お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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【あいぼうと 二人でやれば こわくない】

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幕間 海夜兄妹との小話

 あれから三十分後。場所は海夜家の玄関にて。

 

 美咲家からここまで歩いてくる道中に散々寒風に吹かれたルクラが、忙しない様子でドタドタと家の中へと上がっていく。

 

「どこだ! どの部屋に入ればいい!? 寒いぞぉーっ!」

 

「二階への階段上がってすぐのところに蓮斗の部屋があるぞ。そこならもう暖房つけてるって」

 

 俺の言葉を聞くや否や即座に二階へと駆け上がっていくルクラ。

 

「私、ルクラのこと見張っておくね」

 

 次いで足早に彼女を追いかけていくアイリール。見張りと言いつつ彼女も早く暖房に当たりたいのだろう。

 

 結局、海夜家の玄関に一人俺だけが取り残された。冬の深夜だというのに未だ活発なルクラの事を考えると、自然とため息が出てくる。……早く寝たい。

 

 そんな愚痴染みた心の声をつい現実にも漏らすと、同じタイミングで一階のリビングからコートを着た小春とレンが玄関に出てきた。

 

「あ! リアちゃーん!」

 

「うぉっと」

 

 そして俺の姿をその目に捉えた瞬間こちらに飛び込んできた小春を、なんとか両手で受け止めた。深夜だってのにこの子も元気ですね……。

 

「リア、大丈夫?」

 

 慌てて駆け寄ってきたレンに軽く手を振ってみれば、彼女は安堵したような表情に。どうやらこの二人には少しばかり心配をさせ過ぎてしまっていたらしい。

 

 

 ──ルクラが『性的な事がしたい!(意訳)』とほざいたあの後、声がうるさいだの近所迷惑だので父親に怒られてしまった俺たちは場所に困っていた。

 

 ルクラは当然初めての経験なので、叫ぶかもしれないし暴れる可能性もある。そんな騒音を引き起こしかねない危険を孕んだ彼女と、そのまま俺の部屋で過ごすわけにもいかない。

 

 というわけで困り果てた俺が助けを求めて電話をしたのが、他でもないこの海夜兄妹だった。

 一体どうしたらいいのか解らず意見を聞いてみれば、レンからは簡素な一言が返ってきて。

 

『小春と俺がそっちの家に泊まるから、誰もいないウチを使えばいいよ』

 

 ……()()()()()をする場所としてこの家を提供してもらうのは些か──いや死ぬほど申し訳なくて断りかけたものの、事情を察した二人に後押しされた結果、俺は今この家の玄関に立っている。

 

「あの、二人とも……ほんと、ゴメン」 

 

 俺から離れた小春とレンに向かって、深々と頭を下げた。

 

「わわっ。リアちゃんが謝ることなんてないよ! リアちゃんの家にはいつもお邪魔しちゃってるし、こんな家で良ければいつでも使って!」

 

「あ、いや、その事もあるんだけどさ……」

 

 俺が謝っているのは、何もこの家をアレの場所として貸してもらう事だけの話じゃない。

 

「…………俺、小春とレン以外の人と……」

 

 声が小さくなってきてしまう。やはりどうしても申し訳ない気持ちが強すぎる。

 

 ルクラの要望に応えるのは仕方のない……回避ができない事だ。拒否すればそれが世界の破壊に直結してしまうとあれば、否が応でも従わざるをえない。ルクラの性格が善に寄っているとはいえ、彼女が未だこの世界にとっての敵だという事実は変わらないのだ。

 

「二人以外の人と()()のっ、やっぱり……!」

 

 でも、分かってはいるけど、体の繋がりは簡単なことじゃない。

 世界破壊の回避という免罪符を得てもなお、俺が受け入れ俺を受け入れてくれたこの二人以外の存在と繋がる──という事実は罪悪感を強く覚える。

 

「さ、最低……だよ、な……」

 

 乾いた、呆れた笑みを浮かべて俯いた。こんな事を言っている最中に、二人の顔を直視する勇気なんてないから。

 

「リアちゃん……」

 

「…………っ、ごめん」

 

 ルクラのことは、リアとしてアイリールと繋がる(かさなる)事とはワケが違う。彼女とは文字通り二人で一人の存在になるのであって、この兄妹のように──お互いが個人のまま繋がった事は、一度としてない。

 

 だが、ルクラと俺は、これから──

 

 

「……あの、その事はあんまり悩んでくれなくてもいいと思うよ」

 

 

「……えっ?」

 

 土下座すらしたい気持ちで言葉を絞り出していたら、小春が極めて軽い声でそんなことを言ってきた。

 

「リアちゃんさ、私が仮想世界で初めてライトニングフォームを使った日のこと、覚えてる?」

 

「そ、そりゃ勿論」

 

 今まで非戦闘員だった小春が急に覚醒して無双したと思ったら、夜には狼になって俺を──うわぁぁぁっぁ思い出しただけで恥ずかしくなってきた! 

 

 忘れるわけねーだろ!? あんなことされて記憶に焼きつかない方がおかしいわ!

 

「多分いま想像してるんだと思うんだけど、私がデメリットでリアちゃんを巻き込んじゃった時のこと」

 

「……うん」

 

「あの時、本当はお兄ちゃんも淫紋が発動しかけてたんだけど……私がリアちゃんを独り占めしちゃってたから、お兄ちゃん困ってたの」

 

 小春が淡々と話を続けていく……その傍らで、なにやらレンが大量の冷や汗をかいている。

 

「その時ね、フィリス先輩たち四人がお兄ちゃんの淫紋抑制を手伝ってくれたんだ」

 

「え?」

 

「……うぅ」

 

 

 …………はい?

 

 

「どゆこと」

 

「やっぱり聞いてなかったんだね。淫紋が暴走する前に四人でお兄ちゃんとえっち(ハーレム)してたこと」

 

「蓮斗?」

 

「ヒィッ! ご、ごごごめんなしゃいっ!!」

 

 あえて本当の名前を呼ぶとあら不思議、小さい女の子が私の前で土下座をするではありませんか。

 それを見て慌てて取り繕うその妹さんもいらっしゃいます。

 

「あ、ご、ごめん! 言い方が悪かったよね!」

 

「………いや、いいよ。解ってるから」

 

 一瞬俺の中のリアが顔を出してきたけど、なんとか落ち着かせて軽く息を吐いた。そして土下座している蓮斗(レン)を無理やり立たせる。頭を下げてもらう理由などないのだから。

 

「ほらレン、立って」

 

「あぅぅ……」

 

 冷静に考えれば何もおかしいことなんて無い。

 

 俺とアイリールが初めて会話を交わしたあの日の夜、二人で蓮斗の淫紋抑制をしたあの時に、情事の場を発見したロイゼによってあの四人には(リア)が蓮斗の性欲処理をしている事実が明るみになった。

 

「別に怒ってないから」

 

 そして、ロイゼたちは俺に言ってくれたのだ。『頼って』と。俺が手を離せない時は、ヒロインの皆で蓮斗の淫紋を何とかすると、俺に約束してくれた。

 

「ごめんリアぁぁ゛ぁ゛……」

 

「だから怒ってないってば。寧ろ、俺がロイゼたちに頼んだようなものだしさ」

 

 ゲームクリアのため、蓮斗のため、なにより俺の為に力を貸してくれた。

 だから怒るのはお門違いも甚だしい。そんな事をしたら逆にヒロインの皆の厚意を無下にすることになってしまう。

 

「……つまり小春が言いたいのは」

 

「そ、そう! お兄ちゃんも似たような事したわけだしさ!? リアちゃんが私たちの為に気負う必要はないよーって!」

 

 両手をわちゃわちゃ振りながら、俺が言わんとすることを先に言葉にしてくれる小春。おかげですんなり理解することができた。

 

 つまり気遣いだ。自分たちには“仕方なく”淫紋抑制をしたされたの理解があるわけだし、蓮斗も他の子に手伝ってもらった事もあるのだから、今更理由のある性行為についていちいち謝る必要は無い、と。

 

 ましてやそれに『世界の存亡』なんて理由がついて回るなら、尚更自分たちを気にする必要はない──

 

「二人がいいって言ってくれるなら……うん、解った」

 

 ──いいからとりあえずあの高慢ちきなラスボスを存分に()()()()()()()──そういう事なんだろう。多分。

 

「本当にありがとうな、二人とも」

 

 相変わらず暴走しなければマトモで優しい兄妹を前にして嬉しくなり、自然に綻んだ笑顔で感謝を伝えた。

 

「……うんっ!」

 

「……うぅ」

 

 それに笑顔で返してくれる小春と、未だに冴えない面をしてるレン。えぇい、変なところでナイーブな奴だなお前な!

 

「気にしてないって言ってんだろーがよォーッ!」

 

「うわわっ!」

 

 ワシャワシャと髪の毛を撫でてやれば、レンは仕方なさそうに小さく笑ってくれた。それでいいんだそれで。

 

 改めて決意を固めた俺が靴を脱いで上がると、それと入れ替わるようにして玄関へ移動する兄妹。お互いに不敵な笑みを浮かべている。

 

「頑張ってねリアちゃん! 世界の運命は任せました!」

 

「二人で応援してるからな! 明日はすき焼き用意して待ってるぞ!」

 

 ──そう、俺はこれから戦いへ赴くのだ。二人の声援は、さながら足軽の士気を高める法螺貝。

 

「あぁ……」

 

 この胸に湧き上がる勇気と高揚感。もう誰にも負ける気がしないぜ。

 

 覚悟しろよ、ワールドクラッシャー。性知識に興味を示した事を……今宵後悔させてやろうッ!

 

 

「じゃあ───行ってくる(わからせてくる)

 

 

 数分で蓮斗を陥落させた俺とアイリールのコンビネーションに震えあがるがいい!!

 

 

 




いま、開戦のとき──!

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