【あかん】謎に殺される【死ぬぅ】   作:アジーン

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見切り発車の更新薄めだってのに、いつの間にか日間載ってお気に入りやらコメがたくさん届いた。

そんなに期待されたら話書くしかないだろルォォオオ!?
ということで書きました。

※最後にアンケート載せましたので、ご協力をお願いします。


03:職質されたら確実に(社会的に)死ぬ

タイニーロンドン。

 

それはイギリスの首都ロンドンの一角にある、とある一等地の名前である。一等地と言っても町並みは至って普通で、駅を降りれば市役所や郵便局、警察署など市民の生活に必要な施設が当たり前にあり、大通りに出ればデパートやレストラン、カジノなどの娯楽施設が多く立ち並んでいる。一方で大通りから外れればロンドン住民達の住むマンションや資産家の邸宅などが多く点在する住宅街が広がっている――などなど、()()()()()()()()極々普通の、他の先進国にもありそうな都市である。

 

――しかし、このタイニーロンドンには他の都市にはない明確な()()があった。それは “特徴” とも言えるし、“欠点” とも言えた。だが少なくとも、タイニーロンドンに住む者達はそれを “常識” や “掟” と認識し、踏まえたうえで今日も英国を生きている。

 

タイニーロンドン。

 

そこは『金』と『幸福』の規律が取れた町。人種が何であれ、金と幸福を持っていれば弱者でも頂点へ伸し上がることが出来る、ラスベガスとはまた違った一発逆転の町。だが逆を言えば、金も幸福もない場合は途端に弱者へと転落してしまうハイリスク・ハイリターンの町とも言えた。

今の私は金にも幸福にも、そして人にも恵まれた幸せ者だが、十年前の当時は今とは真逆の――……言ってしまえば自殺志願者だった。両親を亡くし、親戚の扱いに恐怖し、国を飛び出したものの持ち出した金が逃亡費用に消えて、まさに人生の絶不調の真っただ中にいた。頼れる人も、機関もなく、ただ当てもなく幽霊のように彷徨っていた。

 

もうこのまま死んでしまおう、両親の下へ逝こう。そう決意してしまうくらいだった。

だけど、そんな私に手を差し伸べてくれる人がいたのだ。

 

「あら、どうしたの。可愛いお嬢さん?」

 

それがローザさんだった。

ローザさん、タイニーロンドンの複数の賃貸住宅を管理する優しいお婆さん。道端で泣いている私を見つけて、家に上げてくれた人。私の身の上の知った上で、最後まで責任を取ると独り立ちするまで世話してくれた大切な恩人。

 

「まったく、あなたの両親も酷い事するわねぇ。こんな可愛い女の子を一人置いて天国に行ってしまうだなんて」

 

そう言って作ってくれたカボチャパイは、とても甘く暖かく、優しい味をしていた。そして彼女は私に、()()()()に、英国で生きる術を教えてくれたのだ。

 

タイニーロンドンの住民は礼儀や文化を重んじる一方で、金や幸福にも目敏く視点を当てている。タイニーロンドンでとにかく大切なのは「余裕である事」。お金(社会的余裕)幸福(精神的余裕)の二つの両立が出来て初めて、タイニーロンドンの一員として認められるのだ。

 

だから世界中の人は憧れる。夢の町、逆転の町として。

 

そして、そんな町に――……

 

「美都さんって、お仕事何されてるんですか?」

「んー……色々と」

 

定職に就かず手伝いや簡単なバイトで貰う報酬で『ロイヤルハウス』に気儘に暮らしている私は、きっと世界中の人から恨まれるんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

・*・*・*・*・*・

 

 

 

 

 

「えー、隠さないで教えてくださいよ」

「いやいや隠してないよ。本当に色々やってるんだってば」

 

六月某日。晴れてはいるものの、湿気が多いこの日。イギリスと違い、日本の六月は気温も高く降水量も多い。そして一番の特徴は湿度が高い事である。癖毛の人は大変苦労する時期ではないだろうかと思うし、それ以外の人も途切れる事のない雨雲に鬱屈としている事だろう。

それは私も同じである。――否、恐らくは周囲の日本人以上に、私は鬱屈としていた。

まず朝の目覚めが悪い。慣れ親しんだイギリスの爽やかな気候とは真逆のジメジメした空気が髪や肌に張り付き、今まで英国の空気の中で生きてきた私にとって湿度は、不快以外の何者でもなかった。隣で寝ているウルグも寝返りを何度もし、体に張り付いた重たい湿気を何度も逃していた。

次に日常生活。日中も厚い雲が空を覆い、荒れてはいないが終わりのない穏やかな雨が街に降り続いている。仮に雨が上がったとしても、厚い雲はそのままなので晴れることはなく、ずっと暗いままなのだ。お陰で私の気分もスッキリせず、どんよりしたままでストレスが溜まり、顔も自然と暗くなる。

 

これじゃ幸福が逃げてしまう――。

 

タイニーロンドン住民の認可条件の一つに “幸福である事” が含まれている。幸せかどうかは表情やその人の纏う雰囲気によって分かり、それ次第では街の人々の対応も変わるのだ。

 

対応が変わる理由?……君は、目の前に今にも死にそうな不幸な顔をしている人がいたとして、声を掛けたくなるだろうか?同じ空間にいたいと思うだろうか?うわ、何この人近付かんとこ……と思い、ついつい頑なな態度を取らないだろうか?……そういう事である。

 

「梓さん、安室さん。カフェオレ追加で。今度はレモンパイもお願いします」

「さっきハムサンド食べてましたけど、大丈夫ですか?」

 

そんな時こそ気分転換。そうと決まればと重い腰を上げ、私が向かったのはファーストコンタクトからそれ以来お世話になっている喫茶・ポアロ。

来店時間のほとんどが学校の下校時刻なので、よく毛利蘭・鈴木園子・世良真純三人衆もとい女子高生軍団と出くわすが、今日は他の二人は別行動らしく蘭ちゃん一人だったので、デートに誘ってみた。

あの接触以来、女子高生軍団から話を振られるようになった。内容はほとんどタイニーロンドンについてだけど。でも私は高校を迎える前に国外逃亡したので、実際の女子高生達の会話は新鮮で中々楽しい。

 

「平気ですよ梓さん。私、結構大食いなので。あと蘭ちゃんと半分こしますから」

「え、貰ってもいいんですか?」

「いいですよー。というか一緒に食べて欲しいなぁ」

「じゃ、じゃあいただきますっ!」

 

はいどうぞ。運ばれてきたカフェオレとレモンパイを蘭ちゃんは嬉々として携帯の写真に収める。以前写真が好きなのかと聞いたら、可愛いものや綺麗なものを写真に収めて後で友達と鑑賞したいのだとか。女子高生楽しんでますね。この間、蘭ちゃんのアルバム見せてもらったけど、野良猫とか道端の花とか部活の子達とかが種類ごとに保存されていた。太陽の角度とかピントも調節したようで、写真展に並べられるのではと思うくらいに綺麗な写真だった。私も写真は撮るけど気まぐれ程度だし、衝動的に取ったものばかりだがらピンボケ満載だから、お世辞にも綺麗とは言えない写真ばかり保存されている。あ、でもルー君の居眠り写真は中々の出来栄えだった気がする。撮ったのはレミちゃんだけど。

 

「お待たせしました」

「はーい」

 

運ばれてきたカフェオレにはミルクポーションと角砂糖の入った小瓶が付属されていた。私が初来店した時の様子を、安室さんが見ていたらしい。よく見てるねぇ。店奥に引っ込んだ安室さんを確認し、ポーションを一つ開け、カフェオレの中に注ぐ。見覚えのある薄茶色になってきた所で今度は角砂糖を二つ中に突っ込んだ。

 

「カフェオレに角砂糖って、美都さんかなり甘党なんですね」

「この店のカフェオレ、ちょっと苦くてね。自分で調節して自分好みの味にしたいんだ。甘党なのは確かだよ」

 

カフェオレに砂糖が溶けたのを確認し、一口飲む。うんうん、私好みの味――に近い味になった。

 

「それに多少の甘い方が、レモンパイの爽やかな酸味がしっかり感じられるからね」

「あ、確かに!」

 

大きなレモンパイを食べやすい大きさに切り分けてから食べる。蒸し暑い熱を吹き飛ばすかのようなひんやり冷たいパイ生地と、爽やか酸味のレモンがとても美味しい。

 

「美味しー」

「ですよね!今度園子達にも教えないと……」

 

蘭ちゃんの気にも召したようだ。この様子じゃ早くて明日、遅くて明後日の午後この店は女子高生軍団に占領される事だろう。

 

「あ、そうそう!それでさっきの続きなんですけど」

「えー?」

「だって気になりますもん!」

 

そんなに私の職業不定事情が気になりますか。流石探偵の娘さん。あんまり自分の事話したくないんだけどなぁ。店奥で気配消して耳を(そばだ)てている自称私立探偵兼アルバイターもいる事だし……。いやでも下手に誤魔化すよりスパパーッて言った方が逆に信用するかな?どうせこの世界じゃ嘘なんて、好奇心と言う名の暴力にすぐに見破られるんだから。……うん、正直にしよう。美都ちゃんは賢いのだ。

カフェオレで口を潤し、下唇を舐める。私が何か言おうとしてるのが伝わったのか蘭ちゃんと静かになり、私の隣で次の言葉を待っている。そんな緊張する事かなぁ?

 

「恥ずかしいからあんまり言いたくないんだよね。私、定職についていないんだ」

「えっ……そうなんですか?」

「働いてはいるけど……うーんと、何て言えばいいんだろう?強いて言うなら――…… “何でも屋” 、みたいな事かな?」

「何でも屋?」

「うん、そう」

 

間違ってはいないな、うん。

 

今言った通り、私は定職には就いていない。だがその代わりに、タイニーロンドンに市民からのちょっとした手伝い(依頼)を受け持ち、その報酬で生活している。

 

レイトンシリーズ、特に『魔神の笛』をプレイした方なら想像がつくだろう。レイトン教授第二シリーズの一作目を飾る『魔神の笛』、その本編をクリアした後にプレイ出来る秘密のゲーム。その名も――『ロンドンライフ』。

私の生活様式はまさに『ロンドンライフ』を送るプレイヤーである。悩める住民の謎を肩代わりし、仕事として受け持ち、無事依頼達成となったら報酬を頂き、それを元手に優雅なロンドンライフを送ると言った、いわゆる “何でも屋” と “代行屋” を合わせた仕事をしている。

 

報酬といっても金額は人と依頼内容によってピンキリで低い時は子供の駄賃、高い時は資産家の小遣いと金額の幅は広い。たまに知り合いのスコットランドの刑事達から事件解決の手助けも要請されるので、10年もそれをやっていれば、それなりの資産は貯まる。

一度臨時や非正規でもいいから定職に就こうかと考えたが、思いの外ロンドンの皆は私を頼りにしてくれていたそうで、ヤードの人達も緊急時の人材として目を掛けていた理由から現在も職業不定のまま生活しているのだ。日本だったら怪しまれる事間違いなしだ是非もないネ。

 

「何でも屋?」

「そう。誰かがやる筈の仕事を手伝ったり、代わりに受け持ったりして報酬を貰うの。例えば諸事情で店を一日空けるから代わりに店番してーとか、この仕事手伝ってーとか。後はロンドンの治安維持とかにも務めたり。悩めるロンドン市民を助けるお手伝いをしてるよ」

「へぇ、日本では見ない仕事ですね。代行屋を個人経営してる――、」

「――訳じゃないよ。本当に私自体は無職」

「……ほう」

「まぁ、色々やってます」

 

あ、安室さんの目が光った。こりゃ「そんな子供のお使い程度で大の大人が生活出来るとでも?これは何か裏がありそうだ」とか思ってるな。本当の事なんだけどなぁ。でも無職である故、“何もしてない” という証拠がないからどうしようもないぞ。南無三、私。

 

「なら一番キツかった仕事って何ですか?」

「一番キツかった……」

 

興味津々に瞳を輝かせる蘭ちゃんとは逆に、私の目は徐々に死んでいった。一番キツかった仕事……そりゃあ、ねぇ?あれしかないでしょ。

 

「大学の論文添削の依頼、かな」

「へ?大学?」

「知り合いに論文書く人がいてね。感想やら手直しやらを頼まれて……大変だったなぁ」

 

おまけに時間もかなり取られる。誠に大変でございましたふざけんなあのシルクハット。感想?添削?考古学専攻の学生でもないのに分かるか馬鹿。そういうのは助手にやらすだろ普通。何? “君しかいない” ?寝言は寝てから言って、どうぞ。そういうのは彼女さんだけに言ってください教授。

 

「……美都さん、目が荒んでますけど」

「大丈夫だ、問題ない」

「えぇ……?」

 

ちょっと某謎解きスキーの依頼思い出してウヘェしてるだけだから。

残り僅かとなったレモンパイをパクパクしていると、店のベルが鳴り響き新たな客が入ってきた。その客はこちらに一目散に駆け寄り、私達――正確には蘭ちゃんに走り寄る。

 

「――蘭姉ちゃんっ!」

 

ぴろりん♪

 

無邪気な声が掛けられるのと、私の携帯のメール音が鳴ったのは、ほぼ同時だった。

 

「あらコナン君、お帰りなさい。今日は哀ちゃん達と一緒じゃないの?」

「今日は皆用事があって、先帰っちゃったんだ」

「そっかー」

「美都お姉さんもこんにちは!」

「こんにちは。コナン君は今日も元気だねー」

 

ニコニコと可愛らしい顔の小学生。だが中身は以下略。相変わらずの笑顔の下の訝しむ視線、私でなきゃ見逃しちゃうね。名探偵の頭を撫でつつ、自分の中の意識を切り替える。名探偵の登場だ、この子は子供の無垢さや純真さを利用して遠慮なく物事を聞いてくるから注意が必要だ。

 

「何話してたの?」

「美都さんのお仕事についてだよ」

 

やめて蘭ちゃん、あまり言わないで。もう終わった事でしょ?

 

「えーっ!僕も知りたいなー!」

 

ほら言わんこっちゃないッッ!

ただでさえ元から怪しまれてるのに、職業不定でさらに怪しまれる!盗聴器付けられてもおかしくないんだぞう!?

 

「お姉さん、携帯光ってるよ?出ないの?」

「あ、うん。出るよ、うん」

 

鞄の隙間から見えたらしい携帯を指差し、名探偵は言う。鞄から電話を取り出し、電源を入れる。iPh○ne端末型のそれは電源を入れれば電話やメールの送信相手が画面に見える機種で、当然他の人も画面が見える訳で――、

 

「お姉さん、この “(ヒョウ)” って誰?」

Bloody hell!

 

画面を覗き込んだ知りたがりの坊や(17)は、すぐに反応して食いついた。

 

「う、うふふふふふ。さて、さてさて、どちら様でしょう?」

「お姉さんのお友達?」

「まぁ、お友達じゃなきゃアドレスは交換しないよね」

「えー、教えてよー!」

 

僕知りたい!という名探偵の言葉を無視してメールを確認する。画面をタップしてメール受信画面から相手を見れば――、

 

――――――――――

差出人:豹

件名:ミト、頼みたい。

――――――――――

 

話していれば何とやら、仕事の依頼である。件名だけでもすぐに分かった。全てを理解した。鞄から財布を取り出し、パッパと帰り支度をする。

 

「そろそろ帰るね。用事が出来ちゃった」

「お仕事ですか?」

「そんな感じー。あ、安室さん。お会計お願いします。蘭ちゃんはそのまま食べてていいよ」

「ご、ご馳走様です。あ、美都さん!せっかくなのでメルアド交換しましょう!」

「いいよー。でも他の子に私のアドレス教える時は、前もって私に連絡してね。誰から来たのか分からないから」

「了解です!」

 

蘭ちゃんと私、お互いのアドレスを交換する。やったね、主要キャラとのパイプが出来た。これでさらに事件に巻き込まれるぞう!(血涙)

……いやいや、ここは前向きに日本のお友達が増えたと喜ぼう。そうしないとこの先、生きていけない気がする。

 

「じゃあね蘭ちゃん、また今度」

「はいっ!今度会うまでに美味しいスイーツのお店探しておきますので一緒に行きましょう!」

「わぁ嬉しい。楽しみにしてるね」

 

名探偵の物足りなさそうな視線を振り切り、店の扉を開ける。瞬間、ムワッとした湿気が全身を包む。見上げれば空を覆っていた厚い雲は消え去り、茜色の夕日がビルの陰に消えていく様が見えた。時計を見れば五時前、結構な時間をポアロで過ごしていたらしい。

 

「早く帰って夕飯を作らないと」

 

レモンパイを食べたばかりだから、お腹があまり減っていない。今日は軽めにしようか。ウルグはいつもの量だけど。

 

「何作ろうかなぁ」

 

肉料理は昨日作ったから、今日はヘルシーな野菜料理を作ろうか。チキンサラダなんていいかもしれない、脂質控えめだし。あ、でも鶏肉なかったな。途中商店街寄って精肉店で胸肉買ってこよう。

 

オレンジ色に染まる、ようやく見慣れ始めた町を歩きながら、私は今晩の夕食の献立を考えるのであった。

 

 

 

 

 

・*・*・*・*・*・

 

 

 

 

 

太陽が沈み、ネオンの光が町を彩る夜の米花町。早い者は既に床に伏せ、また帰宅途中の者は酒や女を探し回り外を出歩いている。

そんな夕食後の遅い時間帯の交差点を、一台の車が駆け抜ける。白のマツダ・RX-7、そのハンドルを握っているのは喫茶ポアロで働くうら若きアルバイターの安室透。しかし前を見据えるその顔は、昼間のアルバイトの時の優しげで爽やかな様子とは全く違う、別人の顔をしていた。柔和な顔立ちはロボットのような無機質な顔に、形の良い口唇は真一文字に結ばれている。

だが、不意に笑みを零して助手席に座る者に労いの声を掛けた。笑みといっても昼間の女性を魅了するかのような甘いものではなく、力なき者を見下す加虐性が込められた恐ろしいものだった。

 

「お疲れ様です。今日は簡単な取引でしたね」

「えぇ、でも()()ね。あの男、別の所と繋がって私達の情報を流そうとしているらしいから」

「別の所?警察関係ですか?」

「いいえ、ジンの話じゃスペインのマフィアじゃないかってね。かなり個人的な仲にあるそうよ」

「へぇ、では?」

「モトが取れれば即始末、だそうよ」

「相手はマフィア。“疑わしきは罰する” を吟じるジンでも行動が慎重になるのは仕方ないですね」

「そうね」

 

ネオンの光が二人を照らす。それでも二人の全身像が完全に捉えられないのは、きっと二人の黒装束が車内の闇に溶け込んでいるからだろう。一つ、二つと交差点を抜け、宿泊施設が建つ通りへと出る。

 

「最近、またアナタ、何か嗅ぎ回ってるんじゃない?」

 

助手席に座り、窓辺に頬杖をついた金髪の美女は、何の気なしに言った。

 

「……何か、とは?」

「知らないから本人に直接聞いてるんでしょう?()()()()

 

頬杖をやめ、美女がこちらを向く気配が感じられた。両者共に笑みを称える。お互いの真意を悟らせない為、お互いの行動を知らせない為に――。

 

「……」

 

暫しの沈黙、安室透(バーボン)は思う。確かに己は、()()()()について嗅ぎ回っている。しかしそれは組織には関係のない(と推測している)事なので別に彼女に言う必要はない。だが、何も言わない場合は変に怪しまれる可能性がある――ベルモット(彼女)を通じて、ジン()に。

注意深く、思慮深い彼の事だ、一度疑問に思った事は徹底的に調べ尽くすだろう。疑問と、それに関係する全てを――。そうなったら、降谷零()の使命にも気づく事だろう。

 

それは断じて阻止せねば。国を守る犬として、国民を支える柱として、己は生き延びねばならない。

 

故に、彼は素直に口を開いた。

 

「えぇ、していますとも。ですが、それは『安室透』の案件ですのでご心配なく。ちょっとした表の事です」

「あら、まだやってたの探偵?」

「情報収集には探偵がうってつけなんです。依頼がてら、能力強化にも務められますし」

「ふーん、そう」

「あなたもやります?」

「結構よ」

 

話の様子から組織に関係する事ではないと踏んだのだろう。ベルモットは即座に興味を失い、再びネオンの光に目を向けた。

 

それから車は、とあるホテルの前に止まった。ありがとう、どういたしまして、気持ちが込められていない事務的な挨拶を交わし、安室と美女は別れる。

 

「……そういえば、」

「はい?」

 

ふと、ホテルに入ろうとした美女が男を呼び止める。背を向けていた状態の美女は振り返り、安室の下へと小走りに戻ってきた。何事かと安室は緩み始めた気を再び固め、美女の言葉を待つ。

 

「言い忘れていたわ。今、ジンの下で新しい幹部候補を育てているらしいわ。とても能力が高くて、ジン自身もかなり目を掛けているから、ジンに話を振る際はくれぐれも気を付けてね」

 

じゃあね、今日はありがとう。そう言って颯爽とホテルの中に消える美女はまさにハリヴッド女優に相応しい風格があり――、

 

「……」

 

トリプルフェイスの彼は、ただ呆然のその背中を見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

・*・*・*・*・*・

 

 

 

 

 

夜も更けた頃合い。金色の眼を持つ黒獣は、ベッドに横たわり寝息を立てる主人の横をすり抜けて部屋を出た。

足音などなく、まるで忍者のような華麗な足捌きで向かった場所は主人の外出用の鞄が置いてあるリビングだった。そして完全に気配を消して鞄の元に辿り着いた黒獣は、鞄のポケットに顔を突っ込んだ。

 

狭い一口に細い顔を突っ込み、目的の物を探す。数秒の後、ポケットから顔を出した黒獣の口には小さな金属が加えられていた。

加えた金属を吐き出し、床に投げ捨てる。爪程の大きさもない本当に小さな金属は、僅かに赤いランプを灯してその機能の生存を確立させていた。

それを冷ややかな目で見つめた黒獣はただ一言、冷淡に、弱者を見下すように、深く低い声で呟いた。

 

『――他愛ない』

 

グシャリ。

 

無音の部屋に、機械の悲鳴が上がった。

黒獣は知っていた。主人が帰宅した際に、()()が付けられていた事を。故に黒獣は今の今まで一言も発しなかった。

主人は一言も話さない黒獣を心配した。饒舌ではないものの、話しかければ普段なら必ず答えを返してくる相棒が、何故か一言も口を割らなかったのだ。

心配と悲しみ。主人から向けられる不安げな視線。黒獣はそれらを耐え、主人が寝静まってから事に及んだのだ。

 

『――我が主人の安息を妨げる下郎共。我は許さぬ、我は見逃さぬ。(ぬし)らが我が(あるじ)の道を阻まんとするなら――』

 

闇夜に金眼が瞬いた。

 

『我はそれを喰らうのみ』

 

月明かりに照らされた黒獣は獰猛な笑みを浮かべると、再び足音を消して主人の眠る寝所に戻っていった。

 

夜はまだ、終わらない。




海行ってきた(唐突
でも台風の影響で波高いし、辺り一面霧だらけで遊泳禁止だったから、ひたすら砂浜で肌焼いてた。でも帰り直売所で買ったハマグリは美味しかったなぁ。また食べたい。

第三話でした。実は四話目も出来上がってます。細かな修正入れたら載せようかと。
今回はさらに主人公を怪しませてみた。主人公のメールの相手については読者の皆さんも推理してみてくださいませ。すぐに分かることですから。

さあ、様々な所で勘違いが始まるぞう!
愉悦部員諸君!ワインと激辛麻婆を用意しなさい!あ、子供はお酒禁止だから葡萄ジュースで我慢ねー。



これからについて。

  • レイトン要素欲しい!英国キャラ投入!
  • コナン重視!事件に絡ませろ!
  • 黙って笹でも食ってろ(事件介入なし)
  • とりあえず愉悦部の生贄となれ
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