change   作:小麦 こな

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4日後に送るプレゼント①

お盆休みの最終日ともなると流石に身体が怠くなってくる。いつものようにベランダに行って寝る前のたばこを一本口に(くわ)える。

時刻は午後の10時。学生にしたら物足りないが、社会人からしたら睡眠のゴールデンタイム。

 

お盆休みは、モカと一緒によっちゃんのお墓参りに行ったきり。

簡単に言えばそれ以降、モカと出会っていない。休み期間中に京華さんから仕事に関する連絡があった時にモカは何をしているのか聞いた。

なぜ聞いたかは……。寂しかったという理由で誤魔化しておこう。

 

その時に帰ってきた答えは「夜更かし」している、とのことだった。

お盆休みだし、学生なら夏休みなのだから夜更かしぐらいだったら誰でもしたくなるもの。

俺はため息を吐いてから電話を切ったものだ。

 

それにしても、モカが夜更かしを初めてもう1ヶ月は経過しているし、もうすぐ2ヵ月目に突入するんじゃないか?

 

「あいつ、夜に一体何やってんだか」

 

ちょっと前なんかは「夜更かしは肌荒れするし、美少女モカちゃんの敵なのだ~」とか言っていたくせに、人間は意外とすぐに変わるもの。

 

「人間は変わる……か」

 

副流煙を口からスーッと、外に吐き出す。

京華さんの事務所で正社員として働かせて貰って半年が過ぎた。

 

半年の間に色々な事があったが、こんなにも充実した半年は学生ぶりかもしれない。

京華さんは良い人だし、モカだってこんな俺に普通の人と同じように接してくれる。

 

だから、少し怖い。

高校生活のように、急に楽しい生活が幕を閉じてしまうんじゃないか?

 

「……何を考えてるんだ、俺は」

 

こんな事を考えるなんて俺らしくない。

ずっと仕事のスタンスは一緒だった。前科持ちとバレてしまえば仕事を辞めて他の仕事を探す。そしてそんな行動を今まで数えきれないほどしてきた。

なのに……。

 

俺も、変わったのかもしれないな。

 

 

ぬるく、嫌らしい風が頬をそっとなでる。

灰皿にたばこをグリグリと押し付けて、不安と言う名の火種を消した。

 

 

 

その時に、俺の携帯が音を立てた。

俺の携帯に電話を掛けてくるのは京華さんかモカしかいない。そしてこの時間帯なら恐らくモカなんじゃないか。

 

そう思って携帯を開いたが、映し出される番号は俺の知らない番号だった。

一瞬の浮ついた気持ちを返しやがれ、と言ういら立ちを舌打ちに乗せて電話に出てやる。

 

「……もしもし」

「久しぶりだな、クソガキ」

「お前、誰?面倒くさい」

「俺が誰か知りたかったら事務所前にいるから出て来いよ」

「ふーん、ご苦労さん。で?拒否したらどうすんの?」

「面白い事になるぞ?」

「へぇー、面白い事ねぇ……それなら今すぐあんたに会いに行ってやるよ」

 

電話を切って、一階へと降りていく。

本当に誰か分からない赤の他人だったら、俺もさすがに会いに行ってやらないけど今回は別だ。

 

事務所前にいる。

そしてどうしてあの建物が事務所だと分かった?簡単だ。電話を掛けてきたのは京華さんと関係がある人間。そして尚且つ俺とも接点がある人間。

 

だったら、名前の覚える価値もない従業員二人の内のどっちかだ。

 

「わざわざこんな時間に会いに来てくれてご苦労さん。で?あんたの名前何だっけ?」

「井川だ!その口をすぐにでも開けないようにしてやろうか……」

「話は簡潔にしろ。俺はデブと話すのが苦手なんだ」

 

この俺に対してキレているデブは、同じく外を周って依頼を受けるのが役割らしい。つまり俺と同じ役割を担っているというわけだ。

俺にキレているのは、俺が来てから自身の売り上げが下がり始めていてその歯止めが利かないらしいからだろう。要するに嫉妬か?

 

 

「お前!代表の娘さんに媚売って雇って貰ってるんだろ?あの娘さんがかわいそうだ」

「何言ってんだ?寝言は寝てから言えよ」

「あの娘さん、お前にとったら大事なんだろ?かわいいもんなぁ」

「あんたみたいなデブに答える必要はない。帰ってくれ、臭いから」

 

俺は話の途中で事務所に入っていこうとした。

俺がモカに媚を売って会社に雇ってもらった?ふざけるんじゃねぇよ。

 

それにあの言い方、モカに危害を加えるかもしれない。

そうなる前にこいつを排除するほうが良さそうだ。どんな手を使おうか。

 

そう考えていたが、次の瞬間には頭が真っ白になった。

原因は、井川とか言う人間の一言。

 

 

「お前が犯罪者って事、ばれたらどうなるんだろうなぁ」

「……てめぇ、どこで知りやがった」

「京華代表やその娘さんにばれたらお前、終わりだなぁ」

 

気持ちの悪い笑い声が夜にこだまする。

モカは俺には前科があることを知っている。

 

だけど京華さんはそのことを知らない。

もし事務所で働いている人間が犯罪者だったら?

もし自分の娘と話している男が犯罪者だったら?

 

吐き気が、する。

 

「俺も鬼じゃねぇから、俺の要求を呑んでくれるなら黙っといてやるよ」

「要求……だぁ?」

「あぁ、まず一つ目の要求はだな……」

 

 

 

 

井川という男との会話を終えて、いつもならすぐに布団に潜り込んで明日に備えるのだが、今日はそういうわけにはいかなかった。

 

うっすらと危惧はしていたし、覚悟もしていた。

隠し事なんていつかは「必ず」バレる。それが望んだ状況でなのか、意図しない状況なのかの違いはあるけれど。

 

部屋の片隅の壁に寄りかかって座りこんでしまう。

 

その時に頭の中でフラッシュバックするのは色々な表情で俺をサポートしてくれる京華さんと、最初は面倒だったけど今は心の拠り所になっているモカのふんわりとした笑顔。

 

左手が、自然と力が込められていく。

そして、視界もうっすらと(にじ)んでくる。

 

「……待て、今はそうなってる場合じゃねぇ」

 

自分で自分を無理矢理鼓舞する。

こんな状況になってしまった以上、好転することはない。

むしろ俺は今までのようなどん底生活になるのは分かり切っている。

 

だったら今すべきことはなんだ?

 

「……簡単、だよなぁ」

 

あの井川と言う人間も一緒にどん底に落ちてもらう。

あの人間の思考回路は間違いなく、京華さんとモカに悪影響をもたらす。

 

あんたは俺に挑発をしてきたんだ。

しっかりとその挑発に乗ってやるよ。

 

 

明日からの行動の仕方を決意した後、俺はもう一度ベランダに出る。

だが今回はたばこを吸わない。

 

半年の間だけど、毎日ここのベランダで夜の街を見渡してきた。

正直、ここの景色は好きだったりする。どうしてか分からないけど心がポカポカするような、そしてこんな俺を受け入れてくれているような感覚がするから。

 

「しっかりと一日一日、見納めておかないとな」

 

空は、俺の心とは正反対できれいな星がキラキラと輝いている。

そういえば、モカと一緒にレストランで夕食を食べながら星を見ていたっけな。

 

ポケットに入っている携帯を取り出す。

そしてメッセージを送るわけでは無いけど、モカの連絡先を見る。彼女のアイコンがやまぶきベーカリーのパンなのは出会ってから変わらない。

 

クスッと笑ってしまう。どうしていきなりこんな感情になったのかは俺にも分からない。

もし分かるなら、俺に教えてほしい。

 

携帯を右手に持ち替えて、利き手である左手で携帯の裏側を優しくなでた。何回も、何回も。

携帯の電源は付いたまま。その携帯が画面に表示しているのはモカの連絡先アカウント。

 

 

井川と言う男の処遇は決めた。あいつは必ず潰す。

もちろん、法律に触れない範囲で。

 

それと同時に、ある決断も迫られているという事にも気づいている。

だから、携帯を何度も優しくなでてしまうのだろう。

 

「こういう時に、モカに電話を掛けるのも面白いかもな」

 

携帯を左手に持ち替えて、通話ボタンを押す。

間の抜けた着信音で待つこと数分。

 

モカは電話に出ることはなかった。

また今日も、夜更かししてるのか。

 

 

 

こういう時にこそ、モカの声が聞きたかったんだけどな。

そう思いながらベランダを後にして、来てほしくもない明日を迎えるためにベッドで睡眠をとることにした。

 

寝る前に携帯で天気予報だけチェックすることにした。理由はおざなりなものだ。

 

そして明日からの天気は皮肉かのように晴れが続いていた。

俺の心の天気はこれから梅雨入りだというのに。

 

 




@komugikonana

次話は11月26日(火)の22:00に公開します。
新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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~次回予告~

ベランダに行って、いつもは一本で終えるたばこを今日は2本吸った。2本目のたばこを吸っている最中にポケットの中の携帯がブルブルと震え始めた。

手に取ってみると、モカからの着信だった。

今、モカの声を聞いたら色々とおかしくなってしまいそうだからと答える。


この世界は面倒くさい。人間が「言葉」と言うものを発明してしまったから、想っていることも口にしなければ伝わらないし大きな声でないと聞いてくれない。
その言葉に「感情」まで込められるんだからやってられない。

モカの着信は見ていなかったことにして、携帯をポケットの中にしまう。
かなり短くなった吸殻を灰皿にこすりつける。もう短いのにさらに力を入れて火を潰しているから、たばこの吸い殻は草臥(くたび)れてへにゃんとしている。

そんな無様な吸殻を、無気力な目で見つめていた。


では、次話までまったり待ってあげてください。
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