破壊と集結の兄川誠   作:松代眼鏡

2 / 14
 第2話、いきます!

 今回は、吹雪視点のお話。


第1章 無終と反転の兄川誠 その2

吹雪「司令官!司令官!」

 ???2「あいつはともかく、貴方は大丈夫だから。絶対に悪い事にはならないって約束するから。」

 

 兄川と無理やり引き剥がされ、室内なのに厚手のコートを着たピンクの髪の謎の艦娘に連れて行かれる吹雪。連れて行かれた・・・というより案内された場所は、生活感が漂いながらもしっかりと掃除が行き届いている居住棟だった。

 

 ???2「さあ。ついた!ここが貴方の生活する場所よ。」

 吹雪「あの、それより、私、まだ執務室でやることが・・・」

 ???2「配属完了のサインとかの事?だったら、もう少ししたら提督代理艦が来るから、その時にね。まずは自分の部屋に荷物を置きに行きましょう。部屋まで案内するわ。」

 吹雪「あ、あの、そうじゃなくて、司令官はどうなるんですか!?」

 ???2「多分、あの人が何とかしてるって。それにしても危ない所だったんだよ。下手したら、あいつと一緒に生き地獄を見るハメになってたんだから~。」

 吹雪「・・・それってどういう」

 

 不穏な事を言われた吹雪が困惑していた時、呼び出しのチャイムが鳴った。

 

 アナウンス「陽炎さん、もしくは祥鳳さん、宅配便が到着しました。荷物の積み下ろしの手伝いと判子をお願いします。」

 ???2「呼び出されちゃった!ごめんね、ちょっと待っててくれる?すぐ戻るから!」

 

 そう言って、ピンク髪の陽炎か翔鳳かは玄関の方に行ってしまった。

 

 吹雪「ど、何処へ行くんですか?」

 

 後を追いかけて正門までやってきた吹雪の前には、なにやら大きさの違う大量のダンボールを配達員と共にトラックから台車に乗せ換えているピンク髪の艦娘がいた。

 

 吹雪「あの・・・私も手伝います。」

 ???2「吹雪!いいよ、まだ配属になったばかりなのに!」

 吹雪「たくさん、荷物が届いているのに2人だけじゃ作業に時間が掛ると思いまして。」

 ???2「う~ん、しょうがない。それだったら運転手さんが渡した荷物を居住棟玄関まで持ってきて、途中で出会ったら荷物をバトンタッチするから。」

 吹雪「分かりました。」

 

 彼女の言うとおりに、荷物運びの手伝いをする吹雪。あて先は此処に配属しているであろう艦娘の名で書かれていたが、前世から知っている艦や艦娘となった後で知った艦など、14枚のラベルには10種類の艦娘の名前を見る事が出来た。

 

 全ての荷物の引渡しが終わり、玄関には大量のダンボール箱が積み重なっている。その隣で吹雪が待っていると、警備室らしき所から、吹雪のよく知っている髪型の陽炎が出てきた。服もいつも目にする制服だ。

 

 陽炎「おまたせ、吹雪。早速、貴方の部屋を紹介するわ。といっても、既に余所から転属した艦がいるんだけどね。」

 吹雪「それより、配達された荷物は?」

 陽炎「私が、案内ついでに皆に声をかけるから大丈夫。でも一つだけ約束して。」

 吹雪「はい?」

 陽炎「ここに男の提督がいることは絶対に話してはダメ。何があってもよ。」

 吹雪「分かりません。どうして、司令官を除け者にするんですか?」

 陽炎「うちらの艦娘の中には、男の提督がいるだけで大きなストレスになる人がいて、その関係でね。それに・・・」

 吹雪「それに・・・何ですか?」

 陽炎「・・・いずれ分かると思う。あいつが過去に何をしてきたのかもね。」

 

 場所は中央棟の西にあり正門から距離がある。しかも中央棟の横を抜ける近道は最近、壁が出来て通り抜けられなくなったという。吹雪はその5階建ての建物の2階の廊下へ。途中、色んな艦娘が廊下で談笑しているのを見かけた。それ自体は不思議な光景でもないのに、何だか自分だけ別の世界に迷い込んだ気がしてきた。やがて、209号室と書かれた部屋に通された。

 

 陽炎「春雨!」

 春雨「ひゃう!?・・・あの・・・どうかしましたか?」

 陽炎「この前言ってた、あなたと同じ部屋になった吹雪ちゃん。鎮守府の規則については貴方が教えてあげて。」

 吹雪「あ、始めまして。駆逐艦吹雪です。よろしくお願いします。」

 春雨「こちらこそ、はい、よろしくお願いします・・・。」

 陽炎「あ、それと、この前あなたが注文したの、今届いたわよ。」

 春雨「有難うございます・・・、はい。」

 

 部屋には机とベッドが二つ。入り口で靴を脱いだら、後は素足になれる畳。ちゃぶ台を挟んで緊張気味に対面する駆逐艦2人。荷物の整理をしていたら、いつの間にか夜になった。夕飯も済ませた後、ただ寝るだけではつまらないから、こうして前から住んでいる春雨に話しようとしたが、中々言葉が出なくて困っていた。

 

 吹雪「あの~、春雨ちゃん・・・は、何時からここに?」

 春雨「えっと、1年と3ヶ月、です。でも、艦娘としては3年前にサイパンで生まれました、はい。」

 吹雪「ということは・・・英語はペラペラ?」

 春雨「いえ・・・、あまり鎮守府の外には出してもらえなくて・・・。半年ほど、そこで訓練を重ねてから、択捉とクアラ・ルンプールの後でここに・・・はい。」

 吹雪「色んな所を周って来てるんだ!すごいなぁ。」

 春雨「そんな事は無い、です。10年以上戦い続ける艦娘の中には、世界を5周した艦娘もいます・・・、吹雪ちゃんは?」

 吹雪「えっと、私はさっきまで福岡の艦娘学校にいて、この鎮守府が初めてなんだけど・・・。」

 春雨「じゃあ、鎮守府の建造装置から生まれたわけではないんですね?」

 吹雪「・・・うん。」

 

 互いの生まれた場所の話で少し盛り上がった所に、んぎゃー!んぎゃー!と、吹雪の心を突き刺す泣き声が聞こえてきた。確か、人間の赤ちゃんだったか。何故、そのようなものがここにいるのか。

 

 春雨「あれは美和子ちゃんと言って秋月ちゃんの女の子の赤ちゃんです。時折、お世話させてもらってます、はい。」

 吹雪「赤ちゃんって、父親は?・・・・・・言ったらダメだと思うけど、もうこの世にいないとか?」

 春雨「大きな声では言えないんですけど、秋月ちゃんの前の司令官がケッコンカッコカリもしてないのに、10人以上孕ませて、そのことで責任を取りたくないからって夜逃げしたらしい、です・・・。他にも似たような事情でここに来た艦娘が5人います、はい。」

 吹雪「まるで駆け込み寺だよね、この鎮守府って。」

 

 やや気まずくなった雰囲気を変えるべく、思い切って話題を変えてみる。

 

 吹雪「そういえば、さっきの荷物。アレの中身って何なの?」

 春雨「え・・・それは・・・。」

 吹雪「ごめん!嫌なら無理には聞かないけど・・・!」

 春雨「大丈夫ですよ、はい。ただ・・・あんまり、大きな声を出さないで下さい。」

 

 そう言って、春雨が取り出したのは、3冊の200ページサイズの文庫本だった。中古本のようだが、問題はそのタイトルだった。

 

 吹雪「深海棲艦・新外国人説・・・、新都市伝説解明シリーズ・その14・近代女史のあの人は深海棲艦・・・、海底のオーパーツ=深海棲艦の科学の結晶・・・?」

 春雨「えっと、随分昔の内容なんですけど、ごく一部の地域や組織で深海棲艦と仲良くしていた人達がいたとか、海底に沈んでいるオーパーツの中に深海棲艦が作ったものらしきものが出てきたとか、そういう感じの資料を集めてるんです、はい。」

 

 今までよりも少しばかり饒舌に話をする春雨を見て、吹雪は本から目が離せなくなっていた。

 今まで吹雪が教えられてきた深海棲艦=怨霊から生まれた破壊衝動のみで暴れる怪物。一度目を合わせれば、どちらかが戦意をなくすまで戦わなければ死んでしまう。そこに人と会話したり、高度で複雑な物を作る知性はないと言われてきた。この本はその概念を崩す可能性があるらしいのだ。

 

 春雨「日本国憲法のおかげで艦娘にも表現の自由が守られている筈なのに、艦娘はこんなもの読んじゃいけないって、何度も営倉入りさせられて、本も捨てられて・・・。」

 吹雪「それで、この鎮守府に?」

 春雨「はい。ここは他所の鎮守府で酷い目に合わされたり、元々居た場所と考えが合わなくなって逃げてきた艦娘が集まる場所なんです、はい。」

 吹雪「・・・春雨ちゃんは、深海棲艦は艦娘や人間と同じ存在になってるって考えてるの?そのことで今までの司令官と仲が悪くなったの?」

 春雨「私、いつも思うんです。時が経つにつれて深海棲艦は、鬼姫級やflagship改がたくさん現われて、戦略的にも相手の方が上手だったりで、日に日に強くなっていますよね?それは人間が科学技術を進歩させてきたのと同じ様に、深海棲艦も独自に進化を繰り返しているからなんだと思うんです、はい。もし、この本の通りに深海棲艦が人間に負けないぐらい新化し続けたとしたら、この先の未来で起きる可能性は2つあります。」

 吹雪「可能性?」

 春雨「はい。一つは科学の発達の果てに世界を破壊できる兵器が登場して、何かの拍子で発動して皆全滅する。もう一つは、お互いが長く続いた戦争に嫌気をさして、あるタイミングで講和して戦争が終わる。このどっちかだと思うんです、はい。」

 吹雪「講和?お互いに平和条約に調印して終戦するって事?」

 春雨「深海棲艦が何を考えてるのかはわかりませんけど、もし人と会話が出来るぐらいに知性があるんだとしたら、早い内に互いに武器を捨てて戦争をやめてくれたらうれしいです、はい。」

 

 なるほど、春雨は深海棲艦との和解を望んでいる。だから、深海棲艦の新しい情報を知りたくて、色んな本を読んでいるという訳か。だが、それは深海棲艦の殲滅を第一に掲げる海軍の考えとは、正に水と油。今では穏健派と揶揄される「和解推進派」の勢力が強くなってきており、同調者も多数表れるようになったが、死活問題も絡み、その考えを認められない提督や仕官も多いということか。

 

 吹雪「でも、もし買ってる本の内容がばれたら・・・。」

 春雨「それは・・・大丈夫だと思います。ここの提督代理の皆さんは、艦娘の買い物について深く詮索する人たちじゃないですし、考えを押し付けるようなこともしません・・・はい。」

 吹雪「そうなの?」

 春雨「はい。4階にいる川内さんは、料理もしないのに生粋の包丁マニアで、時々、色んな包丁を骨董品店から買ってくるんです。でも、陽炎さんは別に何も言いませんでした。はい。」

 

 吹雪「そうなんだ・・・。」

 

 この鎮守府は優しい。正直甘すぎると言ってもいいぐらいだ。実際に人に言えない事情を持って救いの無い世界から逃れてきた艦娘が集まって来るわけだから、ある程度は心のケアのために優しくしておかなければならないのかもしれない。それなのに、あの兄川を囚人か捕虜のように扱うあの態度。陽炎や春雨の話を聞いて吹雪の中にある考えが浮かんだ。

 

 もしかしたら、ここの艦娘、特に陽炎たち提督代理艦は、海軍の男たちに何か恨みがあるんじゃないか、と。

 

 窓を開けて、中央棟の一つだけ離れて光る電灯を見て、そう思った。

 




 補足:・艦娘の外観がデフォルトと大きく違うのは、カツラや化粧、服装を変えて変装しているから。
    ・深海棲艦が人間に近い存在になっているという定説が出始めたのは15年前ぐらいの事。

 本当は、もうちょっと丁寧かつ詳しく、所属艦娘のことを書きたかった。
が、ここはバランス重視という事で。【ただの言い訳】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。