〜side リンク〜
緑衣の少年の1日は波乱に満ちたものだった。今まで付かなかった妖精が自分にも付き、自分は皆と同じコキリ族ではなくハイリア人と聞かされた。その後デクの樹サマの体内に巣食う魔物を倒すものの、デクの樹サマは助からず、ハイラルの命運を託された。子供に課されるにはあまりにも酷な運命を背負っていると言えるだろう。
その少年は今、警備の目をかいくぐりハイラル城の中庭へとやってきた。そこに居たのは1人の少女であった。
「夢のとおりですね.....。お待ちしていました、森の使者よ。私はハイラルの王女、ゼルダです。あなたの名前を聞かせてくれますか?」
「おっ、オレはリンク!コキリの森から来た!」
リンクは戸惑いつつも名乗り、ゼルダは一つ微笑むとすぐに真面目な顔をし、話を続けた。
「リンク、こちらへ。私は今この男を監視していたのです。あなたも見て下さい。」
言われた通りにすると、そこに居たのは誰かに跪いている褐色の偉丈夫の姿であった。ゼルダは一層声を低くして説明をする。
「彼の名は、ガノンドロフ。西の果ての砂漠に住まうゲルド族の首領です。今はお父様に忠誠を誓っているようですが、今だけです。彼の目的は恐らく.....」
ゼルダの話の途中であったがリンクには聞こえていなかった。男と目が合ってしまったのだ。不味いと思ったが目を離すことが出来なかった。すると男は目を見開き、一瞬驚いた表情をするがすぐに好戦的な笑みを浮かべ、元の状態に戻っていった。
「気付かれたのですか?大丈夫、何も出来はしません。」
ゼルダの問いかけに現実へ意識を戻したリンクは、忘れていた本題へと取り掛かる。
「あ、そうだ。デクの樹サマからこの石を預かってきたんだった。ハイラルの王女に渡せば分かるだろうって。」
リンクが懐からコキリの翡翠を取り出すと、ゼルダは意を決したように話し始めた。
「リンク、これから話すことを笑わないで聞いて下さいね?……私は夢を見たのです。ハイラルを覆う真っ黒な雲とそれを切り裂く一筋の光の夢を。その中には妖精と翠の石が見えました。恐らくあの男が真っ黒な雲で間違い無いでしょう。そしてリンク、あなたが光に違いありません。」
「お願いですリンク!ハイラルの運命はあなたに掛かっているのです!どうか、ハイラルのために一緒に戦ってくれませんか?」
ゼルダはリンクの手を握り、真剣な眼差しで頼み込む。立場を忘れ、必死に頼み込む美少女の事を無碍にすることなど、少年には出来なかった。それに、到底嘘をついているとは思えなかった。リンクは自然と優しい笑顔を浮かべ、手を握り返した。
「わかった。その話、信じるよ。オレに出来ることなら、力になる!オレは、これから何をすればいい?」
「リンク.....ありがとう。」
父親にも話したが信じてはくれなかった。こんな荒唐無稽な話、信じてもらえるとも思っていなかった。ましてや初対面の同い年くらいの少年が親身に話を聞いてくれるとも思っていなかったが。少ない言葉の中に彼なりの気遣いを感じた。それは生来ハイラル王女がもつ能力のようなもので、人の心の内がぼんやりと分かるというものだ。少年の心はこれまでに見た誰よりも強く、暖かいものだった。
「リンク、あの男は魔力を扱います。それに対抗するには退魔の剣、マスターソードが必要です。マスターソードは我がハイラルの時の神殿に封印されていますが、それを解く鍵は3つの精霊石とこの『時のオカリナ』です。あなたには精霊石をあと2つ集めてきて欲しいのです。」
「セーレーセキ?」
「コキリのヒスイ、ゴロンのルビー、ゾーラのサファイアと呼ばれる3つの石で、それぞれコキリの森のコキリ族、デスマウンテンのゴロン族、ゾーラの里のゾーラ族が守っています。」
「まずはデスマウンテンに行くのがいいだろう、少年」
「インパ!」
急に現れた女性の名はインパ。ゼルダの乳母であり、夢の話を信じている数少ない協力者の一人だ。
「最近魔物の活動が活発化してきているようです。すでにガノンドロフが動き出している可能性が高く、早急に手を打つべきかと。」
「そのような事が.....分かりました。リンク!お願いできますか?」
話についていけていないリンクには首を縦に振る以外選択肢は残されていなかった。
コキリ族のリンクは、ハイリア人のリンクとなり、いずれ時の勇者リンクと成る。それはきっと生まれた時から定められた運命で、間違いなく来る未来で、逃れることはできない現実なのだ。それに気付かされるのは、もう遠くない。
夏風邪拗らせてだいぶ更新遅れてしまいました。申し訳ありません。
会話って難しい