change   作:小麦 こな

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水の冷たさと心の温かさと②

今日のような、夏の暑い日差しも冷たいプールに入ってしまえば温度差のコントラストで心地よく感じてしまう。

こんな感覚が得られるから、冬より夏の方が好きな人間は多いのかもしれない。

 

俺はそんなことを思いながら青く、どこまでも澄み渡ったきれいな空を見ていた。

こんな風に、曇ることも無く晴れ渡ってくれていたら……。

 

「ぶっ!」

「いえーい、だいせいこう~」

 

突然、俺の目の前は冷たい水で覆われた。

心の準備も何もしていなかったから、器官に水が入っていくのを感じる。このムズムズ感は何回経験しても慣れることは無い。

 

「いきなり水を掛けるのはやめろって」

「貴博君がぽけーっとしてたから、つい」

 

つい手が動いてしまったらしい。

プールだし水を掛けられるのも仕方がないか。そもそも男女二人でプールに来ておいてボーッと空を見上げていた俺も悪い。

 

でも、俺には今日の空模様がまぶしく見えるんだ。

太陽がすごい光で俺たちを照らしているけど、そういうまぶしいじゃない。

 

何と言うか……こんな日がいつまでも続いたらいいのになって羨望みたいな感じのまぶしさ。

天気なんて二転三転するものだから、俺の言っていることは支離滅裂なんだけどさ。

 

「貴博君、あのウォータースライダーに乗ろうよ~」

「……混んでるからめんどくせぇ」

「え~、いいじゃ~ん」

 

来ているこのプールはモカが指さしているウォータースライダーが有名だったりする。

日本でも有数の高さを誇っていて、他では味わえないスリリングさに定評があるらしい。

 

確かに並んでいるからめんどくさい、という理由もある。

でも実際はもっと単純明快だ。

 

「もしかして、貴博君って高いところが苦手?」

「……」

「もしかして図星だったり~?」

「行ってやるよ、くそったれ」

 

モカがニヤニヤとした顔を向けながら、俺の欠点を指摘してきたから思わず行くと言ってしまった。

一度言ったことは取り返しがつかない訳で、結局俺たちは長い列の最後尾に立つ。

 

そしてこういう時の時間は恐ろしく早く過ぎるもので、ドンドンと列が前に進んでいく。

周りの人間がワクワクを隠し切れないような顔をしているのは理解できなかった。

高いところに楽しさを見いだせる意味が分かんねぇよ。

 

「次の方、並んでください」

 

どうやらもう俺たちの番らしい。受付の女の営業スマイルがやけに腹が立つ。

モカにはなぜかダサいところを見せたくない俺は、恐怖心を心の奥底にしまい込んでから台の上に座ることにする。

 

すでにモカが降りていく気満々だったから、こいつが降りてから俺もどさくさに紛れて適当にやり過ごすか。

そうだな、目を瞑っていれば怖くないか?

 

「カップルは同時に行ってください、どうぞ~!」

「ちょっ!?おいっ!」

 

受付の女が突然、俺の背中を力強く押す。

予想外の出来事だったが座るまでは対応できた。だけどモカと密着してしまう。

 

そして勢いは消されないまま、俺とモカは同時にスライダーをものすごい速さで降りていく。

水しぶきを受けているから前が全く見えず、気づけばゴール地点であるプールにザパァンと投げ出されていた。

鼻に水が入ったらしく、ムズムズする。こんな状況でもモカはニコニコしているんだろう。

 

「……」

「どうした、青葉」

 

そう思っていたが、意外とモカは冷静だった。と言うか何やらゴニョゴニョと独り言をつぶやいていた。

 

「急に後ろから押されたから、びっくりしちゃったよ~」

「それは受付の女に言えって。おれも押されたんだから」

「まぁ、そう怒らずに笑顔だよ~、貴博君」

「はいはい」

 

モカの言う通り、スライダーは思っていたより怖くは無かった。

楽しかったかと問われると……微妙だが、嫌では無かった。

 

「でも~……楽しかったよね?貴博君」

「……そうかもな」

 

モカは顔を少しだけ赤くしながら、ニマニマした顔で言った。

 

 

 

 

ウォータースライダーを楽しんだ後、俺は少しの休憩を兼ねて流れるプールの端っこで腰かけていた。

流れる水のおかげで足には緩やかで、冷たい水が絶えずやってくる。これがプールの真ん中に行けば流れもきつくなる。

 

俺が休憩すると言った時、モカはどこかに歩いて行った。

座っている場所は彼女に伝えてあるから帰ってくるはずなんだけど、中々帰ってこない。

 

モカは、フワフワとしているしどこか抜けていそうな雰囲気を出しているけど容姿はかなり良い。

変な奴に絡まれていないと良いんだけど。

 

そんなことはどっかの青春アニメにしかない事だと思っているし、そもそも俺がモカを心配する必要もないんだが。

だけど、いくら忘れようとしたって頭の片隅からそういう想いが離れてくれない。

 

「貴博君、おまたせー」

「遅かったな……どこ行ってたんだ?」

「うん?そんなに遅くなってないと思うけど……それより~、じゃーん!」

 

モカは手に大きな浮き輪を手に持ってやって来た。

恐らくどこかの店でレンタルしてきたんだろう。

 

別に浮き輪を持ってくるのは問題ない。

だけどどうしてこんなにも大きい浮き輪なのだろう。

 

「この浮き輪で、流れるプールの中をぐるぐるゆったりしよ~」

「俺が嫌って言ってもそうなるんだろ?」

「さすが貴博君、分かってるね~」

 

モカは浮き輪を手に持ってプールに入っていったから、それに続いて俺もプールサイドに座っていた尻を立たせてプールに入る。

先ほどまで足は浸かっていたが身体は浸かっていなかったため、想像しているより冷たく感じた。

 

確かに流れるプールを浮き輪の上で座りながら流されるのも悪くない。

だけどモカが浮き輪の上に乗るなら、俺はその浮き輪のそばをついて行くのだろう。

 

周りの人間に当たらないように神経を配るのは、正直面倒くさい。

 

「はい、貴博君」

「あ?」

「先に浮き輪の上に座ってもいいよ~」

 

意外にも、モカから浮き輪を渡された。しかも上に座っても良いらしい。

俺の予想と言う名の矢は、ことごとく的を外していた。

 

まぁ良いか、と俺は浮き輪の上に腰を下ろす。

お尻の部分はひんやり冷たくて、上半身は暑い太陽に照らされる。この温度差のコントラストが何とも言えない感覚で中毒性がある。

 

 

浮き輪の上に座った時、俺はあることに気が付いた。

先に浮き輪の上に座ってもいいよ~、というモカの言葉にどうして違和感を感じなかったのか。

 

「先に」だぞ?

 

 

「よいしょっと……貴博君、もうちょっと詰めてほしいなぁ」

「ちょっ!?青葉!おかしいだろ!」

「モカちゃんが貴博君の上に乗っちゃったら、興奮しちゃう?」

「分かったから一回降りろっ!」

 

このニタニタ顔の彼女はいったい何を考えているのか分からない。

青葉を下ろして、俺もすぐに浮き輪から降りる。

 

不服そうな顔に変わったモカにため息をつきながら浮き輪を持ち上げる。

そのまま浮き輪の穴にモカを入れる。モカの持ってきた浮き輪は大きいからもう一人くらいなら……。

 

「はぁ……これで文句ないか?」

「おぉ~、貴博君、だいたん~」

「お前に言われたくねぇよ、バカ」

 

一つの浮き輪の中に入る二人。モカは何を思ったのかは分からないが後ろに回って抱き着いてきた。

まだラッシュガードを着ているからまだ肌と肌の振れ度合いはマシだが、それでも密着度はかなりのもの。モカだって水着だから直に、その、あれが触れるし。

 

でも、なぜか俺は安心してしまった。

モカは無意識なんだろうけど、背中を優しく包み込んでくれているだけで安心するんだ。

きっとこの感情は、俺にしか分からない。

 

「みんな、あたしたちの周りを空けてくれるね」

「一つの浮き輪に男女が、しかも後ろの女は男に抱き着いてる。こんなバカップルに近づきたくないだろ」

「あたしたち、カップルに見えるのかな~?」

 

知るかよそんな事。

 

そういって流すが、今日はなぜか後ろを見てしまった。それはモカの表情を確認するため。

モカの表情は、いつものようなフワフワ。だけどほんのりと顔が赤いのは日焼けのせいだろうか。

 

「そう見えるんじゃねぇのか?」

「貴博君は~、あたしとカップルに見られて、嬉しい?」

「大迷惑だ」

「ひどい~」

 

俺は仲のいい女と一緒にいる時、一番うれしい事は「カップルにみられる事」だと思う。

それほど二人は仲が良さそうに見えるから、周りが勘違いするのだろう。

そのくせ、大迷惑と言ったのは一緒にいる相手がモカだからだ。

 

モカが嫌いで、いやだというわけでは無い。

素直に嬉しいと答えるより、信じてもらえると思ったからだ。

 

「でも、あたしは一つだけ、嬉しい事があるよ?」

「人の金でプールを満喫できているからか?」

「貴博君って、そういう気遣いは無いよね」

「うるせぇ」

 

自分でもそういう心遣いが無いのは自覚しているが、モカに指摘されると反対したくなる。

 

心なしか、それとも本当にそうなのか分からないけど、少しだけモカがぎゅっと抱き着いたような気がした。

 

「……知りたい?」

「興味ないって言ったらどうするんだ?」

「それでも教えてあげよう~」

「じゃあ、興味ない」

 

他人からしたら、訳の分からない会話内容だと思う。

でも、俺達からすればとっても分かりやすい言葉のやり取りなのかもしれない。

 

例えで言うなら、「はい」か「いいえ」だけで会話しているようなものか。

俺が「はい」を「興味ない」と言い換えているだけだ。

 

「貴博君、心臓、ドキドキしてるよね」

「悪かったな、ドキドキして」

「ううん、悪くないよ?」

 

流れるプールは、依然と冷たい水を身体全体に供給してくれる。

新しい水が次々に当たるからだ。

 

だけど、背中は温かい。

モカに抱き着かれているからだ。

 

でもモカは、背中だけを温かくしてくれているわけでは無い。

もう、分かるよな?

 

「貴博君()ドキドキしていたから、嬉しいのです」

 

心も、温かくなっているんだ。

 

 




@komugikonana

次話は11月12日(火)の22:00に公開します。
新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
Twitterもやっております。良かったら覗いてあげてくださいね。作者ページからもサクッと飛べますよ!

~高評価をつけて頂いた方々をご紹介~
評価9という高評価をつけて頂きました SCI石さん!
同じく評価9という高評価をつけて頂きました 神仙神楽さん!

評価9から評価10へ上方修正して頂きました 岩山直太朗さん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~

あたしには気になることがある。
それはあたしが密かに想いを寄せている彼についてなんです。

そんなあたしの前以外では鉄仮面をかぶっているような彼が、自分から有給休暇を取らせてほしいとママに言った。
周りの人たちからしたら普通かもしれないけど、仕事人間の彼が自分から休みを欲しいなんて言ったことは今まで無いらしい。

そしてその有給休暇を欲しいと申請した日付が、お盆休みの一日前なんだって。
ママの事務所は土日も含めて8回もお休み出来るのに、わざわざ一日前に休む理由が気になって仕方が無かった。

だから、あたしは行動に移したんだ。


次回は番外編となっております。予想がつく人もつかない人も同じくらい楽しめる内容となっております。お楽しみに!


では、次話までまったり待ってあげてください。
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