アルタラス王国近代史   作:鉄くず屋

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暫くはSF回が続くと思います。


魔帝との遭遇

中央歴1914年 4月中頃

 

”連邦”は魔帝との戦争状態にある。

 

ターラ14世率いるアルタラス王国外交団は、魔帝が今も存在している可能性を示唆するその発言に恐怖しますが、ほどなくして多くの疑問が脳内を駆け巡ります。

 

古の魔法帝国はかつて栄華を誇ったある種の超古代文明で、その存在は各地に残る遺跡が証明していて、その実力も彼らの技術を再現して実際に使用している国があるほどなので疑いようはありませんでした。

 

しかし彼らが神の怒りを買い、復活を示唆する石板を残して自ら転移魔法で姿をくらませて以来、再度復活する兆しは無いまま1万数千年が過ぎてしまい、人々の間ではもう復活などしないとさえ思われていました。

一応、古の教えを守るエモール王国において”空間の占い”を用いた魔帝復活の監視は行われていて、動きがあれば魔信を通じて世界中に伝わるはずでしたが、何かあったとは寡聞にして聞きません。

 

であれば一体いつ、どこで魔帝が復活したのか?

そもそ”連邦”は本当のことを言っているのか?

 

そんな雰囲気を察してか、連邦軍”派遣部隊司令官は、これまでの経緯を”連邦”の歴史も交えて説明すると言いました。

窓のカーテンを閉めて部屋を暗くしたかと思うと、壁に大きな映像が映し出されました。

 

説明の内容は以下の通りだったとされています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゴン連邦、通称“連邦”の成り立ちは、今から400年前に惑星アルゴンを統一した国家から始まりました。

統一から10年もする頃には、宇宙船に超光速航行機関を搭載して恒星間を飛び回っていたとされています。

他星系への植民も進んでいき、数十もの植民星を持つに至りました。

それから何度かの植民星との争いを経験した後に全植民星を統一して”連邦”を興し、今から100年前には戦争の根絶にまで成功します。

 

その後、軍事力を保持する必要性が無くなった“連邦”は更なる発展と新たな発見を求めて、科学研究と深宇宙探査に力を注ぐようになり、軍事技術研究の多くはストップしてしまいます。

かつてSFさながらの宇宙戦争を戦った“連邦”宇宙艦隊も、今となっては純粋な戦闘艦と言えるのは哨戒艦や警備船程度で、それ以外の大小様々な艦艇は全て科学探査船と位置付けられて宇宙探査に明け暮れており、最低限の自衛武装が施されている程度でした。

 

また民間においても、連邦艦隊の支援の下で深宇宙探査は大々的に行われていました。

“連邦”においても、領域外からやってくるかもしれない未知のエイリアンによる侵略を危ぶむ声は上がっていましたが、それも深宇宙探査が進む過程で自分たち以外の星間国家が中々発見されなかったため、尚更軍事力の保持には消極的となっていきます。

 

そんな最中、ある一隻の民間探査船が高度に発達した文明が存在する星系を発見しました。

この探査船は特に深宇宙探査に特化した船で、搭乗できるクルーはたったの10名足らずですが、超長時間の旅が可能なように自動農業プラント付きの大型居住区を備えていて、大きさだけは中型艦並みでした。

この探査船から亜空間通信によって送られてきたデータには、星系内に存在する惑星の基礎的なデータと共に、センサーに捉えられた星系内をせわしなく移動する多数の宇宙船が含まれていて、超光速航行技術の有無は不明なものの、その星系には未知の星間文明が存在していることを示していました。

 

“連邦”中が、世紀の大発見だと沸き立ちました。

発見された星間文明は、その星系の識別名から、仮にS8472文明と名づけられました。

政府はS8472文明との国交樹立のために外交使節団の準備を進めますが、前代未聞の案件のために人選に手間取ったことと、発見された星系が恐ろしく遠方に存在していて辿り着ける船が前述の深宇宙探査特化船ぐらいしかなく、それでは不味いということで新たに外交使節団専用の超長距離航行船が建造されました。

 

この間にも“連邦”宇宙艦隊本部は、現地の民間探査船からの新たなデータを待ち続けていましたが、一向にデータが届く様子がありません。

しびれを切らして量子通信を試みるも、それに対する返信も全く帰ってきませんでした。

実のところ、当の民間探査船はデータを送信した直後にぷっつりと音信不通となっていたのです。

 

この状況から、当該探査船は何らかの原因で破壊されたと艦隊本部は結論付けます。

この話は瞬く間に“連邦”中に広がり、S8472文明の手による撃墜説までもが囁かれました。

このため各方面から、S8472文明に使節を派遣すべきではないとの声がそれなりに上がってきましたが、最終的に政府は以下のような見解を示します。

 

「事故の可能性も高く、仮に撃墜されたのだとしても現地の法律に抵触してしまった可能性も考えられ、完全に敵対的と決まったわけではない。」

 

こうして外交使節派遣の取り組みは続行されることになりますが、万が一の予防措置として、同じく長距離航行可能な護衛艦を新たに建造し、同行させることになり、派遣計画は更に遅延することとなります。

 

そして数か月後、やっとの思いで船団が完成し、外交使節団を乗せて“連邦”の領域外に向けて航行を始めました。

何度か途中の植民星で補給を行い、“連邦”最外縁の植民星スプリット3番星軌道上に浮かぶ宇宙港での補給を最後に、後はひたすらS8472文明を目指すのが今回の派遣計画でした。

 

そして計画通り、最後にスプリット3番星での補給を終えた外交使節船団は、軌道上を離れて超光速機関に火を入れようとしますが、ここで予期せぬ事態が起こりました。

船のセンサーが大規模な質量の異常を捉えます。

それと同時に目に見える現象として、まるで恒星自体の光が弱まったかのように宙域一帯が暗黒に包まれました。

 

謎の暗黒現象が収まると、船団の目の前に巨大な未知の物体が姿を現しました。

それは直径15kmはある巨大な円環が3つ重なったような姿をしていて、上下二つと中央の円環はそれぞれ異なる方向にゆっくりと回転しています。

勿論、このようなモノは“連邦”のデータベースのどこにも載っていません。

 

その物体の映像が映されるとアルタラス側は、かの列強ミリシアル帝国が保有する決戦兵器、パル・キマイラ空中戦艦に通ずる意匠を感じ取りました。

 

突如現れたこの物体に、船団は混乱に包まれます。

この物体はどこから来た?

何の目的があるのか?

思い当たるのはそう、彼らが今まさに向かおうとしていたS8472文明しかありません。

 

「“連邦”の領域にようこそ、我々はあなた方と平和な関係を結びたい」

 

量子通信は勿論のこと、電波通信や光通信、更に映像やボディランゲージなど、ありとあらゆる方法で上記のような意味のメッセージが外交使節船団から送られます。

しかし中々円環状の物体は反応を示しません。

 

船団はめげずにメッセージを送り続けます。

すると巨大物体に変化がありました。

物体がその向きを変え始めたのです。

 

初め船団からは円環の側面しか見えていませんでしたが、徐々に傾いて円環の上面を船団側に向けてきました。

円環の中央には、円環より二回り小さい直径の円筒が配置され、その円筒から円環にかけて5条の支柱が伸びている様子がよく分かりました。

円環と一緒に回転しているのは支柱までで、中央の円筒は回転していませんでした。

 

その円筒の一部がハッチのように開き、中から物体の大きさに対してとても小さい物体が射出されました。

早くも向こうの外交使節を乗せたシャトルが出てきたのかと、“連邦”側の外交使節団は考えます。

しかしセンサーによると、射出された物体は“連邦”で作られたものであり、しかもその識別はS8472文明を発見した民間探査船の残骸であることを示していました。

 

外交使節団が状況を理解すると同時に、巨大物体から船団へ電波通信による回線が開かれました。

 

 

「我はラヴァーナル帝国である、久々に倒しがいのある奴らに会えて嬉しいぞ」

「せいぜい抵抗してみるがいい、この帝国外征艦隊の力にな」

 

 

こうしてS8472文明もとい、ラヴァーナル帝国と“連邦”の凄惨な戦いの火ぶたが切って落とされました。

 

 


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