お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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今回もちょっと長いです


まけるな蓮斗くん

 

 

 

 勢いづけて怪人の大群に吶喊してから約三十分後。

 

「はぁ゛ーっ、ハァーっ……!」

 

「ボウヤそっち危ないわよ!」

 

「おわぁ!?」

 

 高月に変身している真岡から注意の声が聞こえた瞬間に氷の弾丸が頭上を掠り、思わずビビッて悲鳴を上げた。どうやら交戦中のフィリスの氷の攻撃が逸らされて、俺の方に飛んできたらしい。

 しかし氷の弾丸を発射した当の本人である呉原(フィリス)は、こちらの様子に気がついていない。それほど目の前の敵に集中しており、それは彼女に余裕がないという事実の裏付けでもあって。

 

 

 そう──交戦開始から三十分経って、俺たちはまだ隔離空間の一階で足踏みをしていたのだった。反撃開始!って感じで突撃したのに、これじゃカッコがつかない。

 

 

 予想以上に怪人の数が多い──というより、一向に減る気配がない。

 この真っ白な空間の端がどうなっているのかは分からないが、もしかするとこの怪人たちは時間経過で逐一追加投入されているのではなかろうか。やべぇぞ終わらねーぞこれ。

 

「ぐぬぬ……」

 

 俺たちの目的は上空に浮かんでいる扉の先にあるというのに、そこへ一切近づけないのは如何ともしがたい歯痒さを感じる。

 陽菜に変身した剛烈の空を飛ぶ能力で接近するのが、多分一番手っ取り早い方法だったはずなのだが、飛行中に下から無数の矢や火の玉を放たれて、その作戦は失敗に終わった。頬に弓矢の先っぽが掠った時はさすがに心臓が止まるかと思ったわね。

 

 どうすっかなこれ。こういう手詰まりな状況の時は、いつも心の中でアイリールが助言してくれていたけど、今はアイツと一緒じゃないし。

 

 少しでも道が拓ければ、その間隙を縫って扉に近づく、とかできると思うんだけど──あっ。

 

「そうだ、エクスカリバー……!」

 

 あの破壊力を持ってすれば、この大群相手でも一時的に道を作れる筈。

 そうと決まれば早速指示だ。

 

「みんなー! 円陣を組んで黒野さんを守ってくれーい!」

 

 まるでお祭りのように騒がしい戦場の中で、自分に出せる最大の声量で指示を飛ばした。

 爆発音や怪人たちの叫び声でこんなに周囲がうるさいと、俺の声も簡単には届かない気がするけど──

 

「っ! 真岡さん一旦黒野の近くに集合だ! 作戦があるッ!」

 

「分かったわ!」

 

 俺の声が唯一届いた呉原がデカい声で真岡に指示を伝えたことで、間接的に真岡にも俺の声が届いた。

 

「剛烈ーっ! 黒野博士んとこ集合ー!」

 

「りょーかーいっ! あっ、蓮斗君こっち来てー!」

 

 伝言ゲームのように次々と俺の指示が仲間たちに伝播していき、それを受け取ったみんなは、満員電車の如く溢れかえる怪人たちを薙ぎ払いながら、ついに黒野の周辺に集結した。

 

「えっ、なに!? みんなどうしたの!?」

 

 当の黒野は混乱していて、縋るような目で俺を見てきた。ごめんね、一番最初に伝えるべきだったね。

 

「黒野さんはエクスカリバー発射の準備をしてください。チャージの間は無防備になるだろうけど、俺たちが絶対に守ります」

 

「ふぇっ? ……ぁっ、あぁ、なるほど。確かに、この状況なら一点突破しかないか」

 

 その通り。道が拓けたら全員で突き進んで、上空にあるあの扉を目指す。んで、あそこに辿り着くには、剛烈の能力で飛んでいくか、もしくは呉原の氷で階段を作るかだけど……。

 

「美咲。分かってるとは思うが、一人残さず全員で次のステージに──ってのは無理だ」 

 

「うぐっ……」

 

 考えないようにしてたことを、呉原にハッキリと言われて怯んだ。

 ……そうなんだよな。どう考えてもこの状況、ほとんどのメンバーが足止め係になって、残った一人か二人の少数精鋭が先に進む、ってやり方じゃないとここは超えられないんだよな。

 

「やだなぁ、皆で先に行きたいなぁ」

 

「我が儘言ってる場合じゃないでしょ!」

 

「ごめんなさい……」

 

 ビームぶっ放して応戦してる真岡さんに怒られた。

 (´・ω・`)……。

 

 いや、だってさぁ? ゲームとかならまだ分かるけど、現実で『ここは任せて先に行け!』って展開は流石に不安の方が大きいと思わない? クッソ危ない場所に敢えて置いていくってことなんだぜ?

 戦いが終わって戻ってきたら、場を任されたみんなが見るも無残な姿に……とか絶対嫌だぞ。そうなったらマジで心ぶっ壊れるぞ。俺が無表情キャラになっちゃうぞ。

 

「美咲くん後ろ!」

 

「ひょわっ!?」

 

 うだうだと余計な事を考えてたら背後から襲われかけた。剛烈さんが華麗なる飛び蹴りで助けてくれなかったら危なかった……。

 

「リア、ここは皆を信じよう」

 

「……やっぱり俺と蓮斗だけで進むの?」

 

「それしかない」

 

 ワールドクラッシャーの能力は未知数だし、操られている小春も強敵──だけどやっぱり危険度の高さで言えば、確実にこの怪人フェスティバル開催中の一階層目が一番危険だ。

 数千人をたったの六人で立ち回っていて、しかもこれからさらに二人減って四人で対抗するとなると、やはり仲間への心配が俺の足を鈍らせてしまう。

 

「無敵の力が使えれば……」

 

 右腕に巻いたアクセスウォッチとは別の、左手に装着されている金色の腕時計に視線を落とす。

 これは以前黒野から貰ったハイパームテキウォッチ。五分間だけ最強の無敵状態に変身できる代物なのだが……。

 

「アイリールがいないと使えないなんて……ぐぬぬ」

 

 発動条件は『俺が物理的にリアの姿でいること』であり、そして俺がリアになるためには、アクセスウォッチを用いてアイリールとアクセスしなければならない。

 つまり彼女がいない現状では、これを使って無双することができない。

 

「くっ、俺はなんて無力な……」

 

「だぁぁー! いちいちうるせぇな美咲!? いいから俺たちのこと信じろよ! 絶対死なねぇから!」

 

 交戦中の呉原の叫びに呼応するように、戦っている他の三人も頷いた。どうやら迷ってる暇はないらしい。

 

「……わかった! ここは任せるけど、皆なるべく死亡フラグみたいなセリフは言わないようにな!」

 

「美咲君、この戦いが終わったら僕、きみに伝えたいことがあるんだ……」 

 

「言ったそばからやめろ!」

 

 冗談言えるなら大丈夫だな! じゃあもう本当にここは任せるから!

 

 

「──エクスカリバー撃つよ! 発射後三秒で全員駆け出してくれ!」

 

 

 黒野の合図で全員が一旦彼女の後ろに避難した。

 そして黒野を除いた全火力で背後の敵を牽制し、その隙に彼女が前方めがけて聖剣ビームをぶっ放した。銅鑼を思わせる轟音が空間全体に響き渡り、地響きと共に巨大な閃光が怪人たちを焼き尽くしていく。

 敵ごと地面を抉り取り、光が消滅するとともに正面に道が出来た。大群の中央に一筋の長いクレーターが出来ている。

 

 瞬間、駆け出す。少女四人に左右を守られながら、俺と蓮斗は全速力で前進する。

 

「行け二人ともッ!!」

 

 呉原が地上から空中の扉にかけて、氷で出来た巨大な階段を即時生成。俺たちは即座に階段を駆け上っていく。

 そんな下からの攻撃に無防備となった俺たちを、怪人たちが投擲武器などを駆使してを狙い、さらにそれをデスゲーマーズが食い止める。

 本当にギリギリだ。彼女たちの防衛をすり抜けてきた弾丸や火の玉が、氷の階段を容赦なく削っていく──が、それでも階段が下からの攻撃に対して、俺たちの盾になってくれている。もし氷の階段という壁を隔てず、陽菜の能力でフワフワと飛んでいたら今頃蜂の巣だっただろう。

 仲間を信じながら一心不乱に階段を駆け上がっていくと、ようやく次階層への扉を眼前に捉えることが出来た。

 

 

「リアっ!!」

 

 

 地上から一際大きな声が聞こえてきた。走りながら眼下へ視線を向けると、水色の髪を揺らして戦っている少女の姿が見える。あそこにいるのはフィリスの姿に変身している呉原だ。

 しかし、彼は俺をリアとは呼ばない。蓮斗以外に俺のことをただ『リア』とだけ呼ぶ人物は、ただ一人だ。

 

「アイリのことお願いっ!!」

 

 ()()の親友である少女の祈りを確かに受け取り、俺たちは扉を叩いて次の階層へと飛び込んだ。

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 リアと共に飛び込んだ先も、また同じく真っ白な空間だった。

 先ほどまでのけたたましい爆発音鳴り響く戦場とは打って変わり、俺とリア──そして小春しか存在しないこの二階層は森閑としている。

 前を注視すると、正面の少し離れた位置に佇んでいる妹の首に、黒い首輪が取り付けられていることを認めた。ここへ訪れる前にリアから聞いた話の通り、小春はあの首輪で操られている様子だ。

 瞳は光を移しておらず、傍から見れば茫然自失の小春は、俺たちを視認するや否や、即座に青白い電流を体に纏った。明らかな臨戦態勢だ。

 

「蓮斗、あれ……」

 

「あぁ。恐らく小春の後ろにあるあの扉が、三階層へ行くための入り口だ」

 

 洗脳された小春は言わば門番なのだろう。確かに彼女の能力は、攻撃面や破壊力で考えれば、デスゲーマーズの中でトップの性能を誇る。能力だけで戦闘力の強さを順位化するのであれば確実に彼女が一位だ。そんな小春の能力の強力さを知っているからこそ、クラッシャーは彼女を門番としてここに置いた。

 なるほど合理的だ。洗脳状態でデメリットを気にしない本気の小春であれば、俺たちを退けることも容易だろう。

 

 だが、彼女の力を過信して、あえて人質にしなかったのがクラッシャーの失策だ。

 

「リア」

 

「……分かってる。小春のことは全部任せる」

 

 あくまでここは通過点。俺たちの目的はリアをアイリと合流させ、無敵の力でワールドクラッシャーに対抗してもらうことにある。

 だからこんな場所で立ち止まるわけにはいかない。危険な第一層を四人だけに任せてまでリアに付いてきたのは、俺がここで小春を引き受けるためだ。

 

「小春が仕掛けてくる前に俺が先制する。そこで怯んだ隙に行ってくれ」

 

「……」

 

 リアが不安を隠しきれてない表情で俺を一瞥する。

 彼の考えていることは分かる。リアはきっと、俺が小春を攻撃して平気なのかが心配なのだろう。

 ……平気か、と問われれば答えはノーだが、ここは意地を張るところなのだから弱音は吐かない。

 

「だいじょぶだって。ここへ来る前にも説明したろ?」

 

 最強の攻撃力を誇る我が妹を相手取るならば、仲間全員の能力を使えて戦う手段が豊富な俺が適任……という苦しい理由を付けてまで皆を納得させてここへ来た。

 一世一代の兄妹喧嘩をするために。まぁ、多分リアにはバレてるだろうけど。

 

「……わるい蓮斗、余計なお世話だったな。妹のことはお兄ちゃんに任せた」

 

 パシンと自分の頬を叩いて気合を入れ直したリアは、不敵に笑って俺の肩を小突いた。

 

「おう。そっちもちゃんと取り戻してこいよ」

 

「フッ、秒で連れ帰ってやるぜ」

 

 それは無理じゃね?

 

「期待して待ってるよ」

 

 つい言いそうになった言葉をグッとこらえ、調子に乗りがちなリアの背中を、俺も発破をかけるように叩いた。少し強かったかもしれないが、リアもそれで気が引き締まったみたいだ。

 別れの挨拶は済ませた。後はお互いに自分のやるべきことをやるだけだ。

 

「──走れリア!」

 

 叫びと共に俺はフィリスの能力を発動し、つま先から冷気を発して地面を凍らせ、小春の足元へ向かって氷の線を高速で伸ばしていく。

 

「っ……」

 

 それが小春の足を膝まで凍り付かせて彼女の身動きを封じた瞬間、リアが駆け出した。さすがに全身を凍らせるほどの出力は放てないが、足を止めることができれば十分だ。

 次の階層へ通じる扉に向かって走る彼を迎撃するため、足を動かせない小春は残された選択肢である両手からの放電を選ぶだろう。ここでさらに彼女の手を封じられれば、リアを先へ進ませるという第一目標はクリアできる。

 

「ちゃんと防げよ小春……!」

 

 両手を前に突き出しロイゼの能力を発動。

 掌から光のレーザーを、彼女の顔を焼くつもりで小春の顔面に向かって発射した。わざと当たらないように調節した攻撃では防御をしない可能性がある為、彼女の反射神経を信じた本気の攻撃だ。

 

「っ!」

 

 俺からの攻撃に気がついた小春は両手で電気のバリアを生成し、光のレーザーを防いだ。電気と光エネルギーが相反して小爆発が発生したが、これも計算の内。リアには予めそうなることを伝えてあるので、爆発に怯んだ小春とは対照的に、当初の予定通りに動いている彼はあっという間に扉の前へたどり着いた。

 リアはそのまま扉を叩いて最終階層へと飛び込んでいく。

 

「まっ──」

 

 彼に追い縋ろうと小春が手を伸ばすが、そこですかさず二発目のレーザーを撃ちこむ。

 小春はそれを防ぐため、リアへ伸ばした手を引っ込めてバリアを張り、俺からの攻撃を凌いだ。

 

 だが、俺からの砲撃に手を回した小春は走り去る彼を止めることが出来ず、リアの最終ステージ進出を許してしまった。

 どうやら無事、此方の計画通りに事を運べたらしい。

 

 

 

 これでようやく──妹だけに集中できる。

 

 

 

「迎えに来たぞ、小春」

 

「…………お兄ちゃん」

 

 いつもの調子で明るく声をかけた俺を、敵意剥き出しで睨みつける小春。怒った顔も可愛いが、今はとりあえず置いといて。

 

「一緒に帰ろうず」

 

「……邪魔しないで」

 

 俺が発動した氷による足の拘束が、持続時間の終了と共に自壊したものの、小春は後ろの扉のほうは向かずに俺を警戒している。リアを追いかけたいのは山々なのだろうが、背を向ければ俺から攻撃が飛んでくるので、迂闊な行動は取れないと理解しているのだろう。天才の如く賢い妹だが、それを褒めるのは彼女を連れ帰ってからだと決めている。

 

「なぁ小春、お前今どれくらい操られてるんだ?」

 

「……お前を殺したい程度には」

 

 物騒な小春ちゃんであった。

 多分気を抜いたら本当に殺されるんだろうなと薄々感じつつ、手足に力を込めて文香の能力を発動する。今のうちに身体能力を向上させておかないと、小春の攻撃に反応できな

 

「死ねっ!」

 

「うぉっ!?」

 

 小春が右手から紫色の電流を放ってきた。思いのほか仕掛けてくるのが早かったが、身体強化はギリギリ間に合っていたため、何とか咄嗟に横へ飛び退くことで攻撃を躱すことができた。

 しかし俺が地面を転がって体勢を立て直す前に、小春はすぐさま放電してくる。

 

「避けないでよ!」

 

「無茶言うなって!」

 

 正面から飛来してくるプラズマ。これは回避が間に合わない。

 

(いけるか……!?)

 

 ので、両手を地面に叩きつけ、俺の正面に巨大な氷の壁を生成した。

 発動自体は間に合ったが──

 

「い゛っ!」

 

 いとも簡単に氷壁は破壊され、防ぎきれなかった分の電流が右肩に直撃し、後方へノックバックされてしまう。

 だが咄嗟に陽菜の能力で浮遊し、空中で体勢を立て直したため、地面に叩きつけられることはなかった。

 

「っぶね……!」

 

「小賢しい抵抗するな!」

 

 放たれる稲妻。今度はこっちもレーザーで応戦すると、お互いのエネルギーが中央でぶつかり合い、大きく炸裂した。

 爆発により生じた突風が小春と俺を襲う。

 

「っ……」

 

 一見すると拮抗しているようにも見えなくはないが、明らかに此方のパワーが足りていない。レーザーの出力を調整することで、小春の電気と相反するよう仕向け炸裂させて誤魔化しているが、単純な力比べに移行されたらまず勝ち目はない。

 

 というか、別に正面から勝つ必要はないのだが。俺からすれば、洗脳の源である小春の首に付いているあの首輪を外すことが勝利条件だ。

 

「ほんっとに面倒くさい……大人しく死ねばいいのに」

 

「こら小春。洗脳されてるからって、あんまり乱暴な言葉は使っちゃダメだぞ」

 

「うっさい! 大体誰のせいで私が洗脳されてると思ってんの……?」

 

 それは間違いなく俺のせいである。クラッシャーに襲われたあの場でリバイブすることが出来ず、俺がレンのままボコボコにされたせいで、小春は為す術もなく攫われてしまったのだ。

 

「ごめんな、俺が弱かったばかりに」

 

「っ……! 謝って済む問題じゃないだろ! このっ!!」

 

 普段の彼女からは考えられないような口調で激昂した小春は、再び電撃で正面から攻撃してくる。ほとんど工夫なしの単純な正面攻撃なのは、俺が彼女の思考を乱してしまっているからだろうか。

 電撃を横に飛び退いて躱す──が、小春は連続して稲妻を放電してきた。俺は文香の身体強化をフルに使用し、脚力だけで白い空間を逃げ回る。

 

「怒ってんのか小春!? まぁ怒ってるよな! ごめん!」

 

「馬鹿にして……っ!」

 

 煽ったつもりはなかったのだが、どうやら逆効果だったらしく、額に青筋を浮かべた小春は放電攻撃に留まらず、自らの能力で上空に雷雲まで作り出してしまった。相変わらず我が妹ながら出鱈目な能力である。

 

「焼け死ね!」

 

 彼女の声と共に爆発音の如き雷鳴が鼓膜を揺さぶり、耳を防ぐ間も与えず上空から雷光の雨が降り注ぐ。

 自分の真上に氷の壁を生成しつつ白い空間を飛び回るが、空から飛来してくる雷撃によって氷壁はいとも簡単に破壊され、身体強化と空中浮遊の重ね掛けで拘束飛行をしていても、無数に落ちてくる雷を完全に避けることはできず──

 

「なっ!?」

 

 真正面に降ってきた稲妻に驚いて立ち止まったその瞬間、死角から撃ち出された小春の雷撃が背中に着弾した。

 

「ぁぐっ!」

 

 勢いよく吹っ飛ばされ、浮遊の能力が解除されて地面を転がり、うつ伏せに倒れ込む。

 

「ぅ゛っ……、ぐ」

 

 諸に攻撃を受けてしまった。まずいと思うが体が動かない。背中の焼けるような熱さに加え、全身に駆け巡る電流が俺の動きを阻害している。 

 

 

「……やっぱり、弱い」

 

 

 お兄ちゃんは弱い。

 そう呟きながら、肩まで伸びた黒い髪を揺らして近づいてくる。

 俯せに寝そべっているいる俺のもとへ、緩慢な足取りで一歩一歩踏みしめるように。

 

「ねぇ、どうしてそんなに弱いの?」

 

「っ、ぁあ……!」

 

 死ぬ気で体に鞭を打って、なんとか立ち上がった。

 しかし既に小春は二歩先に佇んでおり、俺へ向かって右手を伸ばしている。

 

 だが電気の暴力は飛んでこない。

 動けばその瞬間に雷撃を放つ──ということだろう。

 すぐに俺を沈めないということは、彼女に思うところがあるか、もしくは伝えたい言葉があるのかもしれない。

 

 目の前の小春を見るに、それはきっと兄である俺に対しての憤りだ。

 

「……どうしていつも、私を守ってくれないの?」

 

 赤く染まった瞳で睨みながら、彼女は言葉尻を震わせる。

 

「小春……」

 

「お兄ちゃんさ。主人公とか何とか言われてるけど、私のこと守ってくれた時ある?」

 

 無いわけがない。俺と小春はずっと一緒に生きてきたのだから。

 

「……子供の頃は、お化けから守りながら、夜一緒にトイレ行ってただろ? あとはお前が小学生の頃マッチでいたずらして家燃やしかけた時も、俺が火ぃ消して父さんから庇ったし、それから登校班の時はいつも──い゛っ!」

 

 電気の弾丸を太ももに撃ち込まれた。貫通はしなかったものの、全身に割れるような激痛が迸る。

 しかし、耐える。仁王立ちする。決して今の妹の前で座り込むわけにはいかない。

 

「ふざけてんの? 私が死にそうになった時の話してるの」

 

「せ、生理んときはいつもココアとか作って──あ゛ぁっ゛!」

 

 今度は左肩を撃たれた。少し肉が抉れて血が袖に滲んでくる。

 涙が出そうな程に痛いが、歯を食いしばって我慢した。

 

「はぐらかさないでよ! 分かってるくせにっ!」

 

「っ゛、ぃ……っ!」

 

 流石にここまで来て冗談で誤魔化すのは無理らしい。変なところで意地見せないで、最初から男らしく腹を括って話せばよかった。膝も肩も痛すぎる。今度ふざけたら本当に心臓撃ち抜かれて殺されそうだ。

 

「……そう、だな。俺はいつも、お前を守ることが出来なかった」

 

 観念して情けないセリフを口にした。それを聞いた小春はさらに怒りに顔を歪める。

 私が死にそうになった──とはつまり、彼女が何者かに殺されそうになった時や、理不尽な悪意に晒された時の事を言っているのだろう。

 

 小春がそうなった時の事は、全て知っている。 

 そして何より、そこで俺が妹を守ることが出来なかった事実も自覚している。

 

「お兄ちゃん……私ね、帰り道の途中で怪人に襲われたの。覚えてるよね? お兄ちゃんに淫紋を付けたアイツだよ?」

 

 覚えている。忘れるわけがない。

 お前が襲われてると知って、死に物狂いで現場に向かったそこで、一人でお前を守ってるあの少女と出会ったのだ。

 

「ねぇ? 私あのとき怪人に脅されて気絶しちゃってさ、起きたら家のベッドの上だったよ。そしたら目の前にお兄ちゃんがいてね? 私ね、嬉しかったの」

 

 感情が昂っているせいか、小春の体全体に青白い電流が発生している。

 確かにいま、彼女は洗脳されている。リアに手を上げ、俺を殺そうとするほどに、負の感情に思考を塗り潰されている。

 

 だが、俺に向かって発している小春の言葉は、間違いなく彼女の本心だ。

 

「助けてくれたんだって思った。お兄ちゃんが守ってくれたんだって、そう思った。お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから。俺が守るって、ずっと昔に言ってくれたから。ねっ、そうでしょ? 約束っ、指切りっ。兄妹の絆は裏切らないって、いつでも私を守ってくれるって、指切りげんまんで約束してくれたっ……!」

 

 小春は歪んだ笑みを浮かべながら、俺に向かって叫び散らす。

 

「──でも違った! 私を守ったのはお兄ちゃんじゃなかった! リアちゃんだった! 顔も知らない赤の他人だった!!」

 

 その通りだ。彼女がいなければ、俺が到着した頃にはもう小春は殺されていただろう。

 

「っ笑えるよ! 気がついたらお兄ちゃんはその他人と仲良くなってるし!? 私を守るなんて嘘っぱちでいつもあの人のことだけ考えてるんだから! お兄ちゃんは私を守ってくれなかったっ! また怪人に襲われた時も、クロノが私を殺しに来た時も、いつだって私を守ってくれたのはお兄ちゃんじゃなくてあの人だったじゃん! 約束なんて覚えてるのは私だけでっ! 私だけが馬鹿みたいに昔のおままごとを信じてたんだ!!」

 

 声が裏返ってしまうほど強く、彼女の舌鋒は止まらない。

 目尻から滂沱の涙を流して、今まで何もしてやれてなかった俺を糾弾する。

 抑えきれない感情と共に、彼女の電気が体の外へ漏れ出していく。もはや攻撃と大差ないレベルの電流が彼女を覆い、周囲に電気が伝播し俺にもそれが伝わってくる。

 

「ッ゛……!!」

 

 歯を食いしばって、爪が食い込むほど拳を強く握りしめて、妹の放電に耐えながら──進む。

 一歩、また一歩前へ踏み出す。全身が感電しようが関係ない。彼女に触れた瞬間焼けるような電圧に襲われようが知った事ではない。

 きっと小春は今の俺よりもずっと苦しんでいる。兄貴として、そんな妹を放っておくわけにはいかないのだ。

 

「小春……っ」

 

「怖かったよ! クラッシャーに襲われたときっ、凄く怖かったんだよ!」

 

 両手を握り締めながら泣き叫ぶ小春に、俺は手を伸ばす。

 全身に電流が駆け巡り痙攣し、至る箇所を炎で炙られているかの様な感覚が襲ってくる。

 

「助けて欲しかった! 守ってほしかった! お兄ちゃんにッ! ……それなのに──」

 

「小春っ!」

 

 それでも突き進み──俺は彼女を正面から抱きしめた。その瞬間、小春を覆っている電流のバリアが、俺を弾こうと躍起になって更に電圧を高めた。

 

「ぅ゛っ! ぁ、ぐ……っ、つぅ゛あぁぁッ!」

 

「……っ!? な、なにを……!」

 

 小春が動揺している。稲妻に身を焼かれながら抱擁しに来た、この俺の行動が理解できないのだろう。

 

 

 なに、簡単な事だ。

 俺は兄として、家族として小春の怒りを受け止める。

 彼女の憤りを、迸る電流を真正面から耐え抜いて、小春の電気なんかじゃ死なないってことを証明するために、こうして妹を抱きしめているのだ。

 

「っづぐぅぅっ! こっここ小春の電気は効くなぁ゛……!? ぁあがが゛っ!」

 

「ど、どういうつもり!?」

 

「愛の抱擁ってやつかなぁぁぁァァ!!」

 

 痛みも熱さも叫びで誤魔化す。痛くないって思えば痛くないし、熱くないって思えば電流も熱くない。

 妹の電気に敗北する程落ちぶれちゃいない。むしろ全身が痺れて気持ちいいくらいだ。

 あぁー! 妹の電気最高! 電撃能力を持ってる妹がいる全国のお兄ちゃんたちに是非とも情報共有したいくらいだぜ!

 

「ま、まさか拘束しながら氷能力を使って、私を凍らせるつもり……!?」

 

「妹にそんなことする訳ないだろ! いい加減にしろ!!」

 

「あだっ!」

 

 小春が突拍子もないことを言いやがったので、背中に回していた手で後頭部を軽く引っ叩いた。

 抱擁している状態だから表情は確認できないが、叩かれた彼女はおそらくムッとしていることだろう。

 

「何のつもり!? いまさら助けに来て、こうしていつもみたいに抱きしめれば私が許すとでも思ってんの!?」

 

「そういうわけじゃあぁうががっがガ!!」

 

 今度は故意に電圧を高める小春。最近兄妹の抱擁を行うときはいつも俺がレンの姿だったため、久しぶりに男の俺にハグされて照れているのかもしれない。待たせて悪かったな……。

 

「いつもいつもリアちゃんばっかりでっ! 私のことなんか見向きもしなかった癖に!」

 

「ぉおっおお俺の心はいつでも小春でいっぱいだぜぜ!」

 

「嘘つきッ! リアちゃんと一緒じゃなきゃ私とはえっちしないじゃん!!」

 

「おまえそれ本気で言ってんのか!?」

 

 洗脳状態であろうと性欲が脳の半分を占めている妹、あまりにも唯一無二の感性を持ってて好き。いつでも自分に正直でえらい。

 

「仮想世界からリアちゃんがいなくなる前の日に3Pしたとき、リアちゃんじゃなくて私のお尻も使ったじゃん! 忘れたとは言わせないよ!」

 

「淫紋で暴走してたわけだからアレはノーカンだと思ってたけど!」

 

「そんなわけないでしょ! あの後はすぐにお兄ちゃんが現実世界行って、レンちゃんになっちゃったからあの時みたいなえっちが出来ないのはしょうがなかったけど、レンちゃんになってからはいっつもリアちゃんとしかヤッてなかった! 私だっておちんちん生やせるのに!!」

 

「俺ともしたかったのか!?」

 

「したかった!!」

 

「身も蓋もねぇな!」

 

 近親相姦のきの字も知らなさそうで割とキラヤバな妹だが、彼女を前にしてようやく思い出した。そういえば俺たちって元々はエロゲのキャラだったんだっけか。

 といっても小春は性に正直すぎるけど。そんなところも愛おしいぜ。

 

「どうせリアちゃんだけいればいいくせに何で助けに来たの!? 今更どうしたって私を守ってくれなかった事実は変わらないのに!」

 

 その通りだ。俺はいつだって情けない兄で、この手で小春を守れたことなんてほとんどなかった。

 

「私はお前を許さないのに!!」

 

 小春の洗脳を解いて、彼女をアカシックレコードから解放したとしても、俺が妹を守れなかった過去は変わりはしない。汚名返上なんて都合のいい結果にはならないし、小春の心には無力な俺への失望と嫌悪が残り続けるだろう。

 

 

 ──それでも。

 

 

「んなことは、関係ない」

 

「っ……!」

 

 俺は小春の洗脳をぶっ壊す。好きな人たちを傷つけた事に一番苦しんでいるのは、他でもない小春自身だからだと知っているから。

 

 そして、何より。

 

 

「俺は──小春のお兄ちゃんだ」

 

 

 兄である海夜蓮斗が、妹である海夜小春を助けるのは、一プラス一が二であることよりも、はるかに当たり前のことなのだ。

 

「なに、いって……」

 

「お兄ちゃんが妹を助けるのは、当然のことだって話だよ」

 

「つっ、都合のいいことばっかり!」

 

 確かに俺は今までほとんど小春を守れなかった。どんな状況に身を置いていて、どんな理由があったとしても、その事実が変わることはない。俺が今ここで小春を助けたとしても、それらの贖罪に繋がるわけでもない。小春が抱いた悲しい思いを、救えるはずなどないのだろう。

 

 ──だが、それは小春を諦めていい理由にはならない。

 

「許さなくたっていい。殴ったり蹴ったり雷を落としたっていい。全部小春のしたいようにすればいいよ」

 

「……じゃあっ、なんで……っ」

 

 俺が戦う理由はただ一つだ。

 

「さっきも言っただろ。俺がお前のお兄ちゃんだからさ」

 

 いつの間にか電気のバリアが消えている小春を抱きしめながら、片方の手で彼女の頭をそっと撫でる。

 

「……っ、ぅ……っ」

 

 たとえ許されなくても、怒りしか返されないのだとしても、そんなことは関係ない。

 俺は小春を助ける。ただ妹を守る。

 都合よく振舞うなと拒絶されても、俺の行動をどれだけ揶揄されようが構わない。

 

 俺は海夜蓮斗だから。

 小春の兄だから。

 

 

「守るよ、小春」

 

 

 たった一人の、俺の大切な妹なんだ。

 

 

「……」

 

 黙る小春を、深く抱き寄せる。

 彼女の大きな胸から、心臓の鼓動が伝わってくる。

 

「……ぃっ、……ぅ……っ」

 

 小さい嗚咽が聞こえてくる。

 それと同時に、妹の首に巻きついていた首輪がガチャリと音を立て、彼女の首元から地面へ転がり落ちた。

 

「ぉ……にっ、ぢゃ……ぁ゛っ」

 

 されるがままだった彼女の──小春の腕が俺の背中に回される。

 そして服ごと強く握り込み、妹もまた俺を深く抱き寄せてくれた。

 

 子供の頃のように、体全体を押し付けて甘えてくれている。

 

「……小春」

 

 そんな妹が愛おしくて抱き返すと、それが引き金となってしまったらしく。

 

「……ひっ、ぐ……う゛ぅぅ、っわあ゛ぁぁっ!! おじぃぢゃああぁぁぁん!!」

 

 俺の胸の中で、小春は盛大に泣きだしてしまったのだった。

 

「……ごめんな小春。ずっと寂しい思いさせちゃって……あとおじいじゃなくてお兄な」

 

「うええぇぇぇん……! ごみぃぢゃんんぅぅぅ……っ!!」

 

「誰がゴミだ」

 

「ごべんねぇぇ……っ、ひ、ひぐっ、うぅぅ……いっばいっ、ひどいごど、しぢゃっでぇぇ!」

 

 咽び泣きながら俺にしがみつくその様子から、彼女が完全に元に戻ったと確信し、ホッと胸をなでおろした。

 もし首輪が洗脳と関係なかったらかなりヤバかったが、まぁその時はその時で別の対処をしていたと思う。

 

 ともあれ、妹は無事に戻ってこられたのだ。それ以上に大切なことなどあるわけがない。

 

「わだじぃっ、リアぢゃんとぉ……っ、ぅぐっ、あ、朝陽ぐんにひどいことっ、じぢゃっだよぉぉ!」

 

「大丈夫だよ。ほら、このアクセスウォッチ付けてみろ」

 

「っ……? ──うううぅえぇぇぇ!!? 何でゆるじでぐれるのぉぉ!! 朝陽くんやざじすぎるよぉぉっおっぐ、うぷっ、うぶぇぇぇ……!!」

 

 ウォッチを付けた瞬間に朝陽君の『怒ってない』という意思が伝わり、号泣した妹はそのまま嗚咽しすぎてゲロを撒き散らしてしまった。……あっ、俺の背中にもちょっと引っかかってるなこれ。

 

「よーしよし。リアとアイリが戻ってきたら一緒に帰ろうなー。あと一旦離れとくかー?」

 

「やだぁぁぁ……! お兄ちゃんとくっ付いたままがいいぃぃ……!」

 

「世話の焼ける妹だねぇ、よしよし」

 

 

 背中をさすって小春をあやしつつ、離れた位置にある別階層への扉を一瞥した。

 何やら扉全体が黒いオーラに包まれているので、おそらくアレは中でリアが事態を解決しない限り開かないのだろう。

 

 だが、不安はない。

 

 小春がこうして戻ってきてくれたように、きっとリアもあの少女を連れて帰ってくる。

 リアならできる。なんせ俺と小春を惚れさせるばかりか、仮想世界だったりラスボスのクロノだったりルクラだったりと、数多の世界や人物たちを攻略しているような、俺以上の主人公だ。

 だから、心配せずに帰りを待てる。

 

 

 俺の好きな人は──世界で一番強い人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

「どっせい!」

 

 扉をぶち破って突入した先は、またもや白い空間。

 奥には洋風のテーブルと椅子があり、そこには一人の全身真っ黒な人物が座っている。

 

 そしてその手前に──またもや全身真っ黒な人型の何かと、一日ぶりに見る俺のリアであるアイリールが佇んでいた。

 見た目が紛らわしいが、多分奥の座っている人物がアカ子で、手前がクラッシャーだ。

 

「よ、夜……」

 

「みっ美咲夜!? くっ、あと三十分でチャージが終了するのに……!」

 

 アニメ一話分がタイムリミットか。余裕だな。

 

「クラッシャー! お前はルクラとお話してちゃんと情報共有しろ! あいつは世界の破壊なんか望んじゃいない!」

 

 俺がズンズン前に進みながらそう言うと、クラッシャーは右手に光の玉を浮かべて、それを見せつけながら俺に向かって叫んでくる。

 

「それ以上近づくな! この破壊の玉でダグストリアが消されてもいいのか!?」

 

「うるせえ! フライパン・ブーメラン!!」

 

「なっ──ヘブッ!?」

 

 ぶん投げたフライパンはクラッシャーの顔面にクリーンヒットし、彼をぶっ飛ばして仰向けに転倒させ、物理法則を無視して俺の手元に帰ってきた。流石だぜ相棒。

 

「来いっ! アイリール!!」

 

「っ! ──夜っ!」

 

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