Fate/Select Advance “旧題:静謐が俺の鯖の件について” 作:ボロ刀(改)
外へ出てからそんなに距離が離れていなかったので、引き返して4分でアパートに戻った俺と彼女は男の子の両親である夫婦の住むドアのインターホンを押したり、ドアをノックしてみるがまるで反応がない。
次は試しにドアノブを回してみるとあっさりと開き、不法侵入になるが入って中を見てみたが誰もおらず。
この緊急事態だから、最初は子供を連れてアパートから出てはぐれた結果が、冷たくなった男の子なのではと予想する。
さて、夫婦の居場所がわからない今、男の子をどうするか三分は迷う後に床に寝かせて両手を腹に置いて組ませて放置をすることにする。
すまん、今は両親の所に帰せないから、せめて住んでた部屋に帰してやることしか出来なかった。
「これで、よしっ」
一応、男の子を見つけた部始終の内容を書いた置き手紙も置いておくことにした。
ただし、静謐のハサンのことは正体不明の人物に助けられたと真実を書かずにだが。
だって、真実そのままを書いてみたところで手紙の内容を信じてもらえる訳ないじゃないか。
俺と同じように、傍に英霊を自称するとんでもない存在がいれば、もしくは知っていれば別の話になるかも知れないけど。
「……んで? 何で俺が君のマスターなのかについて、教えてくれないかな?」
「はい。私は静謐のハサン……それは間違いありません。正確には『Fate/Grand order』というゲームから生まれ出て、ゲームを通してあなたに育てられたサーヴァントです」
「はあ?」
その後、アパートの自室へ戻り質問してみたら、俺が育てた静謐のハサンが現実に現れたと、返ってきた。
文字にしたら単純だが、それが真実だとして何で彼女が現実世界に出てくるのかが、まるでわからない。
過程をすっ飛ばして結果だけ出しているのだから、これは意味不明でしかなかった。
「……それで、何で君が現実世界に?」
実は俺の妄想の中、この美少女の妄言、または俺の妄想を元にした夢ではないのかと言われた方が納得できると、頭痛がし始める頭を今は無視しながら次の質問をする。
「それが……それについては私もサッパリでして。私にわかることは、マスターは私のマスターであること。マスターは私の毒で死なない。私という存在はゲームから生まれた……これだけなのです」
「ゲームから……なら、FGOのアプリはどうなったんだ?」
静謐が出てくるのなら他の英霊が出てきても可笑しくはなさそうだと、なんとなく俺はスマホを取り出し画面を弄ろうとした時。
「ん? バッテリー表示が変だぞ?」
昨夜の俺は、スマホの充電を忘れていた筈なのに、バッテリー表示を見れば100%となっていた。
いや、昨夜の俺は充電を忘れなかっただけかと思い直してからFGOのアプリを開いてみると、いつものタイトル表示どころかreadingの文字すら表示されず、妙なメニュー一覧が画面に表示されていた。
「…………は?」
訳がわからないが、まずはメニューを見ていくことにする。
いや、本当に何だよ、これは?
【メニュー】
英霊強化
装備
礼装・コマンドコード購入と強化
ドール解放
ステータス
現在のQP・マナプリズム・レアプリズムの所持量
バトルサポート
ヘルプ
シンプルに、もっと詳しく言うとどこかのRPGみたいなメニュー表示にアプリの中身が変わっているし、飾り気ゼロになってるしでこんなの困るしかない。
てか、この非常時に言うのは可笑しいが、今まで育ててきたデータどこ行った!?
中身が変わっているということは、データも消えたのではと不安になる。
まあ、それはある意味で杞憂に終わるのだが。
「まずは、ヘルプを読んでみるか」
「??」
背中から覗いてくる彼女は一旦、放置しながら俺はスマホの画面を弄りヘルプの内容を読んでいく。
1,英霊強化は、パートナーである英霊のステータスをある程度まで強化出来る。強化するにはQPが必要となる。
2,装備は、英霊にコマンドコードを装備させる。装備したコマンドコードは英霊のスキル扱いとなる。また、装備できるコマンドコードは5つまで。
3,礼装・コマンドコード購入は、文字通り概念礼装とコマンドコードの購入をQP・マナプリズム・レアプリズムで行う。また、所持している礼装とコマンドコードをQPを支払うことで効果を強化することが出来る。
4,ドール解放は、パートナー以外の英霊を召喚できる。ただし、その英霊に自我は一切無く、召喚したマスターの命令した範囲でしか動かない。まさにドール。現在は説明表示はされるが何でか今は使用不可能。条件を満たしていないからだろうか? 補足だが、静謐とマシュを除いた育ててきた英霊の表示はちゃんとあった。
5,ステータスは、英霊とマスターについてのステータスを表示する。英霊の場合は筋力や幸運、俊敏といったお馴染みのもの。マスターの場合はFGOのようにコストで表示される。このコストは英霊の装備に関係していて、コストの範囲内でしかコマンドコードを装備できない。
6,現在のQP・マナプリズム・レアプリズムの所持量は、そのままの通り。所持金みたいなもの。また、敵を倒すとQP・マナプリズム・レアプリズムを手に入れることが出来る。
7,バトルサポートは、英霊の戦闘をスマホを通じてサポートする。Busterのコマンドを触れば筋力のステータスが上がるが俊敏が下がる。Artsは徐々に英霊の魔力が回復し耐久も上がる。Quickは俊敏重視となっていて速度で敵を翻弄したい時にちょうど良いが、筋力のステータスが下がる。
8,バトルサポートの続きとなるが、魔術礼装と概念礼装の効果を英霊に付与することが可能。また、礼装によっては効果の内容が変化していて、礼装の効果一つの再使用に掛かる時間は24時間。
9,英霊が死亡……霊基消滅した場合は復活するのに24時間が必要となる。また、マスターが死亡した場合は英霊も永久消滅する。スマホを破壊された場合はマスターと英霊共に死亡する。
10,令呪は使用から24時間後に一画を回復。最大は三画まで所持可能とこれはFGO同様。
「何だ、これ?」
「まるで、私達英霊とこれでなんとかして欲しい。と、言っているように思えます」
確かに彼女の言う通りではないかと、俺は悪戯にしてはあまりにも可笑しく、笑いすら込み上げてこない。
まるで、こうでもしないといけない何かが起きていると告げているかのようだ。
ドッキリなんかで、人を殺すなんてことある訳ないし、あの男の子は作り物の人形とは思えず、本当に骸骨に殺されてしまったのだろう。
そして、これが日本中……いや、もしかしたら世界中で起きているのだとしたらと思った俺はテレビの電源をリモコンを手に付ける。
すると……
《皆さん! これはCGまたは映画ではありません!? 世界中で謎の骸骨が現れては人々を殺害し回っています!!》
《見て下さい! カメラ越しから見えるものが真実。まるで現代がホラーかファンタジーに侵食されているかのようです!!》
勇気があると言えば良いのか、無謀と言えば良いのか、マイクを持った女性が叫びながらも現状を俺やその他の人々に伝えようと必死になる姿があった。
チャンネルを替えてみると、自衛隊が銃を撃ちまくってスケルトンをなんとか倒していく絵が映し出されいたので、対処は自衛隊と武装があれば可能なのだろう。
それがわかると、少しだけ安心した気分になるが、そういえば会社の同僚と後輩、上司達は今どうしているのだろうか?
俺みたいに英霊が近くにいたら良い……いや、そんな都合良いことがあるかもわからないな。
それに、親父と母さん……最近、嫁はまだかと口煩い年頃だけど無事かが不安だ。
なら、会いに行ってみるか? 無事かどうかを確かめに……けど、スケルトン一体でも俺一人でどうにかなるものではなさそうだと理解してしまっている。
だから、彼女に頼んでみるしかない。
「なあ、君。頼みたいことがある」
「何でしょうか?」
しかし、彼女が聞いてくれるだろうかがわからないが、言うだけなら只だと躊躇いを振り払った俺は口から……
「まずは会社に行ってみたい。仕事仲間が心配なんだ」
会社に仕事仲間がいると確定出来ないけど、それなりに世話になったりしたのだ。
無事かどうかを知りたくもなるが、断られるかも知れないと不安に絡まれていく中、彼女の返答は……
「承知しました。あなたの力となります、マスター」
断るかどうかすら考える素振りを見せずに、やけにあっさりと力になってくれると返してきた。
「簡単に、言ってくれるなよ……外はスケルトンだらけなのに」
「スケルトン程度なら、正面から挑んでも私は勝てます。それに、マスターはこんな状況だというのに、余裕さえあれば誰かの心配が出来るのは素晴らしいと思いますから」
戦力差があるらしいことはわかったが、まさか、誰かの心配をしたことを褒めにくるとは……美少女にやられると、おじさんの俺でも心震えてくるな。
「そ、そうか。早朝の早めに出勤する奴らなら会社にいそうだし、早速行ってみたい」
「はい。どこまでも、あなたについて行きます」
彼女の、静謐の助けがあるのは心強い。
だが、行く前に、本当に彼女は静謐のハサンなのかの確証が欲しいので、霊体化は可能かと聞いてみると彼女は頷いた後に目の前でFateのアニメのような感じで霊体化をしてみせた。
「おぉう……ここまで見たら、君は英霊と認めるしかないな」
「やっと、信じて頂けたことが嬉しいです」
「だって、普通は二次元から誰かが出てくるなんてあり得ないし」
「……確かに。私でも、今この世界にいられることが可笑しいと思います」
だよな。流石に彼女でも訳わからんとこまるよな。
「ですが、理由はわかりませんがこうしてマスターと触れ合えることが……嬉しくて堪りません」
そりゃあ、戸惑うわな、と頷いていたら静謐が俺の右手を両手で包むように掴み、潤ませた瞳での笑みを向けてくる。
まあ、彼女からすれば毒にやられない人の温もりは嬉しいどころではないだろうから、その気持ちを理解するのも難しいどころではなかった。
「…………」
綺麗、だと思った。
歪な生き方をしてきたが故の、怪しい美しさというものを彼女は持っている。
体そのものが毒だから人と触れ合えずに生きてしまい、儚い何かを感じさせてくる。
「……そうか。なら、どこかで暇があったら触れ合えることをしようか?」
「はい。暇があれば、私と触れ合いを……」
いつの間にか、無意識に静謐を受け入れてしまう台詞を吐き出してしまい、耳に入れた彼女はありふれた表現だが可憐な花のような満面の笑み。
「準備をしなきゃな……っと、言っても会社に行くのに必要となる荷物はないな」
抱きしめたくなったが、今は会社に行くのが先だと勝手に動きそうな体を理性で抑えながら、さあ行こうと外へ出ようとする。
「待って下さい。マスター」
それを見た静謐は、待ったをかけてくる。
何か言いたいことがあるようだ。
「その服装を着て動きづらいのなら、動きやすい服装に替えた方がよろしいかと。これから先は、動きやすさが重要です」
と、サラリーマンの装備では危ないぞとアドバイスをしてきた。
このサラリーマンの装備は、動きやすいとは言えないので素直に私服に替えることにしたいが、その前に……
「着替えるから一旦、出てってくれないか?」
本日二回目の、静謐を一時的に外へ出さないとならない。
俺に誰かに見られながら、着替える趣味と素質は皆無だからな。