している事態であれば、事は深刻に違いない。そう考えてはいたのだが、リーナが尋問で答えたことによると、まさかパラサイトに乗っ取られているのが、スターズの構成員とまでは予想外だ。魔法戦闘のプロであるスターズが操られて海外で犯罪行為を働いている、となれば、外交問題にも間違いなく発展するため、リスクを承知で秘密裏にリーナ達で処理しようというのは自然なことであり、そこに当然日本人は関わらせたくないのである。

 

 吸血鬼を追っていたらリーナとも接敵し、吸血鬼は逃してしまって、九重八雲らも加えた複数人戦闘になり、最後は深雪とリーナの決闘をした。その決闘で引き分けとなり、達也たちは尋問をする代わりにリーナはイエスかノーでしか答えない。先の件は、

 

「まさかとは思うが、パラサイトに乗っ取られているのはスターズの構成員か?」

 

「イエスよ。不本意ながらね」

 

 というやり取りで知ったことだ。

 

 アンジー・シリウスは、脱走したかつての同胞を処刑する任務も背負う。一人の少女が背負うにはあまりにも酷な役目で、達也も同じような立場の為同情もするが、今回はその役目のせいで達也たちと決裂してしまっている。同情よりも、恨みのほうが先立つ。

 

 こうして事情を知ったので、では改めて協力しませんか――と言うわけにはいかない。吸血鬼と文也、面倒ごとを二つも抱えているUSNAサイドも、効率を重視するならば、国内協力者となる達也の助けは欲しいところだろう。しかし、脱走した兵士である以上、もし達也が捕まえてしまったら、軍事機密を抜かれる可能性がある。USNAは、達也と協力するわけにはいかないのだ。

 

「……八つ当たりしても仕方ないか」

 

 何かとうまくいかなかったが、最低限の仕事はできた。そうやって自分を慰めながら、達也は家の門を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日曜日の朝には、達也がエリカと幹比古と真由美と克人を呼び出して発信機を植え付けた情報を与え、リーナは同居人のシルヴィアに慰められたのち一緒に日本に来ていたミカエラに会おうと考え、そしてその日の夜には達也の使い勝手の悪い情報を元に千葉家・吉田家と師族会議が共同で吸血鬼を追いまわした。大きな成果は出なかったが、行動範囲を絞り込めつつある。一日での事なら上々だろう。幹比古の胃と精神が犠牲になった甲斐もあったというものである。

 

 さて、そんな日曜日は、文也たちにとっても穏やかな日となった。襲撃の気配もなく、何かUSNAがするような気配もつかめなかった。いつ襲いに来るか分からない以上こうした日はある意味貴重であり、秘密回線を使って作戦会議もとい雑談をしながら、各々の準備を進める一日となった。

 

 問題は、その翌日、週明けの学校だ。

 

 その昼休みに、事件は起きた。

 

「……ひっ」

 

「ん? どーしたよあーちゃん」

 

 昼休み、食堂でいつもの三人――年明けからはなるべく固まって行動するためにできるだけ一緒にいるのだ――で昼食をとっている途中に、あずさが小さく悲鳴を上げた。それは食堂の喧騒に容易くかき消され、駿は日替わり定食のかたい安物トンカツに苦戦していたため気づかなかったが、文也は目ざとく気付いた。

 

「…………なんだろう、なんか、ちょっと嫌な感じがして」

 

「俺はまだ何も悪戯仕込んでねえぞ」

 

「『まだ』? 詳しく聞かせてもらおうか」

 

「イッツアジョーク! 勘弁だ勘弁! で、どんな感じよ」

 

 駿が眼を鋭くさせて睨んでくるのを誤魔化しながら、文也はあずさに重ねて問いかける。

 

 あずさは幼いころから文也の悪戯をその身で受け続けてきたため、また生来のいたいけな小動物のような性格もあって、危機察知能力が高い。それは同じく危機察知能力を必要とするボディーガードを副業とする駿も認めるほどだ。

 

 そんな彼女が、思わず唐突に悲鳴を上げるほどの「嫌な感じ」を覚えたとなると、気にしすぎる必要はないが、話を聞いておくぐらいはしても良い。二人はあずさをじっと見ながら、口を開くのを待った。

 

「えっと……なんだろう。悪戯される前の背筋がゾクゾクするような感じでもないし、魔法って感じでもないし……こう、身体の芯の部分に……邪気? みたいなのを当てられたような……」

 

 被害を受ける前の本能的な危機察知、魔法師が多かれ少なかれ持ってる魔法を感知する力、あずさはどちらも鋭敏だが、今回は、そのどちらでもない。

 

「あーん、あーちゃんしか感じなかったってなると、そりゃプシオン波だな。どっかで古式魔法が失敗して、精霊が暴走でもしたのか?」

 

 あずさは、上二つについても鋭敏だが、特にプシオン波には敏感だ。それは彼女が生まれつき精神干渉系魔法に適性があるのと無関係ではない。精神干渉系魔法は、プシオンに干渉する魔法だからだ。

 

「一応気になるなら、ちょっと元をたどってみましょうか?」

 

「うーん、変にかかわらないほうが賢明だと思いますけど……」

 

 この三人は、一人が生徒会長で、一人が風紀委員で、ついでに一人は問題児の不良だ。つまり三人の内二人はCADの携帯が許可されており、今も携帯しているため、すぐに戦うことが可能だ。文也は教師から特に目をつけられていて厳しく荷物検査をされており、今回は携帯できていない。しかし、あずさと駿は悪い友人と付き合いがあるとはいえ、優等生として信頼されており、その穴を利用して、実はこの二人は文也のCADをいくつか隠し持っている。一つ一つが隠し持ちやすくて小型である文也のCADは、そういった作戦にぴったりだ。つまりこの三人とも、校内では臨戦態勢が整っていると言ってよい。

 

 とはいえ、駿の提案にあずさは乗り気ではない。まだ食事も途中であり、これを置いて出ていくのは、文也は別に気にしないが、あずさと駿は憚られるのだ。食べ物を粗末にするわけにはいかないのである。

 

「じゃあ、ま、食い終わったらちょいと遠めに確認する程度でいいな」

 

 文也はそう結論付けて、そのまま汁をまき散らしながら下品にラーメンを啜り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、何が起きたんだこりゃ」

 

「「「「「ゲッ」」」」」

 

「歓迎されてないみたいだぞ」

 

 食後、のんびりと食休みを挟んでからあずさが邪気らしきものが来たと言う方向に向かってみると、魔法戦闘の気配がした。いよいよただ事ではなさそうだと三人は思ったが、巻き込まれないようあえてゆっくり歩いて近づくと、目視する直前にその気配は収まった。

 

 そしていざついてみると、そこには、達也、深雪、リーナ、エリカ、幹比古、克人、美月がいた。先ほどの反応は、美月と克人を除く五人が、文也の声に気づいた時に思わず発した声である。達也と深雪にまでこんな声を出させるのは、さすがと言ったところだろう。

 

 その反応をからかう駿も文也の隣に並んで現れる。言葉自体は和やかだが、しかしながらその目は剣呑だ。いつ戦闘に入っても良いように、CADを抜いている。表面上の戦闘体勢すら隠すつもりがない。

 

「…………魔法戦闘の演習だ。幹比古が前の論文コンペ前の訓練で負けたのが相当悔しかったらしくてな、十文字先輩一人相手に、一年生の揃う戦力でリベンジしてやろうと思ったらしくてな」

 

「なんだよ水臭いな。それなら俺と駿も呼ぶべきだろ?」

 

「森崎はまだしも、お前は十文字先輩を殺しかねないだろ」

 

「それについて『は』同意だな」

 

「お前は誰の味方なんだ!?」

 

 達也はとっさに苦しい嘘を吐くが、意外にも、文也はそれに乗っかってきた。達也の反論に駿が同意するというまさか……まさか? ……まさかの事態に文也は軽口を挟む。

 

「で、本当は何してたんだ? こんなところで申請無しの魔法戦闘演習なんてこと、俺じゃあるまいし、お前らがするわけないだろ? もしまだシラを切るんなら信じてやらんでもないけど、しっかり信じてセンセーにチクるぞ? 元会頭、副会長、風紀委員、暴力女とそのお友達二人だ。中々センセーショナルだと思わないか?」

 

 文也が言っても、教師は誰も信じない。しかし、同じ主張を駿と、二人の後ろに待機しているあずさもしたとなれば、さすがに教師たちも信じるほかないだろう。

 

「……これは機密事項だ。関わらないのが、お前らの身のためだぞ」

 

「校内で起こった問題を隠蔽とは、意外とさっぱりしてねえな、元かいとーサン?」

 

 誤魔化し切れないと達也たちが諦めた空気を察して、克人が脅しの警告をするが、文也は微塵も揺るがない。実際、達也たちがしたことは正しいのだが、それを証明するには、秘密にしたいことが多すぎる。悪知恵が働く文也に見られた以上、これ以上の抵抗は不可能だった。

 

「……十文字先輩」

 

「…………仕方あるまい」

 

 達也に名前を呼ばれ、克人は観念したようにつぶやく。今回は負けだ。達也たちは、誤魔化しと嘘を挟みつつ、そのたびに文也に看破されながら、事の事情を説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一高ってそんな愉快なのばっかりなのか?』

 

「……一番愉快なのは貴方の息子さんでは?」

 

 家に帰ってから、その事を映像通話を通じて文雄と将輝たちに報告する。そのあまりにも急な出来事は、文雄がこういうのも仕方のない出来事だ。

 

 校内にパラサイトが侵入。手口は、業者に憑りついて洗脳し、紛れ込んだとのこと。鋭敏に察知したメンバーが元会頭・元会長ら権力者の力を借りて戦闘に当たるが逃げられた。憑りつかれていたのは、USNA人らしき女性で、最近この業者に入ったとのこと。様子から察するに、リーナの知り合い。

 

『USNAでパラサイト事件が発生して、その憑りつかれた一部が日本にやってきた……ということか』

 

「そういうことになるわなー。なんだか、だんだんと見えてきたぞ、希望が」

 

 将輝の推測に、文也が同調する。その目には、安堵の希望の光が大きく混ざっている。

 

 USNAが大量に日本に人を派遣してきている。身に覚えがありすぎるので自分を消しに来たかと思ったが、何も動きはないし、さらには何やらUSNAから吸血鬼が来ているらしい。

 

 これらの情報を総合すると、USNAの人員派遣の目的は、「自国から脱走したパラサイトの秘密捕獲・処分」であると考えがつく。秘密にしているのは、国のメンツもあるのだろう。異形の捕獲・処分となれば戦闘も必須であり、送り込んでくる中には戦闘要員が相当数いる。秘密で他国に戦闘要員を送っているということであり、余計に秘密にしなければならない。

 

「とまあ、こんなところだろ」

 

 文也はそう考えを披露する。つまり、文也を消しに来たと言うのは、ただの被害妄想、杞憂だった。

 

『まあ、そういうことになるんだろうね。よかったよかった』

 

 画面の向こうで、文也と同じく安心したような笑顔を浮かべて、真紅郎が同調する。どこにも論理的な欠陥がなく、学者肌の真紅郎は、完全にそれに納得して、安堵している。

 

「「『『…………』』」」

 

 一方、文雄と将輝、あずさと駿は、どこか腑に落ちなさそうな顔だ。確かに論理的な欠陥はない。どう考えても、それで正しい。

 

 それなのに、この四人は、どうにも不安が収まらなかった。空気を悪くするため否定を口にはしないが、賛同する気にはなれない。

 

 実際、この四人の不安のほうが、正しい。文也と真紅郎の推測に間違いはないが、目的はパラサイトの処理だけではない。戦略級魔法師の調査と文也の処理も、今は優先度が下がっているだけで、近いうちに実行される手はずになっている。

 

 あずさと駿は危機察知本能から、将輝と文雄は「武人」特有のきな臭さを感じる嗅覚から、正しい不安を抱き続けていた。




記憶が確かならば、この回の途中で長いこと筆が進んでいなかったので、文の雰囲気が変わったように感じるかもしれません
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。