change   作:小麦 こな

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聞かせて欲しい、君の気持ち⑤

お腹が満腹になった後に部屋に戻ったら寝ころんでしまって、つい眠ってしまう。

たまに泊りがけで遠出すると、一気にやってくる疲れは誰もが経験したことがあると思う。

 

俺もそうなる予感がした。

だからモカを誘って外を二人で歩くことにした。理由なんて簡単なものでせっかくの機会だから彼女と少しでも良い時間を作りたいと思っているから。

 

いや、ちょっと違うかもしれない。

少しでもモカの笑顔を見たいから、だ。

 

「和風、って感じですな~」

「モカは和風と洋風、どっちが好きだ?」

「うーんとね……洋風!」

「へぇ、どうしてだ?」

「パンが食べられるから~」

 

モカらしい答えに思わず顔をほころばせてしまいながら、あまり遠くに行かないように、だけど二人っきりでいられるような空間を探しながらぶらぶらと歩く。

 

昔ながらの日本らしいたたずまいと、それに似合わないはずの人工的な明かりは控えめに照らしているからより一層、趣を感じる。

これも日本人が昔から大事にしている侘びの精神なのか、と考えるとまた違った見え方になった気がした。

 

不完全だからこそ感じ取れる美しさ。

今の俺はどうなんだろうな。

 

「貴博君は、どっちが好き?」

 

少し前かがみになり、俺の顔を覗き込みながら聞いてくる彼女。

心地よく夜風がサラッと前髪を撫でで来るのがこそばゆくて左手で前髪をあげながら彼女の質問を頭の中で考える。

 

瞬時に色々な言葉と伝えたいものがポップコーンのようにパチパチと弾けるから、まずは落ち着いて整理をしないといけないのが少し面倒くさい。

 

「俺も、洋風の方が好きだな。現代っ子だから」

 

昔ながらの日本人が聞くとあきれるかもしれないけど、和風って色々と不便だと思っている。実用性よりも外見や見た目の見え方を意識するような感じだから。

それなら低効率で使い勝手のいい洋式の方が好きだ。

 

それはトイレにしても、椅子にしても、床にしても。

 

そのことをゆっくりと口に出して伝えた。

モカは深いね~、と言っていたがお前の考えが浅すぎるんだよって毒づいてやった。

 

「ちなみに、どうして俺がこんな質問をしたか分かる?」

「モカちゃんの好みを知るため、でしょ~?」

「正解」

「えへへ、いえーい」

 

大雑把な意味では正解、というのが正しいが正解は正解だし良いだろう。

モカが洋式が好きだという事をこれから3年間くらい覚えておくないといけないなぁ、と思いながらしっかりと頭のメモに書きなぐった。

 

いや、3年より短くなるかもしれないし長くなるかもしれない。

それならメモに残すんじゃなくって記憶におみくじのように結び付けて置こう。

 

暇な時は探しておこうか、洋風の結婚式場を。

 

「正解したお礼に~、ご褒美、おねだりしても良い?」

「金とか名誉とか子供とか言うなよ?」

「今日、どうして手を繋いでくれなかったのかなって」

 

ああ、そういう事かと深く深呼吸をした。たしかにモカには説明しておいても良かったかもしれない。

そう思えてしまうほど、ちょっとモカの顔がどんよりとしているように見えたから。瞬きをした次の瞬間には何気ない笑顔に変わっているのだけど。

 

「蘭たちが、見てたから?」

「そういう事。お前の幼馴染たちにアピールしとかなきゃ、だろ?」

「どういう事?」

「公然の場でイチャイチャするカップルほど、すぐ熱が冷めるってもんだ」

 

自然体でいられて、たまには冗談を言ったりする。だけど二人の時間の時にはポカっとして幸せな日常を送れること。

 

家に帰って一緒に借りてきた映画を見たり。

アパレルショップの試着で本音で似合ってないと言えたり。

同じ布団で寄り添って寝たり。

 

そんな些細な出来事が、一番心地いいんだって事。

別に仲がいいってアピールをする必要なんてないよな。

 

「俺がモカの事が好きだってことに変わりはないから」

「……うん。ありがと、貴博君」

 

モカのフワッとした声に甘い隠し味が加わったような声を出した。口の中に入れてしまえば溶けてしまうような、そんな感じがした。

 

そして実感した。モカはきっと俺に恋しているし、俺もモカに恋をしている。

ちゃんと彼女に好きと言えることが簡単な事のように思えて案外むず痒くて言えないときが多い。

これからも定期的に二人の時間を作って、その感情を伝えたい。

 

「そろそろ旅館に戻ろうか。風呂も入りたいし」

「良いよ~。……一緒にお風呂、入る?」

「やだ。湯舟が狭くなるし」

「ヨヨヨ~……理由がかなし~」

 

予約している宿に混浴があれば話は別だが、そんな都合のいいものが今回は存在していない。仮にあったとしても知らない男にモカの姿を見られるのが腹が立つ。

 

だから一緒に入るとなると部屋に設置されている湯舟だが、一人で入るだけでも狭いのに二人も同時に入れるわけがない。

もし一緒に風呂に入ったら流れでやってしまいそうな予感がするから嫌だ。やるのは問題ないけど、雰囲気は大事にしたい。

 

「この旅館は温泉も有名らしいし、ゆっくり疲れを癒したらいいじゃないか」

「はーい」

 

旅館に戻り、着替えだけとりに部屋に戻ってそのまま各自で温泉に向かう。部屋の鍵は受付に一時的に預かってもらう事にしたけど恐らく先に俺の方が風呂を上がると予想している。

 

着ていた服を脱いでロッカーに押し込み、タオルを片手に浴場に向かう。

入る前に頭と身体を入念に洗ってからお湯につかる。

 

足をゆっくりと延ばしながら温泉独特のにおいを吸い込む。そうすれば自然と目を閉じるくらいの気持ちよさが身体を優しく包み込んでくれる。

 

こうして目を瞑りながら一人になった余韻も一緒につかる。

正直、一人になって考えておきたいこともあった。

 

 

そしてフラッシュバックする、アルバムであいつを指さすモカの姿。

 

 

「どうすっかなぁ、これは」

 

一つだけ、案は思いついているけどそれにはどうしても犯したくないリスクが伴う。それだけが引っかかる。

 

モカが言った、見たことある気がするんだよねという言葉が不安にさせる。

モカは中学校から大学までずっと女子高に通っている。小学校は知らないけど俺とは違う小学校だったからその線はない。

 

そうすると接点が生まれるとしたらライブしかない。

もしかしたらやまぶきベーカリーでばったり、の可能性もないわけではないけどそれなら常連のモカはあった場所をすぐに言えるはずだ。

 

もしモカに危害が及んだら。そのリスクはどうしても排除したいのに、ライブ会場であいつが現れるなら1%でも、そのリスクがまとわりつく。

 

その分リターンも大きいから、少し前の俺なら間違いなく実行してる。でも今は……。

 

「……辞めた。今考えるのは」

 

湯の温度は42度らしく、いつまでも入っていたい気持ちよさだけどのぼせてしまうかもしれないから上がることにした。

服を着てドライヤーをかけながらふと時計を見ると30分ぐらいお風呂に入っていたらしい。

 

お風呂の後は冷たい飲み物が欲しくなる。自販機にはビン詰めされている牛乳やコーヒー牛乳が売られている。さらに横の自販機にはビールも売られている。

流石にビールはまずいか、と考えた挙句コーヒー牛乳を購入してその場で飲み干した。

 

ホカホカとした身体のまま受付に預けていた鍵を受け取りに行く。やはり俺の方が早かったらしいから先に部屋に戻る。部屋の鍵を受け取った旨をモカに携帯で知らせておいた。

 

部屋について施錠をしないまま居間に座る。和風の旅館だからソファとかベッドがあるわけではない。座布団や敷布団がすでに綺麗に敷かれている。

窓際にはしっかりと二つ、椅子が設置してあるので歯を磨き終えてから、外の景色を見ていた。

 

「おまたせ~」

 

ぼんやりとしか見てなかったけど、そんなに時間は経っていないと思うぐらいのタイミングでモカも戻ってきた。

お風呂上りらしい表情の彼女は何回も見たことがあるけど、今のモカはなぜか特別色っぽく見えた。恐らく旅館が用意してある浴衣を着用しているからだろう。

 

「似合ってる?」

「ああ、似合ってる。かわいいじゃん」

 

白を地色に藍色で幾何学的な刺繍がしてある浴衣に、同じく藍色の羽織りを身に着けているモカは発した言葉に偽りがなく似合っていた。

いつものフワフワとした雰囲気がより一層かわいさを引き出しているように感じた。

 

「貴博君は、浴衣着ないの?」

「めんどくせぇもん」

「ぶーぶー、雰囲気が台無しだよ~」

 

俺が来ているのは浴衣ではなく、家でも良く使っているジャージ。いつも身に着けてるものが結局一番しっくりくることを分かっているから迷いもしなかった。

モカの頬っぺたはこれでもかというほど膨らんでいるからどうやらご立腹らしい。

 

「しょーがないなー、貴博君。こっちきて」

「はいはい」

 

小さく手招きしているモカの場所に向かう、といっても歩幅で言うと5、6歩くらいの近さ。

浴衣に着替えさせられるのかな、と思いながら何も考えずにお風呂上がりで良いにおいがする彼女の元に行く。

 

良いにおいが、ものすごく近くなった。

なぜなら鼻のすぐ下あたりからするのだから。

 

そしてどうしてこんなにも近いのかと言うと、モカは俺の胸にすっぽりと入っているから。

彼女の手はしっかりと背中に回されている。

 

俺もゆっくりと、そして大事なものを優しく包み込むようにモカの背中に手を回した。

何も言ってないのにお互いの目と目が合う。

 

 

 

 

そのまま、モカとゆっくりキスをした。

初めて合わさるお互いの唇は、最初は震えていたけど徐々に落ち着きを取り戻していた。

 

「ほら、やっぱり雰囲気が台無しだよ?」

「……そうだな」

「コーヒー牛乳、飲んだ?」

「そんな味がした?」

「うん。はじめてのちゅーがコーヒー牛乳の味って、やだな~」

「歯は磨いたんだけどな」

 

コーヒー牛乳とはいえ、風味はいつまでも口に残るらしい。

それにモカは初めてのキスと言った。俺とも初めてだけど、キス自体も初めてなのかもしれないって今思った。

 

「もし貴博君がコーヒー牛乳じゃなくって、牛乳を飲んでたら~、えっちだね」

「牛乳にしとけば良かったな」

「貴博君は女の子とキス、したことある?」

「ある。だけどそこから先は無いから、モカと同じ初めてだな」

「……ばか」

 

どちらからともなく、またキスをした。

そのキスは徐々に、お互いが求めあっているような情熱的なものに変わっていく。

 

そのままモカと、深い夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




@komugikonana

次話は2月4日(火)の22:00に公開します。
来週1週間は投稿はお休みします。ご理解のほど、よろしくお願いします。

新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
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~高評価を付けてくださった方々のご紹介~
評価10という最高評価を付けて頂きました artisan さん!
同じく評価10という最高評価を付けて頂きました かのちゃん先輩 さん!
同じく評価10という最高評価を付けて頂きました ねこっちさん!
評価9という高評価をつけて頂きました クオ212さん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~

仕事終わりに特に意味もなく街を歩いている俺は、知らない間に冬が深まってきていてもうすぐ新しい年を迎えるらしい事実を感じていた。

つい最近だと思っていたモカとの紅葉デートがもうすぐ1ヵ月前になるという事実に真冬の湖に飛び込んだ人間のような唖然とした青白い表情を作ってしまう。


ロングコートのポケットに手を突っ込みながら歩いているとサンタの格好をした女性がいて、何かのチラシを街行く人たちに配っていた。
見た時にかわいいなとか頑張ってるなとか寒そうだな、だとかそんな感情よりも真っ先に違う感想が飛び出した。

「そこのお兄さん!クリスマスケーキはいかがですか?」


では、次話までまったり待ってあげてください。
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