ヤンキーボーイ・ヤンキーガール   作:ytr

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雨森ノ章 一 月と獣と魔女と

 

 やぁやぁ皆様ご機嫌麗しゅう!

 え?突然なんだって?樋口楓はどこ行ったって?

 残念残念。このパートはわたくし雨森小夜のモノでございます。

 いわゆる、そう、完全に完璧な自分語り。

 私――雨森小夜が樋口楓以下虹高の全員をぶっ殺しまして、私のユメを叶えるまでの小噺。

 一縷の希望もございませんが――ふふふ――ただただ悲痛な皆様の顔を見たいがゆえに、私は筆を執らせて頂きます。

 用件のみで恐縮でございますが、以後宜しくお願い申し上げます。

 

一 月と獣と魔女と

 

 私――雨森――は『魔女』と呼ばれているらしい。

 人を攫い、判断を狂わせ、甘言で落とし、心を壊す『最悪の魔女』。

「ひどいことを言う人もいたもんですねえ」

 ふぅっ、と磨いていた爪に吹きかける。紫色のネイル。リオンが大好きだった色。

 時間は夜。場所は叶のVRで作られたパンデニウム。お城チックな外装はリオンの趣味だったもの。

「魔女ではなくて聖女(ジャンヌダルク)と言ってほしいなあ。私の『泡沫幻夜』(うたかたげんや)は、みんなの願いを叶えているだけなのに」

 『泡沫幻夜』――雨森こと私のVRの名前。親友のリオンから受け取った限りなく特殊な異能。

 その能力は、望む願いを対価をもって叶えること。

 宝石が欲しいと願えば、その対価として自分の大切にしているものを失う。願いの大きさに比例して、対価も大きくなる。

 対価の内容は後から分かるが事前にはわからない。いわゆる神のみぞ知る、というやつ。

「どうですかね。魔女より聖女だと、そう思いませんか?月ノさん」

「魔女――私はすごくお似合いの表現だと思いますけど」

 別に悪魔でも良いですけど、と。十字架に鎖で貼り付けにされた月ノさんが穏やかじゃない目で吐き捨てる。

「いい加減、私を開放してくれませんかねえ。いったい何の価値があるか知らないですが、VRを持たない私に構うよりもっとするべきことがあるでしょ」

「ひーどーい。雨森はただ貴方とお話ししてお友達になりたいだけですよう。お茶して映画見てそれからちょっと近い距離間にドギマギして……きゃー!」

「死ね」

「あなたに私の願いを叶えて欲しいんですよ」

「は?」

「後天性VR取得計画――」

 月ノさんの顔が強張る。なぜそれを知っているんだという顔。ああ良い顔をする――ぞくり、と快感が身をくすぐる。

「本来は先天性であるVR。例外はなく、後からの変更もできないソレを、後天的に弄れる様にしようとする計画。孤児がその実験体は選別された。過程でほとんどの被験者が死んだ」

「――黙れッ!!」

「あはっ――」

 親の仇でも見るような目に、私は――雨森小夜は笑ってしまう。

 サガなのだ。たまらなく気持ちいいのだ。剥き出しになったリアルの感情に触れるのは、たまらなく至福。本なんかじゃ得られないリアルがそこにある。

 ああ、もっと、もっと怒って罵倒してリアルな感情を見せて――。

『ォオオオオオオオオオオ――――!!!!!!!』

「きゃっ!?」

 突如パンデニウムを震わせる獣声に月ノさんが怯え驚いた声をあげる。これは――、

「童田さん、ですか」

 いや、正確には童田さんだったものとでも言うべきか。

「ふふ、ふふふふ、ふふふふふふふふ…………」

 あの咆哮はついに来るべき時が来たという合図――ああ、嬉しいんだね童田さん。

 私の『泡沫幻夜』で得た不死の力で大切なものを失って、もう理性も記憶もなくて、親友だった久遠さんの判別もつかないのに、それでも――。

「絆ってやつかな? おそらく久遠さんがこちらへ向かってきてるんですね。分かるんですね童田さん」

 ああ、美しい――彼女の久遠さんに対する想いは、私のVRを上回っているのだ。

「久遠さんが来てるということは――ねえ、月ノさん、彼女も来てますよ。楓さん――樋口楓さんがね」

「――」

 その時の月ノさんは複雑な顔をしていた。うれしくもあり、悲しくもあり、後悔もあり、自分を卑下しているような顔。まあ、無理もないでしょう。

「そんな顔をしないでください」

 私は自然を微笑みを浮かべていた。

「失敗作の貴方でも、私にとっては立派な道具ですよ?」

「ッ――雨森ィ!!」

「あははははっ――!!」

 踵を返す。

 さあ、終わりの始まりだ。すべてが終わったあと、私の『泡沫幻夜』は月ノ美兎により完成に至る。そして、

「待っててね、リオン……」

 私は親友を蘇生させる。

 神に逆らって、理を超越する。




設定が膨らんできましたがまだ回収圏内。
事情により樋口の章と雨森の章を交互にやっていきます。
次は久遠VS童田です。

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