マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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2000ポイント超えて嬉しいので連続投稿です
本日の深夜0時ぐらいにも1話投稿していますので、ご注意ください


6-6

 8月3日、真夏のカンカン照りの中、日本中から優秀な魔法科高校生が国防軍富士演習場に集まった。

 

 三高のバスでは将輝の隣をめぐって女子の間でひそかなバトルが発生していたのだが、いつの間にか大親友の真紅郎がそこに座っていたため、無駄なバトルになった。

 

 一方、規模は小さいのだが、将輝の隣をめぐるバトルよりも悪目立ちしたのが、文也の隣をめぐる思惑である。文也は選手であり、当然選手用のメインバスに乗るものだと大多数から思われていた。よってその隣を、香澄が狙っていたのである。親友である駿を出し抜いて愛しいあの人の隣を確保しようと、くそ暑い中ひとり鼻息を荒くしていたのである。一方的に恋のライバルだと目の敵にしているあずさは、今回は眼中にない。彼女はエンジニアであり、選手用のバスからは外れると見込んでいたからだ。

 

 ――しかしながら香澄の思惑は、外れてしまった。

 

 何と文也は自身がエンジニアでもあることを良いことにエンジニア用の機材運搬を兼ねたバスに勝手に乗っていたのだ。

 

 香澄は「またあの人は勝手に……でも自分に正直なところがステキ」となって、我慢して『ロアー・アンド・ガンナー』の相棒である一年生の女子と仲良く隣でバス旅を楽しんだ。自由が制限されがちな魔法師は、奔放な魔法師を嫉妬まじりの憧れで見ることが多く、それが恋愛感情に直結するのは、意外と珍しいことではないのである。香澄の場合はそれにしたって行き過ぎなのだが。

 

 そして本当の悶着は、降車時に起きた。

 

 エンジニアの仕事がある文也のお手伝いをしてポイントを稼ごうとしていて、彼が乗ったというバスの前で待ち構えていた香澄――とついでに颯太と菜々――の前に、衝撃の光景が飛び出してきた。

 

 降りてきたのは文也だけではない。なんとそれと一緒に、あずさも降りてきたのだ。

 

 しかも、二人そろって眠そうに目をこすりながら、手をつないで。

 

 颯太と菜々としては別に心底どうでもよいのだが、香澄はそれどころではない。ポイント稼ぎを忘れて、何があったのか問い詰める。

 

 そしてそれに対して二人そろって、まるでそれが当たり前とばかりに、バス旅の間並んで一緒に寝てたと説明したのである。そしてそこを通りかかった駿が「あー去年もそうだったな」と呟いたものだから、さらに香澄への追い打ちとなる。結局香澄はそのまま真っ白になって立ち尽くし、お手伝いは颯太と菜々しか働かなかった。

 

 そんな日の夜が、九校戦の前夜祭パーティ。お偉方の退屈なスピーチを右から左へ受け流しながら、文也はパーティで出されたハイレベルな料理をこれでもかと頬張る。ただの学生の集まりの立食パーティのくせにやたらと美味しいのだ。普段はお菓子ばかり食べているので小食だが、こういう時は意地汚いものである。

 

 しかしながら所詮は小食、すぐにお腹いっぱいになった文也は、即壁の華と化していたあずさと一緒に、一高のメンバーに久しぶりに会いに行くことにした。

 

「よっす、久しぶりだな」

 

「げっ、井瀬君じゃない」

 

「この裏切り者めー、元気にしてたか?」

 

 文也が最初に声をかけたのは、ある意味一番お世話になった風紀委員の二人、花音と沢木だ。花音は心底嫌がっている様子だが、沢木は文也を見るなり、全くそう思っていない爽やかな笑顔で憎まれ口を叩きながら肩を組んでくる。風紀委員としては文也に対して何か思わないでもないが、一方でヤンチャなぐらいのほうが後輩は可愛いと思っている古い気質の沢木は、意外と文也を気に入っているのである。こんな割とキツめの憎まれ口が叩けるのも、文也を信頼している証拠だ。

 

 そして花音は文也の横にいたあずさを見てパッと顔を輝かせる。二人は同級生の同性で、それでいてどちらも上層部に立ちながら、そこまで接点はない。それでもお互いに友達関係ではあり、久しぶりに会うのは嬉しかった。

 

 そして声がデカい花音と沢木が文也たちに反応を示したことで、続々と一高の面々が会いに来る。特にあずさは人望が厚くて、再会したい生徒たちの列ができているほどだ。そして意外にも、文也に会いたがっている生徒も多い。いたらいたで騒がしくてうざったいが、一年間そういう状態が続いていると、離れたら逆になんやかんや寂しかったのだ。人と言うのは勝手なものである。また、二人は多くの一高生の命を救った英雄でもあり、またいろいろと有名なため、一目会いたいと言う一年生も多い。

 

 しかしそんな中でも、やはり文也に敵意のような目線を向ける生徒もいた。それは悪戯を現役で受けていた二・三年生ではなく、意外にも一年生。文也も要注意相手選手として何度もデータを見たのでさすがに覚えている。七宝琢磨と、七草泉美だ。

 

 琢磨は文也に群体制御のノウハウを簒奪されたと思って特に恨んでい七宝家だし、泉美は生まれたときからの片割れ・香澄を誑かして自分の傍から離れさせたクズ男として、それぞれ敵視している。実際泉美としては香澄の命の恩人であるため複雑な感情もあってそう露骨になることはないはずだが、琢磨の敵意に喚起されてる形だ。

 

「あれ? 森崎はいないの?」

 

 そうした色々な感情が混ざった列の中で、どこかソワソワした様子の滝川が小声で文也に問いかけた。

 

 確かに、ほとんどの一高生からすると、この二人がいて駿がいないというのは不自然だ。彼もせっかくだから一高生に再会したいだろうし、また冬休み以降は特にこの三人でつるんでいるのをよく見ている。

 

「あー駿ね。声掛けようと思ったんだけど、三高の同級生の女と何やら話し込んでた」

 

「そ、そう……」

 

 文也の話を聞いて、滝川は無表情を装っているが、明らかに肩を落とした。そんな彼女の肩を、後ろから現れた英美が優しく叩く。淡い気持ちの波動を感じ取った乙女は、それをつつくのに熱心なものである。

 

「俺が何だって?」

 

 そして間が良いのか悪いのか、駿がそこに現れた。やはり駿もまた、タイミングを見て顔を出す予定だったらしい。

 

「あ、ね、ねえ、森崎……久しぶり」

 

「ああ、久しぶり」

 

 一通り同級生の男子と挨拶を交わした駿に、滝川が声をかける。

 

「ねえ、森崎さ、エントリー表見たけど、ロアガンの男女ペアに出るんだよね?」

 

「そうだ。……ああ、なるほどな」

 

 滝川の質問に、駿は少し遅れて彼女が何を言おうとしているのか理解する。

 

 昨日、公式サイトに、『トライウィザード・バイアスロン』以外の競技の登録選手が公開された。駿は予定通り、『ロアー・アンド・ガンナー』男女ペアの代表だ。

 

 そして、一高の『ロアー・アンド・ガンナー』男女ペアの代表はと言うと――

 

「私、負けないから。絶対に」

 

「ハッ、上等さ」

 

 ――滝川である。

 

 かつての同級生からの宣戦布告に、駿は闘志をみなぎらせて、堂々とそれを受け止めた。

 

「漫画かよ」

 

 その横で小さいのが何か言っているが、黙殺された。

 

 そんな文也の視界――小さいから大勢の人に囲まれているとほぼ見えていないのだが――の端に、ふと、二人の男女が映った。

 

 文也たちを囲む集団から離れ、少し気まずそうに遠巻きに見ている、大柄な少年と絶世の美少女。

 

 司波達也と、司波深雪だ。

 

 かつて本気で殺し合った二人の姿を見て、文也の心臓はあの夜の恐怖を思い出して縮み上がる。そして因果なことに、そのタイミングで、二人の目線が文也を追いかけ、ばっちり目が合ってしまった。

 

(お前らには絶対に負けないよーだ)

 

 恐怖心を抑え込み、文也は宣戦布告の意味を込めて、小さくアカンベーをする。去年は仲間だが、今年はエンジニアとして腕を競う敵同士。あの夜の恨みは、ここでも晴らすつもりだ。

 

 そんな文也の渾身のアカンベーはと言うと――司波兄妹からは、彼の身長が小さすぎて良く見えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月5日、九校戦初日。

 

 この日の一高は、なんか毎年の事のような気がしないでもないが、明暗分かれる結果となった。

 

 まずは、「明」の方を見てみよう。

 

「雫、おめでとう!」

 

「ありがとう、ほのか」

 

 達也の身内でひっそりと開かれているのは、雫の優勝記念プチパーティだ。

 

 初日に行われた『ロアー・アンド・ガンナー』女子ソロ。二年生にして一高女子を牽引する魔法力を持つ生徒である雫は、SSボード・バイアスロンにおいても優秀な選手であるため、当然この競技の優勝候補筆頭だった。そして、実際に見事に優勝して見せたのである。

 

「達也さんのおかげだよ、ありがとう」

 

「雫の実力あってこそだけどな」

 

 決勝戦でのゴール速度は、的への命中精度度外視でかっ飛ばしていた七高、コーナリングが神がかっていた四高に次ぐ三位だったのだが、的への命中精度はダントツであり、総合点での優勝となった。総合二位の四高選手との差はほんのわずかであり、そのほんのわずかな差は、エンジニアの差だと雫は達也に心の底から感謝をしている。

 

 達也が雫に用意したのは、領域内の的を破壊する振動系魔法だ。定番中の定番魔法であり、去年開発して見せた『能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』の元となった魔法である。

 

 的を破壊するというのは、当然ながら、その的のエイドス自体を対象として魔法を行使するのが一番効率が良い。去年の『スピード・シューティング』といい今年の『ロアー・アンド・ガンナー』といい、シューティングやガンナーと言っておきながらそんな有様なのは、魔法競技の定番ネタである。エイドスを対象として魔法式を投射する場合は、一度照準に捉えてしまえば、「射線」から逃れても魔法は正常に発動する。的が動いていたり、自分が動いていたりすると「射線」が重要な射撃魔法は使いにくいが、直接干渉する魔法ならなんてことはないのである。

 

 ただし、それは理屈上の話。『ロアー・アンド・ガンナー』ソロはその競技の特性上、ボートを動かすための移動系魔法や加速系魔法、的を破壊するための魔法を、一人で効率よくマルチキャストする必要がある。汎用型CADにつける照準補助装置は去年すでに、それこそ達也と雫のペアが実施済みだが、去年みたいに的の破壊に集中するわけではなく全く異なることをする競技なわけだから、それは使えない。照準補助なしで、高速移動しながら的に正確に照準を合わせるというのは、雫でも難しいことだった。

 

 そこで達也が持ち出したのが、この振動破壊魔法の定番、『振動破壊領域』である。領域内にある有体物を振動させて破壊する魔法であり、物体の硬度や大きさなどをある程度指定することも可能だ。『的を含む領域』にこれを設定することで、多少おおざっぱな照準でも的を破壊できるようにしたのである。的破壊の基準は半壊以上であり、的の一部が領域から外れてしまっても問題ないというのも大きい。これによって雫は高い命中精度を得られた。ただし、的そのものを対象にするよりも魔法としての効率は悪く、照準以外の演算も、発動までの時間も、術者への負担も大きい。割と諸刃の剣ではあったのだが、振動系魔法に適性のある雫は多少難しくなったところで誤差でしかなく、命中精度向上のメリットの方が大きかった。

 

 この作戦は、達也としては術者の実力に依存したものであり、汎用性がないのが個人的に勝手に悔しがっている。しかしながら雫は、「私の実力を信頼しての作戦」とプラスに捉えてくれていた。達也の日ごろの行いのおかげだろう。

 

「エリカとレオも、ひとまず第一予選突破おめでとう」

 

「まあこれぐらい楽勝よ」

 

「俺は結構きつかったけどな」

 

 幹比古の言葉に、疲労の色が見えないエリカと、やや疲れ気味のレオが答える。

 

 初日には、『デュエル・オブ・ナイツ』の第一予選も行われていた。この第一予選は、他二人の女子(千倉とあと一人)は善戦空しくここで敗退してしまったものの、エリカは余裕の突破を決めているのだ。

 

 一方、校内の候補四人での厳正な審査を勝ち残って代表となったレオはと言うと、予選は突破したものの、三高の優勝候補・遠藤高安と同じ小グループに入ってしまい、初日から大激戦となった。辛くも勝利して、ライバルたる三高の優勝候補を予選で潰せたのは大きいが、明日の第二予選や決勝に響かないか心配だ。

 

「デカいっていうのはやっぱ正義だよなあ」

 

 レオはまだ痛む腕を押さえながら、試合を振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「直接ぶつかり合う競技なのに体格差おかしいだろオイ!」

 

「文句言うんじゃないわよ! アタシなんて『オーガ』よ『オーガ』!!!」

 

 第一予選の組み合わせが決まり、対戦相手のプロフィールを見たレオは、すっかりビビりまくっていた。

 

 三高の遠藤高安。相撲部で、その体格は規格外だ。身長は180センチメートルを超え、脂肪に見せかけた筋肉の鎧によって膨らんだその重さは200キログラムを超える。もはやプロの幕内力士にも劣らない体格だ。

 

 普通、こういう格闘技は、体重差が勝敗に直結しやすくまたお互いに危険なため、かなり厳密に階級が定められている。しかしながらこれは所詮高校生同士の親善競技会であり、そこまで運営は頭を回さなかった。結果として、まあまあがっしりしているレオが怯える程の体格差ゲームが実現してしまった。

 

 レオが選んだのは、オーソドックスな片手剣と、ゲームに出てくる勇者の盾のような形をしたこれまたオーソドックスな中盾だ。競技の性質上どちらも片手で持つものであり、強化プラスチックおよび強化軽量プラスチック製といえど、常人がまともに片手で扱うのはかなり難しい重さとなる。大剣と大盾のパワーは魅力的だが、レオは身体の動きを重視してこちらを選んだのだ。

 

 一方、対戦相手の遠藤が選んだのは、その体格に見合った強気の選択、機動隊が持つような形と大きさの一般的な成人男性なら全身を守れる大盾と、幅広で分厚くて長い、とにかくデカい大剣だ。どちらも鍛え上げられた成人男性ですら両手で扱うのが精いっぱいだというのに、どちらも片手で余裕をもって扱えている。一回戦の対戦相手だった八高の生徒は、なすすべもなくリングアウトを食らっていた。

 

「クソッ、こうなったらヤケだ。二科生の意地を見せてやる」

 

「そうよ、男ならここで死んでも勝つぐらいの意気込みを見せなさい!」

 

 エリカに背中を強くバシンと叩かれ、それで気合の入ったレオは、先ほどまでの弱気が嘘みたいな勇ましい表情でリングに上がる。これが彼が強者たる所以だ。

 

 そしてその試合は、まずは力と力のぶつかり合いとなった。

 

 競技で定められた動き――決闘のようにお互い一礼する――を挟んで、審判の合図と同時に、お互いに盾を掲げて真正面から突っ込む。

 

「ぐおっ!?」

 

「えっ!?」

 

 お互いに得意の硬化魔法を盾に施しての、一撃必殺のつもりだったぶつかり合い。そしてそれはお互いの思惑から外れ、硬化魔法の強さが拮抗しており、どちらも決め手とはならなかった。レオは武装でも体格でもはるかに強い相手に正面からぶつかり合ってそれどころではないが、遠藤は勝てると思っていたようで、驚きに目を見開く。

 

「余裕ぶってんじゃねえ!」

 

 レオは吠えながら、バックステップで距離を離した直後にさらに機敏にサイドステップを踏んで横に回り込み、素早く剣を振るう。それに遠藤はギリギリで反応して、大盾で防いだ。

 

「それっ!」

 

 そして反撃をする。盾に身を隠しながら、大剣を槍のように突き出す。その軽く見えて重い一撃を、レオは硬化魔法を施した中盾で防いだ。

 

「なるほど、やはり盾チクか」

 

「シンプルイズベストってやつよね」

 

 大盾に身を隠してどっしり構えながら、リーチで優る大剣を槍のように使って、安全にポイントを稼ぐ。この通称盾チク――ゲーム研究部が名付けてエリカが気に入ったから一高内に広まった――は、理論上でも試合でも強力な戦法であり、一時期はこれで沢木が代表争いのトップになっていたこともある。シンプルに強い戦法だ。

 

 そう、シンプルに強い。それゆえに、一高生はみな、しっかり対策してきている。

 

「おらおらおデブちゃん! ついてこれるかな!?」

 

 レオはサイドステップを駆使して回り込みを多用し、相手の周りをグルグル回りながら、身軽に剣を振るう。騎士の決闘という競技名から程遠い煽りが混ざっているが、それはこの一か月、口の悪いエリカにしごかれてきたからだろう。

 

 それに対して、遠藤は守るので手いっぱいだ。大剣の突き出しは全くレオに追いついておらず、重い盾を攻撃に合わせるしかできない。

 

 そう、この戦法を取る選手は、大盾と大剣を選んでいるのだから、身軽に動けない。それに対して機動力で翻弄しようというのも、また定番の作戦だ。

 

 その状態はしばらく続き、レオが一方的に攻め立てる展開が一分ほど続いた。

 

「不味いわね」

 

「ああ」

 

 だというのに、エリカと達也は顔をしかめる。現在モニターに表示されている獲得ポイントは、どちらもゼロ。互いの攻撃は盾にしか当たっておらず、それが盾へのダメージ蓄積にすらなっていないため、ポイントとして認められていない。完全に押しているように見えて、実は拮抗していた。

 

 それも、レオに不利な形なのである。

 

 一見押しているように見えるが、これで拮抗しているというには、レオの方が苦しい。遠藤がほぼ動かずに身体を回しているだけなのに対して、レオはサイドステップで盛んに動き回っている。装備の重さの差は大きいが、それでもレオの方がはるかに消耗が大きい。このままだと、レオの精度が落ちて負けてしまうだろう。

 

 レオの方から、打開の手を打たないといけない。そう、観客もレオも思った時――思わぬ形で試合が動いた。

 

「このっ!」

 

 なんと動いたのは、有利な拮抗を維持しているだけでよかった遠藤だ。焦ったように動き出し、ステップの瞬間にレオの進路に大剣を突き出して動きを阻害し、そのまま盾を構えて突撃して吹き飛ばそうとする。

 

「あらよっと!」

 

 しかしレオは、大剣が置かれた方向とは逆にステップを切り替えて、その突撃をギリギリのところで躱す。そして鈍重な体で突撃した遠藤はそのまま振り返って盾を切り返せるはずもなく、ヘルメットにレオの反撃を受けてしまった。

 

「く、くうう」

 

 ヘルメットに入った場合、入るポイントは大きい。それを分かっている遠藤は、自分もポイントを取りに行こうと果敢に攻めるが、その鈍重さはレオからすれば止まって見える。雑な攻めを的確に咎めて、レオは着実にポイントを重ねていた。

 

「ぐ、があああ!!!」

 

「よし!」

 

 しかしながら、その体格差はやはりレオにとって不利であった。急に優勢になったせいで勢いを見誤って攻めすぎてしまい、遠藤の大盾によるブチかましを食らってしまい、中盾でとっさに防いだものの、レオはあっという間にリングアウトギリギリまで吹き飛ばされ、床に仰向けに倒れこんでしまう。幸い男の意地で剣も盾も手放していないが、追撃を食らってしまえば逆転負けだ。

 

「どすこおおおおおおおおい!!!!」

 

 特徴的な掛け声で、大盾と大剣を突き出しながら遠藤がドスドスと走ってくる。

 

 レオはギリギリのところで転がってそれを回避し、リングのふちまで近づいてきたのを横から押してアウトにしようとする。しかしながら、足の裏の面積が大きく重心を低く低くと意識し続ける力士は、ブレーキ力と踏みとどまる力に長けている。レオの後ろからの攻撃に、遠藤は危なげなく耐えきった。まさしく土俵際の攻防だ。

 

 そして、再び遠藤が動き出す。姿勢を整えた遠藤は再び盾チクの構えに入り、レオに大剣を突き出す。ちょうど自身の攻撃のタイミングに合わせられたその攻撃は、レオは躱すことはできない。

 

「無駄だ!」

 

 それゆえに――攻撃しようと振るっていた片手剣の軌道を変えて振り下ろし、自らに迫る大剣に叩きつける。いきなりの衝撃に、大剣は地面に思いきりぶつかった。

 

「チェックメイトだ!」

 

 レオはその大剣を思い切り踏みつけて動かせないようにし、片手剣を思い切り振りかぶって大剣に振り下ろす。

 

「くっ!」

 

 遠藤は剣を破壊するつもりだと踏んで、得意の硬化魔法を施す。この後、振り下ろしたものの跳ね返されて体勢が崩れたレオに対し、大剣を無理やり持ち上げてひっくり返して倒れているところをマウントポジションで一方的に攻撃する。それで遠藤の勝ちは確定だ。

 

「俺の勝ちだ!」

 

 ――だというのに、遠藤の大剣は、見事にぽっきりと折れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーこれは明暗分かれたねえ」

 

 プチパーティの後の作戦会議室で、今日の総括として五十里が呟く。

 

 明。これは、雫の優勝と、エリカとレオ、そして男子の残り二人である桐原と十三束の第一予選突破だ。千葉家で鍛えられた男子たちは、全員が予選を突破していた。力士からのブチかましを受けたレオの状態がやや不安だが、ひとまず問題はない。エリカは余裕で今日の試合はすべて敵を叩きのめした。有力視していた千倉は小グループでいきなり『オーガ』と当たって秒殺され、もう一人の女子も四高の選手に負けた。この二人は「暗」だろう。

 

 そしてそれよりも「暗」なのが、『ロアー・アンド・ガンナー』男子の結果である。

 

 まず、男子ペア。ボート部の男子と去年『スピード・シューティング』の代表だった三年生を組ませた、まあまあ自信のある布陣だったのだが、決勝の五組には残ったものの五位となり、ポイントは持って帰ってこれていない。男子ペアの優勝は三高、真紅郎と三年生男子のペアだ。漕ぎ手は上手ではあるものの、良い勝負ができていたように見える。しかしながら真紅郎の命中精度がすさまじく、昨年の論文コンペでゲリラが会場に侵入してきたときに披露した『不可視の散弾(インビジブル・ブリッツ)』で、撃ち漏らしは一つだけというとんでもない成績をたたき出してきたのだ。

 

 そしてそれよりもさらに酷かったのが、男子ソロだ。代表である二年生の五十嵐は百家本流の息子であり、文也と駿が抜けた今、スランプから脱却した『神童』幹比古と並んで、二年生男子を牽引する実力者だ。SSボード・バイアスロン部の優秀な選手でもあり、次期部活連会頭の筆頭でもある。だというのに、なんと、予選で負けてしまったのだ。

 

「…………予想はしていましたけど、アイツはこの競技だと反則ですよね」

 

 達也は先ほどのパーティとは一転、やや深刻な顔をしながら、今日の競技を振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロアー・アンド・ガンナー』男子ソロ予選。達也はエンジニアとして大忙しだったのだが、少し時間に余裕ができたし、また何よりも気になる選手が他校から出場しているので、会場に見に来ていた。決勝はスケジュール上絶対生では観戦できないので、これぐらいは許されるだろう。

 

『ロアー・アンド・ガンナー』の予選の演技順番は、抽選によって決まる。五十嵐の順番は最後から二番目。周りのスコアを見て、予選突破できる程度のスコアに抑えて決勝のために消耗を押さえるということができる、好ポジションだ。五十嵐はその実力と適性から、ずっと優勝候補と言われていた。しかしながら、達也はそうは全く思っていない。盛り上がりに水を差すから口に出すのは控えているが――予想される敵が、あまりにも強すぎる。

 

「…………あんなの、反則だ」

 

 隣の深雪にしか聞こえないぐらいの音量で、達也は吐き捨てる。隣にいる深雪が睨んでいるのは、余裕綽々の顔でゴールをして、盛り上がる観客に手を振ってまでみせている小学生かと見間違えるようなチビ、予選六番手の演技を終えた井瀬文也だ。

 

 この競技のソロは、高速移動とコーナリングと的の破壊という、全く違う動作を高出力・高精度で素早く同時に行う、マルチキャストが試される競技だ。そう、マルチキャストである。

 

 だというのに、あのクソチビはその土俵に乗らず、異常も異常である『パラレル・キャスト』を以てして、競技性を破壊し、圧倒的な一位に君臨した。

 

 複数のCADを同時に使える『パラレル・キャスト』は、ボートと的破壊を全く同時にこなせるということであり、この競技のソロにおいては圧倒的なアドバンテージだ。もし達也に魔法力が一科生のビリ程度でもあったら、五十嵐を差し置いて選手になれたかもしれないほどに有利なのである。

 

 しかしながら、文也の場合は、その程度のアドバンテージなど可愛く見えるほどに、圧倒的なアドバンテージを持つ。

 

 文也が今回使用したCADは30個。加速、移動、コーナリング、ジャンプ、着水、波の制御、慣性制御、空気抵抗制御、その他もろもろスピードに関わるもの。実に20個ものCADを同時に使用し、そしてそれぞれの魔法の「専用」CADである。

 

 そして残りの10個については、その半分が文也の体に、その半分がボートに取り付けられている。

 

 勘違いしないでほしい。五個が体、五個がボートではない。

 

 10個のCADそれぞれが二分割出来て、半分に分けた10個を体に、もう半分に分かれた10個をボートに取り付けているのである。

 

 この特殊なCADは、急遽出場することになった去年の『モノリス・コード』新人戦で文也が使ったものと同種、『マジカル・トイ・コーポレーション』が「流産」した技術だ。

 

 ボートに取り付けられたのは、CADで言うところの照準補助装置と起動式保存ストレージに当たる。この小さなメダルの中には、的を破壊するためだけの『不可視の散弾』の起動式と、高性能カメラがついている。そして文也の体に接触している片割れが、CADの感応石に当たる部分だ。

 

 カメラが的を捉えると、自動で規模と持続時間と的の座標情報の変数が入力された状態で起動式が無線電気信号で文也が身に着けている方に送られ、受け取った感応石がサイオン信号にして文也に渡す。そしてあとは魔法式として投射して破壊するだけだ。

 

 そう、つまり、射撃のほぼ全てを、CADが全自動でやってくれるのである。

 

 これによってほぼすべてのリソースをボートの移動に注げる文也は、数多の専用CADを同時に使った専用たる性能の暴力も加わって、五十嵐が的撃ちなしで集中してやっても追いつけないほどの速度でゴールまで駆け抜けたのである。ソロだというのに、先ほどまで行われていた男子ペアの優勝ペアである真紅郎たちよりもゴールタイムが早いという訳の分からないことになっている。そして高性能カメラにほぼ任せた半自動射撃の精度も流石であり、なんと一つも外さず全ての的を壊している。的破壊の方も、二重の意味でパーフェクトというわけだ。

 

『ロアー・アンド・ガンナー』という競技(ゲーム)、そのゲーム性を根本から破壊する、何か訳の分からない暴力によって、文也は完全にこのゲームを支配していた。近くにいたゲーム研究部員が、その様子を、まさしくゲームに例えて、チートだのグリッチだのと騒いでいる。それを聞いた達也は、妙に納得してしまった。

 

「いえーい!!!!」

 

 文也の声が、盛り上がる会場に木霊して、さらに観客を沸かせる。圧倒的な支配者の登場で、会場の空気はほぼ文也一色になっていた。

 

「五十嵐は大丈夫か……」

 

 こうなった時、心配なのは五十嵐だ。会場の空気に気圧されて実力が出せず、オーバースピードでコースアウトして失格になってしまった七番手・二高の選手を見ながら、達也は呟いた。

 

 五十嵐は実力こそあるが、気弱で死ぬほどプレッシャーに弱い。こんな中では、実力が出せるか心配だ。

 

「ダメみたいですね」

 

 深雪が横でため息を吐く。名前が呼ばれてスタート地点に現れた五十嵐の顔は真っ青、今にも泣きだしそうで、真夏だというのに体が震えている。

 

「これがトラウマで魔法力を失わなければよいが……」

 

 そんな心配をしてしまうほどに、今の五十嵐の状態は悪い。しばらく夢に出るだろう。

 

 結果、五十嵐は失格にこそならなかったものの、練習の時と比べても最悪のスコアで、決勝進出を逃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふみくんかっこよかったよ!」

 

「文也さんすごーい!!!」

 

「へへへん、もっと褒めろ、もっと讃えろ!」

 

 三高サイドでは、文也の鼻がピノキオもかくやと言うほどに伸び切っていた。結局文也はずっと圧倒的なスコアで一位になり続け、他選手のメンタルをズタズタにしながら優勝した。あずさは文也の活躍が嬉しくて、優勝が決まってからずっとご機嫌だ。また、すっかり感激した香澄はもう目どころか口の中までハートマークを浮かべて、ずっと文也にくっついてキャーキャー言っている。

 

「いやはや、文也は流石じゃのう♪」

 

 女子ペアの選手であるためそのすごさがより実感される沓子もまた、ご機嫌で文也を褒めたたえていた。ちなみに、颯太と菜々も太鼓持ちでポイントを稼ごうと参加している。颯太は割と本気で称賛しているが。

 

 また、男子ペアで優勝した真紅郎とその漕ぎ手もまた、すぐそばで褒めたたえられている。

 

「ジョージ、あの命中精度はすげーよホント」

 

「本番で最高のパフォーマンスとはな」

 

 特に上機嫌なのが、親友が優勝した将輝だ。また同じ競技の射手としてそのすごさがわかる駿もまた、真紅郎に驚嘆していた。文也のオールパーフェクトは全く別次元の話であり、正統に競技に挑んで正統にパーフェクト一歩手前という成績をたたき出した真紅郎の方が、魔法射撃の腕としては確かなものなのである。自動魔法なしで射撃勝負をしたら、文也は真紅郎にボロ負けしたこともあるほどだ。

 

「ひとまず今日は勝てたな」

 

「そうですわね」

 

 また端の方では、無事『デュエル・オブ・ナイツ』女子の第一予選を突破した愛梨と桜花が、小さく祝杯を挙げている。エースの遠藤含む男子全員がまさかの第一予選敗退し、女子も一人敗退してしまったため盛り上がれないからだ。特に遠藤は、あのままならば勝てたのに、プレッシャーに弱い性格が災いして、自分からわざわざ有利な拮抗を壊してしまったのが敗因だ。悔しくてたまらないだろう。

 

 初日の内、真紅郎ペアと文也は自前で調整などができるので、去年まではないがしろにしていたが今年から一転多めに用意したエンジニアたちの負担は、二人が競技のために多少欠けていても少なかった。『デュエル・オブ・ナイツ』男子を担当したエンジニアは隅の方で遠藤や雷電たち共々、自棄ジュースをしている。

 

 そしてあずさが担当したのは、『ロアー・アンド・ガンナー』女子ソロと桜花だった。『ロアー・アンド・ガンナー』女子ソロは雫と七高と二高に阻まれて、決勝の進出したものの四位でポイントは持って帰ってこれなかった。そして桜花は下馬評通り圧倒的な力で相手を大剣の一撃で秒殺して帰ってきた。

 

「中条の調整は効率がいいな。実に気持ちよく戦える」

 

 桜花は鬼のような顔いっぱいに笑みを浮かべて――笑顔がもともと威嚇であったことを本能で思い出させるような迫力である――文也の周りでキャイキャイしているあずさをひっそりと讃える。あずさの調整は全体的に選手がのびのびと力を発揮できるようなものになっていて、桜花はそのおかげで今日はいつもよりさらに絶好調だったのだ。またポイントこそ持って帰ってこれなかったものの、『ロアー・アンド・ガンナー』ソロで四位に食い込めた女子も、あずさのおかげでここまでこれたと胸を張っている。

 

「悔しいけど……井瀬の調整は中々ですわね」

 

 そして、誰よりも今日絶好調で戦えたのは、愛梨だった。それなのにやや顔が苦いのは、その調整を担当したのが、敵視している「一ノ瀬」、文也だからである。

 

 愛梨としては文也にだけは絶対担当してほしくなかったのだが、彼女の『稲妻(エクレール)』しか使わない戦い方は、専用CADの専門家である文也とこれ以上ないほどマッチしている。というわけで、あずさと真紅郎の強いお勧めで、文也が彼女の担当をすることになった。これが決まったのが、7月6日のことだ。

 

 そしてその一週間後、文也が自作したという、愛梨愛用の『エクレール』専用ネックレス型CADと同じ形のCADを使い始めてから、愛梨の調子は格段に向上した。

 

 文也が自作したCADは、専用CADを得意とする『マジカル・トイ・コーポレーション』の『マジュニア』らしく、高等魔法を継続して使用し続ける愛梨の負担が極限まで減らされていて、それだというのに性能も発動速度もパワーアップしていた。

 

 さらに、これは『マジカル・トイ・コーポレーション』が開発した完全思考操作型CADである。剣と盾を持って素早く戦い続けるこの競技では、魔法行使のためにCADに触れるという動作がどうしても邪魔になる。そのため、クイック・ドロウよろしく素早く操作する練習をするか、速度を犠牲にしてCADなしで魔法を行使するかを選ぶ形になりそうだったのだが、そのどちらでもなく、身体操作なしでCADの速度を出すということができるのである。

 

 これによって愛梨の戦術スピードはさらに向上して、まさしく稲妻のごとき速度で戦えるようになった。今日の試合において、愛梨は相手の攻撃に一度も当たっていない。盾で受けることすらない。相手の反応速度と攻撃速度が、全く愛梨についていけてなかったのだ。

 

「だが、明日は千葉との戦いだ。気を引き締めていけッッッ」

 

「はいッッッ」

 

 愛梨は小グループでこそエリカと当たらなかったが、第二予選の中グループにはエリカがいるのである。桜花と並ぶ今回の優勝候補であり、世間の評判では、愛梨よりも優勝候補と言われている。もしここで愛梨が勝てば、もはやライバルはいないため、桜花と愛梨でワンツーフィニッシュが見えてくる。一方でここで負ければ愛梨はゼロ点になるだけでなく、桜花がエリカに負ける可能性がわずかにあり、50点取られたうえでこちらは30点しか取れない。ここが次が正念場だ。

 

 愛梨は文也から貰ったネックレスをぎゅっと握りながら、桜花に気合を入れて返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在ポイント

・一高 

『ロアー・アンド・ガンナー』女子ソロ優勝 50

 合計50

 勝ち上がり 『デュエル・オブ・ナイツ』レオ、桐原、十三束、エリカ

 

・三高

『ロアー・アンド・ガンナー』男子ソロ優勝 50

『ロアー・アンド・ガンナー』男子ペア優勝 60

 合計110

 勝ち上がり 『デュエル・オブ・ナイツ』桜花、愛梨

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