【あかん】謎に殺される【死ぬぅ】   作:アジーン

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脳トレがてらレイトン教授やってた思い付いた。
作者は『魔神の笛』はプレイ済み。あとは捏造。

※更新の望みは薄め。希望コメがあったら頑張ってみる。

続いた場合、基本は一話完結型の短編で進める予定。



01:幸福と金、そして謎を少々

「――嗚呼、平和だなぁ」

 

爽やかな潮風に目を細め、カフェオレの入ったティーカップを傾ける。ミルク強め、コーヒー薄めの薄茶色。店主の手によって私好みに調節されたそれは、違和感など感じる事なく喉を滑り落ちた。

 

「相変わらず間抜けな顔してるわね」

「幸せな顔と言ってよ、もう」

「だらしなく頬緩ませて、“ふへへー”なんて言って笑ってる顔。間抜け以外にどう表現すればいいのかしら?」

「わぁ、アドネちゃん今日も言葉がキレッキレですねー」

 

タイニーロンドン港区・マクレーン通り東。海に面した喫茶店「クルーズ・カフェ」のウッドデッキテラスにて、私は友人のアドネと優雅なアフタヌーンティーを嗜んでいた。ティーとは言ったものの、飲んでいる物はカフェオレとクリームソーダという茶とは全く無縁のものだが、お互い気にする事なく自分のメニューに手を付けている。

 

「……そういえばアナタ、ここを離れるって聞いたけど本当なの?」

 

カフェオレのおまけにと店主から貰ったスコーンを齧っていると、親友の口から思いもよらぬ言葉が出てきた。何の構えもなしの所に出てきた言葉故、思わず吹き出すように(むせ)る。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

私の様子に、冷静沈着がデフォの友人は珍しく驚いたようで、慌てて私の背後に来て背中を摩ってくれたり、カフェオレを飲むよう勧めてきたりした。親友の心遣いに感謝しつつ荒れた呼吸を戻し、私は喉に張り付いたスコーンを流すべくカフェオレを口に含んだ。

 

「げほっ……誰から聞いたの、その話」

「リーサさんとローザさんの井戸端会議から。もうタイニーロンドン中に広がってると思うわよ」

「えぇぇ……」

 

あの二人、あのおばさま二人か。そして人の口には戸が立てられないとは、正にこの事か。もう街中に広がってるって……ウイルスかよ、この街の住民感染力高すぎでしょ。

 

「もうタイニーロンドンは大騒ぎよ?市役所のロドニーさんは仕事に手が付かないって覇気がないし、配達人のエグバートさんは街中に手紙落としているらしいし、デルモナ学長に至っては本来話す内容とは全く別の講義をしているらしいわ」

「影響力高すぎでしょ!?街壊滅してるじゃん!」

「レイトン先生は――」

「もう分かった、分かったから言わないで。レイトンさんのイメージ壊したくないから。――と・い・う・か!皆大騒ぎし過ぎじゃない!?」

「それだけこの街でアナタという存在が大切にされているのよ。……もちろん、私もね」

「アドネ……」

 

そう言ってアドネはキャスケット帽子を目深に被る。後半に行くにつれて尻込みしていく言葉。久々に見たツン属性の彼女のデレに心打たれた私は、帽子からはみ出た赤い耳は見なかった事にした。

 

「もう十年前とは違うのよ。部外者で、浮浪者で、不幸者な当時のアナタとは違う。タイニーロンドンに欠かせない、一人の英国人(住人)として認められているの。悲しまない訳がないじゃない」

「……そっか」

「皆がお世話にして、お世話になっている。それがアナタなの」

「うん」

「――それで?」

「……うん?」

 

カチャン、とまるで雰囲気を切り替えるようにソーダに浮かぶ氷を鳴らしたアドネ。その顔は既に熱がなく、いつもの人を小馬鹿にするような笑みを浮かべていた。

 

「離れるっていう話は本当なの?」

「離れるっていうか、一時的だけどタイニーロンドンから離れて暮らす予定」

「一時的?」

「うん、故郷に一度戻ろうかなーって」

 

残ったスコーンを喉に詰まらせないよう注意して完食し、僅かなカフェオレを飲む。もし飲み終わっても話が続くようなら、またカフェオレを頼もうかな。今度はケーキも追加で。

 

「アナタの故郷って……」

「日本だよ。ジャパン」

「……忘れてたわ。そういえばアナタ、アジア生まれだったわね。もうタイニーロンドンの住民の一人として扱われていたから忘れていたわ。……もう10年ぶりになるのかしら?」

「そうだねー。今25で、10年前だから……ここに来た当時は15歳か」

「私と同じ年でここに移住するとか無茶無謀にも等しいわね。でもアナタはそれをやってのけて、今ここにいる」

「もうあんな無茶はこりごりだよ。これからは身の丈に合った行動をしまーす」

「……先週のロンドンタイムズ、一面は何だったかしら」

「……イギリスに上陸した世界的強盗集団、単騎で壊滅させマシター」

 

いやいやいや!私悪くないからね!?たまたまローズさんから新作の家具入荷の連絡が来て店に行って確認していたら、突然アイツら来たんだよ!?

 

「私、ホント怖かったんだからね!」

「怖かったのなら怯えた客らしくそう振舞いなさいな。命まで取られやしないのに、何ボコボコの再起不能にしてるの」

「え、だってあまりにも背中が無防備だったから」

「……」

 

あらやだアドネちゃんのクール顔。私の心もクールになりそう。今の季節は夏だから心も体もクールビズ、なんちゃって。……おおう、アドネちゃんの視線が絶対零度の如き温度に!

 

「まったく馬鹿らしい。……それで話を戻すけど、どれくらいあっちにいるの?」

「あ、えっとね……。今月から12月のクリスマス前までだよ。クリスマスや正月はここで迎えたいから頃合い見て飛行機が混まない時に乗って戻るつもり」

「6、7、8、9、10、11、12……って、ほぼ半年じゃない。随分長い間いるのね」

「役所やリーサさんには既に話を通してるよ。帰省するだけだから、永住する訳じゃないから安心して」

「別に安心なんて――……そう、半年ね。それだけ長期間過ごすなら住む場所や生活費はどうするの?」

「生活費は当分遊んで暮らせるくらいの量はあるよ。でも暇潰しに働きに出たりするかもねー。住む場所はあっちについてから探すよ。もう10年経ってるし、色々立地が変わってるから現地確認しかないの」

「ふーん……そう」

「?」

 

金はあるけど、住む場所は決定してない。そう言ったら、アドネは意味深に笑い、懐から携帯電話を取り出した。

 

「ちょっと出るわ、すぐ戻るから」

「えっ」

 

席を立ったアドネはカフェの向こうに消えていく。アドネの姿が視界から消えたのを確認した私は、これから向かう場所に思いを馳せた。

 

(日本かぁ……)

 

――日本。日本国。

 

私の生まれ故郷にして、忌まわしい記憶を生んだ場所。ずっと今まで触れずにいたパンドラの箱。覚悟もなしに触れてしまえば自分が壊れてしまうかもしれない、狂ってしまうかもしれない――そんな存在なのである。日本が嫌いな訳ではないが、如何せん良い思い出がないのだ。そんな思い出から逃げたくて、消えたくて、夢中で飛行機やら列車やら乗り継いで辿り着いた場所がここ、タイニーロンドンだった。

 

あれから10年。まだ抵抗はあるけど、ようやく向き合う姿勢が出来たので帰省を決めたのである。

 

「お待たせ。じゃ、帰りましょうか」

「え?」

 

思考の海に浸かっていると、携帯片手にアドネが戻ってきた。しかし言われるのは解散の合図。

 

「これから用事があるのよ、悪いけど今日はここでお開きね」

「あ、うん。……面と向かってアドネと女子会するのはこれで最後かぁ。自分で決めたことだけど、やっぱり寂しいな……」

「チャットなら時間さえ合えばいつでも出来るわよ」

「ありがと。流石、私の親友」

「馬鹿ね。……あ、伝言忘れていたわ」

「伝言?」

 

首を傾げた私に、アドネはくすくすと笑いを転がした。

 

「さっきの電話先、カレッジのデルモナ学長宛だったんだけど。デルモナ学長が、アナタに――“この後、私の所に来てくれ”って」

「何それ?また仕事の手伝いかな、私ここ旅立つのに」

「確かに伝えたわよ。早く行きなさいな」

 

じゃあね、そういって我が親友は颯爽とタイニーロンドンの街中に消えていった。

 

「伝言、なんだろう……」

 

デルモナ学長の話は長く、聞いてしまえば厄介事を押し付けられる可能性が高い。その分、報酬は高いけど。でも不思議だ、いつも感じる筈の嫌な気配が今日は感じられない。

 

「……ま、行ってみますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――えっ……お部屋、貸していただけるんですか?」

「あぁ。住む所がないんじゃろう?」

「そ、そうですけど……でも、」

 

こちらに背を向けて窓から外を眺めるデルモナ学長の言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。

 

「しばらくそっちに行くような予定もないしの、それにずっと放置していた部屋が埃まみれになる。……どうじゃミト君、掃除ついでにそこの部屋に住んではくれまいか?」

「……そこまで言うのなら」

 

ここは古きモノや謎多きモノが集まるヨーロッパ最高峰の文系大学、グレッセンヘラーカレッジ。このカレッジはデルモナ学長を始めとする研究員達と生徒が日夜世界の謎の解明に明け暮れるヨーロッパ屈指の難関大学だ。遊び気分で来る者は早々に捌かれ、ひたすらに真実を突き止める研究精神溢れる者だけが通学を許された世界。その中での私は、一番の異質さを放っていた事だろう。

 

私はカレッジ生ではない。それ所か研究員でもなければ、学校関係者でもない。全くの赤の他人だ。そんな私がこの神聖な学び舎に足を踏み入れられるのは、(ひとえ)に私が()()の大切な友人だからだ。

感じる数多の視線を無視し、正面入り口の事務員に学長との用事を伝える。アポが取れた所で、デルモナ学長の部屋へと訪れた。

 

そして、冒頭の会話に至る。

「それにしても驚いたよ。故郷に帰る、なんて言うからもう戻ってこないのかと……お陰で今日の講義が疎かよ。ほっほっほ」

「ただの帰省です。ちょっと――という短い期間ではないですけど――母国の日本に帰ります。……色々決心が付いたので、己と向き合おうと」

「そうかそうか……、君もやっと前に進むんじゃな」

 

顎鬚を撫で、幼子を慈しむかのような眼差しに居心地が悪くなる。

 

「あの、何度も確認してしつこいのは承知なんですが。あの……本当に?」

「そうじゃよ」

「……マジで?」

「マジじゃ」

 

どうやら我らが学長は本気らしい。いや住むとこ見つかったのは嬉しいけど、なんか申し訳ないよ。

 

「あの、何から何までタダなのはこちらとしても、ね。せめて何か日本の欲しいものとかありますか?お礼に買ってきます」

「そんな気を遣わんでもいいんじゃがのう。……ふむ。なら、()()()()とやらをカレッジの教員分頼んでよいかのう?不思議な味と触感だと聞いてな、前々から食べたいと皆で話していたのじゃ」

「ヤツハシ……八つ橋ですね。確か生地を蒸したタイプの生八つ橋と、焼き上げたタイプの二種類があるんですが、どちらをご所望ですか?」

「うーむ……ワシらはどちらもよくは知らないからのぉ、両方とも頼んでいいじゃろうか?味も出来れば色々な種類が欲しい」

「了解です」

 

八つ橋か、……京都に行かないと売ってないんだろうな。観光ついでに買いに行こう。滞在期間は長いし、泊りで行ってみてもいいかもしれない。

 

「あ、それで日本のどこにあるんですか?その、借りたお部屋は……」

「うむ。あの時は学会をやった会場の近くのマンションに部屋を取ったから……首都、かのう」

「へ?首都って事は……東京ですか!?超高級一等地じゃないですか!それを放ったらかしって……」

 

東京でも場所によってピンキリだが、学会会場が郊外にあるとは思えない。きっと中心地に近い大学やホールで開催したのだろう。そんな所のマンションの一室を借りっぱなしって……うわあああデルモナ学長凄えええええ。

 

「住所は……ここに確か以前メモを書いといたのじゃが……」

 

そういって書類が溢れ返っているデスクの引き出しに手を突っ込むデルモナ学長だったが、数秒して溜息を吐いた。

 

「すまんのう、ロンドンを出る前には見つけておくから。今日はもう帰ってよいぞ。時間を割いてすまんな」

「いえいえ、お陰で嬉しい話が聞けました。ここを発つのは3日後を予定しているので、それまでに住所教えてください。万が一、間に合わなかったらパソコンのメールにでも送っといてください」

「あい分かった。それでは良い土産話、楽しみにしてるぞい」

「はーい。八つ橋全種と――……あと、とっておきの()を見つけたら報告しまーす!」

「ほっほ、気を付けてな。ゆっくり羽を伸ばすといい」

 

 

 

 

・*・*・*・*・*・

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

デルモナ学長に別れを告げ、自宅へと帰る。

市街地から離れた港区、クルーズ・カフェ近辺アトキンソン通りにある、タイニーロンドンの中で最も高級なマンション「ロイヤルハウス」。その最上階の一室が私の家だ。ドアを開け一声掛けると、部屋の奥から“彼”がゆっくりと現れた。

 

『帰ったか、我が主よ』

「遅くなってごめんねー、思いの外に道草食っちゃって。すぐ晩ご飯作るね!今日は引っ越し前祝の為に買った高級肉だよ!」

『無理をなさるな、主よ。そなたはこれからの旅路の為、英気を養わねばならぬ』

「平気だよ。まだあと2日もあるし」

 

ドアの隙間をすり抜けこちらへやってきた“彼”に、私は()()()()返事を返す。四つん這いの四肢に艶のある黒毛皮を纏った上半身、背中から尻尾にかけて伸びる白銀の毛。鋭く尖った顔には凶悪な牙と、金色に染まる瞳孔の細まった瞳は相変わらず私を魅了する程に美しい。

 

クズリのような愛らしさと、ハイエナのような獰猛さ、そしてイタチのような鋭利さを掛け合わせたかのような1.2m程の陸上生物(私のペット兼パートナー)

 

「ただいま。“ウルグ”」

『おかえり、我が主』

 

夕暮れに輝く金色の瞳は優しく細められた。

 

 

 

 

 

・*・*・*・*・*・

 

 

 

 

 

榛名(はるな) 美都(みと)

それが私の――、()()の名前だ。

 

何の因果か運命か、前世の記憶を持って生まれた私は半ば強制的に人生の再スタートを余儀なくされた。死んだ理由は何となく覚えている。残業帰りでフラフラ駅のホームを歩いていたら足を踏み外して線路に落ちて運悪く来た電車に――とかだった気がする。痛みも苦しみも感じず、意識がブラックアウトしただけだったのと残業疲れで意識朦朧だったので、はっきりとは覚えていない。

誰かに呼ばれるような声が聞こえて、意識を取り戻したら体が赤ん坊になっていて母親らしき女性の腕に抱かれていたので、二次創作でよくある『神様に出会って特典つけてもらったw』とかではないのは確かだ。前世も今世も日本生まれの一般人である。幼稚園や小学校でそれは理解した。記憶持ちの転生だからと言って生まれた先は異世界という訳でもなかった。見慣れた日本語、見慣れた日本文化、見慣れた日本地図。何から何まで前世と変わらない、お馴染みの日本だった。常識や文化が違う異世界に転生するものなら生きてはいけまいと思っていたので、そこはとても安心した。

 

少なくとも日本にいて、善良な民間人として生きていれば人権は保障される。外国みたいにマフィアや裏組織に介入する事はないだろう。今世も、それなりの学歴を手に入れて、それなりの収入を得て、それなりの幸せを手に入れよう――そう考えていた。

 

――しかし、その計画は中学の終わりに崩壊した。

 

「お、とう、さん……?」

 

中学最後の成績表を貰って玄関を扉を開く。

だが学校から帰った私を出迎えたのは、おかえりなさいと微笑む両親の温かな笑顔ではなく、

 

「う、そ……。――っお父さん!お母さん!」

 

部屋を荒らされ、その中で血を流して倒れる両親の亡骸だった。

母を護るように抱きしめた父の背には大振りのナイフが三本刺さったまま、リビングのカーペットを赤黒く濡らしていた。

 

私の悲鳴に気付き、家を見に来たご近所さんが通報して私は警察に引き取られた。強盗、殺人、犯人逃走、そんな言葉をたくさん聞いた気がする。警察に事情を聴かれても何も答えられず、時に私が殺したのではと疑われもしたが、殺害時刻当時学校で授業を聞いていた事が先生とクラスメイトに証明され、すぐに疑いは解かれた。

 

犯人は空き巣、もしくは強盗に入った時に運悪く両親と鉢合わせし、持っていたナイフで殺害したのでは――と刑事の人は言っていた。……犯人に対し、怒りや恨みは沸かなかった。ただ代わりに、ひたすらに悲しくてショックだった。

置いて逝かれた、私もあの場にいたら両親と一緒の所にいられたのかもしれない。そんな失礼な事を考えながら、私は親戚の敷地を跨いだ。

 

――そしてその先でも、またしても私は悲しみとショックを受けた。

 

「二人が殺された。あの娘一人ではあの膨大な財産と土地は使えまい」

「ならば俺が代わりに管理しよう」

「いいえ、それなら私が」

「いつも不干渉なのにこういう時はしゃしゃり出てくるんだな。ワシはあの男に恩を売ったから財産を貰う権利がある」

「何ですって……!」

「横暴にも程があるだろう!?」

「黙れ!小心者の若造が!お主らに二人の財の管理を任せられるかッ!」

 

私の前で言い争う親戚一同。老若男女問わず、両親が蓄えて管理していたという多額の財産の所有権を言い争っていた。自分があの二人と仲良くしてた、自分はかつて二人に恩を売った、自分こそ相応しい――そんな自分勝手な言い分が私を余所に部屋を飛び交った。

 

――……怖かった。

 

前世の二十数年、今世の十五年。四十年近くも生きて他の人間より特殊な生まれ方をしているのに、私の方が異端な存在なのに――……彼らの言動が理解出来なかった。まるで、違う世界に迷い込んだかのような錯覚に捕らわれた。

 

怖い。なんで、なんでそんな事言うの。私の心配は?両親の心配は?なんで、お金の話ばかりしているの?なんで、なんで――……!

 

なんで、私の事には何も言わないの――……!?

 

私が目の前にいるのに、親戚の口から飛び出るのは「金」「存続」「財産」。私の――榛名美都の名前(話題)なんて何一つ出なかった。それがひたすらに怖くて、悲しくて、苦しかった。

 

     「だから、私は逃げた」

 

下ろせるだけのお金を持って、

 

     「そして、私は目指した」

 

親戚も、警察も、両親もいない、まだ未踏の地へと。

 

海を渡り、大陸を渡り、国を渡り、街を渡り、そして辿り着いたのが――、

 

「 Oh,what's happened? Cute lady?(あら、どうしたの。可愛いお嬢さん?) 」

 

何故か、架空の世界とされるタイニーロンドン(謎多きレイトン世界)だった。

 

 

 

 

 

・*・*・*・*・*・

 

 

 

 

 

《まもなく、ご到着です。乗客の皆様、降車の準備を――》

 

飛行機の到着アナウンスに意識を覚醒させる。どうやら飛行機に乗ってすぐ眠ってしまったようだ。椅子に座ってからの記憶がない。欠伸を噛み殺し、上体を起こす。窓の外を覗けば雲の下に懐かしい日本列島が見えた。

 

「……ただいま。お父さん、お母さん」

 

そして日本。十年ぶりになるのかな。ニュースで何度か見た事あるけど、こうして直接見るのは十年ぶりだ。

 

「……」

 

あの親戚(人達)はどうしているだろうか?願わくば、もう二度と会いたくないものだ。あんな怖い人達。親戚の家とデルモナ学長が借りた部屋は距離が数百キロ単位で遠く離れている。

 

出会う事はほぼないだろうが、もし出会った時、その時私は正気を保っていられるだろうか――……。

 

「長旅お疲れさまでした。番号と名前をお聞かせください」

「34番。名前は榛名美都です」

「34番、榛名美都様、ですね。少々お待ちください……はい、こちらのウルグ様ですね。お疲れさまでした」

「お疲れウルグ。……あー……、大丈夫?」

『……暫し、休みたい』

 

飛行機を降り、荷物を取ってペット専用の受付窓口でウルグを受け取る。大きな檻付きケージの中を見るとぐったりした様子のウルグの姿が。どうやら酔ってしまったらしい。赤い舌がだらしなく口からはみ出ている。

 

「乗り物酔いの所悪いけど、これからタクシーに乗ってマンションに行くよ。三十分くらい我慢してね」

『……主が、運転するのか』

「まさか。私はお客側だよ。タイニーロンドン(あっち)みたいにポンポン自由に運転出来る訳がないじゃない。あ、乗りまーす!」

 

タクシーを呼び止め、巨大なスーツケースと複数の鞄をトランクに詰める。ウルグが入ったケージは客席側後部座席に乗せて、私は運転席の隣に座った。

 

「いらっしゃいませ、どちらまで行かれますか?」

「えーっと、ちょっと待ってくださいね……」

 

手にしたハンドバッグから一枚の紙切れを取る。デルモナ学長から渡されたマンションの住所が書かれたメモだ。出発時刻ギリギリだったが空港に現れた学長から強引に投げ渡されたものだ。変に折れ曲がったメモを開き、頑張って書いたであろう拙い平仮名と数字の羅列に目を通す。

 

「ええと……と、とうと、べい、かちょう?って所の……べいかろいやる、ってマンションです」

「東都米花町、ベイカロイヤル・マンションですね。お客さん、随分とお金持ちなんですね。あそこがご自宅なのですか?」

「これからご自宅になるんです。私今までロンドンにいて、帰省の話を友人にしたら日本に住むなら使ってないうちの部屋を使えと言われまして」

「ロンドンにいた?留学ですか?」

「いえ、移住です。十年ぶりに日本に帰ってきたんです」

「そうですか、十年ぶりですか。それなら運転ついでに、道すがら街案内をしましょう。何、料金加算や寄り道なんてしませんよ。通った道や通りなどの店を紹介します」

「いいんですか?ありがとうございます!」

 

親切な運転手に促され、私達は空港を後にした。……それにしても「とうと」だの「べいかちょう」だの聞き慣れない地名だな。東京にそんな場所、あっただろうか。……駄目だ、タイニーロンドンの生活が濃くてあまり日本の情報が頭に残ってない。もしかすると市町村の合併で他の地域とくっついて改名した地区があるのかもしれない。

 

「ここの通りは昼間は人通りが多いですが、夜になるとめっきり少なくなります。夜間の外出は気を付けてくださいね。そこの角を曲がった先にあるコンビニは、美味しいスイーツがたくさん置いてあるのでお勧めです」

「この通りにはレストランだとか、デパートみたいな所はないんですか?」

「ここは立地が狭く、昔から個人店が多く並ぶ商店街ですからね。レストランは大通りに出ないとありません。ショッピングモールは米花町にはございませんので、電車で隣駅の杯戸地区に行ってください、目の前にあります」

「了解です」

「……あ、米花町――というか、私個人のおすすめスポットがあるのですが、紹介しても?」

「え、あぁ。いいですよ」

「この通りに面した喫茶店……あ、あれです。喫茶・ポアロって言うんですけど、そこのハムサンドがとても美味しいんですよ。コーヒーとセットで頼むとお得で、時に期間限定スイーツなんかも作ってるので、一度行ってみてください」

「へぇー、ポアロね。モーニングは7時から8時半までね、お休みは水曜日か。明日辺り行ってみようかな」

「是非行ってみてください」

 

そうして運転手による街案内が終わり、タクシーは大通りの一角に止まった。

 

「はい、到着です。料金はこちらになります」

「これで足りますか?」

「十分です。ありがとうございました。それでは私はこれで、ご乗車ありがとうございました」

 

空港で換金した日本円を渡して、過ぎ去るタクシーを見送る。優しい人だった。某シルクハットがお似合いの英国紳士の彼みたいだ。曲がり角に消えてったタクシーを確認して、私は辿り着いた目的地を見上げる。

 

「でっか……いやもうホテルか」

 

50階あるかないかの豪華な出で立ちの高層マンションは、もはや外国にあるようなロイヤルスイートホテル並みの建物だった。デルモナ学長はこんな所に()()()()住んでいたのか。これで今でも使用可能なんでしょう?……やば。

 

「えっと、入口は入居者以外も出入り可能。一階は管理室とカフェスペースとラウンジとカラオケやゲーセン等の娯楽施設。二階には複数のフードレスラン。三階からマンションの部屋なのね。……もうホテルじゃん」

 

曇りなく磨かれた自動ドアを潜り、案内表示をもとに管理室へと向かう。窓口にいた事務員に声を掛け、言われる通りに身分証を提示する。何枚もの書類に目を通しサインした所で事務員は、脇にある不思議な機械にスイッチを入れた。

 

「これは?」

「このマンションはセキュリティがとても厳しい事で有名です。カードキーの他に掌の血管と目の虹彩の確認もキー解除に必須となります。ですのでこれから、あなた様の手の血管と虹彩の記録を行います。現在はデルモナ様のデータとなっているので更新手続きを致します。ではまずこちらの広い面に右掌を。次にこの小さな面に目を近づけてください」

 

お、おう……。指紋認証ではなくて、血管と虹彩の認証ですか。ハイテクですね。

 

「――……はい、登録が完了しました。ではこちらがカードキーです。カードキーをドア横の穴に差し込み、三十秒以内に画面に掌と目を合わせてください。備え付けのランプが赤から緑に変われば解除可能です。中に入り、ドアを閉じれば自動でロックが掛かり、外からはカードキーと認証がないと開けられません。出入りの際は、十分注意してください」

「はい、分かりました」

「それではごゆっくり。あぁ、この二階のフードスペースですが、入居者ならば全店全品料金が20%オフとなります。支払いの際にカードキーを提示してください」

 

マジか、もうここで一生過ごせそうじゃないか。手渡されたパンフレットを見る。あ、娯楽施設スペースの所にマッサージ施設がある。今夜行ってみよう。

 

「マンションの外へ外出する際は、窃盗と紛失を防ぐ為にカードキーをこちらに預けてください。ご帰宅の際にこちらに赴き、カードを返却致します」

 

よっし、身分登録もしたし早速デルモナ学長が借りた部屋を見に行こう。えーと、階数は……48階!?うわ、ほぼ最上階じゃん。私が住んでたロイヤルハウスよりも凄いよ。

エレベーターに乗り、部屋へと向かう。角を幾つも曲がり、辿り着いたのは一番端の部屋。受付に言われた通りに、ドア横の平たい穴にカードを差し込み、その下にある大きな画面に掌を乗せ、音が鳴ったら今度は目を合わせる。数秒の沈黙の後甲高い音と主に赤ランプが解除可能の緑ランプに変わった。実際に見ると感動的だ。重たいドアを開け靴を脱ぐ。

 

「さてさて――十年ぶりの故郷、精々楽しみますか!」

 

そしてリビングに繋がるであろう大部屋のドアを開けた――――。

 

 

 

 

 

この時、私は知らなかった。

この米花町、ひいてはこの世界が、レイトン世界と同じく誰かの手によって作られた架空の世界である事に。

 

この米花町が日本有数――否、世界有数の代表的犯罪都市である事に。

 

そして、タクシーの運転の勧めで訪れた先の喫茶店で全てを理解するのだ。

 

「安室さーん!ハムサンドおかわり!あとレモネードも!」

「ちょっと園子、晩ご飯食べれなくなっちゃうよ?それに最近ダイエットしてるって言ってなかった?」

「安室さんのハムサンドは別なの!」

「梓さん、僕もハムサンドのおかわりいいかな。コナン君もどうだい?」

「え、ぼ、僕はいいかな……?」

 

 

 

 

 

「……ここ、名探偵の世界じゃん」

 

 

 

 

 

【あかん】謎に殺される【死ぬぅ】――Fin?




基本は観光。偶に事件に巻き込まれる。その時はレイトン世界で培った謎解き技術でさりげなーくアシストする。

でも逆にその様子を見たコナン世界の住民は「なんでこんな事、一般人の君が知ってるんだ?……まさか!」とか勝手に悪解釈して自爆するんだろうなぁ。主人公はレイトン世界の住民ですから。偶にそっちでも事件解決に貢献してますから(※レイトン経由)

さらに、何てったって、主人公は「タイニーロンドンの住民」ですから!

へ?ウルグは何、だって?……「ウルグ アイスボーン」で調べてみて。可愛いから。
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