お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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エクスカリバー!

 

 

「さぁ、立って。共に戦いましょう」

 

「あ、あぁ……」

 

 藤堂文香を召喚して呆けていた僕を、彼女自身が手を貸すことで引っ張り上げ、二人で悪魔たちの群れと正面から対峙する。

 

 こうして改めて前にしてわかったが、やはり悪魔たちは尋常ではない数だ。僕が藤堂の力を十二分に発揮できたとしても、勝機があるかはいささか怪しい。

 

 ──とにかく変身しなければ始まらない。右腕にあるアクセスウォッチの時計盤に触れ、変身準備を完了させた。 

 

「いくよ藤堂さん──変身(アクセス)ッ!」

 

 腕を大きく頭上にかざし、変身工程の最後の条件である合言葉を叫んだ。僕が行うのはあくまで強制アクセスであり、わざわざ藤堂と手を繋いだり心を重ね合わせる必要などない。

 

「ダメですッ!!」

 

「えぇ!?」

 

 めちゃくちゃ変身する気満々だった僕の右腕をガシッと掴み、即座に下へおろす藤堂。おかげでウォッチの機能が正常に働かず、ボフンと煙が上がって変身は失敗してしまった。

 

 急に何するんだこの女……!?

 

「私とあなたはパートナーなのですから、互いの名前すら知らない状態で一つになってはいけません」

 

「へっ? ……あ、あぁ、名乗ってなかったね」

 

 そういえばこっちが一方的に名前を知ってるだけだった。……いや、でも時間ないし……。

 

「私の名前は藤堂文香といいます。露恵学園──いえ、恵地高等学校に通う二年生の十七歳です。部活は剣道、特技も剣道、好きなものは剣道ではなく猫。能力は身体能力強化です……では、次はあなたのことを教えてください」

 

 これ、雰囲気的に断ったら即効でアクセス解除されそうだし、ここは本当にパートナーとして接しなければならないのか……?

 

 ──でも、自己紹介する前から僕に敬語を使っていたということは、少なくとも彼女は初対面で僕を年上の人間だと見抜いていた、というわけで。数少ない……というよりは成人してから初めて、教える前に僕を成人女性だと認識した人間、ということになる。美咲君は予め年齢を知っていたから、初見で大人だと判断したのは間違いなく彼女が初めてだ。

 

 自分でも幼い姿をしていることは多少自覚していたが……それでも彼女は見抜いてくれた。今まで出会ったことのないタイプの人間だ。

 僕を誤解なく認識してくれた……ならば、こちらも相応の対応をしなければ失礼だろう。

 

「……僕の名前は黒野理愛(リア)。デスゲーム部隊の情報研究部門に所属していて……二十二歳で、得意なことは科学研究(細かいことは長くなるので割愛)で、好きなことは……ボウリング、かな?」

 

 最後が何故か疑問形になってしまった僕を見て、ハッとする藤堂。何か気が付いたような表情だ。

 

「……そうか、あなたが()()()だったのか」

 

「アッハイ」

 

 もうバレた! 確かに苗字が黒野でアクセスウォッチまで持ってたらバレるのは時間の問題だったけど! 詰んだか……!?

 

 

「……まぁ、過去のことは水に流す──ということでもないが、確執は持ち込まないことにします。なんたってパートナーですからね。えぇ、パートナーですから」

 

 

「えっ」

 

 腕組んで「うんうん、パートナーですもの」と言いながら何度も頷く藤堂の姿からは──都合のいい解釈かもしれないが、僕への怒りは感じられなかった。

 仮想世界ではそこの生みの親でありながら黒幕として立ちふさがった僕は、少なくとも彼女にとっては印象の良い相手ではないはずなのだが……これはいったいどういうことだろう。

 

「あの……なんか、嬉しそうだね?」

 

「な、なにを言うのです、こんな緊急事態に喜ぶわけないでしょう……それはあなたの勘違いです、理愛」

 

「っ!?」

 

 急に下の名前で、しかも呼び捨てで呼ばれてびっくりした。距離感の縮め方が力業過ぎませんか?

 

「あの、藤堂さん? 一応僕、年上なんだけど……」

 

 仮想世界で非常に身勝手な我が儘で迷惑をかけていた黒幕が偉そうに何を言ってるんだ、と思われても仕方ない発言なのだが、つい反射的に口が開いてしまった。

 

「パートナーなのですから下の名前で呼ぶのは当然ではないですか。それに“さん”を付けたらリアさんと被ってしまいますからね」

 

「そ、そう……まぁ、そういうことなら。……じゃあ藤堂さん、そろそろ変身するよ。準備はいいね?」

 

「ダメですッ!!」

 

「なんで!?」

 

 またもや力強く否定されてしまった。いったい何がダメだというんだ。

 

 

「……パートナーならば下の名前と、そう言ったではないですか」

 

 

 少しだけ頬を赤くしながら、恥ずかし気に告げる藤堂。

 呆気にとられる僕。

 

 

 少々の沈黙。

 

 

「……あの、理愛。なにか言ってください」

 

「えっ。……あ、えっと」

 

 

 いけない、今はこんなことに時間を費やしている場合ではない。爆風の衝撃で悪魔たちがひるんでいる間に変身しなければいけないのだから、余計なことに手間取っていてはダメだ。

 

「じゃ、じゃあ──いくよ、文香」

 

「はい!」

 

 

『──変身(アクセス)ッ!!』

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「はぁっ、はぁ゛っ……! あっ、ヘブッ!!」

 

「大丈夫ですか黒野さん!?」

 

 アクセスをしてから数分後。藤堂文香の姿に変身して身体能力強化の異能を手にした僕は、負傷した美咲君を背負って一時的な逃走を試みた──のだが、結局疲れて大通りに美咲君を下ろして走らせた挙句、瓦礫に足が引っかかって顔面から転んでしまう始末であった。痛い……。

 

「うぐぐぅ……!」

 

(理愛、あなた……運動音痴が過ぎませんか?)

 

(うるさーい! これでも必死にやってるんだこっちは!)

 

 逃げ始めてから数分間、僕は文香が軽く引く程度には盛大に運動音痴っぷりを発揮していた。ちなみに転んだのはこれで三回目である。……クッソぉ!! 膝と顔が痛い!! ってあぁ鼻血出てきた!?

 

「うぶっ」

 

「黒野さんっ! 手を貸しますから……!」

 

「だいじょうぶ、文香の体だから、へばったりはしないから……!」

 

 ポケットに入っていたハンカチで鼻血を拭い、美咲君の手も借りずに何とか立ち上がることができた。

 

 ──しかし、転んでいる時間すら悪魔たちには十分すぎたようだ。

 

「囲まれた……! 美咲君はこっちまで下がって!」

 

「うわっ!」

 

 彼の首根っこを引っ張って自分のそばに避難させつつ、能力を発動して脚力を強化する。

 

「一旦ビルの屋上に逃げるよ……」

 

 太ももからつま先にかけてドクドクと血液の奔流を感じ、何かがしっかりと嵌った感覚を感じた瞬間、僕は即座に美咲君を抱きかかえ、力の限り地面を強く踏み抜いた。

 

「くろのさ──」

 

「口閉じてて! 舌噛んじゃうよ!」

 

 

 瞬間、まるで飛蝗(ホッパー)のように空高く跳躍(ジャンプ)し──僕たちは付近にあったビルの屋上に着地した。

 

 

「おわぁっ!?」

 

 そして足がもつれて転んだ。これで四回目である。

 

「っでぇ!」

 

「ヘブッ! ……あっ、美咲君ごめんね!?」

 

 転んだ拍子に美咲君をぶん投げてしまい、彼はコンクリートの硬い床にお尻をぶつけて悲鳴を上げた。本当に申し訳ない。

 

「いてて……いや、全然平気です……」

 

 痛む臀部を手でさすりながら、柵の向こうに見える悪魔たちの跋扈する街を一望する美咲君。苦い顔をし、すぐさまこちらに振り返った。

 

「ど、どうしますか……? あいつら、最初に見た時より圧倒的に増えてます……」

 

「………ちょっと待ってくれ」

 

 

 瞼を閉じ、握った拳で軽く眉間を叩きながら、これからどうすればいいのかを考える。

 本当に困ってしまった。一体何からどう解決していけばいいのかが分からない。どうやら緊張と焦りで脳内が混乱してしまっているようだ。普段の状態ならもう解決策を思いついていてもいいくらい、事態発生からかなりの時間が経過しているというのに。

 

 元凶たるデビルを撃破したところで、感染した市民たちが元に戻ることはなく、人間に戻すためには一定以上のダメージを与えなければならない。

 

 しかしこの現状はどうだ。優に数百は超える数の悪魔たちが溢れ返っているこの状況を、身体能力強化だけで解決なんて出来るのか? もし無理やりにでも解決を望むというのなら、一体一体──それこそ一人も残さずこの手で倒すしかない。

 

 警察は避難誘導と市民の安全確保だけで手一杯で、なぜか発生している通信妨害のせいでデム隊と連絡を取ることもできない──ならば本当に、僕だけでこいつらを全員倒さなければならない……のか?

 無理に決まっている、そんなこと──

 

 

(諦めてはなりませんよ理愛! まだあなたは私の力の半分も引き出せていません!)

 

(そうかもしれないけど……それは仕方ないじゃないか)

 

 

 確かに僕たちは強制アクセスで融合しているため、アクセスウォッチを持っている他のメンバーと違って、共有した記憶を頼りに能力を使いこなすことはできない。それは僕自身が記憶の共有を拒み、意図的に文香との間に壁を作っているからだ。

 

 何も僕が人間不信だから、というだけの理由でそうしているわけではない。

 

 互いを隔てている壁──つまり強制アクセスの『強制』という部分を外した場合、通常のアクセスと同様に記憶の共有と心の融合が行われることになる。

 

 それはつまり、融合する二人の相性が悪かった場合、本人たちの意思とは無関係にアクセスが解除される危険性がある、ということでもあるのだ。

 

(本当なら美咲君とダグストリアくらい心がシンクロしていないと成功しないのが『アクセス』なんだよ。それを呉原君や真岡たちがポンポンと成功させるから勘違いしてしまうのも無理はないけど……どう考えても、僕と文香の相性は良くない。それどころか最悪だろう)

 

(……なぜ、最悪だと?)

 

(考えてもみたまえ。他のメンバーはみんな元から味方同士だったというのに、私たちは互いに敵同士だった間柄だよ? しかも身体的にも体力的にも高低差が著しいし、なにより能力自体が運動音痴の僕と相性が悪すぎる)

 

 これ以上ないというほど相性の悪い組み合わせだ。こんな歪な関係(アクセス)は強制というシステムがなければいとも容易く瓦解してしまうに決まっている。

 

 

(待ってください。それなら身体的な面で全く違う、男子である呉原と女子のフィリスがベストマッチなのはおかしくありませんか?)

 

(それは肉体以上に心の共鳴が強かったからだ。聞けばあの二人、ウォッチを使わなくても『ブリザードフォーム』という形で融合できるらしいじゃないか。そんな心の共鳴が強すぎる例外中の例外と比べられても困るよ)

 

(同性でもなければ歳がかなり離れている真岡氏とロイゼはどうなるのです? 彼らはウォッチを使わないとアクセスできませんが、それでも使えばアクセスできました。同性の私たちがアクセスできないとは思えません。それに異性同士でならリアさんの弟と小春だっています)

 

(真岡だって一応中身は女性だし……朝陽くんと海夜小春のあれは、ダグストリアが中間役を担っていたからで……)

 

(精神が女性ならアクセスできるという話なら我々でも出来るでしょう。あとリアさん……いえ、アイリさんによる中間役とは何ですか)

 

(だ、ダグストリアはゲームフィールドを通じて最初にこの世界へやってきた人物で、それをできるほどの『何か』があったから仮想と現実の境界線を緩めることができて、だからフィールド内であれば他の人間のアクセスを境界を緩めることで補助することができて……)

 

(ではなぜゲームフィールドでもないのに朝陽くんや呉原はアクセスできるのですか)

 

(それは、えっと……一度完全にアクセスできれば、あとはもう問題ない……的な……?)

 

(だいたい初対面である剛烈氏と陽菜がアクセスできたのに我々ができない理由など逆に存在しないと思いませんか? 話を聞いた限り彼女らはリアさんを助けるという目的の一致で強く心が共鳴したらしいですし、その理論なら私たちが今強く思っている『この事態の解決』という共通の目標があるのだからきっとアクセスだって)

 

 

 

(だあああぁぁぁぁぁぁ!!! うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁーいッッ!!!)

 

 

 

 あぁ言えばこう言う! 何言っても引き下がらない! まるでデスゲーム時代の美咲君みたいだ!! ほんとにきらい!!

 

(僕が嫌なの! 人間恐怖症のクソ引きこもりだから! 心の共有とか気持ち悪いこと絶対嫌なの! それって心の中を全部見られるってことでしょ!? いーやーだぁー!!)

 

(そんな我が儘を言っている場合ではありません! ていうかその口ぶりならアクセスって意外とそこまで難しくないんですね!? ならやりましょう! 正規のアクセスを今すぐにでも!)

 

(やだって言ってるじゃん! 話聞いてなかったの!? 身体能力だけで怪人と戦ってきた筋肉ゴリラは脳みそまで筋肉なんですかぁ!?)

 

(あぁもう脳筋で結構ですから! 早くアクセスしましょうよ!)

 

 だから嫌だって言ってるのにぃぃ……。きみの記憶なんて見たくもないし、なにより自分の記憶とか死んでも見せたくないよぉ。それが正常だよ、他のみんながおかしいだけだよぅ。

 

(ううぅ~っ! 嫌なものは嫌なの! ぜぇったいにやだ!!)

 

(~~っ゛!゛ 我が儘ばかり言ってぇ……! こんのロリっ娘いい加減にしなさい!!)

 

(ロリじゃないですけどぉ!? きみより五つも年上なんですけど!!)

 

(なら年上の甲斐性みせてくださいよ! それともリアさんが──美咲さんが悪魔にされてもいいと言うのですか!?)

 

(うぐっ)

 

 それとこれとは話が別といいますか……確かに美咲君は守りたいけど……でもぉ……!

 

 

 ──クッソ腹くくるしかないのか!? やるしかないのか! そうなのか!!

 

 

(そうです! やるしかありません! レッツ変身!)

 

(……うん、わかった。やるしかないみたいだね)

 

 本当に後がないので、ここは嫌がる自分を殺してでも先へ進まなければダメなのだろう。

 

 すっくと立ちあがり、アクセスウォッチを操作して一旦変身を解除する。そうすることで僕たちは再び二人の人間へと戻った。

 

「わっ! 黒野さん……それに、藤堂? なんで変身解除を……?」

 

 突然変身を解いた僕たちを前にして、美咲君は少々困惑している。

 

 ……そんな彼の肩には、未だに火傷の跡が残っている。これ以上、彼に傷は負わせたくない、負わせはしない──そう心に決め、アクセスウォッチからSDカードを抜き取った。

 

「……理愛」

 

「あぁ、これで……」

 

 強制システムの要であるカードを抜き取ったため、今身に着けているウォッチは正真正銘ただのアクセスウォッチになってしまった。

 

 だが、これでいい。こうするしかない。正規アクセスによる能力の引き出し以上に、この事態に適した方法はないのだから。

 

 やると決めた。ならばあとは──突き進むだけだ。

 

 

「準備はいいね、文香」

 

「もちろんです、理愛」

 

 

 互いに顔を合わせ、頷きあい、覚悟を決めて正面を向き、腕を掲げ──そして叫ぶ!

 

 

 

変身(アクセス)ッ!!』

 

 

 

 その言葉を叫んだ瞬間、目を開けていられないほどの眩い光が僕たちの体全体を包み込んだ。

 

 

 

(ふ、文香の記憶が流れてくる──)

 

 

 まて、ということは……?

 

 

(ぎっ、ぎゃああああぁぁァァッ!! 僕の記憶みられてるぅぅぅゥゥやめろぉぉぉォォォ!!!)

 

(ちょっと理愛! 今更何言って──)

 

 あぁ、本当に流れてくる。幼少期から現在にかけての、彼女の記憶がこれでもかというほど、まるで津波のように体全体を覆いつくしていく。やばいキャパオーバーです無理です吐きそう。

 目の前に文香視点の映像が次々と流れてきて──

 

(うわぁ! 文香きみっ、目の前でお父さんを殺されかけてたのか!? ……って、なんか金色の女の子出てきた! ていうかこれハイパームテキ使ってる時のリアか!)

 

(いちいち感想言わなくても……うわぁ、理愛の過去も大概ひどいですね、同情します)

 

(軽すぎない?)

 

(シリアスには慣れてますので。ちなみに私も子供のころ目の前で強盗に母親を殺されてます)

 

 サラッと言うことじゃない……なくない? メンタルどうなってんのこの子……?

 

(あっ、噂をすれば……ほんとうに母親を……)

 

 文香が言ったとおりの映像が目の前に映し出された。

 なんとも理不尽で、無残な──恋のときと、よく似た光景だった。あの子も文香の母親と同様に、身勝手な強盗に殺されたのだ。

 

 変なところで共通点があるものだな、とそう思って。

 

 

(えぇ、私たち二人とも)

 

(……そうだね。美咲君に──リアに救われたんだった)

 

 

 悪の組織に父親共々襲われた文香も、絶望に背中を押されて暴走していた僕も。

 一人の心優しい少女と、一人の真っ直ぐな少年に救われたのだ。

 

(ならば、今度は私たちが守らねばなりませんね!)

 

(うん、そうだね──)

 

 

 眩い光が消え去ってゆく。

 そして光っていたその場には、真に一つとなり、文香の姿へと変身した僕がいた。

 

「アクセス……完了だ」

 

 小さく呟きながら、両手を握ったり開いたりしてみる。

 ……うん、感覚的にもさっきより断然しっくりくる。これが本当にアクセスというものなのか。

 

 

「あ、あの……黒野さん? 何が起きて……?」

 

「気にしなくていいよ、美咲君。僕は──いや、僕たちはひとつ、殻を破っただけだからさ」

 

 ふわりと笑みを浮かべ、視線を眼下の悪魔たちへと向ける。

 

 フッ──決まった。

 

 

(……理愛、あまり恥ずかしくなるようなことは言わないで頂きたい)

 

(ごめん、なんか調子乗ってた)

 

 文香の一言で急激に恥ずかしくなってきたので、ドヤ顔をやめてコホンとひとつ咳払い。

 改めて眼下の悪魔たちを見やり、戦いへ赴く覚悟を決める。

 

「すべての力を解放した今なら、きっと()()()も来てくれるはず」

 

 力を確信し、僕は右腕を天高く頭上を掲げ──再び叫ぶ。

 

 

 

 

「来いっ!! エクスカリバァァァァァァッッ!!!」

 

 

 

 

 その叫びに呼応し、空に光る星が一つ。

 星は輝きを増して地上へと舞い降り──相応しい主人(マスター)たるこの僕の手に握られた。

 そう、今の僕は藤堂文香でもある。ならば彼女の武器である聖剣エクスカリバーを手にすることもまた必然なのだ。

 

「また共に戦おう、エクスカリバー」

 

 それは僕の言葉であり、文香の言葉でもあった。

 悪を打ち滅ぼさんとする眩き正義の心によって呼び覚まされたエクスカリバーは、融合してしまった現実と仮想の間で彷徨っていたその身を再び輝かせ──いま、()()へと舞い戻ってきた。

 

 そんな相棒と共に屋上の柵を超え、街に溢れかえる悪魔たち、そして元凶たるデビルへ届くように、声を張り上げて宣戦布告する。

 

 

「覚悟しろ悪党! 眩く世界に絢爛するエクスカリバーの輝きが、貴様という闇を照らし打ち滅ぼすッ!」

 

 

 大袈裟なくらいに大袈裟なセリフを吐いて、自分自身を焚きつける。僕はやれる──いや、僕たちならやれると。

 

 先ほどまでの不完全な僕たちではなく、フィリスの氷とロイゼの光、そして小春の稲妻によって構成された無敵の合体武器エクスカリバーを手にし、完全無欠の最強形態『セイバーフォーム』となった僕たちならば、魑魅魍魎跋扈するこの地獄変すらも無双ゲームのように攻略することができるのだ。間違いない。エクスカリバーを持ってる僕たちは無敵だ。古事記にも書かれている。

 

「いざ、尋常に勝負──」

 

 ビルの屋上を踏み抜き、今一度天高く跳躍し──聖剣を構えて自由落下していく。

 

 覚悟を決めたなら、あとはもう戦うだけだ。

 

 

「いくぞぉぉぉぉぉォォォォォォォッッ!!!」

 

 




デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

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