change   作:小麦 こな

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水の冷たさと心の温かさと①

土曜日の朝から大きなかばんに必要なものを詰め込んでいく。

例えば水着やタオル、防水が出来る小銭入れなど。最近はプールに行くことも無かったからあまり何を持って行けば良いのか分からない。

 

これだけならもう1サイズ小さい鞄でも良いかと思ったが、大は小を兼ねると言う。

 

それにバカみたいなポエムじゃないけど、思い出も積み込めるかもしれない。

 

そんな少し慌ただしくて、けれども少しの高揚感が溢れ出ているこの時間に誰かが階段を上ってくる音が聞こえた。

 

腕時計を確認してみると、予定時刻より30分も早い。

どうやらあちら側も高揚感を抑えきれずにいるらしい。

 

「おはよ~、貴博君」

「おはよ、青葉」

 

この部屋にやってきた人物は予想通りの人物だった。

彼女は白を基調としたトップスに青色のミニスカートを身に着けていた。いつもはもっとカジュアルな服装をしていたような気がするが、今日は少しおしゃれだ。

 

「まだ俺の準備が出来てないから少し待ってろ」

「貴博君、準備遅いよ~。ぶーぶー」

 

そう言いながらも俺のベッドに腰かけるモカ。

俺はそんなモカの姿をチラッとだけ見る。

 

座ることでより一層、脚の露出度が増える。彼女のスラッとした、そしてきれいな脚はどんな男性でも視線を向けてしまうんじゃないか。

俺ははぁ、とため息をつく。最近は気が抜けているのだろうか、仕事でのミスも増えてきていて以前より頻繁にため息をつくようになった。

 

「どうしたの~、ため息なんてついちゃって~?」

「お前に似合ってるのは事実だが、俺はミニスカートが好きじゃないんだ」

「目の向け場に困るってかんじ~?」

「それもある」

「けど、あたしって結構短い丈の短いパンツとかよく身に付けちゃうけど?」

「ショートパンツだったら良いけど、スカートはだめだろ」

「貴博君、もしかして~……」

 

今までにないほどのニヤニヤ顔をしながら立ちあがって、俺の近くにまで来る。

これは面倒くさい事になりそうだなって薄目で彼女を睨みつける。

 

モカは俺の近くにまで来て、まるでキスをしちゃうような仕草で俺の耳に顔を近づけてきて……。

 

「貴博君は、あたしのスカートの中、みたい?」

 

彼女の吐息が耳をくすぐる。さすがにこそばしいし、モカが近づいてきてから分かった事だが今日はやけに良いシトラス系のにおいがした。

 

「今から出掛けるんだから、そういう考えを持っている奴が見てくるだろ」

「貴博君は、みたい?」

「アホな事言ってる暇があったら睡眠時間を増やせ、バカ」

 

俺だって男だから、スカートの中が見えそうになったら思わず目を向けてしまう。

だけど俺は中学生じゃないから、女の下着を見たところで「こいつはこの色を履いているのか」ぐらいにしか思えない……はず。

 

どうして自信がないのかは、そう思うのはどうでもいい女の事であってモカは例外になってしまうかもしれない。

事実、どうでもいい女がミニスカートを身に着けていたところでどうでも良い。モカだから注意した。

 

「ほら、用意できたからさっさと行くぞ」

「……」

「なんだ?やっぱり行かないのか?」

 

モカは下を向いたまま黙っていた。

その後、顔を上げたモカは頬がリンゴのように赤くなっていて目は上目遣いのウルウル仕様というどんな男でも思わず見入ってしまうような表情をしていた。

 

俺の顔はもしかしたら、固まっていたのかもしれない。

どうしてこんな表情をしているのか分からないし、頭では何も考えられない。

 

「……貴博君だったら、良いよ?」

「は?」

「みても……良いよ?」

 

ゆっくり、ゆっくりとスカートをめくりあげるモカ。

元から短く、モカの綺麗な脚を見せつけていたのにめくりあげることで隠れていた部分まであらわになっていく。普段見えない身体の部分がチラッと見えるだけで、どうしてか心臓の鼓動が高まる。

 

俺は何も言えず、そして何も行動できず、のどに詰まった唾を飲み込むことしかできない。

 

モカはさらに顔を赤くしながら、だけどスカートはどんどんと捲り上げていく。

もうすぐでモカの下着が……。

 

 

「……」

「引っかかった~。貴博君、見たくないとか言っておきながら凝視じゃーん。やっぱり貴博君も……うにゅ!」

 

俺は無言でモカの頭をはたいた。

 

モカのスカートの中は、下着ではなく水着だった。もうすでに水着を身に着けているらしい。

どうやら俺はからかわれていたようだ。顔を赤くしたり、上目遣いで目をウルウルさせた演技力は褒めてやってもいい。

 

だけど、無性に腹が立ったから頭をはたいてやった。

ぺちん、というかわいらしい音が部屋中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「うぅ……頭がチクチクするよ~」

「はっ、自業自得だ」

「かわいい女の子に暴力はメッだからね~」

「まぁ、演技力は認めてやるよ」

「えんぎ?何のこと~?」

「顔を赤くさせたり、上目遣いで目を潤ませたりとか」

 

土曜日の朝からバカなことをやった後、予定通りプールに行くことにした俺たちは真夏の太陽が照り付ける中を歩き続ける。

もうすぐプールに着くはずだ。今日は暑いし、もしかしたら人がたくさん来ているかもしれない。

誰もがアツアツコンクリートのように熱を一方的に浴びたくはないし、どこに行っても車内のような暑さだから涼を求めるだろう。

 

額に汗がにじむ中、プールに到着した。

後は料金を払って更衣室で着替えたら冷たい水に浸かることが出来る。これにはモカも今までより一層、ニヤニヤと顔をフワつかせているに違いないだろう。

 

そう思いながら彼女の顔を見た。

彼女は、俺の予想に反して顔を赤く染めていた。

 

「流石に暑さにやられたか?」

演技じゃあ、ないんだけどなー

「どうしたんだ?」

「な、なんでもないから大丈夫だよ?」

「……あっそ」

 

モカは何やら小さい声で何かつぶやいていた。演技がなんたら、と聞こえた。

演技が上手くいって面白すぎて顔が熱くなったのか?もしそうならかなり良い性格していると思う。

 

モカは目をあちこちに向けながら、小走りで更衣室の方に走っていった。

……あいつ、まだお金払ってないのに先に行きやがって。

 

でも、モカに誘われていなかったら休日にプールなんて行こうとは思わなかったし、口には言えないけどモカには何度も助けてもらっている。

今日ぐらいは全部お金を払ってやるか。

 

お金を渡し終えた後は更衣室に入る。

ロッカーはあまり空いていなく、大体が誰かが使っているものだった。

 

ウロウロと蒸し暑い更衣室を歩いていると、ようやく使えるロッカーを発見した。

そのロッカーを何気なく開けて、中にカバンを詰める。

水着とラッシュガードを手に持って着替え始める。あまり人前で着替えるのが好きではない俺はすぐに身支度を終えた。

「17」とタグが付けられているロッカーのカギを左手首に付ける。

 

「そういえば、着替え終えてからどこに集まるか言ってなかったな……」

 

勝手にモカが小走りで更衣室に行ったから、どこで落ち合うか決めていなかった。

携帯電話で電話をするのも面倒だし、更衣室の出たところで待ってる、という文字にすると表情の分からない言葉を彼女の携帯に送り付けた。

 

壁にもたれて、手を組みながら周りの人間を観察する。

親子連れや友達同士、大学生の男女グループなど様々。流れるプールでは浮き輪に乗って密着しながら談笑しているカップルもいる。

 

「あいつ……遅ぇな」

 

更衣室の前で待って10分は過ぎたのではないだろうか。いや、もしかしたら体感的にそう感じるだけで実際は1分も経っていないのか?

どちらにしろモカの方が早く更衣室に行ったし、あいつはもう水着を着ているから服を脱いだら準備が出来るはずだ。

 

男には分からない、女の子の準備というモノがあるのかもしれない。

そういうことを吟味してみると、つくづく男で生まれてよかったと思う。気楽に生きて、気ままに行動する。

 

そんなバカらしい人生が一番楽しいのかもしれないな。

 

「おまたせ、貴博君」

 

後ろから、待っていた女の子の声が聞こえた。

壁にもたれながら腕を組んでいたから、怒っているように思われると困るから出来る限りの笑顔で遅ぇぞ、なんて言ってやろうと思った。

 

でも、俺はモカの水着姿をまじまじと見つめてしまった。

白を基調にした水玉なビキニで、だけどパンツは緑色だった。恐らく腰に巻いているパーカーのようなのがセットなのだろう。

 

そんなことよりも、普段見ない彼女の腰はとてもきれいでしっかりとくびれもできていた。

なによりビキニだから胸にも目が行ってしまう。

 

感想だけ言っていればただの変態野郎みたいなことしか言えていないが、とにかくじっくりと見てしまった。

 

「そんなにまじまじと見て……むぅ~」

「な、なんだよ」

「貴博君の、えっち」

 

いつもならあほか、とか言ってあしらうのだが今回はモカのいう事に反論が出来なかった。

 

「今回だけは許してあげる」

「お、おう」

「その代わり、今日は思いっきり遊ぶからね」

 

俺の左手首を掴んで、プールサイドの方へ引っ張っていくモカのされるがままに走り出す。

でも、きっと俺は嫌そうな顔はしていないと思う。

 

プールの目の前まで来た。

 

ほら、やっぱりな。

 

 

 

 

水に反射して映し出されていた俺の顔は、まるで好きな食べ物を前にする子供のような顔をしていた。

 

 




@komugikonana

次話は11月8日(金)の22:00に投稿します。
新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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~高評価をつけて頂いた方をご紹介~
評価10という最高評価をつけて頂きました にゃるさーさん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援よろしくお願いします。

~次回予告~
「貴博君、あのウォータースライダーに乗ろうよ~」
「……混んでるからめんどくせぇ」
「え~、いいじゃ~ん」

来ているこのプールはモカが指さしているウォータースライダーが有名だったりする。
日本でも有数の高さを誇っていて、他では味わえないスリリングさに定評があるらしい。

確かに並んでいるからめんどくさい、という理由もある。
でも実際はもっと単純明快だ。

「もしかして、貴博君って高いところが苦手?」
「……」


では、次話までまったり待ってあげてください。
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