2-1
から風が吹きすさぶ荒野の中、二人のごつい男がにらみ合いながら対峙する。
片方はきりっとした顔をした美丈夫で、よく鍛えられた体を青いツナギで包んでいる。
もう片方はまるで野獣のような眼光で、その体は水泳選手や空手選手のように鍛えられている。
互いが構えているのは、そんな二人の体格に似つかわしくない、肘から手首くらいにかけての短い棒だ。
そして傍からは見えないが、本人たちにのみ見える数字が、空中に現れる。
5、4、3、2、1――GO!
瞬間、互いの棒をお互いの体に打ちつけ合う。その動きは激しく、パチンパチンという音が絶え間なく響き渡る。時にはその棒を交わしあい、時には相手の棒を躱して自分の棒を相手の顔面にたたきつける。
そんな激しい攻防の中で、目に見えて変化が訪れた。
短かった棒が、相手に攻撃が加わる度に少しずつ長く、そして太く、肥大していっているのだ。
もう互いの棒は竹刀と同じぐらいまでのび、先の方になるにしたがってまるで日本刀のように反っている姿は、凛として、雄々しかった。
その雄々しい互いの棒は、それぞれその力を解放すべく、持ち主の手の中でビクンビクンと震えていた。
もうどちらもフルパワーだ。
互いの間に緊張が走る。油断したら――負ける。
しばしにらみ合いが続く。そんな二人の間を、一筋の特に強い風が吹き抜けた――瞬間、
「シッ!」
「シャアッ!」
互いに声を上げてその棒をぶつけあう。しかし片方は全力でぶつかりに行ったが、もう片方はその実ぶつかった瞬間力を抜き――相手が前に崩れるのを狙っていた。
「しまった!」
青いツナギを着た男が前に姿勢を崩した瞬間叫ぶ。自分の失策を悟ったのだ。
それはほんの少しの隙であったが――テクニシャン同士の戦いでは、その隙は致命的だ。
「食らえ!」
野獣のような眼光をした男は即座に相手の背後に回り込む。そして自分が持っている限界まで怒張した棒を――股の間に挟みこんだ。そして――
「超必殺技――――漢千奥義(かんぜんおうぎ)・漢千本乱れ咲き!!!」
腰を思い切り振って――その怒張した棒を、青いツナギを着た男の尻に思いきり挿す。
「アッー!」
青いツナギの男はたまらず悲鳴を上げる。もう動いたり、抵抗などは出来ない。
「おら、おら、おら、おら!」
「ア、ア、ア、ア、ア、アッー!」
何発も何発もまるでピストンのように尻の奥まで突かれる。それはだんだんと痛みでなく、そう、まるで天へと旅立つような不思議な感覚に変わっていき――
――瞬間、互いの目の前が真っ暗になった。
「な、なんだなんだ!?」
「おいおいどうした!?」
二人の少年は即座に頭につけたフルフェイスヘルメットのようなものを取り外して起き上がる。さきほどまでの頑強な漢の姿は見る影もなく、片方は小さな少年、もう片方はひょろりとした細身の少年だ。
二人がヘルメットを外して視界を確保するとそこには――
「み、みんな!」
――ぐるぐる巻きにされている仲間たちがいた。その横に立っているのは――
「風紀委員の森崎だ。ゲーム研究部部員全員、校則第24条、わいせつ物持ち込み禁止違反の現行犯として連行する」
――まるで拳銃のようにCADを向けている、疲れた呆れ顔の森崎駿がいた。
☆
ゲーム研究部全員に反省文を書かせている横で、駿は今回の顛末を書類に書いている。
小さな少年(文也)と細身の少年(部長の百谷)がやっていたのは、大人気フルダイブVRMMORPG――のパロディゲームだ。
ゲーム名は『stick art ♂hline(スティック・アート・オウライン)』――略してSAO(竿)である。
そのゲームはフルダイブVRゲームであるもののオンラインではなく、ローカル対戦しか出来ない。個人でクリアしていくゲームで、アインムクラッドと呼ばれる空に浮かぶ城を攻略して昇っていき、その屋上でお日様を体いっぱいに浴びて日焼けし、美味しいアイスティーを飲むことを目標とするRPGだ。
その城の中には各階層ごとにステージがあり、そのほとんど森である。ニコニコ顔の虫モンスター「ホモオ」や裸の男「森の妖精」が有名なキャラクターだ。
この汚いゲームの元ネタである某ゲームは、大人気ゲームの宿命かたくさんのパロディゲームが出たが、その人気の強さでそれらを全て跳ねのけてきた。
しかしこの通称『竿』だけは別。どう考えても『自主規制』で『アッー!』で『ウホッ♂』なゲームであるため、某ゲームの発売元が提訴して、そしてパロった側が裁判で完敗して発禁されたのだ。
発売されて1週間と経たずに――裁判が高速化しているうえ、争える要素が欠片もない――発禁になったうえ、その出来自体は非常に高いためマニアの間では高値で取引されている。
ゲーム研究部は今日の活動で、このゲームをやっていたのだ。だがこのゲームは当然のように18禁。まだ七月ということもあり、部員は三年生も含め全員18歳に満たないのだ。
そんなゲームを学校の敷地内で平然とやったのだ。そりゃあ捕まる。
「これで何回目だよ……」
駿は呆れて溜息も出ない。まだ七月なのに、もう今年度のゲーム研究部の検挙数は8回だ。しかもそのすべてが駿による検挙である。
風紀委員は毎年このゲーム研究部に悩まされていた。このゲーム研究部は代々優秀で、大会などは優勝しまくり、個人で出場する大会なら、かつて世界選手権の1位から4位まで独占したことまである。また『研究』の名の通り画期的な作戦の開発や隠されたパスワードや動作などのやりこみ要素の発見が非常にうまく、さらにオリジナルゲームを文化祭や80年経った今でも年2回行われてる大規模即売会で売ったら即完売するほどなのだ。
故にネットでも世間でもこの部活の評判は高く、実際に一高の受験者数の増加にも一役買っている。
一方で行動がとにかくやんちゃで、活動実績がこの通りだから廃部にも出来ないということで教師と生徒会を悩ませ続けていたのだ。
その結果が放置であり、そのツケを代々風紀委員が払っているのである。
そこでいつからか、何も知らない一年生の新入りにそれとなくゲーム研究部を任せて何回も検挙させ、その一年間、その一年生を『担当』みたいな扱いにしてしまう、という伝統が出来ていたのだ。
何も知らず、またやる気に満ち溢れた駿は、哀れかな、ずるがしこい先輩たちに嵌められ、しかも親友が所属しているとのことで、完全に担当にさせられてしまったのだ。風紀委員の活動に慣れてからここ一カ月、彼が担当だと知ってから先生方が妙に優しい。
「勘弁してくれ……」
駿のつぶやきは、虚空に消え去った。
☆
「勘弁してよお……」
ちょうど同じ時刻、生徒会室ではその主が書類を見て悲し気に同じようなことを呟いた。
いまどき珍しい紙媒体に書かれたそれは、ついさきほど届いて、封筒からとりだしたばかりのものだ。
「ま、真由美先輩? どうかしたんですか?」
その横で作業していた黒髪ロングの美少女・深雪がいきなり落ち込んだ真由美を心配して声をかける。
そんなやり取りを心配そうに見ている小さな少女はあずさ、動かない表情の下で嫌な予感に胃痛を感じる美人が鈴音だ。
「これ」
力の抜けた声で真由美が示すのは封筒だ。
「あ、九校戦の封筒ですね!」
「そういえば、もうそんな時期ですね」
あずさと鈴音が反応する。毎年行われる超一大ビッグイベント――表現が被ってるのはそれだけ大きいということだ――である九校戦のお知らせがついに来たようだ。
この大会の準備は大変だが、一方でその大変さを以ってしてもなお、近づくたびに心が踊らずにいられない。そんなイベントのお知らせを見たにも関わらず、真由美は落ち込んでいるのだ。
「りんちゃん」
「はい」
虚ろな目で真由美が鈴音をあだ名で呼ぶ。
鈴音はより胃痛を強めた。
「いますぐ十文字君と摩利を呼んで。緊急事態よ」
「は、はい」
鈴音ですら動揺を隠せない。十文字克人と渡辺摩利を呼ぶほどの事態と言うのは、尋常でない。
鈴音が二人に連絡を取る中、深雪は嫌な予感にひしひしとさいなまれながら問いかける。
「あの、なにが……」
その質問は、ゾンビのような眼で見られて尻切れトンボに終わったが、そのゾンビは質問の内容を察したらしい。いつもとは違う緩慢で雑な動作で紙を投げてよこす。
『全国魔法科高校親善魔法競技大会運営委員会より、各校の代表へ
今年度の上記大会のルールが決まりましたので、連絡いたします。
変更点は以下の通り
①
『モノリス・コード』のルール変更いたします。
変更内容は7ページ参照
②
競技は『クラウド・ボール』から『フィールド・ゲット・バトル』へと変更いたします。
なお、新競技は本大会オリジナル競技であるため、ルールの詳細は9ページ以降に示します。』
深雪が読み上げると、場の空気が固まった。
「競技、変更だって」
今年は荒れる。そんな嫌な予感が、生徒会メンバーの中に駆け抜けた。