関西弁ちゃん珍道中番外編   作:John.Doe

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ep.2 思い返せばあの時が始まりだったのね

 

この世界、この王国に、ダンジョンと冒険者を中心とした町が築かれて30年ほどが過ぎた。

未だダンジョンを踏破した者も、深さを突き止めた者もおらず、ダンジョンに潜るものは皆一様に溢れんばかりの財宝に夢を抱いていた。

そんな町で過ごす者達に、財宝以外の話題が訪れた。これはそんな話題を、彼らの世界で少しだけ覗き見する物語────

 

 

目の前に差し出された申請書に目を通す。予定参加者、等級に問題なし。目標階層にも問題なし。想定日数も、この階層を目指すならこんなもの。救援申請日数も、まあこの等級と目標階層ならこんなものね。

 

「はい。問題ありません。お気をつけて」

確認印を押して、ダンジョンへ向かう彼らを見送ったあと、処理した申請書を一日目の棚へ滑らせる。

カウンターの下には、経過した日付ごとに分けられた棚が並んでいる。今日が終われば、中の申請書が一日分隣へずらされていく。

 

ダンジョンに潜る冒険者達は、一度潜れば二、三日戻ってこないことはザラにある。目指す階層や目的によっては、一週間程になることだって少なくない。

だからこうして、予定滞在日数とその日付を過ぎたら救援を送る日付を申請書にまとめさせて、冒険者の生還率を高める仕組みが組まれている。

 

まあ、他にも大小様々に目的があって申請書を取り扱うが、要はこれらの管理が私達、ギルドの出発窓口担当者の仕事の一つだ。

 

 

「やあリズ。今日は少し賑やかなようだね。あ、これ我々の申請書。よろしく」

「ええ、多少出発する人が多いかしら。少しお待ちを」

新たに出発予定の冒険者がやってきて、申請書を受け取り確認を始める。

 

そうやって冒険者を見送り、帰って来た冒険者の申請書を帰還済の棚に移し、合間合間に新しい申請書の準備や筆記具のチェック(これを欠かすと本当にいつの間にかすっからかんになるのだ)を行う。私の勤務日は、こうやって一日が過ぎていくのだ。

 

 

「そういえば、あいつらそろそろ帰ってくる日だっけ。無事終われば良いけど」

ふと思い出したのは、先日昇級試験に出発したパーティの一つだ。

アーティ、もといアーサーとエヴァ。それから、何て言ったっけ……最近冒険者になった新人君。この三人によるパーティが、昇級試験に挑んでいる。

 

アーティとエヴァは私的な交友関係もある二人だ。だから、仕事的にも個人的にも気にはなる。

何よりそんな二人と(一時的だが)パーティを組んだ新人君が、私の心配の種だ。

 

 

常在戦場、なんて冒険者間で呼ばれるその新人君は、ギルドの職員である私からしても少し腰の引ける感覚を覚える。

申請書をチェックしているときも見送りや帰還時の処理のときも、一切読めない表情で必要最低限のことしか喋らない。

 

怖い、というのが私の率直な感想だし、きっと共感してくれる人も多いだろう。

そんな彼を連れてのダンジョンアタックを行う友人達。彼が悪人かどうか分からないにしても、そして二人の実力をよく知ってたとしても、不安を拭いきれないのだ。

 

 

 

 

 

 

オウカとその相棒がパーティを組んだと知った、その少し前に時は遡る。

 

私達は後の相棒と呼ばれることになる男を連れてダンジョンにいた。私とアーティは第三等級の。そして「彼」にとっては第五等級の昇格試験だ。

つまるところ、私達にとっては新人を引率した状態で低級階層を安全に突破できるかを。また「彼」にとっては低級階層を踏破できるだけの力があるかを、それぞれ試されている。

 

冒険者にとっての力とは、戦闘力、観察眼、罠の発見と対処、道の記憶など多岐に渡る。

これらを統合的に判断し、一定の力量毎に分けたものが冒険者等級として与えられる。

 

 

「さて。僕達は基本的に後ろから着いていって、危ないときに割って入る形になる」

「君には目標階層へ向かい、目的の獲物を倒し、そして帰還するまでを自分なりのやりかたでやってもらう」

ここまでは問題ないな、と問いかけると「彼」はこくりと頷いた。

 

もっとも、これは改めての確認にすぎない。目的の獲物やそれがいると推測される場所は、ダンジョンに入る前に予め打ち合わせてある。

今回は低級階層に姿を見せる中では登竜門の一つである、ロックゴーレムが目的の獲物だ。

 

 

単純な力押しでは討伐が難しく、擬態している為発見にも工夫がいる。その上道中では当然罠や他のモンスターが待ち受ける。

だが冒険者にとって基本的なスキルの多くを試される相手であり、ロックゴーレムはうってつけのモンスターなのだ。

 

 

ダンジョンの内部は安全な道というものは存在しないと言って良い。例えばモンスターを掃討したとしても、あるいは壁や床をブチ抜いたとしても。しばらくすると何事もなかったかのようにモンスターが湧き壁や床は元通りになる。

どころか、その階層そのものが姿を変えたなんて話もあり、ダンジョンは地面に埋められた巨大なゴーレムなのではとする説まである始末だ。

 

前を歩く「彼」はそんなダンジョンを恐れる素振りも見せない。曲がり角で不意打ちを受けないよう確認をしたり、あからさまな罠は一応避けようとしたりはしているのだが。

 

 

「おっと、そのまま行くと落とし穴だ!」

 

「そこの床の色が違うのが見えるか? 面倒を起こしたくないなら踏むなよ」

 

「待て待て、その紐は無闇に切るなよ!?」

 

 

 

……ずっとこんな調子だ。モンスターへの対処は問題ない。剣の腕は悪くないようで、剣術としては粗いが剣速と威力はアーティに並ぶやもしれないと思う程だ。私と比しても、剣速は兎も角威力は彼の方が上だろう。

しかし、罠への対処が稚拙どころではない。猪突猛進と言うべきか、あるいは好奇心によるものか……兎も角、発見も解除も素人同然かそれ以下だ。

 

「おい、彼は一応第六等級で間違いないのだろう?」

「そのはずだけどね。今までよく生き残ってきたものだよ」

九割近い罠に引っ掛かりかける「彼」を見ながら、私はアーティと共に頭を抱えていた。まるで子供の引率をしている気分だ。

 

 

罠への対処は児戯かと思わせるものの、モンスターとの戦闘では別人かと思う。道中、ダンジョンが産み出したのかダンジョンに住み着いているのか、いつも通りながら様々な低級のモンスターと遭遇した。

 

ゴブリンやウルフドッグなどの数で押してくるモンスター。レッサーオーガやジャイアントスネークなどの単体でそれなりの力をもつモンスター。

それらのほとんどを「彼」は、店で安く売られているものであろうバスターソードの一太刀で切り捨てていく。

 

今もまた、テラーバードの啄みをかわすこともなく首を撥ねたところだ。刀身の血を振り払い、体内で生成される魔石が落ちたのを回収する。

何てことはないような顔をしているが、テラーバードの機敏さを考えればとても第五等級に昇格しようかという冒険者のやれることではない。

 

「何というか……随分と極端な才能のようだね」

アーティの率直な感想に、私は黙って頷く以外のリアクションが取れなかった。

 

このまま行けば、少なくとも罠は我々の助言込みであれば問題はないし、ゴーレムとの戦闘は二、三回彼に通らない剣を味わって貰った後に補助魔法等の使い道を見てもらえばそれでいい。道の記憶も、まあ罠への対処と違ってきちんと覚えているようだし問題はないだろう。

 

つまるところ我々全員が昇格にこぎ着けることができる……のだが。

 

「アーティ。私は少し悩んでいる」

「うーん。同感だね……いや、正確には一人で全部やる必要はないし、僕らの助言を受けたときにそれは実感しているようだけど」

 

そう。冒険者はソロをあえて選ぶわけでもなければ、何もかもを一人でこなす必要はない。つまり「彼」の場合罠の知識に問題がない者を含んだパーティを組めばいいだけの話だ。しかし……

 

 

「一言も喋ってくれないしなぁ」

新たに襲ってきたダンジョンワームを両断する「彼」を見ながら、私の隣でアーティが頭を掻いた。

私としても「彼」の冒険者としての問題点の根本はそこにあると思っている。

 

とにかく彼は喋らない。そして表情にも出さないのだ。ついでに言えば、常在戦場なんて呼ばれるくらいにダンジョンに潜りっぱなしの「彼」は、私達を含めて「彼」のことを知る機会がない。

だからパーティを組んだところを見たことがないし、「彼」から組もうとするところも見たことがない。

 

つまり「彼」はソロを選んでいるようなものだ。そして罠の知識の無さ。一人で全てこなす必要があるソロの冒険者としては決定的に才能が足りないし、パーティを組むこともできていない。

私達は、本格的にダンジョンに挑むことになる第五等級に「彼」を昇格させるべきなのか悩んでいた。

 

 

 

 

 

僕らが「彼」を昇格させるべきなのか悩んでいる間にも、ダンジョンアタックは進んでいる。

正直に言えば、引率すると言っておきながら「彼」を先頭に立たせているのには、僕らが「彼」を恐れていることにもよる。

 

「彼」の冒険者としての力量を見極める意味では決して間違えている選択ではないのだろうが、僕らの試験は新人込みのパーティで無事に帰還することで、新人の育成や見極めじゃない。

だから、むしろ僕かエヴァが先頭に立ち、殿を残った方が務めるのが王道だ。

 

だが僕は、無口無表情、戦狂いの気がある「彼」に背中を向けることを良しと思えなかった。

卑怯だ、失礼だ、とは自分でも思うけれど、命がかかってくるとなればそうも言っていられない。

 

 

しかしダンジョンを進むにつれ、僕は(恐らくはエヴァも)前を進む「彼」への認識を改めつつあった。

恐らく……あくまで恐らくだが「彼」は、何というか無邪気かつ人見知りなのだ、と思う。自己紹介をした時から今まで、ある意味当然なのだが「彼」から僕達への害意は感じなかった。

 

罠への対処の甘さの中に、僕は「彼」はその罠を踏んだときに起こることへの興味があるようにも見える。あるいは、それを乗り越えんとする意思を感じた。低級階層には致命的な罠が少ないからなのだろうか。

そして「彼」から度々、こちらへ何事か声をかけようとしている気配もあった……気がする。大抵罠が発動したりモンスターが襲ってきたりしてそれが実行に移されることはなかったが、もしかすると、と僕は思う。

 

 

もしかすると「彼」は、とんでもないシャイなんじゃないか、と。

 

 

 

僕の「彼」への認識が揺らぎ始めた途端に、僕の中の「彼」への印象はみるみる変わっていった。僕が抱いていた「彼」へのもしかしたら? がどんどんと確信へ変わっていくのを感じる。

 

ああ。あえて断言しよう。少なくとも「彼」は、悪人ではない。シャイだ。恐らくとてつもない程のシャイボーイだ。

いやだって何度も何度もチラチラと何かを言いたそうな視線をこっちに向けるんだぞ!? それがシャイじゃなければ何だって言うんだい!?

 

 

 

……おほん。まあそんなわけで、僕の「彼」への印象は今は悪いものじゃなくなったと思う。エヴァもそうだと嬉しいけど……ただそう確信したら確信したで、やはり「彼」がパーティを組めないことへの心配が募る。

 

僕達のパーティに迎え入れようにも、等級に二つも差があると非常にやりにくいという現実がある。入れる階層への制限や収入確保の厳しさ等、足並みが揃わないことによる影響は大きい。

だから僕は「彼」が自分のパーティを組めるよう手助けする方法を取りたいと、今は心から思っている。

 

 

 

さて。そんなことを考えながら進んできたが、いよいよ目的のロックゴーレムが潜む場所が近くなってきた。

僕達は「彼」にその旨を伝え、三人そろって周囲への警戒を強くする。

 

ゴーレム種の擬態は、よく注意して見れば見破ることはさほど難しくないことがほとんどだ。上級種の場合は非常に周囲に溶け込む個体も珍しくないが、ロックゴーレムはお粗末なもの。気を抜いていなければ質感の違う岩が周りから浮いているのだ。

 

 

「よし、あれだな。まずは奴に刺激を与え、地面から飛び出させる」

「そうしたら……うん、そうだね、まずは普通に切りつけてみるといい」

 

僕達は剣が通らないことを実感した後のために、補助の準備にはいる。

ロックゴーレムは最低級とも言えるゴーレムだが、体が岩で出来ている以上普通の刃物は通さない。だから、魔法や道具で攻撃を徹せる状態を作るか、或いは打撃や攻撃魔法による手段をとるといった対処がいる。

 

まずは僕達の目論見通り「彼」の斬撃が弾かれるのを見届けつつ────

 

 

「え……?」

不気味なほど気味の良い音と共に、バスターソードによる斬撃がロックゴーレムの巨大な脚を斬り飛ばした。

倒れこむ岩の巨人を更なる斬撃が襲い、胴体部から頭部が切り離された。

 

「……これは夢か?」

開いた口が塞がらない、とはこのことか。確かに僕は、まずは普通に切りつけてみるといいと言った。しかしそれは決して、奴には斬撃が有効だという意味ではない。

 

では、目の前で起きたのはどういう出来事だ。魔法を使った気配はない。道具だって使う暇もなくバスターソードを振るっていた。

 

 

つまり「彼」は。ただの店売りの剣による一撃のみで、岩を叩き斬ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい。無事で何より」

やはり今日に帰って来たか。そんな風に思いながら、アーティらを迎えた。

「ああ、うん。ただいま」

「……どうかした?」

どこか心ここにあらずといった状態よ、貴方。そんな意味合いを含めて彼に尋ねた。

 

「うーん。いや何、思ったより「彼」が大物だったというだけさ……」

ふぅん、なんて素っ気ない返事を思わず返してしまった。アーティの言う「彼」とは、まあ間違いなく連れていった新人君のことだろう。

その評にどんな意味が含まれているのかは分からないが、それは今度ゆっくり聞き出せばいいだろう。そんな風に考えて、帰還処理を終えたことを伝えるとアーティは疲れを隠さないままエヴァの待つテーブルへフラフラと歩いていった。

 

あれは相当予想外のことがあったのね。なんて、私は思っていたけれど……まさか「相棒君」がオウカちゃんとあそこまで酒場を賑わいを振り撒く存在になるなんて、このときの私には想像もつかないのだった……

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