逃走開始から約一分──破壊者と化したクロノの攻撃を紙一重で躱したり、宙に浮けるリアに引っ付いて上に逃げたりして、なんとか俺たちは奇跡的に生き延びていた。
……今、空中で殴られて地面に落ちたところだが。
「いでっ!」
『夜、くっつかれると逃げづらい』
「一人だと死んじゃうから! お願いだから一緒に逃げて!」
リアに追い縋りながらすぐさま体勢を立て直して走りだすが、既に背後には黒い悪魔の姿が。
「死ねェッ!!」
「わ、わっ──」
俺という目標を捉えたクロノは右手の鋭い爪を突き出し──その攻撃をフライパンを持ったリアが見事に防いだ。
『フライパン、しっかり持って』
「悪い!」
攻撃を防いでくれたリアからフライパンを受け取り、俺は彼女の背中に飛び乗った。
俺がくっ付いたことを確認したリアはすぐさま宙に浮き、まるで蜂のような機動力で空を旋回し始めた。
リアが空飛ぶマシンのように動き回り、俺がフライパンでクロノの攻撃を防ぐ。まさに一心同体、二人で一人の戦法だ。地面を走り回るだけでは直ぐに捕まってしまうため、クロノから逃げるにはこの方法しかない。巨大な足で踏み潰されそうになったらフライパンを持っていても意味が無いし。
というか予想以上にリアの機動力が高い。スピードは速いし小回りも利くので、巨大で鈍重なクロノの攻撃を避けるにはうってつけだ。
「ちょこまかと目障りな!」
飛び回る羽虫のごとく鬱陶しい俺たちに苛立ち、クロノが肌で感じられるほどの凄まじい熱量のビームを指先から発射した。
『夜、しっかり掴まってて』
「わ、わかっ──オアァ!?」
瞬間、ギアを入れ替えたかのようにリアが更に加速した。そのスピードを活かして空中を飛び回り、機関銃の如く連射されるビームを次々と避けていく。
ギリギリ当たりそうなビームは俺がフライパンで逸らしたりはしているものの、槍のように飛んでくるビームのほとんどはリアだけの力で回避している。
「すごいぞワープスター!」
『私は乗り物じゃ──あっ……ちょっと、疲れてきた』
「えっ」
心底深い溜め息を吐いたリアが突然スピードを落とした。よく見ると顔や肩がプルプルと震えており、次第に浮遊の高度が下がってきている。
「ちょ、大丈夫かリア!」
『何か気分悪くなってきた。……そろそろ、体の中に戻らないと消えちゃう、かも』
力の無い声で告げるリアの体をよく見れば、段々と彼女の体全体が薄く透け始めている。精神体は元々最初から少し透けているような体だったのだが、今のリアは白い半透明の体が透明になりつつあった。
うなじや頬からは汗が流れており、頬も若干紅潮している。見るからに彼女は限界寸前だ。
『ごめん、ね。……もう少し、飛んで逃げるよ』
「……いや、リアはもう体の中に戻ってくれ」
『……でも、それだと』
「リアが頑張って三分も時間を稼いでくれたんだ。残り一分くらいは……俺一人で何とかするよ」
だからもう休んでくれ。落ち着いた声音でそうリアを諭すと、彼女は「死なないでね」と小さく呟きながら、俺の体に溶け込んでいった。リアが居なくなったことで空中から自由落下することになったが、彼女があらかじめ高度を下げていてくれたおかげで難なく着地はできた。
リアが浮遊で空を逃げ回ってから、僅か三分しか経過していない。俺の秘密を知って逃げ出したフィリスを説得した時は一時間近く俺から離れていられたのだが、今回は瞬く間に限界が来るどころか、以前は見せなかった疲弊の表情までしていた。どうやら精神体で先程の様に過度な活動をすると、どこかの巨大ヒーローのように三分で限界を迎えてしまうらしい。
つまり、最後の一分はこの身一つでやるしかない。
フライパンを両手に持ってクロノと対峙すると、彼は怒りの形相で此方に指を向けた。
「終わりだ……ッ!」
クロノの指先に光の粒子が集まり始める。恐らく先ほどのようにビームを放つ気なのだろう。
普通に考えれば立ち向かわずに逃げるべきなのだが、俺はこのフライパンで迎撃することに決めた。
先程のリアの異常な機動力でようやく拮抗できていた速度のビームを、俺の足で避けきれるわけがない。それどころか一発でも躱せれば奇跡だ。
ゆえに背中は見せず、このフライパンでクロノのビームを弾き飛ばしてやることにした。
タイミングを間違えれば蒸発して即死亡だが、今はこの方法しかない。
「消えろォッ!」
エネルギーの充填が完了したクロノは高らかに叫びながら、指先の高熱線ビームを解き放った。
「こい……」
野球のバッターのように両手でフライパンを握り込んで構え、ビームが直撃するタイミングを考えて一瞬の硬直。
(ここだ──!)
この身を焼かんとする高熱線が目の前まで迫った瞬間、俺は両手に握ったフライパンを全力でフルスイングした。
その結果──ビームは見事にフライパンの背面に直撃し、行き場を無くして弾き返されたビームはそっくりそのまま黒い悪魔の方へと伸びて飛んでいった。
「なっ──ウグッ!」
まさか本気でビームを迎撃するとは思っていなかったのか、虚を衝かれたクロノは咄嗟に両手で顔を守ったがビームをどうにかすることはできず、そのまま腕にビームが直撃して体勢を崩した。
転倒しそうになったところをなんとか堪え、片膝をついてバランスを取ったクロノは、それだけで人を殺せるような眼力で俺を睨みつけた。
「馬鹿げたことを……!」
「ハァ、ハァ……っ」
フライパンの性能のおかげでなんとか弾き返せたのはいいが、走り回ったりフライパンで迎撃したりとかなり激しく動いてしまったため、もう息を切らしてしまった。元々リアの体は丈夫ではなく、体力の無さが欠点なのだ。たった五分間とはいえこんな激しい戦闘を続けられるような体ではない。
何とか息を整えようとして胸に手を当てていると、クロノが悔しそうに顔を歪めながら問いかけてきた。
「ずっと自分に苦痛を与えてきたこの世界がそんなに大事か! あんな生きる価値の無い現実世界に戻りたいと、そう思っているのか!」
本当に理解できない、と言いながら立ち上がる悪魔。とっくに人間の姿ではなくなっているが、確かに彼の表情を見ればクロノが本当に疑問を浮かべているのが分かる。
クロノは心底、俺が抗っている理由を理解できないようだ。
「何で死んでくれないんだ……どうして生きようとするんだ」
瞼をピクピクと動かしながら俺にそんな質問を投げかけてくるクロノ、その背中からは先ほどまでとは比べ物にならない程のドス黒いオーラが噴き出ている。
そんな彼の前に、俺は臆することなく立った。……本当はめちゃくちゃ怖いし臆してるけど、悟られたらヤバいので頑張ってポーカーフェイスをする。
「……理由があるからな」
「……理由?」
クロノが聞き返してきた辺りで、俺は僅かな違和感に気がついた。体の中にリアをしまい込んだはずなのに、流暢に喋ることが出来る。それどころか喉に何かが引っかかるような感覚も無く、やろうと思えば大声も出せる状態だ。
おそらくリアは体の中に戻った後、疲弊しきって眠ってしまったのだろう。どうやら内に居る彼女が眠っている時、俺は元の体の時と同じように普通に喋ることが出来るらしい。
……この状況に至っては好都合だ。リアのたどたどしい喋り方のままでは、クロノがまともに話を聞いてくれなかった可能性もある。
いまの状態を利用すれば、クロノに俺の意志を伝えることができる。ただ殺し合うだけでは何も伝えられないし、攻撃を一旦やめているクロノと話せる今が最後のチャンスだ。時間稼ぎという面もあるが、説得で事が済むならそれに越したことはない。
「俺は──」
彼を説得しようと口を開いた、その瞬間。
「アップデート出来たわよー! 受け取りなさーい!」
「……タイミング悪いなぁ」
遠くにいたウサギのぬいぐるみが大声を挙げ、俺に向かって腕時計とUSBメモリのような物を投げ渡してきた。
なんとかそれらはキャッチできたが、話を聞くモードだったクロノは当然の如く警戒して身構えてしまった。
本来ならアップデート完了は待ち望んでいた事だったんだけども、まさかこのタイミングで終わるとは……。
「そのUSBメモリが追加アタッチメントよ! それを腕時計に接続してから起動させなさい! アップデート内容と使い方は自動で脳内にインストールしてくれるわ!」
なにやら脳内インストールとか恐ろしいことを言っているが、ここが仮想空間だからこそ出来る芸当なのだろうか。それにしてもちょっと怖いけど。
オカマに言われた通りメモリを腕時計のリューズ部分に接続すると、腕時計から聞いたことの無い音声が鳴った。
《アップデート認証:サバイブシステム──起動》
瞬間、脳内に大量の情報が流れ込んできた。アップデートされた内容から新しい戦い方など、様々な映像や文字が頭の中で目まぐるしく動き回り、軽く目眩を起こしてしまった。
「うっ……、く」
フラついた体をなんとか両足で支えて踏みとどまった。
おかげで新しい仕様も把握できたし、これで戦う準備は万全だ。
そんな俺の様子を怪訝に思ったクロノは、懐から俺と同じ無敵の腕時計を取り出して右手首にそれを巻きつけた。
「無敵の力なら僕だって持ってるさ。もちろんお前がそれを起動させた瞬間、僕も無敵を起動する」
「……無敵同士じゃ決着はつかない、ってことか」
「そうだ。たとえお前の無敵にどれほど強力な力が加わったとしても無敵には無意味だ。同時に起動させれば五分間はお互い何もできなくなり……時間が経った後、無防備なお前を僕が殺す」
そう言って時計に左手をかけるクロノ。
この状況ではどうあっても俺が先に無敵を起動することになるし、その後にクロノが起動するのだからお互いの無敵は意味をなさない。今この状況に於いては、無敵はただ五分間俺が延命するだけの装置に過ぎないのだと、クロノはそう言っている。
──そんなことは既に織り込み済みだ。
「……っ!」
《ハイパームテキ!》
「無駄だと言っているのに……」
《ハイパームテキ!》
ほぼ同時に、全く同じ音声が黒い空間内で木霊した。その瞬間お互いの身体が黄金色のオーラに包まれ、腕時計が五分間のカウントを開始する。
忠告されたにもかかわらず、無意味に無敵を使う。そんな悪足掻きでしかない俺の行動にクロノは失笑し、呆れた表情に変わった。
「なんて無様なんだ。そうまでして足掻く理由がお前にはあると、そう言うつもりなのか?」
「あぁ、そうだ」
「なら聞かせてくれよ……その理由をさァ!」
突然、クロノが俺に向かって飛びかかってきた。
そして俺の真上から手刀を振り下ろし──俺はそれを片手で掴むことで防いでみせた。やはり無敵同士ではどんなに素早い不意打ちも無意味らしい。
クロノのこの行動は『もしかしたら無敵同士でも何かが出来るんじゃないか』などという希望的観測を折り砕く為にやったことなのだろう。彼の攻撃が俺に効かないということは、逆もまた然りというわけだ。
しかし、今はそんなことなど関係ない。
「……クロノ、お前知ってるか?」
「……何をだ」
「お前が海夜たちを殺そうとしてデビルを街に放ったあの後……結果的に言えば『死人』は誰ひとり出なかったんだ」
自分を見上げながら脈絡のない言葉を告げてくる俺に、クロノは困惑の表情で返した。俺の言おうとしている事が分からないらしい。
「鎖鎌の怪人を寄越した時も俺と小春は無事だったし、当の怪人も今は檻の中で罪を償ってる」
「……お前」
「それがどういうことなのか、お前には分かるか?」
「──お前ェッ!!」
俺の言わんとしている事を察したのか、クロノは豹変すると俺の腕を掴んで投げ飛ばした。
そして俺が難なく着地すると、彼は鬼の形相で怒声を放った。
「僕に人は殺せないって! お前はそう言いたいのかッ!!」
「……そうじゃない」
察した意味とは違う、俺にそう言われてクロノは「なに……?」と言いながら動揺した。
まるで行動が理解できない、何を言いたいのか分からない。そんな俺を見てクロノは少なからず心が揺れている。それが恐怖なのか、はたまたただの困惑なのかは見当もつかないが。
結局、俺の言いたいことは変わらない。
「その気になればきっとお前は人を殺せる。……でも、お前はまだ誰も殺してない、人の命を奪っていない」
「何が言いたいんだ!」
「……まだ引き返せるってことだよ!」
強い反論をしてくるクロノを、逆に大声を出して黙らせる。こいつと対話をするために、もう暫くリアには眠っておいてもらう。
「誰も殺してない今ならまだ戻れる!」
現実的な事を言えば、彼がこのままリアルに帰っても無罪放免ということは無いだろう。彼の作った仮想空間がデスゲームの舞台にされたとあっては、当然開発者にも責が問われる。
だとしても、デスゲームを介した殺人に関してはあくまで『未遂』だ。このままクリアされれば誰も死なない。実際に命を奪った後と未遂では罪の重さもかなり違ってくるはずだ。
詳しい刑罰のことなんざ何も知らないし、そこにデスゲームだの仮想空間だの開発者責任だの複雑な事情が絡んでくるとなれば、もうどんな罪に問われるのかなんて予想もつかない。
「俺もお前の味方になることができる!」
それでも、どんな罪に問われたとしても、俺はこいつの支えになってやりたい。
現実の全てを憎むほどなら、今の彼には誰も味方がいないのかもしれない。結局居るにせよ居ないにせよ、俺がこいつの味方をしてやりたいということは変わらない。
罪を放棄しろ、というわけではない。罰は受けて貰わないと困るし、その部分を庇うつもりは毛頭ない。
だけど、全ての罪を償い終わった後のケアなら俺にだってできる。面会とか出所後のこととか、そこら辺のことなら手伝えるはずだ。まだ高校生の青臭いガキかもしれないが、そんな俺にだって出来る事はいくらでもある。
「お前のことを助けたい!」
そこまでする理由はただ一つ。
こいつはこの世界を──海夜たちを生み出してくれた。
世間的に見てそれが偉業なのか間違いなのかはわからないが、そんなことはどうでもいい。俺からすれば、彼らを生み出してくれた事は間違いなく『感謝するべきこと』なんだ。
デスゲームなんて意味不明な事件に巻き込まれたのは不幸だったし、それのきっかけを作ったクロノのことは少なからず恨んでいる。
でもそれ以上に、この世界の人々に出会えたことは俺にとって嬉しいことだった。
だからこそ、皆の生みの親であるクロノをただのマッドサイエンティストの悪人として終わらせたくはない。
「……だから、俺は絶対に死ねない。俺の命を奪ったら……お前はもう、後戻りできなくなる!」
「……それが、理由、っ……?」
「そうだ! お前に最後の一線は越えさせない!」
力強く言ってのけると、突然そんな事を言われたクロノは面食らったかのように後ずさりをする。
──しかし、すぐさま歯を食いしばって人差し指を俺に向けた。その指先には光が集束していて、ビームを撃つ準備をしていることがすぐに分かった。
クロノは狼狽した様子で、震える右手を左手で強く押さえながら、指先の照準を俺に固定しようとしている。
「あ、甘い言葉を掛けてきた人間なんてっ……! たくさん、たくさんいたッ! もう騙されないって決めたんだ!」
「……だいぶ拗らせてるなぁ」
「それにあと十秒で五分が経過する! お前の無敵時間が終わった瞬間ビームを撃ってやる! それで終わりだ!」
口では俺を殺す殺す言っているものの、明らかに動揺の色が隠しきれてない。あの様子じゃビームを撃っても当たるかどうかすら怪しい。
……まぁ、ビームが当たるかどうかは関係ないけども。
「ほら、二! いちぃ!」
必死にカウントダウンしているクロノは、当然ながら今回のアップデート内容を知らない。彼は何かしらの強力な攻撃手段や武装の追加だと考えていたようだが、それは全くと言っていいほど的外れである。
──真実は、もっと単純だ。
「ゼロぉ! 喰らえーッ!!」
カウントがゼロになった瞬間、クロノが指先からビームを発射した。意外にも狙いはしっかり定まっていたようで、ビームは真っ直ぐ俺の方へ飛んできた。
しかしビームは
「……ぁ、あれ」
目の前で起こった事が理解できず、呆けた顔をするクロノ。彼からすれば当然の反応だ。
なぜか五分経過したのに、俺の黄金のオーラが消えていない。人間なんて即座に蒸発させられるようなビームを当てたのに、一ミリも効いた様子が無い。
攻撃が効かない? 当たり前だ。なんせ今の俺はこの世界で『無敵』だからな。
オカマがアップデートで追加したサバイブシステムの効果は、単純に『無敵時間を無限にする』というものだ。だから5分経過しようが10分経過しようが金色のオーラは出続けるし、破壊者の最強ビームだかなんだか知らないがどんな攻撃も俺には一切通用しない。
「な、なんで、五分経過したのに」
「俺の無敵時間は───無制限だ!」
「……は?」
俺の言葉を聞いてクロノが硬直した。その瞬間俺は戦闘態勢に入って拳を構える。
そんな俺を見て、彼はプルプルと全身を震わせた。
「ちょ、ちょ、ちょっとまって」
「勝負だクロノ! 天才デスゲーマーリアの力を見せてやる……ッ!」
ギリギリと右拳を強く握り込み、体中に纏った黄金のエネルギーをその右手に集約させていく。するとLEDライトもビックリなくらいの眩い輝きが俺の体を包み込み、必殺の拳が完成した。
これをブチ込めばクロノからワールドクラッシャーを分離することが出来る。詳しい原理は省くが『ムテキなら可能』だと脳内にインストールされてるので間違いない。
このままじゃクロノは話を聞かないので、とりあえず殴って黙らせなければ。
「……ふ、ふざけるなっ、助けるなんて綺麗事を言うな……! だって誰も助けてくれなかったじゃないか! あの時だって」
「パァ──ンチッ!!」
「ひでぶっ!!」
何かを言いかけてたクロノの顔面に拳をぶち込み、五十メートルほど先まで殴り飛ばした。
……
…………
………………
「や、やりすぎたかな」
「気絶してるわね」
オカマを肩に乗せてクロノの方へ近づくと、彼は目をぐるぐるさせながら鼻血を垂らして気を失っていた。
それに体は完全な人間に戻っており、もうドス黒いオーラは何処にも見受けられない。上を見上げてみれば、この黒い空間も少しずつ崩壊し始めている。どうやらワールドクラッシャーが消滅すれば隔離空間も消え去る仕様だったらしい。
「こいつ、この後どうするのよ」
「とりあえず縛り上げてから、ゆっくり説得するよ。クロノの改心もクリア条件だし」
懐から取り出したハンカチでクロノの鼻血を拭きながら、彼の今後の処遇についてオカマと話し合っていると、次第に何かの音が耳に届いてきた。
ガーン、ガーン、と硬い金属同士がぶつかり合うような音と共に、別の──人間の声のような音も聞こえてきた。
耳を澄ましてみれば、その声は次第に近くなってきた。
「エクスカリバァー! お前ならできる! お前ならこの黒い球体を破壊できるはずだ! ハア゛ァ゛ー゛ッ゛!」
「文香さん落ち着いてください! リアさんなら多分大丈夫ですから……あぁっ、おやめになって! エクスカリバーさんが折れてしまいます!」
「最大火力充填完了──
「やめろ小春! ここら一帯が全部焼野原になる! やめろぉぉッ!」
「……早く戻らないとヤバいわね!」
「うん」
隔離空間の外がなにやら騒がしいけど、とりあえずはこれで一件落着……かな?
【!】:キャラプロフィールが解放されました
名前:黒野
現実では22歳の低身長童顔合法ロリ。森を歩けば五歩で足をくじくレベルで運動神経が壊滅的だが、その代わりに様々な化学知識を脳に保有している天才少女。買い物の時に子供のおつかいと間違われることが多々あるので22歳だけど少女。
酒浸りでギャンブル好きの両親に幼い頃から半ば育児放置的な扱いを受けていたため、引っ込み思案な性格。唯一家族で自分の味方をしてくれる優しい兄という、まともな思考を持った存在が身近にいたため、幼少期から性格が歪むようなことはなく、友人は殆どいなかったが親友と呼べる存在もいた。
しかし齢十五の時に両親が蒸発し、さらにその二日後にコンビニ強盗によって親友を殺害され、その翌日に唯一の支えだった兄が多額の借金を背負い、その時の彼の『返済のために(違法の)AVに出演してくれないか』という言葉がトドメとなり、現実世界に絶望して家を飛び出すことになる。
その後警察に保護されて自宅に戻ると、そこには首を吊った兄の姿があった。警察は自殺と判定したが、理愛は後に兄が裏社会の人間に殺されたことを知る。
しかし心が死んでしまった彼女に復讐をする気力などなく、親戚の家をたらい回しにされ結果的には、皮肉にも裏社会の人間である闇金を扱っている叔父の家に留まることに。
そこで独り立ちする間に科学に心の拠り所を見出し、いつしか『自分が幸せに暮らせる別世界』を作りたいと願うようになる。
裏社会に精通している叔父を利用して様々な人脈を手に入れ、ついに21歳の時に仮想空間開発に取り掛かる。
そして仮想空間の主舞台に、開発中のゲームである『最良の選択』というゲームを提案してきたデスゲーム運営の資金援助を得て、僅か一年の歳月で仮想世界を完成させた。
ちなみにアバターが男の理由は『男性ならAVの出演を求められない』と考えたため。
『リア』とは、仮想空間開発に携わった最良の選択のスタッフが理愛に一目惚れしたことがきっかけで原案が出てきたキャラクター。なのでリアと理愛は容姿の節々が似ている。身長と胸のサイズはほぼ一緒。
余談だが、実は夜の『お前のことを助けたい』の一言でほぼ陥落されていた為、のちの説得は僅か一分で終わった模様。
ちなみに性欲旺盛なので自宅は『そういう』グッズで溢れ返っている。