ヤンキーボーイ・ヤンキーガール   作:ytr

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序 ヤンキーボーイ・ヤンキーガール

これは私――樋口楓のお話だ。

頭のおかしい人たちに囲まれて、心のイカれた馬鹿な人たちの拘りに巻き込まれ、そして色んなモノに決着をつける物語。

完全に完璧な自分語り。それでもこの世界が好きな人たちに知ってほしいと私は強く思うから筆を執る。

演目は全五題。

序・樋口楓/三枝明那/久遠千歳/轟京子/剣持刀也 ヤンキーボーイ・ヤンキーガール

一・久遠千歳/童田明治 不死と獣の殺(あい)しかた

二・剣持刀也/葛葉/伏見ガク/叶 吸血鬼と狩者の許しかた

三・三枝明那/愛園愛美 ズワイガニの解(ほぐ)しかた

四・樋口楓/月ノ美兎/轟京子/シスタークレア/雨森小夜 楓と月の救いかた

 

まあ、その私はそんなに口も上手くないので、そこの所は非常に申し訳ないんですが…。

でろーんだけど、でろーんとはさせないよう、ゆるゆると綴っていこうと思う。

 

一章 ヤンキーボーイ・ヤンキーガール

 

 私立虹山寺高校(以下虹高)の入学式はつづがなく行われている。バーコード頭の校長が登壇して話している。これから頑張れなど何だの……。

 もちろん私――樋口楓の興味はゼロだ。友達が作れるかとかカッコいい先輩がいるとかも死ぬほどどうでもいい。

 私にはやらなければならないことがあるのだ。

 月ノ美兎。

 彼女を雨森の手から救い出す。

 早く、一刻も早く、一秒でも早く、親友に会いに行かなければいけない。トチ狂った彼女は、恐らくずっと自傷しながら私を憎んで憎んで殺したいに違いない。

 あの時のように全てを突き放すような目がいつだって私を捉えて離さない。

「それでは、新入生代表の樋口楓さん、挨拶を」

「はい」

 そのためにもこのアイサツは重要だ。全てはここから始まる。

 登壇し、マイクを取ると、私は敢えて不敵に笑った。

「新入生代表の樋口楓です。勉強は全然でしたが、VRが突出して点が良く、代表になってしました」

 VR――ヴァーチャルリアリティ。このヴァーチャル世界ではもはや常識となった力。そして深刻な社会問題になっているチカラ。

「うちのVRは『マビノギ』。植物の具現化(リアリティ化)と身体能力特A補正』

 その言葉に会場がざわめく。隣にいる校長も驚愕している。

 当然か。この世界にあるVRでも戦闘用に特化しうるモノは極めて稀だ。身体能力特A補正など、監察官が24時間張り付かせるか考えるレベルだし。

「でもって私には目的があります。隣のレジ高校にブッコミをかけます。魔女・雨森を潰す。一緒にブッコミをかけても良いぜって人は、手ぇあげてください」

 ざわめきが増した。囁き声が吃驚する声へとボリュームを増す。手は――上がった。しかしいずれも中指を突き立てて。

「そうでなくっちゃなあ――」

 と私は言葉を連ねて、『マビノギ』を開放。

「度胸は良いけど、口だけは勘弁してや? あの雨森を潰すって言ってるんや」

 身体能力特A補正を活かし、壇上から跳躍。ガン!と音がするのは、おそらく天井に頭が当たった音だろう。

「せめて――この私の『マビノギ』を止めてくれるくらいの実力は見せてくれへんかなあ!!」

 手にずしりとくる馴染み深い感触は赤紅の釘バット。落下する速度を力に変えて、体育館ごと倒壊させる勢いを込めて振り下ろす――。

 ぽにょんっ。

「んなっ――」

 間違いなく全力を込めた一撃はしかし、あまりにも異質な柔らかいゴムのような感触に跳ね返された。

 テニスボールのように跳ね返され再び宙に浮かぶ。これは、もしかして…。

「きゃーははは!! 楓ちゃん高校デビューってやつ!? マジ受けるんですけどー!!」

「京子先輩……!」

 驚きと、やりづらさと、少しの喜びが胸に灯った。

 轟京子先輩は自分と同じヤンキーでありかつてはクレア先輩と種高のツートップを張っていた武闘派だ。過去に叩きのめされたこともあるし、叩きのめしたこともある。

「あぁぁああ――覚えててくれたんだぁ。良いなあ、うれしいなあ」

 戦闘狂いの毛が中等部からあったがそれはどうやら健在らしい。うにゅうにゅと透明な粘液が彼女の周りで喜びを表現するように蠢いている。

 京子先輩の能力は『スライム』という。硬軟合わせたスライムを自在に操ることができ、特に耐衝撃性に優れている。私のようなパワー特化タイプの天敵とも言える相手。

「コロシアウのも久しぶりだねえ! 楽しいねえ、楽しくなるねえ!! さあ楓ちゃん! またぐっちゃぐちゃのどっろどろにヤリあおうよ……!!」

「京子先輩とは相性が悪いんでパス! どうせやるなら……こっちみたいなタイプ、やわ!!」

釘バットを振るう。真後ろへ。ギィンと硬い衝撃が全身を伝わる。

「あはは、気づかれちゃいましたか」

 好々爺――そんな印象を目の前の優男に抱いた。後ろから死角を突いて斬りかかってくる――その奇襲を気づかぬ振りをして逆に奇襲し返したのに、目の前の優男は焦り一つ見せない。

「僕のシャープネスでも斬れない釘バット……ああ、能力でリアリティ化した武器ですか。死角に感づいたのは……能力というよりかは第六感かな。うん、身体補正特Aですもんね。なるほど」

「説明ご苦労さん!!」

「あ、やば」

 優男は瞬時にその場から宙を蹴って離脱した。勘が良いのはお互い様――釘バットから伸びたツタが刀を捉える前に見事に逃げられてしまった。

「植物系かあ。珍しいVRが学校に二人も……事実は小説より奇なりとはよく言ったもので。そう思いませんか?三枝さん、久遠さん」

「確かーーに!」

「全然思わない」

 優男に返答した声は2つ。同意した男と反対した女。三枝と久遠といったか。

「――――はは」

 ぶるり、と肌が粟立ち。声が震えた。警戒。警報。力。圧倒的な。強い。強い。この二人は私よりも強い強いぞ――――!!

「おもしろい――やんけえええ!!!」

 マビノギで屋根から樹木を生成。根元が柔いが踏み台としては十分!

「ぶっ壊れろおおおおおぉおお!!!!」

 正真正銘手加減なしの乾坤一擲。音速の壁を突き破るようにして振り下ろした釘バットはしかし。

 あろうことか真正面から素手で受け止められた。

「なっ――」

 目が破れるくらい見開くのを自覚する。強いとはわかってはいたが、しかし、私の全力全開をこんなか細い女に 易々と受け止められるなんて――。

「はーっはっはっは!! うんうん元気なことは良いことだ!!」

「……はあ」

「釘バットを素手で受け止めている女――久遠だったか――は隣で斜め上のセリフをほざいている男――三枝に対して露骨な溜息をついた。

「くっ、そっ……」

 悪態をつきたいのは私も同じだ。対峙して分かったのだが、久遠は楓を敵と認識している。けだるい態度の中に、確固たる警戒の気配がある。

 しかし、この三枝にはそれがない。私に敵意も警戒も向けていない。まるで大人が小さな子供を見ているような――。

「樋口くんと言ったか。レジ高にぶっこむだって?あの魔窟に?何をしに?まさかピクニックにでも行くつもりかい?雨森の暇つぶしの1つにでもなるつもりかい?」

「違うッ!! うちは、うちは――」

 脳裏に過るのは親友の姿。かつては明るくおちゃめな性格で意味が分からない言動で私を困らせるのが好きだったその笑顔が好きだったその笑顔を奪ってしまった。すべては私のせいで。だから、

「美兎ちゃんに会いに行くんや! 月之美兎に! 雨森に捕らわれた――いや、うちの代わりにそうなってしまったから、だから――」

「ッ――三枝、このゴリラ女、ありえない私の『不死』を――」

 視界の端で久遠の表情がゆがむ。次の瞬間に久遠の手を払いのけて私の釘バッドは三枝の首を縊り飛ばす――直前で停止する。

「三枝………さん。あんたがこの学校のトップなんやろ?」

「ああ、そうだね」

 三枝は笑っている。大人の笑み。自分の小ささを自覚する。かまわない。

「お願いや。一生のお願いやから、この学校のヤンキーを連れて、私と一緒にレジ高へぶっこみかけてほしい」

「嫌だと言ったら?」

「一人でもレジ高へ行く。ただ虹高のもんやとは大いに喧伝させてもらうけどな」

「俺たちが何もしなくても雨森には目を付けられるぞ協力しろってことか」

 それは困った困った、なんて欠片も思ってない様子で肩を竦める三枝。

「でも良いよ。協力しよう。と言っても俺たち虹高のヤンキーボーイ・ヤンキーガールは全員で六名しかいないがね」

「三枝!!」

 反論するように怒声をあげたのは久遠だった。勝手に決めるな馬鹿殺すぞと目線が訴えてるが三枝はフル無視しして語り掛ける。

「まだ、もうちょっと、で解決しないこともあるんだよ久遠。俺たちももう三年、良いキリさ。良い機会だと言っていい。俺も、お前も。そろそろケリをつけて良いころだ。そう思わないか? 不死の久遠――いや、死にたがりの久遠」

「ッ――」

 鬼をも殺しそうな目で三枝をにらみつける。珍しく、三枝も真摯な目で久遠を見返していた。

「……まあ、言い訳にしかならないが、俺はこの樋口のぶっこみは神の意志なんだと思ってるんだ。俺も愛園さん と会わないといけないし、お前は童田だろ? 剣持は伏見、葛葉は叶、轟はクレア、そして樋口は噂の月之、ちょうど第六天と頭数は合ってる。それに樋口の実力はいま見た通り、俺たちに勝るとも劣らない」

「……」

「雨森のくそったれな舞台に風穴を開けてやろうぜ。なあ、想像しただけで面白いと思わないか?」

「……ふん。そのゴリラ女が雨森の舞台装置じゃないことを祈るわね」

 そういうと、久遠は渋々渋々渋々と言った感じで剣呑な雰囲気を霧散させた。

「樋口くん」

「は、はい」

「というわけだ。君の言う通り、虹高はレジ高にぶっこみをかける。――今から、すぐに」

「はい。え?」

「轟!!」

「あいあいさー!!」

 巨大なスライムが突如として体育館内に生まれた。触手が私を含め三枝久遠優男を捕まえて上に乗せる。そしてなんとスライムは地響きを立てながらブルドーザーのように動き始める。

「え?なに?今から?マジで!?」

「はーっはっはっはっは!! マジだよマジ! 善は急げっていうじゃないか!!」

 笑う三枝に呆然とするしかできない。他の面々は三枝のこの突飛さに慣れているのか、スマフォを弄って自分の世界に浸っていた。

「………………」

 まあ、取り合えず、私のやりたいことはできているわけで。良いんだけど。良いんだけど、さあ。

 私は何か釈然としないまま、ソファのような柔らかさのスライムに寝転がって、空を見上げた。ピクニック日和かと思うような麗らかな空。

 しかし私は何もわかっていなかった。否、分かるわけはないのだが、今となってはこう告げざるを得られない。

 思い返して筆を執っている今でも、私は震えてしまう。

 私たちがレジ高にぶっこみをかけて三十分。

 そんな僅かな時間の間に――久遠千歳が殺されるのだ。

 




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