change   作:小麦 こな

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新たな変化と一筋の赤色②

俺は壁に背中を預けながら、あいつらの会話を聞くことにした。

相変わらず両手はポケットの中に入れてある。

 

俺の視線はどうしてだろうか、自分の足のつま先とアスファルトしか見えない。

無意識ながら下を向いてしまっている。

 

落ち込んでいる?

そんなわけないだろう。俺はメッシュ女に何を言われるかなんて安易に想像がつくし、その想像は実現するはずだ。

 

「蘭~、そんな朝から怒らないでよ~」

「あたしはモカの事、心配してるんだよ!?モカに何かあったら、あたし……」

「蘭……」

「あいつは平気で人を傷つける!どんな関係か知らないけど……今すぐ縁を切った方が良いよ」

 

ほら、俺の頭に思い描いていたセリフがチラホラ出てきた。

確かに俺は前科を持っている。だけど、俺が何をしたんだ?俺は人を殺したのか?違うだろ。

 

別にメッシュ女に悪口を言われても平気だ。

だけどモカに悪口を言われたら、そんな想像をすると胸が締め付けられるような感覚になった。

 

こんな感覚になるのは久しぶりで、俺の呼吸がちょっとだけ乱れる。

どんな表情をしているかまでは見えないけど、大体予想は付く。

 

でも、モカだけは本当にどんな表情なのかイメージできなかった。

 

「……蘭。心配してくれて、ありがとう」

「べ、別に……良いよ」

「あたしはね?そっくんが悪い人には見えないんだ」

「……モカ。それ、本気で言ってるの?」

「そっくんがともちんに何をしたかもぜーんぶ知ってるよ?」

「だったら……!」

「でもね、昨日会ってばっかりだけど、言葉にトゲはあるけど優しいよ?」

「……。モカ、約束して。何かされたらすぐにあたしに連絡して」

「うん、分かった」

 

頭の整理が出来ない。

 

モカは昨日出会った時から俺がどんな人間なのか分かっていたらしい。俺が巴に何をしたかも知っていたのに、どうして俺と普通に話が出来るんだ?

 

モカにとって、巴も大切な幼馴染なんだろ?なのにどうして……?

なにか裏がある?それが俺の違和感をくすぐっているのかもしれない。

 

これ以上、こいつらの会話に進展は無いだろう。

俺はそう決めつけて、さっきまで預けていた壁から背中を外して事務所の方に戻ることにした。

 

きれいに冴えわたった冬の空気とは裏腹に、俺の内心はよどんだ空気が嵐のように吹き荒れていた。

 

 

 

 

「初日からさっそく仕事場を抜け出すなんて、貴方は大物ね」

 

そんな皮肉に満ちた言葉をモカの母親に浴びせられた仕事もあと少しで終わる。

この事務所にはモカの母親も入れて2人のデザイナーと1人の営業が働いている。名前は覚える価値が無いように感じたから知らない。

 

俺はどうやら顧客に仕事のアポイントを取る仕事、簡単に言えば営業みたいな事をするらしい。

そんな俺は今日は外に行かず、モカの母親に付きっきりで普段どのような仕事をしているのかを見学させて貰った。

 

定時になって俺は帰る準備をする。

今日はどうしようか……実家に帰ろうなんて思えない。

 

「佐東君、ちょっと良い?」

「はい」

 

そんな事を頭の中でぼんやりと考えていると、モカの母親である青葉京華(きょうか)さんに呼ばれた。

早速明日の仕事について説明されるのだろうか。でも俺はメモ帳を持たずに京華さんの場所に向かう。

 

メモなんて、頭の中で書いてやればいい。

そして、それが俺には出来る。

 

だけど、俺には予想外な言葉が京華さんから言い渡された。

 

「住む場所がないなら、ここの事務所の二階に泊っても良いよ」

「良いの、ですか?」

「私から言っているのだから良いに決まってるわよね」

 

それもそうか、と思いながらこの魅力的な提案を受けることにした。

京華さん曰く、敷布団ぐらいなら用意できるけど他は無いらしい。晩御飯は京華さん宅、つまりモカの家で食べるなら良いと言ってくれたがそこは丁寧に断っておいた。

 

まぁ、モカと一緒にご飯を食べるのが嫌なわけでは無い。

他の理由だ。理由を聞かれても答えるのがめんどくせぇから言わない。

 

 

二階に早速足を踏み入れてみた。

あまり使われていないと聞いていたからほこりっぽいのを想像していたが全くそんなことは無く、むしろ埃が一つも見当たらない状態だった。

 

そこに疑問を持っても仕方がないから、壁の近くで床に腰を下ろして胡坐(あぐら)をかく。

背中を壁に預けながら目を閉じてじっとしていたら、誰かが下の階からここに上がってきているのを感じた。

 

そして、その足音は少しずつ近づいてきた。

 

「そっくん、おはよ~」

「……今から寝るんだけど」

「そんな事言わずに~。モカちゃんからのお土産~」

 

そう言いながらモカは青い皿を持っていた。皿の上には丸いおにぎりが3つ並べてあって、少しの塩のにおいがした。

俺はいらない、とそっけなく言ったが身体は正直だったらしくお腹が情けない音を出した。

 

恥ずかしくなってふくれっ面をしながらモカの方をチラッと見る。

モカはニヤッとした笑い方ではなく、ニコッとしていた。

 

俺はモカと出会って2日目だけど、こんな表情で笑うモカを初めて見た。

 

仕方がないからモカの手に乗っている皿の上からおにぎりを一個を手に持ち、そのまま口の中に運んだ。

……ほんと、俺はこういうのに弱い。

ただの塩むすびで中に具材は入っていないのに、他のどこで食べるおにぎりよりも美味いんだから。

 

愛情のこもった手料理をこのまま食べるとおかしくなりそうだから、俺はモカに話しかけることで感情を他の場所に移すことにした。

 

「なぁ、青葉」

「美味しい?おにぎり」

「お前、巴の幼馴染だったんだな」

「……付いて来てたんだね、もぅ、JDの後ろを付いてくるのはダメだよ?」

 

俺がおにぎりを食べながらそんな話をするとは思っていなかったであろうモカは、一瞬だけ目を大きく見開いた。

だけどすぐにニヤッとした顔に戻る。

 

「お前、良く俺に話しかけれるな。大事な幼馴染を傷つけたクソ人間だぞ?俺は」

「そっくん。そっくんはどうして……」

 

 

すごく悲しそうな顔でそんな事を言うの?

 

 

モカのニヤッとした顔はすぐに影を潜めた。

そして彼女の表情は哀愁の漂っているような、そして悲しさを目の奥に秘めながら俺の方を見てきた。

 

どうしてそんな事を言うのか?

簡単だ。嘘偽りなく俺はクソな人間だろう?

 

なのにどうしてお前(モカ)がそんな顔をするんだよ……。

 

「知るかよ。俺は元々こんな顔だ」

「……我慢しちゃ、だめだよ?」

「その言葉をそっくりそのままお前に返してやるよ」

「あたしには我慢していることなんてありません。ざ~んね~ん」

「……そうかよ」

 

俺はモカにおにぎりはもういい、と伝えた。

気が付くとおにぎりを2つも平らげていた。お腹の中はアツアツのおにぎりを食べたからだろうか、ホカホカとしている。

 

モカは残った一つのおにぎりをモグモグと食べ始めた。まるでパンを食べているかのような食べ方でおにぎりを食べ進めるモカを見ていると自然に……。

 

「そっくん。今の顔、かわいかったよ~」

「は?」

「あたしが食べているの、見てたでしょ?」

「……」

「優しい眼で、口元もほころんでいたよ」

「知るかよ、ぶっ殺すぞ」

 

確かにモカがおにぎりを食べている姿が小さい頃にみた弟の姿とシンクロした気がする。

でも俺はあの時の俺とは違う。

 

それに俺はそんな顔をするキャラではない。だから俺は出来る限りの汚い言葉をぶつけることを選択した。

 

でもちょっとだけ後悔した。

俺がやっていることは恥ずかしい真実がばれて言い訳する小学生のように感じたから。

それとモカがニヤ~ッとしながら俺の方を向いているから。

 

「ねぇ、そっくん」

 

モカが顔を変えて、優しく微笑みかけてきた。

俺は横目でモカの方を見ていた。そして同時に震える左手を後ろに隠した。

 

「これから楽しい思い出、作っていこうね」

 

モカはそんな言葉を残して部屋から出ていった。

その直後、部屋には大きなため息が響き渡った。

 

 

 

 

そんなことがあった次の日。

俺はあまり深い眠りにつくことが出来なかった。理由としてはモカが部屋を出ていく際に言った、あの一言。

 

俺がそばにいる時点で楽しい思い出なんて、どう頑張っても出来ない。俺に前科があると分かった瞬間、モカにも飛び火がかかるのは火を見るよりも明らかだ。

それなら俺はどうしたら良い?

 

だったら俺はモカにだけ楽しくなれるようにしてやればいい。

 

そんなことよりも俺は気になっている点がある。

恐らくモカは……。

 

その時、急に部屋のドアが勢いよく開けられた。

 

「佐東君……あれ?起きてるんだ」

「ノックぐらいしてくださいよ京華さん……あの能天気娘と同じことしてますよ」

「そんなことより、貴方にお客さんが来てるわ」

 

急に入ってくるなり、お客さんが来ていると言う京華さん。

やっぱり変な部分で親子は似ているものだと確信した俺は、ジャージのまま階段を下りていく。

 

俺にお客さんなんか、あまり良いイメージはしない。

たまに警察が来て近況を一々報告させられることや、冷やかしをしにくる暇をもてあそばせたバカぐらいしかいない。

 

京華さんが「事務所に上がってもらったから」と言っていたから事務所のドアを開いた。

そこにいたのは予想とはまた違った人物だった。

だけど俺のイメージは正しくて、めんどくさそうな雰囲気がしたから大きなため息を吐いた。

 

「……待たせといてため息ってどうなの?」

「待ち合わせをした覚えはないけどな、メッシュ女」

 

来ていきなりトゲトゲしい言葉を浴びせてくるメッシュ女。昨日はモカに忠告していたくせにもう俺の前に来るのか。

……よっぽどこの女からしたら、幼馴染が、モカが大事なんだろう。

 

「……話があるから」

「悪いな、メッシュ女。俺はこれから仕事が入る」

「あたしには美竹蘭っていう名前があるんだけど」

「あっそ。まぁ社会人は忙しいんだ、さっさと帰れ」

「だったら19時に羽沢珈琲店に来て。来なかったら社会的に殺すから」

 

言いたいことを言ったのだろう、美竹は事務所から出ていった。

もう俺は社会的に殺された身だから、何されても変わらない。

 

だけどまた美竹はモカに忠告しに行くだろうし、そうなりゃモカにも迷惑になってしまうよな。

モカには今、考える時間が必要なことぐらい分かれよ。幼馴染だろ。

 

 

「ここは俺が、やってやるか」

 

 




@komugikonana

次話は8月20日(火)の22:00に投稿します。
新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
この小説は私にしては珍しく、ドンドンと進んでいく小説となっております。みなさんのワクワクも加速していくと嬉しいです!

~次回予告~
約束の時間まで1時間はあるが、じっと時を待っていても身体がソワソワするだけだから一足早く集合場所に行こうって考えて美竹が指定してきた珈琲店の前に着く。

しばらくコーヒーを飲んでいると、俺を呼んだ本人が登場してきた。
「単刀直入に言う。モカから離れて」
「おいおい……めちゃくちゃだな」

こいつとは話にならない。だけどせっかく会ったんだ。発破でもかけてやるか。


「俺は青葉に何をするか分からねぇぞ?手遅れにならないようにしっかりと青葉を守れよ?」

さぁ、お前はどう動く?
時間は、思ったよりねぇぞ。

~お知らせ~
感想欄の返信の仕方を変更します。今までは私の言葉で書いていたんですけど、今回からは感想の返信をモカちゃん口調に変更します!
モカちゃんと少しでもお話しているような感覚になってくだされば……とも思っていますし、単純に他の作家さんもされていない方法だと思うので面白いかなと思いました。
ぜひ、気楽に感想欄に感想を書き込んでくださいね!
モカちゃんがみなさんの感想、考察にお答えします!


では、次話までまったり待ってあげてください。

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