マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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幕間

「そうですか、お兄様がそこまで……」

 

「ああ、たかが学生だと思っていたが予想外だった」

 

 達也が風紀委員になることが決まった日の帰り道、達也は深雪にあのトラブルのあとの経緯を話した。

 

「25個の『パラレル・キャスト』なんて尋常じゃない。俺でも安定して出来るのは二つまでだ」

 

 文也が体を鍛えていたとしたら、あの勝負の結末はわからない。

 

 互いが本気を出しあう『殺し合い』なら達也が負けることはまずないが、『試合』ならば話は別だ。

 

「しかも『マジカル・トイ・コーポレーション』の」

 

「ああ、まったく、因縁が深い」

 

 達也は悔しげにつぶやく。彼は学生離れどころか人間離れした技術と知識で『トーラス・シルバー』の片割れとして、魔法界の技術を革新的に進めてきた。

 

 その評価は高く、『トーラス・シルバー』モデルのCADは、実用的で実戦的でなによりも高性能だ。日本国内どころか、世界でも最高峰のCADの一角として名を連ねている。

 

 そんな『トーラス・シルバー』と並ぶのが『マジカル・トイ・コーポレーション』の存在だ。

 

 値段は安いものの、それに応じて性能は低く、また単純な魔法一つしか扱えない、まさに玩具のCADを開発する会社だ。

 

 しかしその名声は『トーラス・シルバー』とは別のベクトルで評判がいい。

 

 小さな子供向けの安全なCAD、これは社会に大きく貢献しているのだ。

 

 魔法は危険なもので感情に左右される部分も大きく、知識も経験も感情制御の力もない子供が、魔法を暴発してしまって大怪我をし、それがトラウマで一生魔法を使えなくなってしまう、という事件が少なくない。魔法師の人口は少なく、将来有望な魔法師の卵の損失は、すなわち社会の損失なのだ。

 

 だが『マジカル・トイ・コーポレーション』から発売される玩具は、性能が低い代わりに、そんな社会問題を解決して見せた。

 

 搭載されている魔法は効果が弱いものの子供にとっては魅力的で楽しい。一定以上のサイオンをつぎ込んだり変数を入力したりして強い威力を出そうとしても、強力な安全装置が搭載されていて一定以上の効力を発揮しないようになっている。また魔法の効果が弱いとはいえ、その効果に到底見合わないほど使用するサイオンの量が極端に少ない。これは達也自身も真似してみようとしたが、発売されている玩具CAD以上のサイオンの節約はどうしても出来なかった。

 

 つまりこの玩具のようなCADは『子供が長く、安全に、楽しく魔法で遊び、学べる』ように設計されているのだ。しかもCADとしては破格の値段なので一般家庭でも気軽に買える。

 

 また魔法師の家系でない家庭の子供が駄々をこねてほしがり、親は無駄と知りながら買った結果、子供がそれで魔法を使って遊べて、魔法師の才能があることが分かった、という思わぬ人材発掘効果もある。

 

 今や、二十代以下の魔法師で『マジカル・トイ・コーポレーション』のCADで遊んだことがない者はほとんどいないといってもいい。

 

 しかもその会社は3年ほど前からさらに開発が活発になった。

 

 開発者の素性は明かされていないが、それまでの開発者は『キュービー』と名乗っていた。

 

 興味を示した一般人だけでなく、各国のスパイたちがその素性を暴こうとしたものの、だれもわからなかった、というのは有名な噂である。『トーラス・シルバー』と同じだ。

 

 そして3年前、『マジカル・トイ・コーポレーション』は新たな開発者を雇ったことを発表した。

 

 その開発者も素性は明かされず、『マジュニア』と呼ぶようにその会社は記者団に向けていったのだ。

 

 それ以来、CADの開発はさらに活発になったのである。

 

 そんな謎に包まれた『マジカル・トイ・コーポレーション』は、開発技術もミステリアスさも『トーラス・シルバー』と並ぶ日本の有名CAD業者なのである。

 

 当然達也もそれに対抗心を燃やしている。

 

 そんな会社のCADを巧みに操り、自分と互角に戦って見せた学生がいる。

 

 それだけで達也は悔しかった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 気温が下がる。

 

 達也以上に悔しがっているのは、その妹だった。

 

「落ち着け、深雪」

 

「は、はい……」

 

 達也がたしなめると、深雪は顔を赤らめて感情のあまり漏れてしまったサイオンを押さえつける。

 

 対抗している達也本人以上に、深雪は『マジカル・トイ・コーポレーション』に対抗心――半ば敵意――を抱いている。なにせ世界で最高の技術を持つと信じて疑わない親愛なるお兄様の先を、CAD開発の分野で、一部とはいえ進んでいるのだ。

 

 しかも、

 

「絶対お兄様の方が、『飛行魔法』の開発は先を行くはずですのに……」

 

「深雪、それは負け惜しみだ」

 

『マジカル・トイ・コーポレーション』は、達也が基礎理論を構築して開発に着手しようとした『汎用飛行魔法』のCADの『発売』を二月に発表したのだ。

 

 時期的に言えば、達也が開発に着手しようとした段階で、『マジカル・トイ・コーポレーション』は発売を発表したことになる。

 

『汎用飛行魔法』は継続的な魔法の使用であるため、使用サイオン量の問題がどうしても出てくる。そのせいで達也は基礎理論の構築に時間を要した。それでも達也や深雪のような並外れたサイオン量の者しか長時間安全に扱えないようにしか出来なかったのだ。

 

 だが、『マジカル・トイ・コーポレーション』が発売決定をしたのだ。間違いなく、子供向けの一切怪我を起こさない安全装置、そして達也が成しえなかった使用サイオン量の大幅な節約をしてくるだろう。

 

 性能や自由度は当然、将来達也が開発するであろうものの方が数倍上であろうが……それでも、この件でつきつけられた差は大きかった。

 

 しかも汎用飛行魔法は『加重系魔法の技術的三大難問』の一つである。これの解決を『世界で初めて』成功されたのだ。開発の分野において、一番とそれ以下の差はあまりにも大きい。

 

 その差を突きつけられた達也は悔しいし、そんな兄を敬愛する深雪も悔しい。

 

「でも、井瀬君にお兄様は勝ったのですよね。しかも風紀委員という役職にも就かれたのです。そこを誇ってください、お兄様」

 

「そうだな」

 

 入学試験の魔法実技で二位の実力者相手に勝利を収めた。これは二科生としては異常とも言える成果だ。

 

 達也の実力を知っている二人にとっては『当たり前』なのだが、世間的評判で言えばもう達也の方が上である。

 

 そのまま二人はキャビネットに乗って自宅の方面へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一高がテロリストに襲撃され、達也や克人が秘密裏のうちにアジトを壊滅させた次の日。

 

「ふみくん、来たよ」

 

「お、あーちゃん。もう少しで終わるからちょっとその辺座ってて」

 

 あずさが文也の部屋を訪ねる。久しぶりに会った文也の母親に、約束通り自宅を訪ねた際に通されたのだ。その時に『あらあーちゃん大きくなって』と言いながら軽くひょいとだっこされて心底悲しい気持ちになったのは余計な話だ。

 

 部屋の中では、文也がドライバーなどの工具を使って『自分で』CADを調整していた。

 

「またいじってるんだ」

 

「ああ、今回のは凄いぞー」

 

 そう言って文也はネジで蓋を閉めると、それを掲げて見せる。それはランドセル程度の大きさのものだ。

 

「あれ? けっこう大きくない?」

 

「こればっかりはどうしてもなー」

 

 文也はそれを背負う――ランドセルを背負った小学生みたいだ――と、そのまま空中にジャンプして――

 

 

 

 

「ほら」

 

 

 

 

 

 ――そのまま空中で『静止』した。しかも、

 

 

「ほらほらほら」

 

 ――空中をすべるように移動し始めたのだ。

 

「そ、それって、例のあれ!?」

 

「そう、それの原型」

 

「すごい、すごいよふみくん!」

 

 文也が背負っているのは、『マジカル・トイ・コーポレーション』が発売を発表した飛行魔法のCAD、それの原型だ。

 

 文也は表向き、CADエンジニアの父親に『マジカル・トイ・コーポレーション』のCADを改造してもらっているということになっている。

 

 しかし、それは違った。

 

『マジカル・トイ・コーポレーション』から発売されているCADは全て、開発した『原型』に様々な安全用の『改造』を施しているものなのだ。

 

 その『原型』を開発しているのは――

 

 

 

 

「親父と頑張って作った甲斐あったぜ」

 

「やっぱり、『マジュニア』ってふみくんだったんだね」

 

 

 

 

 

 ――文也と、その父親である。

 

「ふみくんと離れちゃってから2年ぐらいたって、『マジュニア』て人が開発に加わったて知った時、絶対ふみくんだと思ったよ」

 

「ご明察。ま、実はもっと前からお試し期間として参加してたんだけどな」

 

 

 

 

 文也とあずさが小学生の時に知り合ってからしばらく、ふとしたところから、文也の父親が『マジカル・トイ・コーポレーション』の魔工師であることがあずさにばれてしまった。

 

 その時に、秘密にするという条件であずさにすべてを話したのだ。

 

 文也の父親がかの有名な『キュービー』であること、文也のCADは実は製品の改造版でなく、発売されているものの原型およびそれの改良品であることなどだ。

 

「ま、名前の付け方が単純だしね。『魔法のジュニア』で『マジュニア』」

 

「ふみくんだって世間にばれると思ってヒヤヒヤしちゃったもん、私」

 

 二人で穏やかに笑いながらそう話す。

 

 ちなみにあずさは知らないが、『キュービー』の由来は『僕と契約して』のあれ、『マジュニア』は大魔王が口から産んだ二代目大魔王である。名付けたのはどちらも文也の父親で、由来を知った母親からビンタを食らっていたのは文也の記憶に新しい。そりゃあ子供に魔法の楽しさを提供する側があんな淫獣の名前を借りれば知ってる人間は怒るに決まっている。某魔王さんはZのこともあって許された。

 

「まあ発売はもうちょっと先かな。安全装置とか、飛行高度の上限とかいろいろ考えなきゃいけないし。あと値段がとにかくやばい。開発コストがアホみたいにかかったからさ。発売は夏休みぐらい、かなあ」

 

「名前公開して賞金やらなにやらもらえば良かったのに」

 

「いやー、サイオン量の節約技術がとにかく『ほしい』奴らが多くてさ。名前公開なんかしちゃったらこの家にロケット弾が飛んできかねないし」

 

 今まで会社の方にスパイが侵入してきたことも何度かあるし、会社から出てくる要人やエンジニアに尾行が付いたことも数知れない。飛行魔法デバイスを発表してからはとくに激しくなっている。

 

 海外ならまだ分かる。未だに技術大国を名乗っている日本の、そのなかでも最先端の技術を『盗もう』としている輩は少なくないし、そうしたくなるのもするのも――いいか悪いかは別として――わからなくはない。

 

 文也がうんざりしているのは『国内の』スパイだ。他の企業ならまだ海外の輩と同じ理由でわかるが、どうやらきな臭い『一族』や軍部、公安レベルのスパイまでいると父親から聞いている。国内同士でまで足を引っ張り合うのは、文也としては不本意だ。ただしきな臭い『一族』は、我欲のために盗もうとかそういう目的ではなく、もっと切実な理由から動いているのであり、原因は『マジカル・トイ・コーポレーション』の方にもあるのは余談である。

 

「今更だけど、あーちゃん、うっかり口滑らしたりしないようにね?」

 

「も、もう、そこまで私ゆるくないよ」

 

 あずさは単純で素直なので、うっかり口を滑らしたりすることがある。文也もその被害になんどか遭っているのだ。

 例えば、夏休みの宿題を家に忘れたとか言っといて一ページもやってなかったこと、いたずらの計画、さぼりの計画エトセトラエトセトラ……逆に一番知らせてほしくない事情は漏らす素振りがなかったのが不思議だ。一線はわきまえてると思うべきだろうか。

 

「さて、自慢も終わったしゲームでもすっかな。なにやる?」

 

「あ、ねえねえ、『早撃ち』が体験できるやつある?」

 

「おお、あるある。これ会長さんモデルのキャラもいるんだぜ」

 

「あれやってるときの会長、綺麗だもんね」

 

 文也は飛行魔法デバイスを机の横に引っ掛けてゲームの箱を漁りだす。

 

 その箱の中から会話を挟んで取り出したのは、SF映画のような背景に『Simple3000 theスピード・シューティング』とタイトルが書かれたゲームパッケージだ。

 

 そのゲームは昨今すっかり浸透したフルダイブVRゲームで、九校戦の正式種目にもなっていてまた魔法競技としてもメジャーである『スピード・シューティング』をリアルに体感できるゲームだ。

 

 あずさはこれからそれをやるということで、特に自分の体を動かすわけでもないのにスポーツ気分になり、動きやすくするためにぴっちり閉めていたシャツのボタンを開けて緩め、さらに首にかけていたペンダントを外してそっと机の上に置く。

 

「え、あーちゃんそれまだ使ってたの?」

 

「もう、当たり前でしょ」

 

 それを見た文也が目を丸くしてそう言うのに対し、あずさは笑って答える。それを聞いた文也は嬉しさとほかの色々な感情が混ざった笑みを浮かべて小さく

 

「ありがとな」

 

 と言った。あずさはその意味を理解して、何か言おうとするが、すぐに文也はいつもの雰囲気に戻り、まるであずさの言葉を遮るかのように明るい声で問いかける。 

 

「ちなみにあーちゃん、リアルの方のやつはどれぐらい出来る?」

 

 遮られたあずさは、もうそこで言おうとしたことを諦める。文也が今の一瞬で何か納得したのだから、それを自分がどうこう言う必要はない。きっと、双方にとって悪い結果にはならないから。

 

 文也を尊重して、ここまでの話は一旦なし、ということにして質問に答える。

 

「んー、そこそこ。ふみくんは希望すれば選手に選ばれるんじゃない?」

 

「あー、確かにそれもいいけど、俺は氷柱倒しのほうに出たいかなー。ま、なんでもいいけど。あーちゃんは何出たい?」

 

「いつも通りエンジニアかなー」

 

「あーちゃん魔法力も二年でトップクラスだろ? もったいねー」

 

「あ、あまり競技とかは得意じゃないから……」

 

「そこも変わんないのかよ」

 

 フルダイブVR用のヘルメットの設定を各々で調節しながら、二人はそんな会話を交わした。




これにて一章はお終いです
次回から二章です。二章からは原作から少し離れた雰囲気になると思います
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