Fate/Select Advance “旧題:静謐が俺の鯖の件について” 作:ボロ刀(改)
いざ、会社へ向かおうとしたが通勤に使ってる電車は止まってるし、自動車も免許もなしの俺に出来る移動手段は自転車しかなかった。
だからか早く移動したいのなら、静謐が俺を抱えて移動しようと言い出してきた。
「見た目、カッコ悪いよな?」
「急ぎならば、見た目に拘る余裕はありません」
「まあ、そうだけど……仕方ないか」
仕方なく俺は静謐の背中におんぶされる形で、会社までほぼ一直線で移動するのだが、ここで見た目以外の問題が発生。
「あ、あば、あばば……!?」
速い、移動速度が自動車より凄い速い。
静謐の肩に強くしがみついてないと、あっという間に落ちて道路にカラダを転がしてしまい大怪我をしかねない。
いや、大怪我ならまだマシか……死ねるかも。
口をまともに動かし、喋る余裕はないから静謐にスピードを緩めてほしいと言えないので、必死にしがみつきつつ早く会社に着いてほしいと祈るしかなかった。
その後、おんぶでの高速移動状態から解放された後に腕時計で確認したら、出発から30分しか立っていなかったのに驚いたりする。
「人一人抱えてたのに。英霊、凄いな……」
「すみませんでした……」
「いや、なんとか大丈夫だから」
幸いにも、乗り物酔いみたいなことにはならなかった。
それに、今までの通勤だと一時間弱は掛かるのに、その半分しか掛からずに着いたのは、会社の生きた誰かに会える幸運に繋がる可能性があるのだから。
「おじさんにはキツかったけど、急いでくれてありがとう」
「あ、いえ。私こそ、マスターが耐えていたことを察することができず、申し訳ないです」
寧ろ、静謐に感謝しなきゃなと、お礼を言ったら彼女も気にしていた高速移動の件で謝罪。
急いでほしいと言ったのは俺だから、謝らなくて良いんだけど。
「よし。中に入るぞ……」
「はい」
遠くで人の悲鳴が聞こえる中で、互いにお礼と謝罪をした後に入ろうとしている会社のビルは、外から見た感じではあちらこちらに無惨になった方々……主にスーツ姿の男女が無造作に転がっている。
また、ビルの外ガラスも所々が大きく割れていて、ビルのどこからか落下して亡くなったと思われる方々もいた。
これらから読み取れる情報は……
「この建物の中に、敵が侵入したようですね」
「だよな。危険だよな」
静謐の言うように、今日突然に現れたスケルトン達に現在はわからないが襲われたのだろう。
中に生き残りが見つかるのかと、入る意味は今あるのかと悩むが、もうここまで来てしまったのだから入ろうと心を決める。
しかし、外ガラスが割れまくったビルの見た目って、何か不気味な雰囲気を放つな。
「ここまで来たんだ。入らなきゃ意味がない」
「マスターの護衛は、任せて下さい。絶対に、あなたを死なせません」
言葉にもしてから、盛大に割られて役目を果たせなくなった自動ドアを潜ると、静謐も自身の気持ちを口にして短刀を片手に真剣な表情。
彼女の気持ちはありがたいし、頼もしいが、そこまで気合いが……入るんだよな、静謐の場合は。
彼女の毒で何でか死なない俺の存在が、どれだけ大切なことなのかは一般人の俺では測りきれないし……そのお陰で、彼女からのボディタッチが過剰になりそうだな。
「中は……スケルトンが3体か」
「早速、始末してきます」
そんなことを考えながら、入口から一階へ入るとお出迎えしてくれたのはいつもの受付嬢ではなく、血に濡れた剣、槍、斧を持ったスケルトン。
その3体は、静謐にあっという間に体を崩され永久に活動不可となる。
とりあえずの安全が生まれたので、まずはどこから人を探してみるかと考えるが……
「静謐。こんな異常事態の場合、どこに隠れるのが正解なんだ?」
「普通に考えれば、頑丈な扉がある部屋だと思いますが?」
「いや、そこまで逃げられるかわからんし。なら、比較的近くて鍵を閉められる会議室か、休憩室辺りかと思うけど」
「理に叶っていますね。それらを中心に探すのですか?」
「当たってると良いんだけど……」
探す場所の方向性はゾンビが出るパニック系統の映画だと、どこかに閉じ籠るのは基本だとばかりに、そういったシーンが多いからという理由で決めた。
けど、映画と非現実が起きてるけど現実に当てはまるかはわからんよな。
★ ★ ★
「だ、誰だ!? 誰かいるのか!!」
……と、おもってた時期が俺にありました。
静謐にスケルトンを倒してもらいながら俺の職場がある五階に向かい、休憩室のドアを四回ノックしてみたら誰かがいるようで、中から声がしてきたのだから。
パニックもの映画も以外と、人の行動を把握してのものなのかも知れないと俺はまた一つ経験を得た。
「はい、富田です。中にいるのは?」
「富田? ……物流課の富田?」
「はい。その通りです」
さて、一人目の生き残りが見つかった訳なのだが、この声は俺の上司だ…………出来れば、あまり助けたくない方のだ。
「何故、お前がここにいる!? 家で死んだりじゃなかったのか!?」
「死んでませんよ。会社に着く時間は貴方より遅いですが、だからといって勝手に殺さないで下さい」
まあ、静謐がいなかったら上司の言う通りの結果になってても可笑しくなかったから、その思い込みは酷くないと思う。
「もう、近くにスケルトンはいません。なので、休憩室から出ても大丈夫ですよ」
さて、一番最初に見つけたのが、俺より歳上で嫌みな上司のおっさんとは今日は運が良いのか悪いのか。
嫌みだからといって、見捨てると罪悪感あるから助けてやらないと。
「本当、だろうな?」
「本当じゃなかったら、俺はとっくに死んでます」
「……それも、そうか」
見つけてから声をかけること、腕時計で見ると8分を使うと上司は納得してくれたようで、休憩室のドアを開けて出てきてくれた。
「昨日の夕方ぶりです」
「そうだな。こんな今日に、お前に会えるとは思ってなかった」
「普通に死んでても、可笑しくありませんでしたしね」
互いの顔を見合わせ、再会したことは奇跡に近いと言い合う後に上司は静謐に気付くと、ギョッとした反応を見せる。
「お、おい、富田。何だ、あの恥女は?」
「いくらなんでも、恥女は……」
静謐を、正確には静謐の服装を見るなり俺に彼女は一体何なのだと聞いてくるのは良いけど、まさかの恥女扱い。
思わずなんてこと言うんだと言いたくなるが、よく考えてみれば静謐の格好はエロいのは事実な訳で。
…………知らない人から見れば、この異常事態の最中に恥女の格好をした美少女がいると認識されても可笑しくないな。
もしくは、静謐のコスプレした頭が危ない美少女扱いだ。
「彼女は恥女ではなくて、英霊です」
「英霊? ……何を言ってるんだ、お前は?」
「それを説明する為には、吉川部長のスマホにFGOというアプリをダウンロードしてほしいんです」
さて、吉川部長にFGOのアプリをダウンロードしてほしいと頼むと、お前はこんな時に何を言ってるんだみたいな顔をされる。
予想はしてたけど、吉川部長はFGOをやったことがないようだし、普通に考えれば命が危ない時にスマホのアプリがどうのとか言われても意味がわからないよな。
「俺の考えが正しければ、FGOのアプリが部長を守ることになる筈です」
何でFGOのアプリをダウンロードさせようとしてるのかは、俺に静謐が来てくれたように、アプリをダウンロードすることによって部長のところにも英霊が来る可能性があるからだ。
これは、俺の予想でしかないが、もし的中すれば戦力が増える筈。
「…………真面目に、何を言ってるんだ?」
ですよねー。
この異常事態に、意味不明としか捉えられない言葉だからなー。
と、ここからどう説明しようかと悩みに悩もうとしたのだが。
「良くわからないが……意味は、あるんだな?」
最初は俺の言葉で訳わからん顔をしていたが、何かを感じたのかスマホを取り出しながら言うことに意味はあるかと確認してくる。
これは、もしかすると信じてくれたのか?
「お前の真偽は、後で聞く。FGOというアプリだったな?」
ぎこちなくだが、部長はスマホの画面を操作してFGOのアプリをダウンロードしてくれた。
ダウンロードした後、アイコンを触り起動させると俺の時と同じメニュー画面が表示されていた。
「開いたぞ。次は、何をすれば良い?」
部長に次のことを教えろと言われるが、俺と部長のメニュー表示の差異があることに気付き、俺は若干困ってしまう。
【メニュー】
ドール強化
装備
礼装・コマンドコード購入と強化
ドール解放
ステータス
現在のQP・マナプリズム・レアプリズムの所持量
バトルサポート
ヘルプ
英霊強化が、ドール強化になっていた。
これが意味することは一体、何なのだろうか?
「次は、ヘルプを押して説明を読んで下さい」
その答えは、ヘルプによる説明によって判明した。
1,ドール強化は、マスターの使役するドール達のステータスをある程度まで強化出来る。強化するにはQPが必要となる。
2,英霊を得るには、ドールの絆を10まで引き上げなければならない。
3,FGOのマスター同士が初めて出会えた時、ドール解放の使用が可能となる。
つまり、部長の場合は新規のマスターだから英霊を持てない……ということになる。
また、FGOのマスター同士が顔を合わせることが出来たのなら、と俺もスマホを取り出してメニューを開くとドール解放の機能が使えるようになっていた。
……試してみたいけど今は、ドール解放を試すのは俺じゃくて部長が先で良いよな。
「部長。ドール解放の中にある、アイコンを押して下さい」
「レオニダス、とかいう奴しかないが」
「それを押して下さい」
部長は俺の言う通りにやると、途端に部長の目の前に光が現れて、瞬きしている間に人の形となり……
「…………」
レオニダスが召喚された。
しかし、何も喋らず、動かず、ただ部長の前で石像のように立っているだけだった。