ガレスおねえちゃんですよっ、モードレッド!   作:オリスケ

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第1話

「モードレッド! わたしと一緒にトレーニングに行きましょう!」

 

 

 

 冗談じゃない。

 

 

 

 

「あっ、モードレッド! これからお昼ご飯ですか? お昼ご飯でしょう? 奇遇ですね、わたしもなんです!」

 

 

 

 

 冗談じゃない。

 

 

 

 

「モードレッドモードレッド! 先ほどニホンのアーチャーさんから、ゲームなるものを教えて貰ったんです! おせろとかいう、二人用の! ぜひ一緒にやりませんか!?」

 

 

 

 

 冗談じゃない……!

 

 

 

 

「モードレッド~~~~」

 

 

 

 

 冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃない!

 

 

 

 

 

 

 

「どうせテメーだろ、マスター!」

 

 ある日の昼食時。オレは食堂の端の方に呼呼びつけたマスターに、ここ数日溜まりに溜まった鬱憤をとうとう吐き出した。テーブルに拳を叩き付けた拍子に、背の高いチョコパフェが跳ねる。

 昼過ぎの食堂は、今も沢山のサーヴァントで溢れかえっている。

 時代も場所も問わず沢山のサーヴァントで溢れかえる、人理修復機関カルデア。人理を守る英霊はどいつもこいつも個性派揃いで、喧嘩なんてしょっちゅうだ。

 だから、オレがちょっと声を荒げてテーブルを叩き付けたぐらいじゃ、いちいち振り返ったりしない。少しの騒音には気にも留めず、各々が昼食の時間を楽しんでいる。

 それは目の前のマスターも同じ。オレの恫喝にも、きょとんと目を丸くしてやがる。

 

「えっと……何が?」

「言わなくても分かるだろ、ガレスだよガレス! オレの鎧の中の姿について、テメーがチクりやがったんだろ!」

 

 奴の名前を上げた瞬間、マスターはあ~、と間延びしたムカつく声を上げて納得する。

 

 

 カルデアの召還システムのアップグレードだかで、一気に七騎のサーヴァントがやって来たのが、つい数日前の事。

 そのサーヴァントの中に、円卓の騎士の一員がいた。

 第七席、ガレス。

 ガウェインの弟にして、ランスロットのおっかけ。そしてオレの腹違いの兄に当たる騎士だ。

 

「モードレッド、王(女性)の息子(娘)で、ガレスがお兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだ。前から思ってたけどいよいよ混乱しない?」

「ぶっ殺すぞ! とにかく今大事な事は、オレは当時、この面をガレスにずっと隠してきたって事だ!」

 

 オレはテーブルに身を乗り出して、オレの顔――アーサー王に瓜二つの顔を指さす。

 分かってる。自分で言うのも癪だが、幼くて女っぽい顔だ。凜々しく力強い円卓の一員となるには、この華奢な姿はどうしても不利を被る事になる。

 だから、オレはずっと鎧を纏い、兜で覆って正体を隠していた。他の騎士共に舐められないために。

 何を隠そう、舐められまいとする最も警戒していた相手が、あのガレスだったのだ。

 

「お前も、ちょっと話せば分かったろ、アイツの性格」

「うん、とっても明るくて元気な人だった。モードレッドとも話したがってたよ」

「しつっこいんだよアイツ! ガウェインやランスロットにキャイキャイと子犬みたいに絡んで! アイツ等もガレスに対してはでれでれと頬を緩ませて! ガレスはいっつも円卓全体の空気を腑抜けにしちまうんだ」

「モードレッド、その輪に混ざれなくて拗ねてるの?」

「はぁぁぁぁ? ちげ~~し~~~~~~っ!」

 

 更に上体を乗り出してガンを飛ばすと、マスターも流石にたじろいだ。テーブルの上のパフェをそっと脇にどけながら「ごめんごめん」と謝ってくる。

 

「でも、本当に聞きたがってたんだ。モードレッドが兜を脱いでるって言ったら、びっくり目を丸くしてさ。普段何をしているのとか、どんな話をするのとか凄く聞きたがって」

「……まさか、オレの姿以外にも、何かチクっちゃいねえだろうな」

「ううん、『後は自分で聞き出します!』って、瞳を輝かせて出て行っちゃったから」

 

 マイルームではしゃぐガレスの姿が手に取るように思い浮かんで、オレは思いっきり顔を顰める。

 

「ああクソ、面倒な事になった。なんでよりによってガレスを召還しやがるんだ」

「仲良くなりたいって言うんだから、仲良くすればいいじゃない」

「そう簡単な話じゃないんだよ。オレにだって色々あるんだ……ポッと出の奴に姉妹面されたって、迷惑なんだよ」

 

 深々と溜息を吐くと、どっと疲労感が押し寄せる。吐息が掛かって、パフェのてっぺんの、チョコの掛かったソフトクリームがとろりと溶け出した。

 食堂専門サーヴァントが腕によりをかけた食後のスイーツ。それを無駄にしちゃ勿体ない。

 オレはパフェスプーンを手に、チョコのたっぷりかかったソフトクリームをすくい――。

 

 

 

 

 

「……ホラよ、フラン」

「ウー!」

 

 ずっと隣に座っていたフランケンシュタインの口に突っ込んだ。

 咥えた口からスプーンを引き抜くと、フランはもぐもぐと口を動かし冷たいアイスを堪能する。

 

「うまいか?」

「うー!」

「ははっ、フランは白い方が好きだもんな。赤マントに無理言って、ホワイトチョコソースにして貰った甲斐があったぜ」

 

 両手を挙げておいしさを表現するフラン。長い前髪の隙間から覗く目も輝いている。

 その様子に気分を良くして、オレも一口。冷たく溶ける、染み入るような極上の甘さを堪能している内に、フランが口を開けて第二弾を所望してくる。

 交互にパフェを食べるオレ達を、マスターはしばらく眺めて……それからぽん、と、胸の前で掌に拳を乗せる。

 

「あ、そうか」

「なんだよ、マスター?」

「モードレッド、姉のポジションを取られるのが嫌なんだね?」

「……はぁ!?」

 

 素っ頓狂な声は、賑やかな食堂の喧騒に搔き消える。

 予想外の指摘に取り落としたスプーンは、フランが器用に口でキャッチした。

 

「ち、ちち、ちっげえし!? 別に、そんな間柄とか気にしねえし、そもそも誰かの姉になった覚えはねえ!」

「うー……」

「よしよし、心配しないでフラン。モーさんは素直になれないだけだから、ちゃんとフランのお姉ちゃんだから」

「あっテメ、フランを盾にするのはずりいぞ!」

 

 露骨にしょげるフランに、力強くオレが姉だと断言するマスター。

 姉じゃないとは言えない。否定の言葉がオレから出てこないのが何よりの証拠だ。

 それを見てマスターが、また屈託無い笑顔を向けてくる。

 

「カルデアのみんな、モードレッドの事は知ってるし。実は妹だって言われても、気にする人はいないと思うよ」

「う、うー」

「ほら、フランも頷いてる」

「ぐ、ぐ……!」

 

 フランの後押しもあって、鬼の首を取ったようなマスター。

 やっぱり、こいつらは何も分かってない。

 妹なんて冗談じゃない。

 オレはモードレッド。王の息子で、円卓でも孤高の騎士として振る舞っていた。

 オレにはそういう矜恃がある。いきなり変わった環境に、おいそれと順応する訳にはいかない。

 オレは、ガレスとは違うのだ。

 

 

 

 そんな風に思っていると……噂をすれば影が差すという諺の通りか。

 マスターが食堂の入口を仰ぎ見て「あ」と一言。

 それに反応して振り返ったのがマズかった。

 入口できょろきょろと辺りを探っていたガレスと、ばっちり目が合ってしまった。

 奴はオレを見つけると、くりくりとした目をぱぁっと輝かせて、猛烈な勢いでオレの方に向かってくる。

 オレは即座に宝具を展開し、銀の鎧兜で全身を覆い尽くした。

 

「こんにちは、モードレッド!」

「……誰だテメーは」

「ガレスおねえちゃんですっ!」

「誰が姉だ、誰が!」

 

 激しく声を荒げても、ガレスはそれさえ嬉しいとばかりに、にんまりと唇を綻ばせる。

 いかにも活発そうな、短いつやつやの金髪。耳のようにぴょこんと突き出た黒いくせっ毛。子供っぽい腕白さと女らしい可憐さを感じさせる紅いほっぺた。

 丸い小顔をテーブルの端に乗せる姿は、まるで犬のようだ。その好奇心旺盛な瞳に見つめられて、ぐっとオレの喉が詰まる。

 

「モードレッド、いつもこの時間におやつを食べているんですね! 話に聞いた通りですっ」

「食べてない」

「じゃあじゃあ、これからおやつですか? それなら是非、わたしと一緒に食べましょう!」

 

 ぐいぐい、ぐいぐい。凄まじいほど喰い気味に迫るガレス。その勢いは、バーサーカーのフランでさえ空気を読んで口を紡ぐレベルだ。

 

「今の時代は、とっても沢山の甘い物があるんですね。先輩サーヴァントの皆さんに色々と教わりました。モードレッドのおすすめは何ですか?」

「チャオちゅ~る」

「あっ、そのテーブルにあるのはパフェ! 食べてみたいですっ。食べさせてくれませんか、モードレッド!」

 

 こっちの話など聞きもせず捲し立てるガレス。

 そうして奴は、オレが鼻白む間に、テーブルに顎を乗せたまま、口を開けてみせた。

 

 

「あー」

「………………」

「あーーーーっ」

「…………………………」

 

 

 鎧越しに救いの目を向けるも、マスターは肩を竦めるばかり。フランにいたっては物珍しげにオレを眺め、ぐっと親指を立てる始末だ。

 味方が誰もいない。逃げ場がない、四面楚歌だ。目の前のガレスは、オレが動くまで延々口を開けている腹積もりかもしれない。

 こうなれば仕方がない。なるようになれだ。オレはパフェをひと匙すくい、ガレスの口に放り込んだ。

 

「はむっ……ん~~っ。冷たくて、とろりと溶けて、何よりとっても甘くて美味しい! モードレッドが好きそうな味ですね!」

「勝手に決めんな、ガレス!」

 

 そう叫んで、はっとする。

 

「……えへへ」

 

 初めて名前を呼ばれたガレスは、それが最高の褒美だと言わんばかりに、唇を綻ばせて笑う。

 その笑顔が、あんまりに眩しくて。

 かつて兄であるガウェインや、憧れにしていたランスロットに向けていたものと、少しも違わない晴れやかなもので。

 

「っ……」

 

 兜を被っていて良かった。オレ自身、今どんな顔をしているか分からない。

 全身がむずむずする。居心地の悪さが過去最悪だ。

 そんなオレの内心など露知らず、マスターとフランは、微笑まし気にオレを眺めてやがる。

 近くにいる他のサーヴァント共も、不干渉を決め込んでいるが、オレを気にしているのが空気でバレバレだ。

 諸悪の根源であるガレスは、パフェ一口じゃ満足できないようだ。むしろ会話の糸口を見つけたとばかりに、わんぱくなほっぺたを一層朱に染めてオレを見つめている。

 

 

 純粋な好機。野次馬根性の好奇心。反抗期の娘を見るような空気。

 微笑ましげな視線に囲まれた、針のむしろ。

 やめてくれ。こんな空気はまっぴら御免だ。

 

 

 

 

 誰でもいい、早くこの地獄を打ち壊してくれ――。

 

 

 

 

 

 そんなオレの願いが、通じたか。

 いや、その時起こった事を考えれば、いっそ通じない方が良かったのだが……

 

 

 

 

「モードレッド! わたし、もっとスイーツを堪能したいです、この後付き合ってくれませんか?」

「いや……それは、その……」

「分かってます、二人きりは居心地悪いでしょうから、マスターと、フランさんもご一緒にいかがですか?」

「う?」

「え? ……俺もいいの?」

 

 呼ばれるとは思っていなかった二人が、素っ頓狂な声を上げて自分の胸を指さす。

 目を丸くする二人に、ガレスは「はい!」と太陽のように朗らかに笑って、言った。

 

 

 

 

 

「今から、スイーツバイキングが開かれるんですって! 言葉の意味がよく分かりませんでしたが……()()()()()()()()()()()()()()だなんて、現代には凄い技術があるんですね!」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、カルデアの意志が一つに結束した。

 

 

 

 そこからの行動は、本当に、本当に、迅速だった。

 ガタッ――と、食堂にいた全員が、無言で立ち上がり、走り出す。

 

「――あ、もしもしホームズ? コードMだ。今すぐキルケーを探して。弟子がヤバい」

 

 表情を氷のようにしたマスターが、整然と通信機に告げる。その様子はどこかしらの特異点に居る時より遙かに真剣だ。

 途端に変わった空気。迅速に行動を始める各員を、ガレスはただおろおろと眺めるばかり。

 

「え、み、皆さんどうされたのですか? 私、何か不味い事をしてしまいました? 何か事件で――あ、あれ? モードレッド?」

 

 

 

 

 

 そのどさくさに紛れて、オレはこっそり、明るくうるさい腹違いの兄から逃げ出したのだった。

 

 

 





十分前に二時間で書いたやつです。
夏コミ前で気が立ってな? 何かモードレッドを書きたかったんや……
こういうのは鮮度が命ってばっちゃが言ってた。


夏コミよろしくお願いします(小声)


あと二日くらい続くよ!!
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