お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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 西暦2020年……

 特別な力が存在する仮想世界と突如融合してしまった巨大都市・シティ

 そしてシティで再び悪の組織を再結成させようと目論み、人類を脅かす存在・怪人

 デスゲーマーズとは、人々を守る使命を胸に宿し、信頼する相棒(バディ)接続(アクセス)して戦う若者達のことである!

 ──Gamers Ready Go!


接続戦隊 デスゲーマーズ

 ビルの屋上から見える眼下では、藤堂文香の姿へと変身した黒野理愛が、光り輝く聖剣を手に悪魔たちと熾烈な戦いを繰り広げている。

 

 彼女の力は先程までとは比べ物にならないレベルで上昇しており、群がる悪魔たちを一切寄せ付けない猛攻で次々と敵を屠り、その姿を悪魔から人間へと戻していっている──が、やはり敵勢力の数の方が圧倒的に多い。無類の強さを誇る聖剣を手にした彼女とて、街に闊歩するすべての悪魔たちを倒し切るのはおそらく不可能だ。

 

 

「……俺は、指を咥えて見てるだけだなんて……」

 

 

 拳を強く握り、屋上の柵を叩いて八つ当たりをした。そんなことをしても意味などないのに、ただ悔しさだけが先行して思考を単純化させてしまっている。

 

「黒野さんと文香は大軍を相手に二人だけで戦ってるってのに……!」

 

 自分はここから戦況を眺めるだけしかできない。その事実が歯痒く、俺は自分自身の無力を呪った。くそ、くそ──と怨嗟を口にするばかりで、一歩も前に進むことができない。

 

(……夜)

 

 そんな情けない俺に向けて、心の中で相棒が声を上げる。

 

(わかってる! このままじゃダメだってことくらい……分かってるんだ)

 

(それなら、どうするの……?)

 

 アイリールは問い詰めるような口調ではなく、不安げな声でそう問いかけてくる。無力を嘆く俺の怒りを感じ取って、少しだけ怯えてしまっているのかもしれない。

 

 

 ──バカだ。

 何をしてるんだ、おれは。

 怒りで前が見えていない。こんなんじゃとても戦いになんて赴けるはずがないじゃないか。

 

 

 切り替えろ。俺は何もできないんじゃなくて、ただ弱さを言い訳にして何も行動を起こしていないだけだ。

 

(……悪い、アイリール。俺……焦っちゃってたみたいだ)

 

(ううん、平気。……あと、あんまり気負いすぎないで? 夜は、決して強くはないんだから)

 

 

 ──あぁ、その通りだ。

 

 仮想世界で戦っていた時も、ゲームフィールドに侵入したときも、いつだって俺は強くなかった。自分一人で何かを解決できる程の力を持っていた時なんて、一度もなかったじゃないか。

 

 なら、今更無力を嘆いたって仕方ない。

 いつも通り、可能な範囲で、俺は自分にできることを全力でやるだけだ。

 

 

「ん゛っ! ……よしっ!」

 

 

 両手でパシンと自分の頬を叩き、気合を引き締めた。

 そして右腕に装着されているアクセスウォッチを操作し、変身準備を開始させる。

 

 今の俺は肩を負傷している……となれば、やはり戦闘行動を行うためには変身が必須だ。変身すれば肉体が美咲夜から『リア』に作り替えられ、一時的に無傷の体になることができる。

 

 現在の男の状態に比べれば体力も少なく筋力も貧弱になってしまうが、その代わりに身軽さと俊敏性、それとリアの主武装であるレーザー銃と超合金フライパンを得ることができる。

 

 ので、戦うのならば確実にリア形態の方が良い。

 

(アイリール、俺たちも下に降りて戦おう。……なるべく、足を引っ張らない範囲で)

 

(わかった。いつでも準備はいいよ)

 

 相棒はいつでもいけるみたいだ。ならば遠慮はいらない。

 

 

「いくぞ──変身(アクセス)ッ!」

 

 

 時計盤を強く押し込み、右腕を頭上に掲げて叫ぶ。

 途端にウォッチから白い光が発生し、俺の体全を包み込んだ。

 

「……よし」

 

 気が付けば、俺の体は男子高校生の美咲夜ではなく、小柄な銀髪少女であるリアの肉体へと変身していた。

 

「アクセス──完了だ」

 

 自らの手を握りしめ、噛みしめるようにそう呟く。

 俺たちは今、再び二人で一人の少女へと戻ったのだ。

 

 

(……ねぇ夜、いまの『アクセス──完了だ』って言う必要あった? 前は言ってなかったよね?)

 

(…………)

 

(黒野博士たちの真似? もしかして夜、さっきの博士たちのアレをかっこいいって思ったから、真似したくなっちゃったの?)

 

 う、うるさいですね……。

 

(ヒーローみたいに決め台詞とか欲しくなっちゃったのかな? 夜って意外と可愛いところあるんだね)

 

(ああああぁ! わかったよもう言わないから! とにかく行こう!)

 

 アイリールのいたずらめいた言葉の棘から逃げるように、俺は屋上の柵を超えた。

 

 いいじゃんちょっとぐらいカッコつけたって……男の子なんですよ!(逆ギレ) 

 

(別に何でもいいけど、どうやって下まで降りるの? 屋上のドアは鍵が閉まってるし、身体強化がある文香と違って私たちがここから飛んだら死ぬよ?)

 

(それは……)

 

 実際どうしたものか。腰のホルダーにはレーザー銃があって、背中にはいつの間にかフライパンがくっ付いているから、武装自体は完璧なんだけど……肝心の戦場へ向かうための移動手段がない。

 

 仮想世界のようにアイリールが幽霊になって空飛べれば話が早いんだけどな? ねぇねぇ?

 

(無茶言わないで……ここから飛んだら死ぬって言ってるじゃん……それにあの能力はあの世界だったから使えてただけだし……)

 

(いや、追い詰められた状況になればもしかすれば発動するかもしれないぜ)

 

(ばーか、だいたい私と夜が分離しちゃったらアクセス解けちゃうでしょ)

 

(うぐっ……じゃあどうするんだよ)

 

 行き詰まってしまい、二人して黙った。

 何か良い方法はないものか──

 

 

(あっ、夜。あれ見て、あそこ)

 

(ん?)

 

 

 心の中のアイリールに促され、顔を上げて視線をビルの下から正面へと向けた。

 

 

「……あれは!」

 

 

 正面の遠くに見えるのは、空を飛びながら地上へ向かって銃を撃っている一人の少女の姿が。

 

 少女の髪の色は『(レッド)』──少なくとも俺の知り合いには、赤色の髪の毛をした少女は一人しか心当たりがない。

 

 天真爛漫を絵に描いたような快活な性格で、年齢が一つ下の後輩で、俺のことを『リアねえ』と呼び慕ってくれる赤髪ツーサイドアップの巨乳少女。

 

 その名は──

 

「陽菜……自由ヶ丘陽菜!」

 

 いや、あれは陽菜であって陽菜ではない。

 この現実世界で能力者が自らの異能を遣うためには、パートナーたる誰かと『アクセス』をしなければならないのだ。

 

「……そうか、剛烈さんだ。あの人が陽菜に変身して戦っているんだ」

 

 デム隊の剛烈が変身しているのならば、能力を使いつつ、本来学生である陽菜が持ち得ない銃器を使用していることにも合点がいく。

 

 そして──

 

(夜、これなら……)

 

(あぁ、剛烈さんに協力してもらえば、一緒に飛んで地上へ下りられる!)

 

 そうと決まればさっそく行動だ。

 開いた両手で口の周りに壁を作り、即席メガホンで声が広がるように工夫し、叫ぶ。

 

 

「おぉーいっ! 剛烈さーん!!」

 

 

(……あっ、やったよ夜。剛烈さん、こっち向いた)

 

(よしっ!)

 

 

 包み隠さずガッツポーズをし、すぐさま大きく両手を振って彼女に存在を知らせる。その間もおーいと叫びながら待っていれば、ほんの数十秒で剛烈さんは俺たちの目の前に到着した。

 

「美咲くん! こんなところで何を……!」(あ゛ぁ゛ー! リアねえだぁー!)(ちょっと陽菜ちゃん静かに!)

 

 来てくれた剛烈さんは少しばかり焦っている。確かに戦場のど真ん中にあるビルの屋上で、しかもリアの姿に変身しているのだから驚くのも無理はない。

 

 ……しかし、あのいつも明るくて能天気な陽菜の、めちゃくちゃ真面目な表情を見られるの……なかなか新鮮だな。まぁ、中身が剛烈さんだから真面目なのは当たり前なんだけども。

 

「剛烈さん、俺たちも戦います」

 

「え……? で、でも……」

 

 彼女の反応は良くないが、それは当然だ。本来俺は戦っちゃいけない一般市民で、そもそもリア自体に非戦闘員もしくはクソ雑魚的なイメージが定着してしまっているのだから。

 

 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

「お願いします! 絶対足引っ張ったりはしませんから!」

 

「ま、待って、この街の惨状を見て? 核を破壊すれば解決するあのゲームフィールド事件とはワケが違うんだよ? それに、ようやく普通の学生に戻れたキミを巻き込むのは……」

 

 俺を巻き込まんとする理由は大人ゆえの責任感と、以前俺と一緒に寝たときの『絶対に守ってみせるからね』という言葉から来ているのだろう。

 

 

 でも、それでも……!

 

 

「あなただけに危険な思いをさせたくはないんです! 剛烈さんが俺を守ってくれるなら、俺も剛烈さんを守りたい! 前にも言いましたけど……俺、剛烈さんの為ならいくらだって頑張れます!」

 

「……美咲、くん……」

 

「この手で守らせてください! 大切な(仲間である)あなたのことを、俺にも!」

 

「っ……~っ!?」(これってリアねえからの告白では!? ねぇ雪音さん!? ねぇってば!?)(う、うううるさいなぁ! そそそ、そんなわけ……!)

 

 

 あれ? なんかそっぽ向いちゃった……もしかして、今の言葉選びまずかったか……? 

 

 

(あの……夜、もしかしてわざとやってる?)

 

(は? 何言ってんだアイリール……?)

 

(ねえぇぇ~~、その(ラブコメ特有の鈍感)主人公ムーブやめてぇ~~? こっちまで恥ずかしくなってくるんだけど~~)

 

(お前マジで何言ってんだ!?)

 

 

 最近よく漫画を読みふけっているアイリールは、以前より時折おかしなことを言う機会が多くなったように感じる。

 ともかく、今はこのよくわからん相棒にかまっている暇はない。

 

「剛烈さん! お願いします!」

 

「…………うぅ~! わかった、わかったからそんな簡単に頭下げないで……!」

 

「っ! ……ありがとうございます! 一緒にデビルをやっつけましょう!」

 

 共に戦うことを許可してくれた事実に感極まってしまい、思わず剛烈さんの手を握った。

 

「ふひゃあぁぁぁぁぁ↑」(雪音さんこれリアねえ絶対あたしたちのこと好きですよ! 抱きついてOKしちゃいましょうよ!)(ば、バカ! 変なこと言わないの! ……い、今はとにかく事態を解決しないと! うん! 今は!)

 

「ご、剛烈さん……?」

 

 なんか急に奇声あげたけど……。

 

「いやいや全然何でもない! それよりほら行くよ美咲くん! 空飛ぶからしっかり掴まっててね!」

 

「うわっ!?」

 

 首をぶんぶん横に振って捲し立てた剛烈はすぐさまリア状態の俺をお姫様抱っこすると、有無を言わさずビルから即座に飛び降りた。

 

 

 ちょ、落ちる落ちる、落ちるぅ──!

 

 

「ひぎゃあああああぁぁ!!」

 

「ちゃんと浮遊してるから大丈夫だよ!」

 

 恐怖で叫び散らす俺を宥めつつ──いつの間にか剛烈は自由落下から自在な空中浮遊へと移行していた。

 

「う、ぇ……?」

 

「ほら、目を開けて美咲くん。ちゃんと飛んでるから」

 

 体が小さいため剛烈の腕にすっぽりと収まっている俺は、なんとか顔だけでも上げ、落下の恐怖で重くなっていた瞼を開いた。

 

 その目に映るのはまるでミニチュアのように見えてしまう街の風景。

 まるで隼のように空を飛翔していき、景色が次々と切り替わっていく。

 

「こ……これが、空の世界……!」

 

「感動してる暇はないよ! どこに降りる!?」

 

 おっと、これはいけない。確かに感動している場合じゃなかった。俺を抱えたままじゃ剛烈が応戦できないし、俺も早く地上に降りて戦わないと。この状態で悪魔たちに攻撃されたら目も当てられない。

 

 比較的悪魔が少ない交差点を指差し、抱えてくれている剛烈に呼びかける。

 

「とりあえずあそこに下ろしてください! 走り回りながら近くの悪魔を倒していって、そのまま黒野さんと合流します!」

 

「わかった! 連絡が取れないから不安だったけど、黒野博士も戦ってるんだね……!」

 

「はい、俺たちと同じように文香とアクセスして、一人で大勢の悪魔たちを一気に相手取ってます!」

 

「えぇっ、ひ、一人でぇ!? まったく無茶するなぁ、もう……!」(リアねえの前だとみんなカッコつけがちですね)(そりゃカッコ悪いところ見せたくないからね! 特に美咲くんには!)

 

 

 銃弾とレーザーで地上の悪魔たちを牽制し、安全確保をしてから一旦地上へと着地する剛烈。

 そして俺をゆっくりとコンクリートの地面に下ろすと、すぐさま能力で空中浮遊を再開した。

 

「私たちは避難の方を少し手伝ってくるから! 美咲くん一人でも大丈夫!?」

 

「もちろん余裕です! 剛烈さんは安心して避難誘導に専念してください!」

 

「……さすが、男の子だね。じゃあここは任せるよ!」

 

 フッと小さく笑った剛烈はすぐさま俺に背を向け、まだ少し避難に遅れている人たちがいる方へ飛んで行った。

 

(よし、いくぞアイリール)

 

(まずは博士と合流だね)

 

 最初に果たすべきミッションを再確認し、俺は腰のホルダーからレーザー銃を取り出し右手で握った。

 

「道を開けろーッ!」

 

 前方に立ちふさがる悪魔たちにレーザーを乱射しながら、二つ先の広い交差点で戦闘している黒野と合流するべく、俺はその場から駆け出した。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

「うわわっ!」

 

 道中、まるで長篠の戦で織田信長がおこなった鉄砲三段撃ちのごとく、次々と入れ替わりながら火の玉を撃ち続ける悪魔の集団と出くわした。

 

 悪魔たちに戦術が取れるほどの知能が備わっていることに驚きつつ、俺は何とかフライパンで身を守り、隙を見て付近の車の影へ転がり込んだ。

 

「くっそ、ただ群れるだけだと思ってたけど、意外と賢いなあいつら……!」

 

 隠れている間も攻撃を続けてくるため、いつまでのこの車の後ろに隠れているわけにはいかない。どこかで隙を見て攻勢に出ないと。

 

(待って夜、あれ──悪魔だけじゃない)

 

(なんだって?)

 

(ほら、あそこ見て)

 

 アイリールの言葉に突き動かされるまま、コッソリと車の影から顔を出し、敵の様子をうかがってみる。

 

 その先にいるのは、黒い羽根を生やした人間たち──と、仮想世界で見覚えがあったような気がする、肌の色が赤とか青だったりと特殊な姿をしている、いわゆる『普通の怪人』たち。

 

 どうやら今回の怪人大騒動はデビル一人が引き起こした孤独な戦争というわけではないらしい。

 

(アイリール、どういうことだ?)

 

(憶測だけど……多分、デビルは最初から他の怪人たちと徒党を組んでいて、街で暴れる人数が揃ってからこの騒動を起こしたんだと思う。あの怪人たちの数からして、この騒ぎに触発されたり悪ノリで出てきたにしては、明らかに人数が多すぎる)

 

 おぉ~、これは名探偵アイリールだ。推理の速度が異次元だぜ。

 

(ちょっと夜、ふざけてる場合じゃないよ)

 

(分かってるって。……しっかし、悪魔以外も警戒しないといけないのは、ちょっとキツイな)

 

 悪魔たちはちょっとした飛翔能力と火の玉が出せる程度の性能なので、少し考えれば対策は容易だ。

 しかし、そこに個々で能力が違う怪人たちも混ざっているとなれば話は変わってくる。

 

 いったいどうすれば──

 

 

(あっ、夜。あれ見て、あそこ)

 

(えっ。また誰かいるの?)

 

 

 心の中のアイリールに促されるがまま、もう一度車の影からこっそり顔を出し、敵の集団の方へ目を向けた。

 

 

「……あれは!」

 

 

 目と鼻の先には、眩い光をまき散らしながら光熱線(レーザー)や銃器で怪人たちを屠っている、一人の少女の姿が。

 

 少女の髪の色は『(ゴールド)』──少なくとも俺の知り合いには、安いカラーリング材で染めたようなものではなく、あそこまで光を綺麗に反射する豪奢な金色の髪の毛をした少女は一人しか心当たりがない。

 

 才色兼備を鼻にかけることなくその人当たりの良さゆえに大勢の友人を持つ、同い年で有名企業の令嬢で、俺のことを『リアさん』と呼び親しんでくれている、金髪縦ロールの巨乳少女。

 

 その名は──

 

「ロイゼ……高月ロイゼール!」

 

 いや、あれは高月であって高月ではない。

 この現実世界で能力者が自らの異能を遣うためには、パートナーたる誰かと『アクセス』をしなければならないのだ。

 

「……そうか、真岡さんだ。あの人が高月に変身して戦っているんだ」

 

(このくだり二回目だけどまたやるの?)

 

 省略しよう。とにかく俺も車の裏になんか隠れてないで、加勢に行くぞ!

 

 

「おーい! 真岡さーん!」

 

「むっ、アイリ──いえ、あんたはボウヤね」(きゃー! リアさんです! あの姿でお会いしたのはいつぶりでしょうか!? 相変わらずミニマムで可愛らしいですわ!)(落ち着きなさい、ロイゼ)

 

 一瞬にして俺を見破った真岡の隣に立ち、レーザー銃を構えた。こうして近くまで来て改めて分かったが、敵の数は相当だ。

 

「ボウヤ、その姿は……そう。あんたも戦うためにこの場にいるのね?」

 

「あぁ! この騒動の元凶のデビルは黒野さんの命を狙ってるから、とにかくあの人と合流しないと!」

 

「なるほど。あんたらデートしてたはずだけど……相変わらず巻き込まれ体質ねぇ」

 

 やれやれ、と肩をすくめる真岡さんだが、その表情はどこか余裕そうだ。やっぱりこの人はいつでも余裕を忘れない大人だ──なんて感心しつつ、しっかりと意識は敵の方へと向けておく。

 

「もしかして黒野博士も変身して戦ってる感じ? 相手は?」

 

「うぇっ? よく分かったな……パートナーは文香だよ」

 

「そう。あの子がパートナーなら大丈夫そうね」

 

 真岡は手に持っていた拳銃をポイと投げ捨て、両手を広げて光を蓄積させ始めた。

 そして、少しだけ申し訳なさそうな声音で、俺に声をかける。

 

「また戦わせちゃって……ごめんなさいね」

 

「いや、謝らないでほしい。俺……こうして真岡さんと一緒に戦うことができて嬉しいんだ」

 

 デスゲームのときは頼りっきりで、現実に戻ってからも真岡さんの役に立てたことは少ない。結局ゲームフィールドの事件は、最終的にすべて俺以外の人が解決していたから。

 

 でも、今度こそ。今回こそ絶対に役に立って、ちゃんと恩返ししてみせる。

 

「あんた(と仲間)の為ならなんだってやるから! ごめんとか言わないで、もっと俺のことを頼ってくれ!」

 

「っ! …………ふふっ」(え!? えっ!? 正太郎さん!? どういうことですこれはいったい!?)(困ったわねぇ~♪ アタシって罪な(オカマ)ッ!)

 

 急に真岡が嬉しそうな表情になって、両手を自分の頬に当てながらでクネクネし始めた。……なんだ、ちょっとキモイ。

 

 

(ねぇぇ~~~夜さぁぁぁ~~~~)

 

(いちいちうるせーなお前!? 今日のアイリールなんかおかしいぞ!?)

 

(いやほんっっとにタチ悪いよ? なに? 男女問わずハーレムでも作りたいの?)

 

 何なんだ、わけわかんねぇ……。だいたい俺、どちらかといえばハーレムをぶっ壊した方の人間なんですけど。

 

「よーし! アタシがレーザーで前方の敵を焼き払うわ! そこにできる道から先に進みなさい! 黒野博士を守れるのはアンタだけよ!」

 

「あぁ! ありがとう!」

 

「張り切っちゃうわよォォォッ!」

 

 わざわざテンションを上げて士気も上げようとしてくれているのか、ありがたい。俺も真岡さんに倣って強気で行こう。

 

「ビィィィィィィィムっ!! はい、行った行った!」

 

「助かったよ真岡さん!」

 

 彼のおかげで道が切り開かれた。今こそ前進のときだ──!

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

(あっ、夜。あれ見て、あそこ)

 

(なに!? 三人目か!?)

 

 目前に戦闘中の黒野が見えてきたあたりで、心の中のアイリールが横を向けと囁いた。

 その言葉に従って右方向に首を動かすと──

 

「……あれは!」

 

 視界に映ったのは、こちらまで冷気が及ぶほどの氷を駆使して戦闘を繰り広げている少女の姿。

 

 少女の髪の色は『(ブルー)』──厳密には水色なのでシアンとかそこら辺だけど、ともかく青色の髪の毛をした少女は一人しか心当たりがない。

 

 氷のように冷たい無表情の奥に、友達思いの熱い心を秘めている、同い年でタピオカ好きの、青髪ショートボブの巨乳少女。

 

 その名は──

 

「フィリス……フィリス・レイノーラ!」

 

 いや、あれは

 

(ねぇぇもう三回目だよ? もういいよぉ)

 

 

 了解! あれはフィリスの姿に変身した、俺の親友である呉原だ! とりあえず加勢に行こう!

 

 

「呉原ーっ! だいじょぶかぁー!」

 

「よっと──うおっ、美咲!?」

 

 明らかに俺のアクセスウォッチを確認する前に、リアの姿をした俺をアイリールではなく即座に美咲夜と判断した。なんだこの親友おれのこと好きすぎだろ。

 

 

(いや、そりゃ私とは違う喋り方だったんだからすぐ分かるでしょ……)

 

(えっ! ……あ、確かにそうだな。うん、そうだそうだ、いけない俺の早合点だった)

 

(……夜さ、ちょっと呉原君のこと好きすぎない?)

 

(そそそそんなわけないだろ!? いい加減なこと言うのも大概にしろお前ーっ!)

 

(ああぁぁぁラブコメ鈍感主人公ムーブのあとにツンデレヒロインムーブとか面倒くさいよこの人ぉ……)

 

 お前こそさっきからうるさくて面倒くさいんじゃい! ちょっと黙ってろアホ!

 

 

「助けに来たぞ呉原! 一緒に戦おう!」

 

「お、おう」(リアだ。ねぇ永治、リアだよ。リアが女の子に戻ってるよ。アイリじゃないよこの子リアだよぉおっほぉ♡)(気持ち悪いぞフィリス……? どうした……?)

 

 呉原が両手を地面に叩きつけ、そこから大きな氷の壁が生成された。これで一時的に防壁が作られたことになる。

 よし、今のうちに情報共有だ。

 

「呉原、あの藤堂は黒野さんがアクセスした姿だ。それで今回の黒幕はデビルで、いろんな怪人たちを引き連れて黒野さんの命を狙ってる」

 

「な、なるほど……? ちょっと十秒だけ時間くれ」

 

「へ? う、うん」

 

 呉原に言われたので黙る俺。

 

 目を閉じて唸る呉原。

 

 

 五秒。

 

 

 ──十秒。

 

 

「……よし、だいたい分かった」

 

「ほんと?」

 

「あぁ。とりあえずは黒野博士に加勢しよう。今のあの人は強力な戦力だけど、同時に守る対象でもある」(おい永治(えいじ)! 守る対象はリアなんだが!?)(うるせーなお前は少しだぁってろ!)

 

「わかった、じゃあ行こう!」

 

 

 次なる作戦行動を決めた俺と呉原はその場から走り出し、少し先で聖剣をブン回している文香──黒野さんの元へ駆けつけた。

 

 

「は゛ぁ゛……は゛ぁ゛……!」

 

 

 既に黒野さんはかなり消耗しているようだ。確かにこの短時間で、軍勢といっても差し付けない数の相手と戦っていたのだから、当然と言えば当然だ。

 急いで駆け寄り、フラついている黒野さんに肩を貸した。

 

「黒野さん、助けに来ました」

 

「……えっ。み、美咲君……? どうして……? え?」

 

 俺を庇って悪魔軍団に吶喊した黒野さんからすれば、俺自身が助けに来る状況は意味不明なのだろう。かなり混乱しているようだ。

 

 ここは説明と共に、俺の気持ちも伝えておかないと。

 

「俺も戦いますよ、黒野さん」

 

「なっ……そ、そんなこと、君がしなくても……!」

 

「言ったじゃないですか、俺があなたを守るって。近くにいないと守るものも守れませんよ」

 

「っ。…………~~っ!」(ねぇ文香? この子ってなんでこんなセリフを恥ずかしげもなく言えるの? こわい……すき……)(気持ちはわかりますが落ち着いてください理愛。剣が乱れてしまいますよ)

 

 情報共有も終わったところで、ようやく本格的に戦闘への参加だ。

 現状は悪魔と怪人の大群すべての殲滅以外に解決法ないものの、少なくとも司令塔に近い役割であるデビルを倒せば相手の指揮系統が乱れて戦いやすくなるはず。

 

 しかしこの軍団の中から、あまり他の悪魔と外見的違いが無いデビルを探し出すのは至難の業だ。総当たりするにしても数が多すぎる。

 

 

 ──ならば。

 

 

「黒野さん、デビルを挑発してください」

 

「えっ?」

 

「奴の目的はあくまであなただ。それなら生死の状況が確認できるこの付近にいるに違いない……だから、デビルをあぶり出すために大声で叫んでほしいんです」

 

 作戦の意図はいま言った通りの内容ですべてだ。無論作戦と呼べるほどの高尚なものじゃないが、少なくとも闇雲に戦い続けるよりは事態解決の道へと近づくはず。

 

「ちょっ、待て美咲。それは少し危険すぎやしないか?」

 

「……確かに、戦闘力が一番高いデビルをわざわざ黒野さんの近くへ呼ぶのは危険だな」

 

 だが、蓮斗と小春はあいつに勝てた。辛勝だったけどしっかり勝利を収めたんだ。なら俺たちにだってできない道理はない。

 

「でも……今の黒野さんは強い。それに俺と呉原ならラスボス相手だろうとうまく立ち回れるさ。俺はお前を信じてるぞ、親友……!」

 

「っ、……。おまえ、なぁ……」(永治、リアに頼られてるよ。『……もう、絶対一人にはしない』とか恥ずかしいこと言って前はカッコつけてたんだから、今こそ助けてあげるとき!)(昔のセリフ掘り起こしてくるのやめて!?)

 

「……呉原?」

 

 顎に手を添えて考えるそぶりを見せた呉原が、少々の沈黙。

 

 ──数秒後、意を決したように目を開けて俺の隣に立ってくれた。両手に冷気を纏わせて戦闘形態へと移行しながら、正面の怪人たちを睨みつけている。

 

「呉原……いいの?」

 

「……やるよ、デビル相手だろうがやってやる──なんせ、お前に信じてるって言われちまったからな」

 

「ふぇ……えへへ、ありがとう」

 

「おう、任せてくれ」(嬉しそうに顔赤くしてるリアかわいいな????)(お前は本当に少しでいいから黙ってろ)

 

 これで挑発に乗せられたデビルが目の前に現れても、俺たちで黒野さんをフォローできる陣形が完成した。あとは本命の黒野さんだ。

 

「お願いします黒野さん!」

 

「……うん、わかった」

 

 言葉にするセリフを頭の中で整理した黒野さんが、コホンと一つ咳払い。

 深呼吸をするように大きく息を吸い──響き渡るほどの声量で叫ぶ。

 

 

「…………ふふふ、ハハハハ。ハーッハッハッハハ! どうしたデビルゥ! こんな雑魚どもばかりを差し向けて、キミは高みの見物かい!? そうだろうなぁ! そうするしかないよねぇ!? なんせキミは一度僕に負けて洗脳されているのだから、怖気づいて戦えないのも無理はないさ! なぁ臆病者よ! ブゥッハハハハハッ!!」

 

 

 ……びっくりした。

 黒野さんにまさかこんな悪役ムーブ全開のセリフが言えるとは思っていなかった。いや煽れって言ったのは俺なんだけども。

 

「科学を極めもう一つの世界すらも創造してしまう──狂気のメァァッドサイエンティストたるこの黒野(クロノ)理愛を恐れるがいい! 指を咥えて見ているがいい! そうやって怯えながら物陰にコソコソと隠れて、なぁ! フゥーハハハハハハッ!! げほっ、ゴホッ!」

 

 まるであの仮想世界で身勝手に大暴れしていた()()()に戻ったかのように、どこかにいるであろうデビルを呵呵とばかりに笑い飛ばしている。それは最後に咳きこんでしまうほどの、まさに迫真の演技であった。

 

「どうだ、呉原!」

 

「まて、変わった様子は──いや、あそこを見ろ!」

 

 周囲を索敵していた呉原が指差した方向は、俺たちの真上の空。

 

 そこには逆光を浴びながらこちらを見下ろしている一人の男性の姿があった。

 

 

「クロノォ゛……ッ!」

 

 

 デビルだ、間違いない。額に青筋を立てて既に怒り狂った状態で、空から俺たちを睨みつけている。

 よし、今のうちに先制攻撃を──

 

「馬鹿な奴らだ! 貴様らの相手はこのデビルだけではない!」

 

 デビルがそう叫び散らした瞬間、後ろにいた黒野さんが声を上げた。

 

「二人とも! あそこ!」

 

「っ! あれは……!」

 

 彼女が指差した方角には大量の怪人たち──そしてその中心には、見覚えのある人物が一人立っていた。

 

 白いローブを身にまとっているあの男は、確か俺が藤堂を助けるときにハイパームテキでぶっ殺した怪人だ。あの様子を見るに、奴は怪人側のリーダーなのかもしれない。

 

「……美咲君、呉原君。下がっててくれるかな」

 

「く、黒野さん?」

 

「あいつは……アイツだけはこの手で倒さないと」(……文香)(えぇ、奴は師匠を──お父さんをナイフで半殺しにした、憎き怨敵……!)

 

 まずい。因縁がある相手だけに、黒野さんの中の藤堂が先行してしまっている。

 この場で大切なのはチームプレイだ。今彼女を一人であの白ローブの怪人の元へ行かせるわけにはいかない。

 

「ダメです黒野さん、藤堂。白ローブのアイツも倒すべき敵ですが、単独行動は自殺行為だ」

 

「美咲君……」

 

「藤堂の気持ちは分かります……でも、こんな時だからこそ、冷静でいないと」

 

 必死に説得の言葉を羅列していく。こちら側の旗である黒野さんを一人で行かせるわけにはいかないんだ。

  

 

「…………うん、ごめん。冷静じゃないと、だよね」

 

 

 分かってくれたようだ。大人だけあって飲み込みが早い。

 

「ちゃんと一緒に戦うよ。……でも、そのうえで白ローブとの決着は、僕たちに着けさせてほしい」

 

「えぇ、もちろんです」

 

「……ありがとう」

 

 陣形が崩れるようなことはなくて一安心だ。

 

 

 しかし、そこで怪人の軍勢を引きつれている白ローブが僕たちに向かって叫んできた。

 

「お前たち正義の能力者を殲滅できれば我々の勝ちだッ! この街はまた怪人のものとなる!」

 

「……あくまで目的は俺たちってことか」

 

 怪人たちはあの仮想世界で達成したように今一度この街を支配下に置きたいらしい。その物量による暴力で街を掌握し、再び悪の組織を復活させようと躍起になっているのだろう。

 

「お前ら! やってしまえぇぇ!!」

 

「っ!?」

 

 まるで対話など最初からする気がないのか、いきなり後方の怪人たちに向かって指示を出す白ローブ。

 彼の指示に従った他の怪人たちはビームだったり火の玉だったりと、飛び道具を一斉掃射してきた──!

 

 

「まずいっ、呉原──」

 

 間に合うか? この広範囲の攻撃を防ぎきれるだけの大きな防壁の生成を、この一瞬で──

 

 

 

「──夜にいッ!!」

 

 

 

 呉原が焦って氷の壁を生成しようと地面に手を付けた、その瞬間。

 

 遠くから何者かの声が聞こえ──氷の壁が生成されるよりも先に、遥か彼方より飛来してきた(いかづち)が俺たちの目の前に降り注ぎ、怪人たちの一斉攻撃──そのすべてを高圧の電撃をもって焼き払ってしまった。

 

 なんだ、何が起きている……?

 

(夜、あそこ、ちょっと遠くにある車のうえに誰かいる……!)

 

(なに? ……まさか!)

 

 心の中のアイリールに促されるまま左斜め前方に目を向けると、そこには乗用車の上で両手から目に見えるほどの青白い電流を周囲に迸らせながら、群れる怪人たちを薙ぎ払っている少女の姿が。

 

「……あれは!」

 

 少女の髪の色は文香の『(ブラック)』と同じ、日本人然とした艶やかな黒髪だが、セミロングであんなに可愛い女の子には一人しか心当たりがない。

 

 ──そうだ。俺が仮想世界で一番最初に助け、そして逆に俺の命も救ってくれた、あの子は。

 

 その名前は──!

 

 

「小春……いやっ、朝陽!?」

 

 

 能力を使ってるってことは、あれは小春の姿に変身した朝陽ってことになる──あいつ何でこんな危ない場所に!?

 

(どどどどどうしようアイリール!?)

 

(落ち着いてブラコン)

 

 俺が心の中のアイリールに宥められている間に、朝陽は電気を応用した長距離跳躍で車の上から脱し、俺たちの目の前へと降り立った。

 

 すぐさま俺は朝陽の元へ駆け寄り、その両肩をつかんで問いただす。

 

「朝陽! こんな危ないところに来ちゃだめだろ!? 何で戦ってるんだ!」

 

「よ、夜にい……」

 

「だいたい──小春! お前が付いていながら何で!」

 

「ちょ、ちょっと待って夜にい! 話を聞いて!」(ひぃぃぃぃぃリアちゃんに怒られたぁぁぁ……死んじゃううぅぅ……)(小春さんしっかり! ちゃんと説明するって決めたでしょ!)

 

 まさかこんなところで会っちゃうなんて思わなかった。朝陽はまだ小学生だし、命を懸けた怪人との闘いなんて早すぎるし荷が重すぎるしそもそも俺が絶対に許さない。

 

「ボクたちも戦うって決めたんだ、元をたどればボクが小春さんを説得する形で」

 

「だ、ダメに決まってるだろ……! それに怪我したらどうするんだ! そんな危ないことしちゃだめだ! 絶対に! 小春も朝陽のこんなわがままを聞いたらダメじゃないか!」

 

 

「──違うよッ! 夜にいのバカ!」

 

「っ!?」

 

 

 両肩を掴んでいた手を振り払われてしまった。しかもバカって言われた。

 そんな事実に動揺していると、小春の姿をした朝陽に正面から服を掴まれてしまった。こわい。

 

「ど、どうしたんだ朝陽……?」

 

「ちゃんと小春さんのことも考えてよ! 戦えない小春さんが仮想世界でどんなに悔しい思いをしてたか、夜にいなら知ってるでしょ!?」

 

「……それ、は……」

 

「このライトニングフォームは夜にいの隣に立って戦うために得た力なんだ! これを今使わないで、一体いつ遣うんだよ!」

 

 でも、それでも朝陽が危険になるのは……。

 

 

「……俺は……朝陽に何かあったら、立ち上がれなくなる。お前のことを守れなかったら、俺は……!」

 

 

 そんな弱音を吐いた──その瞬間。

 朝陽が俺のほっぺをつまんできた。そんでグイーッと引っ張ってきた。いたい。

 

「あ、あはひ……?」

 

「……見くびらないで。ボクだって小春さんのパートナーなんだ」

 

「…………」

 

「戦わせてよ夜にい。ボクと小春さんも一緒に!」

 

 真剣な眼差しで俺の目を見ながら、必死にそう訴えかけてくる朝陽。リアの俺の方が小春状態の朝陽より小さいせいか、物理的に見おろされていることもあって威圧感を感じる。特に目の前のデカいおっぱいが俺を脅している。相変わらず小春の存在感のある巨乳に気圧され、俺はたじろいで一歩下がった。

 

「う、うぐ……」

 

「夜にい!」

 

 だが、確かに朝陽の気持ちは伝わってきた。どれだけ本気なのかということも、どれほどパートナーである小春のことを想って行動しているのか、も。

 

 ……過保護すぎたのかな、俺は。

 いつの間にか、朝陽には逆境に立ち向かうだけの強い心と、信頼できるパートナーの存在があった。そんなことにすら、今の今まで気が付かなかったとは。

 

 

「……わかったよ、朝陽」

 

「っ!」

 

「小春と一緒なら……大丈夫なんだろ?」

 

「もちろん!」

 

 ならば、俺も過保護な兄貴は少しばかり辞めないといけないな。

 

「じゃあ、一緒に戦おう」

 

「……! うんっ!」

 

 嬉しそうに頷く朝陽の姿を見て、この選択は間違いではなかったと確信できる。

 

 ──もし、これで朝陽が大怪我を負ったら? 最悪、命を落としてしまったら?

 

 馬鹿か。そんなことは考えるだけ無駄だ。

 朝陽には小春がいる。俺が信じたあの小春が付いているのだから、そんな最悪の事態にはなりえない。そもそもヤバそうだったら俺が死ぬ気で助けるから無問題だ。

 

 

 

「ふ、ふん! 一人増えたところで、たった四人の貴様らに勝ち目などない! この怪人たちの数を見ればわかるだろう!」

 

 白ローブが吠える。しかし、それを意に介さず俺たちは彼らと真っ向から対峙する。

 

 なぜなら──俺たちは四人ではないからだ。

 

 

「美咲くーん! みんなー!」

 

「お待たせしちゃったわねぇぇぇぇッ!」

 

 

 空より飛来する影が二つ。あれは真岡を抱えた剛烈だ。

 銃器とレーザーで怪人たちを牽制し、降り立つスペースを確保し、そこへ着地した。俺たち四人も彼女らの元へ駆け寄る。

 

「二人とも! あっちは大丈夫なのか!」

 

「えぇ、避難誘導はもう完璧よ。残りは警察に任せて──あとはこのヴィランたちをやっつけるだけ!」

 

 怪人たちの方へ向きながらそう叫ぶ真岡の隣に、俺たちは横並びに立つ。

 はたから見れば六人しかいないが、今ここには俺たち十二人のメンバーが集結している。

 

 そんな俺たちに対して、白ローブの隣に降り立ったデビルが叫び散らす。

 

「貴様ら正義の能力者を倒した事実が広まれば、陰で燻っている怪人たちも決起する! そうなれば再びこの街は我々のものとなるのだ!」

 

 悪役特有の目標説明をどうもありがとう。

 ということは──だ。事実に気が付き、俺は怪人たちに返答をする。

 

 

「お前たちを全滅させれば……陰で燻っている怪人たちも恐怖で諦め、悪の組織再結成は霧と消える──ってことだな?」

 

 

 その指摘に対して、怪人たちが怯む様子はない。俺たちの集結に驚きこそしているが、自分たちの勝ちを疑ってはいないのだろう。

 なんせ数百人の軍団 VS 6人の圧倒的戦力差だ。それも当然と言える。

 

「フン、せいぜい強がっているがいい。この現場は現在ネットで生放送中だ、お前たちが負ければ街の人間は絶望し、怪人たちは歓喜し我々に賛同する。完璧な仕組みだ!」

 

 生放送中だと? ……ふふん。

 それはなんとも都合がいいな。つまり俺たちの活躍を目にすれば、放送を見ている怪人たちは怖気づき、俺たちという強い正義の集団がいるという情報が、そのまま悪への抑止力となるわけだ。

 

 ならば存分にアピールさせてもらおうじゃないか。お前たちが用意した生放送を利用してな!

 

 

「みんな! 今こそ俺たちの存在を世に知らしめるときだ! この街には俺たちがいるんだって事を、怪人たちや悪党に分からせるッ!」

 

「うん!」「あぁ!」「そうね!」「わかった!」「任せてくれ!」

 

 仲間たちが同時に返事をし、心構えも準備も完了した。

 あとは、そう──

 

 

  名乗るだけだ。

 

 

「いくぞッ!」

 

 

 俺の声に従い、全員が一歩前へ出る。

 さぁ今こそ、その名を高らかに宣言する時だ。

 

 

「陽菜レッド!!」

 

 赤髪(レッド)剛烈(ような)が叫ぶ。

 

 

「え、あ、そういう感じ? ……ふぃ、フィリスブルー……ッ!」(なにこれ! 恥ずかしすぎるんだが!?)(リアが楽しそうだから乗ってあげて)

 

 青髪(ブルー)呉原(フィリス)が良さげなポーズを取る。

 

 

「文香ブラックゥァァ!!」

 

 黒髪(ブラック)黒野(ふみか)が高らかに宣言する。

 

 

「ロイゼゴールド……ほいっ」

 

 金髪(ゴールド)真岡(ロイゼ)が能力の光で派手に演出する。

 

 

「リアシルバーッ!!」

 

 銀髪(シルバー)美咲(アイリール)がフライパンをもってカッコいいポーズでセンターを飾る。

 

 

「え、えっと……あ、こっ、小春サンダー!!」(小春さんって黒髪だし特徴なさすぎません? 今のでよかったんですか……?)(大丈夫! 私たちは戦隊ヒーローにおける特別枠の六人目だから!)

 

 電気(サンダー)を纏った朝陽(こはる)が電撃で俺たち全体を豪華に演出しながら叫ぶ。

 

 

 ……黒髪という部分で藤堂と被っていたのでどうするのか気になっていたが、そうか、サンダーか、いいな。

 六人目のヒーローは別に名前の後ろが色じゃなくても許されるというジンクスがあるからな。赤色が被ってるから共通の名前の後ろに『ファイヤー』とか『ソルジャー』とか付けてるヒーローもいるし、ここでの『サンダー』は大正解だ。よくやった朝陽!

 

 

 さぁ、個々の名乗りは終わった──あとは!

 

 

「いくぞ、せーのっ」

 

 

接続(アクセス)戦隊! デスゲーマーズッ!!』

 

 

 口をそろえて俺たちのチーム名を叫んだ瞬間、気を遣った真岡と朝陽の能力により、俺たちの後ろで派手な大爆発が巻き起こった。完璧な名乗りすぎて恥ずかしさが逆に無くなってしまったわね……。

 

 

「な、なんなんだ貴様らは……!」

 

 いい感じに敵が狼狽えてくれているので、今のうちにこちらから仕掛けてやろう。

 

 覚悟しろよ悪党ども! 俺たちを敵に回したことを後悔させてやる!

 

「ゲーマーズ! レディ───」

 

 両手をパシンと強く叩く、その瞬間が合図──

 

 

「ゴーッ!!」

 

 

 瞬間俺たちはそれぞれの能力や武器を手に、怪人たちの軍団へ向かって駆け出した。

 いくぞぉぉぉぉぉ!!

 

 

 




一人だけハブらレン:( ´;ω;`)

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