お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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★による場面転換でリア → 蓮斗に視点変更しマ°ッ



銀髪低身長ひかえめちっぱいロリママ

 道端の車からは黒煙が立ち上り煙の中では男女問わず肉欲に身を捧げている人間が溢れる市街地。

 その中で欲望の赴くまま自らが手にした世界を変えうる異能を振るい、思い通りに場を支配する男。

 

 彼の異能は何処までも伸びていく高出力の光の粒子。

 そして何より紋章を刻み込むことで人々を色欲の奴隷へと変貌させてしまう催眠術。

 

 

 その二つを持ちうる彼はこの場において正しく最強の、いや──無敵の存在であった。

 

 

 何者も彼の催眠術に抗う術を持たず光の粒子砲を止める事ができない。

 彼が優れた戦闘技術を持つが故に、異能を発揮できない接近戦においても勝つことは叶わない。

 

 もはや警察や特殊部隊が駆けつけたとしても大勢の犠牲は免れないだろう───

 

 

 

 

 

 

 

 そう、思ってないですか? それやったら俺が勝ちますよ。

 

「じゃーんけーん、ポン」

 

「あ゛ぁ゛っ!? ま、負けてしまいましたわ! ……うっ、うぅっ、私のパンツが……」

 

「高月。約束、守って」

 

 彼女の目を見つめながらそう言うと、俺の華麗なるパーに負けた哀れなグーの手を引っ込めて高月はしぶしぶ自らパンツを脱いでいく。

 

 そして羞恥ゆえに顔をリンゴのように真っ赤に染めながら脱ぎたてホカホカの薄水色パンツを俺に手渡した。

 

 リアは こうづきのパンツ を てにいれた!

 

「あ、あのっ! そんなマジマジとパンツを見つめないでくださる!?」

 

「ごめん。……ありがと」

 

 涙目になりながら抗議する高月を宥めつつ、パンツを片手に握って立ち上がった。

 目と鼻の先には呆れたようなアホ面をしているオカマ野郎がいる。

 

 これから俺はアイツを塵に還してやるわけだ。覚悟しろよこの虫野郎!

 

 

 

 数分前に俺がパンツを強奪しようとした際高月が割と本気で抵抗したため、そのままパンツを奪うことはできなかった。俺は体も小さく筋力もクソザコなため成熟した体の高月に本気を出されてはとても敵わない。

 

 そうしてから俺が持ち出したのはじゃんけんで勝ったらパンツを寄越せ、という条件の勝負だった。

 従わなかった場合は代わりに小春ちゃんのパンツを奪う……という脅しも付けて。

 

 

 当然従う高月。ここからはほとんど運勝負なわけだが人間は急にじゃんけんを仕掛けられた際、高確率でグーを出す習性を俺は知っていた。

 

 そこからはご存じのとおりだ。何で負けたか明日までに考えておいてね!

 

「こんな時にパンツを要求するなんて! 非常識すぎますわよアナタ……!」

 

 恨めしそうな目で睨みつけてくる高月が少し可哀想に思えてきた。

 あとでコーラ奢るからゆるして……。

 

 

「お話は済んだかしらん? そろそろト・ド・メ──イクわよ!」

 

 

 俺たちのコント染みた一連の光景を眺め終わったオカマは再びその指に光を灯し始めた。

 

 しかし、今までの攻撃とはワケが違った。

 指先に蓄積されていく光の粒子の大きさが途轍もなく大きい。

 

 もはや彼の指先にある光の大きさは軽自動車を優に超えるモノになっていた。

 

 

 トドメ、という言葉通りの必殺技。正真正銘最後の攻撃というわけだ。

 

 

 

 ──ふと、スマホの画面に視線を移した。

 

 そこに表記されていたのは【所持ポイント:3】という文字列。そうして導き出される、俺がするべき行動の答えは一つだ。

 

「……!」

 

 素早くスマホを操作し画面に表示された【マジでめっちゃ強い・レーザー・マシンガン】をタップした。

 

 

 その瞬間、俺が手に持っていた高月のパンツが眩い光を放ち始める。

 

 

「なっ、なんなの……!?」

 

 俺の手で発生している謎の現象を前にして指先に蓄積していた光を弱めて狼狽するオカマ。

 

「あわわ……」

 

 同様にあたふたと焦る俺。

 いや何これ!?

 

 

 二人してあわあわと慌てふためいている内に段々とパンツの光は小さくなっていった。

 そして気がつけばパンツを持っていた俺の手には、大きい水鉄砲の玩具のような物が握られていて。

 

「……お、おぉ」 

 

 つい感嘆の声が出てしまった。あの薄水色のパンツがこんなにもゴツい武器に変貌してしまったのだから。

 見た目とは裏腹に軽い重量で触っている感じでは完全におもちゃだ。

 

 だが考えてみれば前回のレーザー銃もさほど重くなかった。もしかすれば筋力が無いに等しい俺への配慮かもしれない。

 

 

 ……おっと、そんなことはどうでもいいぜ。俺が今からすることに比べればな。

 

 

「あっ、アンタ、まさかあのパンツを武器に!?」

 

 予想以上に驚愕のリアクションをしてくれるオカマ。

 どうやら危険を感じるレベルの予想外な展開には弱いらしい。

 

 好都合だ、そのまま固まってろよ! 今からお嬢様の高貴なるおパンツから生成されたスペシャル武器が火を噴くぜぇ……!

 

「……お前を、ころす」

 

「小さいくせに物騒なこと言うのね……嫌いじゃないわ……」

 

 口では余裕そうなことを言っているが、右往左往する目と額から流れている汗のおかげであのオカマが動揺しているのはまるわかりだ。

 

 

 銃口をしっかりと構えた。

 

 オカマに向けて真っ直ぐと。 

 

 

「ぜっ、全然わかんないわ! 学園のデータにはアンタの顔なんて無かったし、逃亡した組織のモルモットたちの中にも能力者なんて一人もいなかった!」

 

「……」

 

「ていうかアンタ、何の為に戦ってるのよ! お友達のため!? それとも昨日のイケメンのため!?」

 

 

 焦りながら問うてくるオカマに対して、(リア)は無表情を貫いた。

 

 

 ──いや、俺個人としては青筋立てて怒りの表情してるつもりなんだけどね! ブチ転がすぞテメェ!?

 

 何のために戦ってるのかってお前っ、本気で言ってんのかあぁ゛!?

 

「ぶっころころ……」

 

「……えっ」(な、なんなのこの殺気は!?)

 

 めっちゃ強いレーザーマシンガンのトリガーに、指をかけた。

 個人的な恨みが募りに募り、もはや感情の抑制など叶わない。

 

「ぶち転がしてやる……!」 

 

 この変態オカマ粉微塵にして海にばらまいてやらぁ!

 おまえの……お前のせいで──

 

 

 お前のせいでレイプされて残機が減ったんじゃああぁぁぁ゛ッ゛ッ!!!

 

 

「しっっっっね……!!」

 

「えっ、ちょっ! まっ───」

 

 

 

 

 

 

 

 ───五分後。

 

 

「……すっきり」

 

 

 市街地に残ったのはオカマのビームによる破壊の痕跡と、彼が木端微塵に消え去ったことで発情の呪いから解放された善良なる一般市民たちの姿だった。

 

 俺はと言えば、勝利のあとの気持ちいい汗を手に持っていたハンカチで拭いていた。

 ……おっと、ハンカチじゃなくてパンツだったわ。てへっ☆

 

「ん?」

 

 ふと振り返ってみると、小春ちゃんや高月が居た場所にいつの間にか主人公でレイプ魔な海夜蓮斗も立っていた。

 なにやら信じられないものを見る様な眼差しでこちらを傍観している。

 

 まぁ、この破壊の跡じゃビックリするのも致し方ないな。……いや、このパンツか(冷静)

 いつの間にか武器の姿から戻っていたパンツを急いでポケットの中にしまい込んだ。

 

 

 ……わっ、こっちくんな! オカマの能力とはいえお前が俺を使って欲望を発散したのは事実なんだからな! 許してないぞ! ゆるしてないぞ!?

 

「りっ、リア!」

 

「……なに」

 

 焦った様子で駆け寄ってきた海夜になるべく無愛想な低い声で返事をした。お前のことなんか嫌いだオーラ全開でいくぞ。

 

「そ、そのっ、俺……」

 

 背の低い俺を見下ろしながらなにやらモゴモゴと言い淀む海夜。なんだよ、キモいぞ。

 

 はたから見れば背の低い女の子に声をかける怪しいお兄さんだ。制服じゃないことも相まって不審者感倍増してるぞ。そろそろ後処理で警察も来るしそのまま捕まっちまえ。

 

 

「俺、は……!」

 

 滝のように汗を流しながら若干過呼吸になっている海夜。……あの、本当に不審者っぽくなってるけど大丈夫?

 

 

「……ん?」

 

 突然、ポケットの中のスマホが震えた。このスマホが震えたってことは絶対に何かしらの通知だ。

 

 あっ、もしかしてボスっぽいやつを倒したからボーナスポイントとか貰えるんじゃないか? 

 うおー、頑張った甲斐あったなぁ……(しみじみ)

 

 

 ぐへへ、最低でも今回使った3ポイントくらいは貰わないと割りに合わないぜ。いやでもあんなに強いボスだったんだから5ポイントくらいあってもおかしくないな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【海夜蓮斗に慰めのキスするとかどうよ?(ポイント+3)】

 

【蓮斗くんの頭を抱きしめてちっぱいの甘い香りを嗅がせつつ頭を撫でてバブみを見せるのもアリ(ポイント+2)】

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 ……

 

 

 

 ………………

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 うーん、下で!(ヤケクソ)

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

 今朝、夢を見た。

 

 頭の中が混乱して、心が不安に覆い尽くされて、気分の悪い朝を迎える……俗に言う悪夢を。

 

 たった一人の大切な妹が──小春が無残に殺される夢だ。

 いや、あれは夢ではなく『あり得たもう一つの未来』なのかもしれない。

 

 

 

 昨日、俺はフィリスと一緒に街を歩いている途中とある男と出会った。

 黒い外套を着こんでいてフードとサングラスで顔を隠した怪しい男に。

 

 俺が何かを聞く前に男は答えた。

 

『妹さん、危ないかもよ』

 

 唐突に淡々とそう告げたのだ。

 それと同時に彼は右手に炎を纏って殴りかかってきた。

 

 隣にいたフィリスが氷の壁で迎撃してくれたおかげで攻撃は防げたが、その男は口元を歪ませて……笑っていた。

 

『妹さんのすぐ近くに強力な怪人を送った。好きに暴れていいとは言ったが……お前の妹は優先的に殺せ、とも言っておいたぜ』

 

 キッヒヒ、と不気味な笑い声を挙げながら心底嬉しそうに告げる男。

 

 

 彼のその言葉を聞いて動揺した──その瞬間、フィリスに背中を強く叩かれた。

 

『小春のところ……早く、行って』

 

 たどたどしい言葉遣いで、しかし力強く彼女はそう言ってくれた。

 護身用として氷の盾を受け取り俺はその場を駆け出した。

 

 

 でも、そのとき。

 

 男は笑いながら俺に向かって叫んだのだ。

 

『距離も場所も時間すらも計算した! お前がどれだけ急いだところで絶対に間に合わないんだよ! キーッヒッヒ!』

 

 

 その言葉はきっと真実だったのだろう。

 

 

 ()()()()が庇ってくれていなければ、俺が到着する前に小春は殺されていたに違いない。

 

 

 

 

「……いてて」

 

 洗面台に映る若干頬が腫れている自分の顔を見ながら、ボソリと呟いた。

 

 今朝起きたときは何故か全裸だったことに加えてまるで何度も叩かれたかのように腫れて痛む頬も気になり、洗面台の鏡で自分を確認している。

 

 疲れ切った瞳や相変わらず冴えない顔なのは相変わらず。

 そこまで見てようやくいつもの自分とは違う部分を見つけた。

 

「なんだこれ」

 

 シャツの胸元をぐいっと下げ、首の根元に注目した。

 そうして見えてきたのは首の根元にある謎の痣。よく見れば紋章のようで、円の中にハートマークが描かれている。

 

 

「……昨日の攻撃、か」

 

 シャツから手を離して俯いた。

 昨日あのレオタードを着た筋肉質の男と戦った際、たしか首の根元にキスをされたはず。それと同じ箇所に紋章があることを考えると明らかにこれはあの男の能力だ。

 

 以前にも相手に紋章を付与してから効果を発動する能力持ちとは戦ったことがある。

 その時の能力は相手を動けなくするというものだったが……これは何だ?

 

「うっ……!」

 

 急に頭痛が生じ、片手で額を押さえた。

 

 

 あの男との戦闘が中断されたあと小春を守ってくれた銀色髪の小さな少女──リアを連れて家に戻ってきたところまでは覚えている。

 

 ただ、何故か昨晩のことが思い出せない。その部分だけがすっぽり抜け落ちているようで記憶を掘り返そうとすると頭痛が起きてしまう。

 

「なんだってんだよ……」

 

 起きたときには全裸だったり顔が腫れてたり記憶が抜けてたりと、身に覚えのない事態ばかりで辟易する。

 とりあえずリビングのソファで休んでゆっくりと思い出していこう。

 

 ……そういえば朝から小春とリアがいないけど何処に行ったんだろう。

 

 

 

『──緊急速報です。F市三丁目の通りで再び怪人が現れました。外出中の方や近隣住民の方々は速やかに避難を──』

 

 

 顔を洗って居間に戻ってくると焦った様子のアナウンサーが映るテレビが目に入った。

 それと同時にポケットに入っていたスマホが着信音を響かせた。

 

 すぐさまスマホを取り出し、電話をしてきたのがロイゼだという事を確認すると応答のボタンをタップした。

 

『蓮斗さん! 昨日あなたが言っていたレオタードの男です! 私が応戦して時間を稼ぎますから皆さんに連絡をっ!』

 

「あっ、あぁ……わかっ──」

 

 プチっ、と。早口で用件を伝えてきたロイゼは俺が返事をする途中で通話を切った。

 

 

 相当余裕が無い状況なのだと察しすぐさま靴を履いて外に駆けだすと共に、電話でフィリスと文香に連絡を入れた。

 

「ロイゼが戦ってる! 俺は先に行くから、お前らも来てくれ!」

 

 それだけ告げて俺は自転車を全速力で飛ばした。

 

 

 彼女らに出会った頃はこんな危ない事に女の子を巻き込むなんて、あり得ないと考えていた。

 

 でも、俺が思っていた以上に彼女たちは強かった。

 能力のことだけじゃない。その精神の在り方も溢れる正義感も彼女たちが『ただの女の子』ではないということの証明なのだ。

 

 だから、頼る。文香たちと俺はもう仲間なのだから。

 

 

 自転車で街中を駆け抜けながらもう一度スマホを操作して、小春に電話をかけた。朝から家にいなかったという事はどこかしらに出かけているということだ。

 

 もし怪人が暴れている場所の近くに居たら危ない。怪人の状況を知らないのなら早く教えて避難させなければ。

 

 スマホを耳に当てて1コール小春はすぐに応答した。

 

「小春! 今どこだ!?」

 

『……ぁ、えっと……さ、三丁目』

 

「ハァ!?」

 

 なんでよりにもよって事件のド真ん中にいるんだ……!

 

 さっさと逃げろ──そう言おうと思った瞬間、目の前に見慣れた街の光景が見えた。どうやらもう三丁目に到着してしまったらしい。

 

『今……その、リアちゃんが……』

 

「っ! ……とっ、とりあえず今行くから、そこで待ってろ!」

 

 すぐさま自転車を降り入り組んだ三丁目の商店街を抜けて広場に出た。ニュースの情報が正しければ怪人が暴れているのはもう少し先の交差点だ。

 

 

 ……嫌な予感がする。さっきの小春の言葉は、明らかにリアが戦いに巻き込まれたという意味だ。

 あの場にはロイゼもいるはずだがさすがに一人で周囲の人間すべてを守りきることは難しいのかもしれない。

 

 

 もしかすれば、リアはもう──

 

 

「ダメだっ、駄目だ!!」

 

 走りながら強く叫び脳内に浮かんだ最悪の想像(イメージ)を振り払う。

 蹴飛ばされたかのように跳ねる心臓を必死に抑えながら、一心不乱に駆ける。

 

 気がつけば目尻には涙が浮かんできていた。

 

 

 

 ──駄目だ、リア。頼む、死なないでくれ。

 

 俺はまだ、君になんの恩返しも出来てないんだ。

 

 自分の命を投げ出して身を挺して小春を守ってくれた君に、俺はまだ何も……!

 

「……っ!」

 

 見えた。三丁目の交差点だ。 

 このまま行けばきっとロイゼが戦ってる現場に出られるはず──

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 まず小春を安全な場所に逃がして怪人の能力をコピーしてロイゼの援護を───といった思考は目の前に広がっている光景を目にした瞬間、あっという間に消え去ってしまった。

 

 

 抉られたコンクリートの地面や破壊された車が散乱する交差点の中央。

 そこには見覚えのある銀色髪の小さな少女が、玩具の銃のような武器を両手で持ったまま無表情で佇んでいた。

 

 

「なんだ、これ……」

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

「蓮斗さん!」

 

 眼前に映る光景に言葉を失っていると近くにいた小春とロイゼが駆け寄ってきた。

 よく見るとロイゼは左足の膝にタオルを巻いており小春に肩をかけている。どう見ても彼女が戦闘で負傷したことなど丸わかりだ。

 

 

 だというのに、何故かロイゼは嬉しそうな顔をしていた。

 その笑顔の意味が俺が駆けつけたから……ではないということは、火を見るより明らかで。

 

「蓮斗さんたら、遅いですわよ! まったく!」

 

「な、なぁ、ロイゼ。ここで何が起きたんだ?」

 

 焦りながらそう聞くとロイゼは交差点にいるリアの方へと顔を向けた。

 

 

「あの子ですわ」

 

 

「……は?」

 

「あの小さな少女が怪人を倒したのです! それはもう跡形もなく木端微塵に! まさか……ぉ、おパンツを武器に変えられるなんて思いませんでしたけど!」

 

 それならそうと最初から言って下さればよかったのに……なんて呟きながら、羨望に似た眼差しをリアに向けるロイゼ。

 

「ほらお兄ちゃん、操られてた皆も……!」

 

 ロイゼの言葉が信じられない俺に声をかけ交差点の端を小春が指差した。

 そこでは乱れた衣服を直しながら、恥ずかしそうに……でもどこか嬉しそうな表情をしている人々がいる。

 

「小春、どういうことだ?」

 

「えっと……皆あの怪人に操られて、その……ぇっ……ち、なことっ! してたの! でもリアちゃんが怪人をやっつけたから正気に戻ったんだ!」

 

 顔を赤くしながら説明する小春の言葉に俺はハッとした。

 

 

 すぐさまスマホを取り出しカメラを起動させて自分の首元を映す。

 そこには今朝あった筈の謎の紋章が──消えていた。

 

 紋章を使う能力者のマークが消失するという事は能力の使用を解除したか、もしくは能力者本人が死んだ場合だ。

 

 今のこの状況はつまりあの怪人が本当に死んだという何よりの証拠。 

 

 

「───」

 

 

 その瞬間、鮮明な映像が脳内に流れ込んできた。

 

 

 

 

 

 

『んあ゛ぁ゛っ!!? ……う、ぁ……、で、でてるぅ……っ、ひぐっ……やめぇ……』

 

 

 

『おね、が……っ♡ やめっ……と、まってぇ……♡』

 

 

 

『……ッ♡ ……ぉ、ぇぅ……ッ♡』

 

 

 

 

 

 

「ぁっ」

 

 脳裏によぎる鮮明な映像。

 それは紛れもない自らが体験した()()()()()()

 

「あっ……あぁ……!」

 

 記憶の意味を理解した瞬間昨晩の全てを思い出した。それと同時に言い知れぬ絶望感が胸中を支配していく。

 

 

 歪む。視界がブレて、滲んで歪む。

 心臓に杭を打たれたかのような衝撃が痺れとなって体中を走り、指の末端まで届いていく。

 肺が握りつぶされるようで呼吸がどんどん早くなっていくのが分かる。

 

「おれは」

 

 

 俺は。

 

 

 

 

 手の届かなかった妹を救ってくれた。

 倒せなかった悪を討ってくれた。

 

 そんな恩人を、俺は───

 

 

「りっ、リア!」

 

 駆け寄ると彼女は昨日と変わらない無表情で淡々と反応する。

 

「……なに」

 

 その表情からは何も読み取れない。

 眉も瞳も動かさずただ真っ直ぐ俺の目を見つめている。

 彼女の瞳の奥にある筈の僅かな感情すらも、今の俺には分からない。

 

 どうして妹を助けてくれた? なぜここでも命を張って怪人と戦ってくれた?

 

 なぜ『あんなこと』をした俺に……何も言わない?

 理解できない。彼女の全てが俺には計り知れない。

 

 それでも言わなきゃいけない事がある。示さなければいけない態度がある。

 

 

「そ、そのっ、俺……」

 

 言いかけた辺りで言葉が喉に引っかかってしまった。言おうとしていた言葉が、本当に正しいのかが分からない。

 ここまで来ておいて今更「何でもない」なんて言えるはずがない。いや、言ってはいけない。

 

 でも、どうしたらいい? 俺は彼女になんて詫びればいいんだ?

 

 妹の命の恩人を思うがままに貪った俺が、一体どんな言葉を口にすれば許されるんだ?

 

 

「俺、は……!」

 

 汗が止まらない。舌の奥が痺れてまともに呼吸ができない。

 既に理解しているのだ。何を言ったところで許される術などないということを。

 

 怪人の能力なんて関係ない。紋章を付けられたことに気がつけなかった俺が悪いのだから。

 

 命を差し出せばいいのか? もはや彼女に償う方法なんて死ぬことくらいしか思いつかない。

 怪人を粉微塵に消し去った彼女の力があれば俺なんて一瞬で殺せるに違いない。俺が望まずとも彼女は俺を殺してくれるかもしれない。

 

「……っ!」

 

 目を閉じて、口を閉ざした。聡いリアのことだ、きっとすぐに察してくれるだろう。

 俺が命を差し出している事に。

 

 強姦魔である俺が許される理由なんて一つもない。俺が死んだあとどうか妹は見逃し欲しいと願うことしか今の俺にはできない。

 

 願わくば彼女が人類に牙を剥くことがないように───

 

 

 

 

 

 

 

「海夜」

 

 

 

 

 

 そう、考えた時だった。

 

 唐突にリアが俺を呼んだ。

 

「……?」

 

 恐る恐る目を開けるとリアは言葉を続けた。

 

「しゃがんで」

 

「え……?」

 

「いいから、しゃがんで」

 

 淡々と告げるリアに言われるがまま、俺はその場でしゃがんで膝立ちをした。

 こうすると背が低い筈のリアに見下ろされる形になる。

 

 訳が分からずついリアの顔を窺った。

 

 それと同時にリアがこちらに両手を伸ばした。

 

「……っ!」

 

 殺される。そう理解して思わず俺は目を閉じてしまった。

 

 

 ───しかし、首を絞められることはなく。

 

 

 

「……り、リア?」

 

「……」

 

 いつの間にか、彼女は俺の頭を抱きしめていた。

 

 左手は後頭部に回され右手は頭の上に置かれている。

 その状態で自らの胸の間に、俺の顔を埋めていた。 

 

「なに、を──」

 

 彼女に問おうとした瞬間リアが右手で俺の頭を優しく撫でてきた。

 急にそうされたことで俺は言葉を詰まらせてしまう。

 

 どうして、こんなことを?

 

 

「……悪くない」

 

「ぇ?」

 

「悪くないよ」

 

 そう言いながらリアは一層強く俺の顔を抱きしめた。

 まるで母親が我が子を宥めるかのように。

 

「……りっ、あ……」

 

 彼女の行動が俺に安心感を与えるためのものだと理解した瞬間、目尻に涙が浮かんできた。

 

 

 ──きみは悪くないのだ、と。

 

 

 俺を許してくれると、彼女はそう言っているのか。

 

「落ち着いて……」

 

 なおも抱擁を続けながら、彼女の印象からは考えられないほど温かくて優しい声音で囁くリア。

 

 

 いったいどこまで彼女は優しいんだ? 

 あれは怪人のせいだからと、そう言って俺を許すつもりなのか?

 

 

「……ぅっ、ぐぅ゛……!」

 

 彼女の慈愛とも呼べるほどの優しさに当てられ、俺は涙ぐんでしまう。

 程なくして声を漏らして無様に泣いてしまった。

 

「ごめ、ん……! おっ、俺はっ! 俺は、きみを……!!」

 

「……喋らなくて、いい」

 

 哀れに懺悔をしようとする俺を宥めただ静かに抱擁しながら頭を撫でるリアにもう何も言えなくなってしまう。

 

 どこまでも人の為に寄り添える、心優しい少女。

 

 彼女が持ちうるそんな優しさに心が(ほぐ)されていく一方で、俺は一つの決意を固めた。

 

 

 

 これから先、たとえどんな事があっても。

 

 

 

 

 ──俺は必ず、リアを守ると。

 

 

 

 




リア:(俺は)悪くない……(俺よ)落ち着いて……

蓮斗:(´;ω;`)ブワッ

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