マジカル・ジョーカー   作:まみむ衛門

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 新競技『フィールド・ゲット・バトル』のルールは以下の通りである。

 

・各校で3人ずつ選手を選んでチームを組み、2チームで戦う。

・それぞれ大会標準のヘルメット・スーツ・プロテクター等の装備を着用。

・選手には各一つずつ、大会運営より競技専用のCADが渡される。

・競技専用のCADは『インクガン』といい、インクを打ち出す魔法専用のものである。

・打ち出せるインクの量は最大30発。ただし自チームのインクが塗られた場所にいたら1秒ごとに1発分回復する。また最大量を超えて打ち出す場合は自身のサイオンを消費する。インク残量はヘルメットのアイガード右上にホログラムで表示される。

・2チームが2色に分かれて規定のフィールドの中で5分間争い、試合終了時、そのフィールド上で自チームのインクの色の面積が大きかった方を勝利とする。

・フィールドの種類はランダム。

・着用している装備が、相手が打ち出したインクによって一定以上の面積を塗られた場合、その瞬間からその選手は10秒間動くことは出来ない。この動けない状態を『スリープ』と呼ぶ。ただしヘルメット付属のインカムで会話は可能。

・スリープ状態からの復帰後、手持ちの残弾数は必ず10になり、5秒間は相手のインクで装備が塗られることはない。ただし相手陣地側に進んではいけない。二歩以上進んだら意図的にルールを破ったとみなして失格。

・装備に塗られたインクは、自チームの色のインクが塗られた場所の上で、インクを打ち出さずに静止することで一定時間ごとに一定量剥がれ落ちる。位置はランダムである。

・選手は規定のインクガンの他、規格内のCADを1つだけ持ち込むことが出来る。

・そのCADにインプットできる魔法は以下の『スペシャル』と呼ばれる魔法をどれか一種類のみである。

・『スペシャル』は各試合で一人につき一回のみ使用可能。

・『スペシャル』の種類と効果は以下の通り。

 

☆『スーパーショット』――一発だけ、超高速で縦長のインクを打ち出す。すべての遮蔽物を貫通し、直撃した相手は塗られた装備の面積に関わらずスリープ状態になる。

☆『バリア』――一定時間、相手に装備をインクで塗られなくなる。半径3m以内に仲間がいればその仲間にバリアを共有することが出来る。ただしバリアが切れた直後の5秒は塗られた装備の面積に関わらず相手のインクに塗られた場合スリープ状態になる。

☆『メガホン』――直径1mの円柱型の光を放つ。これに触れた相手は装備を塗られた面積に関わらずスリープ状態となる。ただし、使用してから5秒間、効果が発動することはなく、その間は一歩も動けず、塗られた装備の面積に関わらず相手のインクに塗られた場合効果はキャンセルされスリープ状態になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このような資料が、翌日、緊急全校集会で配られた。

 

 あの後、摩利と克人を含めた生徒会役員でルール解釈を急ピッチで行った。『モノリス・コード』のルール変更はまだいい。少し変わっただけだ。しかし、ほかの競技は全て世間でも行われているものであるが、今回の新競技は今大会オリジナルである。どんなトラブルがあるか分からない。

 

 しかも委員会に問い合わせたら、見本試合などは実施する予定はないらしい。

 

 しかもしかも複数対複数の時間制限競技であるため、ルールは複雑である。抜け道を探した作戦も重要だ。

 

 ルールの資料を渡された全校生徒は困惑し、ざわざわとしだす。

 

 果たしてどう説明しようか。壇上に立つ真由美は頭を抱えた。こっちが悪いわけでもないのに、暴動が起きかねない。

 

 そんな絶望した彼女の耳に、ある声が入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、これ『ナワバリバトル』じゃん」

 

「ああ、あのレトロゲームの。たしかにそっくりだな」

 

「オリジナルとかいっといてパクリかよ」

 

「大昔のゲームだし、知らなかったんじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美は講堂内を見まわしてその会話の発生源を探る。

 

 全容がつかめないルールを『知っている』奴がいる。

 

 同じ会話を聞いていたらしい摩利と目線を合わせる。

 

 真由美はすぐに得意の『マルチスコープ』を使って講堂内をくまなく見る。戸惑ったような顔をしている生徒がほとんどだが、その中に一つ、苦笑いしている生徒の集団がある。

 

(連行)

 

(了解)

 

 真由美の目線でその集団に気付いた摩利は壇上を下りて早足でその集団に近づく。

 

 そしてCADを取り出して、その集団に向けてこう言った。

 

 

「風紀委員の渡辺摩利だ! ゲーム研究部を連行する!」

 

 

 

 

 

「「「「「『まだ』なにもやってねえんだけど!?」」」」」

 

 

 

 

 苦笑いが、他の生徒とは違う理由で驚きに変わった。

 

「『まだ』って……また何かやるつもりなのか……」

 

 密かに胃を痛める森崎という生徒も近くにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室にご案内されたゲーム研究部ご一行――その中に文也もいる――は、そこで騒いでいた。

 

「おい今度はなんだ!?」

 

「まさかあの幻のエロゲーを持ってきてたのがばれたか!?」

 

「それとも今度の夏の即売会でオリジナルエロゲーを売ろうとしてるのがばれたか!?」

 

「……ほう?」

 

「「「「ヒエッ」」」」

 

 摩利の冷たい一言に、ゲーム研究部の男の珠2つは縮み上がる。

 

 それを見た摩利は絶対零度の視線のまま(部長が変に興奮しはじめた)口角を吊り上げて話をする。

 

「さて、今の話に興味は尽きないが「え? 渡辺もエロゲーに興味あるの?」殺すぞ「ごめん」」

 

 話を遮られて体力も気力も(呆れて)尽き果てた摩利はふらふらと椅子に座り、あとの説明を真由美に任せる。こいつらの相手はいくら体力があっても足りない。

 

「えっと、色々言いたいことはあるけど……」

 

 真由美は困ったようにそう切り出した。

 

「さきほど説明した九校戦の新競技についてですが、実は九校戦オリジナルの競技ということで、私たちでその中身が今一つつかめていません。そんな中、どうやらあなたたちはこの競技について『知っている』ようですね?」

 

「はー、まあ」

 

 代表して部長が答える。

 

「つってもレトロゲームだけどね。もう80年位前かなー。大手ゲーム会社から発売されて大ヒットしたんだけど、そのゲームの中身にそっくり」

 

「詳しく教えてくれるかしら」

 

「あー、つってもあれはとにかく奥が深くてなー」

 

「ですよねー、いやはや、あれは奥が深いゲームだった。一言では語りつくせない、そうロマンのようなものが」

 

「うんうん、子供向けとは思えない複雑で精巧なゲームだと思う」

 

 ゲーム研究部の面々でなにやら顔に熱い感情をたたえ、腕を組んでうんうん頷き合っている。

 

 どうにも教える気がない――おそらく面倒くさいのだろう――らしい。

 

「ふーん、そう。そういえば、ここ3年間でゲーム研究部の検挙数は2位に8倍つけて圧倒的一位ね」

 

「「「「ギクッ」」」」

 

「それと、去年は一科生も含めてほとんどが赤点。部活としてはひどいものねえ」

 

「「「「ギクギクッ」」」」

 

「それとさっきの話も気になるわねえ。高校生がわいせつ物を部活動で堂々とやった挙句、またわいせつ物を『学校の活動として』外に売ろうとしてるのねー」

 

「「「「…………」」」」

 

「このまま学校に迷惑かけて一切貢献しないんじゃあいくら成績良くても廃部はまぬが――」

 

「はいはいはい、それは『ス◯ラトゥーン』ていう対人TPSゲームです!」

 

「インクで壁とか床とかを塗って戦うんです!」

 

「色々な武器があって、色々なステージがあるんです!」

 

「『ナワバリバトル』っていうのはゲーム終了時の塗った床面積を競うゲームです!」

 

 真由美の脅しに、ゲーム研究部の面々はこぞって情報を提供する。この場には部活連会頭の十文字までいるのだ。マジで廃部にされかねない。

 

「さ、いろいろ教えてもらうわよ?」

 

 真由美が穏やかな、それでいて冷たい笑みを浮かべてゲーム研究部の面々を見つめる。

 

 面々は震えあがり――うち何人かは変な趣味に目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三巨頭を部室に案内(気分的には部員たちがドナドナされている気分であった)してから、ゲーム研究部は膨大な資料を片っ端からあさり、検索し、引っ張り出して三人に渡していく。

 

 そのあまりに膨大なゲーム資料の数々に三人は目を丸くした。しかも部員は全員――文也を筆頭とした一年生を含めて――膨大な資料のある場所を全て覚えているのだ。その資料はデータカードやUSB、さらに紙媒体など様々だ。

 

「すっごい数の資料ね。活動は真面目にやってるみたい」

 

「部活連でもこれではなかなか手が出せなくてな。しかし、むう、どうやら銃型の機械を使うゲームらしいから、この『エイム』というのは、英語の意味から察するに狙いの正確さのことか? 専門用語が多すぎてわからん」

 

「この熱意が勉強にも向いてくれれば……」

 

『…………』

 

 摩利の漏らした一言に、部員たちも含めて押し黙った。言ってはならないことである。

 

「ね、ねえ、このゲームって今プレイできるの?」

 

 真由美はこの空気を変えようと声を震わせながら問いかける。こういった器用なことが出来るのは、三巨頭の中では真由美だけである。

 

「あ、あー、どうだろ。もう80年前のゲームなんで今の規格に合わないんじゃないかねえ」

 

「あー、ハードの方が微妙っすねえ、確かに」

 

 その質問にすぐ部長と部員の一人が答える。

 

「画面規格も、画素数も、端子も内部の仕組みも何もかもが違うからなあ」

 

 資料に目を通しながら文也はそれに補足を加える。

 

「そう……でもこのプレイ動画と考察資料があれば十分何とかなりそうね」

 

「ゲーム実況で流行ったら、上手い人からサルプレイまで色々見れるから便利だよなー」

 

 真由美が残念そうにしながらもそう言うと、部長は苦笑いしながらそれに続いた。

 

「あれ、でも、テレビをイチから作ればいけるんじゃね? 任〇堂資料館にソフトとハードは初期状態で残ってるだろうし」

 

『……あ』

 

「ほう」

 

 それを受けた文也のつぶやきに、他の部員と真由美と摩利は呆けたような声を出し、克人はそれに興味を示した。

 

「その大手メーカーの貴重な資料を、はたして学校に貸し出してくれるのか? 昔のゲームだから貴重だぞ?」

 

「それなら心配ないよ、会頭。俺らは色んな企業とコネあるし、ジェットストリーム土下座すれば貸してくれるんじゃない?」

 

 光明が見え始めたところで克人は懸念事項を挙げる。その懸念を、部長が(とうていスマートとは思えない方法だが)解決法を提示する。

 

「そういや会頭と会長は十師族だったよな? この二人下座ったら完璧じゃね?」

 

「お前らは十師族を何だと思ってる!?」

 

 部長の提案に、真由美と克人は顔を引きつらせ、摩利が声を荒げる。

 

「え……偉い人でしょ?」

 

「偉い人が頭下げればさしもの天下の任〇堂も説得できますよ!」

 

 きょとんとする部長と、喜んだように声を上げる部員。

 

 その様子を見た摩利は頭を抱えながらこう言った。

 

「……土下座と頭下げるを一緒にしてるのはお前らぐらいだ」

 

 摩利はそう文句を言って大きな溜息を吐き、心の中で呟く。

 

 

 

 そういやこいつらの土下座をこの二年とちょっと見続けてきたんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、えらい人の土下座大作戦は保留となった。

 

 そんな頭が痛くなるような出来事のことを知らない深雪たちはその日の放課後、生徒指導室の前で達也を待っていた。

 

「お待たせ」

 

 生徒指導室の扉を開けて達也が出てくる。外に愛しい妹と友人たちがいるのは気配で察していたので、達也はそう言えた。

 

「おう、その、どんな内容だったんだ?」

 

「ああ、定期試験の結果でちょっとした話をした」

 

 レオの質問を受けて達也は、筆記試験の結果と魔法実技の結果が乖離している点を気にされたと話す。

 

 ちなみに筆記試験の結果は、1位達也、2位は文也、3位は深雪で4位は吉田幹比古という生徒で5位は駿だった。実技では1位深雪、2位は文也、3位は駿で4位が雫、5位がほのかだった。

 

 筆記試験の結果も何かと異常だが、教師たちは実技試験の結果に頭を抱える羽目になってしまった。トップ5がA組なのは、クラスによって習熟度に差が出ているということである。元々この5人は入学試験でも全員トップ20に入っていた――クラス分けは実は試験結果に関係なく完全ランダムと言う適当なものである――のでこの順位結果はまだいいのだが、この5人は入学してからの伸びがすさまじかったのだ。

 

「なんじゃそりゃ、手抜きなんかするメリットなんかないのによ」

 

「いや、手抜きとかそんな大げさな話じゃない」

 

 生徒指導教官はこの日たまたま休みで、どうにも厄介な達也の相手を、また教師たちの間で浮いている教師がした。他なら手抜きを疑ったりするのだが、この教師は考え方が常識離れしていたのだ。

 

「廿楽先生だったからな、そんな馬鹿らしい話をする人じゃない」

 

 達也は苦笑いする。入って早々に『呼び出してすまないね。これも仕事だから』と穏やかな笑みで迎えられ、試験結果の乖離について事務的な質問を受ける。手抜きについて否定すると『まあそうだよね。今回は上手くいかなかったんだろう。ドンマイ』と慰められた。

 

「ある意味馬鹿らしい話はされたがな。四高への転校を薦められた」

 

「て、転校ですか!?」

 

 突拍子もない単語に、ほのかが大声を上げる。他のメンバーは大声を上げるような事こそしなかったが、驚きか呆れ、もしくは怒りの表情を浮かべている。

 

「ああ、四高は魔法工学重視だから、と」

 

「馬鹿みたい」

 

 達也の解答に、雫が扉へその向こうにいる廿楽を射殺さんばかりの冷たい視線を向けながらそう吐き捨てた。あまり感情を表に出さない雫には珍しい表情だ。

 

「廿楽先生曰く、『正直言うと、君ほどの人材を教え導けるような教師はこの学校にいない』だそうだ」

 

 ともすれば教育放棄と捉えられかねない。実際達也以外のメンバーの表情は怒り、または失望をあらわにしている。

 

 だが達也は、彼女らが思っているようなことを、廿楽が考えていないということを知っている。なにせ直接話したのだ。彼女らの表情を見て、すぐに達也は廿楽を弁護する。

 

「まあそう怒るな。廿楽先生は善意でそういってくれたんだ。あの人は優秀だけど性格が災いしてここに飛ばされたクチらしいし、悪意なんざない。余計なお世話だが」

 

「だとしても、」

 

「まあ話は最後まで聞け。廿楽先生はさっきの言葉のあとに『四高には君を魔法工学の面で超え、教え導くことが出来る人が一人だけいる』と言ったんだ」

 

「…………」

 

 ほのかの反論を遮って達也はそう話を続けた。その話を聞いて『達也を超えるほどのがいるのか』とほとんどのメンバーが怒りを忘れたが、深雪だけはなお一層怒りを募らせる。

 

 ――気温が下がる。

 

「……落ち着け、深雪」

 

「……はい」

 

 その気温の低下は達也の一言で収まるが、深雪の怒りは冷めていない。

 

 達也のことを魔法工学の面で世界一番だと信じて疑わない深雪は、顔を知らない教師とはいえ、そんなことを言われるのは我慢ならなかった。

 

「そ、そんな先生もいるんだなあ」

 

「冷静に考えろ、レオ。俺はまだ高校生だ」

 

 達也の顔に悔しさが少しだけにじむ。

 

『マジカル・トイ・コーポレーション』の『キュービー』と『マジュニア』だけでなく、他にも自分を超えるものがいる。自信過剰でも、傲慢でもなんでもなく、実力が伴った自負心が悔しさを呼び起こす。またそれ以上に妹の信頼に応えられないのも悔しかった。

 

「そういえば、今朝聞いた新競技についてどう思う」

 

「井瀬君がなにやら訳を知っていそうだったわね」

 

 もうこの話題を続けるのは愚かだと判断したのか、雫が話題を変える。それに、ひとまず怒りを収めた深雪が答えた。

 

 ほのかと雫もそれに頷く。三巨頭とゲーム研究部たちが講堂を離れてしばらく、運営の頭を欠いた緊急朝礼はぐだぐだのまま解散になった。

 

 それからしばらく、1限目の授業中、文也が戻ってきた。そんな彼の顔は不満そうであり、右目に青タンを作っていた。

 

 駿との会話を盗み聞きしたところ、どうやら『風紀委員長に殴られた。土下座はダメだとよ』とのこと。その後の会話は聞こえなかったが、詳しく話を聞いた駿が呆れたような顔をしていた。どんな話だったのか授業に集中できないほどに気になった3人だったが、本人たちに聞くわけにもいかず、また放課後には深雪は真由美たちに聞けるので、今までその真相は知らない。

 

「……そうだな。九校戦にしては珍しく、魔法の実力があまり関係なさそうだが」

 

「それに、使う魔法の種類も2つだけですよね……」

 

 どちらかといえば運動神経と作戦などがものを言いそうな競技だ。インク上限以上に打ち出すためにサイオンを消費するあたりはまだ魔法の実力が関係ありそうだが、魔法力の中でも技術的な面でなく、完全に才能に分類されるようなものであり、その『才能』も、現代魔法ではあまり重視されない部類のもの。不可解と言うのが正直なところだった。

 

「……生徒会で、色々詳しく聞く必要がありますね」

 

 深雪は眉間にしわを寄せてそう呟いた。

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