お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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R15の魅せどころ
サブタイが全て



メ ス 堕 ち

 ハーレムぶっ壊してやるー、と意気込んでから一日が経過。現在俺はコンビニでお昼ご飯を買っている。

 ちなみに家も無ければ身内もいないので寝床は公園でした。寒かった……。

 

 昨日はこっそり校内に侵入して主役勢を観察していたけれど、あれ以上のメインキャラは出てこなかった。強いて言えば海夜のクラス担任がムキムキなマッチョだったくらいか。

 

 

「562円になります~」

 

「……」

 

「ちょうどお預かりします~。レシートのお返しでぃ~。あーとーざいやした(ありがとうございました)~」

 

 

 コンビニでの買い物は会話を必要としないので無口無表情キャラを強制されている俺としてはかなりありがたい。

 

 まぁずっとコンビニ飯続きだと健康に悪いのと単純に出費が重なるので、頃合いを見て主人公かヒロイン候補の誰かの家にでも転がり込みたいところだ。

 

 最初に支給されたお金が少なかったのもあってそろそろ財布が底をついてしまう。この世界で飲まず食わずの状態を続けても死にはしないのだろうが、単純に空腹の感覚が辛いので食事は必須だ。

 

 

 クッソ適当なバイトによる会計を済ませ朝食を買い込んだ俺はコンビニを後にした。

 

 外は肌寒い寒風が吹く曇天の街。お昼どきという事もあり都会の街中は大賑わいだ。そういえば今日は土曜日か。

 

「……寒い」

 

 ぼそりと呟きながら両手をパーカーのポケットに突っ込んだ。

 

 俺の格好は薄手のシャツにパーカーとプリーツスカートと、控えめに言っても冬の屋外でするような恰好ではない。ぶっちゃけクソ寒い。

 

 キョロキョロと首を動かして周囲を見回すと、近くにデパートを見つけた。

 

 小走りでそこへ向かいデパート内にあるフードコートの席に腰を下ろす。店内も暖かいので、お昼はここで食べよう。

 

 

 

「うーん……」

 

 おにぎりを片手に持ちながらスマホの画面を操作する。そうして画面に表示されたのは与えられたミッションの数々だ。

 

 

 まず、ミッションにはそれぞれポイントがある。

 

 そして俺がこのゲームを終了させるために必要なポイントは全部で15だ。

 

 画面には内容が未開放のミッションのリストがずらりと並んでおり、今の所ミッション内容が解放されているのは『主人公のメインヒロインになれ』だけだ。

 

 このミッションで得られるポイントは9。他が軒並み1か2なのに対してメインヒロインになった時のポイントは別格だ。

 

 この世界を攻略するうえでメインヒロインになることは絶対条件だと考えていい。

 

 

「……今日、なにしてる……のかな」

 

 気になるのは主人公の動向だ。まずは彼の行動を把握して俺から自分の都合のいいように海夜と出会わなければいけない。

 

 

 俺が他のヒロイン候補たちと違う点はまだ主人公と面識が無いというところ。

 

 つまり未だ主人公からの好感度がゼロということなのだが、裏を返せばこれはチャンスでもある。

 

 他のヒロインたちは全員が学生で主人公との距離が近い。

 しかし俺は学生でもなければ、海夜蓮斗との距離も遠い。

 

 

 ここで俺が他のヒロインたちとは一線を画す登場をすることで、海夜から見て俺は『他とは明らかに違う特別なヒロイン』という印象を与えつつ接点を持つことが出来る。

 

 学生ヒロインに慣れた頃に彼女らとは全く違う『謎の少女』として彼に認識されれば、海夜蓮斗にとって俺は彼女ら以上に特殊な存在として確立されるはず。

 

 

 いわば後出しじゃんけんに近い。

 人間は高確率で最後に与えられた情報に強く関心を示す。そこを狙いに行くわけだ。

 

 これが俺の唯一の強み。

 まぁ登場が遅すぎるとヒロイン候補にすらなれないからタイミングはシビアだが。

 

 

 

「ごちそうさま……でした」

 

 食事を終えゴミ箱にレジ袋ごと捨ててから立ち上がった。

 

 そしてデパートを後にして、再び街へ繰り出す。

 目指すは昨日尾行して突き止めた主人公の家だ。

 

 

「……どうしよう」

 

 とはいったものの、どういった登場をするのかはまだ決めかねている。

 

 共通ルートがまだ序盤ならばミステリアスな雰囲気を出しながらちょこっと顔を見せるだけでも良かった。

 

 しかし今はもう序盤の最後辺りに近い。

 ここで俺がやらなければいけないのは、顔見せと海夜とのある程度の接触だ。

 

「困った……」

 

 つい弱々しい声が漏れ出てしまう。

 いろいろと意気込んだのはいいが肝心のアイデアが浮かんでこない。

 

 

 とりあえず家に突撃でもするか──

 

 

 

 そう、考えた時だった。

 

 

 

 

「うわああぁあっ!!」

 

「助けてええぇ!!」

 

 

 

 

「……えっ」

 

 街から住宅街に差し掛かった瞬間、前からたくさんの人々が悲鳴を上げながら逃げてきたのだ。

 突然のことで反応ができず逃げゆく男性の肩にぶつかり、尻餅をついてしまった。

 

「いたっ……」

 

 そんな状況でも小さな声しか出せない銀髪少女。元の俺だったら痛がって大袈裟に声を挙げたかもしれない。

 

 

 ……なっ、なに。

 なにごと?

 

「怪人よぉ!! みんな早く逃げて!」

 

「けっ、警察に通報しなきゃ!!」

 

 

 

 はい、怪人。

 

 

 ……え、怪人?

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

「おぉっほっほっほ!! 素晴らしい力! まるで神様になった気分よぉ!!」

 

 住宅街の一角で汚い高笑いをしているのは、SMプレイとかで使いそうなボンデージ衣装に身を包んだムキムキの男だ。……ドンキで売ってそうだな、あれ。

 

 

 簡単に状況を説明すると、悪の組織に改造されたオカマ怪人が街で暴れている。うん、とっても分かりやすい。

 

 あの女王様コスの男をスマホでキャラ分析してみた結果、この世界の状況がうっすらと見えてきた。

 

 

 どうやらあのオカマ怪人を生み出したのは、リア(おれ)が逃げてきた悪の組織と同一らしい。

 そんでもってその悪の組織とやらはこの世界ではそこそこ有名……とのことだ。

 

 要するにこの世界は無辜の人々を傷つける悪の組織は実際に存在するものの、ヒーロー番組に出てくるような正義の味方はいないらしい。

 

 

 つまりああいった『悪いやつ』をやっつけるのが、海夜蓮斗たち主役勢のお仕事なのだろう。

 海夜の設定に書いてあった『とあること』というのはおそらくこれのことだ。

 

 頻繁に敵が現れるのでそれを倒したりするのが忙しい、ということか。

 

 

 ……んー、これって能力バトル? ヒーローものじゃない?

 

「アタシの『淫紋を付与した相手を無条件で発情させる能力』と『謎のビームが発射できる能力』があれば誰にも負けないわぁ!!」

 

 あ、能力バトルだった! ご丁寧に能力の解説をどうもありがとう!

 

 

 にしてもあの敵キャラが濃い。

 まぁエロゲーだし攻略対象じゃない敵キャラを女にする必要はないのかも。

 

 ちなみに俺は今電柱の裏に隠れて様子を見ている。無能力だから戦えないしまずは様子見だ。

 

 

 指先から謎のビームを発射して暴れまわっているオネェの近くには、十数人の人達が取り巻きのように集まっている。

 

 

 ビームで周囲の建物が燃やされて発生した火煙が立ち込めているので、彼らの姿はハッキリとは見えない。

 

 しかしながら彼らは全員、その場で乱交パーティという名の地獄を繰り広げていた。

 

 前も後ろも、男も女も関係ない。耳を劈く喘ぎ声がこちらまで聞こえてくる。

 

 

 火煙の中に浮かぶシルエットとこっちまで聞こえてくる生々しい声が、否が応でも彼らの行為が如何なるものかを理解させてくるのだ。

 正直見るに堪えないので目を逸らしたいところである。

 

「……こわ」

 

 これが発情させる能力か、恐ろしいぜ……!

 

 このエロゲーはストーリーが重厚な作品とかではなくて、きっとノリで突き進んでいく軽い作風なのだろう。謎のビームとか本当に謎すぎて謎だし。

 

 

 

「……んっ?」

 

 しばらく観察を続けていると、ムキムキのオカマ怪人の近くで座り込んでいる制服姿の少女を発見した。

 

 それにはあのオカマも気がついたらしく、気味悪いモデル歩きをしながら彼女の方へと向かっている。

 

「あらァん、可愛い子! あなた、どうしたのかしら?」

 

「ひっ……、こっ、来ないでぇ……!」

 

「ひどいわねェ、心配してあげてるのに。……もしかしてアナタ、逃げる連中に巻き込まれて転んじゃったのかしら。女子高生を置いて逃げるなんて、薄情な奴らね!」

 

 体をくねらせながら「ぷんぷん!」と露骨にかわいいアピールをする、強面のおっさん。

 

 

 元を辿ればお前のせいだろ、という文句を飲み込みスマホのカメラを少女へ向けた。

 明らかにイベントくさいしあの少女も重要なキャラの一人かもしれない。

 

「どれどれ……」

 

 読み込み完了の下にある表示ボタンをタップし、画面に彼女の情報を一括開示させた。

 

 

【氏名:海夜小春(こはる) 能力:無し 役割:主人公の妹】

 

 

「……まじで」

 

 声音的には落ち着いているものの、心の中では心底驚いている。……えっ、妹?

 

 

 あー、いや、確かに海夜蓮斗の設定に『一つ下の妹がいる』ってあったな。

 彼女が着ているのは露恵学園の制服だ。ということは昨日俺が見逃した重要人物の一人ってわけか。

 

 だとしても今の俺にはどうしようもない。能力は無いし体も小さい。

 どう考えてもあの筋肉もりもりマッチョマンの変態に勝てる道理なんて一ミリも無いし。

 

 

 ゲームの中とはいえ、あんな女の子ひとり助けられないのは悔しい。

 そんな風に歯軋りしていると唐突にスマホが震えた。

 

「……なんだろう」

 

 画面に『ミッション解放』の文字が表示されている。

 

 ほどなくしてスマホにまた別の文字列が浮かび上がってきた。

 

 

 

 

 

【強制二択】

 

 

【海夜小春を見捨てる(ポイント-1)】

 

【海夜小春を助けて胸を少し触った後、頬にキスをする(ポイント+1)】

 

 

 

 

 

【※一分以内に選択しなかった場合、もしくは選択した行動を取らなかった場合は、残機が一つ失われます】

 

 

 

 

 

 

「……えっ」

 

 

 ───なんだこれ!?

 

 

 はい? え、なに、二択? えーと……見捨てるかもしくは助けてセクハラしろって?

 

「な、なに……これ」

 

 そんな引き気味の声が出てもおかしくないくらいにはスマホに表示されている指示がふざけすぎている。

 よく見れば画面の右下で数字がどんどん減っていっている。

 

 

 これは……あれか! 選択肢ってやつか!?

 

 え、待ってよ。俺主人公じゃないのに選択肢を強要されんの……?

 てか残機が減るのおかしいだろ!? 事前の説明にこんなのなかったんだが!

 

 

【残り30秒です】

 

 

 唐突に機械音声がスマホから発された。

 

 え、早くね!? 待って、ちょっと待ってくれよ。もう選ばないと駄目なの……!?

 

 

 残機が減るってことはこんなの絶対選ばないといけないやつだ。

 状況的にはあの子を見捨てて逃げるしかないんだろうけど、でもそれをするとポイントがマイナスになっちまう。

 

 それってゼロを下回るってことなのか? そうなると最終的に必要になるポイントは16に増える……?

 

 

【残り5秒です】

 

 待ってまって1分てこんなに短かったっけ!?

 

【4、3、2──】

 

 だあぁぁ!! わかったわかったよもう! 

 選べばいいんだろ! 選べば!!

 

「し、下っ……」

 

 海夜小春を助けて少し胸をさわって頬にキスもする、とかいう頭の悪い文字列をタップした。

 瞬間、画面右下のカウントが1で動きを止める。

 

「ほっ……」

 

 言葉通りホッとした。一応スマホの画面を見てみれば【残機×3】とある。よかったぁ……。

 

 

【5分以内にミッションを達成してください】

 

「ご、ふん……?」

 

 お前厳しすぎない? 5分以内にあのマッチョおねぇから逃げてセクハラしろと?

 

【カウントを開始します 報告:先払いでポイントが1追加されました 是非ショップをご利用ください】

 

 あ、はい、もう始まるのね……。 

 

 

 ていうか……なんだ、それ。ショップ? 

 

 よく見ればスマホ画面の左上に『ショップ入り口』てアイコンがある。

 試しにそこを押してみると画面に大量のリストと写真が表示された。

 

 写真は銃、バイクや薬など様々で、その隣に交換ポイントと書かれた表がある。

 どれも大体はポイント2か3以上で今の俺には購入できない。

 

 

 なんだこのシステム。

 クリアをするためにはポイントを貯めなきゃいけないのに、状況を打破するアイテムの交換にはそのポイントが必要って……こんなとこまでゲーム染みてやがる。

 

 

 普通なら使うわけがない。

 でもこのままだとあのオカマ怪人に対して勝ち目は無い。

 

 ……ぐぬぬ、誘導されてるみたいで癪だけどここは頼る他に道はない。

 

 

 前を見てみたらオカマが小春ちゃんに手を出す寸前だし迷ってる場合じゃねぇ!

 

「いち……1で交換……!」

 

 焦りながらリストをスクロールしまくり、交換ポイントが1で済むアイテムを探していく。

 すると一つだけポイントが1で足りるアイテムを発見した。

 

 名前はレーザー銃。こんな強そうなのポイント1で交換していい代物なのか?

 

 

「……と、とにかくっ」

 

 今はそんな事考えてる場合じゃない。

 購入ボタンをタップし、右上に表示されていたポイントが減るのを確認する。

 

 すると+目の前にダンボール箱が出現した。

 急いで開封してみればそこには子供が遊ぶおもちゃの様なデザインの銃が。

 

 

 

「よし……」

 

 それを手に取りすぐさま電柱から走り出した。

 

 

 目と鼻の先には今にも小春ちゃんに向かって指先からレーザーを放たんとするオカマがいる。

 

「うふっ、直接人にレーザーを当てたことはないし、アナタで試させてもらおうかしらぁン!?」

 

「ひぃ……っ!」

 

 恐ろしい気迫で迫ってくるマッチョ怪人を前にして、両手で頭を抱えながら涙目で怯える小春ちゃん。

 

 

 ──うおぉぉ残機減らさないためにも助けるぞ!

 

 

「これでっ……」

 

 レーザー銃を構え、オカマの横顔に狙いを定める。

 

「んっ?」

 

 その瞬間オカマがこちらに気がついた。

 

 くっそ今しかねぇ!

 

 

「……えいっ」

 

 

 銃のトリガーを勢いよく引いた。

 

 すると一瞬銃が浮動し、銃口から光の粒子が束となってオカマに向けて発射された。

 銃の勢いが強すぎて後ろに尻餅をついてしまったがレーザーは確かにオカマに向かって伸びている。

 

 

「なっ──いたァい!?」

 

 高速で射出されたレーザーは見事にオカマの顔面に直撃。

 その瞬間小さめの爆発が生じ、オカマはその勢いで軽く横に吹っ飛んだ。

 

「顔が! 顔が熱い!! まるで好きな人の前にいるときみたい! まさかこれは恋!?」

 

「……」

 

 オカマが地面でのた打ち回りながら喚いている隙に、俺は銃をポケットにしまいすぐさま小春ちゃんのもとへ駆け寄った。

 

 

「う、ん……」

 

 傍まで来ると小春ちゃんがうなされるように眠っていることが分かった。

 どうやらオカマの気迫に気圧され気絶してしまったらしい。

 

 

 とりあえず彼女を避難させないと。

 

「お、おも……」 

 

 小春ちゃんの両脇に手を刺し込んで引きずってみたが困ったことに彼女が重くてあまり動かせない。

 これは彼女の体重が重いというより、単純に俺が非力なのだ。

 

 俺の体も小学生ほど小さいわけではないのだが、だからといって大きくもない。

 

 成長期のちょっと手前でいわば中学生サイズの体だ。比較的体が成熟している小春ちゃんを運ぶには少々荷が重い。

 

【残り2分です】

 

 あーもう、せっかちだなお前!

 

 

 ───うぅ、こう言ってはなんだけど小春ちゃんが眠っている今がチャンスか……?

 

 

 セクハラのタイミングとしてはオカマが怯んでて誰も見ていないこの状況しかない。

 

 今なら胸を触っても頬にキスしてもバレないし、なによりもう時間が少ないんだ。

 どうせこのまま引きずっても遠くには逃げられないし今は残機の確保を優先しないと。

 

 

 やるしかない、ごめんなさい。今回だけ、ちょっとだけだから……!

 

「……し、しつれい」

 

 一旦その場に座り込み自分の方に彼女の体重を全て預けた。

 そして両脇を掴んでいた手をそーっと、恐る恐る小春ちゃんの結構大きい胸に向かって伸ばしていく。

 

 ……この世界のメインキャラ、軒並み巨乳しかいないの何なんだ。俺へのあてつけか?

 

 

 ちっぱいだって価値はあるんだぞ、という意味不明な思考を一旦脳の隅に追いやり両手の指先で制服の上から小春ちゃんの胸に触れた。

 

「……う、うわ」

 

 軽く掌で触れた瞬間、指先に温かな感触が伝わってきた。

 そのまま柔らかい肉の中に指が沈んでいき程よい反発感が手を包み込んだ。

 

 

 エロゲーの制服って妙に生地が薄いよね、なんて意見もどこかで見た気がしたが俺は今それを身を以て理解しているところである。

 

 

 確かになんだか薄い。普通の制服のブレザーならこんなにハッキリと胸の感触が伝わってくることはないだろう。この世界のブレザーはまるでワイシャツ並みの薄さだ。先日のヒロイン連中のバストの形がしっかりと制服を着ているにも拘らずピッチリと浮き上がっていた理由も、これなら頷ける。

 

 まるでシャツ一枚しか間にないかのように鮮明な柔らかさと温かみを指先で感じることが出来る。

 温かい水風船を掌で転がしているような心地よい感触が── 

 

 

「──はっ」

 

 ななななに冷静に分析してんだ俺!? 触るのは少しでいいんだってバカ!

 

「あとは……ほ、ほっぺに……」

 

 若干言い淀みながら胸から手を離した。

 そして小春ちゃんの顔を横から覗き込み、彼女の長い横髪を耳にかけた。

 

 そうすると健康的な色をしている傷一つなく綺麗で柔らかそうな頬が見えた。

 

【残り10秒です】

 

「も、もう……?」

 

 待って! 早くない!?

 くっ、おっぱいに時間を取られ過ぎたか……!

 

 俺はこれでも青春真っ只中の男子高校生。

 初めて触る女の子の胸の感触は強敵だったようだな……。

 

【5、4、3──】

 

 わかったって! 急かすなよもう!(半ギレ)

 

 

 

「……んっ」

 

 目を閉じながら、小さな唇でそっと彼女の頬にキスをした。

 本当にちょっと。一瞬触れるくらい。これで精一杯です。

 

 

 自分のした行為に顔を赤らめていると、スマホが震えた。

 画面を確認してみればそこには『Mission complete』の文字があった。

 

【お疲れ様でした】

 

 うるさいんじゃい!

 

 

 

 

「……逃げなきゃ」

 

 

 気を取り直して小春ちゃんの両脇を掴んで引きずり始める。

 

 先払いで貰ったポイントは銃に使ってしまったので、今回のミッションで得たものは何ひとつ無い。くっそう……。

 

 ミッションも終わったのでこれ以上彼女を庇う必要も無いのだが、ここまで来たら流石に見捨てられない。というか俺だけでも逃げ切れるか分からないし。

 

 

 冷や汗をかきながら一心不乱に彼女を抱えて歩く。

 できればこのまま逃げ切りたいところである。

 

 

 ──しかし、そうは問屋が卸さないらしい。

 

 

「あー痛かった! 刺激的な痛さだったわよアナタ! もう少しで変な趣味に目覚めちゃうところだったわ……!」

 

 

 いつの間にか立ち上がっていたオカマ怪人が指先を向けながら此方に歩いてきている。

 レーザーの当たった顔の右側は少々傷ついているものの、見るからに軽傷だ。

 

 すぐさまポケットからレーザー銃を取り出し銃口を彼に向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 ──カチッ。

 

 

 

 

「……ん?」

 

「あら、故障かしら」

 

 トリガーを引きこんだのに銃口から光の粒子が射出されない。

 

「な、なんで……」

 

 同じように何回もトリガーを引いても、銃はうんともすんとも言わない。

 ほ、本当に故障か……!?

 

 

【弾切れです】

 

 

「……は?」

 

「うふふ、高威力で弾数が少ないなんて、随分とピーキーな武器だこと」

 

 ニヤニヤしながら詰め寄ってくるオカマに向けて銃を撃っても何も出ない。

 うっそだろおい……! いくら交換ポイントが1とはいえ弾数も1とかふざけ過ぎだって!

 

「小さい体でアタシに突撃してくるなんて……可愛い顔して大胆なのね! 嫌いじゃないわ!」

 

「……うぅ」

 

 

「でも───これで終わりよォン!!」

 

 

 オカマが指先を此方に向け謎ビームの光を発生させる。

 何もできない俺は銃を捨て、咄嗟に小春ちゃんを庇いギュッと目を閉じた。

 

 それと同時にオカマの謎ビームが発射され──

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 直後に高熱のビームに身体を焼かれる……そんな風に覚悟していたのだが、なぜか何も起きない。

 

 

 恐る恐る目を開けてみると、そこには氷で構成されている盾のようなものを構えた一人の少年が立っていた。

 何者かの登場にはオカマも驚いているらしく、驚嘆の声を挙げている。

 

「ビーム防がれちゃった! ……え、誰このイケメン。誰このイケメン!?」

 

 大袈裟に驚いているオカマをよそに少年は俺の方へ振り向いた。

 彼の表情は焦燥の一言で、額からも汗を流している。

 

 

 見覚えのある、確かにイケメンと言われればイケメンかもしれない、そんな顔をした少年。

 

 俺を助けたのはこの世界の主人公である──海夜蓮斗だった。

 

 

「フィリスに盾作って貰っておいて正解だった……。おいキミ、大丈夫か?」

 

「……」

 

 咄嗟のことで言葉が出て来ず、とりあえず頷いた。

 すると海夜は安心したようにホッと息をつく。よく見れば息も荒いしかなり急いで此処へ来たのかもしれない。

 

 海夜は俺から視線を外して気絶している小春ちゃんに目を向けた。

 そして悔しそうに歯軋りをすると、小さく「ビーム能力をコピー」と呟き再び前を向いた。

 

「ここは俺に任せて、とりあえず隠れてろ」

 

「……う、うん」

 

 なんとか声を絞り出して小春ちゃんを引きずりながら近くの物陰に身を潜めた。

 

 

 

 ──おっそいよ、お前! 死ぬかと思ったわほんとに……!

 

 いや、確かに危ない所を助けられたけど『トゥンク…』とか別にときめいたりはしないから。 

 なんか顔が熱い気がするけど、気のせいです、はい。

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 オカマ襲撃から8時間くらいが経過して現在は夜。

 俺は今、海夜家の家に滞在していた。

 

 

 海夜蓮斗とオカマの戦いは熾烈を極め、途中でオカマが「呼び出しがかかったわ! また会いましょ!」といって離脱したため決着が付くことはなかった。

 

 そこからは海夜をうまく説得してこの家に転がり込んだ……というわけだ。

 

 

 海夜の家はエロゲ主人公特有の二階建ての一軒家で、両親は当然の如く不在。

 妹である小春ちゃんは帰宅後に一度目を覚ましたものの、かなり疲弊していたのでベッドで休ませた。

 

 

 そして現在、俺は主人公の部屋でコーヒーを飲んでいる。

 

 夕食はご馳走になってお風呂も借りた。

 というわけでさぁ寝よう、といったところで「話がある」と海夜に言われて部屋に招待されたわけだ。

 

 両手でマグカップを持ってコーヒーをちょっとずつ飲みながら海夜を待っている。彼はいまシャワーを浴びているのだ。

 

 

「……むむ」

 

 にしても、落ち着かない。

 一応人様の部屋なので勝手に椅子に座る訳にもいかずカーペットが敷かれている床に座っているのだが、やっぱり落ち着かなくて身じろぎしてしまう。

 

 

 ……結果的にポイントはプラマイゼロだったけど、残機は死守できて良かった。

 

 ミッションには『メインヒロインになる』といった期間が無期限のものもあれば、今回のような強制二択といった即効性の強いイベントもあると分かったのは不幸中の幸いだ。

 

 確かに疲れはしたが残機を減らすことなくイベントの種類を把握することができた。これは素直に収穫だと考えていい。

 

 

「悪い、待たせた」

 

 逡巡しながらコーヒーを飲んでいると、背中から声をかけられた。振り返るとジャージ姿の海夜が部屋に入ってくるのが見える。

 

「……うん」

 

 とりあえず相槌を打ちそのまま動かずにいる。

 すると海夜は勉強机の前にある椅子に座り、俺に「ベッドに座っていい」と声をかけてくれた。

 

 ふかふかのベッドに腰を下ろして海夜の方へ向く。

 それと同時に彼が会話を切り出した。

 

「えっと……リア、だったよな? 名前」

 

「そう」

 

 比較的声が小さくて冷たい印象を与える俺の返事を聞いても、海夜は動じない。

 無表情キャラへの耐性はあのフィリスとかいう女の子で鍛えられている、ということだろうか。

 

「まずは礼を言わせてくれ。……妹を助けてくれて、本当にありがとう」

 

 両手を膝の上に置き深々と頭を下げてくる主人公。

 感謝されるのは気分が良いのでもっとお礼を言わせてもいいのだが、なんかそういう雰囲気ではないので我慢した。

 

「別に、いい」

 

「ははっ、謙虚だな。とにかくありがとう。……でさ、話なんだけど」

 

「なに」

 

 無表情なまま首をかしげると、海夜が少しだけ笑いながら言葉を続けた。

 

「寝泊りする場所ないんだろ。なら暫くこの家に居てくれないか?」

 

「……どうして?」

 

「ほら、礼もし足りないしさ。なにより小春がアンタに懐いてるんだ」

 

 そう言う彼の言葉を聞きながら数時間前のことを思い返してみた。

 

 

 確かに目が覚めた小春ちゃんに状況を説明したら、あの子泣いて俺に抱き着いてきたな。

 

 彼女から見て俺は完全に年下として見られているらしく、「ありがとう」だの「かわいい」とか言われながらもみくちゃにされた。

 

 ふふふ……どうやら先に主人公の妹を攻略してしまったようだな。計算通りだぜ(震え声)

 

 

「で、どうだ?」

 

「……わかった。しばらく、ここに居る」

 

「本当か!」

 

 よかった……と言いながら、心底安心したような表情になる海夜。

 

 実を言えば俺も心底安心してる。ようやく温かい寝床を手に入れたところなので本当なら泣いて喜びたいところだ。

 

 家賃も払わないで居候するわけだし、お礼は言って頭でも下げとかないと失礼か。

 

「お世話に、なります」

 

「ちょ、礼なんてやめてくれよ。お願いしたのはこっちなんだから」

 

 

 とにかく、これから宜しく。

 そう言って海夜が伸ばしてきた手を、白くて小さい手で握った。

 

「よろしく……」

 

 心の中で微笑みながら強く手を握った。

 

 

 

 お人好しとは設定に書いてあったが得体の知れない俺を匿うなんて、やっぱりコイツも主人公なんだな……なんて考えてみる。

 俺の中身が男じゃなけりゃヒロインとしての好感度も上がってたかもしれないな。

 

 

 さて、これが所謂(いわゆる)ファーストコンタクトになるわけだけど……うん、まぁまぁ良いんじゃないか?

 

 居候という物理的距離におけるアドバンテージと、なにより他のヒロインには無い『妹を助けた』という事実はかなり美味しいぞ。

 

 

 ふへへ、好調な出だしだ! 今日だけでも他のヒロインに食い下がれる程度にはヒロインとしての格も出てきた気がするぜ!

 

 

「じゃあ……もう、寝る」

 

 海夜の手を離し、ベッドから腰を上げた。

 とりあえず今日はもう寝よう。いろいろ頑張ってヘトヘトだ。

 

 まだ中身が残っているマグカップを両手で持ち、部屋の出入り口へ向かって歩き出し───

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 この身体を使っていて初めて素っ頓狂な声が出た。

 

 その理由は部屋を出ようとした瞬間、服の後ろを引っ張られて立ち止まってしまったからだった。

 

 

「……っ」

 

 恐る恐る後ろを振り向いてみるとそこには俺のパジャマの端を手で掴んでいる海夜の姿があった。

 ……え、なに、どうした。

 

「う、うみや……?」

 

「……ハァ、ハァ」

 

 心配する様な声音で話しかけるが海夜からの返事はない。

 その代わりと言ってはなんだが、彼は息を荒くしながら服を握る力をさらに強めた。

 

 何だ、本当にどうした?

 

 

「えと……気分、わるい……の?」

 

「ハァーッ、ハァ……! うっ、ぐ……!」

 

 体ごと振り返ると海夜が自分の胸に手を当てながら苦しそうに過呼吸をし始めた。

 既に首元には汗が滲んでいて、半開きになった口からは涎が少し垂れている。

 

 

 これ、結構ヤバいんじゃないか。救急車を呼んだ方がいいのでは。

 

 そう思い、ポケットから取り出したスマホに119を押しかけた、その瞬間───

 

 

 

 

 

 

「ウガアァァッ!!」

 

「わっ」

 

 

 海夜が強く俺の手を引き、そのまま俺をベッドに放り投げた。

 俺の手から離れたマグカップが床に落ち中に入っていたコーヒーは灰色のカーペットにシミを作っていく。

 

 しかしそれを気にも留めず海夜はベッドに飛び込み、仰向けで寝そべる俺の上に跨った。

 

 

「え? えっ?」

 

「フゥーッ、フゥゥーッ……!」

 

 困惑する俺をよそに、海夜は息を荒らげながらギラついた目つきで俺を見つめている。

 

 明らかに正気を失っている彼の様子に疑心を抱くと同時に、海夜の首筋からピンク色の光が発生していることに気がついた。

 

 

 それは円の中にハートマークが描かれているいかにも『淫紋』のようなマークだった。

 

「うそ……だろ」

 

 きっと今の俺は引きつった笑みを浮かべている事だろう。

 

 戦闘中うっかりオカマの『発情する淫紋』を付けられたエロゲ主人公と、それに気がつかなかった自分に呆れているのだ。

 

 

「や、やだ……」

 

「ガゥッ!」

 

「ひっ」

 

 うつ伏せの体勢になってから逃げようと思ってベッドの上を這いずると、海夜が俺の腰を両手で掴んできた。

 想像以上に掴む力が強くて全くその場から動けなくなってしまった。

 

 

 震えた声を発しながら、何とか海夜を宥めようと試みる。

 

「やめ、よう」

 

「グルル……!」

 

「あの、ほんとに」

 

 

 

 

「ウガァァァァ!!」

 

「あわわっ、下着脱がすなっ、やめ───」

 

 

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「フゥッ、フゥッ!」

 

「うぐっ、と……とま、れぇ……っ!」

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「ウグッ!!」

 

「んあ゛ァ゛っ!? ……う、ぁ……、で、でてるぅ……っ、ひぐっ……や、やめぇ……」

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「ハァっ、ハァッ!」

 

「……ッ♡ ……ぉ、ぇぅ……っ♡」

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、窓から差し込む朝日に照らされ目を覚ましていた。

 

 ベッドの上で、裸で、なにやら湿ったシーツの上で朝を迎えた。

 

 

 ふと隣を見てみれば俺同様に裸で眠っている海夜の姿が。

 周囲には俺と海夜のパジャマやジャージが散乱しており、灰色のカーペットには黒いシミができている。

 

 昨晩の記憶はほとんど無いのだが、思い出そうとすると頭が痛くなってくるのは一体何なんだ?

 

「す、すまほ……」

 

 手探りで周囲に手を広げ俺のスマホを探してみる。

 

「……あった」

 

 枕の下に置いてあったスマホを手に取り、急いで画面を表示させた。

 

 

 なんだ、何が起きてるんだ、俺たちに一体なにが───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【残機×2】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、ぁ」

 

 

 それを見た瞬間、腰を抜かして後ろに倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 残゛機゛減゛っ゛て゛る゛う゛う゛う゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛あ゛あ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛! ! ?

 

 




主人公のステータス


能力:無し

筋力:貧弱

状態:非処女 ←NEW!

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