「俺のセイバー(が召喚したヘラクレス)は最強なんだ!」   作:ぴんころ

1 / 2
きっと誰よりも早いセイバーイアソンのss




第一話

「はい、これ」

 

「……? これって何さ」

 

「何って、触媒よ。だって、聖杯戦争に参加するんでしょう?」

 

 肩口で切り揃えたプラチナブロンドの髪をふわりと揺らしながら、いつものように青のフリルドレスに身を包んだ沙条愛歌は、『頼まれていた漫画を買ってきた』程度のノリでそう言って木片をこちらに渡してきた。

 ぎょっとして手に持っていたその触媒とやらを落としそうになってしまう俺の姿を、彼女はくすくすと笑いながら見ている。

 

「そ、それでこれは一体……?」

 

 落ち着くまでに約五分程度。

 彼女の見世物になっていた感は否めないが、もうこの上下関係にも悲しいことに慣れてしまった。

 自分程度の木っ端魔術師では、この根源の姫には敵わないのだということはすでに体にはっきりと教え込まれた。

 圧倒的すぎる差は、もはや実力の差をしっかりと理解させてすらくれず、悔しいという感情すらも抱かせてくれず、ただの友人のようにしか思えない。

 

「アルゴー号の破片」

 

「とんでもないものじゃないか!?」

 

 なのだが、さすがにこんなものを渡されては畏敬の念が滲み出てしまう。

 彼女と自分の違いを、こうしたふとしたタイミングで理解させられる。

 何せ、アルゴー号の破片ということは、この触媒に所縁のある英霊はアルゴナウタイの一員である。

 ヘラクレス、オルフェウス、テセウス、アタランテ、カイネス、カストル・ポルックス兄弟、ペーレウス、アスクレピオス、そしてイアソンとメディア。そういった著名な英霊ばかり。

 そして、個人を特定するものではないから、選ばれるのは縁召喚と同じく『俺と相性のいい英霊』になるはず。

 つまり、『狙った英霊を引き当てることができる』という触媒召喚と、『マスターと相性のいい英霊が召喚される』という縁召喚のいいとこ取り。

 しかも、この触媒で召喚される英霊はまず間違いなく誰であったとしても強者の中に名を連ねる英霊だろう。

 これで負けるとしたら、俺以外に原因があるはずがない。

 

「ありがとう、愛歌。この戦い、俺の勝利だ」

 

 そして、俺はこれでも魔術師としては結構強い方だと思う。

 故に、この魔術師同士の決闘である儀式、『第五次聖杯戦争』で負ける理由がない。

 

「ええ、当然よ。あなたは私のお友達なんだもの。勝ったら、ちゃんと触媒を用意した私にも何かちょうだいね」

 

「ああ、そんなこと当たり前じゃないか」

 

 俺のことを見下すわけでもなく友と呼んでくれる愛歌が用意してくれた触媒なのだ。

 これで勝ったなら、俺個人の勝利ではなく俺と愛歌の勝利であるのは間違いない。

 ……いや、ほんとなんで愛歌が俺のことを友人と呼んでくれるのかは謎だし、これだって友人にたかったように見えてもおかしくはないことなのだが、前回の聖杯戦争では時計塔のロードが殺されてしまったらしいから、備えられるのならばしっかりと備えておくことは当然のこと。

 

「グレイ、今から日本に行くぞ」

 

「い、今から、それに拙もですか?」

 

「当然だ」

 

 後ろで控えていた、以前に拾った墓守の少女も連れて行く。

 彼女も、時計塔の分類で言うのならば伝承保菌者(ゴッズホルダー)にあたる人物であり、サーヴァントに対して効果を期待できる宝具を持っている。

 命の保証が完全にはされない以上、できる限り生存の可能性を高める手段として連れて行くことはなにもおかしなことはない。

 

「ええ、それがいいでしょうね。準備するものなんて、あなたにはそこまでないでしょうし。それなら、サーヴァントのクラスに枠が空いているうちに召喚しないと、どんどん召喚できるサーヴァントが減って行くわ」

 

 愛歌はニコニコとしている。

 彼女の言ったことにはなにも間違いなどない。

 アタランテはアーチャー以外のクラスへの適性がないだろうから、アーチャー枠が埋まってしまえば召喚できなくなる。

 要するにそう言うことなのだから。

 七騎のサーヴァントが七つのクラスに割り当てられて使役する魔術師とともに戦うのが聖杯戦争。

 できることならアーチャーかセイバーでヘラクレスを呼びたいところだが……。

 

「だから、今夜日本に行って、明日の夜にでもサーヴァントを召喚する」

 

「はい、わかりました」

 

 狼狽えていたグレイだが、諦めたのか頷いてくれた。

 彼女の意見を一切聞かない形になるのは申し訳ないのだが、それでも死にたくはないし、友人がせっかく用意してくれたものも無駄にはしたくない。

 ぶっちゃけた話、参加しようかどうか迷っていたタイミングで愛歌が持ってきたのでなし崩しで参加することに決めたのだ。

 

「それじゃ、荷物をまとめるから手伝ってくれ」

 

「はい!」

 

 そう言って、グレイとともに荷造りを開始した。

 

 

 

 

『ここを使えばいいわ』

 

 そんなことを口にした愛歌が連れてきてくれたのは、彼女の家である沙条が持つ霊地の一つ。

 今現在は彼女の妹が住んでいるらしいのだが、そろそろ聖杯戦争だからと言うことで一時的に彼女を離れさせて、聖杯戦争の間使わせてくれることになった、と言うことを説明された。

 そこに礼装を運び込んで、愛歌が管理者権限を一時的に則って俺たちを問題なく受け入れるようにと書き換えた結果、そこを拠点とすることになったのだ。

 とは言っても、本当にただの拠点でしかなく、ここで魔術的な研鑽に励むことなど不可能。

 今あるものとこれから召喚するサーヴァントから戦力が減ることはあっても増えることは決してない。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を」

 

 根源接続者(ジェバンニ)が一時間でやってくれた魔力の調整。

 それによって、この家の霊脈の魔力は沙条家の人間ほどではないが俺にもそこまで相性が悪いようなものではなくなった。

 

「四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲む。

 これによって完成した魔法陣に使われた素材は魔力を貯蔵した水銀。

 触媒は擬似的に形作られた祭壇に備えられている。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 

 グレイは、今この場にはいない。

 彼女の持つ宝具は英霊に所縁のあるものなので、もしもこの場にいたら愛歌が用意した触媒とはまた別の英霊が召喚される可能性があるので、先に寝てしまっているのだ。

 

「告げる」

 

 一体誰が召喚されるのだろうか。

 英霊なんていう本来なら絶対に使役できない相手を使役することができるのだ。

 どんな英霊が召喚されるのか気にならないはずがない。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 できることならばヘラクレス。

 彼ならばきっと負けはないだろう。

 ギリシャ神話最大級の英霊をそう簡単に倒せるような輩はいないはずだ。

 魔力だけが心配なところだが、愛歌がサポートしてくれるらしいし、宝具の使用にのみ気をつければ問題はない、と信じたい。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者」

 

 ただ、基本的には誰が来たとしても問題はない。

 アルゴナウタイの英霊は、ヘラクレスが頭一つ飛び抜けているだけで基本的には全員が一級の英霊。

 メディアだって、神代においての大魔女であるがゆえにキャスターとしての実力は最高峰だろう。

 イアソンは……まあ、うん、ケイローンの下で他の英霊のように色々と学んだらしいから、ある程度は実力はあるはずだ。

 前回の聖杯戦争の記録ではライダーのサーヴァントとして召喚されたイスカンダルが仲間を呼び出す宝具を持っていたらしいから、アルゴー号の船長(ライダー)として呼び出せたなら、他のアルゴナウタイを呼び寄せてくれるかもしれない。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 魔法陣を中心に、暴風と閃光が部屋中に撒き散らされる。

 踏ん張ることすらも難しいような、天災に等しいこれすらも英霊召喚の副産物でしかない。

 その副産物の大きさが、そのまま英霊召喚という儀式の規模に直結している。

 

 収束する魔力の嵐。

 肉体の中に魔力という異物を走らせていた魔術回路が、儀式の終結を悟り機能を順次停止していく。

 果たして、光の奥より現れたその出で立ちは──。

 

「セイバー、イアソン。召喚に応じて参上してやった。私は勇者であるがその前に船長だ。いいか。くれぐれも前線には出すなよ?絶対に出すなよ?」

 

 ならどうして船長(ライダー)じゃなくて勇者(セイバー)で召喚された。

 思わずそう突っ込みたくなった。

 

 

 

 

 結論。

 

 セイバーとして召喚されたイアソン、自分は船長だと言い張って剣士のくせに前線には出ようとしないのだが、実際のところはそこまで弱いサーヴァントではないらしい。

 まずはステータス。

 『筋力:C 耐久:B 敏捷:B+ 魔力:D 幸運:A+』と、最優のサーヴァントと呼ばれるセイバーのクラスに相応しいと言えるのかどうかまではわからないが、魔力以外は総て平均以上のランクを誇っている。

 そして次にスキル構成。

 『対魔力:B』があるために、それこそ神代の魔女クラスの英霊でもなければキャスターの魔術は通用しない。

 『騎乗:B』もあるので、機動力に関してもそこまで心配する必要はなく、アルゴー号を操縦していた実績もあるからこそ、騎馬を与えることも問題はないだろう。

 『求めし金羊の皮』は使い道など魔術の触媒以外には一切ないアイテムで、現代の魔術師では一切使うことなどできそうにもない代物なのだが、こちらには根源の姫がいる。彼女なら完璧にあれを使いこなしてくれるだろう。

 『虎口にて閃く:A』は彼のしぶとさを示すスキル。窮地に陥れば陥るほど、自らの身の安全を度外視した振る舞いではあるが脱出することができる。こちらで治癒を続けることで彼を死なせなければ、彼自身の戦い方もあって最終的には勝利を掴んでくれるはずだ。

 『友と征く遙かなる海路:B++』も、アルゴー号の仲間(アルゴナウタイ)限定の『超限定的な亜種カリスマ』とでも呼ぶべき代物で、本来なら一人のサーヴァントと一人の魔術師の組み合わせで行く聖杯戦争では使い道のないはずのスキルなのだが、彼に至っては何も問題はない。

 何せ、彼の宝具『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』は、かつてアルゴー号に乗った英雄たちを呼び出す効果を持っているからである。

 彼自身の人望の不安定さなどの短所はあるものの、その効果に関しては間違いなく強力という他ない。

 

「それで、お前は一体何を聖杯に望むんだ?」

 

 聖杯戦争における方針の話などは後回しにして、その場にいた二人の魔術師のどちらがマスターなのかを彼は確認した。

 確認方法は、俺の手の甲に浮き出ていた三つの刻印。一回の行使に一画を使用する三回限りの絶対命令権。

 そして、まず最初に行われたのが先の発言。

 サーヴァントとマスターという関係性を明確にした後の彼は、当然のことながらこちらが聖杯にかける望みを聞いてきた。

 他の世界の聖杯戦争を千里眼で覗いたりしている愛歌曰く、たまにこういうこともあるらしい。

 マスターとサーヴァントの性質が合わないために令呪を使わなければまともに命令を聞かせることすらできない様な事態が。

 

「俺が望むことねぇ……」

 

 正直、笑われてもしょうがない様なことだと思う。

 それでも言わなかったら従ってもらえないんだろうな、という未来も見えていたので、俺の望みを知っているがために笑いをこらえている愛歌を視界の端に捉えながら、俺の望みを口にする。

 

「俺が聖杯にかける望みは、『嫁さんが欲しい』ってことだ」

 

「…………なるほど。確かに嫁は大事だな」

 

「嫁さんが裏切りの魔女だった人が言うと言葉の重みが違うな」

 

「それを口にするな」

 

 微妙に親近感が湧いた、そんな気がした。

 ただ、気がしただけだ。




ちなみにこの主人公、アルゴナウタイの中には相性のいい英霊は存在しない。イアソンを呼べたのは「ヤベー奴を結構な数仲間にしている」って共通点から。

どうでもいいことだけど主人公と愛歌ちゃんの関係は”お友達”。王子様がいないことにだらけていた愛歌ちゃん様相手に「いないなら 作ればいいさ 王子様」なんてほざいたことで仲良くなりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。