マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

79 / 85
6-11

 8月11日。この日もまた、新人戦が行われる。

 

『ミラージ・バット』では、大方の予想を裏切り、そして達也たちや文也たちの予想通り、四高の亜夜子が優勝して見せた。文雄曰く「本戦でも優勝確実だよ、あんだけできりゃあな」とのことだ。実際に殺し合った彼は、彼女の恐ろしさがわかるのである。ちなみに三高はポイント圏内に誰も残らなかったが、一高はなんと二位三位を確保して見せた。達也が担当した成果である。

 

『モノリス・コード』の予選は、文雄によると、当初は今年から総当たり戦に変更する案もあったそうだが試合数が膨れ上がるのが懸念され、去年と同じく三つの予選リーグに分かれて各優勝校で決勝リーグを行うことになった。幸か不幸か、一高・三高・四高のトップスリーは予選リーグでばらけ、そして今日途中まで行われた予選を見る限りでは順当にこの三つが残りそうだ。

 

 そして8月12日。新人戦の最終日。この日は『モノリス・コード』の残りの予選と決勝リーグが一気に行われる。

 

「やべえよやべえよ……」

 

 その決勝リーグでは、文雄が「もしかして俺って天才なんじゃないか?」と思ってしまうような展開となっていた。

 

 一高・三高・四高が残った。そしてその試合は、拮抗している「ように見える」。

 

 しかしながら、それは幻影。真相を知る達也と深雪と水波、それに文也たちは、改めてその強さを実感した。

 

 四高の代表の一人、黒羽文弥。この年齢ですでに四葉の殺し屋の中でもかなりの本格派であり、当然高校一年生レベルはほとんど相手にならない。そしてその実力は、圧勝と言う形で示されなかった。

 

「なあ、二十八家の七宝と百家本流の千川、もしかしてあれ、苗字が同じだけか?」

 

「これがまた本物なんだなあ」

 

 文也と文雄の間で、バカな会話が交わされる。

 

 文弥は、結局試合を通して全力を出すことが一度もなかった。その代わりに「目立ちすぎないように接戦になるように手加減したうえでギリギリの勝利を演出した」のである。タイマンならばまだしも、仲間と言う不確定要素があってこれは、ゲームメイク能力が尋常ではない。しかも相手は生半可な雑魚ではなく、五十里のサポートを受けた七宝と千川を擁する一高チームと、武闘派の校風を求めて集まるこれまた武闘派な新入生たちの中でも選りすぐった三人に文也と真紅郎のサポートをつけて挑む三高チームだ。こんなあまりにも上手すぎる手加減、文也ですらできそうにない。

 

 この文弥と亜弥子、さらに当主の貢と大量の部下たち。それらを相手に生き残った文雄は、自らの天才性を改めて実感した。そうプラスに考えていかないと、「やっぱ死にかけてたんだなあ」という恐怖に支配されそうだからだ。

 

 結局、『モノリス・コード』は、四高・一高・三高で優勝・準優勝・三位の結果になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月13日。今日からまた本戦が始まる。すでにトップは一高と三高デッドヒートで、それを四高がなんとか追いかけるという形だ。まあ去年と同じなのだが、この三校がほぼポイントを独占するおかげで、それ以外の六校の点数は悲惨な状況だ。白けてしまわないか心配である。

 

 この日に行われるのは、『ミラージ・バット』の決勝と『モノリス・コード』の予選リーグ全て。三高は『ミラージ・バット』の勝ち上がりはいないため、この日は『モノリス・コード』に集中できる。

 

 三高の『モノリス・コード』代表は、層が大変厚い。

 

 まず、中心となるのは後條。大柄で寡黙で筋肉質な三年生だ。部活連の二番手であり、駿と同じコンバット・シューティング部の部長を務める。コンバット・シューティングでは駿にほんの少しの差で劣るが、それ以外の魔法競技ではおよそ負けることはない。成績は、実技は綾野に次ぐ二位、理論は三位である本格派の実力者だ。綾野と同じく去年は克人相手に悔しい思いをしているので、リベンジとはいかずともここで結果を残すつもりだ。また彼は、当然周囲には隠してるが、「五条」の数字落ち(エクストラ)である。かつて、「一」から「九」の研究所にそれぞれ公家や摂関家をルーツとする一条から九条までがいたのだが、その中で最終的に残ったのは一条だけだった。「五条」の場合は、流体制御にこれといった特別な適性がないのが原因だった。

 

 そして脇を固める二人が、どちらも三年男子のトップ20位に入る実力者だ。田辺は空気を使った攻撃のスペシャリストで実に『モノリス・コード』向きの適性があり、笹井は土屋に次ぐ地面や土を利用した魔法の巧者である。

 

 それらの三人をサポートするのが、メインは文也でサブは真紅郎。点数調整が入ってもなおポイントが大きい『モノリス・コード』は、必ず優勝したい種目だ。

 

 ――この日は、最終的に一高も三高決勝進出を決め、また『ミラージ・バット』では一高のほのかと里美がワンツーフィニッシュを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月14日。『トライウィザード・バイアスロン』以外の競技は、この日で全て終了となる。行われるのは、『モノリス・コード』決勝と、『アイス・ピラーズ・ブレイク』の女子ペアと女子ソロだ。

 

「死にたくなってくるな」

 

 達也は独立魔装大隊の風間から招待を受け、ちょっとしたお茶会に参加していた。話題は主に、風間たちの愚痴である。

 

『アイス・ピラーズ・ブレイク』の製氷作業はとにかく大変で、競技が行われる日は、スタッフと協力者である国防軍が総出で作業に取り掛かる。去年と違って新人戦を挟んで本戦が離れているのは、その負担日を分散させるためだ。今年はその大変な担当の一部が、独立魔装大隊なのだ。

 

 独立魔装大隊は最新魔法兵器を実験する部隊であり、その機密度は他部隊よりも何段階も高い。基本「裏」に従事する部隊でもあり、本来ならばちょっとしたお手伝いぐらいでしかこのイベントに参加することはない。

 

 しかしながら、独立魔装大隊は、達也をめぐる四葉との交渉のせいで大きくその名を下げた。『大黒竜也特尉』の重要性は確かだが、そのせいで結局国防軍の信用はがた落ち。そのくせ四葉関連は表ざたに出来ないため、世間の悪評は独立魔装大隊にはあまり向かない。そのせいで、とんでもなく肩身が狭いのである。

 

 そうした経緯で、元々爪弾きモノの部隊と言うこともあって、最も大変な『アイス・ピラーズ・ブレイク』の製氷担当にさせられてしまった。今年は去年より総試合数が抑えられているものの、相変わらず大変な作業だ。特に、秒殺で終わらせる将輝と花音が重なった男女ペアの日は地獄としか言いようがなかった。さらに追い打ちとばかりに、新人戦では颯太と泉美が秒殺を連発してくれた。

 

 こうした流れで、風間の先ほどの愚痴に繋がる。

 

「今日は妹がお世話になります」

 

「さては分かってて言っているね?」

 

 達也の言葉に、風間は笑みで返す。しかしながらその手はこれから待ち受ける忙しさへの恐怖で震えているし、目は笑っていない。

 

 今日行われる女子ペアには、司波深雪が出る。秒殺連発は間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪が大暴れした『アイス・ピラーズ・ブレイク』女子ペアの決勝が終わり、次は女子ソロの決勝。こちらは勝ち上がった相手の試合を見る限り、三高の代表である栞に勝てそうな選手はいない。そんな楽勝ムードが漂っていたし、事実楽勝だった。栞としては去年の深雪へのリベンジをしたかったところなのだが、そこは三高の勝利のためにぐっとこらえた。

 

「相手に特別強いのはいない。後條と言うあの大柄な選手にだけ気を付ければ問題ないだろう」

 

 深雪がさっさと試合を終わらせてくれたので、『モノリス・コード』代表である幹比古CADを調整しながら、五十里と再三話し合った作戦を、改めて幹比古に説明する。

 

「一条も井瀬も森崎も吉祥寺も、他競技に行ってくれたおかげで、ここはかなり楽ができるな」

 

 これは、選手が発表されてからずっと言い続けていた、達也の主張だ。前半は苦しいだろうが、後半に巻き返せる。特に『モノリス・コード』でこの四人がいないというのは、達也の安心の種となっている。ただしこの四人のうち三人には優勝を予定していた一高生が潰されたので、結果としては『モノリス・コード』に固まってくれてた方がプラスだったのだが。

 

「……ねえ達也。確かに四人ともかなり厄介だけど、そこまでなのかな?」

 

 そんな達也に対して、CADを受けとりながら、幹比古は疑問を呈する。

 

 確かに、四人ともかなりの実力者だ。特に将輝と文也はかなりの難敵となるだろう。将輝は一人でこちら三人を潰しかねないし、文也は一人で数の暴力を実現するという訳の分からないことをやってくる。真紅郎は去年戦ってその実力が分かっているし、駿もテストの成績は抜群だった。

 

 しかしながら、幹比古は、だからといってこんな事あるごとに言うほどのものではないとも思っている。将輝はこちらの術中にハメれば勝てるし、ハマりやすいタイプでもある。文也も干渉力はそこまでなので、万能で干渉力もあるエース・範蔵で対処可能だ。真紅郎も駿も、実力者ではあるが、自分や沢木を上回れるとは思えない。

 

「…………そうか、そういえばそうだったな」

 

 幹比古の言葉に、達也は、珍しいことにしばらく目を丸くすると、顔をしかめて幹比古からそらす。何かマズい地雷を踏んだだろうか。幹比古は思わず慌ててしまった。今の達也の反応は、明らかに「言ってはいけないことを口走ってしまった」というものだ。

 

 慌てだした幹比古を適当にとりなして送り出すと、達也はつい安心してため息を吐く。

 

(俺もまたあの夜から抜け出せていなかったようだ)

 

 考えてみれば、大多数の人間が、あの四人の「本気」を見たことがない。横浜で見た者もいただろうが、あの程度での見積もりでは甘い。

 

 あの真冬の夜。達也と深雪と相対した五人の実力は、すさまじいものだった。体力や運動能力の問題はあるが、こと魔法の使い方や腕に関しては、一人一人が超一流の戦闘魔法師レベルであると言っても過言ではなかった。そしてそれを体験した者は、一高には達也と深雪しかいない。他はみんな、横浜の戦いかテスト、または授業中の実技のイメージ止まりなのだ。冬以降、USNAの襲撃に備えてそれぞれが相当鍛えていたみたいで、「実戦」の実力は、今の力を取り戻して絶好調の幹比古や、一高男子最大の実力者である範蔵、この二人と渡り合えるかそれ以上と達也は考えている。あの苦い敗北の思い出が、達也から冷静さを知らず知らずのうちに奪っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モノリス・コード』の最終戦。今年は各競技の決勝でしょっちゅう顔合わせした組み合わせ、三高対一高だ。ステージは岩場である。

 

「くそっ、結局対策がわからねえ!」

 

「落ち着くんだ、田辺」

 

 このステージが選ばれた瞬間から、三高の苦戦は確定していた。

 

 幹比古の古式魔法によって、自然にできた水たまりを空気中に漂わせて濃霧とされた。この濃霧は仲間には薄く、敵には濃くまとわりつく。視界不良と不快感は判断力を大きく鈍らせ、またそこら中に精霊がいるという状況なので、全てに幹比古の『眼』がある。

 

 文也から注意しておけと言われていた作戦だ。いくつかの対策も用意してくれたが、本人が「気休めにしかならない」と自信なさげだった通り、気休めにもならなかった。文也は去年幹比古のCADをいじり、また各ステージごとの作戦会議も行ったため、この手段の存在を知っていた。しかしながら実際に見たわけではなく、具体的な像は掴めなかった。これほどとは、文也からしても、想像以上としか言いようがない。

 

 ディフェンス担当の田辺は、モノリスの傍に立って、視覚強化魔法を使いつつあたりを見回す。霧の視界不良と用意していた対策のことごとくが失敗する状況は、彼をパニックに陥らせていた。

 

 一方、いきなりの霧のせいで迷子が不安視されるため、攻撃担当だった後條もディフェンスに回っている。これほどの広範囲かつ強力な魔法となると、幹比古の消耗は確実に激しい。持久戦でスタミナ切れを狙うつもりだった。

 

 笹井は地面の振動を感じ取る索敵をするために、自陣からやや離れている。この霧では、こうした索敵に頼るしかない。しかしながら、彼らは接近する存在に気づかない。気づけない。なぜなら、その敵は、地面に伝わる振動と音を魔法で消しながら接近してきているのだから。

 

 その敵の姿は、いきなり田辺の前に現れた。明らかに仲間のものではないサイズ感の人影が見える。

 

「いつの間に!?」

 

 しかも、それは田辺のすぐそばだった。濃霧のせいで範蔵・幹比古・沢木の誰かは判別ができないが、間違いなく敵である。

 

 パニックに加えて、さらに至近距離にいきなり敵が現れた。田沼は半狂乱になりながら、半ば反射で魔法を行使する。

 

 その魔法の名前は『空気砲』。空気を小さく固めて弾丸を作る『エア・ブリット』ではなくその上位互換、拳から顔面ぐらいの大きさの空気の塊を作って放つ、田辺の最も得意とする魔法だ。

 

 そしてパニック中で放たれたその魔法の威力は――『モノリス・コード』に設定された威力制限、殺傷ランクCを超え、Bの領域に達していた。

 

 食らえば間違いなく重傷、死ぬ確率も無視できないほどにある。

 

 そんな空気の塊は、高速で放たれ――霧を振り払いながら、人影を「貫通」した。

 

「がああっ!!!!」

 

「後條!?」

 

 瞬間、仲間の悲鳴が、人影の向こうから聞こえる。何があったのか走り寄ってみると、後條が背後にあった大きな岩に寄りかかって、へたり込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――直後、競技者全員のヘルメットにつけられたインカムに、ブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――試合中止の合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吉田の野郎、思ってたよりはるかに性格悪いな、あの爬虫類フェイスめ」

 

 文也は後條に応急処置を施して容体を見ながら、こちらを申し訳なさそうにチラチラ見ている幹比古に聞こえないよう文句をぶつける。

 

 試合中止になる程の大けがを後條が負った。そう判断した審判員が、試合一時停止を決めたのだ。

 

「す、すまん、後條、俺……」

 

「い、いや、大丈夫だ……つつつ」

 

 その原因は、田辺が放った『空気砲』だった。パニック状態で生み出されたこの魔法は、田辺の実力の裏返しでもあるのだが、レギュレーションを超えた威力になってしまっていた。そしてそれは、後條に当たってしまったのだ。濃霧で視界不良の中、意図せぬ仲間からの同士討ち。後條は防御にも受け身にも失敗して直撃してしまい、吹き飛ばされて岩に思いきり激突した。

 

「あれでこれしか怪我しないなんて頑丈だな」

 

 文也は励ましになってない励ましをする。後條の怪我は、強い打撲とむち打ち、それに右腕がぽっきり骨折しただけ。背骨や首の骨が折れてもおかしくない激突だったのだが、これで済んだのは幸いだ。

 

「幹比古、気にするな。全部相手が悪い」

 

 そこから少し離れた場所。一高の選手とエンジニアが一時待機している場所では、幹比古が申し訳なさそうにすっかり肩を落として落ち込んでいる。達也はそれに、冷酷な慰めをした。

 

 あの濃霧の中、幹比古は笹井の探知を見越して、魔法で振動や音を消しつつ接近していた。しかしながら、それは、あくまでも肉眼でモノリスがギリギリ見える程度の距離までだ。

 

 そんな幹比古が行使したのは『影法師』。霧に影を浮かべ、人影の幻影を見せる魔法だ。これを田辺と後條の間に展開し、田辺がパニックで攻撃魔法を放って、後條に同士討ちするのを狙ってのことだった。

 

 そしてそれは予想通りだったが、威力がはるかに想定外だった。幹比古の作戦によって、後條は同士討ちで大怪我を負ってしまった。達也の言う通り、パニックになって同士討ち関係なくレギュレーションを超えた威力の魔法を使う方が悪いのだが、若干ひねくれているが根が優しい幹比古は、どうしても責任を感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――医師の診断の結果、後條は競技続行不可能。

 

 ――代理選手を立てることも認められなかったため、三高は棄権。

 

 ――後味の悪い幕切れをした『モノリス・コード』は、一高が優勝、三高が準優勝と言う結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。一高の会議室には、一年生を除く代表選手・エンジニア・作戦スタッフのほぼ全員が集まっていた。

 

「まずはここまで、みんなお疲れ様。途中苦しい場面もあったけど、おかげで余裕をもってこの時間を迎えられるよ」

 

 生徒会長として、作戦スタッフのリーダーとして、五十里は全員の前に立って頭を下げる。責任と激務と緊張が続いたせいで、五十里の表情には疲れが見えていた。それでもその顔に浮かぶ笑顔は、いくらか朗らかだ。

 

「さて、本題に入る前に、これまでの点数状況を振り返ろう」

 

 五十里がそう言うと同時に、達也がコンピュータを操作して大画面に表を映し出す。

 

 

・一高 

『ロアー・アンド・ガンナー』女子ソロ優勝 50

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男子ソロ準優勝 30

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男子ペア準優勝 40

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男女ペア準優勝 40

『デュエル・オブ・ナイツ』男子優勝~三位 100

『デュエル・オブ・ナイツ』女子準優勝 30

『ロアー・アンド・ガンナー』女子ペア優勝 60

『ロアー・アンド・ガンナー』男女ペア準優勝 40

『アイス・ピラーズ・ブレイク』女子ペア優勝 60

『ミラージ・バット』優勝・準優勝 80

『モノリス・コード』優勝 80

 

 

新人戦

『ロアー・アンド・ガンナー』女子ペア三位 15

『アイス・ピラーズ・ブレイク』女子ペア優勝 30

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男子ペア準優勝 20

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男女ペア準優勝 20

『ミラージ・バット』準優勝・三位 25

『デュエル・オブ・ナイツ』女子優勝 25

『モノリス・コード』準優勝 30

 

 

合計775

 

・三高

『ロアー・アンド・ガンナー』男子ソロ優勝 50

『ロアー・アンド・ガンナー』男子ペア優勝 60

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男子ソロ優勝 50

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男子ペア優勝 60

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男女ペア優勝 60

『デュエル・オブ・ナイツ』女子優勝 50

『ロアー・アンド・ガンナー』女子ペア準優勝 40

『ロアー・アンド・ガンナー』男女ペア優勝 60

『アイス・ピラーズ・ブレイク』女子ソロ優勝 50

『モノリス・コード』準優勝 60

 

 

新人戦

『ロアー・アンド・ガンナー』女子ペア優勝 30

『ロアー・アンド・ガンナー』男女ペア準優勝 20

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男子ペア優勝 30

『アイス・ピラーズ・ブレイク』男女ペア優勝 30

『アイス・ピラーズ・ブレイク』女子ペア準優勝 20

『デュエル・オブ・ナイツ』男子優勝 25

『デュエル・オブ・ナイツ』女子三位 10

『モノリス・コード』三位 20

 

合計725

 

「おお!」と生徒たちの間に歓声が起こる。

 

 そう、新人戦の後半と本戦の終わり際二日間で、ついに一高が大逆転を果たしたのだ。新人戦では文弥や亜夜子に優勝を奪われながらも『モノリス・コード』と『ミラージ・バット』でベストを尽くし、本戦でも『ミラージ・バット』のワンツーフィニッシュ、『モノリス・コード』と『アイス・ピラーズ・ブレイク』女子ペアで優勝と言ったことが重なり、こうして最終日一日前を迎えることができたのだ。

 

「現在の状況は、我が一高が総合一位、三高が二位となっています」

 

「ということは……」

 

 幹比古の呟きは、五十里の次を促す形となった。

 

「はい。明日、一高対三高で、『トライウィザード・バイアスロン』が行われます」

 

 五十里のその言葉に、緊張が走る。引き締まった空気に満足した五十里は、笑顔に少し緊張感を帯びさせながら、続きを話していく。

 

「『トライウィザード・バイアスロン』は、勝った方に50ポイント入るルールとなっています。現在二位の三高との点差は50ポイント。リードして迎えたことで、男子・女子のうちどちらかで勝てば総合優勝となります」

 

 五十里が言い終えると同時、達也はまたコンピュータを操作して大型モニターに別の資料を映し出す。それは、『トライウィザード・バイアスロン』のルールだ。

 

「この『トライウィザード・バイアスロン』は特殊な競技で、選手の事前登録は無し、発表は当日の朝、連れてこれる68人の生徒から男女各三人ずつ代表として選出、他競技との掛け持ちが可能となっています」

 

 五十里は改めて、今回の議題のために必要なルールを説明したあとに、ルールの資料を机に置くと、全員に向かって呼びかける。

 

「今回皆さんに集まっていただいたのは、明日行われるこの競技の代表の最終決定をするためです」

 

「分かってはいたけど、相変わらずバラエティ番組みたいなルールだな……」

 

 生徒の中の一人、ゲーム研究部の部長の呟きには、全員が共感することだった。

 

「まず、こちらの代表選出に入る前に、対戦相手の三高がどのような選手・作戦でくるかを検討したいと思います」

 

 五十里の話を引き継いだのは達也、ついで大型スクリーンに映し出されるのは、事前に公開された三高の68人全員の名前だ。生徒各自が持っている端末にも同じ画面が現れる。気になる名前を選択したら、その選手の細かなデータが閲覧可能と言う仕組みである。こうしたデータを基に分析していく、という面においては、五十里よりも達也の方が求心力が高いのである。

 

「一応事前に確認してあったことですが、競技の特性や本人の実力を鑑みると、ある程度絞り込みが可能です。それが、こちらです」

 

 スクリーンに映し出されるのは、三高選手の中でも、事前にピックアップしてあった有力選手たちだ。

 

女子

・鬼瓦桜花

・一色愛梨

・十七夜栞

・五十川沙耶

・四十九院沓子

・百谷祈

・土屋優香

・七草香澄

 

 まず映し出されるのは、女子の有力候補。

 

「これは出場可能性が高い順に並べてあります。一人一人をチェックしていきましょう」

 

 そう言って達也は、それぞれの簡単なプロフィールとピックアップ理由を説明していく。

 

 鬼瓦桜花。魔法力は低いが、素の運動能力が高く、山林にも慣れているとみられる最有力候補。

 

 一色愛梨。魔法力が三高女子では特に高く、『稲妻(エクレール)』などレースに向いた魔法が得意。

 

 十七夜栞。魔法力が高く総合力に優れる。

 

 五十川沙耶。移動・加速系魔法の名門五十川家。やはり彼女もそれらが得意で、レース向きの特性。

 

 四十九院沓子。「水の申し子」。水上コースでの活躍を期待して選出される可能性がある。古式魔法師のため、森林コースでの奇襲・乱戦も危険。

 

 百谷祈。射撃魔法が得意で、水上コースと平原コースの妨害で猛威を振るう。

 

 土屋優香。地面に干渉する魔法が得意で、こちらの最有力である千代田花音対策として選ばれる可能性がある。

 

 七草香澄。一年生にして魔法力は天下一品で、総合力に優れる。

 

「これもう上の二人は確定なんじゃない?」

 

 議論の口火を切ったのはエリカだ。そして彼女の言うことに、ほぼ全員が同意した。桜花と愛梨は明らかにレース向きの魔法師だ。遠距離攻撃の妨害手段に乏しいが、とにかく速度を出すことに長けているし、運動能力も高い。選出されるのはほぼ間違いないだろう。

 

「そうなるとあと一人は……まあやっぱ、上から順に、十七夜選手か五十川選手、一歩遅れて四十九院選手だろうなあ」

 

 次いで発言したのは、こめかみをもみながら色々考えているらしい桐原だ。これにもやはり、全員が同意している。そして、それ以上の発言は誰からも出なかった。達也と五十里を中心としてピックアップされたこのメンバーは、一切の漏れなく妥当だからだ。

 

「では続いて、こちらの女子選手を決めようと思います。まず、女子選手の皆さんで、出たいという方はいらっしゃいますか? 他薦の場合は、相手の名前を言いながら挙手してください」

 

 これにすぐに手を上げたのは、深雪、花音、雫、エリカだ。次いで、「光井さんはどうですか」と滝川から名前が挙がる。

 

「ふえっ、わ、私ですか!?」

 

 これにはまずほのかが驚いたが、この他薦は彼女以外全員が納得していることだし、また半分は滝川がサクラであることを知っている。ほのかの成績は、一年生で深雪に次ぐ二位であり、雫よりも実は高い。選手候補にすら上がらないのはもったいないが、本人は控えめなので絶対に自薦はしないため、裏で仕組まれていたのだ。ちなみにこのサクラ作戦を提案したのは達也である。鬼の所業だ。

 

「くーちゃんはでないの?」

 

「これバトルでしょ!? ムリムリムリ! 死んじゃう!」

 

 また英美からボートレース向きの適性がある国東の名前もあがるが、乱暴なことが苦手な彼女は断固拒否した。

 

 こうして候補に挙がった五人は、達也と五十里が想定していた通り。深雪、花音、雫、ほのかは四高女子ではトップの実力者だし、エリカは運動神経に優れ、『モノリス・コード』と違って白兵戦闘も許されるこの競技において桜花を押さえることができる唯一の女子だ。

 

「私は、その……こういう魔法戦闘みたいなのは苦手なので辞退します……」

 

「いやーこの三人に並ばれちゃアタシじゃあ力不足ね。辞退しまーす」

 

 そしてほのかとエリカはすぐに辞退する。ほのかはあの『オーガ』とバトルになりかねないというだけでもお漏らししそうだし、魔法戦闘もそこまで得意な性格ではない。実際すでに涙目だ。またエリカは素の魔法力で劣るため、栞などと戦いになって近距離戦闘を拒否されると何もできなくなる。戦闘魔法師としてすでに超一流の領域にいる三人と比べたら、パワー負けするのだ。

 

「よーし、アタシにまっかせなさーい!」

 

「任された以上、精いっぱい務めさせていただきます」

 

「頑張る」

 

 こうして選ばれた三人は、口々に抱負を述べる。この三人が並んでるだけで、すでに一高には勝利確定ムードが漂うほどだった。

 

(……ここも予想通りだな)

 

 競技適正と実力を鑑みると、正直この三人以外あり得ない。達也も五十里も、この三人がメンバーになるように誘導するつもりだったのだが、思ったより空気が読める集団だったようで、すんなりと決まった。この三人ならば、正面戦闘でも搦手でも、実力とパワーで全部ひねりつぶせる。恐らく国防軍の女性魔法師相手でも、達也が知る範囲ではそうそう負けないだろう。相手が可哀想になってくるレベルだった。

 

「それでは続いて、男子の選出に移ります」

 

 次いで、モニターに表示されるのは、三高男子の有力選手の名前だ。

 

 一条将輝。圧倒的な魔法力を持ち、戦闘慣れもしている。運動神経も抜群で、また水上コース、平原コースに圧倒的な適性を持つ。

 

 井瀬文也。総合力に優れ、『パラレル・キャスト』で乱戦が得意。全ての場面で活躍が見込めるオールラウンダー。とっさの機転も利くが、運動能力に大きく難あり。

 

 後條敦。総合力に優れた戦闘魔法師。データによると、三高三年生男子で二番目の実力者。

 

 森崎駿。魔法行使速度に特化。運動神経も良い。CADを使った魔法は正面からだと無効化される。戦闘慣れしている。

 

 吉祥寺真紅郎。『カーディナル・ジョージ』。戦闘慣れしているが、運動神経にやや難あり。

 

 六十里颯太。一年生にして実力者。『アイス・ピラーズ・ブレイク』で見せた魔法はルール違反だが、電撃魔法は競技ルール内での戦闘魔法として使いやすい。

 

「後條選手は……うん」

 

 その中の一つに、幹比古が反応する。後條は最有力候補の一人だったのだが、先の『モノリス・コード』で重傷を負って絶対安静のはずのため、候補からは外れる。達也から慰められてもなお、幹比古は責任を感じているようだった。

 

 そんな幹比古のイジけたオーラが場の空気を一瞬重くするが、気を利かせた範蔵がすぐに議論に移して空気を戻そうとする。

 

「まず一条選手は確定だろうな。怪我や体調不良、よっぽどの奇策でもない限り、出さない理由がない」

 

 これも全員が賛成することだった。彼の魔法力は圧倒的で、一高の深雪と同じぐらい、出さない理由がないレベルの選手である。

 

「魔法力で言ったら文也がその次だろうなあ。運動神経はある程度鍛えてきてるんじゃ……いや、あいつはそんなことしなさそうだな」

 

「あのガキンチョねえ……うーん、しなさそうね」

 

 次に発言したのはゲーム研究部部長と花音だ。その魔法力は、どちらも去年さんざん見てきてる。片方は仲間として、片方は敵として、だが。

 

「……ねえ達也、一つ質問いい?」

 

「はい、どうぞ」

 

 遠慮がちに手を上げたのは、イジけたオーラを収めた幹比古だ。

 

「その……森崎と吉祥寺が実力者なのは確かなんだけどさ……そこまで警戒するほどの選手ってイメージじゃないと思うんだけど……森崎の魔法無効化だって、よくわからないし」

 

 幹比古は、達也がなぜ駿と真紅郎を強く警戒しているのか、結局よく分かっていない。今日同じことを尋ねたのだが、なんとなく誤魔化されたし、達也も知られたくなさそうだったので追及はしなかったが、ここまでくると、話を聞かないという選択肢は一高への裏切りだ。達也が話したくないなら、それはそれで達也から全員に説明するべきことだった。

 

 幹比古の質問に、達也は明らかに困ったような顔をした。幹比古が質問を要求した時点でわかってはいたが、やはり言い訳に詰まる。あの夜の戦いで実感した達也と深雪は分かるが、他はやはり釈然としていない様子だ。五十里も含め、深雪以外の全員が、達也に何かしらの要求をする雰囲気を出す。特に範蔵は、じっと達也を睨んでいた。

 

「………………はあ、やっぱり、話さなければならないですよね」

 

 達也はしばし悩んだ「フリ」をしたのち、観念したような態度を取る。昼間は言い訳がなかったが、実は今は言い訳は用意してある。言い訳があるなら即話してもいいのだが、それはそれで今までの態度と整合性が取れない。達也らしくない、茶番のような演技だった。

 

「一条、井瀬、森崎、吉祥寺。あの四人の最新の実戦データは、公式上では横浜が最後です。しかしながら……俺は、彼らの最新の戦闘の証言を得ることができました」

 

 達也はこうなった時のためにあらかじめ用意してあった映像を片手で準備しながら、その続きを話す。

 

 

 

 

 

「――パラサイトに憑りつかれたUSNA魔法師との戦闘です」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、全員に緊張が走った。

 

 文也たちがUSNAスターズの魔法師に襲撃された事件。それはパラサイトに憑りつかれて本人やUSNAの意志ではないということになっているが、多くの真相が闇の中だった。

 

 文也たちは、あの記者会見やそのあとの発信で、かなり情報をオープンにしているように見える。しかしながら、実は多くの情報が隠されていた。ここにいるメンバーの家族や仲間も、公開されていない深い情報を手に入れようと躍起になっていたのだが、その全てが収穫なし。異常なまでに情報操作がなされていて、何も手出しできなかったのだ。

 

 その幾重もの闇に包まれた事件。半分諦めかけて記憶からも日本魔法師界の黒歴史として忘れられようとしていたのだが、ここにきて、それが蘇った。

 

「この戦闘の参加者は現在ほぼ三高の生徒になっていますが、一人だけ、我々の仲間のままの方がいます。それは……七草真由美先輩です。俺は先輩と接触して、その時の証言をお聞きすることに成功しました」

 

「ええええええええ!!!!??? お姉さまと!!!!??? というかお姉さまが!!!???」

 

 達也の言葉に反応したのは、真由美の妹である七草泉美だった。まず真由美の名前が出たことに驚き、そして嫌っている達也と親愛なるお姉さまがこっそり出会っていた事実に怒り、そして最後にこの件で泉美に対してすら完全に口を閉ざしていた真由美から話を聞き出せたことにまた驚くと言った流れを、一瞬で見せる。今この瞬間、彼女のお淑やかなキャラは死んだも同然だった。

 

「まず吉祥寺に関してですが、横浜のあれでその片鱗をすでに見せていたかと思います。加重系魔法を中心として論理的かつ有効に戦術を組み立て、状況に合わせた魔法の行使ができる魔法師です。USNAの件では、武器を落とさせる『ファンブル』を戦術に組み込んでいたそうです。CADを落とされると、そのまま『不可視の散弾』で押し切られることも想定しなければなりません」

 

 達也は質問を遮断するために、泉美を無視して矢継ぎ早に説明を重ねていく。ここにいるメンバーは鋭いのが多い。とっさに作り上げたこの言い訳の穴を指摘されないとは限らない。それまでにこの話題をさっさと終わらせるのが得策だ。

 

「次いで、森崎に関しては、まずは先日行われた『ロアー・アンド・ガンナー』の映像をご覧ください」

 

 そうして達也は準備していた、駿の決勝二巡目の様子をモニターに流す。そして魔法を行使するたびに、CADの引き金を引いてから的が壊れるまでのタイムが表示される。

 

「…………改めてみると惚れ惚れするわね」

 

 その正確性と速さに、滝川は思わず呟いた。周りから「そりゃあお前は惚れてるからな」という無言のツッコミが相次いでいたのは余談だ。

 

「今ご覧の通り、森崎は簡単な魔法の場合、行使速度は異常な領域に達しています。これは深雪や雫や千代田先輩どころか、去年度にいたリーナ……アンジェリーナ・クドウ・シールズさんを超えるほどです」

 

「確かにそうだな。ん、そうか、そういうことか」

 

 達也の説明を聞いた範蔵が、何かに合点がいった様子になる。その内容の説明を求める空気を察した範蔵は、そのまま思いついたことを口にした。

 

「森崎は、発動兆候を見てから『サイオン粒子塊射出』で無効にできるのか!」

 

「その通りです。七草先輩曰く、森崎は、戦闘時はサイオンの弾丸をいくつか常時準備しておいて、兆候とほぼ同時に射出していたそうです」

 

 今映像で見た魔法行使タイムと、一高男子たちの発動タイム。その差を差し引きすると――駿が『サイオン粒子塊射出』を行った場合、ほぼ全員が、CADでの魔法行使を無効化されるのだ。

 

 その事実に、全員が恐怖した。

 

 魔法。現代魔法師のほとんどは、CADがないとマトモな魔法戦闘ができない。魔法の行使自体はCADなしでもできるが、精度や速度や種類に雲泥の差がある。戦闘や競技においては必須と言えるものだ。

 

 駿は、そのCADを使った魔法を、すべて無効化する。

 

 それはつまり――魔法戦闘で無力にされると同義なのだ。

 

「対策としては、常に『サイオンウォール』を展開してサイオン弾を防ぎながら戦うというのがあります」

 

「簡単に言ってくれるな」

 

 達也の言葉に、その難しさをよくわかっている沢木が茶々を入れる。重くなった空気を配慮してのことだったが、マイナス方向のものだったがゆえにあまり効果は出ない。

 

「そういうわけで、俺はこの二人もまた、特に警戒対象としています」

 

 達也はそう結論をつけた。真由美の名前を持ち出した説明は効果抜群だったようで、深雪以外の全員が納得している。泉美は別の意味で釈然としていなかったが。

 

「では、そうしたことも踏まえて、男子で出たいという方はいらっしゃいますか? 他薦もかまいません」

 

 そんな重い空気だというのに、手を上げたのは四人。範蔵、沢木、桐原、幹比古だ。全員が運動力にも魔法力にも優れる。これもやはり、達也と五十里が計画していたメンバーだった。

 

「俺が言うのもなんだが、服部と吉田は確定でいいと思う。服部は言わずもがなだし、吉田は森林での戦いでは最強だ」

 

 そしてすぐに、立候補した張本人であるはずの沢木が、範蔵と幹比古を推す。男子最強が範蔵なのは言うまでもないし、幹比古がこういう滅茶苦茶な戦いが予想される中で真価を発揮するのもよく知られていることだ。また今年からは何の気の迷いか、『モノリス・コード』と『トライウィザード・バイアスロン』では精神干渉系魔法も許可されている。危険がない程度に相手の精神を乱すというのは古式魔法の得意とするところであり、『モノリス・コード』でも幹比古はそれで猛威を振るっていた。

 

 また、桐原と沢木はどちらも近接魔法師であり、役割が被っている。『オーガ』のような相手がいるなら二人がかりで止めるという択もあるが、将輝・文也プラス誰か、という相手の中では二人が並ぶ意味はない。

 

「で、俺と桐原どっちかという話だが……桐原の方が実力は上だ。そういうわけで、悔しいが俺は降りる」

 

 立候補しておいて、一方的に降りる。普通に考えたら理不尽な振る舞いだが、ここにいる全員が、多かれ少なかれ、沢木の男気に感服していた。

 

 まず沢木の説明はすべて真実だ。この三人こそがベストメンバーだろう。沢木はそれが分かっていたうえで立候補した。この三人が立候補したなら、沢木が自ら降りることで三人の正当性が増すし、誰かが立候補しないというのならそんな根性なしに譲るつもりもなかった。まさしく男気。何人かはそれに触発されて男泣きまでしているほどだ。

 

「……ありがとうございます」

 

 達也もまた、その男気に感謝をした。

 

「さて、話が決まったところで、皆さんに紹介したい方がいます」

 

 そして唐突に、全く関係性の見えない話が達也から始まった。この展開は五十里すら知らなかったことで、何を言い出すのかと慌てて冷や汗を流している。

 

 達也が指したのは後ろの入り口。全員が振り返ると、そこにはいつの間にか――

 

「こんばんわ」

 

 ――卒業したはずの、七草真由美が立っていた。

 

 もはや泉美ですら声が出ず唖然としている中、可憐な笑みを浮かべた、少し大人っぽくなった気がする真由美は、悠然と達也と五十里が立つ壇上に歩いて向かう。

 

「一年生の方は初めまして。卒業生の七草真由美です。本日は、妹の泉美からの特別招待で、ここにお邪魔させていただくことになりました」

 

「お、お姉さま、来れなかったはずじゃあ……」

 

 そして挨拶を始めた真由美に、ようやく泉美が口を開いた。泉美は驚きの連続で腰を抜かしてしまっており、珍しく背もたれに全体重をかけてしまっていた。

 

「用事が早く終わりましたので」

 

 真由美はにっこりと優雅に微笑んで答える。それだけで一年男子の何人かはハートを撃ち抜かれた。

 

 そして、ここからは真由美の演説が始まった。それによって励まされた一高生徒は、ほぼ全員が前向きな気持ちのまま、明日を迎えられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達也君も相当本気なのね」

 

『トライウィザード・バイアスロン』の代表選手だけを集めて改めて行われた作戦会議の後、達也と真由美は真夜中にこっそりと会っていた。当然、逢引ではない。

 

「申し訳ありません」

 

 真由美から聞いたという駿と真紅郎の実力の話。当然それは嘘だ。実際に戦ったのは達也であり、それを体感したからこそ警戒しているのである。その話をするためには、当然真実を話すわけにはいかない。今日の夕方ごろ、たまたま会場入りした真由美に会った達也は、珍しく幸運に感謝しながら、気まずくて拒否する真由美を無理やり人気のないところに連れ出して、口裏を合わせたのである。そしてついでに、士気を上げるための演説と演出も用意したのだ。

 

 本来達也は、ここまでするほどの義理はない。一応「本気」は出すが、こうして「全力」で取り組む理由もないのである。危険を冒してあの真冬の夜の激闘に言及するのもそうだし、もはや潜在的な敵対勢力と化した真由美と接触するのも本来は優先度が低いはずだ。

 

 では、なぜ達也はここまでやるのか。

 

「井瀬君に、負けたくないんでしょう?」

 

「……よくご存じで」

 

 達也もまた、やはりオトコノコということだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけて言うと、女子は地雷女、ヒステリー女、北山で決まりだわな」

 

 三高の作戦会議もまた、一高と同時刻に行われていた。真紅郎が今の状況を話した後、では自由討論をどうぞとなったところで、文也の開口一番がこれだった。

 

「いやそれじゃ分からないだろ」

 

「あーそっか。千代田花音、司波深雪、北山雫だ。向こうの女子の戦闘魔法師だったらこれらが圧倒的に最強だ。あとはせいぜい、光井ほのかとあと……滝川? と明智? だっけか。あの異常な射撃の」

 

「お、珍しく苗字を覚えたじゃないか」

 

 将輝の指摘を受けて補足した文也の話に、駿が茶々を入れる。

 

「う、うう、滝川さん……」

 

 そして唐突に出てきた滝川の名前に、ここ数日ですっかり苦手意識を植え付けられた沙耶が反応する。駿を誘ってここずっと観戦していたのだが、その全てに滝川もついてきたのである。しかも、沙耶を牽制しながら、かつ駿にくっついて距離を詰めていたし、駿も悪い気はしていない様子だった。弱気な沙耶は、こうなるとヘタレである。

 

 言い方はさておき、文也の言に異論は出ない。この三人が明らかに強すぎるというのは、分かり切っていることだった。

 

 そして三高の女子は、飛びぬけた実力と適性がある桜花と愛梨が会議の前からすでに決まっている。残り一人をどうするかという状況だ。

 

 そういうわけで、そのあとは女子よりも先に男子を進めることとなった。

 

「男子は……はんぞーパイセン、吉田、桐原パイセン、沢木パイセン、司波兄、あたりか」

 

 三高の一高男子代表議論において、達也は有力選手に数えられていた。運動神経が抜群で、『術式解体(グラム・デモリッション)』を連射できる達也は、駿と同じ役割を持てる存在として警戒されているのである。一高内で達也が代表として候補にも挙がっていないのは、この競技が「選手が掛け持つもの」という固定観念があるからである。固定観念が緩い常識外れな文也が参謀の一角にいる三高は、柔軟すぎて逆にありもしない達也の恐怖におびえることになっていた。

 

 真紅郎が全体に向けてまず自薦を募る。『尚武』の三高は、こういう場合は何よりも自薦を大事にしているのだ。

 

「はい」

 

「ほーい」

 

 迷わず手を上げたのは、将輝と文也。将輝は言わずもがな、文也は運動能力に大きな難があるがそれを補って余りある適性がある。二人とも二年生のツートップで、三年生にも負けない。誰からも文句は出なかった。

 

 そしてあと一人。ここで意外な人物から、他薦が出た。

 

「森崎、お前が出ろ」

 

「え、俺がですか?」

 

 駿を他薦したのは、怪我で不出場が確定している後條だ。駿はいきなり挙がった自分の名前に思わず驚く。

 

 駿としては、あと一人は『モノリス・コード』の選手で実力者でもある田辺か笹井のどちらかになると踏んでいた。それだけに、彼の驚きは大きい。

 

「本人が話したがらないから俺が言うことにしよう。田辺と笹井は、出場するつもりがない」

 

 後條の発言と同時に、田辺と笹井に全員の視線が集まる。そして二人は、情けなさそうに俯いてその視線から逃れようとした。

 

「一高男子の最有力候補の吉田、アイツに、すっかり心を折られたようだ」

 

「……スマン」

 

「……ごめん」

 

 二人が絞り出すように呟く。そんな二人の心理状態を責められる生徒は、ここに一人もいなかった。

 

『モノリス・コード』で幹比古が引き起こした圧倒的な濃霧。用意した対策はすべて通じない。

 

 そんな状況で起こしてしまったあの事故。

 

 これが決定的に、二人の心を折ってしまった。魔法力が失われたわけではないが、幹比古が相手となると、彼らは竦んでしまうだろう。

 

 そこで後條が目を付けたのが、駿だった。

 

「罠や妨害が仕込まれた山林の中を魔法を使って駆け抜ける。これはコンバット・シューティングと同じだ。そして森崎は、そのコンバット・シューティングでは我が校最強だ。これ以上の適性はないだろう。それに、森崎は一条と井瀬と親友だ。連携も取りやすい」

 

「確かにそうだね」

 

「間違いないな」

 

 後條の説明に、綾野と桜花が賛同する。後條、綾野、桜花。三年生のトップスリーともいえる三人の同意が出た。

 

「で、駿、どうするよ? 出たいか?」

 

 そうなると、最後は本人の意志となる。もし本人が出たがらないなら、メンタル面のことも考えると無理強いはできない。

 

「俺は……出場、したいです」

 

 駿はそれに、多少詰まりながらも、出場する意思を見せた。

 

 不安がないわけではない。それでも、これは自分をより高みにたどり着かせる千載一遇のチャンスだ。

 

「決まりだな」

 

 そんな駿の返事に、文也は嬉しそうに口角を吊り上げて笑った。

 

「さて、そうなると女子のあと一人だけど……」

 

 男子は結論が出た。あとは女子のもう一人だ。

 

 候補は栞、沓子のどちらか。沙耶は一高に警戒されているものの、向こうはあずかり知らぬことだが、極度の方向音痴だ。当然森林を抜けることなど、一生かかっても無理だろう。

 

 栞も沓子も、推薦されれば出るという意思はすでに示している。あとはどちらが出るかを決めるだけ。そういう空気だった。

 

「そこで一つ提案なんだけどよ」

 

 そんな中、文也がすっと小さな手を挙げる。

 

 全員の注目が文也に集まった。

 

 そんな文也の顔には、あのいつも通りの、口角を吊り上げた悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に一つ、妙案があるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月15日。九校戦最終日の朝。

 

 すでに敗北が決定し全ての競技が終わった七校は、緊張がほぐれて気が抜けて、リラックスして最後の戦いを観戦するムードになっている。

 

 一方で、一高と三高は、ここが総合優勝を決めるということで、代表選手以外もまた、緊張感をもって迎えていた。

 

 そして朝9時。代表選手が発表される。

 

 そこにいる全員が、大型電光掲示板に注目していた。

 

(頼む……予想外は起きてくれるなよ)

 

 総合的なパワーで言ったら、一高が間違いなく勝つ。特に女子は鉄板だ。予定通り、想定通りに進めば、それで優勝決定だ。

 

 達也は祈るように、電光掲示板を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

一高・男子

 

服部刑部少丞範蔵

吉田幹比古

桐原武明

 

三高・男子

 

一条将輝

井瀬文也

森崎駿

 

一高・女子

司波深雪

千代田花音

北山雫

 

 ここまでは予想通り。達也はほっと胸をなでおろす。

 

 そして次の瞬間――膝から崩れ落ちそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三高・女子

 

鬼瓦桜花

一色愛梨

中条あずさ

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。