【完結】流星群の降り注ぐ夜に   作:ラジラルク

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最終話です。


Episode ☆★☆

 

 

6

 

 

 久しぶりに実家を訪れたのは、翼に誘われて39プロジェクトのライブを観に行ってから数日後のことだった。

 実は一人暮らしを始めてから一度も実家に帰ったことがなく、両親と会うのも約4年ぶり。両親と特別仲が悪いわけではなかったが、東京から帰ってきたことで私たちの間には小さな溝ができてしまっていた。かつて誰よりも私の挑戦を応援してくれていた両親に対して夢破れて帰ってきた私はどんな顔をすればいいのか分からず、両親もまた私に気遣うあまりどのような言葉をかければ良いのか分からなかったのだと思う。東京から帰ってきてから実家で過ごした数ヶ月間はいつも妙な気まずい空気が流れていて、その家庭内の何とも言えない空気に耐えきれなかったのも一人暮らしを始めた理由の一つだったのだ。

 それなのに、どうして唐突に実家に顔出そうと思ったのか。

 実は私でもその理由は分からない。だけどヤフオクドームで躍動するかつての仲間たちを観て、感化されたのは間違いなかった。

 

「急に帰ってきたからビックリしたわ。部屋も散らかったままだし」

「ははは、どうせ長居はしないんだから気にしないでよ」

 

 出ていってから全く顔を見せなかった娘が突然帰ってきて、母は目を点にして相当に驚いた顔していた。だけどすぐに嬉しそうな表情を浮かべて、小さな腕を私の腰に回した。

 「もう夢を叶えられなかった自分を許してあげて」、そう言って母は優しく私を抱擁してくれた。小さな身体から伝わってくる温もりが懐かしくて心地よくて、思わず視界が緩んだ。誰よりも応援してくれていたのと同じように、母は東京で夢破れた私のことを人一倍心配して気にかけてくれていたのだろうと思う。この時になって初めて気付いた母の優しさが、胸の中の氷を溶かして心の隅にまで沁みて広がっていくような気がして、私は久しく感じていなかった暖かい気持ちに包まれた。

 

「仕事はどう? 無理してない?」

「うん、相変わらず忙しいけど大丈夫。元気にやってるよ」

「そう……。仕事が休みの日はいつでも帰ってきていいんだからね」

「ありがとう、母さん。今度親父と一緒に焼肉にでも連れてってやるよ」

「ふふふ、お父さんもきっと喜ぶと思うわ」

 

 お互いの近況報告などを話しながら暫くリビングで母とゆっくりとした時間を過ごした後、私はふと自分の部屋も久しぶりに見たくなって二階へと向かった。そこで、私はかつての相棒と再会し、今晩がペルセウス座流星群のピークだと知ったのだった。

 

 

7

 

 

 埃を被ったギターケースを背負って、地下鉄に乗った私が向かった先は福岡空港だった。今夜がペルセウス座流星群の観測のピークだと知って、そしてその流星群をかつての相棒と観に行こうと決心した時、私の足は無意識に福岡空港へと向かっていた。

 まだ怖いものが何一つもなくて、願った夢は絶対に叶うと信じて止まなかった15歳の頃の私。見送れにきてくれた彼と別れて独りぼっちになり、これから始まる見知らぬ土地での生活に初めて不安を抱いていた私を勇気付けてくれたのは、福岡空港の展望デッキで観た流星群だった。果てしなく広い広大な宇宙を一心不乱に、刹那の輝きだけを残して走り去っていく流星たちを観た時、私が何を感じ、何を想ったのかは、8年が経った今でも鮮明に覚えている。残念ながら私はあの日見た流星群のようにはなれず、結果として東京で挫折してしまったわけだが、東京の地で大切な宝物たちを沢山失ってしまっても、世界が色褪せて見えるようになったとしても、あの日福岡空港で観た流星群の圧巻な光景だけは、決して色褪せることなくずっと私の脳裏に残り続けていたのだ。

 8年という月日は私を随分変えてしまった。そして、夢を叶えられなかった今の私は、当時の私が知ったら間違いなく幻滅するような日常を送っている。だけど、それでも私は知りたかった。あの時と同じ場所で、私に勇気と希望を与えてくれた流星群を観て、今の私は何を想うのかを。8年前に観た流星群のようにはなれず、真っ直ぐに自分のやりたい事や夢へと進み続ける翼のようにもなれず、そんな夢を叶えられなかった弱い私でもきっとあの場所に行って再び流星群を観れば何かが変わりそうな根拠のない確信が私の胸の中にはあって、その確信に導かれるように、私はただひたすらに福岡空港を目指した。

 帰ってきた時以来の地下鉄の終着点である福岡空港駅で降りて、大きなキャリーケースを握って歩く人たちの間を掻き分けながら私は歩いていく。改札を出て福岡空港へと向かう道中の光景や久しぶりに感じるギターの重みが懐かしくて、思わずタイムスリップしたかのような感覚に陥り、8年前のあの日のことが走馬灯のように私の脳裏を駆け巡って行った。

 中学校の卒業式を終えた翌日、小さな身体でギターを背負って、願い事を沢山詰めたキャリーケースを引いて、今と同じこの道を歩いていた15歳の私。恐ろしいまでに世間知らずで無鉄砲で、東京に行けば本気で夢が叶うと想っていた夢見がちなあの頃の私も、確かに今と同じようにギターを背にしてこの道を歩いていたのだ。

 

 私にとって、忘れもしない大切な思い出たち。8年前のあの日がまるで昨日のことのように、次か次へとクリアな情景になって蘇ってくる。家族や彼と離れてしまうことへの寂しさ、だけどそれ以上に楽しみで仕方がなかった東京での新生活、この道で感じた想いたちを私は何一つなくしちゃいなかった。例え夢が叶わなかったとしても、大切にしていた純粋な想いたちを守れなかったとしても、あの日の光景は色褪せることなく、私の中でずっと鮮明に残り続けていたのだ。

 ノスタルジックな感情に背を押されるように、私はドンドン空港内へと続く階段を上っていく。東京で朽ち果てた過去の亡霊が作り出す足枷は、もうこの頃にはなくなっていた。足軽になった私の足は誰に止められることなく、ただひたすらに空港の4階にある展望デッキを目指して一心不乱に歩を進み続ける。

 そして人一人がやっと通れるほどの狭さの最後の階段を登りきり、私は8年ぶりに展望デッキへとやってきた。そこで私を待っていたのは、真っ暗な闇の中を彩る幾千幾多の星と、ふと現れては姿を消していく流星たちーー。

 

「…………す、すごい」

 

 想像を絶する光景に私はギターを背負ったまま、息を飲んだ。

 福岡の上空に広がる闇には数え切れないほどの灯りが煌めいていて、無数の星たちは漆黒のカーテンを彩るように、そこに存在していた。今にも降り出しそうな圧巻の星空は、見る者を呆然とさせる、ただひたすらに美しい眺めだった。

 私はそのあまりの美しさに、言葉を失った。無限とも思える星の数、時折姿を見せる流星たちの放つ輝きは儚げな力強さがあって、現実離れした光景に私は立ち尽くすばかりだった。

 

「……こんなアタシでも、まだ綺麗な流星群が観れたなんてな」

 

 私の瞳に映るペルセウス座流星群は、8年前に観た流星群とは比べ物にならないくらいの圧巻な光景で、何かを訴えかけるかのように私の心を打ち続けている。

 夢破れ、大切なモノを守れなかった私の瞳で、こんなにも綺麗な流星群を観れるとは。自分でも不思議なくらいだった。色褪せてしまった私の世界で、もうあの時のような流星群を観れるはずがないと勝手に決め付けていたのだから。

 でも、まだこれほどまでに綺麗な流星群を観ることができるのならーー。そう思った次の瞬間、私は反射的にかつての相棒をケースから取り出していた。

 どうして今まで気が付かなかったのだろう。こんなにも近くで、まだ消えないように息をしていた私の真の想いに。そして泣いたことも笑ったことも、沢山のことを経験した8年間は私の世界から色を奪っただけではなく、その経験のおかげでこうして新たに美しい景色を見て感動することができるようになっていたことに。

 

 久しぶりに握りしめたかつてのギターのコードを、私の身体はしっかりと覚えていた。染み付いた感覚に身を任せ、私は流星の降る空の下、名も無い唄を歌う。

 私は東京で多くのモノを失ったと思っていた。あれほどまでに大切にしていたはずの想いたちを守れなかった自分がどうしても許せなかった。だけど実際には私は失っただけではなく、新しい何かも手に入れていたことに気が付いた。だからこそ、こんなにも綺麗な流星群を観ることができたのだとも。

 8年前の私はもうそこにはいない。だけどその代わり新たな私がいて、東京で捨てたもの、置いてきてしまったもの、別々の道を歩むことになった彼との別れ、そして果たすことのできなかったプロデューサーとの約束、そのヒトツヒトツが新たな私を形作っていたのだ。

 笑ったことも泣いたことも、半端者だと後ろ指をさされたことも、見慣れた東京の街の見慣れた帰り道で落ちそうになる涙を必死に堪えて一人歩いた夜も、全てを声に乗せて、私は名も無い唄を歌った。

 

 

 

 いつの間にか私の周りには小さな人だかりができていて、歌い終わると同時に小さな拍手が沸き起こった。私が展望デッキにやってきたときは人っ子一人いなかったのに、いつの間にこんなに多くの人がやってきたのだろうか。夢中で歌っていて人だかりに気が付かなかっただけに、思わずビックリしてしまったが、それでも私に向けられて起こった小さな拍手は悪い気がしなかった。

 それは、私が先日見た39プロジェクトのライブに比べればちっぽけなものなのかもしれない。だけど、例えちっぽけな数の拍手だったとしても、この感覚がひどく懐かしい、いつの間にか失ってしまっていた感情を呼び起こしてくれた。

 

(あぁ……、歌うのってこんなに楽しかったんだ)

 

 夢を追いかけるのに必死で、いつの間にか忘れていた。

 ギターを弾いて唄を歌うのが、これほど楽しいということを。そしてそのことに気が付くと、欲張りな私はもっともっと歌いたい、私の声を沢山の人に届けたい、そんなあの頃のような想いが胸の奥から湧き上がってきたのだ。

 

 今日も明日も、これからも唄い続けよう。

 きっとまた躓くこともあるだろうけど唄い続けて、新しい街の新しいステージで、私だけのメロディーを探す旅に出よう。

 

 いつかきっと、遠い東京の街で今でも頑張っている皆に届くようにーー。

 

 

 

 手を伸ばせば届きそうな流星群の降る夜空に向かって、私は手を伸ばし、キュッと強く握りしめた。

 

 




くぅ〜疲れました!w

これにて完結です!

実は自分もジュリア同様、福岡で生まれ育ち、進学を機に東京に出てきた人間だったので彼女には他のアイドルたちより何倍も強い思い入れがありました。
拙い作品ではありますが、この物語を通して少しでもジュリアのことを知ってもらえたらと思います。
流星群、プラリネ、スタートリップ、どれもアイマス界ではダントツで良い曲ですよ!

ジュリアの今後の活躍を願って、この作品を完結させたいと思います。
お付き合いいただいた皆さま、ありがとうございました!
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