破壊と集結の兄川誠   作:松代眼鏡

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 今回は、深海凄艦の秘密(この話の世界観限定)が、一部明かされます。


第1章 無終と反転の兄川誠 その10

 兄川が吹雪を残してテスタ達の基地から出て行って2日が経った。(兄川が妙高たちに尋問される前日のこと。)

 

 吹雪は深海棲艦のテスタ艦隊の基地のコンクリートの建物の窓から外を眺めていた。立場で言えば捕虜のようなものだが、春雨から聞いていた通り、深海棲艦も言葉だけで言えば人間と大差は無いと分かったので、多少、危険な目に合っても構わぬと、近くを通りがかる艦隊のメンバーに色々と声を掛けていた。

 が、案の定、元は敵同士の関係。素直な返事は返ってきそうには無かった。まだ2日しか経っていないとはいえ、心置きなく話が出来るのはテスタしかいない現状に寂しさを感じていた。

 

 吹雪「やることないなぁ。深海棲艦の基地だから演習も訓練も出来ないし、テスタさんに会いに行こうかな?」

 

 少し我が侭が過ぎるかなと思いながらも、ヌ級のコンドルに頼んでもらって、こちらからテスタのいる部屋に行くことにした。それにしても、このヌ級は一々言葉のテンションが高いので、本心が見えやすそうで見えにくい。

 

 コンドル「この部屋です!」トントン!

 

 テスタ「どなた?」

 コンドル「コンドルでーす!それより、申し上げます!トトカマ星に超サイヤ人が現われまして、吹雪がテスタ様に会いたいといって連れてまいりましたぁ!」

 

 また、この調子である。テスタの話によれば、あれが口癖になっているのだとか。

 

 テスタ「分かりました。どうぞ。」

 吹雪「し、失礼します!」

 

 やや身体が固くなってしまいながらも、部屋に入る。

 

 テスタ「あなたの方からいらっしゃるなんて珍しいですね。申し訳ないけど、あいにくお茶を切らしてて何も用意できないの。本当にごめんなさいね。セレナたちに頼んでもらうわ。」

 吹雪「あ、いえ!お気になさらず!」

 テスタ「そう?喉が渇いたら遠慮なく言ってね。」

 吹雪「本当なら敵同士の関係なのに・・・ありがとうございます。」

 

 改めて用意された座布団に座って辺りを見渡す。そこは人間の私室となんら代わり無いぐらいに、白と青を基調にカラーリングされた掃除も行き届いている部屋だった。ベッドは勿論、コンセント、エアコンも小さな冷蔵庫も完備。それより吹雪を驚かせたのは、部屋の奥隅にあるデスクトップパソコンとルーター、固定電話機、そしてそこから壁へと伝わる電話線代わりのLANケーブルが分かりやすく顔を覗かせている。

 

 テスタ「今日はどんなご用事で?」

 吹雪「えっと、大した事じゃないんです。ただ、あまりにもやる事が無かったので、少しだけでもテスタさんに話し相手になってもらいたくて・・・、やっぱり迷惑でしょうか?」

 テスタ「大丈夫よ。私もちょうど休みの日だったの。」

 吹雪「休み・・・ですか?」

 テスタ「ええ。周辺の警備とか侵攻計画の作案とかは、アヴェンタやマスタングさん達がやっているわ。あ・・・ごめんなさい。嫌な事聞かせちゃって。」

 吹雪「あ!良いんです。だって、皆さんは・・・その・・・人間の海軍と戦うのがお仕事みたいなものですから・・・。」

 

 何か、気まずくなってしまった。思えば、前の鎮守府で一時期だけルームメイトだった春雨とも、何故か話をしていると気まずい雰囲気になってしまう。何か変な悪霊がいたずらでもしているのだろうか?あの時と同じ様に、また強引に別の話題に変える。

 

 吹雪「あ、それより、あれってパソコン・・・ですよね?もしかして、自作ですか?」

 テスタ「いえ、外にいる調達会社の人から仲介料を払って持って来てるの。ここにある生活道具とか機械の殆どが人間製なのよ。」

 吹雪「調達会社・・・ですか・・・。それって・・・やっぱり深海棲艦が?」

 テスタ「驚くかもしれないけど、作業員も皆人間の人よ。」

 吹雪「し、深海棲艦に味方をする人間がいるんですか!?それってどんな人なんですか!」

 テスタ「お、落ち着いて。ただの業者さん!民間中小企業の海運さん!表向きには言えない裏ビジネスだから名前は言えないけど・・・。」

 吹雪「・・・すみません。でも、民間の人たちって深海棲艦を怖がってるんじゃ・・・。」

 テスタ「私も、海運さんにお世話になる前はそう思ってたんだけど・・・、私のお母様が現役で戦ってた時の・・・、大体25年前ぐらいかしら?二度目の大戦争が終わって、これから部隊を再建するって時に、どうしても人間の技術や道具が欲しくなってね。重巡や戦艦の一部を買出し部隊として人間の街に紛れさせてたの。ちょうど、その中に私のお母様もいて・・・、あ、今のは内緒ね。」

 吹雪「あ、はい。それで・・・正体がばれちゃったんですか?」

 テスタ「ええ・・・。最初は海軍の追っ手かと思ってたけど、話を聞いたら倒産寸前の海運さんの営業の方で、私達の事を知ってて顧客にならないかって持ちかけられたらしいのよ。最初は困惑したけど、終戦直後で多くの仲間や敵艦娘が亡くなって、敵も味方も人手不足だったから、互いに敵のいない安全な海域だったら、そのまま護衛もなしに運ぶ事が出来そうだったんですって。それで全員の合意を得て、初めの1社と提携したら、あっという間に噂を聞きつけた別の会社さんが次々と押しかけてきて・・・。今、うちは地域ごとに7社さんと提携してるの。」

 吹雪「でも、お金はどうするんですか?」

 テスタ「最初の十数年は、専ら物々交換だったわ。戦争で高騰していたそれぞれの国の原産物系の輸入品の中から私達で獲れそうなものを、海運さんに渡して、それを今度は別の市場に売りつけて現地のお金にしてたんですって。」

 吹雪「今は違うんですか?」

 テスタ「少し前から私達が取ってきた海産物や珍しい果物、鋼材の売り渡しに、海底調査の下請け、裏サルベージ等での報酬を現金で受け取れるようになったから、輸入の海運さんにも直接お金で渡す事が出来るようになったの。最近はあちこちの泊地や基地で棲艦独自のネットワークも出来たから、銀行口座とかを駆使して株式とかFXで現金化しているお友達もいるわ。これも現太平洋総指揮艦の富士首領が、人間の技術を採用するのに積極的だったおかげね。」

 吹雪「それで、あのパソコンなんですか・・・。」 

   

 意外な事実が次々と出てきた。パソコンや他の機械を見るに何となくそんな気はしていたが、いざ本人の口から言われると幾らか驚きを隠せない。春雨の信じる深海棲艦進化説をさらに裏付ける材料が出来てしまった。もし、もう一度彼女に会って今回の事を話したら、もしかしたら羨ましがるかもしれない。そんな春雨の顔が浮かぶ。

 

 テスタ「ねえ、吹雪さん。今度はこっちから聞きたい事があるんだけど、良いかしら?」

 吹雪「はい。いいですよ。」

 テスタ「ありがとう。私が聞きたいのは、あなたからみた兄川の事なんだけど・・・。」

 吹雪「私から見た・・・ですか?」

 テスタ「ええ。あまり長い付き合いじゃない事は分かってるんだけど・・・、その・・・もっとあの人について色々と知りたいんです・・・。」

 吹雪「そうですか・・・。でも本当の事を言うと、実はそれ程会話してきた訳じゃないんです。むしろ、会いたくても会わせてもらえなかったというか・・・。」

 

 テスタ「・・・着任直後に監禁状態にあったっていうのは本当なのね。」

 

 一瞬だがテスタの声が低くなったように聞こえた。吹雪はこの世に生を受けて間もないから、感情というものを客観的に見れないが、誰かの噂で聞いた、兄川に恋をしているというのは本当らしい。

 

 吹雪「あ、でも、私のほうは大したことはされなかったんです。むしろ、甘すぎると感じました。」

 テスタ「甘すぎる?」

 吹雪「はい。日替わりの業務も全然簡単で、艤装も1日1時間だけの訓練とか、1週間に1度の深夜警備以外は殆ど自由でした。それにプライベートも全然詮索されませんでしたし、司令官の代理をしている先輩の方々も私達には優しくしてくれてました。」

 テスタ「でも、その艦娘たちは兄川を痛めつけるような真似をした・・・。あの人がまともな人達から恨まれたりするような人には見えないけど・・・、アヴェの言うとおりなのかもしれないわね・・・。」

 吹雪「と言いますと?」

 テスタ「その艦娘達が本当はものすごく悪い人なんじゃないのかしらって思ってるの。兄川のしたことが、その艦娘達を逆上させているのかもしれない。だから彼の生きる意志を殺ぐようなことをしてしまった。私達みたいに過去の影響で、「提督になった男」を憎んでいるのかもしれないし・・・あるいは・・・」

 吹雪「あるいは?」

 テスタ「彼の事を信じたいんだけど、お互いがお互いのことを悪いように誤解しているとか・・・。」

 吹雪「誤解・・・?」

 Prrrrr・・・prrrr・・・

 

 テスタが示した可能性の詳しい意味を聞こうとした矢先、部屋の電話が鳴った。

 

 テスタ「あ、ちょっと待っててね。・・・誰からかしら?」

 

 発信先の番号は身に覚えのない番号だった。080で始まっているので、日本の通信会社の携帯電話から掛っているらしいが、もしかしたら迷惑電話かもしれない。気を静めてから受話器を取る。掛ってきたのは意外な人からだった。

 

 テスタ「テスタです。」

 富士「富士だ。怪我の回復は順調か?」

 テスタ「はい、しっかり入渠しました。それにしても首領自らお電話を下さるとは思いもしませんでした。」

 富士「世辞は良い。これからのことでお前に報告しておかなければならない事がある。」

 テスタ「何でしょうか?」

 

 富士「明日の日本時間12:00を持って、我々トミヤマ海王会は全力を持って指宿鎮守府を攻め落とすつもりだ。」

 テスタ「・・・・・・何ですって?」

 富士「明日、我々は指宿鎮守府を攻撃すると言ったのだ。・・・今のお前ならこの言葉の意味は分からない訳ではあるまい。それとも、我々の実力と標的のレベルが合っていないと思っているのか?」

 テスタ「待ってください!あの鎮守府には・・・」

 富士「そう、例の男、確か兄川誠が提督をしている鎮守府だ・・・。」

 テスタ「首領!あの時、首領自ら仰られたじゃないですか!兄川のことは私に任せるって!」

 富士「確かにそう言った。私個人としては、そのままお前達が「つがい」になってくれても構わないと思っていたが・・・。」

 テスタ「事情が変わったと仰るんですか?」

 富士「そうだ。あの後、海王会のメンバーの中から、あの男の持つ、高レベルの深海棲艦をも投げ飛ばす非科学的で強力なパワーを我々自身の手で研究し、それを使って対艦娘用の新兵器の開発に当たるべきだという意見が多数出てきたんだ。」

 

 兄川の、あの獣のように凶暴になる説明不可能な力。あの力の覚醒のおかげでテスタ達は助かった。

 

 富士「幸いなことに、敵の人間の中にはこのことに気がついている者はいない。だから人間の誰かが兄川誠の力に気がつく前に、早急に兄川誠を拉致し、我々の管理下におくべきという主張の基で、今しがた兄川が所属する指宿鎮守府への襲撃作戦が決行されたというわけだ。」

 テスタ「では、何故私にそのような情報を?」

 富士「勝手で悪いんだが、兄川に惚れているお前に、あらかじめ断りを入れておかなければならないと思ってな。もし今度の作戦で兄川を我が手中に納めた場合、そこから先の研究や実験のために、我らの言いなりになってもらわなければならない。が、兄川は海軍の人間で、幼少の頃から深海棲艦は敵、恐怖の対象と思い込まされている可能性が高い。少なくとも彼個人の自由を奪う我々は、奴にとっては敵だ。素直に言う事を聞かないなら、調教や洗脳を施さなければならなくなる。」

 テスタ「それって・・・、彼の個性や人格を歪めるってことですか!?」

 富士「そうなる。間違いなく、優しく正義感に溢れ、前を見つめているお前の好きな男ではなくなる。そして、我々の管理下に置かれるという事は、もうお前は二度と兄川に会うことは出来なくなる。」

 テスタ「そんな・・・突然、言われても・・・納得できません・・・。せっかく私の中で・・・深海棲艦として前向きに生きる希望が見えたというのに・・・。お願いです!首領権限で作戦を中止できませんか!?」

 富士「すまない。我々海王会は作戦や計画を実施するかは、1、2回の会議と多数決で決まる。そして作戦実行に賛成するメンバーの方が多かったのだ。まして今回は緊急を要する。私の権限でも決定は覆せない。それに・・・」

 テスタ「・・・・・・何です?」

 富士「今回の一件とは別に、我々はどうしても指宿の鎮守府を占領しなければならない事情があったのだ。」

 テスタ「・・・・・・」

 富士「聞かないのか。まあ、いい。こっちは今は誰にも話せない内容だから、正直助かる。」

 

 テスタは沈黙を重ねるたびに、電話の向こうの相手が急速に憎たらしくなってきた。自分の同族に、それも色々と助けてもらった恩人相手に、こんな身勝手な怒りを持ち、なおかつ自分では止められない事など生まれて始めての事だった。

 

 富士「テスタ、聞こえているのか?返事をしろ。」

 テスタ「聞こえています。もうこれ以上は聞きたくなくなって来ましたけど。」

 富士「・・・お前の気持ちは良く分かる。だが、最後の話はしっかりと聞いてもらうぞ。」

 

 テスタの形相が、電話越しでは見えない筈なのにヒシヒシと場にいる全員に伝わってくる。それでも富士は淡々と話を続ける。

 

 富士「もしお前が我々海王会から未来の夫を守りたいのなら、明日12:00に指宿に来い。お前達全部隊を引き連れてだ。」

 テスタ「・・・首領に逆らった罪で、その場で処刑する気ですか・・・?」

 富士「本当ならそうだろうが、お前達テスタ艦隊に限り、我々に攻撃してきても、我々は貴様を反逆罪で問わない事を約束しよう。但し、その時はお前達も艦娘と同等に扱う。つまり、牙を向いた者に対して全力を持って沈めにかかるつもりだ。どちらかが殲滅するか白旗を揚げるまでだ。」

 テスタ「もし首領艦隊の皆様に反抗するといったら?」

 富士「さっき言ったとおりだ。生半可な姿勢で来るんじゃないぞ。やるなら何時だって全力だ。」

 テスタ「・・・・・・。」

 富士「そろそろ出発の時間だ。現在地は教えられんが、今から行けばそっちの方が早くつくかもしれない。」

 テスタ「・・・・・・。」

 富士「次は指宿で会おう。では、失礼する。」ブッ、ツーツーツーツー

 

 電話は切れてしまった。吹雪には相手側の声は聞こえなかったが、テスタの顔から見るに何かとんでもない事を言われたのは容易に想像できた。恐る恐る声を掛けようとする。

 

 吹雪「あの」

 テスタ「吹雪さん・・・!」

 吹雪「ヒャイッ!」

 テスタ「すぐに戦いの準備をして。艤装は工場にあるから。私が許可したといえばすぐに返してくれるでしょう。後、無線機を借りるのを忘れないで頂戴。」

 吹雪「はい!すぐに支度してきます!」

 

 テスタの顔は不気味なほどに感情を感じない。もし、コンドルのように場に合わない発言でもしようものなら、その場で殺されそうな勢いがある。愛とは恐ろしい物だと、吹雪は感じた。

 

テスタ「待ってて。あなたには誰にも触れさせない!」

 




 吹雪、テスタ艦隊の皆と早い段階で打ち解けているが、普通はそうはならないよなぁ、どう考えても。(すみません、作者の考えが甘いせいです。)

 次回からストーリーの纏まった4連続、連日投降の予定です。ご期待ください!
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