change   作:小麦 こな

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聞かせて欲しい、君の気持ち②

近くを流れる緩やかな川が奏でるせせらぎは耳と肌に潤いを与えているように思える。

俺達が住んでいる地区の川よりも上流のため水も綺麗だ。

 

歩けばサクサクと音を立てる道を歩きながら、隣にいる彼女に目を向ける。

モカは嬉しそうな顔に、時折鼻歌を交えているから普段では味わえない特別な環境に身を投じているのだろう。

 

そんな俺もいつもは味気のないアスファルトのにおいばかりだったから、土の臭みがあるこの場所は自然と心の鼓動を早まらせた。

 

「貴博君ってこーゆー自然あふれる場所、好きだよね?」

「まぁな。どうしてか心がワクワクするんだよ」

「まだまだおこちゃまだね~」

「うるせー」

 

いつもならあほか、で一蹴するけど今回ばかりはどうしてか否定できないような気がした。

 

自然が好きで、無性にワクワクするからおこちゃまなのか。

それとも人間としてしっかりとした責任を持てていないからおこちゃまなのか。

 

どっちもありそうで、なさそうな曖昧な感情に鼻がむずがゆくなった。

 

「ねぇ、貴博君」

「ん?なんだ」

「春と秋って、似てるよね」

「過ごしやすいって観点では似てるかもな」

「んーん。いっぱい似てるとこがあると思うな~」

 

手を後ろに、お尻くらいの高さで組んで黄色いイチョウの花びらを観ながら彼女はポツンと言葉を落とした。

さりげない言葉だったから、そのまま落ち葉の中に落ちてしまいそうだったけど寸でのところでキャッチ出来た。

 

「ほら、春は花見で秋は紅葉!どっちも綺麗だけど、この季節が終わったら誰からも見られなくてある意味悲しい季節でもあるよね」

「……昔、同じような事を言ってた奴がいたな」

 

そいつは黄色のマーガレットがお気に入りという花好きのくせに、桜の花は好きになれないって言ってた。

そして理由もモカと大体同じだった。

 

胸の奥でキレイな花びらがサッと舞ったように感じた。

 

「それに『春』も『秋』も『ヒ』と読む漢字が入ってるし、お互いの部首の画数も同じだよね~」

「『日』と『火』か」

「その『ヒ』の漢字は、次の季節では重要になる!ほら、偶然ではなさそう~」

「どうだろうな。分かんねぇけど、お前のその解釈は好きだな」

「信じるか信じないかは貴方次第~」

 

信じるか信じないかは自分次第、か。

確かにそうかもしれない。

 

モカが俺の事を信じてくれたから今の俺がいる訳で、もしモカが信じてくれなかったら今頃俺は何をやってどのように生きているのか分からない。

そうやって差し伸べてくれた手を握って、今までを含めた自分を信じるか信じないか。

 

はいかいいえの二択かもしれない。

でもその二択の選び方次第では大きく変わる。

 

それなら俺は、信じたい。

 

「確かに色づく葉っぱも黄色や赤が大半で、火を連想させる暖色寄りだな」

「でも、やさしい火だね」

「ああ、そうだな」

 

道脇にある赤く色づいたモミジの葉っぱが俺たちを歓迎しているかのように広がっている。

近くで見ても綺麗だが、遠くに見える紅葉も絵になっていて趣深い。

 

そんなに険しくない山道を歩いてあまり時間が経っていないと思うけど、最初の時に感じた肌寒さは彼方へと飛んで消えていた。

残っているのは土のにおいと、ぽっかりと温まった心の温もり。

 

「いつか、なんだけどね」

 

モカが黄色に染まった葉っぱをジッと見ながら言葉を零した。

彼女が見ていた綺麗な扇形の葉っぱを俺も同じように眺める。その葉っぱは俺に綺麗な姿(・・・・)を観に来てくれてありがとう、と語り掛けてきたような気がした。

 

「また、この場所に来よう。次来る時は~、ちょっとでも進んでいる時に」

 

その時のモカの顔は、不思議な表情をしていたと思う。

すごく大雑把に言うならば希望に満ちた顔に少しの影が差しているような感じ。

 

俺達が永遠ではない事をモカは分かっているのかもしれない。そしてそのような気持ちが季節によって綺麗に色づいた葉っぱたちの今後の姿とシンクロしたのだろう。

 

「次に来る時は、大事な人も一緒に連れて来ような。モカ」

「大事な人って?」

「それは俺たちにとってかけがえのない存在となる人だ」

「それって……」

「そういう事」

 

モカの不安を解消させるように優しい笑顔を作って彼女の頭をゆっくり、やさしく手でなでる。

彼女が顔を赤くさせているのは俺が言った発言の意味を捉えたからだと俺は信じたい。

それとも彼女の顔が赤く見えるのは周りにある綺麗な景色が映えてそう見えさせている?

 

もしそうなのであっても、良いと思う。

答えが何であれ、彼女を何があっても守ろうと思わせたのだから。

 

綺麗な木の葉も、季節が変われば散っていく。

俺たち人間の命もいつかは同じように散っていく。

でも大切な人に捧げた愛は永遠に咲き続けてほしい。

 

 

「せっかくのデートなんだ。辛気臭ぇ時間じゃなくてかけがえのない時間を作るぞ」

「そうだよね。ごめんね、貴博君」

「謝らなくて良い。俺たちの間に遠慮なんて要らないからさ」

「じゃあ~、モカちゃんが我慢してる手を繋ぎたい衝動はどうしよう~」

「それは我慢しろ、アホ」

「むりだよ~」

 

急に明るくなったモカは俺の左腕にしがみつき、身体をこすりつけてくるから思わずため息が零れ落ちる。

好きな女の子と密着していることが嫌じゃないし、男だから嬉しいに決まってる。

それでもため息を零してしまう意図をそろそろ分かってほしい。

 

俺は面倒くさい事が嫌いなんだって事。

 

「……モカ、いきなりで悪いけど聞きたいことがある」

「なに?」

「お前の携帯見ても良いか?」

「いいけど~、勝手に画像フォルダとか見ないでよね」

「分かった」

 

モカは携帯を俺に渡してくれた。スタートボタンを押して電源を付けると幼馴染5人のライブ後の集合写真だろうか、晴れ切った無垢でかわいい画像が迎えてくれた。

モカに暗証番号を入れてもらって開く。

 

「それで、画像フォルダの中身は……」

「画像フォルダはメッって言ったでしょ~!」

「はいはい悪かった悪かった」

 

そこまで本気で止められたら画像フォルダの中身が気になってしまうが、彼女のためにそのような欲求をバラバラに砕くことに決めた。

 

それに無理に画像フォルダを開いてしまえば俺のからかいが冗談の枠を超えてしまうし、他人の嫌がることをするべきじゃないって言う常識は鼻水を垂らした子供でも分かることだ。

 

「ちなみにモカ。お前の幼馴染の中で一番着信音の大きい騒がしい奴は誰だ?」

「デート中に他の女の子の名前を出すのもメッだよ?」

「別に予想は付くから良いけど」

「当ててみて~」

「ひまりちゃんだろ」

「せいかーい。でもひーちゃんのイメージが騒がしい子みたいになっててかわいそ~」

 

実際ひまりちゃんは賑やかな子じゃないのか、という言葉はグッと飲み込んだ。

案外モカの着信音だけ大きいという美竹のデレデレも見てみたいとは思うけど、彼女は意外とそんなことはしなさそうに思う。

もし本当にそうなら俺は間違いなく腹を抱えて笑うだろう。

 

彼女の携帯から無料通話アプリではなく、電話帳に登録されているひまりちゃんのページを開く。

流石に幼馴染なだけはあって、電話帳には数少ないながらも確実の4人の名義が存在していた。

 

「これでやってみるか」

「何をやるのー?」

「まぁすぐに分かると思う」

 

ひまりちゃんの携帯電話番号を押して、迷わず着信ボタンを押す。

 

 

 

 

 

するとほぼ同時に後ろから携帯の大きな着信音が鳴り響く。

タイミングが良すぎるなぁ、なんてモカにだけ聞こえるような小さなわざとらしい声を出して音のなる方向へ振り向く。

 

早々に音が消えたが、どこから音が聞こえたのかは安易に想像できる。

必死に息を殺しているであろう子たちには申し訳ないが、そろそろ種明かしとでも行こうじゃないか。

 

モカはちょっと驚いた顔をしていたけど、その後すぐにニヤッとした笑みを浮かべていた。

そしてモカの瞳に映し出されていた俺の顔も同じような顔をしていた。

 

まだ付き合って月日は経っていないが、どうやら似ている部分があるらしい。

 

 

「大事なデートを邪魔する悪い子たちは誰かな?」

 

 

ズボンのポケットに手を突っ込んで、いたずらっぽく声を響かせる。

 

そこには幼馴染3人と、涙目で震えるひまりちゃんの姿があった。

 

 




@komugikonana

次話は1月17日(金)の22:00に公開します。
新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからもサクッと飛べますよ!

~次回予告~
「大事なデートを邪魔する悪い子たちは誰かな?」

佐東貴博という人間を少しでも知っているような人物であれば恐らく今までも、そしてこれからも聞くことはないであろう言葉を使ったと自分でも思う。
感情の籠ってない棒読みでもなくちゃんといたずらっぽく感情も入れた。

それは、モカの幼馴染たちに悪い子なんていないは分かっているから少しでも柔らかく接してあげたかったという気持ちもあったけど。
実際はちょっと違う気持ちも交差しているんだ。

幼馴染たちの中には、巴もいたから。


~豆知識~
前話の切り抜き

携帯をコートのポケットから取り出す。
そして携帯を見ているフリ(・・)をした。

何も映らない液晶画面を親指でグリグリとなぞる。
携帯の画面は俺の背後をうっすらと写すだけ。もしかすると普通は使われない使用法に携帯もあたふたしているかもしれない。

携帯の液晶って一応、鏡にもなるよね。その時から貴博君は幼馴染たちが後をつけているのに気付いていたらしい?



では、次話までまったり待ってあげてください。
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