change   作:小麦 こな

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ライブとけじめ④

「いらっしゃい……あれ、貴方は?」

「こんにちは。えっと、弟から話が行ってると思うんだけど」

「やっぱり!?ほんとそっくりだね。あ、まずチケット見せてもらっても良いかな?」

「これね。あとドリンク代」

「今日は楽しんでね!」

「そうさせてもらうよ。それとAfterglowの控室(・・・・・・・・・・・・)、入らせてもらうよ」

 

ライブハウスCiRCLEに入って受付らしい女性にチケットを渡した後、予め許可を得たのでそのまま控室の方に向かう事にした。

あの女性は確か弟が名前で言っていたのを電話越しで聞いたのだが、珍しい事もあることですっかり忘れた。

 

きっと、もう一度聴いたら頭の中で心地よい電流が流れて即座に納得するだろう。

ああ、確かそんな感じの名前だったって。

 

ライブハウス内はかなり賑わっているのは、実は後30分後にはライブが始まるのが要因だと思う。

モカたちは最後の方の出演らしいから1時間くらい控室で待機するって先ほどモカから愚痴り口調で聞いたばかり。

 

モカの事だから直前になって顔つきが変わるほど緊張することなんてないとは思うけど、一抹の不安があれば気になってしまうのは俺の性格らしい。

……そう、一抹の不安が。

 

「控室は、ここか」

 

心の中でブツブツと呟いていたら控室があるフロアまでたどり着いた。

そしてドアに貼ってある、Afterglowと書かれてある紙を見つけた。

 

ただそれなりには予想していたが流石に一バンドが控室を独占、みたいな感じではなく他の複数バンドと共有しているらしい。

控室内が広いとはお世辞には思えない。他のバンドに迷惑を掛ける訳にもいかないから控えめにドアをノックした。

 

 

どうぞ。

 

 

女の子の声が帰ってきたが、俺の知っている女の子の声ではなかった。

もしモカたちがいなかったらただの意味わからん男としか見られない気がする。なぜなら左手にやまぶきベーカリーのパンがたくさん入った紙袋を持ってるのだから。

 

「悩んでも、仕方ねぇか」

 

ノックしておいていつまでも入らなかったら部屋の中にいる人間が不安になるだろうし、控室前でジッと立っていても不審がられるし、パンの良いにおいがいつまでも漂ってくるし。

 

「痛ってぇ!」

 

ドアノブを握ろうとしたら、先にドアが開いてきてギャグマンガみたいに俺はドアに額をぶつけてしまった。

額を揺すりながら前を見ると、すでにライブ衣装に着替えたモカがニヤッとしながら立っていた。

 

「やっぱり貴博君だ~。だって、パンのにおいしたし~?」

「それよりも、言う事あんだろ?」

「ごちになりま~す」

 

左手に持っていたパンの袋をモカが持って行ってしまって、俺の元に残ったのはヒリヒリと残る額の痛みだけだったから思わずため息が出てしまった。

 

モカたちのバンド以外にも4バンド同じ控室にいたみたいだが大体は起きた出来事に頭が追い付かずに唖然としていた。

モカの幼馴染たちは苦笑いしていて、ライブ衣装を着た山吹もあちゃ~、という声が零れそうな顔をしていた。

 

山吹って、モカたちと深い関りがあったんだ。

 

「せっかく差し入れ持ってきたのに何か言えっての……はぁ、じゃあな」

 

これ以上自分の気分を下げたくないからすぐに控室を後にすることにした。

ドアを閉める時チラッとモカを見たら、あいつはリスのようにパンを食べていた。

 

別にモカにありがとうって言ってほしくて差し入れを持って行ったわけじゃない。

だけどスッキリしない。

 

それはきっと、モカの笑顔が見たかったからこんなことをしたのだろう。

ちょっと残念な気分だ。

 

ライブを観に来た客たちはほとんどステージに足を運んだらしく、来た時よりも落ち着きを取り戻していた。

動きやすくて楽なはずなんだけど、今の俺には少し悲しく感じた。

 

「あ、佐東君……であってるよね?」

「ん、あ、そうです。すみません、まだステージに行ってなくて」

 

ここのライブハウスの受付のお姉さんが俺に申し訳なさそうに話しかけてきた。

胸あたりに「月島」と書いてあるネームを付けており、そういえば弟がそんな感じで呼んでいたなぁと案の定ビビビッと衝撃が走った。

 

「そうじゃなくて、ライブハウスの外のカフェで待ってるって」

「はぁ、誰がです?」

 

 

 

 

 

 

君のお友達?っていう人。

 

 

 

 

 

 

「実は君が控室に入っていった時くらいに言われてて……もうすぐライブが始まっちゃうのにごめんなさい」

「いや、良いんです。すぐに戻りますから」

 

誰だ、友達って。

いや、白々しくするのはもうよそうか。だって大体の予想は出来ているから。

だけどまさか、こんなにも早くコンタクトを取れるなんて思ってもいなかった。タイミングが良いのか、悪いのか。

 

それが分かるのは話がすべて(・・・)終わった後に分かるはずだ。

 

ライブハウスから出ると、外は既に真っ暗でどんよりとした雲が輝く星々を隠してしまっていた。

カフェの端の方で寒さのせいなのか、それとも他の理由なのか分からないが右足を必要以上に揺らしている人間がいた。

近くによって初めて分かったが、腕を組んでいる人差し指でさえテンポよく起きたり寝たりを繰り返している。

 

「悪いけど、場所変えるぞ。ここじゃ言えないからな」

 

すれ違い様に奴に聞こえるように言って少し離れた路地まで誘導することにしたが、彼は俺の提案に何も言わずにただついてきた。

少し前かがみになりながら歩く姿に気持ち悪さを覚えたのは、何か感じるものがあったのかもしれない。

 

これから熱いライブの数々を控えているライブハウスとは対照的に、ねっとりとした冷たい空気が蔓延る暗がりの路地で進めていた足を止めた。

 

「単刀直入に聞く。俺を呼びだした理由はなんだ?」

「そ、それは久しぶりに会えたからに決まってるじゃないか」

「あのさぁ、単刀直入って言葉の意味、分かってんのか?」

「当たり前じゃないか!僕は賢いのだから」

 

やけに自信満々な声で自分は賢いという事をアピールしてくるゴミ野郎にはしっかりと、分かりやすく言わなければ伝えたいことも伝わらないという事を再認識した。

そうだな……小学生の男の子に算数を教えてあげるような感じで行こうか。

 

誰の家か分からないけどその家の塀に背中を預けてポケットに手を突っ込みながら重たい空を見上げる。

最近事故があったのだろうか、近くで塀が少しだけ崩れていて、大きな塊も下に落ちていたがあまり気にしなかった。

タバコをやめる前だったら、間違いなくここでタバコを銜えて火を灯しただろう。

 

「そっか。じゃあ問題。1+1は?」

「僕を舐めてるの?」

「その言葉、そっくりそのままおめぇに返してやるよ」

 

久しぶりに低い声を出した気がする。

低い声を出すときはほとんどは自分を悪者に変わって、正義を脅かすときに使う。ちゃんと反論できる余地を正義に残して。

 

だが今回はその9割以上を占める理由じゃない。

正義に逆転の機会をそっとアシストするような言い方ではないという事。

 

今回は本気で、腹を立てている。

 

「もう一度言う。俺は回りくどいのが大っ嫌いなんだ」

「だから何だよ!」

「俺の事が気に食わないから呼んだんだろ?」

 

月島というスタッフから聞いた話で全部察してる。

それを小学生でも分かるような誤魔化しをさもばれてませんよと振舞っているその表情に腹を立てている。

 

相手が熱くなっているいるから、これからは金メッキがはがれるようにボロボロと真相を零していくだろう。

その暁には、こいつを。

 

「ああ、そうだよ!どうしてお前があのAfterglowの控室に行けるんだよ!」

「なんだ、羨ましかったのか。そいつは悪かった」

「お前のその態度は昔からずっと嫌いだった!」

 

ドンドンと面白いキーワードが零れ落ちてきて内心かなりほくそ笑んでしまっている俺は、その感情をまだ出さずに、ニヘラと口元をわざと歪ませてゴミ野郎を睨む。

 

昔からずっと嫌いだった。

 

この言葉がもう少し後に出てきてくれたらかなり面白かったのだが。

やるからにはコテンパンにやっつけたい。そして少しでも危険な芽を摘んでおくべきだ。

 

「だから、君がAfterglowのみんなに危害を加える前に呼び出したんだ」

「思い込みと妄想だけは最難関大学並みだな」

「うるさい!」

 

今も常人以上に学歴にコンプレックスを持っていることがすでに分かっていたから揶揄ってみると案の定、釣れた。

自分を過信しすぎているからこそ、足元が見えずに上だけを見る。その結果、理想と現実との乖離を自覚した時が一番危ないにおいがするようになる。

 

そうなる前に、モカに会わせるわけにはいかない。

彼女が傷つくなら、俺の方が良い。それの方が悲しむ人間は少ないから。

 

だから勝手に熱くなって、ボロを出せ。

 

「そもそも思い込みじゃない。現実だ、佐東。なぜならお前は一度蘭ちゃんを叩いた」

「……」

「今回もAfterglowのみんなを脅して控室に入ったのだろう?やっぱりファンである僕が守ってあげなきゃ」

 

小さく、回転の遅い脳でやっと対抗出来る手段が見つかって、その一つの手段を持ち上げて語っているゴミ野郎を見ていると呆れてきた。

たしかに俺は美竹を叩いたことがあるし、それは許される事ではない。

 

でもさぁ。

 

「脅して……ねぇ」

「へへ。やっぱり脅してたんだな!やっぱり犯罪者の考えることは怖いねー!」

 

へぇ……このゴミ野郎は鬱陶しくてくさい言葉は話すだけではなく、更に俺を追い込もうとしているのか。

もしそうなら本当に哀れなバカなんだなとため息をつきたい。

 

そんなにノープランでペラペラと喋っていたら自分の事を追い込んでしまうんじゃないのか、ってこいつに問いかけても分かりやしないだろう。

 

「ああ、犯罪者って考えることはえげつないさ」

「は?お前の事だよ?」

「俺の中では、お前も立派な犯罪者だと思うんだけどな……。5年前、俺の弟を脅して万引きを強要させただろ?」

 

立派な共犯者じゃねぇか、とニヤッと笑ってやった。

ゴミ野郎は分かりやすく目を大きく見開いて、そんな咄嗟に出た反応を必死に隠して誤魔化そうとしている。

 

悪いけど、お前のせいで人生が狂った人間が一人いるんだ。

責任は取ってもらう。

 

 

どんな形になろうが、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか言ったらどうだ?

なぁ、中嘉島。

 

 




@komugikonana

次話は2月25日(火)の22:00に公開します。
焦らし作戦です。はい。

新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~新しく高評価をつけて頂いた方々のご紹介~
評価10という最高評価をつけて頂きました 水無月 痣緋さん!
同じく評価10という最高評価をつけて頂きました 珠柄杓さん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくね!

~次回予告~

中嘉島は興奮のあまり、自分が裏で手を引いていましたよと自供したような言葉を全く意識なく出しているらしい。
この辺りで手を引こうか、とかそんな優しさは残念ながら俺の性格には含まれていなかった。
含まれていない、という言い方は少し語弊があるかもしれない。

優しさはある。
でもこのゴミ野郎(中嘉島)にあげる優しさなんて要らない。

むしろゴミはゴミらしく燃えて消えてしまえばいい。
リサイクルなんてくそったれだ。


では、次話までまったり待ってあげてください。
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